説明

スタッカクレーン

【課題】非常停止した昇降台が跳躍することを防止可能な昇降装置を備えたスタッカクレーンを提供する。
【解決手段】マスト6aと、マスト6aに沿って昇降可能に支持された昇降台7と、マスト6aに一体に設けられ昇降台7を昇降させる昇降装置8とを備えるスタッカクレーン2であって、昇降装置8が、カウンターウェイト用ワイヤ16と、昇降台7を吊り下げ状態で支持する昇降用ワイヤ15と、軸線回りに正逆回転されて昇降用ワイヤ15の巻き取り、または送り出しを行なって昇降台7を昇降させるワイヤドラム12と、カウンターウェイト用ワイヤ16及び昇降用ワイヤ15を駆動自在に支持する上部シーブ11とを備えるとともに、ワイヤドラム12の正逆回転に伴って巻き取られ、または送り出され、上昇する昇降台7が非常停止した際に昇降台7を保持する跳躍防止用ワイヤ17が具備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動倉庫内で物品を搬送するスタッカクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ制御によって無人化して物品の入出庫を行なう自動倉庫には、例えば鉄骨からなり物品が格納される複数のラックが水平方向と上下方向に並設された格納庫と、物品を搬送して格納庫の各ラックに対し物品の入出庫を行なうスタッカクレーンとを備えたものがある。この種の自動倉庫に具備されるスタッカクレーンは、例えば格納庫に平行するように床や天井に延設されたレール上を走行する駆動手段を備えた走行台車と、走行台車に接続されて垂直に立設したマストと、このマストに沿って昇降する昇降台と、昇降台を昇降させる昇降装置とを備えて構成されている。また、このスタッカクレーンでは、昇降台に水平方向に伸縮自在に取り付けられたアーム(スライドフォーク)が具備され、ラックに対して平行に走行しながら昇降台がマストに沿って昇降されて、所定のラックと対向する位置に昇降台を定置させ、アームの伸縮により物品の出し入れが行なわれる。
【0003】
また、このように昇降台をマストに沿って昇降させる昇降装置には、例えば特許文献1に開示されるように、昇降台を昇降させるワイヤ(昇降用ワイヤ)と、マストの下部に設けられ、ワイヤを巻き取る巻取ドラム(ワイヤドラム)と、マストの上部に設けられ、ワイヤが架けられる従動プーリ(上部シーブ)とから構成されたものがある。このワイヤで昇降台を昇降させる昇降装置を備えたスタッカクレーンにおいては、ワイヤで吊り下げ状態で支持した昇降台を、巻取ドラムを駆動してワイヤを巻き取ったり、送り出すことにより昇降させることができ、例えばチェーンやベルトを駆動させて昇降台を昇降させるものと比較して、昇降動作時の騒音などを防止でき、かつ高速で昇降台を昇降させることができるという利点を有している。
【0004】
さらに、この特許文献1に開示されたスタッカクレーンにおいては、巻取ドラムを監視するエンコーダと、エンコーダの監視結果を比較する比較手段とを備えることにより、例えば上昇途中で昇降台を急に停止させた際のワイヤのゆるみを検出できるように構成している。
【特許文献1】特開2001−199506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のワイヤで昇降台を昇降させる昇降装置を備えたスタッカクレーンにおいては、昇降台が昇降用ワイヤのみで吊り下げ状態で支持されているため、昇降台が高速、高加速度で上昇している途中で非常停止した場合に、慣性力によって跳躍してしまうという問題があった。このように昇降台が跳躍した場合には、ワイヤがゆるみ、このゆるんだワイヤが巻取ドラムに乱れた状態で巻き取られ、ワイヤに損傷が生じたり、乱巻きされたワイヤを巻き直す必要が生じるなど不都合が生じていた。
【0006】
また、跳躍した昇降台が重力で下降し、ワイヤが再度緊張した際に大きな衝撃が生じることになるため、やはりワイヤに損傷が生じたり、昇降台に載置された物品に損傷が生じてしまうという問題もあった。
【0007】
