説明

スズの分離回収方法

【課題】スズ含有物からスズと共存金属を分離性よく溶解して回収する方法を提供する。
【解決手段】スズ含有物を硝酸浸出して共存金属を溶解すると共にスズ含有残渣を分離し、該スズ含有残渣からスズを回収する方法であって、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入することを特徴とするスズの分離回収方法であり、例えば、酸化剤として過酸化水素を用い、スズ含有物乾燥重量55gに対する35%濃度過酸化水素水の添加量が10〜35gに相当する過酸化水素を硝酸溶解時または硝酸溶解液に導入し、上記スズ含有物重量に対する70%濃度硝酸の添加量が40g以上に相当する硝酸濃度でスズ含有物を硝酸浸出するスズの分離回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITOスクラップや銅スズ含有滓などのスズ含有物からスズと共存金属を分離性よく溶解して回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム錫(ITO)の薄膜は透明導電膜として利用されており、この薄膜は主にITO焼結体をターゲット材としてスパッタ法や蒸着法によって形成されている。このITOターゲット材の使用率は低く、材料の半分以上がスクラップとして回収されている。
【0003】
従来、インジウム等の資源を有効に利用するため、回収したITOターゲット材スクラップからインジウムおよびスズを分離回収する方法が知られている。例えば、ITOターゲット材スクラップ等のインジウム含有物を硝酸浸出する方法、あるいは塩酸浸出する方法が知られている。
【0004】
硝酸溶解法としては、In-Sn含有物を硝酸浸出して硝酸インジウム溶液とし、この溶液から溶媒抽出によってインジウムを抽出し、さらに逆抽出して得たインジウム溶液から水酸化インジウムを回収し、これを焼成して酸化インジウムを得る方法が知られている(特開平8−91838号公報:特許文献1)。また、In-Sn含有物を硝酸溶解した後に不溶性の酸化スズを分離し、インジウムを溶媒抽出して分離回収する方法が知られている(特開2000−128531号公報:特許文献2)。
【0005】
塩酸溶解法としては、インジウム含有物を塩酸に溶解させて塩化インジウム溶液とし、これを加水分解して液中のスズを水酸化スズとして沈澱させて除去し、固液分離した塩化インジウム溶液から金属インジウムを回収する方法が知られている(特開2002−69544号公報:特許文献3、特開2002−69684号公報:特許文献4)。
【0006】
上記塩酸溶解法はインジウムと共にスズが溶解するので、溶解工程の後に液中のインジウムとスズを分離する工程が必要であり、加水分解によるスズの沈澱化工程などが設けられている。一方、上記硝酸溶解法は、酸化スズが硝酸に溶解しないことを利用してインジウムとスズの分離を容易にすることを意図したものであるが(特許文献2)、実際には硝酸濃度の変化によってインジウムとスズの溶解量が大幅に変動するので、インジウムとスズの両方を高い収率で回収するのは難しく、硝酸濃度が適切ではないとインジウムと共にスズが溶出し、特許文献1に記載されているように、硝酸溶解後に液中のインジウムとスズを分離する工程が必要になる。
【0007】
また、銅合金リードフレームのスズメッキの際に発生するメッキスラッジには銅およびスズがおのおの約20wt%前後含まれており、これらを回収して再利用することが求められている。この回収方法としてメッキスラッジを硝酸溶解すると、銅と共にスズが溶解し、溶解工程の後にスズを沈澱化する工程が必要になる。
【特許文献1】特開平8−91838号公報
【特許文献2】特開2000−128531号公報
【特許文献3】特開2002−69544号公報
【特許文献4】特開2002−69684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の硝酸溶解法における上記問題を解決したものであり、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入することによって、スズと共存金属との分離性を高めて硝酸浸出後にスズの沈澱化工程を不要とし、簡略な処理工程によって容易にスズと共存金属を高い収率で回収することができる分離回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の構成を有するスズの分離回収方法が提供される。
(1)スズ含有物を硝酸浸出して共存金属を溶解すると共にスズ含有残渣を分離し、該スズ含有残渣からスズを回収する方法であって、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入することを特徴とするスズの分離回収方法。
