説明

スチールコード被覆用ゴム組成物

【課題】コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し発熱性を小さくしながら、加工性、耐久性を従来レベル以上に向上するようにしたスチールコード被覆用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.3重量部、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100gのカーボンブラックを10重量部以上含む補強性充てん剤を40〜120重量部配合すると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(nm)と、前記N2SAとを、Dst=α(N2SA)-0.61の関係式で表わしたときの係数αが1979以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し発熱性を低減しながら、加工性、耐久性を従来レベル以上に向上するようにしたスチールコード被覆用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤに対する要求性能として、地球環境問題への関心の高まりに伴い燃費性能が優れることが求められている。燃費性能を向上するためには転がり抵抗を低減することが知られている。このため空気入りタイヤを構成するゴム組成物の発熱を抑え、タイヤにしたときの転がり抵抗を小さくすることが行われている。ゴム組成物の発熱性の指標としては一般に動的粘弾性測定による60℃のtanδが用いられ、ゴム組成物のtanδ(60℃)が小さいほど発熱性が小さくなる。
【0003】
ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、例えばカーボンブラックの配合量を少なくしたりカーボンブラックの粒径を大きくしたりすることが挙げられる。しかし、このような方法では、引張り強度、引張り破断伸び、ゴム硬度などの機械的特性が低下し、タイヤにしたとき操縦安定性、耐摩耗性、耐久性が低下するという問題がある。
【0004】
ここで空気入りタイヤには、ベルト層、ビードワイヤインシュレーション、(ベルト補強層、)カーカス層、ベルトエッヂクッションなどの各種補強ゴム層として、スチールコードをゴム組成物で被覆した補強ゴム層が使用されている。これらの補強ゴム層に使用するスチールコード被覆用ゴム組成物には、スチールコードをゴム引きする際の成形加工性に優れること、スチールコードに対する接着性が高く、長期間に亘り繰り返し変形を受けても接着力を維持する耐久性を備えることが求められる。また、タイヤ構成部材であるので、上述した低発熱性、耐摩耗性や、操縦安定性を確保するためのゴム硬度や強度が求められる。
【0005】
一方、特許文献1は、ジエン系ゴムに有機酸コバルト塩を配合したゴム組成物により、スチールコードの接着性を改良することを提案している。しかし、このゴム組成物では、スチールコードの接着性を改良するのに有効であるものの、発熱性を小さくし、加工性、耐久性を改良する効果が必ずしも十分ではなく更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−99868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し発熱性を小さくしながら、加工性、耐久性を従来レベル以上に向上するようにしたスチールコード被覆用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.3重量部、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100gのカーボンブラックを10重量部以上含む補強性充てん剤を40〜120重量部配合すると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(nm)と、前記N2SAとの関係を下記の式(1)
Dst=α(N2SA)-0.61 (1)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)、αは係数である。)
で表わしたとき、係数αが1979以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.3重量部配合し、かつ窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100g、かつ前記式(1)の関係で表わしたときの係数αが1979以上であるカーボンブラックを10重量部以上含む補強性充てん剤を40〜120重量部配合するようにしたので、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくし低発熱にしながら、ゴム組成物の粘度を小さくし、ゴム硬度及び強度を確保したため、加工性、耐久性を従来レベル以上に向上することができる。またタイヤにしたとき転がり抵抗を小さくしながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。
【0010】
前記係数αとしては、1979≦α≦2450の範囲であることが好ましく、上述した優れた特性を確保しながら生産コストを抑制することができる。
