説明

スチルベン誘導体、その製造方法、および電子写真感光体

【課題】 スチルベン誘導体の分子内にヒドラゾン基を含むトリフェニルアミン構造を有することにより、結着樹脂との相溶性が優れており、感度特性および耐溶剤性を有するスチルベン誘導体、その製造方法、およびスチルベン誘導体を含有した電子写真感光体を提供する。
【解決手段】 ヒドラゾン基を有するスチルベン誘導体、その製造方法、およびスチルベン誘導体を含有した電子写真感光体であって、下記一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を対象とする。
【化1】


(一般式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基等である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチルベン誘導体、その製造方法、および電子写真感光体に関し、特に、分子末端に所定のヒドラゾン基を有するスチルベン誘導体、その製造方法、およびそのようなスチルベン誘導体を含有した電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置等の電子写真感光体として、電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、電荷発生剤、および結着樹脂(バインダー樹脂)等の有機感光体材料からなる有機感光体が使用されている。かかる有機感光体は、従来の無機感光体に比べて、製造が容易であるとともに、感光体材料の選択肢が多様であることから、構造設計の自由度が高いという利点がある。
このような有機感光体材料のうち、所定の電荷移動度を有する電荷輸送剤として、下記一般式(49)で表されるように、特定のトリフェニルアミン構造を有するスチルベン化合物およびそれを用いた電子写真感光体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
(一般式(49)中、R14、R15、R18およびR19は、同一または異なってアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、またはハロゲン原子を示し、a、b、cおよびdは同一または異なって0〜3の整数を示す。R16およびR17は、同一または異なって水素原子またはアルキル基を示す。)
【0005】
また、同様に、電荷輸送剤として、下記一般式(50)で表されるように、特定のトリフェニルアミン構造を有するスチルベン化合物およびそれを用いた電子写真感光体が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【化2】

【0007】
(一般式(50)中、Ar1、Ar2、Ar5、Ar6はアリール基、Ar3およびAr4はアリーレン基、Xはアリーレン基、2本の結合手を有する複素環基を示し、Ar1とAr2またはAr5とAr6は互いに結合されていても良く、Ar1〜Ar6、Xの内、少なくとも一つの基はテトラヒドロ環を有するスピロ炭化水素を含む。)
【特許文献1】特開2002−40689号 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−286234号 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたスチルベン化合物は、結着樹脂との相溶性が不十分であるため、感光層中に均一に分散されず、電荷移動が生じにくいという問題が見られた。すなわち、開示されたスチルベン化合物は、電荷移動が不十分であって、感度特性が低いという問題が見られた。また、開示されたスチルベン化合物は、湿式現像用電子写真感光体として長時間使用した場合に、炭化水素系溶媒(液体現像液)によって浸されやすく、正孔輸送剤が溶出しやすいという問題が見られた。
【0009】
そこで、本発明者らは、スチルベン誘導体において、分子末端に所定の置換基を有するヒドラゾン基を導入することにより、結着樹脂との相溶性が優れ、感光層中に均一に分散されるため、高い電荷移動度を示すという事実とともに、湿式現像用電子写真感光体として、長時間使用した場合であっても、正孔輸送剤等の溶出量を著しく低下させるととともに、所定感度特性を維持させることができるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、電子写真感光体等の電荷輸送剤として好適に用いることができる感度特性および耐溶剤性に優れたスチルベン誘導体、その製造方法、および、そのようなスチルベン誘導体を有する電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、下記一般式(1)で表されることを特徴とするスチルベン誘導体が提供され、上述した問題点を解決することができる。
【0011】
【化3】

【0012】
(一般式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0013】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中のAが、下記式(2)で表される2価の有機基であることが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
(一般式(2)中のR8〜R13は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基である。)
【0016】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中の複数のR1およびR2が、炭素数1〜5の置換または非置換のアルキル基であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中の複数のR3〜R7が、水素原子または炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基であることが好ましい。
【0018】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中の複数のR3およびR7のうち少なくとも一つが、炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の別の態様は、反応式(1)で表されるスチルベン誘導体の製造方法であって、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体とを、触媒の存在下に反応させて、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を得ることを特徴とするスチルベン誘導体の製造方法である。
【0020】
【化5】

【0021】
(反応式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0022】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法を実施するにあたり、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、反応式(2)で示されるように、下記一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体とを、触媒の存在下に反応させ一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して得られたホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することが好ましい。
【0023】
【化6】

【0024】
(反応式(2)中の複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0025】
また、本発明のさらに別の態様は、導電性基体上に感光層を設けた電子写真感光体であって、感光層が、上述した一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体であることが好ましい。
【0026】
【化7】

