説明

スケール防止剤及びスケール防止方法

【課題】 冷却水系、ボイラー水系、地熱水系、洗浄水系などのスケール防止効果に優れ、特にシリカ系スケールを抑制する効果の高いスケール防止剤を提供する。
【解決手段】 活性水素原子含有基を3個以上有する化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物(A)からなるスケール防止剤であり、活性水素原子含有基としてはヒドロキシル基、カルボシキシル基、1級アミノ基、2級アミノ基、イミノ基およびチオール基からなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、アルキレンオキサイド付加物としては炭素数2および/または3のアルキレンオキサイドの付加物が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系用スケール防止剤およびスケール防止方法に関する。さらに詳しくは、冷却水系、ボイラー水系などのスケ−ル防止効果に優れ、特にシリカ系のスケールを防止するために有効なスケール防止剤およびスケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、ボイラー水系、地熱水系、洗浄水系などの水、および水と接触する金属面、特に伝熱面においてスケール障害が発生する。特に、開放循環式冷却水系においては、省資源、省エネルギーの立場から冷却水の系外への排棄(ブロー)を少なくし、高濃縮運転が行われるので、水に溶解する塩類が濃縮されて伝熱面などが腐食されやすくなるとともにカルシウム塩、マグネシウム塩、シリカ等のスケールが発生する。従来から、これらのスケールの生成を防止、あるいは除去するためのスケール防止剤として各種のアクリル酸重合体、各種のマレイン酸系重合体などが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−102886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のスケール防止剤の効果は必ずしも満足いくものではなく、特にシリカ系のスケールを抑制する効果は不十分であった。
すなわち本発明の目的は、冷却水系、ボイラー水系、地熱水系、洗浄水系などのスケール防止効果に優れ、特にシリカ系スケールを抑制する効果の高いスケール防止剤および該スケール防止剤用いるスケール防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造のスケール防止剤が上記目標を達成することを見出し本発明に到達した。即ち本発明は、活性水素原子含有基を3個以上有する化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物(A)からなるスケール防止剤、および該スケール防止剤を高シリカ濃度水系に添加して、シリカ系スケールの生成を防止することを特徴とするスケール防止方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によるスケール防止剤は、冷却水系、ボイラー水系、地熱水系、洗浄水系などのシリカ系スケールを抑制する効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における(A)は、活性水素原子含有基を3個以上有する化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物であり、(a)が有する活性水素原子含有基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、1級アミノ基、2級アミノ基、イミノ基およびチオール基などが挙げられる。
【0007】
(a)はこれらの活性水素原子含有基の1種または2種以上を3個以上、好ましくは3〜8個有する化合物であり、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0008】
(a1)ヒドロキシル基を3個以上有する化合物;
(a11)多価アルコール類;
例えば、炭素数3〜24の、3価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパンなど)、4価アルコール(ペンタエリスリトール、ソルビタンなど)、5価アルコール(ジペンタエリスリトール、ブドウ糖、果糖など)および6価アルコール(ソルビトールなど)が挙げられる。
(a12)多価フェノール類;
例えば、炭素数6〜24の、単環多価フェノール(ピロガロールなど)および多環多価フェノール(トリヒドロキシナフタレンなど)が挙げられる。
(a2)1級および/または2級アミノ基を3個以上有する化合物;
ポリアルキレンポリアミン類、例えば、炭素数2〜24の、トリアミン(ジエチレントリアミンなど)、テトラアミン(トリエチレンテトラミンなど)およびペンタアミン(テトラエチレンペンタミンなど)が挙げられる。
(a3)カルボキシル基を3個以上有する化合物;
ポリカルボン酸類、例えば炭素数3〜36の、3価カルボン酸(リノール酸の3量化物など)、4価カルボン酸(イタコン酸、マレイン酸などの2量化物など)、5価カルボン酸(アクリル酸の5量体など)が挙げられる。
(a4)チオール基を3個以上有する化合物;
ポリチオール類、例えば、上記多価アルコールに相当する(OHの全てがチオール基に置き換わった)ポリチオール、3個以上のグリシジル基を含有する化合物と硫化水素との反応で得られるポリチオールなどが挙げられる。
(a)のうち、シリカスケール防止性の観点から好ましいのは(a1)および(a2)、さらに好ましいのは(a11)、特に好ましいのはソルビトールである。
【0009】
(A)を構成するアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する)としては、炭素数2〜12、好ましくは炭素数2〜6、さらに好ましくは水に対する溶解度の観点から炭素数2もしくは3のAOが挙げられる。
AOとしては、エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0010】
本発明における(A)は、(a)のAO付加物であれば特に限定されないが、シリカスケール防止性の観点から、好ましいのは(a1)または(a2)のEOおよび/またはPO付加物であり、さらに好ましいのは、活性水素原子含有基1個当たり平均で4〜100個のEOおよび0〜50個のPOの付加物であり、さらに好ましいのは下記一般式(1)または(2)で表されるAO付加物である。
【0011】
【化3】