さらに、特許文献1のように、巻取ドラムを監視するエンコーダを備えて、昇降台を急に停止させた際のワイヤのゆるみを検出できるように構成した場合においても、ワイヤのゆるみの状態を検知することができるのみで、ワイヤのゆるみを防止することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑み、非常停止した昇降台が跳躍することを防止可能な昇降装置を備えたスタッカクレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明のスタッカクレーンは、略水平方向に移動可能に立設されたマストと、該マストに沿って昇降可能に支持されて、並設する格納庫との間で物品の入出庫を行なう昇降台と、該昇降台に接続されたカウンターウェイトと、前記マストに一体に設けられ前記昇降台を昇降させる昇降装置とを備えるスタッカクレーンであって、前記昇降装置が、一端が前記昇降台に接続され、他端がカウンターウェイトに接続されたカウンターウェイト用ワイヤと、一端が前記昇降台に接続されて該昇降台を吊り下げ状態で支持する昇降用ワイヤと、軸線回りに正逆回転されて前記昇降用ワイヤの巻き取り、または送り出しを行なって前記昇降台を昇降させるワイヤドラムと、前記マストの上端側に設けられ、前記カウンターウェイト用ワイヤ及び前記昇降用ワイヤを駆動自在に支持する上部シーブとを備えるとともに、前記ワイヤドラムから送り出された一端が、前記ワイヤドラムよりも下方に設けた下部シーブを介して前記昇降台に下方側から接続される跳躍防止用ワイヤが具備されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のスタッカクレーンは、略水平方向に移動可能に立設されたマストと、該マストに沿って昇降可能に支持されて、並設する格納庫との間で物品の入出庫を行なう昇降台と、該昇降台に接続されたカウンターウェイトと、前記マストに一体に設けられ前記昇降台を昇降させる昇降装置とを備えるスタッカクレーンであって、前記昇降装置が、一端が前記昇降台に接続され、他端がカウンターウェイトに接続されたカウンターウェイト用ワイヤと、一端が前記昇降台に接続されて該昇降台を吊り下げ状態で支持する昇降用ワイヤと、軸線回りに正逆回転されて前記昇降用ワイヤの巻き取り、または送り出しを行なって前記昇降台を昇降させるワイヤドラムと、前記マストの上端側に設けられ、前記カウンターウェイト用ワイヤ及び前記昇降用ワイヤを駆動自在に支持する上部シーブとを備えるとともに、前記ワイヤドラムから送り出された一端が、前記マストの上端側に設けられた前記上部シーブを介して前記カウンターウェイトに上方側から接続される跳躍防止用ワイヤが具備されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のスタッカクレーンにおいて、前記跳躍防止用ワイヤは、前記一端がバネ部材を介して前記昇降台もしくは前記カウンターウェイトに接続されていることが望ましい。
【0013】
さらに、本発明のスタッカクレーンにおいては、前記マストが内部に中空部を備えて形成されており、前記昇降用ワイヤ及び前記跳躍防止用ワイヤが前記中空部に挿通されて前記昇降台または前記カウンターウェイトに接続されていることがより望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスタッカクレーンによれば、昇降用ワイヤとともに、ワイヤドラムの正逆回転に伴って巻き取られ、または送り出される跳躍防止用ワイヤが、ワイヤドラムよりも下方に設けた下部シーブを介して昇降台に下方側から接続されていることによって、上昇する昇降台が非常停止した際にこの昇降台を保持することができ、慣性力によって昇降台が跳躍することを防止できる。これにより、昇降用ワイヤがゆるんでワイヤドラムに乱巻きされることを防止でき、また、搬送する物品に大きな衝撃が作用することを防止できる。よって、昇降台を高速や高加速度で昇降させても、非常停止時に昇降用ワイヤや物品に損傷が生じることを防止でき、物品の入出庫作業の効率化を図ることが可能になる。
【0015】
また、本発明のスタッカクレーンにおいては、跳躍防止用ワイヤの一端が、マストの上端側に設けられた上部シーブを介してカウンターウェイトに上方側から接続されていることによって、昇降台の上昇に従って下降するカウンターウェイトを非常停止とともに保持することができる。これにより、非常停止とともに、昇降台へのカウンターウェイトの荷重付加を切り離して、昇降台にその自重に起因した下降側に向く力を作用させることができ、昇降台の跳躍を防止できる。
