説明

スケール付着防止剤及び冷却水系の処理方法

【課題】水中に懸濁物質が存在する冷却水系において、懸濁物質に起因したスケールの付着を効果的に抑制する。
【解決手段】水中に懸濁物質が存在する冷却水系に、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩の重合体と、(メタ)アクリル酸及びこれらの水溶性塩よりなる群から選ばれる単量体成分の1種又は2種以上とモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体から選ばれる単量体成分の1種又は2種以上と(メタ)アクリルアミド及び置換(メタ)アクリルアミドよりなる群から選ばれる単量体成分の1種又は2種以上との共重合体と、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩から選ばれる1種以上とイソブチレンとの共重合体とを含むスケール付着防止剤を添加して、スケールの付着を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスケール付着防止剤及び冷却水系の処理方法に係り、特に水中に懸濁物質の存在する冷却水系のスケール障害を防止するためのスケール付着防止剤と、このスケール付着防止剤を用いた冷却水系の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水中に懸濁物質が含まれると、懸濁物質に起因したスケールの付着により、冷却水系の安定運転が阻害される。このようなスケールは、状況に応じて変化するが、カルシウム、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、鉄、強熱減量、無水炭酸などを含む様々な成分より構成される。
【0003】
従来、このようなスケールの防止技術として、冷却水に各種のスケール付着防止剤を添加することが行われており、例えば、特許第3055815号公報には下記1〜4のいずれか一つを水系に添加するシリカスケールの防止方法が記載されている。
1.(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸と、置換(メタ)アクリルアミドとの共重合体
2.1の共重合体と、アルミニウムイオン又はマグネシウムイオンとの混合物
3.ポリアクリル酸(塩)又はポリマレイン酸(塩)と、アルミニウムイオン又はマグネシウムイオンとの混合物
4.マグネシウムイオン
【特許文献1】特許第3055815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許第3055815号公報に記載される添加剤のみでは、十分なスケール防止効果は得られず、その改良が望まれる。
【0005】
従って、本発明は、水中に懸濁物質が存在する冷却水系において、懸濁物質に起因したスケールの付着を効果的に抑制するためのスケール付着防止剤と、このスケール付着防止剤を用いた冷却水系の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(請求項1)のスケール付着防止剤は、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩の重合体(以下「重合体A」と称す。)と、(メタ)アクリル酸及びこれらの水溶性塩よりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b1」と称す。)の1種又は2種以上とモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b2」と称す。)の1種又は2種以の重量性塩から選ばれる1種以上とイソブチレンとの共重合体(以下「重合体C」と称す。)とを含むことを特徴とするスケール付着防止剤であることを特徴とする。
【0007】
請求項2のスケール付着防止剤は、請求項1において、重合体Aと重合体Bと重合体Cとを固形分濃度比で重合体A:重合体B:重合体C=1〜9:1〜4:0.1〜10の割合で含むことを特徴とする。
【0008】
請求項3のスケール付着防止剤は、請求項1又は2において、単量体成分b2が2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする。
【0009】
請求項4のスケール付着防止剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、単量体成分b3がN−tert−ブチルアクリルアミドであることを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項5)の冷却水系の処理方法は、水中に懸濁物質が存在する冷却水系におけるスケールの付着を抑制する冷却水系の処理方法において、該冷却水系に、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩の重合体(以下「重合体A」と称す。)と、(メタ)アクリル酸及びこれらの水溶性塩よりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b1」と称す。)の1種又は2種以上とモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b2」と称す。)の1種又は2種以上と(メタ)アクリルアミド及び置換(メタ)アクリルアミドよりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b3」と称す。)の1種又は2種以上との共重合体(以下「重合体B」と称す。)と、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩から選ばれる1種以上とイソブチレンとの共重合体(以下「重合体C」と称す。)を含むスケール付着防止剤とを添加することを特徴とする。
【0011】
請求項6の冷却水系の処理方法は、請求項5において、重合体Aと重合体Bと重合体Cとを固形分濃度比で重合体A:重合体B:重合体C=1〜9:1〜4:0.1〜10の割合で前記冷却水系に添加することを特徴とする。
【0012】
請求項7の冷却水系の処理方法は、請求項5又は6において、単量体成分b2が2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする。
【0013】
請求項8の冷却水系の処理方法は、請求項5ないし7のいずれか1項において、単量体成分b3がN−tert−ブチルアクリルアミドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、3種類の重合体、即ち、懸濁物質の影響がない状態においてスケールの付着を抑制する成分である重合体Aと、懸濁物質起因のスケールの付着を抑制する成分である重合体Bと重合体Cとを併用することで、懸濁物質の影響の有無に拘わらず、スケールの付着を効果的に抑制し、冷却水系の安定的な運転に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明のスケール付着防止剤及び冷却水系の処理方法についての実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」の両方を指す。また、「分子量」とは「重量平均分子量」を指す。
[重合体A]
重合体Aは、懸濁物質の影響がない状態においてスケールの付着を抑制する成分であり、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩の重合体よりなる。
【0017】
ここで、マレイン酸の水溶性塩としては、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸カリウム、マレイン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0018】
重合体Aの分子量としては、300〜5000、特に500〜1500の範囲であることが好ましい。
[重合体B]
重合体Bは、懸濁物質起因のスケールの付着を抑制する成分であり、(メタ)アクリル酸及びこれらの水溶性塩よりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b1」と称す。)の1種又は2種以上と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b2」と称す。)の1種又は2種以上と、(メタ)アクリルアミド及び置換(メタ)アクリルアミドよりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b3」と称す。)の1種又は2種以上との共重合体よりなる。
<単量体成分b1>
単量体成分b1の(メタ)アクリル酸の水溶性塩としては、(メタ)アクリル酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
<単量体成分b2>
単量体成分b2のモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体としては、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が好ましく、特に下記一般式(1)で表されるものが好ましく、とりわけ2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
【0019】
【化1】

