説明

スコロダイトの製造方法

【課題】製造効率が高く、より高いAsの濃縮率を得ることの可能なスコロダイトの製造方法を提供する。
【解決手段】5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液から結晶性スコロダイトを製造する方法であって、該酸性水溶液中のナトリウム濃度が0g/Lよりも多く4g/L以下となるように塩基性ナトリウム化合物を該酸性水溶液に添加する工程を含むことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スコロダイトの製造方法に関する。とりわけ、銅製錬工程で産出する電解沈殿銅からのスコロダイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱石中には種々の不純物が混入しており、そのような不純物には砒素(As)が含まれる。砒素(As)は銅製錬の乾式工程で高熱によって揮発分離されるが、一部は粗銅に混入して銅の電解精製工程へ持ち込まれることとなる。
粗銅(銅陽極)に含まれるAsは電解液に一部溶出し、未溶出分は電解槽底部に沈殿するアノードスライム中に混入する。また、陰極に析出する銅量よりも陽極から溶出する銅量の方が一般に多いので、電解液中の銅濃度は次第に増大する。そのため、電解液の一部を別の電解槽に抜き出して電解液の品質を制御している。抜き出した電解液に対しては脱銅電解を行い、陰極にCu及びAs等の不純物を析出させ、また、電解槽底部にこれらを沈殿させることでCu及びAs等の不純物を分離回収する。斯界では、これら電解槽底部に沈殿するものと陰極に析出するものを併せて電解沈殿銅と呼んでいる。
【0003】
電解沈殿銅は銅製錬工程に繰り返されるのが通常であるが、そのためには電解沈殿銅からAs等の不純物を分離しておくのが好ましい。また、Asは有価物として利用する道も残されている。従って、電解沈殿銅からAsを高い品位で分離・回収する技術が望まれる。この点に関し、特開平6−279879号公報(特許文献1)には電解沈殿銅を硫酸溶液に入れて浸出反応を起こさせることにより、As及びCuを含有する硫酸浸出液とBiやSbを含有する浸出残渣に分離する方法が記載されている。その実施例では電解沈殿銅を100g/L(pH=約−0.3と考えられる。)硫酸溶液に入れて硫酸浸出したことが記載されている。
【0004】
また、砒素を固定するためには、鉄砒素化合物であるスコロダイト(FeAsO4・2H2O)の結晶を生成させることが有効であることが知られている。結晶性スコロダイトは化学的に安定であり、長期保存にも適している。一方、スコロダイトであっても非晶質のものは安定性に欠き、長期保存に適さない。
【0005】
例えば、特許第3756687号明細書(特許文献2)には、銅及び/又は亜鉛を含む非鉄金属成分と砒素とを含有する砒素含有溶液からの砒素の除去および固定方法において、前記砒素含有溶液に鉄(II)溶液及び/又は鉄(III)溶液を加えて120℃以上で反応させ、鉄・砒素化合物として安定な結晶性を持つスコロダイトを生成させ、前記砒素含有溶液から固液分離して銅を含む非鉄金属成分を含有するスコロダイトを回収する第1工程と、第1工程で得られた銅を含む非鉄金属成分を含有するスコロダイトに水を加えてリパルプし、スコロダイトに含有する銅を含む非鉄金属成分を液中に溶かし出してスコロダイトから分離する第2工程とを有することを特徴とする砒素含有溶液からの砒素の除去および固定方法が記載されている。
これにより、銅等の有価金属をロスすることなく、砒素を結晶性の安定なスコロダイトとして除去・固定することが可能とされている。
【0006】
また、特開2005−161123号公報(特許文献3)には、砒素を含む煙灰から酸溶液により砒素を浸出する浸出工程と、浸出した浸出液に鉄イオンを含む酸性水溶液を混合して非晶質の砒酸鉄を沈殿させる沈殿反応工程と、混合液を加温して非晶質の砒酸鉄を結晶化する結晶化工程とを備え、混合液を濾過して結晶化された砒酸鉄を除去する煙灰からの砒素除去方法が記載されている。
これによれば、浸出液に鉄イオンを含む酸性水溶液を混合した後は、pH調整等、特別の処理が不要であるので、煙灰から砒素を極めて簡単に除去することができるとされている。
また、実施の形態の欄には、硫酸溶液(濃度0.2mol/L=約pH0.4)を用いて煙灰から砒素を浸出すること、浸出液及び鉄イオンを含む酸性水溶液(硫酸第二鉄)はpH1.0〜1.5とすることが記載されている。
【特許文献1】特開平6−279879号公報
【特許文献2】特許第3756687号明細書
