説明

スケール抑制方法及び地熱発電装置

【課題】カルシウム及びシリカを含むスケールの抑制方法及び、スケールの析出を抑制しつつ、経済的な運用が可能な地熱発電装置を提供する。
【解決手段】地熱発電装置は、生産井から採取される地熱水が流通する配管と、配管内を流通する地熱水にキレート剤を供給するキレート剤供給部と、配管内を流通する地熱水にアルカリ剤を供給するアルカリ剤供給部と、配管経路のキレート剤供給部及びアルカリ剤供給部より下流側に設けられた薬剤混合部と、薬剤混合部の入口圧力又は入口側の流体流速を測定する第1検出器と、薬剤混合部の出口圧力又は出口側の流体流速を測定する第2検出器とを備え、キレート剤供給部は、第1検出器による検出値と第2検出器による検出値との差が予め設定した上限閾値を超えたら、キレート剤の供給量を増加させて、検出値の差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量でキレート剤を供給するように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムやシリカを含むスケールの抑制方法及び、これらのスケールの析出を抑制して地熱水を用いて発電を行う地熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電は、生産井から高温の地熱水を採取し、地熱水から分離した蒸気を利用して発電を行うものである。蒸気を分離した地熱水は、還元井から地中に返還される。
【0003】
ところで、生産井から採取される地熱水は、井戸水や河川水よりもカルシウムイオンや、溶存シリカを多く含んでいる。このため、炭酸カルシウムや非晶質シリカなどのスケールが析出しやすい。特に地上部や還元井では、地熱水が地上部で温度降下することにより発生するシリカスケールを抑制することが課題である。
【0004】
一般に、シリカスケールの抑制方法として硫酸注入法が用いられている。硫酸注入法は、地熱水のpHを下げることによりシリカの重合速度を減速させて、シリカスケールの析出速度を遅くする方法である。
【0005】
しかしながら、地熱水のpHを低下させてもシリカの重合速度を低下させるだけなので、地熱水を還元井に返還するに際し、時間を要する場合においては、シリカスケールの析出を十分に抑制できるとは限らなかった。また、酸によって配管等が腐食するおそれがあった。更には、酸として硫酸を使用した場合においては、硬石膏等のスケールが析出するおそれがあった。
【0006】
非特許文献1には、キレート剤を生産井内に注入し、アルカリ剤を地上部において注入してスケールの析出を抑制することが開示されている。非晶質シリカの溶解度は、アルカリ性になるほど高くなり、特にpH8以上で急激に上昇するとされている。そのため、地熱水のpHを高めることでシリカスケールの析出を抑制できる。さらに、この効果は、上述のシリカ重合速度を抑制する方法とは異なり、時間が経過してもシリカの析出総量が増加しないので還元井内でも持続する。加えて、生産井内でカルシウムやマグネシウムを捕捉するキレート剤を併用することで、生産井内における炭酸カルシウムや硬石膏、マグネシウム珪酸塩の析出を抑制できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】福田大輔、地熱技術,Vol.34,Nos.1&2(Ser.No74)51−57,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、カルシウムイオン濃度や、溶存シリカ濃度が比較的高い地熱水などにおいては、pHを高めてアルカリ性にするとカルシウムイオンとシリカとが塩を形成して、カルシウム珪酸塩水和物が析出する問題があった。特に、アルカリ剤の注入口付近でpHが局所的に高くなるため、カルシウム珪酸塩水和物が析出し易かった。
【0009】
