説明

スクリーン紗用ポリエチレンナフタレートモノフィラメント

【課題】高強カ、高モジュラスを達成し、スクリーン紗製織時の糸削れ、スカム発生が少なく、且つ繊維軸方向に直交する断面における芯/鞘面積比が安定した、繊維径の均一なスクリーン紗用芯鞘型複合モノフィラメントを提供する。
【解決手段】鞘成分が変性ポリエステルからなり、芯成分がポリエチレンナフタレートからなる芯鞘型複含モノフィラメントであり、芯成分に、フェニルホスホン酸またはフェニルホスフィン酸を主成分とするリン化合物を、0.1〜300ミリモル%含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン紗用ポリエチレンナフタレートモノフィラメントに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、高強力、高モジュラスで、スクリーン紗製造時の糸削れ、スカムの発生が少なく、且つ繊維軸方向に直交する断面における芯/鞘の面積比が安定した、繊維径の均一なスクリーン紗用芯鞘型複合モノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノフィラメントは衣料分野ではもちろん、産業資材の分野でも幅広く利用されてきて
いる。特に後者の産業資材の分野での用途の例として、スクリーン印刷用メッシュ織物が
ある。特に最近の電子回路分野での印刷においては集積度が高まる一方であり、スクリーン紗としての印刷精密さ及び印刷性向上のため、高強度・高モジュラスでかつ、ハイメッシュといった要求がますます強くなっている。原糸についても、高強力、高モジュラスで且つより細繊度のものが要求されている。
【0003】
スクリーン紗用原糸を設計する上でメッシュ織物の製織時の筬による糸削れ、スカム発生を防止することが重要で、その対策として芯鞘型複合モノフィラメントとして、芯部で高モジュラス、高強度を達成し、鞘部のポリエステルとして低IV又は低Tgの変性ポリエステルを用いることが近年多く紹介されている。
【0004】
中でも、芯部にポリエチレンナフタレートを使用した芯鞘型複合モノフィラメント(特許文献1〜2)は、芯部にポリエチレンナフタレートを使用することにより高強度及び高モジュラスとすることができるので、芯部にポリエチレンテレフタレートを使用した、強度が6.0cN/dtex程度の芯鞘型複合モノフィラメントとの差別化のを期待して、タイヤコード、伝動ベルト等のゴム補強材をはじめとする産業資材分野で広く適用され始めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2959195号公報
【特許文献2】特開2005−248357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スクリーン印刷用ハイメッシュハイモジュラス縦物に好適な芯鞘型複合モノフィラメントに関するものであり、その目的は、特に芯側ポリエチレンナフタレーを改質することによって、高強カ、高モジュラスを達成し、スクリーン紗製織時の糸削れ、スカム発生が少なく、且つ繊維軸方向に直交する断面における芯/鞘面積比が安定した、繊維径の均一なスクリーン紗用芯鞘型複合モノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果本発明に到達した。即ち本発明によれば、
鞘成分が、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである変性ポリエステルからなり、芯成分が主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリエステルからなる芯鞘型複含モノフィラメントであり、該芯成分のポリエステルが、フェニルホスホン酸またはフェニルホスフィン酸を主成分とするリン化合物を、該ポリエステルを構成するジカルボン酸に対して0.1〜300ミリモル%含んでいることを特微とするスクリーン抄用芯鞘型複含モノフィラメント
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントは、従来の芯鞘型複合モノフィラメントでは達成できなかった高強度、高モジュラス値を達成することで、製織加工時のスカム発生を防止できるだけでなく、スクリーン紗の織目安定性や寸法安定性が向上し、連続精密印刷性能、印刷耐久性に優れたハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のスクリーン紗用芯鞘型複合モノフィラメントは、鞘成分が、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである変性ポリエステルからなり、芯成分が主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリエステルからなる芯鞘型複含モノフィラメントであり、該芯成分のポリエステルが、下記一般式(I)であらわされる、フェニルホスホン酸またはフェニルホスフィン酸を主成分とするリン化合物を、該ポリエステルを構成するジカルボン酸に対して0.1〜300ミリモル%含んでいる。
