説明

スターリングエンジンの気体潤滑構造

【課題】 気体潤滑を行うにあたり、好適な静圧気体潤滑を実現可能なスターリングエンジンの気体潤滑構造を提供する。
【解決手段】 スターリングエンジンの気体潤滑構造は、高温側シリンダ22および膨張ピストン21を備える高温側気筒20と、低温側シリンダ32および圧縮ピストン31Aを備える低温側気筒30Aとからなる一対の気筒と、クランクケース120Aと、を備えたスターリングエンジン10Aにつき、膨張ピストン21に第1の蓄圧室R1と、第1の蓄圧室R1から高温側シリンダ22との間に形成されるクリアランスに作動流体を噴出する第1の給気孔S1と、クランクケース120A内から第1の蓄圧室R1に作動流体を導入するチェック弁40とを設けた構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスターリングエンジンの気体潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車やバス、トラック等の車両に搭載される内燃機関の排熱や工場排熱を回収するために、スターリングエンジンが注目されてきている。スターリングエンジンは高い熱効率が期待できる上に、作動流体を外から加熱する外燃機関であるために、熱源を問わず、ソーラー、地熱、排熱といった各種の低温度差代替エネルギーを活用でき、省エネルギーに役立つという利点がある。
スターリングエンジンの気体潤滑に関する技術である点で、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−183568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示する技術では、作動空間から導入した作動流体でピストンの静圧気体潤滑を行っている。しかしながら、高温側気筒側の作動空間においては加熱器で受熱した作動流体が流入してくるため、作動流体の温度が非常に高くなっている。このため特許文献1が開示する技術では、例えば導入した作動流体がピストンの熱変形を助長し、この結果気体潤滑に影響を及ぼすことが考えられる。
また高温側気筒側の作動空間からピストン内に導入した作動流体の温度は、給気孔から噴出される際には導入時よりも低下することになる。このためこの場合には、噴出時の作動流体の容積が導入時よりも小さくなり、この結果、気体潤滑に必要な作動流体の量を確保することが困難であることが考えられる。
【0005】
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、気体潤滑を行うにあたり、好適な静圧気体潤滑を実現可能なスターリングエンジンの気体潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は高温側シリンダおよび前記高温側シリンダ内を往復運動する高温側ピストンを備える高温側気筒と、低温側シリンダおよび前記低温側シリンダ内を往復運動する低温側ピストンを備える低温側気筒とからなる一対の気筒と、前記高温側ピストンおよび前記低温側ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸が設けられたクランクケースと、を備えたスターリングエンジンにつき、前記高温側ピストンおよび前記低温側ピストンのうち、少なくとも前記高温側ピストンに第1の中空部と、前記第1の中空部から前記高温側シリンダおよび低温側シリンダのうち、対応するシリンダとの間に形成されるクリアランスに作動流体を噴出する第1の給気部と、前記クランクケース内から前記第1の中空部に作動流体を導入する第1の導入部とを設けたスターリングエンジンの気体潤滑構造である。
【0007】
また本発明は前記低温側ピストンに第2の中空部と、前記第2の中空部から前記低温側シリンダとの間に形成されるクリアランスに作動流体を噴出する第2の給気部と、前記低温側シリンダ内の作動空間から前記第2の中空部に作動流体を導入する第2の導入部とを設けた構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、気体潤滑を行うにあたり、好適な静圧気体潤滑を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1にかかるスターリングエンジンの概略構成図である。
