説明

スケール防止剤の供給管理方法および供給管理装置

【課題】工場排水回収系などの水処理系において、被処理水へのスケール防止剤の供給量を低減することができるスケール防止剤の供給管理方法を提供する。
【解決手段】水処理系における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理方法であって、被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、被処理水の電気伝導度を測定し、測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整するスケール防止剤の供給管理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水回収系などの水処理系におけるスケール防止剤の供給管理方法および供給管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業排水などの排水を回収して再利用することは水資源の節約を図るだけでなく、環境汚染防止にも役立つものであり、排水の回収再利用は技術的にも重要な問題である。
【0003】
一般に工業排水には酸やアルカリ、塩類などが含まれているため、排水の回収に当たっては逆浸透膜処理などの脱塩処理を施す。逆浸透膜による脱塩処理の場合、膜の一次側には被処理水中の溶存成分が濃縮されるため、カルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどの無機成分がスケールとして析出し、膜を閉塞させることがある。
【0004】
このような問題を解決するために、被処理水に対してスケール防止剤を供給することが一般に行われる。被処理水に対するスケール防止剤の供給量は、従来、被処理水中のカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどのスケール成分の存在量に応じて、あるいはそれらの溶解度に関わる被処理水のpHを考慮に入れて決定されてきた(例えば、特許文献1参照)。すなわち、被処理水中のカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどのスケール成分の存在量が高いほど、被処理水に対して多くのスケール防止剤を供給していた。
【0005】
被処理水へのスケール防止剤の供給量の制御方法としては、被処理水中の供給したスケール防止剤の濃度の測定が不可能あるいは困難なため、例えば特許文献2のように、簡単に濃度測定できる物質をトレーサとして用いることが行われている。このトレーサ物質の被処理水中の濃度に応じて、前述のように決定されたスケール防止剤の供給量に対する不足分を補うという形で、被処理水中に一定濃度のスケール防止剤が存在するように制御されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−224761号公報
【特許文献2】特開2004−322058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被処理水へのスケール防止剤の供給量は、被処理水中のカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどのスケール成分の濃度やpHのみに応じて、経験的に、または実験的に決定され、定量供給されてきた。しかし、前述の回収系のように、工場排水などにおいてカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどのスケール成分の濃度が高い場合は、スケール防止剤の供給量は必然的に高くなり、コストが高くなる問題があった。
【0008】
本発明は、工場排水回収系などの水処理系において、被処理水へのスケール防止剤の供給量を低減することができるスケール防止剤の供給管理方法および供給管理装置である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水処理系における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理方法であって、前記被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、前記被処理水の電気伝導度を測定し、前記測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整するスケール防止剤の供給管理方法である。
【0010】
また、本発明は、逆浸透膜処理における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理方法であって、前記被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、前記被処理水および前記逆浸透膜処理により生成する濃縮水のうち少なくとも1つの電気伝導度を測定し、前記測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整するスケール防止剤の供給管理方法である。
【0011】