【0010】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの、芯成分のポリエステルには、フェニルホスホン酸またはフェニルホスフィン酸を主成分とするリン化合物が含有されているので、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成する。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じるポリエチレンナフタレート繊維の粗大な結晶成長を抑制して結晶を微分散化させ、延伸倍率を高めることができるので、より高い強度のスクリーン紗用芯鞘型複合モノフィラメントを得ることが可能となったのである。
【0011】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの、芯成分に使用されるポリエチレンナフタレートは、エチレン−2,6−ナフタレート単位を80%以上、好ましくは90%以上含むポリエチレンナフタレートであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの、芯成分に使用されるポリエチレンナフタレートは、樹脂チップの固有粘度(IV)として、公知の溶融重合や固相重合を行うことにより0.60〜1.20の範囲にすることが好ましい。樹脂チップの固有粘度が低すぎる場合には、溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また、固有粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点から好ましくない。固有粘度としては、0.65〜1.0の範囲であることがさらに好ましい。
【0013】
また、高い結晶性向上の効果を示すためには、下記一般式(I)であらわされるリン化合物のRがベンジル基であることが好ましく、フェニル基であることがさらに好ましい。
即ち、本発明のリン化合物はフェニルホスフィン酸またはフェニルホスホン酸であることが好ましく、特にフェニルホスホン酸およびその誘導体であることが最適である。
【0014】
【化1】

[上記(I)式中、Arは炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、Rは水素原子または−OR基であり、Rが−OR基である場合、Rは水素原子又は炭素数1〜12個の炭化水素基であるアルキル基、アリール基又はベンジル基であり、RとRは同一でも異なっていても良い。]
【0015】
上記リン化合物の含有量としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸に対して0.1〜300ミリモル%が好適である。該リン化合物の含有量が不十分であると結晶性向上効果が不充分になる傾向があり、一方、該リン化合物の含有量が多すぎる場合には、紡糸時に異物欠点が発生するために製糸性が低下する傾向がある。
リン化合物の含有量としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸に対して1〜100ミリモル%が好ましく、10〜80ミリモル%がさらに好ましい。
【0016】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの、鞘成分に使用されるポリエステルは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分としたポリエステルに、イソフタル酸や、ネオペンチルグリコ一ル、シクヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を共重合したポリエステルとすることが必要である。中でもイソフタル酸を共重合することが好ましい。
【0017】
上記共重合成分は、それぞれ対応する全酸成分、全グリコール成分に対して0.5〜25モル%の割合で使用することが必要である。共重合量が0.5モル%未満の場合は、固有粘度が0.45〜0.55であっても製糸時の粘度度が高くなり、複屈折率が高くなるので、芯/鞘面積比が変動し易く、又紡糸工程調子が低下する。一方、共重合量が25モル%を超える場合は、原糸の熱収縮率が高くなるので好ましくない。好ましくは1.0〜20モル%であり、より好ましくは5〜15%である。
【0018】
上記鞘成分の共重合ポリエステルのIVは0.45〜0.55とすることが必要で、この範囲にある場合に、(ソフトである故に)製織時の筬によるスカム発生、糸削れが防止できる。IVが0.45未満の場合は、耐熱性が低下し好ましくない。一方、IVが0.55を超える場合は、製糸時の粘度が高くなり、複屈折率が高くなるので好ましくない。
【0019】
上記の如く鞘成合に第三成分を共重合することの効果は、共重合することにより製糸時の粘度上昇が少なく、複屈折率が低下できて、且つ芯/鞘面積比が安定しスカムの発生が低下できる。又断糸や、毛羽の発生も少な。第三成扮を共重合しない場合は、同じ固有粘度においても製糸時の粘度上昇が大きくなるので複屈折率が高くなり、又芯/鞘面積比が変動し易く、スカム発生やスクリーン紗にしたときの印刷精度が低下する。
【0020】
また、前記の芯成分及び鞘成分のポリマー中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝壁向上剤などの添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状べ一マイト、あるいはカーボンナノチュープなどの添加剤が含まれていてもよいことはいうまでもない。