(2)酸化剤として過酸化水素を用い、スズ含有物乾燥重量55gに対する35%濃度過酸化水素水の添加量が10〜35gに相当する過酸化水素の存在下でスズ含有物を硝酸浸出する請求項1に記載するスズの分離回収方法。
(3)酸化剤の存在下で、スズ含有物乾燥重量55gに対する70%濃度硝酸の添加量が40g以上に相当する硝酸濃度でスズ含有物を硝酸浸出する請求項1または請求項2に記載するスズの分離回収方法。
(4)酸化剤の存在下でスズ含有物を硝酸浸出し、固液分離して得たスズ含有残渣を硝酸洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収する上記(1)〜上記(3)の何れかに記載するスズの分離回収方法。
(5)酸化剤の存在下でスズ含有物を硝酸浸出し、固液分離して得た共存金属溶解液を中和して金属水酸化物を沈澱させ、該金属水酸化物を塩酸溶解し、該溶解液から共存金属を回収する上記(1)〜上記(3)の何れかに記載するスズの分離回収方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分離回収方法は、スズ含有物の硝酸溶解に過酸化水素などの酸化剤を導入するる方法であり、酸化剤の存在下で硝酸溶解する場合、硝酸濃度を高めてもスズの溶解を抑制することができ、共存金属とスズの分離性を高めることができる。また、硝酸濃度を高めることができるので共存金属の溶解を促進させ、高い収率で共存金属とスズを回収することができる。また、硝酸溶解後に過酸化水素などの酸化剤を導入することによってスズを選択的に沈澱分離することができる。
【0011】
本発明の分離回収方法は、具体的には、例えば、酸化剤として過酸化水素を用い、スズ含有物乾燥重量55gに対する35%濃度過酸化水素水の添加量が10〜35gに相当する過酸化水素の存在下でスズ含有物を硝酸浸出し、また、例えば、スズ含有物乾燥重量55gに対する70%濃度硝酸の添加量が40g以上に相当する硝酸濃度でスズ含有物を硝酸浸出することによって、共存金属の回収率80%以上、スズの回収率を90%以上に高めることができる。
【0012】
本発明の分離回収方法は、上記硝酸溶解工程のスズと共存金属の分離性が良いので、硝酸浸出後にスズの沈澱化工程を必要とせず、硝酸溶解液を固液分離することによって液分に含まれる共存金属と固形分に含まれるスズとを容易に分離することができ、共存金属とスズを高い収率で容易に回収することができる。
【0013】
具体的には、硝酸浸出した後に固液分離して得た共存金属溶解液を中和して共存金属の水酸化物を沈澱させ、該水酸化物を塩酸溶解し、該溶解液から共存金属を回収し、また、固液分離して得たスズ含有残渣を硝酸洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の分離回収方法を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の分離回収方法は、スズ含有物を硝酸浸出して共存金属を溶解すると共にスズ含有残渣を分離し、該スズ含有残渣からスズを回収する方法であって、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入することを特徴とするスズの分離回収方法である。
【0015】
スズ含有物としては、ITOターゲット材スクラップ、非鉄金属製錬等で得られるIn-Sn滓、InおよびSnを含有するソルダーペースト屑、銅合金リードフレームのスズメッキの際に発生するメッキスラッジなどのように銅およびスズを含有するCu−Sn滓などを用いることができる。なお、本発明において、スズと共に含まれるインジウムや銅などを共存金属と云う。
【0016】
In-Sn含有物を硝酸浸出すると、インジウムは硝酸に溶解する一方、スズは硝酸と反応してメタスズ酸(H2SnO3)を生成して固形分になるが、硝酸濃度によってインジウムとスズの溶解量が大幅に変動し、硝酸濃度が高くなるとスズが次第に溶解し、液中のスズ濃度が高くなる。
【0017】
In-Sn水酸化物滓(In含有量17%、Sn含有量17%)を硝酸溶解したときの硝酸濃度とインジウム溶解率およびスズ残留率の変化を図1に示す。なお、インジウム溶解率は溶解したインジウム量/元滓中のインジウム量×100であり、スズ残留率は固形分に残留するスズ量/元滓中のスズ量×100である。
【0018】
図1は、In-Sn水酸化物滓(In含有量17%、Sn含有量17%)の硝酸溶解において、酸化剤を添加しない場合、水100gに対する70%濃度硝酸の添加量に対応したインジウム溶解率およびスズ残留率の変化を示したものである。図示するように、上記硝酸添加量20g以下の範囲ではスズ残留量が約80%以上であるが、インジウム溶解率は約55%以下であり、十分にインジウムを溶解することができない。