【0027】
(一般式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0028】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、感光層が、電荷発生剤および電子輸送剤をさらに含有した単層型であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のスチルベン誘導体によれば、一般式(1)で表される所定構造を有するスチルベン誘導体が提供され、高い電荷移動度を示すとともに、優れた耐溶剤性を示すことができる。
すなわち、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体は、分子末端に所定の置換基を有するヒドラゾン基を導入することにより、スチルベン誘導体の極性が上がるため、低極性溶剤への耐溶剤性が向上するとともに、結着樹脂との相溶性が優れている。このような特長により、感光層中に均一に分散されるため、高い電荷移動度を示すことができる。また、湿式現像用電子写真感光体として、長時間使用した場合であっても、正孔輸送剤等の溶出量を著しく低下させるととともに、所定感度特性を維持することができる。
したがって、このようなスチルベン誘導体を電子写真感光体の電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用することにより、感度特性および耐溶剤性に優れた電子写真感光体を提供することができる。
【0030】
また、本発明のスチルベン誘導体によれば、一般式(1)中のAが、所定の芳香族環構造を含むことにより、分子内共役が広がり、電荷移動度を高めることができる。
すなわち、このような構造を有するスチルベン誘導体を、電子写真感光体における電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用することにより、優れた感度特性を有する電子写真感光体を提供することができる。また、このような構造であれば、比較的導入が容易であるため、所定のスチルベン誘導体を、比較的高い収率で生産することができる。
【0031】
また、本発明のスチルベン誘導体によれば、一般式(1)中のR1およびR2が、炭素数1〜5のアルキル基であることにより、結着樹脂との相溶性や、感度特性をさらに向上させることができる。
すなわち、このような置換基を有するスチルベン誘導体を、電子写真感光体における電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用することにより、結着樹脂との相溶性が向上し、耐久性に優れた電子写真感光体を提供することができる。また、ドナーとして作用するヒドラゾンの窒素原子が分子末端に配置されているため、正孔の分子間移動が起こりやすく、感度特性により優れた電子写真感光体を提供することができる。さらに、このような置換基であれば、比較的導入が容易であるため、所定のスチベン誘導体を、比較的高い収率で生産することができる。
【0032】
また、本発明のスチルベン誘導体によれば、一般式(1)中のR3〜R7が、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であることにより、所定の構造を有するスチルベン誘導体の製造が容易になり、かかるスチルベンを安定して得ることができるとともに、結着樹脂との相溶性をさらに向上させることができる。
すなわち、このような置換基を有するスチルベン誘導体を、電子写真感光体における電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用することにより、感度特性に優れた電子写真感光体を提供することができる。さらに、このような置換基であれば、比較的導入が容易であるため、所定のスチルベン誘導体を比較的高い収率で生産することができる。
【0033】
また、本発明のスチルベン誘導体によれば、一般式(1)中のR3およびR7のうち少なくとも一つが炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基であることにより、結着樹脂との相溶性をさらに向上させることができる。
すなわち、このような置換基を有するスチルベン誘導体を、電子写真感光体における電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用することにより、かかるスチルベン誘導体が感光層中に均一に分散されるため、感度特性により優れた電子写真感光体を提供することができる。また、このような置換基であれば、比較的導入が容易であるため、所定のスチルベン誘導体を、比較的高い収率で生産することができる。
【0034】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法によれば、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と所定のジリン酸エステル誘導体とを、触媒の存在下に反応させ、所定のスチルベン誘導体を製造することにより、結着樹脂との相溶性に優れ、高い電荷移動度を示すとともに、湿式現像用電子写真感光体に長時間しようした場合でも、正孔輸送剤の溶出量を著しく低下させるととともに、所定感度特性を維持させることができるスチルベン誘導体を高い収率で得ることができる。
【0035】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法によれば、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、所定のホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、所定のヒドラジン誘導体とを、触媒の存在下に反応させて所定のヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤ−(Vilsmeier)法により、さらにホルミル化して得られたヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することにより、結果として、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体をさらに効率的に得ることができる。
【0036】
また、本発明の電子写真感光体によれば、一般式(1)で表される所定構造を有するスチルベン誘導体を含有することにより、高い電荷移動度を有し、湿式現像用電子写真感光体に長時間使用した場合でも、正孔輸送剤の溶出量を著しく低下させるととともに、所定感度特性を維持させることができる電子写真感光体を効率的に得ることができる。
【0037】
また、本発明の電子写真感光体によれば、一般式(1)で表される所定構造を有するスチルベン誘導体を含有した単層型の感光体とすることにより、構成や製造が容易であるにもかかわらず長時間にわたって所定感度を維持する電子写真感光体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明のスチルベン誘導体、その製造方法、および、電子写真感光体に関する実施の形態を、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0039】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、下記一般式(1)で表されるスチルベン誘導体である。
【0040】
【化8】

【0041】
(一般式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0042】
ここで、一般式(1)中のAが、下記式(2)で表される2価の有機基であることが好ましい。
この理由は、一般式(1)中のAが、所定の芳香族環構造であることにより、分子内共役が広がり、電荷移動度が優れており、かかるスチルベン誘導体を電子写真感光体における電荷輸送剤として使用することにより、優れた感度特性を有した電子写真感光体を提供することができるためである。
【0043】
【化2】

【0044】
(一般式(2)中のR8〜R13は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基である。)
【0045】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中のR1およびR2が、炭素数1〜5の置換または非置換のアルキル基であることが好ましい。
この理由は、一般式(1)中のR1およびR2のうち少なくともひとつが所定のアルキル基であることにより、結着樹脂との相溶性がさらに優れており、かかるスチルベン誘導体を電子写真感光体における電荷輸送剤として使用することにより、感光層中で均一に分散されるため、感度特性にさらに優れた電子写真感光体を提供することができるためである。
【0046】
ここで、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体の好適例として、下記構造式(8)〜(10)で表されるスチルベン誘導体(HTM−A〜C)を示す。
【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体の製造方法であって、下記反応式(1)に示すように、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体とを、触媒の存在下に反応させて、一般式(1)で表されるヒドラゾン基を有するスチルベン誘導体を得ることを特徴とするスチルベン誘導体の製造方法である。
なお、反応式(1)中のAおよびR1〜R7は、特に断りがない限り、第1の実施形態で示した一般式(1)中のAおよびR1〜R7と同様の内容である。
【0051】
【化13】