【特許文献3】特開2005−161123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2及び3に記載されている条件で結晶性スコロダイトを生成した場合にも、Asの高い濃縮率を得ることができない場合があった。特に、特許文献3においてはスコロダイトの生成に適したpHは1.0〜1.5とされているが、このようなpHに設定してもスコロダイトの生成が不充分となってAsの濃縮率が低下する場合があった。
そこで、本発明は製造効率が高く、より高いAsの濃縮率を得ることの可能なスコロダイトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電解沈殿銅を原料としてスコロダイトを製造する場合、事前にBiやSb等を硫酸浸出により除去しておくのがこれら有価物の分離・回収の点で望ましいが、硫酸浸出に使用する硫酸濃度は浸出効率の観点から比較的高い場合が多く、得られた硫酸浸出液はpHが1.0未満となることもあり、その場合は結晶性スコロダイトの生成に適したpHである1.0〜1.5に調整するためにアルカリを加えるのが便宜である。ところが、斯かるアルカリ成分が硫酸塩を形成して、結晶性スコロダイトの生成を阻害したり結晶性スコロダイトと共に生成したりして、砒素の濃縮率が低下する。
【0009】
本発明者はこのような場合に添加するアルカリとしてナトリウム化合物が有効であることを見出した。すなわち、ナトリウム化合物を使用した場合には一定量までは添加しても結晶性スコロダイトの生成は阻害されない。具体的には、反応媒体中のナトリウム濃度が4g/L以下であれば結晶性スコロダイトの合成はほとんど阻害されないことが分かった。本発明は、以上の知見を基礎として完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は一側面において、5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液から結晶性スコロダイトを製造する方法であって、該酸性水溶液中のナトリウム濃度が0g/Lよりも多く4g/L以下となるように塩基性ナトリウム化合物を該酸性水溶液に添加する工程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0011】
本発明の一実施形態においては、前記塩基性ナトリウム化合物が炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される1種以上である。
【0012】
本発明の別の一実施形態においては、前記塩基性ナトリウム化合物を添加する前の前記酸性水溶液のpHが1.0未満であり、これを添加した後の前記酸性水溶液のpHが1.0〜1.5である。
【0013】
本発明の更に別の一実施形態においては、3価のFeは硫酸第二鉄として提供される。
【0014】
本発明の更に別の一実施形態においては、前記酸性水溶液は電解沈殿銅の硫酸浸出液である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、結晶性スコロダイトの合成時に副生成物の生成が防止されて、スコロダイトの選択的な合成が可能となる。そのため、例えば電解沈殿銅から高い濃縮率で砒素を固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
前述したように、本発明は5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液から結晶性スコロダイトを製造する際に、該水溶液中のナトリウム濃度が0g/Lよりも多く4g/L以下となるように塩基性ナトリウム化合物を該水溶液に添加することを特徴とする。
【0017】
5価のAsは例示的には砒酸(H3AsO4)等の形態で与えることができ、3価のFeは例示的には酸化鉄、硫酸鉄及び塩化鉄、水酸化鉄等の形態で与えることができる。酸性水溶液は例示的には塩酸酸性、硫酸酸性、硝酸酸性、過塩素酸酸性等の水溶液として与えることができる。典型的な例においては、5価のAsは電解沈殿銅を硫酸浸出した後の硫酸浸出液中に砒酸(H3AsO4)の形態で存在する。
【0018】
電解沈殿銅の硫酸浸出は例えば以下のように行うことができる。
まず、電解沈殿銅に対して水洗処理を随意的に行う。水洗処理は電解沈殿銅を水でリパルプし、0.5〜6時間撹拌して、電解沈殿銅の製造時に付着した電解液(硫酸銅、Ni、Fe等を含む)や、電解沈殿銅に含まれる微量のNi及びFe等を溶解させた後に、スラリーをろ過し、固液分離することで実施することができる。この工程では電解沈殿銅からFe及びNiの大部分を分離することができる。
しかしながら、この操作は、電解沈殿銅中の銅量の中で、硫酸銅を排除した0価の(水に溶解しない)銅量を明らかにして、次工程で行う電解沈殿銅の硫酸浸出に必要な硫酸量をより正確に求めるために行うことを主目的とする操作である。NiやFe等の微量元素を特に気にしない場合や、硫酸銅の含有量が既知であったり電解沈殿銅への電解液の持込が少なかったりする場合は、この工程を行う必要はない。
