説明

スターフルーツ由来成分を含むCYP3A阻害剤

【課題】本発明は、CYP3A阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は以下の発明を包含する。(1)スターフルーツの処理物を含有するCYP3A阻害剤。(2)スターフルーツの処理物がスターフルーツ果実の水性抽出物である(1)に記載の阻害剤。(3)薬物の吸収を改善するための(1)又は(2)に記載の阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCYP3A阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
チトクロームP450 3A(本発明において「CYP3A」という)は薬物代謝酵素として知られている。CYP3A活性を阻害することができれば、有用な薬物の代謝が妨げられるため薬物の血中薬物濃度が高まり、薬物の生体利用性が高まる。CYP3A活性阻害成分を薬物の吸収改善剤あるいは医薬品添加物として応用することにより、投与薬物の減量と吸収の個体変動の軽減が可能になると期待される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ある種の薬物とグレープフルーツ果汁を同時に摂取した場合、血中薬物濃度が上昇したことによる薬効増強や副作用発現が報告されている。この現象は、グレープフルーツの成分がCYP3Aの酵素活性を阻害することに起因する。現在のところ、グレープフルーツ果汁よりも強いCYP3A活性阻害能を示す果実類は見出されていない。
【0004】
また、グレープフルーツの成分は消化管のCYP3Aを不可逆的に阻害するいわゆるmechanism-based inhibitorであることが知られており、摂取後数日間にわたり薬物との相互作用が持続されるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−81877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、CYP3A活性に対する新規阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)スターフルーツの処理物を含有するCYP3A阻害剤。
(2)スターフルーツの処理物がスターフルーツ果実の水性抽出物である(1)に記載の阻害剤。
(3)薬物の吸収を改善するための(1)又は(2)に記載の阻害剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、CYP3A阻害剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、スターフルーツの処理物を含有するCYP3A阻害剤に関する。本発明者らはスターフルーツの処理物がグレープフルーツの処理物よりも強いCYP3A活性阻害作用を有することを見出し本発明を完成するに至った。本発明の阻害剤は、実施例3に示す通り、CYP3Aに対するmechanism-based inhibitorではないと考えられることから、CYP3A活性を不可逆的に阻害することはなく薬物相互作用が長期間持続するという問題がないものと考えられる。
【0010】
CYP3Aの基質となる薬物としては例えば、ミダゾラム、トリアゾラム、アルプラゾラム、ジアゼパム、ブロマゼパム、シクロスポリン、タクロリムス、アミオダロン、リドカイン、キニジン、ニフェジピン、フェロジピン、ベラパミル、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、エトポシド、ロバスタチン、シンバスタチン、オメプラゾール、タキソール等が知られている。これらの薬物と本発明の阻害剤とを併用することにより、これらの薬物の初回通過を回避することができる。すなわち、本発明の阻害剤は、薬物の吸収を改善して生体利用性を高める目的で使用できる。つまり、本発明の阻害剤は薬物の吸収促進剤、吸収改善剤、薬効改善剤、又は生体利用性改善剤になり得る。また本発明の阻害剤は使用される薬物を少量化する目的で使用することができる。つまり本発明の阻害剤は薬物の投与量の少量化剤、又は減量化剤になり得る。
【0011】
また本発明の阻害剤により阻害されるCYP3Aとしては動物、例えばヒト、カニクイザル、マーモセット、イヌ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等に由来するものが挙げられる。
【0012】
