説明

スチレンの調製方法

ベンジルアルコール少なくとも0.40重量%の存在下で、ベンジルアルコールと、フェノールおよびエチルフェノールの合計量とのモル比が少なくとも0.8で、1−フェニルエタノール、および少なくとも0.1重量%のフェノールおよび/またはエチルフェノールを含む気体の供給原料を不均一脱水触媒と接触させることによるスチレンの調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体の1−フェニルエタノールを不均一脱水触媒に接触させることによるスチレンの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に知られているスチレンの製造方法では、エチルベンゼンから出発してプロピレンオキシドとスチレンが同時に生成する。一般に、そうした方法は、(i)エチルベンゼンを酸素または空気と反応させてエチルベンゼンヒドロペルオキシドを形成するステップと、(ii)エポキシド化触媒の存在下で、こうして得られたエチルベンゼンヒドロペルオキシドをプロペンと反応させてプロピレンオキシドと1−フェニル−エタノールを得るステップと、(iii)適切な脱水触媒を使用して脱水することによって1−フェニル−エタノールをスチレンに転換するステップとを含む。本発明は、特に最後のステップ、すなわち、1−フェニル−エタノールを脱水してスチレンを得ることに焦点を合せる。
【0003】
スチレンの合成が重要であるのは、この製品がプラスチックなど貴重な商用の製品のための出発材料として役に立つからである。既存方法の欠点は、重質な副生物を形成することであり、特に副生物が貴重な出発化合物から形成される場合不利である。フェノールおよびエチルフェノールは、一般に脱水装置への供給原料中に存在する。フェノールもエチルフェノールもともに1−フェニルエタノールと反応して、それによりモノ−およびポリアルキル化フェノールを形成することが観察されている。このために、重質な副生物が形成されるだけでなく、貴重な出発化合物を消費することにもなる。この問題に対する解決策は、脱水の前に供給原料からフェノールおよびエチルフェノールを取り除くことである。しかし、フェノールおよびエチルフェノールは、1−フェニルエタノールから分離するのが難しく、こうした分離プロセスは、面倒でコストのかかるものになる。
【0004】
驚くべきことに、望ましくない副反応中に消費される貴重な1−フェニルエタノールの量を大きく減少させ得ることが今回分かったのである。
【発明の開示】
【0005】
ベンジルアルコールによって、気相での脱水中にフェノールおよび/またはエチルフェノールと反応する貴重な1−フェニルエタノールの量を減少させることができることが分かった。ベンジルアルコールが脱水プロセスに存在すると、フェノールおよび/またはエチルフェノールはベンジルアルコールと反応することが分かった。したがって、ベンジルアルコールの存在によって、フェノールおよび/またはエチルフェノールと反応する1−フェニルエタノールの量が少なくなる。
【0006】
したがって、本発明の方法は、少なくとも0.40重量%のベンジルアルコール存在下で、ベンジルアルコールと、フェノールおよびエチルフェノールの合計量とのモル比が少なくとも0.8において、1−フェニルエタノール、および少なくとも0.1重量%のフェノールおよび/またはエチルフェノールを含む気体供給原料を不均一脱水触媒と接触させることによるスチレンの調製方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明により1−フェニルエタノールを脱水してスチレンにする方法は、気相において実施される。原理的には、1−フェニルエタノールが実質的に気相である限り、いかなる条件の組合せも適用することができる。一般に適用される脱水反応条件には、150〜350℃の反応温度、より特定的には210〜330℃の反応温度、好ましくは280〜320℃の反応温度が含まれる。圧力は、一般に0.1〜10×10N/mの範囲である。
【0008】
一般に、脱水プロセスは、1つまたは複数の不均一触媒床を含む反応器において実施される。通常、供給原料はワンスルー方式で触媒上に導入される。