よって、本発明の目的は、カルシウムやシリカを含むスケールの抑制方法及び、これらのスケールの析出を抑制しつつ、経済的な運用が可能な地熱発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カルシウム珪酸塩水和物の溶解特性について種々の検討を行ったところ、キレート剤の濃度を高めることにより、析出したカルシウム珪酸塩水和物を溶解洗浄できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明のスケール抑制方法は、シリカとカルシウムイオンとを少なくとも含む流体に、アルカリ剤及びキレート剤を注入してスケールの発生を抑制するスケール抑制方法であって、前記流体が流通する配管内に、キレート剤及びアルカリ剤を供給し、該配管内に設けられた薬剤混合部にて、前記流体を流通させながら混合し、前記薬剤混合部の入口圧力と出口圧力との圧力差、又は前記薬剤混合部の入口側の流体流速と出口側の流体流速との流速差が予め設定した上限閾値を超えたら、前記キレート剤の供給量を増加させて、前記圧力差又は前記流速差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量で前記キレート剤を供給することを特徴とする。
【0012】
本発明のスケール抑制方法によれば、シリカとカルシウムイオンとを少なくとも含む流体に、アルカリ剤及びキレート剤を注入することで、アルカリ剤によってシリカ系スケールの析出が抑制され、キレート剤によってカルシウムイオンが捕捉されてカルシウム系スケールの析出が抑制される。また、流体にアルカリ剤を注入すると、アルカリ剤の注入口付近にカルシウム珪酸塩水和物が析出することがあるが、薬剤混合部の入口圧力と出口圧力との圧力差、又は薬剤混合部の入口側の流体流速と出口側の流体流速との流速差が予め設定した上限閾値を超えたら、キレート剤の供給量を増加させて、圧力差又は流速差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量でキレート剤を供給するので、析出したカルシウム珪酸塩水和物がキレート剤によって溶解洗浄される。また、キレート剤は比較的高価な薬剤であるが、カルシウム珪酸塩水和物の析出量が多くなって溶解洗浄する必要が生じたときのみキレート剤の供給量を間欠的に増加するので、必要最小限のキレート剤の使用量で、シリカ及びカルシウムを含むスケールを抑制でき、経済的である。
【0013】
本発明のスケール抑制方法は、前記流体に、前記キレート剤の供給と同時又は前記キレート剤の供給後に、前記アルカリ剤を供給することが好ましい。この態様によれば、カルシウム珪酸塩水和物などが析出し難くなり、キレート剤の使用量をより低減できる。
【0014】
本発明のスケール抑制方法は、前記薬剤混合部が、スタティックミキサーであることが好ましい。スタティックミキサーは、流れの分割、流れの反転、流れの転換の3つの作用により流体を混合する、流体のエネルギーを利用したインライン式の攪拌機であって、動力が不要である。このため、運転コストを低減できる。
【0015】
本発明のスケール抑制方法は、前記流体が生産井から採取した地熱水であって、前記地熱水から地熱回収器により地熱を回収する工程を含み、前記アルカリ剤の供給量を、前記地熱回収器を通過した地熱水の温度における飽和非晶質シリカ濃度が、前記地熱水のシリカ濃度以上となるpH値になるように設定し、前記キレート剤の供給量を、前記薬剤混合部の下流側の地熱水の前記キレート剤に捕捉されていないカルシウムイオン濃度が、前記地熱回収器を通過した地熱水の温度におけるカルシウム珪酸塩水和物の飽和濃度未満となるように設定することが好ましい。アルカリ剤及びキレート剤の供給量を上記のように設定することで、スケールが析出し難くなる。
【0016】
本発明のスケール抑制方法は、前記アルカリ剤及び/又は前記キレート剤を希釈溶媒で予め希釈して、前記流体に供給することが好ましい。高濃度の薬剤を流体に供給すると、注入口近傍でスケールが析出し易くなるが、予め希釈して供給することで、注入口近傍でのスケールの析出を効果的に防止できる。
【0017】
また、本発明の地熱発電装置は、生産井から採取される地熱水が流通する配管と、前記配管内を流通する地熱水にキレート剤を供給するキレート剤供給部と、前記配管内を流通する地熱水にアルカリ剤を供給するアルカリ剤供給部と、前記配管経路の前記キレート剤供給部及び前記アルカリ剤供給部より下流側に設けられた薬剤混合部と、前記薬剤混合部の入口圧力又は入口側の流体流速を測定する第1検出器と、前記薬剤混合部の出口圧力又は出口側の流体流速を測定する第2検出器とを備え、前記キレート剤供給部は、前記第1検出器による検出値と前記第2検出器による検出値との差が予め設定した上限閾値を超えたら、前記キレート剤の供給量を増加させて、前記検出値の差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量で前記キレート剤を供給するように制御されることを特徴とする。