【0019】
随意的に水洗処理を行った後、硫酸酸性中の電解沈殿銅に酸素含有ガスを導入しながら、電解沈殿銅中に含まれるAs成分を5価に酸化するのに充分な液温及び時間で該溶液を撹拌して硫酸浸出を行い、次いでSb成分及びBi成分を含有する浸出残渣と5価のAs成分を含有する硫酸浸出液に固液分離する。
【0020】
このときに起きる浸出反応は一般に次式に従い、CuはCu2+まで、AsはAs+5まで酸化される。
Cu + H2SO4 + 1/2O2 → CuSO4 + H2O ・・・・ (1)
2As + 5/2O2 + 3H2O → 2H3AsO4 ・・・・ (2)
硫酸使用量は、Cu量に対し好ましくは1.0〜1.2当量である。1.0当量未満の場合浸出液が弱酸性になり、Cu3AsO4等の沈殿物が生成しCu、Asの浸出率が低下する。1.2当量を超える場合は、Cu、Asの浸出率に影響しないが、使用硫酸量が多くなる。Cu、Asの硫酸溶液中の濃度は特に制限はないが、溶解度を越えるとCu、Asの浸出率が低下するので、Cu2+、As5+の溶解度以下が好ましい。
また、その後に合成する結晶性スコロダイトの生成に適したpHは1.0〜1.5であるが、硫酸濃度が低いと硫酸浸出の効率、すなわち銅や砒素の回収効率が低下する傾向にあるので、硫酸浸出時に使用する硫酸の濃度はpHが1未満となるような濃度であるのが好ましい。従って、そのような場合は硫酸浸出液のpHも1未満となることが多い。また、硫酸浸出液のpHが1以上であったとしても、スコロダイトを合成する際に添加する3価の鉄は、後述するように酸性水溶液の形態で提供されるのが好ましく、例えば、硫酸第二鉄水溶液やポリ硫酸第二鉄水溶液のpHは0.6程度である。この場合には3価の鉄を加えることによりpHが低下して1未満となるケースが多い。
【0021】
硫酸浸出では、Asを5価に酸化するために、例えば70〜95℃で4.5〜11時間、好ましくは80〜95℃で7〜11時間撹拌すればよい。硫酸浸出は発熱反応であるため特に外部から加熱しないで行うことも可能である。撹拌時間は更に長く行っても良く、経済性と効果との兼ね合いで適宜決定すればよい。
Asの酸化効率を高めるためには、導入する酸素含有ガスの気泡を細かくして充分な量(例えば銅に対して酸素10当量/7時間)供給した方がよい。そこで、撹拌を激しく行うのが好ましく、例えば酸素含有ガスの導入及び/又は撹拌はジェット噴射により行うのが好都合である。この値は、ジェット噴射(ジェットアジター商品名)場合であり、通常のタービン翼を用いた撹拌機の場合反応効率は低下し、酸素含有ガス量をこの3.5倍以上導入しても、2倍以上の反応時間が必要となる。この段階でAsの価数制御を行うことで、後のスコロダイト生成が容易となる。また、Cu2+もAsの酸化を促進する効果がある。
【0022】
酸素含有ガスとしては上記反応に有意な悪影響を与えない限り特に制限はないが、例えば純酸素、酸素と不活性ガスの混合物を使用することができる。取扱い性やコストの観点からは空気とするのが好ましい。
【0023】
電解沈殿銅の硫酸浸出液に3価の鉄を添加することで、5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液が得られる。この場合、3価の鉄としては、酸化鉄、硫酸鉄、塩化鉄、水酸化鉄等が挙げられるが、3価の鉄は水溶液中での反応を行う観点から酸性水溶液の形態で提供されるのが好ましく、脱鉄後液を電錬の電解液に戻す事が最も有効である観点から硫酸第二鉄(Fe2(SO43)の水溶液の形態で提供されるのが好ましい。また、廃水処理等で使用される、ポリ硫酸第二鉄水溶液も使用可能である。
3価鉄の使用量はAsを除去するという観点からは、As量に対して1.0当量以上必要であり、経済的な観点から1.1〜1.5当量であるのが好ましい。
【0024】
該酸性水溶液には、スコロダイトを合成する上で適切なpH値にするために塩基性ナトリウム化合物を添加する。添加量は該水溶液中のナトリウム濃度が0g/Lよりも多く4g/L以下、好ましくは0g/Lよりも多く2.5g/L以下となるような量とする。ナトリウム化合物を添加しないとpH調整が行えない一方で、4g/Lを超えて添加するとナトリウムの硫酸塩であるナトロジャロサイト(NaFe3(SO42(OH)6)が生成しやすくなり、砒素の濃縮率を低下させるおそれがあるからである。
該ナトリウム化合物の添加時期はスコロダイトの合成が適切なpHで行われれば特に制限はなく、合成開始前(すなわち加熱前)でも加熱中でもよいが、安定なスコロダイトを効率的に合成するという観点からは加熱前に添加するのが好ましい。