【0016】
さらに、本発明のスタッカクレーンにおいては、跳躍防止用ワイヤの一端がバネ部材を介して昇降台またはカウンターウェイトに接続されていることによって、跳躍防止用ワイヤの緊張状態を維持するための遊びを設けることができ、例えば昇降台を高速で下降させた場合においても、跳躍防止用ワイヤを好適に緊張させた状態で昇降台やカウンターウェイトに接続することができる。これにより、跳躍防止用ワイヤがゆるむことを確実に防止して、跳躍防止用ワイヤがワイヤドラムに巻き取られる際に乱巻きされることを防止できる。また、バネ部材を設けて跳躍防止用ワイヤを常時好適に緊張させた状態で昇降台やカウンターウェイトに接続できることによって、非常停止すると同時に、昇降台もしくはカウンターウェイトを保持して、昇降台の跳躍を確実に防止できる。
【0017】
また、本発明のスタッカクレーンにおいては、昇降用ワイヤ及び跳躍防止用ワイヤが、マストの中空部に挿通されていることによって、万一ワイヤから塵埃が飛散するようなことがあっても、飛散した塵埃をマストの内部に留めることができ、例えば搬送する物品が微細なきずや塵芥が付くことを嫌う物品等のクリーン環境下での取り扱いを要する物品であっても、物品の入出庫を行なう環境をよりクリーンな状態に維持して、塵埃が物品に付着することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1から図4を参照し、本発明の第1実施形態に係るスタッカクレーンについて説明する。本実施形態は、例えば自動倉庫内で物品を搬送するスタッカクレーンに関するものである。
【0019】
本実施形態の自動倉庫Aは、図1に示すように、例えば微細なきずや塵芥が付くことを嫌う物品Wを格納するものであり、例えば鉄骨からなり物品Wが格納される複数のラック1aが水平方向(矢印X方向)と上下方向(矢印Z方向)に並設されて形成される格納庫1と、格納庫1の各ラック1aに対し物品Wの入出庫を行なうスタッカクレーン2とを備えて構成されている。
【0020】
本実施形態のスタッカクレーン2は、図1及び図2に示すように、床面に設けられるとともに格納庫1に沿って平行に延設された2条の床ガイドレール3と、天井に設けられ格納庫1に沿って延設された1条の天井ガイドレール4と、床ガイドレール3に、この床ガイドレール3に沿って走行可能に設けられた走行台車5と、走行台車5に下端側が繋がり垂直方向に立設された平面視で略矩形枠状を呈するガイドフレーム6と、ガイドフレーム6の内側に昇降可能に支持されて設けられた昇降台7と、ガイドフレーム6に一体に取り付けられ昇降台7を昇降させる昇降装置8とが主な構成要素とされている。
【0021】
走行台車5は、略平盤状の台車本体5aと、台車本体5aの両端側にそれぞれ1組ずつ設けられた走行駆動部5bとから構成されている。走行駆動部5bは、それぞれ2つの車輪5cと各車輪5cに繋がる例えばサーボモータなどの駆動手段5dとを備えて形成されている。そして、各走行台車5は、2条の床ガイドレール3のそれぞれに走行駆動部5bの1つずつの車輪5cが装着されて、床ガイドレール3上を走行可能に設置されている。
【0022】
ガイドフレーム6は、走行台車5の台車本体5aに下端側が繋がり、それぞれ垂直方向に立設した一対のマスト6aと、一対のマスト6aの各上端を繋ぐように水平方向に延設された上フレーム部材6bとで構成されている。本実施形態において、ガイドフレーム6は、一対のマスト6aが上フレーム部材6bよりも大きな長さで形成されて略長方形枠状に形成されている。また、一対のマスト6aは、例えば断面略矩形状に形成されるとともに、その内部に下端から上端まで延びる中空部6cが形成されて角筒状に形成されている。さらに、一対のマスト6aには、それぞれ下端側の水平方向外側を向く側面に、中空部6cが開口する第1開口部6dが設けられ、互いに対向して内側を向く側面の上端側及び下端側に、それぞれ中空部6cが開口する第2開口部6e及び第3開口部6fが設けられている。
【0023】
また、このように形成されたガイドフレーム6には、図2に示すように、上フレーム部材6bに、ガイドフレーム6の上端側を天井ガイドレール4に沿って駆動させるための一対の上部駆動部9が設けられている。一対の上部駆動部9は、それぞれ、天井ガイドレール4を挟むように設けられた一対のガイドローラ9aと、ガイドローラ9aを回転駆動させる例えばサーボモータなどの駆動手段9bとを備えて構成されている。