また、前記スケール防止剤の供給管理方法において、前記測定した電気伝導度が高いほど、前記スケール防止剤の前記被処理水への供給量を低減するように調整することが好ましい。
【0012】
また、前記スケール防止剤の供給管理方法において、前記測定した電気伝導度が1,000μS/cm以上のときに、前記スケール防止剤の前記被処理水への供給量を低減するように調整することが好ましい。
【0013】
また、前記スケール防止剤の供給管理方法において、前記被処理水が、電子産業工場排水の回収系における水であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、水処理系における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理装置であって、前記被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、前記被処理水の電気伝導度を測定する電気伝導度測定手段と、前記測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整する供給量調整手段と、を有するスケール防止剤の供給管理装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、工場排水回収系などの水処理系において、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有する被処理水の電気伝導度を測定し、測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の被処理水への供給量を調整することにより、被処理水へのスケール防止剤の供給量を低減することが可能なスケール防止剤の供給管理方法および供給管理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、異種イオン効果による、沈殿の溶解度増大効果を利用して、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有する被処理水あるいは濃縮水中の塩類濃度、すなわち電気伝導度の測定結果に応じてスケール防止剤の被処理水への供給量を調整することにより、スケール防止剤の供給量を低減することができることを見出した。
【0018】
本発明者らは、被処理水へのスケール防止剤の供給量を削減すべく、後述する実施例に示すように、半導体工場の排水に対してスケール防止剤の供給濃度を数パターンに分け、24時間後の溶存Fイオン濃度を測定する実験を行った。この実験に使用した工場排水においては、不定期の樹脂再生工程などによる、酸(HCl、HSOなど)とアルカリ(NaOHなど)の使用量に応じて、電気伝導度が大きく変動するという特徴があった。
【0019】
スケール防止剤として、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体43%品を用いた実験結果によると、被処理水中の電気伝導度が1,000μS/cm以上、逆浸透膜処理の濃縮水中の電気伝導度が5,000μS/cm以上の工場排水においては、被処理水中のカルシウムイオン濃度とフッ素イオン濃度は、フッ化カルシウムを析出するのに充分な濃度であったにもかかわらず、スケール分散剤の供給量を通常よりも少なく抑えることが可能であった。また、被処理水中の電気伝導度が2,500μS/cm以上、濃縮水中の電気伝導度が7,000μS/cm以上の場合には、スケール防止剤を全く加えない場合でも、スケールをほとんど析出しなかった。すなわち、実際にはスケール析出のリスクはカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどの濃度だけによらず、共存イオンの存在による影響も大きいことがわかった。
【0020】
これは、異種イオン効果と呼ばれる現象によるものと考えられる。異種イオン効果とは、沈殿との共通イオンを持たない塩が溶液中に共存する時、反対電価を帯びたイオン間の引力が大きくなるために活量係数が減少し、そのために多くの場合、沈殿の溶解度が増大する現象である。また、シリカについても、他のイオンの存在下では、シリカの溶解度が増大する現象が見られる。
【0021】
例えば、被処理水中のスケール原因成分であるCa濃度が>3mg/Lであり、SO濃度が>1,000mg/L、あるいはPO濃度が>1.0mg/L、あるいはF濃度が>15mg/Lであるとき、沈殿の溶解度積は>1なので、スケール析出のリスクが高い。しかし、このような被処理水中にナトリウムイオン(Na)、塩素イオン(Cl)などの異種イオンを含み、例えばNa、Clの濃度がそれぞれ20mM以上であるような水では、異種イオン効果によって、沈殿の溶解度積は2倍以上となる。シリカについては、例えば、被処理水中のスケール原因成分であるシリカ濃度が>96mg/Lであるとき、スケール析出のリスクが高い。しかし、このような被処理水中にナトリウムイオン(Na)、塩素イオン(Cl)などの異種イオンを含み、例えばNa、Clの濃度がそれぞれ100mM以上であるような水では、異種イオン効果によって、シリカの溶解度積は3倍以上となる。
【0022】