原理的には、本発明の方法では、どんな不均一触媒も使用することができる。適切であることがよく知られている触媒には、アルミナ、塩基性アルミナ、ケイ酸アルミニウム、およびH型合成ゼオライトが含まれる。好ましくは、本発明の方法ではアルミナ触媒が使用される。特に好ましい触媒は、表面積(BET)が80〜140m/gの範囲、細孔容積(Hg)が0.35〜0.65ml/gの範囲である成形アルミナ触媒粒子からなる脱水触媒であり、この細孔容積のうち0.03〜0.15ml/gは少なくとも1000nmの直径を有する細孔内のものである。この触媒は、欧州特許出願公開第1077916号中に広範囲に開示されている。本発明における使用に特に適切であるさらなる触媒は、欧州特許出願第03251123.0号において詳細に開示されている、表面積(BET)が80〜140m/g、細孔容積(Hg)が0.65ml/gを超える成形アルミナ触媒粒子を含む脱水触媒である。
【0009】
本発明で使用される1−フェニルエタノール供給原料は、様々な方法によって調製することができる。適切な1−フェニルエタノール供給原料の調製方法は、プロペンとエチルベンゼンヒドロペルオキシドを接触させてプロピレンオキシドおよび1−フェニルエタノールを得るステップを含む。したがって、また本発明は、(i)プロペンとエチルベンゼンヒドロペルオキシドを接触させてプロピレンオキシドおよび1−フェニルエタノールを得るステップと、(ii)ステップ(i)で得られた反応混合物から1−フェニルエタノールを分離するステップと、(iii)本発明によるステップ(ii)で得られた1−フェニルエタノールを脱水するステップとに関する。エチルベンゼンヒドロペルオキシドは、通常、エチルベンゼンを酸素または空気と反応させることによって調製する。
【0010】
1−フェニルエタノール供給原料中に存在する不純物は、エチルベンゼンヒドロペルオキシドを調製するとき、およびプロペンをエチルベンゼンヒドロペルオキシドに接触させるときに形成され得る。脱水装置への供給原料にまで残る不純物の量は、後続の分離および精製のステップによって左右される。他の不純物供給源は、循環流である。脱水装置で得られた反応混合物の一部は、通常、さらなる転換および十分な精製の後に脱水装置に送り返される。1つの例は、比較的多量のメチルフェニルケトンを含む画分である。メチルフェニルケトンは、1−フェニルエタノールの製造中に副生物として形成され得る。メチルフェニルケトンを含む画分は、水素化してメチルフェニルケトンを1−フェニルエタノールに転換することができ、次いで、脱水装置に再循環することができる。
【0011】
本方法のための供給原料は、フェノールおよびエチルフェノールを少なくとも0.1重量%含む。フェノールおよびエチルフェノールは、本発明による方法において同じような反応を示す。両者は、一般的に入手可能な1−フェニルエタノールを含む供給原料に存在する傾向がある。この量は、供給原料の総量に基づいて存在するフェノールおよびエチルフェノールの合計量に基づく。0.2重量%から2重量%、より詳細には0.3重量%から1重量%など比較的多い量において存在する場合、フェノールおよびエチルフェノールの存在は特に不利である。
【0012】
ベンジルアルコールの存在によってフェノールおよび/またはエチルフェノールが消費する1−フェノルエタノールは確実により少なくなることが分かった。効果的なベンジルアルコールの存在量は、少なくとも0.40重量%であるべきであり、加えてベンジルアルコールと、フェノールおよびエチルフェノールの合計量とのモル比は少なくとも0.8であるべきである。本発明による方法において、存在するのが好ましいベンジルアルコールの具体的な量は、供給原料中に存在するフェノールおよびエチルフェノールの合計量で決まる。好ましくは、ベンジルアルコールと、フェノールおよびエチルフェノールとの接触中のモル比は少なくとも0.9、より詳細には少なくとも1.0である。ベンジルアルコールの存在量が少なすぎると、フェノールおよび/またはエチルフェノールと1−フェニルエタノールとの反応が増加するので不利である。しかし、ベンジルアルコールが多すぎてもそれによりさらなる改善がもたらされないのでやはり不利である。一般に、ベンジルアルコールが多くとも3重量%、より特定的には多くとも2重量%、より特定的には多くとも1.5重量%、最も特定すると1重量%存在することが好ましい。ベンジルアルコールと、フェノールおよびエチルフェノールとの接触中のモル比は、一般に多くとも10、より詳細には多くとも5である。ベンジルアルコールと、フェノールとの接触中の好ましいモル比は、1〜5、最も好ましくは1.5〜4であることが分かった。
【0013】