【図2】実施例2にかかるスターリングエンジンの概略構成図である。
【図3】静圧気体潤滑に利用可能なクランクケース内圧力を示す図である。
【図4】実施例3にかかるスターリングエンジンの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は本実施例にかかるスターリングエンジンの気体潤滑構造を備えるスターリングエンジン10Aを模式的に示す図である。スターリングエンジン10Aは、2気筒α型のスターリングエンジンである。スターリングエンジン10Aは、クランク軸線CLの延伸方向と気筒配列方向Xとが互いに平行になるように直列平行に配置された一対の気筒である高温側気筒20および低温側気筒30Aを有している。高温側気筒20は高温側ピストンである膨張ピストン21と高温側シリンダ22とを、低温側気筒30Aは低温側ピストンである圧縮ピストン31Aと低温側シリンダ32とをそれぞれ備えている。低温側シリンダ32内を往復運動する圧縮ピストン31Aは、高温側シリンダ22内を往復運動する膨張ピストン21に対して、クランク角で90°程度遅れて動くように位相差が設けられている。ピストン21、31Aの往復運動はコネクティングロッド110を介してクランクケース120A内に設けられたクランク軸113Aに伝達され、回転運動に変換される。
【0012】
高温側シリンダ22の上部空間は膨張空間となっている。膨張空間には加熱器47で加熱された作動流体が流入する。加熱器47は本実施例では具体的には車両に搭載されたガソリンエンジンの排気管100の内部に配置されている。この点、スターリングエンジン10Aは、排気ガスの流通方向V1に対して、クランク軸線CLの延伸方向(換言すれば気筒配列方向X)が平行になるように配置されている。加熱器47において、作動流体は高温熱源を構成する流体である排気ガスから回収した熱エネルギーにより加熱される。
低温側シリンダ32の上部空間は圧縮空間となっている。圧縮空間には冷却器45で冷却された作動流体が流入する。
再生器46は、作動空間である膨張空間および圧縮空間の間を往復する作動流体との間で熱の授受を行う。再生器46は具体的には、作動流体が膨張空間から圧縮空間へと流れる時には作動流体から熱を受け取り、作動流体が圧縮空間から膨張空間へと流れる時には蓄えられた熱を作動流体に放出する。
作動流体には空気が適用されている。但しこれに限られず、作動流体には例えばHe、H、N等の気体を適用することができる。
【0013】
次にスターリングエンジン10Aの動作について説明する。加熱器47で作動流体が加熱されると、膨張して膨張ピストン21が圧下され、これによりクランク軸113Aの回動が行われる。次に膨張ピストン21が上昇行程に移ると、作動流体は加熱器47を通過して再生器46に移送され、そこで熱を放出して冷却器45へと流れる。冷却器45で冷却された作動流体は圧縮空間に流入し、さらに圧縮ピストン31Aの上昇行程に伴って圧縮される。このようにして圧縮された作動流体は、今度は再生器46から熱を奪いながら温度を上昇して加熱器47へ流れ込み、そこで再び加熱膨張せしめられる。すなわち、かかる作動流体の往復流動を通じてスターリングエンジン10Aが動作する。
【0014】
ところで、本実施例ではスターリングエンジン10Aの熱源が車両の内燃機関の排気ガスとなっていることから、得られる熱量に制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジン10Aを作動させる必要がある。そこで本実施例では、スターリングエンジン10Aの内部フリクションを可能な限り低減させることとしている。具体的にはスターリングエンジン10Aの内部フリクションのうち、最も摩擦損失が大きいピストンリングによる摩擦損失を無くすため、シリンダ22、32とピストン21、31Aとの間で気体潤滑を行っている。
【0015】
気体潤滑ではシリンダ22、32とピストン21、31Aの間の微小なクリアランスで発生する空気の圧力(分布)を利用して,ピストン21、31Aを空中に浮いた形にする。空中に物体を浮上させる気体潤滑は摺動抵抗が極めて小さいため、スターリングエンジン10Aの内部フリクションを大幅に低減できる。