【0018】
本発明の地熱発電装置によれば、キレート剤供給部が、第1検出器による検出値と第2検出器による検出値との差が予め設定した上限閾値を超えたら、キレート剤の供給量を増加させて、検出値の差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量でキレート剤を供給するように制御されているので、カルシウム珪酸塩水和物の析出量が多くなって溶解洗浄する必要が生じたときのみキレート剤の供給量を増加してカルシウム珪酸塩水和物を溶解洗浄できる。このため、スケールの析出を抑制しつつ、キレート剤の使用量を必要最小限に抑えることができ、発電装置の経済的な運用ができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスケール抑制方法によれば、スケールの析出を抑制しつつ、キレート剤の使用量を必要最小限に抑えることができる。
【0020】
また、本発明の地熱発電装置によれば、地熱水が流通する配管及び各種機器類内における、スケールの析出を抑制しつつ、キレート剤の使用量を必要最小限に抑えることができるので、発電装置の経済的な運用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のスケール抑制方法を適用した地熱発電装置の第1の実施形態の概略図である。
【図2】各温度における地熱水の25℃換算pHと飽和非晶質シリカ濃度の関係図
【図3】同地熱発電装置におけるキレート剤供給量の制御フローチャート図である。
【図4】本発明のスケール抑制方法を適用した地熱発電装置の第2の実施形態の概略図である。
【図5】同地熱発電装置におけるキレート剤供給量の制御フローチャート図である。
【図6】試験例1における運転時間と差圧P3との関係を示す図である。
【図7】試験例1,2における運転時間とEDTA溶液の供給量との関係を示す図である。
【図8】試験例2における運転時間と差圧P3との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明に係るスケール抑制方法の実施形態を説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のスケール抑制方法を適用した地熱発電装置の第1の実施形態の概略図である。
【0024】
図中、1は、地中から地熱水を取り出す生産井であって、この生産井1に流量調節弁2を介して配管L1の一端が接続している。この実施形態において、「地熱水」が、本発明における「シリカとカルシウムイオンとを少なくとも含む流体」に相当する。地熱水は、採取場所により変動があるが、その性状についての一例を挙げると、温度130℃、pH9、カルシウムイオン濃度10ppm、溶存シリカ濃度600ppmであり、その他、塩化物イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン等多数のイオンを含んでいる。
【0025】
配管L1には、カルシウムイオン濃度計42、第1圧力計43、スタティックミキサー10、第2圧力計44、pH計45が配置され、熱交換器(蒸発器)4に接続している。この実施形態では、「第1圧力計43」が、本発明における「第1検出器」に相当し、「第2圧力計44」が、本発明における「第2検出器」に相当し、「スタティックミキサー10」が、本発明における「薬剤混合部」に相当する。
【0026】
また、配管L1のスタティックミキサー10より上流には、スケール抑制剤注入ライン11が接続している。
【0027】
スケール抑制剤注入ライン11は、キレート剤貯留タンク21からキレート剤注入ポンプ22を介して伸びたキレート剤注入ライン23と、アルカリ剤貯留タンク31からアルカリ剤注入ポンプ32を介して伸びたアルカリ剤注入ライン33とが接続しており、キレート剤とアルカリ剤とを同時または交互に注入できるように構成されている。
【0028】