【0024】
昇降台7は、図2及び図3に示すように、水平方向に平行に延設された断面略矩形状の一対の横部材7aと、各横部材7aの両端部7b、7cにそれぞれ接続され、垂直方向上向きに延設された断面略矩形状の4本の縦部材7dと、一対の横部材7aの各一端部7bに接続された縦部材7d同士、及び一対の横部材7aの各他端部7cに接続された縦部材7d同士を、縦部材7dの上端側と下端側とでそれぞれ連結する断面略矩形状の4本の連結部材7e、7fとから構成されている。また、4本の連結部材7e、7fには、それぞれ断面矩形状の支持部材7g、7hが、一対の横部材7aの延設方向外側に向けて突出するように固着されている。さらに、一対の横部材7aの延設方向略中央には、各上面に一対の横部材7aを連接するように接続され、図示せぬスライド機構や駆動手段により一対の横部材7aの延設方向に直交する方向に向けて伸縮する一対のアーム(スライドフォーク)10aを備えたアーム部10が設けられている。
【0025】
一方、本実施形態の昇降装置8は、図2及び図3に示すように、一対のマスト6aにそれぞれ1組ずつ設置されている。各昇降装置8は、それぞれ、マスト6aの上端側に設けられた4つの上部シーブ11と、1つのワイヤドラム12と、ワイヤドラム12を軸線O1回りに正逆回転させる例えばサーボモータなどの駆動手段13と、マスト6aの下端側で、かつワイヤドラム12よりも下方に配された1つの下部シーブ14と、2本の昇降用ワイヤ15と、2本のカウンターウェイト用ワイヤ16と、1本の跳躍防止用ワイヤ17と、1つのカウンターウェイト18とを備えて構成されている。
【0026】
4つの上部シーブ11と1つの下部シーブ14は、それぞれ同形同大に形成され、上部シーブ11は、マスト6aの上端側に同一軸上に回転軸線を配した状態で並設されている。また、上部シーブ11は、マスト6aの中空部6c内に配設されるとともに、その外周側の一部が第2開口部6eから外側(ガイドフレーム6の内側)を臨むように設けられている。一方、下部シーブ14は、マスト6aの下方の中空部6c内に設置されて、その外周側の一部を第3開口部6fから外側を臨むように設置されている。
【0027】
ワイヤドラム12は、略円柱状に形成されるとともに、その外周側に周方向に連続し軸線O1方向に螺旋状に形成された溝が形成されており、ワイヤドラム12の軸線O1回りの正逆回転に応じて、ワイヤドラム12に昇降用ワイヤ15及び跳躍防止用ワイヤ17を溝内に巻き取ったり、溝から送り出したりすることが可能とされている。ここで、例えばワイヤドラム12が正回転した場合には、昇降用ワイヤ15が送り出されるとともに、送り出された昇降用ワイヤ15が収容されていた溝に跳躍防止用ワイヤ17が巻き取られてゆく。また、この逆に、ワイヤドラム12が逆回転した場合には、跳躍防止用ワイヤ17が送り出されて、跳躍防止用ワイヤ17が収容されていた溝に昇降用ワイヤ15が巻き取られてゆく。このように形成されたワイヤドラム12は、外周側の一部が、マスト6aの下端側の第1開口部6dを介してマスト6aの中空部6c内を臨むように設けられている。また、ワイヤドラム12のマスト6aの外側に位置する部分や、ワイヤドラム12を軸線O1回りに回転させる駆動手段13は、マスト6aに支持された筐体8a内に収められて外部から隔離されている。
【0028】
2本の昇降用ワイヤ15は、それぞれ、他端がワイヤドラム12に止着されるとともに他端側がワイヤドラム12にそれぞれ巻き回され、ワイヤドラム12から繰り出された(送り出された)一端側が、中空部6cに挿通されて4つの上部シーブ11のうち外側の2つの上部シーブ11にそれぞれ駆動自在に巻き回されて支持されている。また、上部シーブ11によって一端側の延設方向が下方に向けられた各昇降用ワイヤ15は、一端側が第2開口部6eからマスト6aの外側に配され、一端が昇降台7の上方側から上方の支持部材7gに接続されている。これにより、昇降台7は、それぞれの支持部材7gに2本ずつ接続された昇降用ワイヤ15によって吊り下げ状態で支持される。
【0029】