【0052】
1.反応条件
まず、反応式(1)を実施するための反応条件について詳細に説明する。
【0053】
1−(1) 反応温度と反応時間
また、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体との反応は、反応温度を通常−20〜30℃で行うことが好ましく、その反応時間を10〜18時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0054】
1−(2) 溶媒
また、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体との反応に使用する好適な溶媒としては、当該反応に影響を及ぼさないものであれば良いが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0055】
1−(3) 触媒
また、かかる反応に使用する触媒(塩基)としては、ナトリウムメトキシドやナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド、水素化ナトリウムや水素化カリウム等の金属水素化物、あるいは、n−ブチルリチウム等の金属塩が好適なものとして挙げられる。
ここで、かかる触媒の添加量を、ホルミル化トリフェニルアミン誘導体1モルに対して、1.1〜2モルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる触媒の添加量が1.1モル未満の値となると、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体と、の間の反応性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる触媒の添加量が2モルを超えると、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体と、の間の反応を制御することが著しく困難になる場合があるためである。
【0056】
1−(4) 添加割合
また、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体と、の間の反応を実施するにあたり、かかる添加割合を、モル比で2:1〜6:1の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、ジリン酸エステル誘導体との添加割合が、2:1未満の値になると、中間体が生成しやすくなり、ホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、ジリン酸エステル誘導体とが、適切に対応して反応することが困難になる場合があるためである。また、かかる添加割合が、6:1を超えると、未反応のホルミル化トリフェニルアミン誘導体が多く残留し、精製を困難にする場合があるためである。
したがって、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体と、の添加割合を、モル比で2:1〜4:1の範囲内の値とすることが好ましい。
【0057】
2.一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成
まず、反応式(1)を実施するうえで、原料となる一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成方法について、第1工程および第2工程に分けて詳しく説明する。
【0058】
2−(1) 反応式(2)
一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体は、下記反応式(2)に示すように、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体とを、触媒の存在下に反応させて一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法により、さらにホルミル化して合成することが好ましい。
なお、反応式(1)中のR1〜R7は特に断りがない限り、第1の実施形態で示した一般式(1)中のR1〜R7と同様の内容である。
【0059】
【化14】

【0060】
2−(2) 第1工程
第1工程は、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体と、を反応させて一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を合成する工程である。
【0061】
また、一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を合成するにあたり、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体との添加割合を、モル比で1:0.8〜1:5.0の範囲内とすることが好ましい。
この理由は、かかるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、ヒドラジン誘導体との添加割合が、1:0.8未満の値になると、目的物であるトリフェニルアミン誘導体の生成量が低下する場合があるためである。一方、かかるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、ヒドラジン誘導体との添加割合が、1:5.0を超えると未反応のヒドラジン誘導体が多く残留するため、目的物であるトリフェニルアミン誘導体の精製が困難になる場合があるためである。
【0062】
また、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体とを反応させるにあたり、反応温度を、20〜150℃の範囲内の値にするとともに、反応時間を0.5〜8時間の範囲内にすることが好ましい。
この理由は、このような条件であれば、比較的簡易な製造設備を用いて、所望の反応を効率的に実施できるためである。
【0063】
また、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体との反応に使用する好適な溶媒としては、当該反応に影響を及ぼさないものであれば良いが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドラフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0064】
また、かかる反応に使用する触媒としては、例えば、塩化亜鉛、硫酸、トルエンスルホン酸等が好適なものとして挙げられる。
ここで、かかる触媒の添加量を、ホルミル化トリフェニルアミン誘導体1モルに対して、0.001〜2.0モルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる触媒の添加量が0.001モル未満の値となると、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体と、の間の反応性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる触媒の添加量が2.0モルを超えると、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体と、の間の反応を制御することが著しく困難になる場合があるためである。
【0065】
2−(3) 第2工程
第2工程は、一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体をフィルスマイヤー(Vilsmeier)法を用いてホルミル化して、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体を合成する工程である。
【0066】
また、フィルスマイヤー試薬(Vilsmeier試薬)として、以下の化合物(i)および(ii)の組合せを使用することが好ましい。
(i)オキシ塩化リン、ホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリフェニルホスフィン−臭素、ヘキサクロロトリホスファザトリエン等のハロゲン化剤
(ii)N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルホルムアニリド(MFA)、N−ホルミルモルホリン、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、特に、本発明では、フィルスマイヤー試薬として、オキシ塩化リンと、溶媒としても使用できるDMFとの組み合わせが好適に用いられる。
【0067】
また、フィルスマイヤー試薬の調製において、化合物(i)と(ii)との使用割合は、通常モル比で、1:1〜1:20の範囲内の値とすることが好ましく、1:1〜1:5の範囲内の値とすることがより好ましい。
さらに、フィルスマイヤー試薬の使用量に関して、一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体1モルに対して、1〜20モル量の範囲内の値とすることが好ましく、1.2〜10モル量の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、フィルスマイヤー法における、一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体のホルミル化の反応条件に関して、反応温度を通常130℃以下の温度で行い、反応時間を5〜360分間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0068】
3.一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成
次いで、反応式(2)を実施するうえで、原料となる一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成方法について、第1´工程および第2´工程に分けて詳しく説明する。
【0069】
3−(1) 反応式(3)
一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体は、下記反応式(3)に示すように、一般式(11)で表されるアニリン誘導体と、式(12)で表されるヨードベンゼンとを、反応させて一般式(13)で表されるトリフェニアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法でホルミル化して、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を合成する。
なお、反応式(3)中のR1〜R7は特に断りがない限り、第1の実施形態で示した一般式(1)中のR1〜R7と同様の内容である。
【0070】
【化15】