【0025】
塩基性ナトリウム化合物としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。典型的には水酸化ナトリウムを使用することができる。なお、pHを調整する際に水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリを添加することも考えられるが、水酸化カリウムの場合、コスト高である上に、副生成物のジャロサイト(KFe3(SO42(OH)6)の沈殿が生成しやすい。また、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムの場合、硫酸カルシウム(石膏)の沈殿が容易に生成して砒素の濃縮率を低下させるので好ましくない。
【0026】
塩基性ナトリウム化合物を添加した該酸性水溶液のpHは好ましくは0.3〜2.2である。結晶性スコロダイトの溶解度はpH0.3以下で急速に増大して、結晶性スコロダイトの生成を阻害する。さらにpH2.2以上では添加した鉄が水酸化鉄となって沈殿してしまい、鉄が有効にスコロダイトの合成に使われないからである。該酸性水溶液は特にpH1.0〜1.5のときに結晶性スコロダイトの生成効率が高い。
【0027】
結晶性スコロダイトは上記酸性溶液を例えば大気圧下で60〜95℃に加熱することにより生成させることができ、例えば8〜72時間反応させることにより充分な量の結晶性スコロダイトが生成する。Asは5価に酸化されているため、3価の鉄と高い反応効率で結晶性のスコロダイトが生成する。結晶性スコロダイトは化学的に安定であり、長期保存にも適している。該結晶性スコロダイトを含有する残渣と脱砒後液とに固液分離すれば、砒素をスコロダイトとして回収することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を記載するが、本発明はそれらに限定されることはない。
【0029】
実施例1
和光純薬社製60%砒酸水溶液(砒素含有率33.8%相当)23.7gに硫酸第2鉄液(硫酸第2鉄試薬(n水塩、第2鉄含有率約21.3%)57.3gを温水で溶解した液、砒素に対して第2鉄が2.0当量)を加え、液量を水で希釈して640mLに定容した。この混合液はpH0.75であったので、25%NaOH溶液を17mL加え、pH1.0に調整した。このときの混合液中のNa濃度をSII社製型式SPS3100のICPAES分析装置により測定すると3.8g/Lであった。その後、加熱中に再度液量を640mLまで濃縮しながら95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して640mLに維持した。砒酸溶液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、60℃前後でスコロダイトの沈殿が観察された。スコロダイトの合成後に、スコロダイト結晶をろ過し、固液分離した。スコロダイト結晶は、水で洗浄し、その洗浄水は、結晶ろ過後液に加えた。得られたスコロダイト結晶及び結晶ろ過後液の物量を表1に示す。スコロダイト中の砒素含有率は30%であり、高い砒素濃縮率である。得られたスコロダイト結晶のXRDを図1に示す。砒素の溶出が少なく、安定とされる、結晶性スコロダイトが得られている。ナトロジャロサイトの結晶生成は認められない。
尚、この合成によって得られたスコロダイトからの砒素の溶出は0.99mg/L(TCLP pH5の酢酸緩衝溶液使用)であり、砒素が安定であることが確認された。このことからも得られたスコロダイトは結晶性であるといえる。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例2
電解沈殿銅の硫酸浸出液(製造法は別記)370mLに日鉄鉱業社製ポリ硫酸第2鉄(以下ポリ鉄)54.0mLを加え、液量を水で希釈して650mLに定容した。(砒素に対して第2鉄が1.5当量)。この混合液はpH0.97であったので、40g/L NaOH水溶液を5mL加え、pH1.0とした。このときの混合液中のNa濃度をSII社製型式SPS3100のICPAES分析装置により測定すると0.15g/Lであった。その後、加熱中に再度液量を650mLまで濃縮しながら95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して650mLに維持した。硫酸浸出液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、40℃前後でスコロダイトの沈殿が観察された。スコロダイトの合成終了後に、スコロダイト結晶をろ過し、固液分離した。スコロダイト結晶は、水で洗浄し、その洗浄水は、結晶ろ過後液に加えた。得られたスコロダイト結晶及び結晶ろ過後液の物量を表2に示す。スコロダイト中の砒素含有率は31%であり、高い砒素濃縮率である。得られたスコロダイト結晶のXRDを図2に示す。砒素の溶出が少なく、安定とされる、結晶性スコロダイトが得られた。ナトロジャロサイトの結晶生成は認められない。
