説明

スタイラビリティが改善されたアクリル系合成繊維

本発明は、スタイラビリティ、耐熱性の優れたアクリル系合成繊維を提供することを課題とし、繊維表面に節状の凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mm、繊維の曲げ剛性値が7.0×10−7〜10.0×10−7N・m/m、捩れ剛性値が5.0×10−9〜10.0×10−9N・mのアクリル系合成繊維とすること、更にはアクリロニトリルの含有量60mol%以上、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量0.15〜0.50重量%、比粘度0.20〜0.50のアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維とすることにより前記課題が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、および人形用ヘアー等に用いられる人工毛髪用繊維に関し、スタイラビリティ、耐熱性に優れた毛髪用繊維に関する。
【背景技術】
一般に人工毛髪用繊維としてアクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、ポリアミド繊維またはポリエステル繊維など多数の繊維が市販されている。しかしながら、これらの繊維には、耐熱性、カーリング性、触感等の人工毛髪用繊維として必要な特性のすべてを同時に備えるものがないため、その素材によって得意なかつらのスタイル分野を有している。たとえば、従来の繊維は、カーリースタイルに適した合成繊維あるいは、ストレートスタイルに適した合成繊維等にそれぞれ分類されており、巾広いスタイラビリティ(かつらにしたとき、種々のスタイルを作ることができる繊維機能)を有する合成繊維は少なく、その開発が望まれている。このため、スタイラビリティ改善を目的に、たとえば特開昭55−158322号公報、特開昭56−63006号公報、特開昭58−4809号公報には、繊維表面に特有の凹凸を出すことで目的を達成することが開示されている。確かに繊維表面に特有の凹凸を出すことはスタイラビリティ改善の有効な方法ではあるが、単に表面凹凸を出すだけでは、繊維の剛性が弱いためにストレートスタイルの商品性は充分に満足できていない。また、耐熱性が低いが故にヘアードライヤー等の熱器具が使用できず、各個人の好みに合わせたヘアースタイルが容易に作成できず、ユーザーからのこれら改善要求が望まれている。
【発明の開示】
本発明の目的は、前記問題を解決し繊維表面に節状の凹凸を有し、かつ特定の範囲を有する曲げ剛性、捩れ剛性値を有するアクリル系合成繊維により、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、および人形用ヘアー等に用いられる人工毛髪用繊維束に関し、さらにスタイラビリティ、耐熱性に優れた人工毛髪用繊維を提供することに関する。
本発明者らは、アクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維の繊維表面に節状の凹凸を有し、曲げ剛性、および捩れ剛性をある特定の範囲にすることで上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、繊維表面に節状の凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ繊維の曲げ剛性値が7.0×10−7〜10.0×10−7N・m/mであり、捩れ剛性値が5.0×10−9〜10.0×10−9N・mであるアクリル系合成繊維に関する。
アクリル系共重合体中アクリロニトリルの含有量が60mol%以上、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量が0.15〜0.50重量%であり、比粘度が0.20〜0.50であるアクリル系共重合体からなるアクリル系合成繊維が好ましい。
前記アクリル系合成繊維の10%収縮開始温度が150℃以上であることが好ましい。
人工毛髪が前記アクリル系合成繊維からなることが好ましい。
つぎに本発明を詳細に説明する。本発明は、繊維表面に節状の凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ繊維の曲げ剛性値が7.0×10−7〜10.0×10−7N・m/mであり、捩れ剛性値が5.0×10−9〜10.0×10−9N・mであるアクリル系合成繊維に関する。
本発明でいうアクリル系合成繊維とは、図1に示すように、繊維表面に節状の凹凸を有し、凹凸差(繊維表面の凹部と凸部の差)が5.0〜15.0μmであり、好ましくは6.0〜12.0μmである。また、凹凸間隔(繊維表面の凸部と凸部の間隔)が0.05〜0.5mmであり、好ましくは0.06〜0.40mmである。前記凹凸差が5.0μm未満であると、目的のスタイラビリティが得られず、15.0μmを超えると、繊維表面のガサツキがひどくなり、かつらの加工工程での糸切れ等のトラブルが発生する。また、前記凹凸間隔が0.05mm未満であると、繊維表面のガサツキがひどくなり、かつらの加工工程での糸切れ等のトラブルが発生し、0.5mmを超えると、目的のスタイラビリティが得られない。