【0071】
3−(2) 第1´工程
第1´工程は、一般式(11)で表されるアニリン誘導体と、一般式(12)で表されるヨードベンゼン誘導体とを反応させて一般式(13)で表されるトリフェニルアミン誘導体を合成する工程である。
【0072】
また、一般式(13)で表されるトリフェニルアミン誘導体を合成するにあたり、一般式(11)で表されるアニリン誘導体と、一般式(12)で表されるヨードベンゼン誘導体との添加割合を、モル比で1:0.5〜1:20の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるアニリン誘導体と、ヨードベンゼン誘導体との添加割合が、1:0.5未満の値になると、目的物であるトリフェニルアミン誘導体の生成量が低下する場合があるためである。一方、かかるアニリン誘導体と、ヨードベンゼン誘導体との添加割合が、1:20を超えると、未反応のヨードベンゼン誘導体が多く残留するため、目的物であるトリフェニルアミン誘導体の精製が困難になる場合があるためである。
【0073】
また、一般式(11)で表されるアニリン誘導体と、一般式(12)で表されるヨードベンゼンとを反応させるにあたり、反応温度を、通常160〜250℃の範囲内の値とするとともに、反応温度を1〜30時間の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような反応条件であれば、比較的簡易な製造設備を用いて、所望の反応を効率的に実施できるためである。
【0074】
3−(3) 第2´工程
第2´工程は、一般式(13)で表されるトリフェニルアミン誘導体をフィルスマイヤー(Vismeier)法でホルミル化して、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を合成する工程である。
【0075】
また、フィルスマイヤー試薬(Vilsmeier試薬)として、2−(3)において示したフィルスマイヤー試薬と同様のものを使用することが好ましい。
さらに、フィルスマイヤー試薬の使用量に関して、一般式(13)で表されるトリフェニルアミン誘導体1モルに対して、1〜20モル量の範囲内の値とすることが好ましく、1.2〜10モル量の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、フィルスマイヤー法における、一般式(13)で表されるトリフェニルアミン誘導体のホルミル化の反応条件に関して、反応温度を通常130℃以下の温度で行い、反応時間を5〜360分間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0076】
4.ジリン酸エステル誘導体の合成
次いで、反応式(1)を実施するうえで、原料となる一般式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体の合成方法について詳しく説明する。
【0077】
4−(1) 反応式
一般式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体は、下記反応式(4)に示すように、一般式(14)で表されるハロゲン化メチル誘導体と、亜リン酸トリエチルとを、反応させて合成する。
【0078】
【化16】

【0079】
(反応式(4)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、Xはハロゲン原子、例えば塩素原子または臭素原子である。)
【0080】
4−(2) 反応温度および反応時間
さらに、かかる反応温度を、通常80〜150℃の範囲内の値とし、反応時間を0.5〜10時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0081】
4−(3) 溶媒
また、かかるジリン酸エステル誘導体の合成を実施するにあたり、例えば、一般式(14)で表されるジクロロエチレン誘導体に対して、亜リン酸トリエチルを無溶媒または適当な溶媒中に添加して、反応させることが好ましい。この理由は、このように反応させることにより、反応式(1)の出発原料の一つであるジリン酸エステル誘導体(4)を高い収率で得ることができるためである。
かかるジリン酸エステル誘導体を合成する際に用いる溶媒としては、合成反応に影響を及ぼさないものであれば良いが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド等が、好適例として挙げられる。
【0082】
4−(4) 添加割合
また、一般式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体を合成するうえで、一般式(14)で表されるハロゲンメチル誘導体1モルに対して、亜リン酸トリエチルの使用割合を、少なくとも2モルとすることが好ましく、2〜10モル量の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0083】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、導電性基体上に感光体層を設けた電子写真感光体であって、感光体層に、一般式(1)で表されるヒドラゾン基を有するスチルベン誘導体を含有する電子写真感光体である。
ここで、電子写真感光体には、主として単層型感光体と積層型感光体とがあるが、本発明のスチルベン誘導体は、いずれのタイプにも適用可能である。
ただし、特に正負いずれの帯電型感光体に使用できること、構造が簡単であって、製造が容易であること、感光体層を形成する際の被膜欠陥を効果的に抑制できること、層間の界面が少なく、光学的特性を向上させやすい等の理由から、単層型感光体に適用することが好ましい。
【0084】
1.単層型感光体
(1) 基本的構成
図1(a)に示すように、単層型感光体10は、導電性基体12上に単一の感光体層14を設けたものである。
この感光体層は、例えば、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体(正孔輸送剤)と、電荷発生剤と、結着樹脂と、さらに必要に応じて電子輸送剤を適当な溶媒に溶解または分散させ、得られた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。かかる単層型感光体は、単独の構成で正負いずれの帯電型にも適用可能であるとともに、層構成が簡単であって、生産性に優れているという特徴がある。
また、得られた単層型感光体は、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含んでいることから、残留電位が低下しているとともに、所定感度を有しているという特徴がある。
さらに、単層型感光体の感光体層に、電子輸送剤を含有させる場合には、電荷発生剤と正孔輸送剤との電子の授受が効率よく行われるようになり、感度等がより安定する傾向が見られる。
【0085】
(2)電荷発生剤
(2)−1 種類
本発明の電子写真感光体に使用される電荷発生剤としては、無金属フタロシアニン(τ型またはX型)、チタニルフタロシアニン(α型またはY型)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)、およびクロロガリウムフタロシアニン(II型)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましい。
この理由は、電荷発生剤の種類を特定することにより、正孔輸送剤および電子輸送剤を併用した場合に、感度特性、電気特性および安定性等がより優れた電子写真感光体を提供することができるためである。
【0086】
(2)−2 具体例
これらの電荷発生剤のうち、具体的に、下記式(15)〜(18)で表されるフタロシアニン系顔料(CGM−A〜CGM−D)を使用することがより好ましい。
【0087】
【化17】