【0021】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの繊維軸に直交する断面は、円形断面が好ましい。断面での芯部と鞘部が相似形である必要はないが、芯部は鞘部で十分に覆われていることが必要である。好ましい芯/鞘面積比率は50:50〜95:5である。芯/鞘面横比率が50:50より低く芯面積が少ない揚合は、強度が不足し好ましくない。一方、95:15を超えて芯部面積が増加する場合は、鞘部によって覆われない部分が発生するのでスカムが発生する。
【0022】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの最大点強度は7.5cN/dtex以上、5%伸張時応力(LASE)が5.5cN/dtex以上、最大点伸度が10〜20%、熱水収縮率が3.0%以下であることが好ましい。
5%LASEは高い方が好ましく、7.0cN/dtex以上、さらに好ましくは7.5〜8.5cN/dtexであり、最大点強度は7.5〜8.0cN/dtexが好ましい。これら物性を同時に達成することにより、製織性、寸法安定性に優れ、且つ、高い印刷耐久性を持つスクリーン紗を得ることが可能となる。
【0023】
以下、本発明の芯鞘型複合モノフィラメントを得るための具体的な製造法について説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
本発明においては、先ず、上記2種類のポリエステルを、公知の芯鞘複合紡糸口金を用いて溶融紡糸し、芯鞘型複合モノフィラメントとし、続いて延伸を施すことにより上記物性を有するフィラメントが得られる。
【0024】
この際、紡糸工程で一旦未延伸糸として巻き取り、改めて延伸する工程としては、紡糸速度が400〜1000m/分であり、紡糸後に3.0〜10倍延伸することが好ましい。延伸速度としては、400〜600m/分であることが好ましく、延伸倍率としては4〜8倍であることが好ましい。
【0025】
このように低速にて紡糸し、高倍率延伸することによって高強度の延伸繊維を得ることが可能となる。従来は例え低速で紡糸したとしても、高倍率延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、高倍率延伸時に断糸が起こることが多かった。しかし、本発明ではリン化合物の配合により、延伸による結晶化において、微細結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
【0026】
本発明の芯鞘複合モノフイラメントの延伸方法としては、引取ローラーから一且巻き取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよく、あるいは引取りローラーから連続的に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは、繊維が実際に断糸する張カに対する、延伸を行う際の張カの比である。
【0027】
延伸時の予熱温度としては、ポリエチレンナフタレート未延伸糸のガラス転移点以上、結晶化開始温度から20℃以上低い温度で行うことが好ましく、本発明においては120〜180℃が好適である。延伸倍率は紡糸速底に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率が60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し、寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃から繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには、延神時の熱セット温度170〜270℃の範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を更に具体的に説明するため、実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例に示す繊維の物性は下記の方法により測定したものである。
【0029】
(1)極限粘度IV
樹脂あるいは繊維をフェノールとオルト−ジクロロベンゼンとの混合溶媒(容積比6:4)に溶解し、35℃でオストワルト型粘度計を用いて測定した。
【0030】
(2)複屈折率(Δn)
干渉顕微鏡(カールツァイスイエナ社製インターファコ干渉顕微鏡)を用い、干渉縞法により求めた。浸漬液は所望の屈折率としたものを用いた。得られた干渉縞の写真から、干渉縞の間隔及びそのずれから屈折率を下記式より算出した。
λd/D=(n−N)t
ただし、d:干渉縞のずれ、D:干渉縞の間隔、λ:測定光源波長、n.サンプルの屈折率、N:溶媒の屈折率、t:サンプルの線径
上記測定を、モノフィラメントの半径をA、中心軸からの距離をaとした時の規格化した半径r(r=a/A)が0〜0.9の間で0.1間隔の10点につき、繊維学会編[繊維・高分子測定法の技術](朝倉書店発行)に記載の方法に準拠して行ない、サンプルのモノフィラメント軸方向に平行方向の屈折率、及び垂直方向の屈折率求めて下記式により算出した。
複屈折率(Δn)=平行方向屈折率−垂直方向折率
また、r=0の場合の複屈折率を芯成分の複屈折率の値とし、R=0.9の場合の複屈折率を鞘成分の複屈折率の値とした。
【0031】
(3)原糸の強度、伸度
原糸の強度及び伸度は、JIS−L1017に準拠し、オリエンテック社製のテンシロンを用いてサンプル長25cm、伸張速度30cm/分で測走し、サンプルが破断した時の強度と伸度を測定した。5%LASEは、前記測定における5%伸張時の応力である。
【0032】
(4)熱水収縮率(BWS)