本発明のアクリル系合成繊維の曲げ剛性値は7.0×10−7〜10.0×10N・m/mであり、好ましくは7.0×10−7〜9.0×10−7N・m/mであり、さらに好ましくは7.5×10−7〜8.5×10−7N・m/mである。曲げ剛性値が7.0×10−7N・m/m未満では繊維の曲げ剛性が弱くなりスタイラビリティ性に欠け、10.0×10−7N・m/mを超えると繊維の触感が硬くなり人工毛髪用には適さなくなる。
また、本発明のアクリル系合成繊維の捩れ剛性値は5.0×10−9〜10.0×10−9N・m以下であり、好ましくは5.0×10−9〜9.6×10−9N・mであり、さらに好ましくは5.0×10−9〜9.3×10−9N・mである。捩れ剛性値が5.0×10−9N・m未満では繊維の捩れ剛性が弱くなリスタイラビリティ性に欠け、10.0×10−9N・mを超えると繊維の触感が硬くなり人工毛髪用には適さなくなる。
本発明でいう繊維の曲げ剛性および捩れ剛性は後述するように曲げ剛性測定機(KES−FB2−S、カトーテック社製)を使用してアクリル系合成繊維を曲げたときの各曲率での反発力により曲げモーメントを測定するものである。また、捩れ剛性は捩れ剛性測定機(KES−YN1、カトーテック社製)を使用してアクリル系合成繊維を回転させたときの反発力により捩れモーメントを測定するものである。
本発明のアクリル系合成繊維を構成するアクリル系共重合体中のアクリロニトリルの含有量は60mol%以上が好ましく、さらに65mol%以上が好ましい。上限は90mol%以下が好ましく、さらに85mol%以下が好ましい。アクリロニトリルの含有量が60mol%未満であると、アクリル系合成繊維が耐熱性に欠ける傾向がある。また、アクリロニトリルの含有量が90mol%を超えると、アクリル系合成繊維の特徴である風合いや難燃性が損なわれる傾向がある。本発明で要求される耐熱性とはアクリル系合成繊維がヘアドライヤーの熱に耐えることのできることを意味し、その点において、アクリル系合成繊維の10%収縮開始温度が、150℃以上であることが好ましく、さらに155℃以上であることがより好ましい。10%収縮開始温度が150℃未満であると繊維の収縮による縮れおよび融着が発生し商品価値が低くなる傾向がある。また、10%収縮開始温度の上限値は180℃が好ましい。180℃を超えると耐熱性は向上するが、カールセットがつきにくくなる傾向がある。
ここで、10%収縮開始温度とは次の方法で求めた温度のことをいう。まず、繊維束を任意の温度条件下、無緊張で30分熱処理し、室温迄冷却した後の試料長LD(mm)を測定し、熱処理前の試料長L(mm)に対する乾熱収縮率を次式により求める。つぎに、各温度と乾熱収縮率の関係から、外挿して、10%収縮開始温度(T10)を求める。
乾熱収縮率(%)=
〔L(20.0cm)−LD〕/L(20.0cm)〕×100
また、本発明のアクリル系合成繊維を構成するアクリル系共重合体は、その共重合成分としてスルホン酸基含有ビニルモノマーを使用するが、その使用割合は、アクリル系共重合体中のスルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量が0.15〜0.50重量%となるようにするのが好ましく、さらに0.20〜0.40重量%となるようにするのがより好ましい。スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量が0.15重量%未満では、後述するように繊維表面に凹凸を付与するのに必要な繊維の空孔の発現が困難でありかつ染色性が低下する傾向があり、0.50重量%を超えるもさらに本発明の効果の向上は望めず、コスト的に不利になる。
また、アクリル系共重合体の比粘度は、繊維の曲げ剛性および捩れ剛性を支配する因子である。比粘度は0.20〜0.50が好ましく、さらに0.22〜0.45が好ましく、さらに0.25〜0.40がより好ましい。比粘度が0.20未満であると曲げ剛性、および捩れ剛性が低くなり目的とするスタイラビリティ性が得られなくなる傾向があり、0.50を超えると、アクリル系共重合体を溶剤に溶解して得られた紡糸原液の粘度が高くなりすぎて生産上不利になる傾向がある。
ここで、比粘度の測定は、アクリル系共重合体2g/ジメチルホルムアミド1Lの重合体溶液を用い、オストワルド型粘度計にて30℃で測定する。
つぎに本発明のアクリル系合成繊維の一般的な製造法について説明する。
アクリル系合成繊維を製造するために使用するアクリル系共重合体の製造方法および装置等は、公知の一般的な重合方法、後処理方法を用いることができる。