通常限定量のベンジルアルコールが1−フェニルエタノールストリ−ム中に存在する。ベンジルアルコールの正確な量は、適用されるプロセスの設定によって決まる。代表的には、脱水装置への1−フェニルエタノールの供給原料は、0.40重量%未満のベンジルアルコールを含む。したがって、そのような通常の1−フェニルエタノールストリ−ムは、本発明での使用にとって少なすぎるベンジルアルコールしか含まない。本発明において使用するための供給原料は、ベンジルアルコールを少なくとも0.40重量%、より詳細にはベンジルアルコールを少なくとも0.45重量%、好ましくはベンジルアルコールを少なくとも0.50重量%含む。ベンジルアルコールの量は、当分野の技術者に適切であると知られているどんな方法においても増加させることができる。ベンジルアルコールを追加することも可能である。しかし、これは、一般に比較的コストのかかる、面倒な方法である。
【0014】
脱水装置のベンジルアルコールの含有量を増加させるための有利な方法は、不純物であるベンズアルデヒドを水素化してベンジルアルコールとし、こうして得られたベンジルアルコールを脱水装置に再循環することを含む。具体的な方法は、(a)ベンジルアルコール少なくとも0.40重量%の存在下で、ベンジルアルコールと、フェノールおよびエチルフェノールの合計量との0.8を超えるモル比で、1−フェニルエタノール、および少なくとも0.1重量%のフェノールおよび/またはエチルフェノールを含む気体の供給原料を不均一脱水触媒と接触させて、スチレン、ベンズアルデヒド、およびメチルフェニルケトンを含む反応混合物を得るステップと、(b)ステップ(a)で得られた反応混合物からスチレンを分離するステップと、(c)水素化触媒の存在下で、ステップ(b)で得られたベンズアルデヒドおよびメチルフェニルケトンを含む少なくとも一部の反応混合物を水素と接触させて、ベンジルアルコールおよび1−フェニルエタノールを含む反応混合物を得るステップと、(d)ステップ(c)において得られた混合物の少なくとも一部をステップ(a)に再循環するステップとを含む。
【0015】
ステップ(a)の生成物中に存在するベンズアルデヒドおよびメチルフェニルケトンは、ステップ(a)の脱水反応の副生物であり、1つまたは複数の再循環ストリームによってステップ(a)中に導入することができ、および/またはステップ(a)の1−フェニルエタノール供給原料中に存在することができる。
【0016】
1−フェニルエタノール供給原料中に存在するベンジルアルコール、フェノール、およびエチルフェノールの量は、1−フェニルエタノールの主な供給原料とは別に脱水反応器に加えることができる再循環ストリームを含めて脱水装置に送入するストリームの合計量に加えられる。
【0017】
本発明の方法によって得られた反応混合物は、当分野の技術者に知られているどんな方法においてもさらに加工することができる。ベンジルアルコールに転換する再循環ベンズアルデヒドがない場合でも、脱水装置において得られた反応混合物からスチレンを分離し、多くの量のメチルフェニルケトンを含む反応混合物の少なくとも一部を水素化して1−フェニルエタノールとなすときは一般に有利である。このようにして得られた1−フェニルエタノールは、脱水装置に再循環することができる。さらに、分離および精製のステップは、必要とされる生成物で決まり、正確な周囲の状況により決まる。
【0018】
本発明をさらに以下の非限定的実施例によって例示する。
【0019】
(比較例1)
表Iに示す物理的な特性を有する星型の触媒を、直径13mmのプラグフロー反応器、1−フェニル−エタノール供給原料用の設備、および生成物蒸気の凝縮用設備からなるマイクロフロー装置内で使用した。
【0020】
【表1】

【0021】
供給原料は1−フェニル−エタノール中にフェノールを1.0重量%含んでいた。マイクロフロー装置の出口ストリームを凝縮によって液化し、得られた2相の液体系をガスクロマトグラフィ分析装置によって分析した。
【0022】
脱水実験は、圧力1.0バール、温度300℃の標準的な試験条件で実施した。1−フェニル−エタノールの供給速度を毎時30グラムに保持し、反応管に20cmの触媒(長さ/直径比が約1.1である星形の触媒粒子13.8グラムに相当)を装入した。
【0023】
得られた反応混合物からスチレンを取り除き、反応混合物の残分中の化合物を測定した。以下の化合物の量を測定した:すなわち、
− 転換されたフェノール1モルあたりのフェニル−CH−CH部分のモル量。
【0024】
− 転換されたフェノール1モルあたりのフェニル−CH部分のモル量。
【0025】
− 転換されたフェノールのモル百分率。
【0026】
− 転換されたベンジルアルコールのモル百分率。
【0027】
フェニル−CH−CH部分は、1−フェニルエタノールがフェノールまたはエチルフェノールと反応するときに形成される。
【0028】
フェニル−CH部分は、ベンジルアルコールがフェノールまたはエチルフェノールと反応するときに形成される。
【0029】