本発明に使用されるスターフルーツの「処理物」には、根、茎、葉、花、果実等の、スターフルーツの植物体の各部分に由来する全てのものが包含される。好ましくは果実の部分に由来するものである。これらの植物体の各部は生のまま使用することもできる。生の状態のものもまた本発明における「処理物」に包含される。また、上記の植物体の各部分を更に半乾燥又は乾燥させて使用することもできる。半乾燥又は乾燥は通常の方法で行うことができ、例えば天日により乾燥させる方法や乾燥機により乾燥させる方法により行うことができる。また、植物体の各部又はその半乾燥物若しくは乾燥物は、そのままの形態で使用されても良いが、好適には適当な大きさに粉砕された状態で使用される。本発明者らが見出した新規知見によれば、スターフルーツにはCYP3A活性阻害作用を有する1種以上の物質が含まれているものと推測されるが、かかる物質を高濃度化、好ましくは精製、したものもまた本発明における「処理物」に包含される。
【0013】
スターフルーツの処理物としては、例えばスターフルーツ果汁が挙げられる。また、スターフルーツ果実の抽出物もまた好ましい。抽出物としては、抽出液、抽出液を希釈したもの、抽出液を濃縮したもの、抽出液を乾燥させたもの、又はこれらを粗精製若しくは精製したものが包含される。
【0014】
抽出に用いる溶媒は、水、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒、又はこれらの2種以上からなる混合物のいずれであってもよい。水の種類には特に限定がなく、純水、水道水等であってよい。また水は精製、殺菌、滅菌、ろ過、浸透圧調整、緩衝化等の通常の処理が施されていてよく、例えば、生理的食塩水、リン酸緩衝液等も抽出溶媒として使用可能である。親水性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸等の公知の親水性有機溶媒が挙げられる。疎水性有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、n-ヘキサン、イソオクタン等の公知の疎水性有機溶媒が挙げられる。また、超臨界流体を用いた抽出も可能である。
【0015】
本発明に使用される抽出物としては水性抽出物が特に好ましい。水性抽出物には、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて得られた抽出物が包含されるだけではなく、疎水性有機溶媒を用いて抽出した場合の残留物もまた包含される。例えば、スターフルーツ果汁を疎水性有機溶媒と混合して振とうし、有機層と水層とに分液した場合の水層もまたスターフルーツの水性抽出物に包含される。
【0016】
抽出操作は特に限定的でなく常法に従って行えばよい。抽出効率を向上させるため、加熱、攪拌、振とう等を併用することもできる。また、抽出効率を向上させる目的で、抽出前に予めスターフルーツ試料に適当な処理を施すこともできる。このような処理としては、例えば粉砕や脱脂が挙げられる。
【0017】
本発明の阻害剤として、上記処理物自体を製剤化せずに使用し得る。上記処理物はまた、適当な成分と組み合わされた組成物として使用されても良い。
【0018】
本発明の阻害剤としてはまた、上記処理物を常法により製剤化したものもまた好適に使用し得る。投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤、または注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として投与され得る。本発明の阻害剤は、CYP3Aの基質となる薬物の吸収を改善する目的で、かかる薬物と一緒に製剤化され、投与されてもよい。また、本発明の阻害剤とCYP3Aの基質となる薬物とは、各々別個に製剤化され、同時に又は逐次的に投与されてもよい。
【0019】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。
【0020】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0021】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0022】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0023】
界面活性剤の具体例としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールが挙げられる。
【0024】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0025】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0026】
また、本発明の阻害剤は、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤として投与する場合には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
スターフルーツ果汁によるCYP3A活性(ミタゾラム1’−水酸化反応)阻害効果を調べた。また、比較のために、CYP3A活性阻害作用を有することが知られているグレープフルーツ果汁についても同様にして阻害効果を調べた。
【0029】