【0088】
【化18】

【0089】
【化19】

【0090】
【化20】

【0091】
また、従来公知の電荷発生剤を単独使用したり、併用したりすることも好ましい。かかる電荷発生剤の種類としては、オキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、ジオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、ピリリウム顔料、アンサンスロン顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料といった有機光導電体や、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコンといった無機光導電剤等の一種単独または二種以上の混合物が挙げられる。
【0092】
また、上述した電荷発生剤のうち、特に半導体レーザ等の光源を備えたレーザビームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置に使用する場合には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、無金属フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンのいずれかを少なくともひとつが含まれていることが好ましい。
一方、ハロゲンランプ等の白色の光源を備えた静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置に使用する場合には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えばペリレン系顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0093】
また、本発明で用いられる電荷発生剤のうち、式(16)で表される化合物(CGM−B)を用いる場合には、下記式(19)で表される分散補助剤(例えば、C.IPigmentOrange16)を添加してもよい。
この理由は、かかる電荷発生剤(CGM−B)と分散補助剤(C.IPigmentOrange16)をあわせて用いることにより、塗工溶液中でのCGM−Bの分散性を向上させ、塗工溶液のポットライフを長くすることができるためである。
なお、式(19)で表される分散補助剤を使用する場合、その添加量を、全電荷発生剤100重量部に対して、30〜200重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる分散補助剤の添加量が30重量部未満の値になると、CGM−Bの塗工溶液中での分散性が不十分になり、感光体として適正な膜か製造されないためである。一方、かかる分散補助剤が200重量部を超えると、かかる電荷発生剤の量子収率を高める効果が不十分となり、電子写真感光体の感度特性、電気特性、および安定性等を向上させることができなくなるためである。
【0094】
【化21】

【0095】
(3) 正孔輸送剤
本発明の電子写真感光体においては、正孔輸送剤である本発明のスチルベン誘導体とともに、従来公知の他の正孔輸送剤を感光体層に含有させることも好ましい。
このような正孔輸送剤としては、高い正孔輸送能を有する種々の化合物、例えば下記一般式(20)〜(32)で表される化合物(HTM−1〜HTM−13)等があげられる。
【0096】
【化22】

【0097】
(式中、Rh1、Rh2、Rh3、Rh4、Rh5およびRh6は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。aおよびbは、同一または異なっていても良
い0〜4の整数を示し、c、d、eおよびfは同一または異なっていても良い0〜5の整
数を示す。ただし、a、b、c、d、eまたはfが2以上のとき、各Rh1、Rh2、Rh3、Rh4、Rh5およびRh6は異なっていても良い。)
【0098】
【化23】

【0099】
(式中、Rh7、Rh8、Rh9、Rh10 およびRh11は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。g、h、iおよびjは、同一または異なっていても良い0〜5の整数を示し、kは0〜4の整数を示す。ただし、g、h、i、jまたはkが2以上のとき、各Rh7、Rh8、Rh9、Rh10およびRh11は異なっていても良い。)
【0100】
【化24】

【0101】
(式中、Rh12、Rh13、Rh14およびRh15は互いに独立しており、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示し、Rh16はハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、または置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。m、n、oおよびpは、同一または異なっていても良い0〜5の整数を示し、qは、0〜6の整数を示す。ただし、m、n、o、pまたはqが2以上のとき、各Rh12、Rh13、Rh14、Rh15およびRh16は異なっていても良い。)
【0102】
【化25】

【0103】
(式中、Rh17、Rh18、Rh19およびRh20は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示。r、s、tおよびuは、同一または異なっていても良い、0〜5の整数を示す。ただし、r、s、tまたはuが2以上のとき、各Rh17、Rh18、Rh19およびRh20は異なっていても良い。)
【0104】
【化26】

【0105】
(式中、Rh21およびRh22は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。Rh23、Rh24、Rh25およびRh26は互いに独立しており、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜40のアリール基を示す。)
【0106】
【化27】

【0107】
(式中、Rh27、Rh28およびRh29は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0108】
【化28】

【0109】
(式中、Rh30、Rh31、Rh32およびRh33は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0110】
【化29】

【0111】
(式中、Rh34、Rh35、Rh36、Rh37およびRh38は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0112】
【化30】

【0113】
(式中、Rh39は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rh40、Rh41およびRh42は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0114】
【化31】

【0115】
(式中、Rh43、Rh44およびRh45は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0116】
【化32】

【0117】
(式中、Rh46およびRh47は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、あるいは、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。)
【0118】
【化33】

【0119】
(式中、Rh50、Rh51、Rh52、Rh53、Rh54およびRh5は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、あるいは、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。また、αは1〜10の整数を示し、v、w、x、y、zおよびβは同一または異なっていても良い0〜2の整数を示す。ただし、v、w、x、y、zまたはβが2のとき、各Rh50、Rh51、Rh52、Rh53、Rh54およびRh55は異なっていても良い。)
【0120】
【化34】

【0121】
(式中、Rh56、Rh57、Rh58およびRh59は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示し、Φは次式のいずれかで表される基である。)
【0122】
【化35】

【0123】
また、本発明においては、上記例示の正孔輸送剤HTM−1〜HTM−13等とともに、従来公知の正孔輸送物質、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等との組み合わせが挙げられる。
【0124】
(4)電子輸送剤
(4)−1 種類
電子輸送剤の種類としては、キノン誘導体を含むことが好ましい。例えば、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アゾキノン誘導体等が挙げられる。
この理由は、電子輸送剤として、特定の化合物を使用することにより、電子受容性に優れており、また電荷発生剤との相溶性が優れていることから、感度特性や耐久性に優れた電子写真感光体を提供することができるためである。
【0125】
(4)−2 具体例
また、電子輸送剤の具体例として、下記式(34)〜(36)で表される化合物(ETM−A〜ETM−C)が挙げられる。
【0126】
【化36】