【0019】
一方、インジウムの溶解を促進するために硝酸濃度を高めるとスズの溶解するようになる。具体的には、上記硝酸添加量が70gを上回ると、インジウムの溶解率は約95%以上になるが、スズ残留量が約50%以下に低下し、液中のスズ濃度が高くなり、硝酸溶解時のインジウムとスズの分離性が大幅に低下する。
【0020】
そこで、本発明の分離回収方法は、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入することによって、スズと共存元素との分離性を高める。なお、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入するとは、酸化剤の存在下でスズ含有物を硝酸溶解すること、およびスズ含有物の硝酸溶解液に酸化剤を導入してスズを選択的に沈澱化することを含む。過酸化水素などの酸化剤の存在下でスズ含有物を硝酸溶解することにより、硝酸濃度を高めてインジウムなどの共存金属の溶解を促進すると共にスズの溶解を抑制して共存金属とスズの分離性を高めることができる。また、スズ含有物の硝酸溶解液に過酸化水素などの酸化剤を導入することによって、インジウム等の共存金属を沈澱させずにスズを選択的に沈澱させて分離することができる。
【0021】
酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸、または過マンガン酸塩などを用いることができる。不純物が少なくものとしては過酸化水素が好ましい。例えば、インジウム−スズ含有物(In:17wt%、Sn:17wt%)乾燥重量55gに対して、過酸化水素は35%濃度過酸化水素水の添加量が10〜35gに相当する過酸化水素量が適当であり、硝酸濃度は70%濃度硝酸の添加量が40g以上に相当する硝酸濃度が適当であり、60g以上が好ましい。なお、過酸化水素量および硝酸量は上記使用量に限らず、スズ含有物の含有品位に応じて定められる。
【0022】
過酸化水素の存在下でIn-Sn水酸化物滓を硝酸溶解したときの硝酸濃度に対するインジウム溶解率およびスズ残留率の変化を図2に示す。図2の例において、硝酸濃度はIn-Sn水酸化物滓湿潤重量100g(乾燥重量55g)に対する70%濃度硝酸の添加量、過酸化水素量は上記In-Sn水酸化物滓湿潤重量に対する35%濃度過酸化水素水の添加量が10〜35gに相当する量である。
【0023】
図2に示すように、硝酸添加量が40gから120gに増加しても、スズ残留率は殆ど変化せず、スズの溶解が抑制されている。一方、硝酸添加量が40g以上になるとインジウムの溶解率は急激に高くなり、60g以上になるとインジウム溶解率は概ね80%以上になる。
【0024】
浸出初期はpHが低いほうが反応が速いので硝酸濃度を高くし、反応が進行した段階で水を添加してpHを調整すると良い。また、過酸化水素などの添加時期は、硝酸と同時に入れても良いが、溶解反応を十分に進行させるには硝酸反応の終了段階で徐々に過酸化水素を添加するのが良い。
【0025】
本発明の分離回収方法は、上記硝酸溶解工程から共存金属および金属スズの回収工程に至る処理工程を含むことができる。この分離回収方法を図3に示す。図示する方法は、硝酸溶解工程の後に、固液分離工程、濾液の中和加水分解による共存金属の沈澱化工程、該共存金属沈殿物の固液分離工程、回収した共存金属沈殿物を塩酸溶解する工程、共存金属の塩酸溶解液から共存金属を回収する工程が設けられている。本発明の分離回収方法の一例を図3の処理工程図に示す。
【0026】
本発明の分離回収方法は硝酸溶解工程での共存金属とスズの分離性が良いので、上記硝酸溶解工程で得た硝酸溶解液を固液分離することによって共存金属溶解液とスズ含有残渣とに容易に分離すことができる。なお、上記硝酸溶解は45℃以上、好ましくは60℃〜90℃の加熱下で行うと良い。
【0027】
硝酸溶解液の固液分離で得た共存金属溶解液、例えばインジウム溶解液に水酸化アンモニウムや水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和加水分解し、共存金属の水酸化物を沈澱させる。この水酸化物沈澱を固液分離して回収し、塩酸で溶解する。この塩酸溶解液から共存金属を回収する。回収方法としてはセメンテーションおよび電解精製などを利用することができる。具体的には、例えば、In−Sn含有物の分離溶解では、In塩酸溶解液に金属インジウム板を投入して金属スズを析出させ、これを除去した後、亜鉛板を投入して粗金属インジウムを析出させる(セメンテーション)。この粗金属インジウムをアノードに鋳造して電極として用い、電解精製して高純度の金属インジウムを得ることができる。
【0028】