【0012】
一般式(1)中、R1はエチレン基、R2はプロピレン基を表し、/はランダム状および/またはブロック状に結合していることを示しており、好ましくはランダム状およびブロック状の両方の併用である。
mは平均が4〜100、好ましくは4〜50、さらに好ましくは10〜40となる1以上の整数である。nは平均が0〜50、好ましくは0〜20、さらに好ましくは0〜10となる0または1以上の整数である。複数のmおよびnはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、pは1〜10、好ましくは3〜6の整数である。
【0013】
一般式(1)で示されるAO付加物の具体例としては、グリセリンのEO(30〜120モル)・PO(0〜30モル)ランダム付加物、およびソルビトールのEO(60〜240モル)・PO(0〜60モル)ブロック付加物などが挙げられる。
【0014】
【化4】

【0015】
式中、Xは−(R1O)m/(R2O)n−Hであり、R1はエチレン基、R2はプロピレン基を表し、/はランダム状および/またはブロック状に結合していることを示し、好ましくはランダム状およびブロック状の両方の併用である。
mは平均が4〜100、好ましくは10〜80、さらに好ましくは10〜70となる1以上の整数である。nは平均が0〜50、好ましくは1〜30、さらに好ましくは1〜20となる0または1以上の整数である。qは1〜100、好ましくは1〜50、さらに好ましくは1〜20の整数である。
複数のXにおけるmおよびnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0016】
一般式(2)で示されるAO付加物の具体例としては、ジエチレントリアミンのEO(30〜210モル)・PO(3〜60モル)ランダム付加物、およびトリエチレンテトラミンのEO(40〜280モル)・PO(4〜80モル)ブロック付加物などが挙げられる。
【0017】
本発明のスケール防止剤は、(A)そのもの、または(A)の水溶液からなる。
(A)は通常は固体または液体であり、固体の場合の融点は通常30〜80℃である。また(A)が液体の場合の粘度は、通常25℃で1,000〜80,000mPa・sで、好ましくは1,000〜30,000mPa・sである。
スケール防止剤が(A)の水溶液である場合の(A)の濃度は、通常10〜90質量%、好ましくは30〜80質量%である。
【0018】
(A)の製造方法としては、例えば(a)に、触媒の存在下、好ましくは温度30〜120℃、好ましくは圧力0〜0.6MPaでAOをランダムおよび/またはブロック付加させる方法が挙げられる。
【0019】
触媒としては従来から公知の触媒が使用できる。例えばBF3、BCl3、AlCl3、FeCl3およびSnCl3などのルイス酸、並びにそれらの錯体〔例えばBF3エーテル錯体、BF3テトラヒドロフラン錯体(BF3・THF)〕;H2SO4、HClO4などのプロトン酸;KClO4、NaClO4などのアルカリ金属の過塩素酸塩;Ca(ClO42、Mg(ClO42などのアルカリ土類金属の過塩素酸塩;Al(ClO43などの前記以外の金属の過塩素酸塩など、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物〔KOH、NaOH,CsOH、Ca(OH)2など〕;アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物(K2O、CaO、BaOなど)、アルカリ金属(Na、Kなど)、及びその水素化物(NaH、KHなど);トリエチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類などが挙げられる。これらのうち好ましいのはBF3エーテル錯体及びBF3テトラヒドロフラン錯体(BF3・THF)、KOH、NaOHまたはCsOHである。
【0020】
(A)の数平均分子量(以下、Mnと略記する。GPCによる測定値)は、特に限定されないが、好ましくは3,000〜100,000であり、4,000〜50,000であることが、水溶性の観点からさらに好ましい。
【0021】