【0127】
【化37】

【0128】
【化38】

【0129】
また、従来公知の電子輸送剤を単独使用したり、併用したりすることも好ましい。かかる電子輸送剤の種類としては、ジフェノキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体のほか、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等の電子受容性を有する種々の化合物が挙げられ、単独1種または2種以上をブレンドして使用してもよい。
また、これらの電子輸送剤のうち、電界強度が5×105v/cmにおける電子移動度が1.0×10-8cm2/V/sec以上である化合物がより好ましい。
【0130】
(5)結着樹脂
(5)−1 種類
電荷発生剤等を分散させるための結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールZ型、ビスフェノールZC型、ビスフェノールC型、ビスフェノールA型等のポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート、ウレタン−アクリレート等の光硬化型樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが使用可能である。
【0131】
(6) 添加剤
また、感光体層には、上記各成分のほかに、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、従来公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光体層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用しても良い。
【0132】
(7) 配合割合
本発明の電子写真感光体が単層型の感光体である場合、電荷発生剤は、結着樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部の割合で配合すれば良い。また、本発明の一般式(1)で表されるスチルベン誘導体(正孔輸送剤)は、結着樹脂100重量部に対して20〜500重量部、好ましくは30〜200重量部の割合で配合すれば良い。電子輸送剤を含有させる場合、電子輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは10〜80重量部とするのが適当である。
また、本発明の電子写真感光体が積層型の感光体である場合、電荷発生層を構成する電荷発生剤と結着樹脂とは、種々の割合で使用することができるが、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤を5〜1000重量部、好ましくは30〜500重量部の割合で配合するのが適当である。さらに、電荷発生層に正孔輸送剤を含有させる場合は、正孔輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して10〜500重量部、好ましくは50〜200重量部とするのが適当である。
【0133】
電荷輸送層を構成する正孔輸送剤と、結着樹脂とは、電荷の輸送を阻害しない範囲および結晶化しない範囲で種々の割合で使用することができるが、光照射により電荷発生層で生じた電荷が容易に輸送できるように、結着樹脂100重量部に対して、本発明の一般式(1)で表されるスチルベン誘導体(正孔輸送剤)を10〜500重量部、好ましくは25〜200重量部の割合で配合するのが適当である。電荷輸送層に電子輸送剤を含有させる場合は、電子輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して5〜200重量部、好ましくは10〜100重量部とするのが適当である。
【0134】
(8) 構造
また、単層型感光体における感光体層の厚さは5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。そして、このような感光体層が形成される導電性基体としては、導電性を有する種々の材料を使用することができ、例えば鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属や、上記金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で被覆されたガラス等があげられる。
【0135】
導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状、ドラム状等のいずれであってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有していれば良い。また、導電性基体は、使用に際して十分な機械的強度を有するもことが好ましい。前記感光体層を塗布の方法により形成する場合には、前記例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を適当な溶剤とともに、公知の方法、例えばロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機等を用いて分散混合して分散液を調整し、これを公知の手段により塗布して乾燥させれば良い。
【0136】
また、単層型感光体10の構成に関して、図1(b)に示すように、導電性基体12と感光体層14との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層16が形成されていても良い。また、図1(c)に示すように、感光体層14の表面には、保護層18が形成されていても良い。
【0137】
(9) 製造方法
分散液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
さらに、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光体層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用しても良い。
【0138】
2.積層型感光体
図2(a)に示すように、積層型感光体20は、導電性基体12上に、蒸着または塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層24を形成し、次いでこの電荷発生層24上に、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体(正孔輸送剤)の少なくとも1種と結着樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥させて電荷輸送層22を形成することによって作製される。
また、上記構造とは逆に、図2(b)に示すように、導電性基体12上に電荷輸送層22を形成し、その上に電荷発生層24を形成しても良い。
ただし、電荷発生層24は、電荷輸送層22に比べて膜厚がごく薄いため、その保護のためには、図2(a)に示すように、電荷発生層24の上に電荷輸送層22を形成することがより好ましい。
なお、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、結着剤等については、単層型感光体と同様の内容とすることができる。
【0139】
また、積層型感光体は、上記電荷発生層および電荷輸送層の形成順序と、電荷輸送層に使用する電荷輸送剤の種類によって、正負いずれの帯電型となるかが選択される。例えば、上記のように、導電性基体上に電荷発生層を形成し、その上に電荷輸送層を形成した場合において、電荷輸送層における電荷輸送剤として、本発明のスチルベン誘導体のような正孔輸送剤を使用した場合には、感光体は負帯電型となる。この場合、電荷発生層には電子輸送剤を含有させても良い。
そして、本発明の積層型電子写真感光体は、感光体の残留電位が低下するとともに、所定感度を有しているという特徴がある。
なお、積層型感光体における感光体層の厚さは、電荷発生層が0.01〜5μm程度、好ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が2〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。
【実施例】
【0140】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0141】
[実施例1]
(1)スチルベン誘導体の合成
(1)−1 トリフェニルアミン誘導体の合成
下記式(38)で表されるトリフェニルアミン誘導体の合成を、下記の反応式(5)に沿って実施した。
すなわち、容量500mlの2つ口フラスコ内に、無水炭酸カリウム152.0g(1.10mol)、および粉末銅銅9.5g(0.15mol)を加え、2時間加熱して、均一になるまで攪拌した。次いで、室温まで冷却した後、下記式(37)で表されるアニリン化合物67.6g(0.5mol)と、ヨードベンゼン68.9g(0.34mol)とを添加した後、220℃に再加熱し、2.5時間反応させた。その後、室温まで冷却した後、100mlのトルエンを添加し、ろ過処理をした。得られた残渣をトルエンで溶解し、活性白土を用いて乾燥させた。その後、残渣をトルエンで溶解し、さらにメタノールを添加して晶析させた。その後、もう一度、残渣をトルエンで溶解し、さらにメタノールを添加して晶析させ、得られた結晶をろ別して、乾燥した。その後、得られた結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/へキサン溶媒)を用いて精製し、式(38)で表されるトリフェニルアミン誘導体79.3gを得た(収率55.2%)。
【0142】
【化39】