キレート剤貯留タンク21に貯留されるキレート剤としては、特に限定は無い。キレート剤は、金属イオンと配位結合をするカルボキシル基やアミノ基などの官能基を複数持つ化合物であり、金属イオンと錯体を形成して、金属イオンを不活性化させるものである。具体例としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、HIDS(3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸)、カルボキシメチルエチレンイミン、クエン酸、酒石酸、およびそれらの各種ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、水和物などの水溶液を用いることができる。特に、EDTAなどのカルシウムイオンを不活性化できるものが好ましく用いることができる。また、キレート剤は、希釈溶媒で予め希釈されていてもよい。希釈率は、キレート剤の種類等により異なるので特に限定は無いが、キレート剤の濃度が0.1〜10質量%となるように希釈することが好ましく、0.1〜2.5質量%がより好ましい。キレート剤を希釈して用いることで、薬液流量が多くなり、熱水との混合が起こりやすくなる。希釈溶媒としては特に限定はない。キレート剤を溶解し、かつ、流体(この実施形態では地熱水)と相溶するものであればよい。例えば、地下水、河川水、地熱水、蒸気凝縮水、冷却塔水、水道水等が挙げられる。
【0029】
キレート剤の定常運転時の供給量は、少なくとも、スタティックミキサー10の下流側の地熱水のキレート剤に捕捉されていないカルシウムイオン濃度が、熱交換器4を通過した地熱水の温度(温度計46の測定値)におけるカルシウム珪酸塩水和物の飽和濃度未満となるように設定することが好ましい。キレート剤の供給量をこのように設定することで、スタティックミキサー10より下流にて、カルシウム珪酸塩水和物が析出し難くなる。なお、スタティックミキサー10の下流側の地熱水のキレート剤に捕捉されていないカルシウムイオン濃度は、カルシウムイオン濃度計42と、キレート剤の供給量とから算出できる。なお、定常運転時にキレート剤を過剰供給することは経済的でないので、上限値は、スタティックミキサー10の下流側の地熱水のキレート剤に捕捉されていないカルシウムイオン濃度が、熱交換器4を通過した地熱水の温度におけるカルシウム珪酸塩水和物の飽和濃度の70〜100%となるように設定することが好ましく、80〜90%がより好ましい。
【0030】
アルカリ剤貯留タンク31に貯留されるアルカリ剤としては、特に限定は無い。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、アンモニア、有機アミン類からなる群から1つまたは複数を溶質とする水溶液を用いることができる。また、アルカリ剤は、希釈溶媒で予め希釈されていてもよい。希釈率は、アルカリ剤の種類等により異なるので特に限定は無いが、アルカリ剤の濃度が1〜40質量%となるように希釈することが好ましく、1〜15質量%がより好ましい。高濃度のアルカリ剤を供給すると、注入口近傍のpHが局所的に低下し、カルシウム珪酸塩水和物などのスケールが析出し易くなるが、アルカリ剤を予め希釈しておくことで、注入口近傍におけるスケールの析出を抑制できる。希釈溶媒としては特に限定はない。アルカリ剤を溶解し、かつ、流体(この実施形態では地熱水)と相溶するものであればよい。例えば、地下水、河川水、地熱水、蒸気凝縮水、冷却塔水、水道水等が挙げられる。
【0031】
アルカリ剤の供給量は、熱交換器4を通過した地熱水の温度における飽和非晶質シリカ濃度が、該地熱水のシリカ濃度以上となるpH値になるように設定することが好ましい。このようにアルカリ剤の供給量を設定することで、シリカスケールの析出を抑制できる。
【0032】
図2に、各温度における地熱水の25℃換算pHと飽和非晶質シリカ濃度の関係図を示す。生産井出口の地熱水の温度が130℃、溶存シリカ濃度が600mg/Lであり、熱交換器4を通過した地熱水の温度(温度計46の測定値)が105℃であるとすると、105℃で飽和非晶質シリカ濃度600mg/Lとなる25℃換算pHは、9.7である。したがって、この場合は、pH計45の測定値が9.7以上となるようにアルカリ剤の供給量を設定することで、熱交換器4を通過した地熱水の温度における飽和非晶質シリカ濃度を、該地熱水のシリカ濃度以上にすることができる。
【0033】
熱交換器4は、地熱水が流通する配管L1と、低沸点の熱媒体(以下、「低沸点媒体」という)が流通する配管L2とが接続している。また、熱交換器4からは、温度計46が配置された配管L3が伸びて還元井5に接続している。
【0034】
熱交換器4に流入した地熱水は、低沸点媒体と熱交換して低沸点熱媒体を蒸発させた後、配管L3を介して還元井5に戻される。