【0011】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物で補強ゴム層を構成した空気入りタイヤは、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良しながら、加工性、耐久性及び操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物で使用するカーボンブラックのDstとN2SAの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物において、ジエン系ゴムは、スチールコード被覆用に通常用いられる天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、イソプレンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0014】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、有機酸コバルト塩を配合することにより、スチールコードに対する接着性を高くする。有機酸コバルト塩の配合量は、コバルト量として、ジエン系ゴム100重量部に対し0.1〜0.3重量部、好ましくは0.15〜0.25重量部にする。コバルト量としての配合量が0.1重量部未満であると、スチールコードに対する初期接着性、耐久接着性を十分に高くすることができない。またコバルト量としての配合量が0.3重量部を超えるとスチールコードに対する耐久接着性が却って低下する。
【0015】
本発明では、有機酸コバルト塩としては、例えばナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができる。また、これらの有機酸コバルト塩のなかでも、ホウ素を含む有機酸コバルト塩が好ましく、例えば有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩であるとよい。ホウ素を含有する有機酸コバルト塩はコバルト含量が20〜23重量%であるオルトホウ酸コバルトが好ましい。ホウ素を含有する有機酸コバルト塩としては、例えばローディア社製マノボンドC22.5及びマノボンド680C、Jhepherd社製CoMend A及びCoMend B、大日本インキ化学工業社製YYNBC−II等を例示することができる。
【0016】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物では、特定の窒素吸着比表面積N2SA及びDBP吸収量を有し、かつN2SAと凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstとの関係を限定した新規のカーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、引張り強度、引張り破断伸び、ゴム硬度、耐摩耗性などの機械的特性を悪化させることがない。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し10重量部以上、好ましくは20〜90重量部にする。カーボンブラックの配合量が10重量部未満であると、ゴム組成物のゴム硬度及び弾性率が悪化する。またカーボンブラックの配合量が90重量部を超えると、tanδ(60℃)が大きくなると共に、引張り破断伸びが低下する。
【0017】
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、好ましくは55〜85m2/gである。N2SAが55m2/g未満であると、ゴム組成物のゴム硬度、動的弾性率などの機械的特性が低下する。N2SAが95m2/gを超えると、tanδ(60℃)が大きくなる。N2SAは、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0018】
また、カーボンブラックのDBP吸収量は、110〜160ml/100gであり、好ましくは120〜160ml/100gである。DBP吸収量が100ml/100g未満であるとtanδ(60℃)が大きくなる。またゴム組成物の成形加工性が低下しカーボンブラックの分散性が悪化するのでカーボンブラックの補強性能が十分に得られない。DBP吸収量が160ml/100gを超えると、ゴム組成物の硬さが大きくなり過ぎて、引張り破断伸びが低下する。また粘度の上昇により加工性が悪化する。DBP吸収量は、JIS K6217−4吸油量A法に準拠して、測定するものとする。
【0019】
本発明で使用するカーボンブラックは、上述したコロイダル特性を有すると共に、凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstと窒素吸着比表面積N2SAとを下記の式(1)の関係式で表わしたとき、係数αが1979以上、好ましくは1979〜2450である。
Dst=α(N2SA)-0.61 (1)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)、αは係数である。)
【0020】
カーボンブラックが上述したN2SA及びDBP吸収量を有し、かつ係数αを1979以上にすることにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、ゴム硬度、動的弾性率などを維持・向上することができる。また係数αの上限は特に限定されるものではないが、カーボンブラックの収率やコストなどの生産性の観点から2450以下にするとよい。本発明において、凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstとは、カーボンブラックを遠心沈降させ、光学的に得た凝集体のストークス径の質量分布曲線における最大頻度のモード径をいう。本発明において、DstはJIS K6217−6ディスク遠心光沈降法による凝集体分布の求め方に準拠して、測定するものとする。
【0021】