尚、この合成によって得られたスコロダイトからの砒素の溶出は0.2mg/L(TCLP pH5の酢酸緩衝溶液使用)であり、砒素が安定であることが確認された。このことからも得られたスコロダイトは結晶性であるといえる。
【0032】
【表2】

【0033】
<電解沈殿銅の硫酸浸出液の製造法>
実施例2で使用した電解沈殿銅の製造法を以下に示す。
(1)電解沈殿銅の水洗処理
電解沈殿銅2000g(湿重量)を水でリパルプ5000mLとし、4時間撹拌して、電解沈殿銅の製造時に付着した電解液(硫酸銅、ニッケル、鉄他)を溶解した後に、スラリーをろ過し、固液分離した。得られた残渣は、乾燥して次工程の硫酸浸出に使用した。乾燥後の残渣重量は1423gであった。分析値を表3に示す。尚、この操作は、電解沈殿銅中の銅量の中で、硫酸銅を排除した0価の(水に溶解しない)銅量を明らかにして、次の電解沈殿銅を硫酸で浸出する際の必要な硫酸量をより正確に求めるために行う操作である。硫酸銅の含有量が既知であるか、電解沈殿銅への電解液の持込が少ない場合、この工程を行う必要はない。
【0034】
【表3】

【0035】
(2)電解沈殿銅の硫酸浸出
水洗処理を行った上記電解沈殿銅185g(乾重量)に98%の濃硫酸を145g(電解沈殿銅に含まれる銅に対して1.04当量)加え、更に水を加えて、スラリー量を1850mL(スラリー濃度100g/L)とした。700mL/分で空気を導入しながら、7時間撹拌して浸出した。反応効率を高めるためには、導入する空気の気泡を細かくすることが有効であるため、空気の導入、撹拌にはジェットアジター(SHIMAZAKI社製 JET AJITER)を使用した。尚、液温は特に制御しなかったが、硫酸浸出が、発熱反応であるため、浸出開始3時間後には88℃まで液温は上昇し、その後徐々に低下し、7時間後には70℃であった。硫酸浸出後に、浸出物をろ過し、固液分離した。残渣は、水で洗浄し、その洗浄水は、硫酸浸出液に加えた。得られた硫酸浸出液、硫酸浸出残渣の物量を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
比較例1
和光純薬社製60%砒酸水溶液(砒素含有率33.8%)23.7gに硫酸第2鉄液(硫酸第2鉄試薬(n水塩、第2鉄含有率約21.3%)57.3gを温水で溶解した液、砒素に対して第2鉄が2.0当量)を加え、液量を水で希釈して640mLに定容した。この混合液はpH0.75であったので、25%NaOH溶液を46mL加え、pH1.5に調整した。このときの混合液中のNa濃度をSII社製型式SPS3100のICPAES分析装置により測定すると10.3g/Lであった。その後、加熱中に再度液量を640mLまで濃縮しながら95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して640mLに維持した。硫酸浸出液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、60℃前後で黄色い沈殿が観察された。スコロダイトの合成後に、得られた結晶をろ過し、固液分離した。結晶は、水で洗浄し、その洗浄水は、結晶ろ過後液に加えた。得られた結晶及び結晶ろ過後液の物量を表5に示す。生成物中の砒素含有率は19%であり、砒素濃縮率は低下した。得られた結晶のXRDを図3に示す。得られた結晶はナトロジャロサイトであり、砒素の溶出が少なく、安定とされる、結晶性スコロダイトは得られていない。ナトロジャロサイトの生成によって結晶性スコロダイトの生成は阻害されたと考えられる。生成物中の砒素の形態は不明であるが、安定性に欠くといわれる非晶質スコロダイトであると予想される。
尚、この合成によって得られた結晶からの砒素の溶出は4.9mg/L(TCLP pH5の酢酸緩衝溶液使用)であり、砒素が不安定であることが確認された。このことからも、得られたスコロダイトは非晶質であるといえる。
【0038】
【表5】

【0039】
比較例2