【0035】
熱交換器4にて地熱水との熱交換により気化された低沸点媒体は、タービン6に送られ、発電機7による発電がなされる。タービン6を通過した低沸点媒体は、媒体凝縮器8に送られ、ここで凝縮液となって、遠心式ポンプ9によって加圧されて熱交換器4に戻される。
【0036】
低沸点熱媒体としては、地熱水の熱を利用して気化することが可能なものが好ましく用いられる。例えば、ノルマルヘプタン、イソヘプタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルブタン、イソブタン、ハイドロフルオロエーテル、R245fa、R134a、R22、R407cなどが好適に用いられる。
【0037】
この地熱発電装置では、スケール抑制剤注入ライン11から配管L1にキレート剤とアルカリ剤が供給され、スタティックミキサー10を通過することで、地熱水とアルカリ剤とキレート剤とが混合され、スタティックミキサー10よりも下流で、非晶質シリカ、炭酸カルシウム、カルシウム珪酸塩水和物などのシリカやカルシウムイオンを含んだスケールの析出を抑制できる。
【0038】
しかしながら、配管L1にアルカリ剤が供給されると、スケール抑制剤注入ライン11の接続部付近では、局所的に地熱水のpHが高くなるので、カルシウム珪酸塩水和物が析出し易く、スタティックミキサー10を通過するまでの間にカルシウム珪酸塩水和物が析出することがある。キレート剤を大量に過剰供給すれば、カルシウム珪酸塩水和物を析出し難くできるが、キレート剤は高価な薬剤であるため経済的ではない。
【0039】
そこで、本願発明では、スタティックミキサー10内にカルシウム珪酸塩水和物が析出することを許容し、カルシウム珪酸塩水和物の析出量が閾値を超えたらキレート剤の注入量を増加して、スタティックミキサー10内に析出したカルシウム珪酸塩水和物の溶解洗浄を行うこととした。
【0040】
図3のフローチャート図を用いて、この実施形態におけるキレート剤供給量の制御について説明する。
【0041】
まず、スタティックミキサー10の下流に設けられた第2圧力計44の測定値P2と、スタティックミキサー10の上流に設けられた第1圧力計43の測定値P1との差(P2−P1=差圧P3)が、上限閾値Pset1を超えるかどうか判断する(ステップS1)。
【0042】
差圧P3が上限閾値Pset1未満の場合は、キレート剤を定常運転時の供給量で供給する。差圧P3が上限閾値Pset1未満を超えたら、キレート剤注入ポンプ22に出力増加信号を入力して、キレート剤の供給量を増加させる(ステップS2)。
【0043】
そして、差圧P3が下限閾値Pset2未満かどうか判断し(ステップS3)、差圧P3が下限閾値Pset2以上の場合は、増加した供給量でキレート剤を供給し続ける。差圧P3が下限閾値Pset2未満になったら、キレート剤注入ポンプ22に出力低下信号を入力して、定常運転時の供給量に戻す(ステップS4)。
【0044】
定常運転時のキレート剤の供給量は、必要最小限でよく、スケールの析出が多くなった期間のみ、間欠的にキレート剤の供給量を増加して、析出したスケールを溶解洗浄するので、スケールを抑制しつつ、キレート剤の使用量を少なくでき、経済的な運転をすることが可能となる。
【0045】
なお、上限閾値Pset1及び下限閾値Pset2は、差圧P3と、カルシウム珪酸塩水和物を含むスケールの析出量との関係を予め調べておき、地熱水の流通が損なわれない範囲で適宜設定すればよい。
【0046】
また、スケールの溶解洗浄時におけるキレート剤の供給量は、カルシウム珪酸塩水和物を含むスケールの析出量と、この析出量のスケールを溶解可能なキレート剤の量との関係を予め調べておき、析出したスケールを溶解洗浄可能な供給量となるように増加させる。キレート剤の種類、スケールの析出量により異なるが、具体的な一例を挙げて説明すると、例えば、キレート剤としてEDTAを用いた場合、差圧P3が20kPaを超えたら、定常運転時の8〜10倍の供給量で10〜12時間キレート剤を供給することで、スケールを溶解洗浄できる。
【0047】
(第2の実施形態)
本発明のスケール抑制方法を適用した地熱発電装置の第2の実施形態について、図4を用いて説明する。なお、第1の実施形態と実質的同一箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