本発明のスケール防止剤の対象水系への添加量は、対象水系の水質に応じて変化するが、標準的には(A)が1〜200mg/L程度が好ましい。
【0022】
本発明のスケール防止剤は必要に応じて性能を損なわない範囲で、その他の添加剤を併用してもよい。その他の添加剤としては、防食剤(リン酸塩、重合リン酸塩、リン酸エステルおよびホスホン酸塩などのリン系化合物、亜鉛、アルミニウムおよびニッケルなどの多価金属の塩類、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどのアゾール類並びにヒドラジンなど)、スライムコントロール剤(アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリンおよびエチルアミノイソプロピルアミノメチルチアトリアジンなど)、酵素、殺菌剤、着色剤、香料、親水性溶媒(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールなど)、並びに消泡剤(シリコーン系消泡剤、プルロニック系又はポリオキシアルキレン系消泡剤および鉱物油系消泡剤など)などが挙げられる。
併用の比率は、(A)の質量に基づいて、通常、防食剤が10〜200質量%、スライムコントロール剤、酵素および殺菌剤が5〜100質量%、着色剤および香料が0.01〜10質量%、親水性溶媒が1〜100質量%、消泡剤が1〜100質量%である。
【0023】
本発明におけるスケール防止剤の対象となる水系は、スケール障害の発生する可能性がある水系であればどのような水系でもよいが、本発明のスケール防止剤が効果を十分に発揮する水系としては高塩類水系、とりわけシリカ濃度が150mg/L以上の高シリカ濃度水系が挙げられる。このような水系としては、開放・冷却水系、ボイラー水系、鉄鋼集塵水系、地熱水系などが挙げられる。また、特に水道水、井戸水のシリカ濃度が高い地域では自動食器洗浄乾燥機などで部分的に濃縮される箇所がありスケール発生の問題が挙げられており、これらの洗浄水系に対しても本発明のスケール防止剤は効果があるが、これらに限定されることはない。
【0024】
本発明のスケール防止方法は、上記のスケール防止剤を高シリカ濃度水系に添加して、シリカ系スケールの生成を防止することを特徴とするスケール防止方法である。
【0025】
[実施例]
以下の実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
攪拌機、加熱冷却装置、温度計および滴下槽を備えたステンレス製耐圧容器にソルビトール182部、および粉末状の水酸化カリウム13部を仕込み、混合した後、系内の空間部を窒素で置換した後、温度120〜130℃、圧力−0.1MPa〜3MPaで、撹拌下、EO8,244部およびPO2,175部の混合物を滴下し、圧力が平衡になるまで反応させた。引き続いてPOを2,400部滴下し、圧力が平衡になるまで反応させ、ソルビトールEO(187.4モル)/PO(37.5モル)ランダム付加物のPO41.3モルブロック付加物を得て、本発明のスケール防止剤A−1とした。
【0027】
実施例2
付加するAOとして、EOを8,712部のみ使用したこと以外は実施例1と同様にしてソルビトールEO(198モル)付加物を得て、本発明のスケール防止剤A−2とした。
【0028】
実施例3
実施例1と同様の耐圧容器にジエチレントリアミン103部および粉末状の水酸化カリウム13部を仕込み、混合した後、系内空間部を窒素で置換した後、温度120〜130℃、圧力−0.1MPa〜3MPaで、撹拌下、EO7,920部およびPO3,480部の混合物を滴下し、圧力が平衡になるまで反応させて、ジエチレントリアミンEO(180モル)/PO(60モル)ランダム付加物を得て、本発明のスケール防止剤A−3とした。
【0029】
<シリカ系スケール防止性の評価>
上記のスケール防止剤A−1〜A−3、以下の比較例1〜3のスケール防止剤を使用しシリカ系スケール防止性の評価を行った。
【0030】
比較例1;キャリボンL−400(ポリアクリル酸ナトリウム、Mn約10,000、三洋化成工業(株)製)
比較例2;PEG−10,000(ポリエチレングリコール、Mn約10,000)
比較例3;PEG−20,000(ポリエチレングリコール、Mn約20,000)