アクリロニトリルの共重合成分としてはハロゲン含有ビニル単量体、モノオレフィン系単量体等があげられ、アクリル系共重合体中アクリロニトリルの含有量が60mol%以上であれば、公知のビニル単量体を使用することができる。なかでもハロゲン含有ビニル単量体は、アクリル系共重合体を繊維にした際に難燃性を付与するための成分として有効である。このようなハロゲン含有ビニル単量体はアクリロニトリルと共重合可能であるものならとくに限定はない。その具体例としては塩化ビニリデン、塩化ビニル、臭化ビニリデン、臭化ビニル等があげられるが、これらに限定されるものではない。これらのなかでも、入手のしやすさの点で塩化ビニリデン、塩化ビニルが好ましい。また、必要に応じてこれらと共重合可能なその他のモノオレフィン系単量体を本発明に差し支えない程度で使用することができる。その他のモノオレフィン性単量体としてはたとえばアクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのエステル、アクリルアミド、酢酸ビニル等があげられるがこれらに限定されるものではない。これらのなかでも、良好な反応性、染色性向上の点でアクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましい。
また、スルホン酸基含有ビニル系モノマーとしては、たとえば、パラスチレンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、イソプレンスルホン酸ナトリウム(2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸ナトリウム)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(アクリルアミド−t−ブチル−スルホン酸ナトリウム)、パラスチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、イソプレンスルホン酸(2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アクリルアミド−t−ブチル−スルホン酸)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、良好な反応性、入手のし易さの点から、パラスチレンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウムまたはイソプレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アクリルアミド−t−ブチル−スルホン酸)が好ましい。
アクリル系合成繊維表面に節状の凹凸を発現させる好ましい方法としては以下のような方法があげられる。たとえば、アセトンに可溶なアクリル系共重合体を用いた場合は、アクリロニトリルの含有量が60mol%以上のアクリル系共重合体を、溶剤であるアセトンに溶解し、樹脂濃度が20〜35重量%、好ましくは25〜32重量%の紡糸原液とする。前記紡糸原液の粘度は、TOKIMEC社製のB型粘度計で測定した粘度(12rpm、30秒間)の値が、湿式紡糸の場合は40〜50℃で40ポイズ以上となるのが好ましく、さらには50〜70ポイズが好ましい。前記紡糸原液を用いて湿式紡糸法で製造する。前記紡糸原液には紫外線吸収剤等の他の添加剤は本発明に差し支えのない範囲で使用することができる。
ここで使用するノズルの孔形状は丸型、亜鈴型、*型の形状があげられるがこれらに限定されるものではない。また、ノズルドラフト(ノズルドラフトとは、ノズル孔より吐出される紡糸原液の速度と引き取り速度の比をいう)はアクリル系合成繊維の表面凹凸差および凹凸間隔を支配する因子である。たとえば前記*型異型ノズルの紡糸ノズルを用いた際のノズルドラフトは少なくとも0.7以上とすることが好ましく、さらには0.80〜1.3の範囲が好ましい。ノズルドラフトが0.7未満であると、アクリル系合成繊維の表面凹凸差が小さくなるだけでなく、凹凸間隔も長くなり不利となる傾向がある。
凝固浴はアセトンの水溶液であり、アセトン濃度が30〜50重量%で浴温度が15〜30℃に調整することが好ましく、さらに好ましくはアセトン濃度35〜40重量%で浴温度20〜25℃に調整することが好ましい。この条件で紡出することでアクリル系合成繊維の断面に空孔を付与することができる。前記凝固浴条件の範囲を外れるとアクリル系合成繊維の断面に空孔を付与することができず、乾燥により空孔を潰して得られる表面凹凸を付与することができなくなる傾向がある。得られた糸条は水洗され、温度100℃以上、湿球温度60℃以上の湿熱風で乾燥、失透回復処理を行なう。そののち延伸処理を施した繊維に熱処理を施してアクリル系合成繊維を得る。このとき緩和率を5〜30%で処理することにより、熱収縮率を低下させることができる。前記緩和率の範囲を外れると人工毛髪用繊維として、品質が低下する傾向があり好ましくない。なお、本発明のアクリル系合成繊維の繊度は25〜75デシテックスが好ましく、さらに好ましくは40〜60デシテックスである。アクリル系合成繊維の繊度が25デシテックスより小さいとカールの保持力が弱くなる傾向があり、75デシテックスを超えると剛直性が増し、人工毛髪としてのスタイラビリティが損なわれる傾向がある。アクリル系合成繊維の断面形状としては馬蹄型、亜鈴型、円形等が好ましいが、これらに限定されるものではない。