この実施形態では、第1圧力計43、第2圧力計44の代わりに、第1流速計47、第2流速計48が配置されている点で第1の実施形態と相違する。なお、この実施形態では、「第1流速計47」が、本発明における「第1検出器」に相当し、「第2流速計48」が、本発明における「第2検出器」に相当する。
【0049】
この実施形態では、スタティックミキサー10の上流側と下流側との地熱水の流速差が上限閾値を超えたらキレート剤の注入量を増加して、スタティックミキサー10内に析出したカルシウム珪酸塩水和物の溶解洗浄を行うように制御されている。
【0050】
図5のフローチャート図を用いて、この実施形態におけるキレート剤供給量の制御について説明する。
【0051】
まず、スタティックミキサー10の上流に設けられた第1流速計47の測定値V1と、スタティックミキサー10の下流に設けられた第2流速計48の測定値V2との差(V1−V2=流速差V3)が、上限閾値Vset1を超えるかどうか判断する(ステップS11)。
【0052】
流速差V3が上限閾値Vset1未満の場合は、キレート剤を定常運転時の供給量で供給する。流速差V3が上限閾値Vset1未満を超えたら、キレート剤注入ポンプ22に出力増加信号を入力して、キレート剤の供給量を増加させる(ステップS12)。
【0053】
そして、流速差V3が下限閾値Vset2未満かどうか判断し(ステップS13)、流速差V3が下限閾値Vset2以上の場合は、増加した供給量でキレート剤を供給し続ける。流速差V3が下限閾値Vset2未満になったら、キレート剤注入ポンプ22に出力低下信号を入力して、定常運転時の供給量に戻す(ステップS14)。
【0054】
なお、上限閾値Vset1及び下限閾値Vset2は、流速差V3と、カルシウム珪酸塩水和物を含むスケールの析出量との関係を予め調べておき、地熱水の流通が損なわれない範囲で適宜設定すればよい。
【実施例】
【0055】
(試験例1)
図1に示す地熱発電装置を用いて発電を行った。なお、生産井から採取した地熱水の性状は、温度130℃、pH9、カルシウムイオン濃度10ppm、溶存シリカ濃度600ppmであり、熱交換器4を通過した地熱水の温度(温度計46の測定値)は105℃であった。また、熱交換器4として、ケトル型チューブアンドシェル熱交換器を用い、熱交換器のチューブ側に地熱水を流通させ、熱交換器のシェル側に低沸点媒体であるペンタンを流通させた。発電機7からの出力は、ペンタン1kg/s当たり、40kW、地熱熱水1kg/s当たり10kWとなるように設計した。
アルカリ剤として、水酸化ナトリウムを用い、これを水で希釈して水酸化ナトリウム濃度14質量%の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。この水酸化ナトリウム水溶液を、地熱水のpHが10となるように供給した。
また、キレート剤としてEDTA四ナトリウム塩四水和物を用い、これを水で希釈して0.4質量%のEDTA四ナトリウム塩水溶液を調製した。定常運転時は、EDTA溶液の供給量を1ml/minとした。差圧P3の上限閾値Pset1を20kPaとし、差圧P3が20kPaを超えたら、EDTA溶液の供給量を10ml/minとしてスケールの洗浄操作を行い、10時間後に定常運転時の供給量に戻した。
上記条件で30日間運転を行った。運転期間中にスケールの洗浄操作を5回行い、運転期間中におけるEDTA溶液の総使用量は約70Lであった。運転期間中、スタティックミキサー10内にスケールが析出したが、差圧P3が20kPaを超えたら、EDTA溶液の供給量を増加してスケール洗浄したことで、配管閉塞等の問題が生じることなく、発電を安定して行うことができた。なお、スタティックミキサー10よりも下流では、スケールの析出は殆どなかった。試験例1の運転時間と差圧P3との関係を図6に示し、同運転時間とEDTA溶液の供給量との関係を図7に示す。
【0056】
(試験例2)
試験例1において、定常運転時におけるEDTA溶液の供給量を5ml/minとした以外は試験例1と同様にして30日間運転した。運転期間中にスケールの洗浄操作を1回行い、運転期間中におけるEDTA溶液の総使用量は約219Lであった。
試験例2では、定常運転時にEDTA溶液を試験例1よりも多く供給していたにもかかわらず、スタティックミキサー10内にスケールが析出したが、差圧P3が20kPaを超えたら、EDTA溶液の供給量を増加してスケール洗浄したことで、配管閉塞等の問題が生じることなく、発電を安定して行うことができた。