【0143】
(1)−2 ホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成
次いで、式(39)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成を、下記の反応式(6)に沿って実施した。
すなわち、500mlのフラスコ内に、式(38)で表されるトリフェニルアミン誘導体60g(0.21mol)と、ジメチルホルムアミド(DMF)450mlと、オキシ塩化リン酸41.8g(0.27mol)と、を収容し、85℃以上で、3時間撹拌した。反応後、反応液をイオン交換水600ml中に滴下し、析出した固体をろ別した。得られた固体はイオン交換水にて撹拌洗浄した。その後、固体をトルエンに溶解させ、有機層をイオン交換水にて5回洗浄を行った。その後、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムおよび活性白土を加え、乾燥および吸着処理を行った。その後、トルエンを減圧留去し、残渣を200mlのトルエンに溶解させ、メタノールより晶析させ、式(39)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体51.4gを得た(収率77.6%)。
【0144】
【化40】

【0145】
(1)−3 ヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体の合成
次いで、式(41)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体の合成を、下記反応式(7)に沿って実施した。
すなわち、500mlの二つ口フラスコ内に、式(39)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体10g(0.032mol)と、トルエン100mlと、塩化亜鉛5.2g(0.038mol)と、を収容した。さらに、トルエン10mlに溶解した1,1−ジメチルヒドラジン2.3g(0.038mol)を添加して、2時間還流をおこなった。得られた反応液を室温まで冷却した後、イオン交換水400ml中に滴下した。得られたトルエン層をイオン交換水にて洗浄し、その後、得られた有機層を無水硫酸ナトリウム、および活性白土を加え、乾燥および吸着処理をおこなった。次いで、トルエンを減圧留去して得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム溶媒)を用いて精製をし、式(41)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を9.4g得た(収率82%)。
【0146】
【化41】

【0147】
(1)−4 ヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成
次いで、式(42)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成を、下記反応式(8)に沿って実施した。
すなわち、200mlのフラスコ内に、式(41)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体9.2g(0.026mol)と、ジメチルホルムアミド(DMF)50mlと、ジメチルホルムアミド10mlに溶解したオキシ塩化リン酸(POCl3)4.7g(0.031mol)と、を収容し、85℃で、2時間撹拌した。得られた反応液を、イオン交換水400mlおよびトルエン100mlからなる混合液中に滴下した後、生成したトルエン層をイオン交換水にて洗浄した。その後、得られた有機層に無水硫酸ナトリウムおよび活性白土を加え、乾燥および吸着処理を行った。次いで、トルエンを減圧留去して得られた残渣を、シリカゲルクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム溶媒)を用いて精製し、式(42)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体8.2gを得た(収率82%)。
【0148】
【化42】

【0149】
(1)−5 ジリン酸エステル誘導体の合成
次いで、式(44)で表されるジリン酸エステル誘導体の合成を、下記反応式(9)に沿って実施した。
すなわち、500mlのフラスコ内に、1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン52.5g(0.3mol)と、亜リン酸トリエチル130g(0.78mol)と、を収容して、8時間以上還流した。その後、室温まで冷却して、析出結晶をろ別した。さらに、結晶をn−へキサンを用いて洗浄をおこなって、クロロホルムーn−ヘキサンを用いて再結晶させ、式(44)で表されるジリン酸エステル誘導体98.1gを得た(収率86.4%)。
【0150】
【化43】

【0151】
(1)−6 スチルベン誘導体の作成
次いで、式(8)で表されるスチルベン誘導体の作成を、下記の反応式(10)に沿って実施した。
すなわち、200mlのフラスコ内に、(1)−5で得られた式(44)で表されるジリン酸エステル3.9g(0.01mol)を添加し、0℃に保持した状態で、アルゴン置換した後、乾燥済みのTHF50mlと、28%NaOMe4.9g(0.025mol)と、を収容し、30分攪拌した。次いで、この容器内に、THF20mlに溶解した式(42)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体8g(0.021mol)を収容し、室温で約12時間撹拌した。次いで、反応液をイオン交換水500mlに注ぎ、トルエン抽出をおこなった後、得られた有機層をイオン交換水にて5回洗浄した。さらに、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム溶媒)で精製して、式(8)で表されるスチルベン誘導体6.7gを得た(収率80%)。
【0152】
【化44】