アクリロニトリルの含有量が高いアクリル系共重合体を用いる場合は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等の溶剤に溶解し、紡糸原液濃度20〜35重量%とし、丸型または*型異型ノズルを用いて、ノズルドラフト0.5〜1.2で前記紡糸原液をDMF、DMAc等の水溶液でDMF、DMAc等の濃度が30〜90重量%で浴温度15〜35℃に調整した凝固浴に紡出し、そののち公知の方法で処理する等の方法により目的の繊維を得ることができる。ここで、アクリロニトリルの含有量が高いアクリル系共重合体とは、アクリル系共重合体中のアクリロニトリルの含有量が70〜90mol%のアクリル系共重合体をいう。
こうして得たアクリル系合成繊維を公知の方法でかつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、および人形用ヘアー等の頭飾製品に使用する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1におけるアクリル系合成繊維の表面凹凸を示す写真である。
第2図は、比較例1におけるアクリル系合成繊維の表面凹凸を示す写真である。
第3図は、比較例3におけるアクリル系合成繊維の表面を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により更に詳しく説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、実施例に先立ち、測定法等の定義について説明する。
(スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量の測定方法)
スルホン酸基含有ビニルモノマー由来の硫黄含有量の測定は以下の方法で実施した。試料燃焼装置(QF−02、株式会社三菱化学社製)を用い、アクリル系共重合体の樹脂0.1gをアルゴン/酸素=100/100の雰囲気、加熱温度900℃、加熱時間35分の条件で燃焼させて得られたガスを0.3重量%の過酸化水素水溶液中に吸収させ硫酸イオンとし、イオンクロマトグラフィー(IC−7000、株式会社横河アナリティカルシステムズ社製)を使い、硫酸イオンの含有量から硫黄含有量を計算した。つぎに、重合開始剤由来の硫黄含有量を差し引いて、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量を計算した。なお、重合開始剤由来の硫黄含有量はスルホン酸基含有ビニルモノマーを全く含まないアクリル系共重合体を用いて、前記の方法で計算した。
(樹脂組成の測定方法)
樹脂組成は、CHNコーダ(株式会社ヤナコ社製)を樹脂中の窒素含有量を測定し、この窒素分をアクリロニトリル由来の窒素分とし、アクリロニトリル含有量を計算した。
(比粘度の測定方法)
比粘度はアクリル系共重合体2g/ジメチルホルムアミド1Lの重合体溶液をオストワルド型粘度計を使用し30℃で測定した。
(紡糸原液の粘度測定方法)
B型粘度計(TOKIMEC社製)を用い、40℃の条件で粘度(12rpm、30秒間)を測定した。
(表面凹凸測定)
凹凸差および凹凸間隔は繊維を倍率100倍の光学顕微鏡で観察、計測を行なって算出した。
(曲げ剛性測定方法)
曲げ剛性は曲げ剛性測定機(KES−FB2−S、カトーテック社製)を用い、長さ1cmのアクリル系合成繊維を1mm間隔に49本並べた試料を作成し、曲げ曲率±2.5cmの条件で測定し、3回測定の平均値を曲げ剛性値(単位:N・m/m)として算出した。
(捩れ剛性測定方法)
捩れ剛性は捩れ剛性測定機(KES−YN1、カトーテック社製)を用い、長さ2cmの試料を捻り回転数±3回転、捻りスピード12°/秒の条件で捩れ剛性を測定し、10回測定の平均値の捩れ剛性値(単位:N・m)として算出した。
(乾熱収縮率測定方法)
乾熱収縮率とは、繊維束を任意の温度条件下、無緊張で30分熱処理し、室温迄冷却した後の試料長LD(mm)を測定し、熱処理前の試料長L(mm)に対する収縮率を次式により求めた値である。また、各温度と乾熱収縮率の関係から、10%収縮開始温度を外挿して算出し、T10と定めた。
乾熱収縮率(%)=
〔L(20.0cm)−LD〕/L(20.0cm)〕×100
(スタイラビリティの評価方法)
スタイラビリティの評価方法はかつら等の美容評価に従事する一般的技術者5名により、Pageboyスタイルを作成し、カールの保持性、カールの安定性、嵩高性、面の揃いについてそれぞれ5段階評価を行ない、すべての項目で4点以上であれば合格とした。
評価基準
5:非常によい
4:よい
3:普通
2:わるい
1:かなりわるい
(ブロー性の評価方法)
ブロー性(耐熱性)の評価方法は、スタイラビリティの評価方法と同様にかつら等の美容評価に従事する一般的技術者5名により市販のヘアドライヤー(120〜140℃)を使用して、毛先の縮れ、融着の観点で評価を行ない、これらを総合して以下に示す5段階評価とし、4点以上を合格とした。
5:毛の損傷は全く認められない
4:毛の損傷は殆ど認められない
3:毛の損傷は毛先が一部縮れている
2:毛の損傷は毛先の縮れおよび融着が認められる
1:毛の損傷は殆どの毛先が縮れおよび融着も激しい
【実施例1】