しかしながら、試験例2では、定常運転時にEDTA溶液を過剰供給していたので、運転期間中における洗浄操作は1回で済んだが、EDTA溶液の総使用量は試験例1の約3倍以上であった。試験例2の運転期間中における運転時間と差圧P3との関係を図8に示し、同運転時間とEDTA溶液の供給量との関係を図7に示す。
【符号の説明】
【0057】
1:生産井
2:流量調節弁
4:熱交換器
5:還元井
6:タービン
7:発電機
8:媒体凝縮器
9:遠心式ポンプ
10:スタティックミキサー
11:スケール抑制剤注入ライン
21:キレート剤貯留タンク
22:キレート剤注入ポンプ
23:キレート剤注入ライン
31:アルカリ剤貯留タンク
32:アルカリ剤注入ポンプ
33:アルカリ剤注入ライン
42:カルシウムイオン濃度計
43:第1圧力計
44:第2圧力計
45:pH計
46:温度計
47:第1流速計
48:第2流速計
L1〜L3:配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカとカルシウムイオンとを少なくとも含む流体に、アルカリ剤及びキレート剤を注入してスケールの発生を抑制するスケール抑制方法であって、
前記流体が流通する配管内に、キレート剤及びアルカリ剤を供給し、該配管内に設けられた薬剤混合部にて、前記流体を流通させながら混合し、前記薬剤混合部の入口圧力と出口圧力との圧力差、又は前記薬剤混合部の入口側の流体流速と出口側の流体流速との流速差が予め設定した上限閾値を超えたら、前記キレート剤の供給量を増加させて、前記圧力差又は前記流速差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量で前記キレート剤を供給することを特徴とするスケール抑制方法。
【請求項2】
前記流体に、前記キレート剤の供給と同時又は前記キレート剤の供給後に、前記アルカリ剤を供給する、請求項1に記載のスケール抑制方法。
【請求項3】
前記薬剤混合部が、スタティックミキサーである、請求項1又は2に記載のスケール抑制方法。
【請求項4】
前記流体が生産井から採取した地熱水であって、前記地熱水から地熱回収器により地熱を回収する工程を含み、
前記アルカリ剤の供給量を、前記地熱回収器を通過した地熱水の温度における飽和非晶質シリカ濃度が、前記地熱水のシリカ濃度以上となるpH値になるように設定し、
前記キレート剤の供給量を、前記薬剤混合部の下流側の地熱水の前記キレート剤に捕捉されていないカルシウムイオン濃度が、前記地熱回収器を通過した地熱水の温度におけるカルシウム珪酸塩水和物の飽和濃度未満となるように設定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスケール抑制方法。
【請求項5】
前記アルカリ剤及び/又は前記キレート剤を希釈溶媒で予め希釈して、前記流体に供給する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスケール抑制方法。
【請求項6】
生産井から採取される地熱水が流通する配管と、
前記配管内を流通する地熱水にキレート剤を供給するキレート剤供給部と、
前記配管内を流通する地熱水にアルカリ剤を供給するアルカリ剤供給部と、
前記配管経路の前記キレート剤供給部及び前記アルカリ剤供給部より下流側に設けられた薬剤混合部と、
前記薬剤混合部の入口圧力又は入口側の流体流速を測定する第1検出器と、
前記薬剤混合部の出口圧力又は出口側の流体流速を測定する第2検出器とを備え、
前記キレート剤供給部は、前記第1検出器による検出値と前記第2検出器による検出値との差が予め設定した上限閾値を超えたら、前記キレート剤の供給量を増加させて、前記検出値の差が予め設定した下限閾値未満になるまで増加した供給量で前記キレート剤を供給するように制御されることを特徴とする地熱発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43145(P2013−43145A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183943(P2011−183943)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【出願人】(593142020)地熱エンジニアリング株式会社 (4)