和光純薬社製60%砒酸水溶液(砒素含有率33.8%)23.7gに硫酸第2鉄液(硫酸第2鉄試薬(n水塩、第2鉄含有率約21.3%)57.3gを温水で溶解した液、砒素に対して第2鉄が2.0当量)を加え、液量を水で希釈して640mLに定容した。この混合液はpH0.64であったので、25%NaOH溶液を26.3mL加え、pH1.0に調整した。このときの混合液中のNa濃度をSII社製型式SPS3100のICPAES分析装置により測定すると5.9g/Lであった。その後、加熱中に再度液量を640mLまで濃縮しながら95℃まで加熱し、72時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して640mLに維持した。硫酸浸出液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、60℃前後で褐色の沈殿が観察された。スコロダイトの合成後に、得られた結晶をろ過し、固液分離した。結晶は、水で洗浄し、その洗浄水は、結晶ろ過後液に加えた。得られた結晶及び結晶ろ過後液の物量を表6に示す。生成物中の砒素含有率は21%であり、砒素濃縮率は低下した。得られた結晶のXRDを図4に示す。得られた結晶はナトロジャロサイトと結晶性スコロダイトの混合物であった。
尚、この合成によって得られたスコロダイトからの砒素の溶出は0.4mg/L(TCLP pH5の酢酸緩衝溶液使用)であり、砒素が安定であることが確認された。このことからも、得られたスコロダイトは結晶性であるといえる。
【0040】
【表6】

【0041】
比較例3
和光純薬社製60%砒酸水溶液(砒素含有率33.8%)23.7gに硫酸第2鉄液(硫酸第2鉄試薬(n水塩、第2鉄含有率約21.3%)57.3gを温水で溶解した液、砒素に対して第2鉄が2.0当量)を加え、液量を水で希釈して640mLに定容した。この混合液はpH0.58であったので、25%NaOH溶液を30.5mL加え、pH1.5に調整した。このときの混合液中のNa濃度をSII社製型式SPS3100のICPAES分析装置により測定すると11.7g/Lであった。その後、加熱中に再度液量を640mLまで濃縮しながら95℃まで加熱し、72時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して640mLに維持した。硫酸浸出液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、40℃前後で褐色、50℃前後で黄褐色の沈殿に変化が観察された。スコロダイトの合成後に、得られた結晶をろ過し、固液分離した。結晶は、水で洗浄し、その洗浄水は、結晶ろ過後液に加えた。得られた結晶及び結晶ろ過後液の物量を表7に示す。生成物中の砒素含有率は18%であり、砒素濃縮率は低下した。得られた結晶のXRDを図5に示す。得られた結晶はナトロジャロサイトと結晶性スコロダイトの混合物であった。
尚、この合成によって得られたスコロダイトからの砒素の溶出は<0.1mg/L(TCLP pH5の酢酸緩衝溶液使用)であり、砒素が安定であることが確認された。このことからも、得られたスコロダイトは結晶性であるといえる。
【0042】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例1におけるスコロダイト結晶のXRDを示す。
【図2】本発明の実施例2におけるスコロダイト結晶のXRDを示す。
【図3】本発明の比較例1において、得られた結晶のXRDを示す。
【図4】本発明の比較例2において、得られた結晶のXRDを示す。
【図5】本発明の比較例3において、得られた結晶のXRDを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液から結晶性スコロダイトを製造する方法であって、該酸性水溶液中のナトリウム濃度が0g/Lよりも多く4g/L以下となるように塩基性ナトリウム化合物を該酸性水溶液に添加する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記塩基性ナトリウム化合物が炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性ナトリウム化合物を添加する前の前記酸性水溶液のpHが1.0未満であり、これを添加した後の前記酸性水溶液のpHが1.0〜1.5である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
3価のFeは硫酸第二鉄として提供される請求項1〜3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸性水溶液は電解沈殿銅の硫酸浸出液である請求項1〜4の何れか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−231478(P2008−231478A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70427(P2007−70427)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】