CYP3Aはヒト肝ミクロゾームにおいて発現されたもの(第一化学薬品(株)から購入)を用いた。スターフルーツ(宮崎県産)又はグレープフルーツ(米国フロリダ州産)の可食部分をすりつぶして懸濁状にし、フィルターでろ過して果汁を得た。果汁12.5μL又は25μLを反応チューブに入れ、水分を蒸発乾固した。ここに酵素液(ヒト肝ミクロゾーム(蛋白濃度として0.2mg/tube)、0.05mM EDTA二ナトリウム塩、NADPH生成系(0.5mM NADP+、 5 mM塩化マグネシウム、5mMグルコース-6-リン酸、1unit/mlグルコース-6-リン酸脱水素酵素、及び100mMリン酸緩衝液を含む。))0.5mLを添加し、37℃で5分間プレインキュベートした。終濃度が10μM(反応液量0.5mL)となるようにミタゾラム(基質)を添加し、37℃で4分間反応させた。酢酸エチル5mLを添加することにより反応を終了させ、反応液中のミタゾラム1’−水酸化物の量を高性能液体クロマトグラフィーで測定した。対照実験として果汁に代えて水12.5μL又は25μLを用いて同様の実験を行った。対照実験におけるミタゾラム1’−水酸化物の量に対する比により残存活性を評価した。結果を表1に示す。スターフルーツ果汁はグレープフルーツ果汁よりもより強力にCYP3A活性を阻害することが明らかになった。
【0030】
【表1】

【0031】
また上記実験の再現性を確認する目的で購入店、購入日、搾取日の異なるスターフルーツ果汁について同様の実験を行った。結果を表2に示す。何れの条件においてもスターフルーツ果汁はCYP3A活性を強力に阻害した。
【0032】
【表2】

【0033】
また果汁の量を1μL、3μL、6.25μL、10μL、12.5μL、15μL、20μL、25μL、30μLとして上記と同様の実験を行った。この実験結果(図1)からもスターフルーツ果汁はグレープフルーツ果汁と同等に又はより強力にCYP3A活性を阻害することがわかる。
【実施例2】
【0034】
スターフルーツ果汁の酢酸エチル抽出物及び水抽出物を調製し、CYP3A活性阻害能を比較した。
【0035】
実施例1と同様にスターフルーツ果汁を調製し、スターフルーツ果汁1mLに酢酸エチル2mLを加えて振とうした後、酢酸エチル層とそれ以外の層(水層)とを分液した。各層12.5μL又は25μLを反応チューブに入れ、溶媒(酢酸エチル又は水)を留去した。その後は実施例1と同様の操作を行い、残存活性を測定した。結果を図2に示す。水抽出物がCYP3A活性を強く阻害することが明らかとなった。
【実施例3】
【0036】
スターフルーツ果汁が、CYP3Aに対して不可逆的な阻害剤(いわゆるmechanism-based inhibitor)として作用するのか否かを調べた。比較のために、mechanism-based inhibitorとして作用することが知られているグレープフルーツ果汁についても並行して実験を行った。
【0037】
プレインキュベーション時間を5分間、10分間、15分間又は20分間とした点、及び果汁の使用量を6.25μL又は12.5μLとした点を除いては、実施例1と同様の操作を行った。結果を図3に示す。
【0038】
グレープフルーツ果汁によるCYP3A活性阻害がプレインキュベーション時間に依存していたのに対して、スターフルーツ果汁によるCYP3A活性阻害はプレインキュベーション時間には影響されなかった。この結果は、スターフルーツ果汁がCYP3Aに対していわゆるmechanism-based inhibitorとして作用しないことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】スターフルーツ果汁又はグレープフルーツ果汁によるCYP3A活性阻害効果を示す図である。
【図2】スターフルーツ果汁の酢酸エチル又は水抽出物によるヒトCYP3A活性阻害効果を示す図である。
【図3】スターフルーツ果汁又はグレープフルーツ果汁によるCYP3A活性阻害効果に対する、プレインキュベーション時間の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スターフルーツの処理物を含有するCYP3A阻害剤。
【請求項2】
スターフルーツの処理物がスターフルーツ果実の水性抽出物である請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
薬物の吸収を改善するための請求項1又は2に記載の阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−22071(P2006−22071A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203629(P2004−203629)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第124年会 日本薬学会にて発表 会期:平成16年3月29日〜31日 要旨集発行日:平成16年3月5日
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】