フェニル−CH−CH部分およびフェニル−CH部分の存在をH NMRで求めた。1を超える値は、ジ−およびトリ−アルキル化フェノールおよびジアルキル化エチルフェノールに起因する。
【0030】
結果を表IIに示す。
【実施例1】
【0031】
供給原料が1−フェニル−エタノール中にフェノール1.0重量%およびベンジルアルコール2.0重量%を含むことを除いて、比較例1を繰り返した。
【0032】
結果を表IIに示す。
【実施例2】
【0033】
供給原料が1−フェニル−エタノール中にフェノール0.3重量%およびベンジルアルコール0.6重量%を含むことを除いて、比較例1を繰り返した。
【0034】
結果を表IIに示す。
【0035】
(比較例2)
供給原料が1−フェニル−エタノール中に4−エチルフェノール1.0重量%を含むことを除いて、比較例1を繰り返した。
【0036】
結果を表IIに示す。
【実施例3】
【0037】
供給原料が1−フェニル−エタノール中に4−エチルフェノール1.0重量%およびベンジルアルコール2.0重量%を含むことを除いて、比較例2を繰り返した。
【0038】
結果を表IIに示す。
【実施例4】
【0039】
供給原料が1−フェニル−エタノール中に4−エチルフェノール0.3重量%およびベンジルアルコール0.6重量%を含むことを除いて、比較例2を繰り返した。
【0040】
結果を表IIに示す。
【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも0.40重量%のベンジルアルコール存在下、およびベンジルアルコールのフェノールおよびエチルフェノールの合計量に対するモル比が少なくとも0.8において、1−フェニルエタノール、および少なくとも0.1重量%のフェノールおよび/またはエチルフェノールを含む気体の供給原料を不均一脱水触媒と接触させることによるスチレンの調製方法。
【請求項2】
不均一脱水触媒がアルミナ触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
150〜350℃、0.1から10×10N/mの範囲の圧力で行われる、請求項1および/または2に記載の方法。
【請求項4】
ベンジルアルコールのフェノールおよびエチルフェノールの合計量に対するモル比が1から5である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)不均一触媒の存在下で、プロペンをエチルベンゼンヒドロペルオキシドと接触させて、プロピレンオキシドおよび1−フェニルエタノールを得るステップと、
(ii)ステップ(i)において得られた反応混合物から1−フェニルエタノールを分離するステップと、
(iii)請求項1から4のいずれか一項に記載の方法におけるステップ(ii)において得られた1−フェニルエタノールを使用するステップと
を含むスチレンの調製方法。
【請求項6】
a)少なくとも0.40重量%のベンジルアルコール存在下、および0.8を超えるベンジルアルコールのフェノールおよびエチルフェノールの合計量に対するモル比において、1−フェニルエタノール、および少なくとも0.1重量%のフェノールおよび/またはエチルフェノールを含む気体の供給原料を不均一脱水触媒と接触させて、スチレン、ベンズアルデヒド、およびメチルフェニルケトンを含む反応混合物を得るステップと、
b)ステップ(a)において得られた反応混合物からスチレンを分離するステップと、
c)水素化触媒の存在下で、ステップ(b)で得られたベンズアルデヒドおよびメチルフェニルケトンを含む反応混合物の少なくとも一部を水素と接触させて、ベンジルアルコールおよび1−フェニルエタノールを含む反応混合物を得るステップと、
d)ステップ(c)において得られた混合物の少なくとも一部をステップ(a)に再循環するステップと
を含むスチレンの調製方法。
【請求項7】
ベンジルアルコールのフェノールおよびエチルフェノールの合計量に対するモル比が1から5である、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2007−513125(P2007−513125A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541947(P2006−541947)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053240
【国際公開番号】WO2005/054157
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】