(式中、R1はH又はCH3であり、R2は炭素数1〜8のアルキレン基又はフェニレン基であり、R3はH又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X1は水素又は1価の金属陽イオン(例えば、Na,K等)である。)
<単量体成分b3>
単量体成分b3の置換(メタ)アクリルアミドとしては、下記一般式(2)で表されるものが好ましく、特にN−tert−ブチルアクリルアミドが好ましい。
【0020】
【化2】

(式中、R4はH又はCOOX2(X2はH又は1価の金属陽イオン(例えば、Na,K等)を表す。)を表し、R5は、H又はCH3を表し、R6,R7は各々独立にH又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。ただし、R6,R7が同時にHであることはない。)
<単量体成分比>
重合体B中の各単量体成分の含有割合は、モル%で
単量体成分b1:単量体成分b2:単量体成分b3=30〜92:5〜40:3〜30
特に
単量体成分b1:単量体成分b2:単量体成分b3=50〜90:7〜20:3〜30
であることが好ましい。
<分子量>
重合体Bの分子量としては、1000〜25000、特に2000〜12000の範囲であることが好ましい。
[固形分濃度比]
重合体Aと重合体Bと重合体Cとは、固形分濃度比が重合体A:重合体B:重合体C=1〜9:1〜4:0.1〜10となるように処理対象水系に添加することが好ましい。
【0021】
重合体Aの使用割合が上記範囲よりも多く重合体Bが少ないと懸濁物質の影響を大きく受ける可能性があり、逆に、重合体Bが多く、重合体Aが少ないと水質によっては炭酸カルシウムスケールが析出する懸念がある。
【0022】
従って、重合体Aと重合体Bと重合体Cとを含む本発明のスケール付着防止剤は重合体Aと重合体Bと重合体Cとを上記範囲で含むことが好ましい。
【0023】
なお、本発明のスケール付着防止剤は、重合体Aと重合体Bと重合体Cとが予め混合されたものであっても良く、2種の重合体が予め混合され、残りの1種が別途混合されても良く、又各々別々に添加されて系内で混合されるものであっても良い。
[添加濃度及び添加方法]
重合体A、重合体B及び重合体Cの添加濃度は、処理対象水系の水質や運転状況などを考慮して、十分なスケール抑制効果が得られるような濃度に設定されるが、通常、処理対象水系中の保持濃度(固形分換算濃度)で、重合体Aと重合体B及び重合体Cの合計濃度として1〜500mg/L、特に5〜100mg/Lとなるように添加するのが望ましい。
【0024】
重合体Aと重合体B及び重合体Cは、その固形分濃度比及び添加濃度が上記好適範囲内となるように個別に添加しても良く、予め重合体Aと重合体B及び重合体Cとを所定の比率で混合したものを添加しても良い。重合体Aと重合体Bと重合体Cとを個別に添加する場合、これらを同一箇所で添加しても異なる箇所で添加しても良い。
【0025】
なお、本発明においては、重合体Aと重合体B及び重合体Cとを処理対象水系に添加した際に得られる各処理効率を妨げない範囲において、他の腐食抑制剤、スケール抑制剤、分散剤、スライムコントロール剤、剥離剤、消泡剤などを併用しても良く、濾過器などの各種水処理機器との併用も可能である。例えば、水系内に銅材質を含む場合には、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールなどのアゾール類誘導体を併用すれば、銅材質に対する防食性能を向上させることができる。
【0026】
従って、本発明のスケール付着防止剤は、重合体A及び重合体B及び重合体Cの他に、これらの他の腐食抑制剤、スケール抑制剤、分散剤、スライムコントロール剤、剥離剤、消泡剤などを含むものであっても良い。
[処理対象水系]
本発明の処理対象水系としては、水中に懸濁物質が存在する冷却水系が挙げられ、例えば、工業用水を補給水とする開放循環冷却水系等が挙げられる。
【0027】
このような冷却水系のうち、開放循環冷却水系では、冷却塔のピットへ本発明のスケール付着防止剤を添加すれば良い。
【実施例1】
【0028】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。