気体潤滑が行われるシリンダ22、32とピストン21、31Aとの間のクリアランスは数十μmとなっている。そして、このクリアランスにはスターリングエンジン10Aの作動流体が介在している。ピストン21、31Aそれぞれは気体潤滑によりシリンダ22、32と非接触の状態、または許容できる接触状態で支持されている。したがってピストン21、31Aの周囲には、ピストンリングは設けられておらず、また一般にピストンリングと共に使用される潤滑油も使用されていない。気体潤滑では、微小クリアランスにより膨張空間、圧縮空間それぞれの気密が保たれ、リングレスかつオイルレスでクリアランスシールが行われる。
さらにピストン21、31Aとシリンダ22、32とはともに金属製であり、本実施例では具体的には対応するピストン21、31Aおよびシリンダ22、32同士で線膨張率が同じ金属(ここではSUS)が適用されている。これにより、熱膨張があっても適正なクリアランスを維持して気体潤滑を行うことができる。
【0016】
層60は樹脂をコーティングすることによって設けられている。樹脂は金属製の膨張ピストン21の母材よりも柔軟性のある材料となっている。樹脂は本実施例では具体的にはフッ素系の樹脂である。樹脂は一般に金属よりも線膨張率が4倍から10倍程度高いため、半径クリアランスが数十μm程度となる膨張ピストン21の外周面に樹脂を適用することには困難を伴う。層60の線膨張率は温度上昇に応じて高温側シリンダ22との間に形成されるクリアランスを小さくすることが可能な線膨張率となっている。
【0017】
常温下の層60の厚さは、半径クリアランスの大きさ以上となっている。本実施例では層60の厚さはさらに半径クリアランスの大きさの2倍以上となっている。かかる層60の厚さは、樹脂を複数回に亘って重ねてコーティングすることで実現されている。さらに常温下の層60の厚さは、使用条件下で発生する熱膨張があっても、高温側シリンダ22との間に形成されるクリアランスを維持可能な厚さとなっている。この点、作動流体の温度は大気温度から数百℃まで変化し、常温は最低で例えば−40℃程度、使用温度は最高で例えば400℃程度となる。
【0018】
膨張ピストン21と高温側シリンダ22とには、前述の通り線膨張率が同じ金属(ここではSUS)が適用されている。このため、金属部半径クリアランスは熱膨張の前後でほぼ変化しない一方で、金属よりも線膨張率が高い層60の厚さは熱膨張後に大きくなることから、半径クリアランスは熱膨張後に小さくなる。
【0019】
ところで気体潤滑に関し、スターリングエンジン10Aでは、具体的には加圧流体を噴出させ、発生した静圧によって物体を浮上させる静圧気体潤滑を行う。この点、静圧気体潤滑を行うにあたり、スターリングエンジン10Aでは気筒20、30Aに対して同様の構造を適用している。このためこれらの構造について説明するにあたり、以下では高温側気筒20側を例にして説明し、低温側気筒30A側についてはその説明を省略する。
【0020】
膨張ピストン21には第1の蓄圧室R1が設けられている。第1の蓄圧室R1は膨張ピストン21の側壁部W1と、クランクケース120A内の作動流体に接する壁部である底壁部W2とに沿って設けられており、円筒状の空間を有している。第1の蓄圧室R1は第1の中空部に相当し、第1の蓄圧室R1の壁部は膨張ピストン21の頂面を形成する上壁部W3と熱的に繋がっている。
また膨張ピストン21には第1の給気孔S1が設けられている。第1の給気孔S1は具体的には膨張ピストン21の側壁部W1に周方向に等間隔で複数設けられている。第1の給気孔S1は第1の給気部に相当し、第1の蓄圧室R1から膨張ピストン21に対応するシリンダである高温側シリンダ22との間に形成されるクリアランスに作動流体を噴出する。
【0021】
さらに膨張ピストン21にはチェック弁40が設けられている。チェック弁40は具体的には膨張ピストン21の底壁部W2に設けられており、また第1の蓄圧室R1内に設けられている。底壁部W2に設けられたチェック弁40は第1の導入部に相当し、クランクケース120A内から第1の蓄圧室R1に作動流体を導入するとともに、第1の蓄圧室R1への作動流体の流入のみを許容することで、第1の蓄圧室R1にある作動流体の加圧状態を保持可能な第1の加圧状態保持手段を兼ねている。この点、膨張ピストン21および高温側シリンダ22間のクリアランスは数十μmであることから、第1の蓄圧室R1内にある作動流体は第1の給気孔S1からは流出し難くなっている。