図1は、本発明で使用するカーボンブラックのDstとN2SAの関係を示すグラフである。図1において、横軸はN2SA(m2/g)、縦軸はDst(nm)である。ASTM規格番号を有する代表的なカーボンブラックを四角印でプロットし、試作により得られたカーボンブラックを丸印及び三角印でプロットした。ここで各プロットに、後述する実施例及び比較例で使用したカーボンブラックCB1〜CB13をそれぞれ参照する数字1〜13を付している。図1に示す通り、従来の規格化されたカーボンブラックブラックのDstとN2SAは、概ね下記式(2)の関係を満たす。
Dst=1650×(N2SA)-0.61 (2)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)を表わす。)
図1では、上記式(2)の関係を点線の曲線で表わした。
【0022】
これに対し、本発明で使用するカーボンブラックでは、Dst及びN2SAは、下記式(3)の曲線(実線)より右上にプロットされる。
Dst=1979×(N2SA)-0.61 (3)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)を表わす。)
【0023】
すなわち本発明では、N2SAが55〜95m2/gの範囲において、Dstが従来のカーボンブラックのDstより大きくした新規のカーボンブラックを使用する。このようなカーボンブラックは、従来のカーボンブラックと比べ、N2SAが同レベルであっても、凝集体のストークス径が大きく、凝集体の形態が球形に近いことを意味する。これにより、ゴムに対する補強性能を高くするため、ゴム組成物のゴム硬度や動的弾性率などの機械的特性を従来レベル以上に向上することができる。
【0024】
上述したコロイダル特性を有するカーボンブラックは、例えば、カーボンブラック製造炉における原料油導入条件、燃料油及び原料油の供給量、燃料油燃焼率、反応時間(最終原料油導入位置から反応停止までの燃焼ガスの滞留時間)などの製造条件を調整して製造することができる。
【0025】
本発明において、上述した特定のコロイダル特性を有するカーボンブラックを含む補強性充てん剤を配合する。上述したカーボンブラックを含む補強性充てん剤を配合することにより、ゴム組成物のtanδとゴム硬度や強度などの機械的特性とのバランスを調整することができる。補強性充てん剤としては、例えば上述したカーボンブラック以外のその他のカーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等を例示することができる。上述したカーボンブラックを含む補強性充てん剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し40〜120重量部、好ましくは50〜100重量部にする。補強性充てん剤の配合量が40重量部未満であると、ゴム組成物に対する補強効果が十分に得られずゴム硬度、強度、耐摩耗性が不足する。また補強性充てん剤の配合量が120重量部を超えると、ゴム組成物の発熱性が大きくなる。
【0026】
スチールコード被覆用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのスチールコード被覆用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0027】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、特に、このスチールコード被覆用ゴム組成物は、空気入りタイヤのベルト層用、ビードワイヤインシュレーション用、スチール補強層用のブラスめっきされたスチールコードの被覆ゴムに使用される。また、ゴム組成物の粘度を低減する効果を有するため空気入りタイヤの成形加工性が優れる。
【0028】
このため、本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、優れた成形加工性により品質が安定した製品が得られると共に、被覆ゴムの老化防止性能及びスチールコードと被覆ゴムとの接着性(初期接着性及び老化接着性)が優れるため、タイヤ耐久性を向上するので、タイヤ寿命を長期化することができる。
【0029】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、スチールコード、特にブラスめっきが施されたスチールコードの被覆ゴムとして好適に使用することができる。このスチールコード被覆用ゴム組成物は、粘度が低いため成形加工性が良好で補強ゴム成形体(補強ゴム層)を優れた品質で安定して製造することができる。またスチールコードに対する初期接着性及び耐久接着性に優れると共に、低発熱でしかもゴム硬度、強度及び耐摩耗性が優れるため、補強ゴム成形体の耐久性、耐摩耗性を従来レベル以上に向上することができる。
【0030】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物を使用した補強ゴム層は、空気入りタイヤやベルトコンベアの構成部材として使用することができる。空気入りタイヤの構成部材としては、例えばベルト層、ビードワイヤインシュレーション、(ベルト補強層、)カーカス層、ベルトエッヂクッションなどの各種補強ゴム層を例示することができる。本発明のゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、走行時の発熱性が小さくなるので、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良することができる。同時に、ゴム組成物のゴム硬度、強度及び耐摩耗の改良により、タイヤにしたときの耐久性、操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。特に被覆ゴムを低発熱性にしたので走行時に高温になり難く、接着性を高いレベルで維持すると共に、熱老化の影響を受け難く接着力の長期耐久性にも優れた効果が得られる。
【0031】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