【0153】
(2)評価
(2)−1 初期帯電電位、初期感度および半減露光量測定
得られたスチルベン誘導体(HTM−A)を正孔輸送剤として、単層型の電子写真感光体を作成して、初期帯電電位、初期感度および半減露光量を測定した。
すなわち、容器内に、正孔輸送剤として、式(8)で表されるスチルベン誘導体(HTM−A)を60重量部と、電荷発生剤として、式(15)で表されるX型無金属フタロシアニン(CGM−A)を5重量部と、結着樹脂として、式(45)で表される粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂(Resin−A)100重量部と、溶媒としてのテトラヒドロフラン800重量部に対して添加した。次いで、ボールミルを用いて50時間混合分散して、単層型感光体層用の塗布液を作成した。得られた塗布液を、導電性基材(アルミニウム素管)上に、ディップコート法にて基材外面全域に塗布し、100℃、30分間の条件で熱風乾燥して、膜厚25μmの単層型の電子写真感光体を得た。
得られた電子写真感光体における初期帯電電位、初期感度および半減露光量を測定した。すなわち、ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、700Vになるように帯電させた状態で電位を測定し、初期帯電電位(Vo)とした。次いで、ハロゲンランプの光からハンドパルスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅:20nm、光量:1.5μJ/cm2)を感光体表面に照射した。照射後、表面電位が1/2になるのに要した時間を測定し、感度特性の指標としての半減露光量(E1/2)を測定した。さらに、照射後、330msec経過した後の電位を測定し、初期感度(Vr)とした。得られた結果を表1に示す。
【0154】
(2)−2 耐溶剤性評価
また、得られた単層型電子写真感光体を、その感光層の全面が浸るように、現像液として使用される炭化水素系溶剤であるアイソパーH500mlに、温度25℃、2000時間の条件で浸漬した。その後、現像液から電子写真感光体を取り出して、(2)−1で記載した初期感度測定と同様の方法で、感度を測定した。次いで、現像液に浸漬した後の感度から、初期感度を引いた値を算出し、浸漬後感度変化(Vr2000)とした。得られた結果を表1に示す。
【0155】
【化45】

【0156】
[実施例2〜4]
実施例2〜4においては、実施例1の塗布液中に、電子輸送剤として、式(34)〜(36)で表される電子輸送剤(ETM−A〜C)をそれぞれ20重量部添加したほかは、実施例1と同様に単層型感光体層を作成して、評価した。
【0157】
[実施例5〜8]
実施例5〜8においては、実施例1〜4で使用したスチルベン誘導体(HTM−A)の代わりに、式(9)で表されるスチルベン誘導体(HTM−B)を使用したほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0158】
[実施例9〜12]
実施例9〜12においては、実施例1〜4で使用したスチルベン誘導体(HTM−A)の代わりに、式(10)で表されるスチルベン誘導体(HTM−C)を使用したほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0159】
[比較例1〜4]
比較例1〜4においては、実施例1〜4で使用したスチルベン誘導体(HTM−A)の代わりに、式(46)で表されるスチルベン誘導体(HTM−D)を使用したほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0160】
【化46】

【0161】
[比較例5〜8]
比較例5〜8においては、実施例1〜4で使用したスチルベン誘導体(HTM−A)の代わりに、式(47)で表されるスチルベン誘導体(HTM−E)を使用したほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0162】
【化47】

【0163】
[比較例9〜12]
比較例9〜12においては、実施例1〜4で使用したスチルベン誘導体(HTM−A)の代わりに、式(48)で表されるスチルベン誘導体(HTM−F)を使用したほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0164】
【化48】

【0165】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0166】
以上詳述したように、本発明のスチルベン誘導体は、分子末端にヒドラゾン基を有することにより、結着樹脂への相溶性が優れているため、高い電荷輸送能(正孔輸送能)を有するとともに、湿式現像用電子写真感光体に用いた場合、優れた耐溶剤性を示す。すなわち、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体は、高い正孔輸送能を有することから、電子写真感光体における正孔輸送剤として好適に使用されるほか、太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等の種々の分野での利用が可能である。
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法によれば、結着樹脂への相溶性が優れており、高い電荷輸送剤能および耐溶剤性を有している一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を高い収率で得ることができる。
さらに、本発明の電子写真感光体は、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を正孔輸送剤として用いることから、所定の感度特性や耐溶剤性を有している。したがって、本発明の電子写真感光体は、複写機やプリンタ等の各種画像形成装置の高速化、高性能化等に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】(a)〜(c)は、単層型感光体の基本構造および変形構造を説明するために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、積層型感光体の基本構造および変形構造を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0168】
10:単層型感光体
12:導電性基体
14:感光体層
16:バリア層
18:保護層
20:積層型感光体
22:電荷輸送層
24:電荷発生層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするスチルベン誘導体。
【化1】


(一般式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のAが、下記式(2)で表される2価の有機基であることを特徴とする請求項1に記載のスチルベン誘導体。
【化2】


(一般式(2)中のR8〜R13は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)中の複数のR1およびR2が、炭素数1〜5の置換または非置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1または2に記載のスチルベン誘導体。
【請求項4】
前記一般式(1)中の複数のR3〜R7が、水素原子または炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスチルベン誘導体。
【請求項5】
前記一般式(1)中の複数のR3およびRのうち少なくとも一つが、炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスチルベン誘導体。
【請求項6】
下記反応式(1)で表されるスチルベン誘導体の製造方法であって、一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(4)で表されるジリン酸エステル誘導体とを、触媒の存在下に反応させて、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を得ることを特徴とするスチルベン誘導体の製造方法。
【化3】


(反応式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項7】
前記一般式(3)で表されるヒドラゾン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、下記反応式(2)で示されるように、一般式(5)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、一般式(6)で表されるヒドラジン誘導体とを、触媒の存在下に反応させて一般式(7)で表されるヒドラゾン基を有するトリフェニルアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法により、さらにホルミル化して得られたヒドラジン基を有するホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することを特徴とする請求項6に記載のスチルベン誘導体の製造方法。
【化4】


(反応式(2)中の複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項8】
導電性基体上に感光体層を設けた電子写真感光体であって、当該感光体層が、下記一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化5】


(一般式(1)中のAは、芳香族環を含む2価の有機基であり、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基であり、複数のR3〜R7は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項9】
前記感光体層が、電荷発生剤および電子輸送剤をさらに含有した単層型であることを特徴とする請求項8に記載の電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−8595(P2006−8595A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188054(P2004−188054)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】