本実施形態では、このような現象を利用して、スケール防止剤の供給量を従来よりも低減するものである。すなわち、被処理水中の塩類濃度をリアルタイムにモニタリングし、その測定結果に応じて、スケール防止剤の供給量を適切に制御する。具体的には、被処理水中の塩類濃度の指標として被処理水中の電気伝導度を測定し、この電気伝導度の測定結果に応じて、スケール防止剤の供給量を適切に制御する。
【0023】
本発明の実施形態に係るスケール防止剤の供給管理装置を備える水処理システムの一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。水処理システム1として、ここでは逆浸透膜処理による水処理システムを一例として説明する。水処理システム1は、供給管理装置3と、逆浸透膜処理装置10とを備える。また、供給管理装置3は、スケール防止剤貯槽12と、スケール防止剤を供給するスケール防止剤供給手段であるスケール防止剤供給ポンプ14と、供給量調整手段である制御装置16と、電気伝導度測定手段である導電率計18,20とを備える。
【0024】
図1の水処理システム1において、図示しない被処理水槽などからの被処理水配管28が被処理水供給ポンプ26を介して逆浸透膜処理装置10の入口に接続されている。逆浸透膜処理装置10の出口には、処理水配管30が接続されている。スケール防止剤貯槽12の出口は、スケール防止剤配管32によりスケール防止剤供給ポンプ14を介して、被処理水配管28に接続されている。被処理水配管28のスケール防止剤配管32との接続点の後流側には、導電率計18が設置されている。また、逆浸透膜処理装置10の濃縮水側に、導電率計20が設置されている。制御装置16は、スケール防止剤供給ポンプ14、導電率計18,20と電気的などにより接続されている。
【0025】
本実施形態に係る水処理システム1、供給管理装置3の動作、およびスケール防止剤の供給管理方法について説明する。
【0026】
水処理システム1において、被処理水は、被処理水槽などから被処理水供給ポンプ26により被処理水配管28を通して、逆浸透膜処理装置10に送液される。逆浸透膜処理装置10への流入前に、被処理水配管28において、スケール防止剤貯槽12からスケール防止剤供給ポンプ14により、スケール防止剤が供給される(スケール防止剤供給工程)。スケール防止剤は、連続的に供給されてもよいし、間欠的に供給されてもよい。また、スケール防止剤は、被処理水槽へ供給されてもよいし、あるいは被処理水槽などからの被処理水を貯留する貯留槽を別途設けて、その貯留槽へ供給されてもよい。
【0027】
逆浸透膜処理装置10において、スケール防止剤が供給された被処理水について、逆浸透膜処理が行われ、逆浸透膜を透過した透過水と、不純物が濃縮された濃縮水とが得られる(逆浸透膜処理工程)。逆浸透膜処理装置10において逆浸透膜処理されて逆浸透膜を透過した透過水(処理水)は、処理水配管30を通して排出される。また、濃縮水は、系外に排出される。処理水について、さらに紫外線照射処理、イオン交換処理などが行われてもよい。
【0028】
本実施形態に係る供給管理方法および供給管理装置は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有する被処理水に適用することができる。具体的には、スケール原因成分として、カルシウムイオン(Ca2+)およびマグネシウム(Mg2+)のうち少なくとも1種と、フッ素イオン(F)、炭酸イオン(CO2−)、リン酸イオン(PO2−)のうち少なくとも1種とを含み、あるいはスケール原因成分としてシリカを含み、異種イオンとして、スケール原因成分以外のイオン、例えば、ナトリウムイオン(Na)、塩素イオン(Cl)、硫酸イオン(SO2−)などのうち少なくとも1種を含有する被処理水に好ましく適用することができる。特に、スケール原因成分の濃度がほぼ一定の範囲であるのに対し、異種イオンの濃度変動が大きいことによって電気伝導度の変動が大きい(例えば、500〜10,000μS/cmの変動がある)被処理水に好ましく適用することができる。
【0029】
被処理水中に含まれるスケール原因成分の濃度としては、例えば、逆浸透膜処理の濃縮水中のCa濃度が0.1mg/L<[Ca]<50g/Lであり、PO濃度が<10g/L、またはF濃度が<10g/Lであり、これらの範囲でほぼ一定である被処理水に好ましく適用することができる。あるいは、例えば、逆浸透膜処理の濃縮水中のシリカ濃度が[SiO]<10g/Lであり、この範囲でほぼ一定である被処理水に好ましく適用することができる。なお、逆浸透膜処理の透過水の回収率は70%とする。
【0030】
本実施形態に係る供給管理方法および供給管理装置においては、まず、被処理水の電気伝導度が導電率計により測定される。水処理系が逆浸透膜処理の場合、図1の導電率計18,20により、被処理水と逆浸透膜の濃縮水のいずれか、または両方の電気伝導度が測定される。
【0031】
ここで、実質的にスケール発生傾向に影響を及ぼすのは、濃縮水中の電気伝導度であるため、少なくとも濃縮水中の電気伝導度を測定することが好ましい。しかし、濃縮水中の電気伝導度を測定しなくても、被処理水中の電気伝導度と逆浸透膜処理の回収率とから、濃縮水中の電気伝導度を算出してもよい。
【0032】
導電率計18,20により測定された電気伝導度の測定値に応じたスケール防止剤の必要供給量は、制御装置16が備えるプログラマブルコントローラ(PLC)などによって決定され、制御装置16によりスケール防止剤供給ポンプ14の吐出流量が自動的に制御される。