13種類のカーボンブラック(CB1〜CB13)を使用して16種類のゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜10)を調製した。このうち8種類のカーボンブラック(CB1,CB2,CB8〜CB13)は市販グレード、5種類のカーボンブラック(CB3〜CB7)は試作品であり、それぞれのコロイダル特性を表1,2に示した。また図1において、各カーボンブラックCB1〜CB13のDstとN2SAの関係をプロットすると共に、それぞれのカーボンブラックを参照する番号を付した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1,2において、各略号はそれぞれ下記のコロイダル特性を表わす。
・N2SA:JIS K6217−2に基づいて測定された窒素吸着比表面積
・IA:JIS K6217−1に基づいて測定されたよう素吸着量
・CTAB:JIS K6217−3に基づいて測定されたCTAB吸着比表面積
・DBP:JIS K6217−4(非圧縮試料)に基づいて測定されたDBP吸収量
・24M4:JIS K6217−4(圧縮試料)に基づいて測定された24M4−DBP吸収量
・TINT:JIS K6217−5に基づいて測定された比着色力
・Dst:JIS K6217−6に基づいて測定されたディスク遠心光沈降法による凝集体のストークス径の質量分布曲線の最大値であるモード径
・△D50:JIS K6217−6に基づいて測定されたディスク遠心光沈降法による凝集体のストークス径の質量分布曲線において、その質量頻度が最大点の半分の高さのときの分布の幅(半値幅)
・α:Dst及びN2SAを上述した式(1)の関係に当てはめたときの係数α
【0036】
また表1,2において、カーボンブラックCB1,CB2,CB8〜CB13は、それぞれ以下の市販グレードを表わす。
・CB1:東海カーボン社製シーストKHP
・CB2:東海カーボン社製シーストKH
・CB8:東海カーボン社製シースト300
・CB9:キャボットジャパン社製ショウブラック330T
・CB10:新日化カーボン社製ニテロン#10N
・CB11:東海カーボン社製シースト3
・CB12:東海カーボン社製シーストNH
・CB13:東海カーボン社製シースト6
【0037】
カーボンブラックCB3〜CB7の製造
円筒反応炉を使用して、表3に示すように全空気供給量、燃料油導入量、燃料油燃焼率、原料油導入量、反応時間を変えて、カーボンブラックCB3〜CB7を製造した。
【0038】
【表3】

【0039】
スチールコード被覆用ゴム組成物の調製及び評価
上述した13種類のカーボンブラック(CB1〜CB13)を用いて、表4,5に示す配合からなる16種類のゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜10)を調製するに当たり、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く成分を秤量し、55Lのニーダーで15分間混練した後、そのマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを55Lのニーダーに供し硫黄及び加硫促進剤を加え混合し、スチールコード被覆用ゴム組成物を得た。なお、表4,5において、ジエン系ゴム100重量部に対する有機酸コバルト塩のコバルト量としての配合量を「Co含有量」の欄に記載した。
【0040】
得られたスチールコード被覆用ゴム組成物の一部を下記に示すムーニー粘度試験に供し加工性を評価した。次いで、ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間加硫して試験片を作製し、動的粘弾性試験を行い、発熱性(60℃のtanδ)を評価した。
【0041】
また、得られたスチールコード被覆用ゴム組成物でスチールコードを被覆したベルト層を有する空気入りタイヤとして、サイズの異なる2種のタイヤ(サイズ225/50/R17及び195/65R15)を製作し、操縦安定性及び耐久性をそれぞれ下記に示す試験方法で評価した。
【0042】
ムーニー粘度
スチールコード被覆用ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)を、JIS K6300に準拠してムーニー粘度計にてL型ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、温度100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果は、それぞれのムーニー粘度の逆数を算出し比較例1を100とする指数として表4,5の「加工性」の欄に示した。この「加工性」の指数が大きいほどムーニー粘度が低く、成形加工性が優れることを意味する。
【0043】
発熱性(60℃のtanδ)
得られた試験片をJIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で、温度60℃における損失正接tanδを測定した。得られた結果は、それぞれのtanδの逆数をとり比較例1を100とし、表4,5の「発熱性」の欄に示した。「発熱性」の指数が大きいほど発熱性が小さく、タイヤにしたとき転がり抵抗が小さく燃費性能が優れることを意味する。
【0044】
操縦安定性
得られた空気入りタイヤ(サイズ225/50/R17)を標準リム(サイズ17×7.5Jのホイール)に組み付け、国産2.5リットルクラスの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で乾燥路面からなる1周2.6kmのテストコースを実車走行させ、そのときの操縦安定性を専門パネラー3名による感応評価により採点した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として表4,5の「操縦安定性」の欄に示した。この指数が大きいほど操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0045】