2本のカウンターウェイト用ワイヤ16は、それぞれの一端が、昇降用ワイヤ15が接続された同一の支持部材7gに、2本の昇降用ワイヤ15の間に配されて接続されている。また、2本のカウンターウェイト用ワイヤ16は、4つの上部シーブ11のうち内側の2つの上部シーブ11にそれぞれ駆動自在に巻き回されて支持され、他端側がマスト6aの第2開口部6eを通じて中空部6c内に挿通されている。そして、各カウンターウェイト用ワイヤ16の他端が、マスト6aの中空部6c内に設けられ、かつ昇降用ワイヤ15の間に配された1つのカウンターウェイト18の上端にそれぞれ接続されている。これにより、昇降台7に、カウンターウェイト用ワイヤ16を介してカウンターウェイト18の荷重が負荷され、カウンターバランスの調整が図られている。
【0030】
一方、跳躍防止用ワイヤ17は、他端がワイヤドラム12に止着されるとともに、他端側がワイヤドラム12に巻き回されている。また、ワイヤドラム12から繰り出された(送り出された)一端側が、下部シーブ14に巻き回されて支持されている。そして、この下部シーブ14によって跳躍防止用ワイヤ17の一端側が上方に向けて延設され、一端が、昇降台7の下方側から下方の支持部材7hに接続されている。ここで、本実施形態では、図4に示すように、跳躍防止用ワイヤ17が接続される支持部材7hにバネ部材20が取り付けられており、跳躍防止用ワイヤ17の一端がこのバネ部材20を介して昇降台7に接続されている。
【0031】
ついで、上記の構成からなるスタッカクレーン2の作用及び効果について説明する。
【0032】
はじめに、昇降台7が最下方に位置した状態で、例えばパレット内に積まれた物品Wがパレットごとアーム10a上に載置される。ついで、これを検知した図示せぬ制御手段が、この物品Wを格納する所定のラック1aに、物品Wを搬送するようスタッカクレーン2に動作指令を出す。この動作指令を受けたスタッカクレーン2は、走行台車5の走行駆動部5bや上部駆動部9の各駆動手段5d、9bを駆動させて、床ガイドレール3や天井ガイドレール4に案内されながら格納庫1に沿って水平移動する。また、これと同時に、各ワイヤドラム12が、各駆動手段13の同期した例えば逆回転の駆動によって、各昇降用ワイヤ15を巻き取ってゆく。これにより、各昇降装置8の各昇降用ワイヤ15に吊り下げ状態で支持された昇降台7が一対のマスト6aに沿って上昇する。
【0033】
このとき、昇降用ワイヤ15を巻き取るようにワイヤドラム12が逆回転するとともに、昇降用ワイヤ12の巻取り量と略同量の送り量で跳躍防止用ワイヤ17が繰り出されてゆく。これにより、跳躍防止用ワイヤ17は、昇降台7の上昇を阻害することがない程度の適度の緊張状態を維持しながら送り出され、かつ跳躍防止用ワイヤ17がバネ部材20を介して昇降台7に接続されていることで、その緊張力が吸収され、極端に大きく昇降台7が下方に引っ張られることが防止される。
【0034】
このようにスタッカクレーン2の水平方向の移動と昇降台7の上昇は、格納庫1の所定のラック1a位置に、昇降台7が位置した段階で停止する。ちなみに、ガイドフレーム6の上端側に、天井ガイドレール4に沿ってガイドフレーム6を移動可能にする上部駆動部9が設けられていることによって、スタッカクレーン2の水平方向の移動が停止した際にも、その慣性力によってガイドフレーム6の上端側が振れることが防止される。
【0035】
ついで、物品Wが載置されたアーム10aが、物品Wを保持した状態でラック1aに向けて伸ばされ、物品Wをラック1aの所定の位置に載置させる。このように所定のラック1aに物品Wを格納するとともに、アーム10aは、元の位置に縮んで戻される。そして、走行台車5や上部駆動部9の駆動手段5d、9bが再度駆動し、スタッカクレーン2を元の位置に向けて水平方向に移動させ、これと同時に、ワイヤドラム12が、例えば正回転して昇降用ワイヤ15を送り出し、昇降台7をその自重で元の位置に下降させてゆく。このとき、ワイヤドラム12の正回転に従って、跳躍防止用ワイヤ17は、下降する昇降台7に対して適度な緊張力を維持しながらワイヤドラム12に巻き取られてゆく。この場合、昇降台7を下降させるように送り出された昇降用ワイヤ15には、昇降台7の自重が作用して若干の伸びが生じて跳躍防止用ワイヤ17にゆるみが生じることになるが、本実施形態では、跳躍防止用ワイヤ17がバネ部材20を介して接続されているため、昇降用ワイヤ15の伸びに起因した跳躍防止用ワイヤ17のゆるみを吸収し、このワイヤ17がたるむことが防止される。これにより、跳躍防止用ワイヤ17は、ワイヤドラム12に巻き取られる際にも適度な緊張力が付与されるため、乱巻き状態で巻き取られることがない。