【0033】
ここで、スケール防止剤の必要供給量について、例えばスケール防止剤としてアクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体43%品を半導体工場排水の回収系に用いた前述の試験データによれば、濃縮水の電気伝導度が7,000μS/cm以上である場合は、スケール防止剤の供給は不要である。また、濃縮水の電気伝導度が5,000μS/cm以上7,000μS/cm未満である場合は、濃縮水中でスケール防止剤が33mg/Lとなるような供給量に調整する。すなわち、被処理水に対してスケール防止剤が10mg/Lとなるように供給する。電気伝導度が5,000μS/cm未満である場合は、さらにスケール防止剤の供給量を2〜3倍に増加するというように、濃縮水中の電気伝導度に応じてスケール防止剤の供給量を調整することができる。
【0034】
上記供給量は一例であって、電気伝導度とスケール防止剤の必要供給量との関係は、被処理水の性状、スケール防止剤の種類などに応じて、適宜決定することができる。
【0035】
図2に、スケール防止剤の濃度の調整方法の一例を示す。図2において、横軸は濃縮水の電気伝導度(μS/cm)、縦軸は濃縮水中のスケール防止剤の濃度(mg/L)を示す。従来の方法では、スケール防止剤の供給量は、被処理水中のカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどのスケール成分の濃度やpHのみに応じて、経験的に、または実験的に決定され、定量供給されてきた。それに対して、本実施形態に係る供給管理方法では、測定した電気伝導度が高いほど、スケール防止剤の被処理水への供給量を低減するように調整する。例えば、スケール防止剤供給ポンプ14の吐出流量は、電気伝導度に応じて比例制御(例えば、図3の供給例(1))としてもよいし、電気伝導度にしきい値を設定して、ポンプの吐出量を多段制御(例えば、図3の供給例(2))としてもよい。
【0036】
スケール防止剤供給ポンプ14の吐出流量は、制御装置16が備えるプログラマブルコントローラ(PLC)などからの出力(アナログ出力、パルス出力など)や、インバータによる調整、タイマによる発停など任意の方法で自動調整することができる。
【0037】
また、被処理水の水質変動(電気伝導度の変動)が小さい場合には、スケール防止剤供給ポンプ14の吐出量をPLC制御しなくてもよいが、濃縮水中の電気伝導度が7,000μS/cm以上のときはスケール防止剤を供給しないなど、電気伝導度に応じて従来よりもスケール防止剤の定量供給する量を少なく調整することが可能となる。
【0038】
また、被処理水中のカルシウムなどのスケール原因成分の濃度変動が大きい場合には、図3に示すように、供給管理装置5が、スケール原因成分の濃度を測定するスケール原因成分濃度測定手段であるスケール原因成分濃度計22,24を備えてもよい。
【0039】
図3の水処理システム1において、被処理水配管28のスケール防止剤配管32との接続点の後流側には、導電率計18およびスケール原因成分濃度計22が設置されている。また、逆浸透膜処理装置10の濃縮水側に、導電率計20およびスケール原因成分濃度計24が設置されている。制御装置16は、スケール防止剤供給ポンプ14、導電率計18,20、スケール原因成分濃度計22,24と電気的な結線などにより接続されている。
【0040】
図3の供給管理装置5では、導電率計18,20による被処理水または濃縮水の電気伝導度、およびスケール原因成分濃度計22,24による被処理水または濃縮水のスケール原因成分の濃度に応じてスケール防止剤の被処理水への供給量を調整することができる。具体的には、測定したスケール原因成分の濃度がほぼ同じであり、測定した電気伝導度が高いほど、スケール防止剤の被処理水への供給量を低減するように調整する。スケール防止剤の供給量は、被処理水の性状、スケール防止剤の種類などに応じて、適宜決定することができる。
【0041】
本実施形態に係る供給管理方法および供給管理装置においては、まず、被処理水の電気伝導度が導電率計により測定され、被処理水中のスケール原因成分の濃度がスケール原因成分濃度計により測定される。水処理系が逆浸透膜処理の場合、図3の導電率計18,20により、被処理水と逆浸透膜の濃縮水のいずれか、または両方の電気伝導度が測定され、スケール原因成分濃度計22,24により、被処理水と逆浸透膜の濃縮水のいずれか、または両方のスケール原因成分濃度が測定される。
【0042】
ここで、実質的にスケール発生傾向に影響を及ぼすのは、濃縮水中の電気伝導度およびスケール原因成分濃度であるため、少なくとも濃縮水中の電気伝導度およびスケール原因成分濃度を測定することが好ましい。
【0043】
導電率計18,20により測定された電気伝導度の測定値、およびにスケール原因成分濃度計22,24により測定されたスケール原因成分濃度の測定値に応じたスケール防止剤の必要供給量は、制御装置16が備えるプログラマブルコントローラ(PLC)などによって決定され、制御装置16によりスケール防止剤供給ポンプ14の吐出流量が自動的に制御される。
【0044】