実施例1〜5、比較例1,2
[スケール付着防止剤]
重合体A、重合体B及び重合体Cとして以下のものを準備した。
<重合体A> ポリマイレン酸
分子量:600
<重合体B>
アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−tert−ブチルアクリルアミドとの共重合体
アクリル酸:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸:N−tert−ブチルアクリルアミド(モル比)=77:12:11
分子量=10000
<重合体B>
マレイン酸とイソブチレンの共重合体
分子量:14000

重合体Aと重合体B及び重合体Cとは、下記の固形分濃度比となるように、また、添加濃度(水系の保持濃度(固形分換算))が重合体Aと重合体B及び重合体Cとの合計で20mg/Lとなるように添加した。
【0029】
【表1】

[評価装置]
図1に概要を示す冷却水系評価試験装置を用い、スケール防止効果の評価を行った。
【0030】
図1の評価試験装置において、試験水は試験水タンク1からポンプ2により評価部5に送給され、再び試験水タンク1に戻る。試験水の流量はバルブ3により調整される。試験水タンク1には、試験水補給タンク7よりポンプ8により試験水が供給される。試験水の供給量は、所定の滞留時間となるよう調整される。試験水の温度は温度調整器6により所定の温度に調整される。4は流量計である。
【0031】
図1(b)に示す如く、評価部5はカラム9、評価チューブ10、ヒーター11、熱電対12より構成される。試験水はカラム9内部を評価チューブの外側を流れる。評価チューブ10の内側にはヒーター11が挿入されており、ヒーター11による加熱を行うことで、評価チューブ10外表面において熱交換器などの伝熱面を模擬している。評価チューブ10の金属部分には熱電対12を挿入できるような細孔があり、金属内部の温度(管肉温度)を一定に保つようにヒーター11の出力が制御される。
[試験水]
試験水(模擬冷却水)の水質は下記表2に示す通りである。この試験水には、工業用水より採取した懸濁物質を試験水の濁度が10となる量、1日一度試験水タンク7にて添加した。
【0032】
【表2】

[運転条件]
運転条件は次の通りである。
<運転条件>
保有水量:100L
評価部における試験水流速:0.5m/s
滞留時間:100hr
試験水温度:30℃
管肉温度:80℃
評価時間:3日間
[評価結果]
試験終了後の評価チューブ10を乾燥させ、付着したスケールを除去し、その重量を測定し、付着物量、チューブ面積、評価時間より付着速度を算出した。
【0033】
結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

表3より明らかなように、3成分を併用した場合でも、重合体Aが本発明で規定したポリマと異なったり、重合体Cのみを添加した場合には、懸濁物質起因のスケールが多量に付着したのに対し、重合体Aと重合体Bと重合体Cとを併用した場合、特に重合体A:重合体B:重合体C=1〜9:1〜4:0.1〜10の固形分濃度比で併用した場合には、スケール付着速度が極めて低く、スケールの付着が効果的に抑制されることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1〜5及び比較例1,2で用いた評価試験装置を示す図であり、(a)図は全体構成を示す系統図、(b)図は評価部の詳細を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 試験水タンク
5 評価部
6 温度調整器
9 カラム
10 評価チューブ
11 ヒーター
12 熱電対




【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩の重合体(以下「重合体A」と称す。)と、(メタ)アクリル酸及びこれらの水溶性塩よりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b1」と称す。)の1種又は2種以上とモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b2」と称す。)の1種又は2種以上と(メタ)アクリルアミド及び置換(メタ)アクリルアミドよりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b3」と称す。)の1種又は2種以上との共重合体(以下「重合体B」と称す。)と、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩から選ばれる1種以上とイソブチレンとの共重合体(以下「重合体C」と称す。)とを含むことを特徴とするスケール付着防止剤。
【請求項2】
請求項1において、重合体Aと重合体Bと重合体Cを固形分濃度比で重合体A:重合体B:重合体C=1〜9:1〜4:0.1〜10の割合で含むことを特徴とするスケール付着防止剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、単量体成分b2が2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とするスケール付着防止剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、単量体成分b3がN−tert−ブチルアクリルアミドであることを特徴とするスケール付着防止剤。
【請求項5】
水中に懸濁物質が存在する冷却水系におけるスケールの付着を抑制する冷却水系の処理方法において、該冷却水系に、
マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩の重合体(以下「重合体A」と称す。)と、(メタ)アクリル酸及びこれらの水溶性塩よりなる群から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b1」と称す。)の1種又は2種以上とモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体から選ばれる単量体成分(以下「単量体成分b2」と称す。)の1種又は2種重量「重合体B」と称す。)と、マレイン酸及び/又はマレイン酸の水溶性塩から選ばれる1種以上とイソブチレンとの共重合体(以下「重合体C」と称す。)とを含むスケール付着防止剤を添加することを特徴とする冷却水系の処理方法。
【請求項6】
請求項5において、重合体Aと重合体Bと重合体Cとを固形分濃度比で重合体A:重合体B=1〜9:1〜4:0.1〜10の割合で前記冷却水系に添加することを特徴とする冷却水系の処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、単量体成分b2が2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする冷却水系の処理方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、単量体成分b3がN−tert−ブチルアクリルアミドであることを特徴とする冷却水系の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−253119(P2007−253119A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83788(P2006−83788)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】