アクリロニトリル52重量%、塩化ビニル4重量%、塩化ビニリデン42.6重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1.4重量%からなるアクリル系重合体樹脂のアクリロニトリルの含有率は66mol%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量は0.22重量%、比粘度は0.26であった。前記樹脂をアセトンに溶解して紡糸原液を樹脂濃度が26.0重量%になるように調製した。紡糸原液の粘度は55ポイズであった。前記紡糸原液を*型異型断面ノズル(孔径0.3mm、孔数25個)を用いてノズルドラフト0.90の条件で、アセトン濃度36重量%で25℃の水溶液中に紡出した。
さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら1.93倍に延伸し、ついで乾燥温度125℃および湿球温度70℃で乾燥して失透回復させ、2.0倍で熱延伸した後、さらに160℃の熱処理および8%の緩和処理を行なった。単糸繊度51デシテックスのアクリル系合成繊維を得た。
このようにして得られたアクリル系合成繊維の断面形状は略円形であり、かつ表面に節状の凹凸を有し、凹凸差は7.0μm、凹凸間隔は0.25mmであった。また、曲げ剛性値は7.5×10−7N・m/m、捩れ剛性値は5.0×10−9N・mであり、10%収縮開始温度(T10)は156℃であった。前記アクリル系合成繊維を用いてPageboyスタイルを作成し評価を行なった結果を表1に示す。図1は実施例1におけるアクリル系合成繊維1の表面凹凸を示す写真である。繊維表面に節状の凹凸を有している。なお、表1中、VCは塩化ビニル、VDは塩化ビニリデンを表わす。
【実施例2】
アクリロニトリル63重量%、塩化ビニリデン35.5重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1.5重量%からなるアクリル系重合体樹脂のアクリロニトリルの含有率は76mol%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量は0.23重量%、比粘度は0.40であった。前記樹脂をジメチルアセトアミドに溶解して樹脂濃度が20.0重量%になるように紡糸原液を調製した。紡糸原液の粘度は70ポイズであった。前記紡糸原液を丸型ノズル(孔径0.3mm、孔数25個)を用いてノズルドラフト0.81の条件で、ジメチルアセトアミド濃度60重量%で25℃の水溶液中に紡出した。さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら1.93倍に延伸し、ついで乾燥温度125℃および湿球温度70℃で乾燥して失透回復させ、2.5倍で熱延伸した後、さらに160℃の熱処理および8%の緩和処理を行なった。単糸繊度51デシテックスのアクリル系合成繊維を得た。
このようにして得られたアクリル系合成繊維の断面形状は略円形であり、かつ表面に節状の凹凸を有し、凹凸差は8.0μm、凹凸間隔は0.27mmであった。また、曲げ剛性値は8.4×10−7N・m/m、捩れ剛性値は9.2×10−9N・mであり、10%収縮開始温度(T10)は165℃であった。前記アクリル系合成繊維を実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す。
比較例1
アクリロニトリル48重量%、塩化ビニル51重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1.0重量%からなるアクリル系重合体樹脂のアクリロニトリルの含有率は53mol%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量は0.16重量%、比粘度は0.18であった。前記樹脂をアセトンに溶解して樹脂濃度が29.0重量%になるように紡糸原液を調製した。紡糸原液の粘度は40ポイズであった。前記紡糸原液を*型異型ノズル(孔径0.3mm、孔数25個)を用いてノズルドラフト0.80の条件で、アセトン濃度38重量%で25℃の水溶液中に紡出した。さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら1.9倍に延伸し、ついで乾燥温度125℃および湿球温度70℃で乾燥して失透回復させ、2.0倍で熱延伸した後、さらに160℃の熱処理および8%の緩和処理を行なった。単糸繊度53デシテックスのアクリル系合成繊維を得た。
このようにして得られたアクリル系合成繊維の断面形状は略円形であり、かつ表面に節状の凹凸を有し、凹凸差は5.5μm、凹凸間隔は0.30mmであった。また、曲げ剛性値は6.5×10−7N・m/m、捩れ剛性値は4.7×10−9N・mであり、10%収縮開始温度(T10)は138℃であった。アクリル系合成繊維を実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す。図2は比較例1におけるアクリル系合成繊維2の表面凹凸を示す写真である。繊維表面に節状の凹凸を有している。
比較例2