一方、固液分離工程で得たスズ含有残渣は硝酸洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収することができる。スズ含有残渣の洗浄後液は上記硝酸溶解工程に返送して再利用すると良い。なお、スズ含有残渣を再び硝酸溶解する二段浸出を行ってもよい。二段目の硝酸溶解の硝酸濃度は一段目の硝酸濃度と同様に制御すれば良い。二段浸出後に固液分離して得た濾液は一段目の硝酸溶解工程に返送して再利用し、一方、スズ含有残渣はスズ製錬工程に送って金属スズを回収する。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例を以下に示す。
〔実施例1〕
In-Sn水酸化物滓(In含有量17wt%、Sn含有量17wt%)を硝酸溶解した。硝酸浸出液は水10リットルに70%濃度硝酸を900g加えたものを用い、この硝酸浸出液に上記In-Sn水酸化物滓湿潤重量1000g(乾燥重量550g)を加え、45℃の加熱下で2時間攪拌した後に、35%濃度過酸化水素を250g添加して1時間攪拌した。その後、濾過して濾滓(スズ含有残渣)を得た。一方、濾液全量にアンモニア水を加えて中和加水分解し、固液分離して中和滓(In水酸化物)を得た。これらの固形分量およびIn含有量、Sn含有量、In回収率およびSn回収率を表1に示す。
【0030】
〔実施例2〜3〕
水10リットルに対する70%濃度硝酸の添加量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の過酸化水素存在下で硝酸溶解を行い、濾滓(スズ含有残渣)および中和滓(In水酸化物)を得た。この結果を表1に示した。
【0031】
〔実施例4〕
過酸化水素の添加量を150gとした以外は実施例1と同様にして硝酸溶解を行い、濾滓(スズ含有残渣)および中和滓(In水酸化物)を得た。この結果を表1に示した。
【0032】
〔実施例5〕
In-Sn含有ソルダーペスト屑(In含有量6wt%、Sn含有量3.5wt%)を用い、70%濃度硝酸の添加量を350gとし、過酸化水素の添加量を70gとした以外は実施例1と同様にして硝酸溶解を行い、濾滓(スズ含有残渣)および中和滓(In水酸化物)を得た。この結果を表1に示した。
【0033】
表1に示すように、本発明の方法によれば、硝酸溶解工程において、原料に含まれるインジウムおよびスズを何れも高い収率で分離回収することができる。
【0034】
【表1】

【0035】
〔実施例6〕
銅合金リードフレームのスズメッキの際に発生するメッキスラッジ(Cu23wt%、Sn20wt%)1000g(乾燥重量)を硝酸1200gと水10リットルを加え、50℃以上に加熱し、4時間攪拌し、浸出後半で35%濃度の過酸化水素水を300g加えて1時間攪拌し濾過し、スズ含有物を回収した。この結果を表2に示した。
【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】硝酸浸出液の硝酸量とインジウム溶解率およびスズ残留率の変化を示すグラフ(過酸化水素無添加)。
【図2】硝酸添加量に対応したインジウム溶解率およびスズ残留率の変化を示すグラフ(過酸化水素添加)。
【図3】本発明の分離回収方法の一例を示す処理工程図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ含有物を硝酸浸出して共存金属を溶解すると共にスズ含有残渣を分離し、該スズ含有残渣からスズを回収する方法であって、スズ含有物の硝酸溶解に酸化剤を導入することを特徴とするスズの分離回収方法。
【請求項2】
酸化剤として過酸化水素を用い、スズ含有物乾燥重量55gに対する35%濃度過酸化水素水の添加量が10〜35gに相当する過酸化水素の存在下でスズ含有物を硝酸浸出する請求項1に記載するスズの分離回収方法。
【請求項3】
酸化剤の存在下で、スズ含有物乾燥重量55gに対する70%濃度硝酸の添加量が40g以上に相当する硝酸濃度でスズ含有物を硝酸浸出する請求項1または請求項2に記載するスズの分離回収方法。
【請求項4】
酸化剤の存在下でスズ含有物を硝酸浸出し、固液分離して得たスズ含有残渣を硝酸洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収する請求項1〜請求項3の何れかに記載するスズの分離回収方法。
【請求項5】
酸化剤の存在下でスズ含有物を硝酸浸出し、固液分離して得た共存金属溶解液を中和して金属水酸化物を沈澱させ、該金属水酸化物を塩酸溶解し、該溶解液から共存金属を回収する請求項1〜請求項3の何れかに記載するスズの分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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