スケール原因成分濃度計22,24としては、カルシウム濃度計、マグネシウム濃度計、シリカ濃度計などを用いることができる。
【0045】
本実施形態において用いられるスケール防止剤としては、ホスホン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、重合りん酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ポリマレイン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、(メタ)アクリル酸およびその塩のうち少なくとも1つで構成される重合体、(メタ)アクリル酸およびその塩のうち少なくとも1つと他の二重結合を有する単量体との共重合体;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸塩、ホスホノブタントリカルボン酸およびホスホノブタントリカルボン酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1つ;トリポリリン酸、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸およびヘキサメタリン酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1つ;ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩のうち少なくとも1つ、(メタ)アクリル酸およびその塩のうち少なくとも1つとヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸およびその塩のうち少なくとも1つとの共重合体、ならびに、(メタ)アクリル酸およびその塩のうち少なくとも1つとヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸およびその塩のうち少なくとも1つとの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1つ;などが挙げられる。
【0046】
逆浸透膜処理装置10としては、逆浸透膜(RO膜、NF膜)などを用いる膜処理装置が挙げられるが、TOCの除去効果などの点から、RO膜を用いる逆浸透膜装置であることが好ましい。RO膜としては、酢酸セルロース膜(CA膜)、ポリアミド膜(PA膜)などを用いることができる。
【0047】
本実施形態において処理対象となる被処理水としては、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有する水であればよく特に制限はないが、工場排水回収系、冷却水処理系、排水処理系、工業用水処理系、純水処理系などの各種水処理系全般における水が挙げられる。
【0048】
本実施形態に係る供給管理方法および供給管理装置は、例えば、海水淡水化やかん水淡水化、排水回収系など塩類を含む被処理水を逆浸透膜処理する装置の濃縮水側において、スケールを防止するのに好適に利用される。特に、半導体および液晶表示装置製造工場の排水回収系のように、カルシウム塩やマグネシウム塩、シリカの濃度に対して電気伝導度の変動が大きい水系において、コスト削減効果が高い。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
半導体工場から排出される排水に対してスケール防止剤の供給濃度を数パターンに分け、24時間後の溶存Fイオン濃度を測定する実験を行った。この実験に使用した工場排水においては、不定期の樹脂再生工程などによる、酸(HCl、HSOなど)とアルカリ(NaOHなど)の使用量に応じて、電気伝導度が500μS/cm〜10,000μS/cmの間で大きく変動するという特徴があった。また、この排水中のスケール原因成分の濃度は、Ca濃度が30mg/L、PO濃度が70mg/L、F濃度が7mg/Lでほぼ一定であった。
【0051】
スケール防止剤として、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体43%品を用いて、以下の条件で実験を行った。被処理水サンプルを300mL採取し、スケール防止剤を所定濃度添加、撹拌後、RO平膜試験機にて3.3倍濃縮し、濃縮水を一昼夜静置後に孔径0.1μmのフィルタでろ過した。ろ過後のサンプルについてカルシウムイオン濃度とフッ素イオン濃度を測定し、実験前後のイオン回収率からスケール防止剤必要濃度を決定した。結果を図4に示す。
【0052】
図4からわかるように、被処理水中の電気伝導度が1,000μS/cm以上、逆浸透膜処理の濃縮水中の電気伝導度が5,000μS/cm以上の工場排水においては、被処理水中のカルシウムイオン濃度とフッ素イオン濃度は、フッ化カルシウムを析出するのに充分な濃度であったにもかかわらず、スケール分散剤供給量を通常の50mg/Lよりも少なく抑えることができた。また、被処理水中の電気伝導度が2500μS/cm以上、濃縮水中の電気伝導度が7000μS/cm以上の場合には、スケール防止剤を全く加えない場合でも、スケールをほとんど析出しなかった。すなわち、実際にはスケール析出のリスクはカルシウム塩やマグネシウム塩、シリカなどの濃度だけによらず、共存イオンの存在による影響も大きいことがわかった。