アクリロニトリル48重量%、塩化ビニル51.5重量%、スチレンスルホン酸ソーダ0.5重量%からなるアクリル系重合体樹脂のアクリロニトリルの含有率は53mol%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量は0.078重量%、比粘度は0.17であった。前記樹脂をアセトンに溶解して樹脂濃度が28.0重量%になるように紡糸原液を調製した。紡糸原液の粘度は45ポイズであった。該紡糸原液を丸型ノズル(孔径0.3mm、孔数25個)を用いてノズルドラフト0.82の条件で、20重量%で25℃のアセトン水溶液中に紡出した。さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら1.9倍に延伸し、ついで乾燥温度125℃および湿球温度70℃で乾燥して失透回復させ、2.0倍で熱延伸した後、さらに160℃の熱処理および8%の緩和処理を行なった。単糸繊度55デシテックスのアクリル系合成繊維を得た。
このようにして得られたアクリル系合成繊維は馬蹄形であるが、表面に凹凸は認められなかった。また、曲げ剛性値は6.5×10−7N・m/m、捩れ剛性値は4.5×10−9N・mであり、10%収縮開始温度(T10)は138℃であった。アクリル系合成繊維を実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す。
比較例3
アクリロニトリル52重量%、塩化ビニル4重量%、塩化ビニリデン42.6重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1.4重量%からなるアクリル系重合体樹脂のアクリロニトリルの含有率は66mol%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄含有量は0.22重量%、比粘度は0.26であった。前記樹脂をアセトンに溶解して樹脂濃度が26.0重量%になるように紡糸原液を調製した。紡糸原液の粘度は55ポイズであった。前記紡糸原液を*型異型断面ノズル(孔径0.4mm、孔数25個)を用いてノズルドラフト1.30の条件で、アセトン濃度25重量%で25℃の水溶液中に紡出した。さらに紡出糸条を50〜60℃の水洗浴に導き、水洗しながら2.0倍に延伸し、ついで乾燥温度125℃および湿球温度70℃で乾燥して失透回復させ、2.4倍で熱延伸した後、さらに160℃の熱処理および8%の緩和処理を行なった。単糸繊度51デシテックスのアクリル系合成繊維を得た。
このようにして得られたアクリル系合成繊維の断面形状は略円形であるが、表面の節状の凹凸は認められなかった。また、曲げ剛性値は7.5×10−7N・m/m、捩れ剛性値は5.0×10−9N・mであり、10%収縮開始温度(T10)は156℃であった。アクリル系合成繊維を実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す。図3は比較例3におけるアクリル系合成繊維3の表面凹凸を示す写真である。繊維表面に節状の凹凸は認められない。
【表1】


表1から明らかなように、実施例1および2はスタイラビリティおよびブロー性(耐熱性)に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
繊維表面に節状の凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ繊維の曲げ剛性値が7.0×10−7〜10.0×10−7N・m/mであり、捩れ剛性値が5.0×10−9〜10.0×10−9N・mであるアクリル系合成繊維によりスタイラビリティ、耐熱性の優れたアクリル系合成繊維からなる人工毛髪を提供できる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に節状の凹凸を有し、凹凸差が5.0〜15.0μm、凹凸間隔が0.05〜0.5mmであり、かつ繊維の曲げ剛性値が7.0×10−7〜10.0×10−7N・m/mであり、捩れ剛性値が5.0×10−9〜10.0×10−9N・mであるアクリル系合成繊維。
【請求項2】
アクリル系共重合体中アクリロニトリルの含有量が60mol%以上、スルホン酸基含有ビニル系モノマー由来の硫黄硫黄含有量が0.15〜0.50重量%であり、比粘度が0.20〜0.50であるアクリル系共重合体からなる請求項1記載のアクリル系合成繊維。
【請求項3】
前記アクリル系合成繊維の10%収縮開始温度が150℃以上である請求項1または2記載のアクリル系合成繊維。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のアクリル系合成繊維からなる人工毛髪。

【国際公開番号】WO2004/013389
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525783(P2004−525783)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008942
【国際出願日】平成15年7月14日(2003.7.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】