枠周1.125mの検尺機で捲数20回のカセを作り、0.022cN/dtexの荷重を掛けて、スケール板に吊るして初期のカセ長L0を測定する。その後、このカセを100の熱水浴中で30分問処理後、放冷し、再びスケール板に吊るして収縮後の長さLを測定し、次式により沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率(%)=(L0−L)/L0×100
【0033】
(5)糸削れの評価
スルーザー型織機により、織機の回転数を250rpmとして織幅1インチあたり300本の経糸を用いてメッシュ織物を製織し、織りあがった反物を横反機にて目視検査を行った。この時、通常黒に見えるメッシュ模様が白色化して見える織物欠点の数を数えて評価した。織幅1.5m×織物長さ300mあたりの糸削れによる欠点5個未満を○、5以上10個未満を△、10個以上を×と判定した。
【0034】
[実施例1]
芯成分のポリエチレンナフタレートの製造:
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部とエチレングリコール50重量部との混合物に、酢酸マンガン四水和物0.030重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056重量部を攪拌機、蒸留搭及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行い、引続いてエステル交換反応が終わる前にフェニルホスホン酸(PPA)0.03重量部(50ミリモル%)を添加した。
その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024重量部を添加して、攪拌接置、窒素導入口、減圧及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空下で縮合重合反応を行い、常法に従ってチップ化して極限粘度0.65のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。
このチップを65Paの高真空下、120℃で2時間予備乾燥した接、同真空下240℃10〜13時間固相重合を行い、表1に記載した固有粘度のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。
【0035】
鞘成分の共重合ポリエステルの製造:
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール66重量部、表1に記載した量のイソフタル酸(全酸成分に対するモル%)、酢酸、マンガン4水塩0.03重量部(テレフタル酸ジメチルに対して0.024モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下下4時間かけて140℃から230℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。
続いて得られた生成物に正リン酸の56%水溶液、0.03重量部(テレフタル酸ジメチルに対して0.033モル%)及び三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加して重合缶に移した。次いで1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時問30分かけて230℃から280℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度280℃で表1に記載した固有粘度に達するまで重合し、樹脂チップを得た。
【0036】
芯鞘型複合モノフィラメントの製造
製糸は以下の通り行った。上記の乾燥樹脂チップを紡糸設備にて、常法で溶融し、ギヤポンプを経て2成分複合紡糸ヘッドに供給し。芯と鞘のポリマーの繊維軸方向に直交する断面における面積比率が表1記載の値となるように設定した。
同時に供給された芯部と鞘部の溶融ポリマーは、ノズル孔径0.25mmの円形複合紡糸孔を1孔有する紡糸口金から、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、紡糸抽剤を付与しつつ、700m/分の紡速にて巻き取りつつ、オイリングローラーにて油剤を付着させながら、未延伸糸を得た。
その後、加熱されたホットローラーにて予熱後、200℃のスリットヒーターで加熱しながら4.8倍で延伸し、0.03倍のリラックス処理を施した後、巻き取り、13dtex−1filの延伸糸を得た。得られた延伸糸は強度7.6cN/dtex、伸度12%、5%LASE5.7cN/dtex、湿熱収縮率2.8%であった。表1に製糸条件と物性を示す。
得られた糸をスルーザー型織機で製織した際、糸削れ発生による繊物欠点は300mあたり0個であった。得られた織物を仕上げ加工して得られたスクリーン紗を連続印刷したところ、伸びが少なく寸法安定性に優れるものであった。
【0037】
[実施例2]
実施例1において、芯成分のポリエチレンナフタクレート製造の際、固相重合を実施しなかったこと以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合モノフィラメントを得た。表1に製糸条件と物性を示す。
【0038】
[実施例3]
実施例1において、芯成分のポリエチレンナフタレート製造の際、フェニルホスホン酸(PPA)の代わりに、フェニルホスフィン酸(PPI)100ミリモル%を使用したこと以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合モノフィラメントを得た。表1に製糸条件と物性を示す。