【0053】
また、濃縮水の電気伝導度とフッ素イオン回収率との関係を図5に示す。これより、濃縮水の電気伝導度が7,000μS/cm以上である場合は、スケール防止剤の供給は不要であり、濃縮水の電気伝導度が5,000μS/cm以上7,000μS/cm未満である場合は、濃縮水中でスケール防止剤が33mg/Lとなるような供給量に調整すればよいことがわかった。
【0054】
このように、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有する被処理水の電気伝導度を測定し、測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の被処理水への供給量を調整することにより、被処理水へのスケール防止剤の供給量を低減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係るスケール防止剤の供給管理装置を備える水処理システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるスケール防止剤の濃度の調整方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係るスケール防止剤の供給管理装置を備える水処理システムの一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施例における濃縮水の電気伝導度と必要スケール防止剤濃度との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例における濃縮水の電気伝導度とフッ素イオン回収率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 水処理システム、3,5 供給管理装置、10 逆浸透膜処理装置、12 スケール防止剤貯槽、14 スケール防止剤供給ポンプ、16 制御装置、18,20 導電率計、22,24 スケール原因成分濃度計、26 被処理水供給ポンプ、28 被処理水配管、30 処理水配管、32 スケール防止剤配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理系における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理方法であって、
前記被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、
前記被処理水の電気伝導度を測定し、前記測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整することを特徴とするスケール防止剤の供給管理方法。
【請求項2】
逆浸透膜処理における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理方法であって、
前記被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、
前記被処理水および前記逆浸透膜処理により生成する濃縮水のうち少なくとも1つの電気伝導度を測定し、前記測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整することを特徴とするスケール防止剤の供給管理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスケール防止剤の供給管理方法であって、
前記測定した電気伝導度が高いほど、前記スケール防止剤の前記被処理水への供給量を低減するように調整することを特徴とするスケール防止剤の供給管理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のスケール防止剤の供給管理方法であって、
前記測定した電気伝導度が1,000μS/cm以上のときに、前記スケール防止剤の前記被処理水への供給量を低減するように調整することを特徴とするスケール防止剤の供給管理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のスケール防止剤の供給管理方法であって、
前記被処理水が、電子産業工場排水の回収系における水であることを特徴とするスケール防止剤の供給管理方法。
【請求項6】
水処理系における被処理水へのスケール防止剤の供給を管理するスケール防止剤の供給管理装置であって、
前記被処理水は、カルシウム、マグネシウムおよびシリカのうち少なくとも1種、ならびにこれら以外の電解質を含有し、
前記被処理水の電気伝導度を測定する電気伝導度測定手段と、
前記測定した電気伝導度に応じてスケール防止剤の前記被処理水への供給量を調整する供給量調整手段と、
を有することを特徴とするスケール防止剤の供給管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−455(P2010−455A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161849(P2008−161849)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】