[評価方法]
200mlのガラス製三角フラスコ中で、イオン交換水95mlにMgSO4・7H2Oを240mg/L、シリカ系スケールの発生源化合物としてNa2SiO3・9H2Oを1420mg/L、およびNaHCO3を420mg/Lの濃度となるように加え、pHを9±0.02に調整した後、表1のスケール防止剤を50ppmの濃度になるように添加し、さらに全体が100mlとなるようにイオン交換水で調整し試験液とした。この試験液を30℃および70℃の恒温槽で静置、3日後に0.1μmのフィルターでろ過し、試験液をイオン交換水にて15倍希釈後、モリブデン黄吸光光度法で30℃における溶存シリカ濃度、70℃における溶存シリカ濃度を求め、下記式より析出量(%)を算出した。
シリカ析出量(%)={(B−A)/B }×100
A:3日後のモリブデン黄吸光光度法測定結果(吸光度、単位:abs)
B:試験前のモリブデン黄吸光光度法測定結果(吸光度、単位:abs)
結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、本発明のスケール防止剤はシリカ系スケールを抑制する効果が大きいことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のスケール防止剤は、シリカ系スケールを防止する効果が優れているので、冷却水系、ボイラー水系、洗浄水系などのスケール防止剤として極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素原子含有基を3個以上有する化合物(a)のアルキレンオキサイド付加物(A)からなる水系用スケール防止剤。
【請求項2】
活性水素原子含有基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、1級アミノ基、2級アミノ基、イミノ基およびチオール基からなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載のスケール防止剤。
【請求項3】
(A)が、炭素数2および/または3のアルキレンオキサイドの付加物である請求項1または2記載のスケール防止剤。
【請求項4】
(A)が、活性水素原子含有基1個当たり平均で4〜100個のエチレンオキサイドおよび平均で0〜50個のプロピレンオキサイドの付加物である請求項1〜3のいずれか記載のスケール防止剤。
【請求項5】
(A)が、下記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド付加物である請求項1〜4のいずれか記載のスケール防止剤。
【化1】

[式中、R1はエチレン基、R2はプロピレン基を表し、/はランダム状および/またはブロック状に結合していることを示し、mは平均が4〜100となる1以上の整数、nは平均が0〜50となる0または1以上の整数であり、複数のmおよびnはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、pは1〜10の整数である。]
【請求項6】
(A)が、下記一般式(2)で表されるアルキレンオキサイド付加物である請求項1〜4のいずれか記載のスケール防止剤。
【化2】

[式中、Xは−(R1O)m/(R2O)n−Hであり、R1はエチレン基、R2はプロピレン基を表し、/はランダム状および/またはブロック状に結合していることを示し、mは平均が4〜100となる1以上の整数、nは平均が0〜50となる0または1以上の整数、qは1〜100の整数であり、複数のXにおけるmおよびnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のスケール防止剤を高シリカ濃度水系に添加して、シリカ系スケールの生成を防止することを特徴とするスケール防止方法。

【公開番号】特開2006−150180(P2006−150180A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341724(P2004−341724)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】