【0039】
[実施例4]
実施例1において、芯成分のポリエチレンナフタレート製造の際、フェニルホスホン酸(PPA)の代わりに、フェニルホスフィン酸(PPI)80ミリモル%を使用したこと以外は実施例1と同様に実施し、芯鞘型複合モノフィラメントを得た。表1に製糸条件と物性を示す。
【0040】
[比較例1]
実施例1において、芯成分のポリエチレンナフタレート製造の際、リン化台物を含有させない以外は実施例1と同様に実施してポリエステル組成物からなるチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様に溶融紡糸し、未延伸糸とし、さらに3.8倍の延伸を行って芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
なお、実施例1と同じ延伸倍率4.8倍では、断糸が発生し、充分な物性が得られなかった。表1に製糸条件と物性を示す。
【0041】
[比較例2]
実施倒1において、芯成分のポリエチレンナフタレート製造の際、リン化合物としてフェニルホスフィン酸の代わりに正リン酸を40ミリモル%使用したこと以外は、実施例1と同様に実施してポリエステル組成物からなるチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様に溶融紡糸し、未延伸糸とし、さらに3.8倍の延伸を行って芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
なお、実施例1と同じ延伸倍率4.8倍では、断糸が発生し、充分な物性が得られなかった。表1に製糸条件と物性を示す。
【0042】
[比較例3]
実施例1において、鞘成合の共重合ポリエステル製造の、イソフタル酸を共重合させなかった以外は、実施例1と同様に実施してポリエステル組成物からなるチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様に実施して芯鞘型複合モノフィラメントを得た。表1に製糸条件と物性を示す。
【0043】
[比較例4]
実施例1において、芯成分のポリエチレンナフタレート製造の際、リン化合物を含有させないこと、鞘成分の共重合ポリエステルの製造の際、イソフタル酸を共重合させなかった以外は、実施例1と同様に実施してポリエステル組成物からなるチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様に溶融紡糸し、未延伸糸とし、さらに3.8倍の延伸を行って芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
なお、実施例1と同じ延伸倍率4.8倍では、断糸が発生し、充分な物性が得られなかった。表1に製糸条件と物性を示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントは、従来の芯鞘型複合モノフィラメントより高強度、高モジュラスで、且つ製織加工時のスカム発生を防止できるので、織目安定性や寸法安定性が向上し、連続精密刷性能、印刷耐久性に優れたスクリーン紗を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞘成分が、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである変性ポリエステルからなり、芯成分が主たる繰り返し単位がエチレンナフタレートであるポリエステルからなる芯鞘型複含モノフィラメントであり、該芯成分のポリエステルが、フェニルホスホン酸またはフェニルホスフィン酸を主成分とするリン化合物を、該ポリエステルを構成するジカルボン酸に対して0.1〜300ミリモル%含んでいることを特微とするスクリーン抄用芯鞘型複含モノフィラメント。
【請求項2】
下記(A)〜(F)の要件を同時に満足する請求項1記載のスクリーン抄用芯鞘型複含モノフィラメント。
(A)鞘成分のポリエステルが、第三成分をポリエステルを構成する全酸成分及び/又は全グリコール成分に対して0.5〜25モル%共重合したポリエステルである
(B)複含モノフィラメントの、最大点強度が7.5cN/dtex以上、5%伸張時応力(LASE)が7.0cN/dtex以上、最大点伸度が10〜20%である
(C)芯成分に使用されるポリエステルの固有粘度が0.60〜1.20の範囲にある
(D)鞘成分に使用される共重合ポリエステルの固有粘度が0.45〜0.55の範囲にある
(E)複含モノフィラメントの鞘成分の複屈折率(Δn)が0.03〜0.14の範囲にある
(F)繊維軸に直交する断面における、芯/鞘面積比率が50:50〜95:5の範囲にある
【請求項3】
鞘成分のポリエステルに共重合される第三成分が、イソフタル酸や、ネオペンチルグリコ一ル、シクヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である請求項1又は2記載のスクリーン抄用芯鞘型複含モノフィラメント。

【公開番号】特開2012−21239(P2012−21239A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158801(P2010−158801)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】