スターリングエンジン10Aでは、高温側気筒20側および低温側気筒30A側でともに第1の蓄圧室R1、第1の給気孔S1および底壁部W2に設けられたチェック弁40を備えるスターリングエンジンの気体潤滑構造が実現されている。
【0022】
次に本実施例にかかるスターリングエンジンの気体潤滑構造の作用効果について説明する。ここで、クランクケース120A内の作動流体の圧力はスターリングエンジン10Aの動作に応じて変動する。そしてこの気体潤滑構造では、クランクケース120A内の作動流体の圧力変動に応じて、作動流体がクランクケース120A内からチェック弁40を介して第1の蓄圧室R1に導入され、これにより第1の蓄圧室R1が次第に蓄圧される。さらに蓄圧された第1の蓄圧室R1からは第1の給気孔S1を介して作動流体が噴出され、これによりピストン21、31の静圧気体潤滑が行われる。
【0023】
この点、作動流体の温度は、クランクケース120A内においては数十℃から200℃程度であり、加熱器47で受熱した作動流体が流入する膨張空間の場合と比較して低くなっている。このためこの気体潤滑構造は、高温側気筒20側で膨張ピストン21の熱変形が助長され、この結果、気体潤滑に影響が及ぶことを防止できる点で、好適な静圧気体潤滑を実現できる。
またこのようにクランクケース120A内から作動流体を導入することで、この気体潤滑構造は、高温側気筒20側で静圧気体潤滑に起因して層60の温度が耐熱温度(例えば300℃)を超え、この結果、層60に影響が及ぶことを防止できる点でも、好適な静圧気体潤滑を実現できる。
【0024】
またこの気体潤滑構造では、第1の蓄圧室R1の壁部が上壁部W3と熱的に繋がっている。このためこの気体潤滑構造では、高温側気筒20側において第1の蓄圧室R1内に導入された作動流体が、第1の蓄圧室R1の壁部からの受熱で昇温し、これにより第1の蓄圧室R1がさらに蓄圧される。
そしてこれによりこの気体潤滑構造は、高温側気筒20側において導入した作動流体の圧力をさらに高めることができる点で好適な静圧気体潤滑を実現できる。
またこれによりこの気体潤滑構造は、高温側気筒20側においてより少ない作動流体の量で静圧気体潤滑を行うことが可能になり、この結果、作動流体の量を確保し易くできる点でも、好適な静圧気体潤滑を実現できる。なお、導入した作動流体を昇温するにあたり、第1の蓄圧室R1の壁部は必ずしもそのすべてが上壁部W3と熱的に繋がっていなくてもよく、少なくともその一部が上壁部W3と熱的に繋がっていることが必要とされる。
またこの気体潤滑構造は、低温側気筒30A側にも高温側気筒20側と同様の構造を適用することで、部品の共通化や製造工程の共通化などによりコストの低減を図ることができる点でも、好適な静圧気体潤滑を実現できる。
【実施例2】
【0025】
図2に示すように本実施例にかかるスターリングエンジンの気体潤滑構造を備えるスターリングエンジン10Bは、低温側気筒30Aの代わりに低温側気筒30Bを備えている点以外、スターリングエンジン10Aと実質的に同一のものとなっている。また低温側気筒30Bは圧縮ピストン31Aの代わりに圧縮ピストン31Bを備えている点以外、低温側気筒30Aと実質的に同一のものとなっている。圧縮ピストン31Bは、第1の蓄圧室R1の代わりに第2の蓄圧室R2を、第1の給気孔S1の代わりに第2の給気孔S2をそれぞれ備えるとともに、チェック弁40が異なる位置に設けられている点以外、圧縮ピストン31Aと実質的に同一のものとなっている。
【0026】
第2の蓄圧室R2は、圧縮ピストン31Bの側壁部W1と上壁部W3とに沿って設けられており、円筒状の空間を有している。
第2の給気孔S2は、第2の蓄圧室R2に対応して設けられている点以外、第1の給気孔S1と実質的に同一のものとなっている。
圧縮ピストン31Bにおいて、チェック弁40は上壁部W3に設けられており、また第2の蓄圧室R2内に設けられている。上壁部W3に設けられたチェック弁40は、圧縮空間から第2の蓄圧室R2に作動流体を導入するとともに、第2の蓄圧室R2への作動流体の流入のみを許容する。この点、上壁部W3に設けられたチェック弁40は、第2の蓄圧室R2にある作動流体の加圧状態を保持可能な第2の加圧状態保持手段を兼ねている。