【0036】
一方、上記のように所定のラック1aに物品Wを上昇搬送している途中で、例えば非常停止した場合には、上昇途中の昇降台7が慣性力で上方に跳躍してしまい、この跳躍に伴って昇降用ワイヤ15がたるみ、例えばワイヤドラム12の溝に既に巻かれた昇降用ワイヤ15に乗り上げるように重なって乱巻きされてしまう場合があった。また、跳躍した昇降台7が、重力によって下降し再度昇降用ワイヤ15で吊り下げられたときに衝撃が発生し、載置した物品Wが損傷されるという問題があった。
【0037】
これに対し、本実施形態のスタッカクレーン2においては、適度な緊張力を与えた状態で昇降台7に跳躍防止用ワイヤ17が接続されているため、非常停止とともに跳躍しようとする昇降台7が下方から引っ張られて、跳躍が抑制される。これにより、昇降用ワイヤ15がたるむようなことがないため、ワイヤドラム12に乱巻きされることが防止される。また、昇降台7の非常停止に伴って物品Wに衝撃が負荷されることがない。さらにこのとき、跳躍防止用ワイヤ17が、バネ部材20を介して接続されていることにより、非常停止した昇降台7に、昇降用ワイヤ15に乱巻きが生じない程度の若干の上昇変位が許容されることになるため、跳躍防止用ワイヤ17で引っ張られた昇降台7が急激に停止して物品Wのみが慣性力で跳躍してしまうようなこともない。
【0038】
したがって、本実施形態のスタッカクレーン2によれば、跳躍防止用ワイヤ17を設けることによって、昇降台7の非常停止に伴って昇降用ワイヤ15がたるみ、ワイヤドラム12に乱巻きされることを防止でき、かつ物品Wに大きな衝撃が作用することがないため、昇降用ワイヤ15や物品Wが損傷されることを防止できる。これにより、昇降台7の昇降を高速や高加速度で行なうことが可能になるため、物品Wの入出庫作業の効率化を図ることが可能になる。
【0039】
また、本実施形態では、昇降用ワイヤ15と跳躍防止用ワイヤ17の巻き取りや送り出しが1つのワイヤドラム12で行なえるため、昇降台7の昇降に対し、昇降用ワイヤ15と跳躍防止用ワイヤ17の巻取り量と送り出し量とを略同量にすることができる。これにより、例えば昇降台7の上昇時に、送り出される跳躍防止用ワイヤ17の緊張力を適度な状態で維持することができ、昇降台7を非常停止させた場合においても、確実に跳躍防止用ワイヤ17で昇降台7の跳躍を防止できる。
【0040】
さらに、ワイヤドラム12を正逆回転させた際に、送り出されたワイヤが収容されていた溝に、巻き取られるワイヤが収容されることによって、跳躍防止用ワイヤ17を具備した場合においても、1つのワイヤドラム12を小型に維持することができる。
【0041】
さらに、跳躍防止用ワイヤ17がバネ部材20を介して昇降台7に接続されていることによって、昇降台7を下降させた際には、跳躍防止用ワイヤ17の緊張状態を維持してこれがたるむことを確実に防止でき、ワイヤドラム12に乱巻きされることを防止できる。一方、昇降台7を上昇させた際には、上昇途中で停止した場合においても、物品Wのみが慣性力で跳躍してしまうことを確実に防止できる。
【0042】
また、マスト6aの中空部6cに、昇降用ワイヤ15や跳躍防止用ワイヤ17が挿通されるように構成していることによって、各ワイヤ15、17から塵埃が飛散するようなことがあっても、飛散した塵埃をマスト6aの内部に留めることができる。これにより、例えば搬送する物品Wが微細なきずや塵芥が付くことを嫌う物品等であっても、物品Wに塵埃が付着することを防止でき、物品Wの入出庫を行なう環境をよりクリーンな状態に維持することができる。
【0043】
なお、本発明は、上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、一つの昇降装置8に対して、昇降用ワイヤ15が2本、カウンターウェイト用ワイヤ16が2本、跳躍防止用ワイヤ17が1本設けられているものとしたが、各ワイヤ15、16、17の本数は、特に限定を必要とするものではない。また、跳躍防止用ワイヤ17が昇降台7の下方の支持部材7hにバネ部材20を介して接続されているものとしたが、バネ部材20を介さずに直接昇降台7に跳躍防止用ワイヤ17が接続されていてもよく、また、本実施形態の跳躍防止用ワイヤ17は、下方から昇降台7に接続されて、非常停止時に昇降台7を下方に引っ張ることが可能であれば、特に昇降台7への接続箇所が限定されなくてもよい。さらに、跳躍防止用ワイヤ17が下部シーブ14を介して昇降台7に接続されているものとしたが、下部シーブ14を設けず、ワイヤドラム12から繰り出された一端側が直接昇降台7に接続されていてもよい。