耐久性
得られた空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を標準リム(サイズ15×6Jのホイール)に装着し、空気圧200kPaの空気を充填して、ドラム径1707mmで、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、荷重3600Nを負荷し、速度80km/hで2時間走行させた後、速度を120km/hに上げて24時間走行させた。その後、24時間走行する毎に速度を10km/hずつ上げ、タイヤ故障を起こすまでの走行距離を測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として表4,5の「耐久性」に示した。この指数が大きいほど耐久性が優れることを意味する。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
なお、表4,5において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#3
CB1〜CB13:上述した表1,2に示したカーボンブラック
有機酸Co塩:ナフテン酸コバルト塩、大日本インキ化学工業社製ナフテン酸コバルト(コバルト含量10重量%)
アロマオイル:ジャパンエナジー社製プロセスX−140
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製SANTOFLEX6PPD
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーDZ−G
硫黄:四国化成社製ミュークロンOT−20(硫黄分20重量%)
【0049】
表4から明らかなように実施例1〜6の空気入りタイヤは、加工性、発熱性、操縦安定性及び耐久性が従来レベル以上に向上することが確認された。
【0050】
表4から明らかなように、比較例1の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB8のDBP吸収量が110ml/100g未満かつ式(1)の係数αが1979未満であるため、実施例1〜4の空気入りタイヤに比べ加工性、発熱性、操縦安定性及び耐久性が劣る。比較例2の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB8の配合量を多くしたので、操縦安定性が改良するが、加工性及び発熱性が悪化した。
【0051】
表5から明らかなように、比較例3の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB3のDBP吸収量が160ml/100gを超えるので耐久性及び発熱性が改良されるが、式(1)の係数αが1979未満であるため、加工性が劣る。比較例4,5,9の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB1,CB2,CB12の式(1)の係数αが1979未満であるため、発熱性と耐久性とを両立することが出来ない。
【0052】
比較例6,8の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB9,CB11のDBP吸収量が110ml/100g未満かつ式(1)の係数αが1979未満であるため、発熱性と耐久性とを両立することが出来ない。比較例7の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB10のN2SAが55m2/g未満かつ係数αが1979未満であるため、加工性、発熱性が改良するが、操縦安定性、耐久性に劣る。比較例10の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB13のN2SAが95m2/gを超えかつ係数αが1979未満であるため、加工性、発熱性、耐久性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.3重量部、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100gのカーボンブラックを10重量部以上含む補強性充てん剤を40〜120重量部配合すると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(nm)と、前記N2SAとの関係を下記の式(1)
Dst=α(N2SA)-0.61 (1)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)、αは係数である。)
で表わしたとき、係数αが1979以上であることを特徴とするスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
前記係数αが、1979≦α≦2450であることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物で、補強ゴム層を構成したことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−251019(P2012−251019A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122648(P2011−122648)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】