第2の蓄圧室R2は第2の中空部に、第2の給気孔S2は第2の給気部に、上壁部W3に設けられたチェック弁40は第2の導入部にそれぞれ相当している。そしてスターリングエンジン10Bでは、高温側気筒20側で第1の蓄圧室R1、第1の給気孔S1および底壁部W2に設けられたチェック弁40を備えるとともに、低温側気筒30B側で第2の蓄圧室R2、第2の給気孔S2および上壁部W3に設けられたチェック弁40を備えるスターリングエンジンの気体潤滑構造が実現されている。
【0027】
次に本実施例にかかるスターリングエンジンの気体潤滑構造の作用効果について説明する。ここで作動流体の温度は膨張空間、クランクケース120A内および圧縮空間の間でこの順に高くなっている。したがって低温側気筒30B側では、クランクケース120A内のほうが圧縮空間よりも作動流体の温度が高くなる。
これに対してこの気体潤滑構造では、低温側気筒30B側で静圧気体潤滑を行うにあたり、圧縮空間から第2の蓄圧室R2に作動流体を導入する。このためこの気体潤滑構造は、低温側気筒30B側においても高温側気筒20側と同様に、導入した作動流体の昇温によって作動流体の圧力をさらに高めることができる点で好適な静圧気体潤滑を行うことができる。
【0028】
またクランクケース120A内における作動流体の圧力変動幅は、膨張空間や圧縮空間における作動流体の圧力変動幅よりも小さいことから、静圧気体潤滑を行うにあたり、クランクケース120A内から作動流体を導入する場合には、作動流体の蓄圧に利用可能な圧力(図3参照)がより限られてくる。
これに対してこの気体構造では、静圧気体潤滑を行うにあたり、高温側気筒20側ではクランクケース120A内から作動流体を導入する一方で、低温側気筒30B側では圧縮空間から作動流体を導入するようにすることで、クランクケース120A内の作動流体の圧力変動幅が小さいことにも照らして、スターリングエンジン10B全体として合理的に静圧気体潤滑を行うことができる点でも、好適な静圧気体潤滑を実現できる。
【実施例3】
【0029】
図4に示すように、本実施例にかかるスターリングエンジンの気体潤滑構造を備えるスターリングエンジン10Cは、クランクケース120Aの代わりにクランクケース120Bを備えるとともに、これに伴いクランク軸113Aの代わりにクランク軸113Bを備えている点と、スペーサ43をさらに備えている点以外、スターリングエンジン10Bと実質的に同一のものとなっている。
クランクケース120Bは、気筒20、30Bそれぞれに対応させて、クランクケース120B内を高温側気筒20側の空間P1と低温側気筒30B側の空間P2とに二分する隔壁部121をさらに備えている点以外、クランクケース120Aと実質的に同一のものとなっている。この隔壁部121はクランク軸113Bの軸受部を形成しており、クランク軸113Bはクランクケース120Bに対応したクランク軸となっている点以外、クランク軸113Aと実質的に同一のものとなっている。
【0030】
スペーサ43は空間P1に設けられている。スペーサ43は具体的には空間P1のうち、クランク軸線CLの延伸方向における両端側に位置する空間それぞれで、クランク軸線CL周りに配置されるように設けられている。そしてこのように設けられたスペーサ43は運動するクランク軸113Bを回避可能な範囲内で空間P1を埋めるように設けられている。このためスペーサ43はクランク軸113Bの運動範囲に応じてテーパ状に形成された穴を有するリング状の形状となっており、これにより可能な限り空間P1を埋めるようになっている。この点、スペーサ43はさらに高温側シリンダ22が形成する膨張ピストン21よりもクランクケース120B側の空間に亘って、膨張ピストン21やコネクティングロッド110など運動する可動部を回避可能な範囲内で空間を埋めるように設けられてもよい。この場合、高温側シリンダ22が形成する空間には、例えばスペーサ43とは別体のスペーサを適用することもできる。スペーサ43は表面に連通気泡を露出していない発泡性樹脂製となっている。
本実施例では、実施例2で前述したスターリングエンジンの気体潤滑構造に対して、さらにクランクケース120Bおよびスペーサ43を備えたスターリングエンジンの気体潤滑構造が実現されている。
【0031】