【0044】
また、本実施形態のスタッカクレーン2は、床ガイドレール3と天井ガイドレール4が具備されて、これらのレール3、4に支持されつつ案内されて移動するものとしたが、本発明は、例えば天井ガイドレール4に懸垂状態でガイドフレーム6が支持されて、この天井ガイドレール4に沿って水平移動するスタッカクレーンに適用されたり、昇降台7が1本のマスト6aのみに片持ち状態で支持されるスタッカクレーンに適用されてもよい。
【0045】
さらに、本実施形態では、昇降用ワイヤ15やカウンターウェイト用ワイヤ16、跳躍防止用ワイヤ17がマスト6aの中空部6cに挿通され、かつこれらワイヤ15、16、17を駆動可能に支持する上部シーブ11や下部シーブ14がマスト6aの中空部6c内に設けられているものとしたが、必ずしもこれらワイヤ15、16、17やシーブ11、14はマスト6a内に配されていなくてもよく、例えばこれらワイヤ15、16、17やシーブ11、14やワイヤドラム12を完全にマスト6aの外側に配置して、これらの部材を別途内包し被覆する筐体を具備するようにしてもよいものである。
【0046】
ついで、図5を参照し、本発明の第2実施形態に係るスタッカクレーンについて説明する。本実施形態においては、第1実施形態と同様、例えば自動倉庫内で物品を搬送するスタッカクレーンに関するものであり、昇降装置の構成のみが異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。よって、ここでは、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0047】
本実施形態の昇降装置30は、図5に示すように、同軸上に回転軸線を配した4つの上部シーブ11に加え、これら4つの上部シーブ11の外側に、第1実施形態の下部シーブ14にかえた1つの上部シーブ31が設けられている。また、この上部シーブ31は、ワイヤドラム12から繰り出された跳躍防止用ワイヤ17の一端側が巻き回されて、跳躍防止用ワイヤ17の一端側を駆動自在に支持している。そして、この上部シーブ31で下方に延設された跳躍防止用ワイヤ17の一端側は、一端がカウンターウェイト18の上端に接続されている。すなわち、本実施形態の昇降装置30においては、跳躍防止用ワイヤ17が、マスト6aの上端側に設けられた上部シーブ31を介して、カウンターウェイト18に上方側から接続されている。
【0048】
このように構成した昇降装置30を備えたスタッカクレーン33では、昇降台7の上昇に従って下降するカウンターウェイト18を、昇降台7の非常停止とともに跳躍防止用ワイヤ17で保持することができる。これにより、非常停止とともに、昇降台7へのカウンターウェイト18の荷重付加が昇降台7から切り離され、昇降台7にその自重に起因した下降側に向く力を作用させることができる。すなわち、非常停止とともにカウンターウェイト18による昇降台7の上昇移動の付勢力が消失し、これにより、昇降台7が自重によって下方に引っ張られ、跳躍することなく昇降台7を停止させることができる。
【0049】
よって、本実施形態のスタッカクレーン33によれば、跳躍防止用ワイヤ17をカウンターウェイト18に接続して設けることによって、昇降台7の非常停止とともにカウンターウェイト18を保持することができ、昇降台7を跳躍することなく保持することができる。これにより、昇降用ワイヤ15がたるみ、ワイヤドラム12に乱巻きされることを防止でき、かつ物品Wに大きな衝撃が作用することを防止できる。よって、昇降用ワイヤ15や物品Wが損傷されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスタッカクレーンを備えた自動倉庫を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るスタッカクレーンを示す断面図である。
【図3】図2のスタッカクレーンの昇降装置を示す斜視図である。
【図4】図3に示した昇降装置の跳躍防止用ワイヤと昇降台の接続部分を拡大した断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るスタッカクレーンの昇降装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 格納庫
1a ラック
2 スタッカクレーン
3 床ガイドレール
4 天井ガイドレール
5 走行台車
6 ガイドフレーム
6a マスト
6c 中空部
7 昇降台
8 昇降装置
11 上部シーブ
12 ワイヤドラム
13 駆動手段
14 下部シーブ
15 昇降用ワイヤ
16 カウンターウェイト用ワイヤ
17 跳躍防止用ワイヤ
18 カウンターウェイト
20 バネ部材
30 昇降装置
31 上部シーブ
33 スタッカクレーン
A 自動倉庫
W 物品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略水平方向に移動可能に立設されたマストと、該マストに沿って昇降可能に支持されて、並設する格納庫との間で物品の入出庫を行なう昇降台と、該昇降台に接続されたカウンターウェイトと、前記マストに一体に設けられ前記昇降台を昇降させる昇降装置とを備えるスタッカクレーンであって、
前記昇降装置が、一端が前記昇降台に接続され、他端がカウンターウェイトに接続されたカウンターウェイト用ワイヤと、一端が前記昇降台に接続されて該昇降台を吊り下げ状態で支持する昇降用ワイヤと、軸線回りに正逆回転されて前記昇降用ワイヤの巻き取り、または送り出しを行なって前記昇降台を昇降させるワイヤドラムと、前記マストの上端側に設けられ、前記カウンターウェイト用ワイヤ及び前記昇降用ワイヤを駆動自在に支持する上部シーブとを備えるとともに、前記ワイヤドラムから送り出された一端が、前記ワイヤドラムよりも下方に設けた下部シーブを介して前記昇降台に下方側から接続される跳躍防止用ワイヤが具備されていることを特徴とするスタッカクレーン。
【請求項2】
略水平方向に移動可能に立設されたマストと、該マストに沿って昇降可能に支持されて、並設する格納庫との間で物品の入出庫を行なう昇降台と、該昇降台に接続されたカウンターウェイトと、前記マストに一体に設けられ前記昇降台を昇降させる昇降装置とを備えるスタッカクレーンであって、
前記昇降装置が、一端が前記昇降台に接続され、他端がカウンターウェイトに接続されたカウンターウェイト用ワイヤと、一端が前記昇降台に接続されて該昇降台を吊り下げ状態で支持する昇降用ワイヤと、軸線回りに正逆回転されて前記昇降用ワイヤの巻き取り、または送り出しを行なって前記昇降台を昇降させるワイヤドラムと、前記マストの上端側に設けられ、前記カウンターウェイト用ワイヤ及び前記昇降用ワイヤを駆動自在に支持する上部シーブとを備えるとともに、前記ワイヤドラムから送り出された一端が、前記マストの上端側に設けられた前記上部シーブを介して前記カウンターウェイトに上方側から接続される跳躍防止用ワイヤが具備されていることを特徴とするスタッカクレーン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスタッカクレーンにおいて、
前記跳躍防止用ワイヤは、前記一端がバネ部材を介して前記昇降台もしくは前記カウンターウェイトに接続されていることを特徴とするスタッカクレーン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のスタッカクレーンにおいて、
前記マストが内部に中空部を備えて形成されており、前記昇降用ワイヤ及び前記跳躍防止用ワイヤが前記中空部に挿通されて前記昇降台または前記カウンターウェイトに接続されていることを特徴とするスタッカクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−63069(P2008−63069A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241786(P2006−241786)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】