次に本実施例にかかるスターリングエンジンの気体潤滑構造について説明する。この気体潤滑構造では、クランクケース120Bがクランクケース120B内を空間P1、P2に二分する隔壁部121を備えている。そして、二分された空間P1、P2それぞれの容積は、空間P1、P2が連通している場合の容積と比較して小さくなっている。このため空間P1、P2における作動流体の圧力変動幅は、空間P1、P2が連通している場合と比較して大きくなる。そしてこれによりこの気体潤滑構造は、クランクケース120B内から作動流体を導入して静圧気体潤滑を行うにあたり、より効果的に作動流体を蓄圧できる点で好適な静圧気体潤滑を実現できる。
またこの気体潤滑構造では、空間P1にスペーサ43を設けることで、空間P1のデッドボリュームを低減している。そしてこれによりこの気体潤滑構造は、クランクケース120B内から作動流体を導入する高温側気筒20側でさらに作動流体の圧力変動幅を大きくすることができ、この結果、さらに効果的に作動流体を蓄圧できる点で好適な静圧気体潤滑を実現できる。
またこの気体潤滑構造は、さらに高温側シリンダ22が形成する空間に亘ってスペーサ43を設けることで、より一層効果を高めることもできる。
またこの気体潤滑構造は、スペーサ43を発泡樹脂製とすることで、重量の増加を抑制できる点でも、好適な静圧気体潤滑を実現できる。
なお、クランクケース120Bは例えば実施例1で前述したスターリングエンジンの気体潤滑構造に適用することもできる。またこの場合にスペーサ43は例えば空間P1だけでなく、空間P2に適用することもできる。
【0032】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
例えば上述した実施例1では、静圧気体潤滑を行うにあたり、気筒20、30A側に同様の構造を適用した場合について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、静圧気体潤滑を行うにあたり、例えば低温側気筒側には適宜の構造が適用されてもよい。
また例えば上述した実施例では、導入部に相当するチェック弁40が加圧状態保持手段を兼ねる場合について説明した。しかしながら、本発明においては必ずしもこれに限られず、例えば加圧状態保持手段には、導入部とは別構成の適宜の構成が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10A、10B、10C スターリングエンジン
20 高温側気筒
21 膨張ピストン
22 高温側シリンダ
30A、30B 低温側気筒
31A、31B 圧縮ピストン
32 低温側シリンダ
40 チェック弁
43 スペーサ
120A、120B クランクケース



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温側シリンダおよび前記高温側シリンダ内を往復運動する高温側ピストンを備える高温側気筒と、低温側シリンダおよび前記低温側シリンダ内を往復運動する低温側ピストンを備える低温側気筒とからなる一対の気筒と、
前記高温側ピストンおよび前記低温側ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸が設けられたクランクケースと、を備えたスターリングエンジンにつき、
前記高温側ピストンおよび前記低温側ピストンのうち、少なくとも前記高温側ピストンに第1の中空部と、前記第1の中空部から前記高温側シリンダおよび低温側シリンダのうち、対応するシリンダとの間に形成されるクリアランスに作動流体を噴出する第1の給気部と、前記クランクケース内から前記第1の中空部に作動流体を導入する第1の導入部とを設けたスターリングエンジンの気体潤滑構造。
【請求項2】
請求項1記載のスターリングエンジンの気体潤滑構造であって、
前記低温側ピストンに第2の中空部と、前記第2の中空部から前記低温側シリンダとの間に形成されるクリアランスに作動流体を噴出する第2の給気部と、前記低温側シリンダ内の作動空間から前記第2の中空部に作動流体を導入する第2の導入部とを設けたスターリングエンジンの気体潤滑構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−226440(P2011−226440A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99046(P2010−99046)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】