説明

スチールハウスのトラス壁構造の解析方法

【課題】大規模な試験設備が不要で、トラス壁構造の弾塑性復元力特性を簡単かつ精度良く求めることができるトラス壁構造の解析方法を提供する。
【解決手段】スチールハウスのトラス壁構造1について、当該トラス壁構造1に水平力Sが作用したときの弾塑性復元力特性を、構造解析装置20を用いて解析するスチールハウスのトラス壁構造の解析方法であって、部分的な試験体10を作成する試験体作成工程と、部分的な試験体10の荷重−変形関係を計測する試験体載荷工程と、構造解析装置20を用いて、試験体10の荷重−変形関係に基づいてトラス壁構造1を骨組解析モデル30にモデル化するモデル化工程と、骨組解析モデル30についてマトリックス変位法で解析することにより、弾塑性復元力特性を求める解析工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールハウスのトラス壁構造の解析方法に関し、より詳しくは、部分的な試験と構造解析装置による解析とを組み合わせて、スチールハウスのトラス壁構造(以下、単に「トラス壁構造」という場合がある)の力学的特性を解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスチールハウスのトラス壁構造としては、互いに間隔を隔てて立設された一対の竪枠材と、前記一対の竪枠材の互いに向かい合う側面間に連結された複数のブレース材と、によってトラス構造に構成されているものがある(例えば特許文献1参照)。
スチールハウスを構築するにあたっては、地震などの水平力に対する安全性を確認する必要がある。そのため、従来は、トラス壁構造の実物大の試験体を作成し、この試験体に水平力を載荷することにより、水平力とトラス壁構造の水平変位との荷重−変形関係(以下、「弾塑性復元力特性」という場合がある)を測定して、安全性を確認していた。
【0003】
一方、コンピュータなどの構造解析装置を利用した骨組構造物の解析方法としては、マトリックス変位法による解析方法が一般に知られている(例えば非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−37704号公報
【非特許文献1】H.Cマーチン著,吉識雅夫監訳,「マトリックス法による構造力学の解法」,日本,培風館,1967年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、トラス壁構造の実物大の試験体を用いる従来の方法では、多くの手間と材料を必要とする上、大型の試験設備が必要になる。そのため、トラス壁構造の弾塑性復元力特性を簡単に求めることができないという問題があった。
一方、マトリックス変位法によるコンピュータ解析のみでは、ブレース材と竪枠材との連結部分のモデル化の方法及びこの部分の荷重−変位関係の設定の方法が確立されておらず、実際のトラス壁構造の荷重−変位関係を精度良く解析することができなかった。
【0005】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものであり、大規模な試験設備が不要で、トラス壁構造の弾塑性復元力特性を簡単かつ精度良く求めることができるトラス壁構造の解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鋭意研究の結果、トラス壁構造の弾塑性復元力特性は、ブレース材とガセットとの連結部分の性能に支配されることを見出し、本発明を創案するに至った。
【0007】
本発明は、互いに間隔を隔てて立設された一対の竪枠材と、前記一対の竪枠材の上端同士を連結する上枠材と、前記一対の竪枠材の下端同士を連結する下枠材と、前記一対の竪枠材の向かい合う側面に取り付けられた複数のガセットと、前記一対の竪枠材の向かい合う側面間に前記ガセットを介して連結された複数のブレース材と、によってトラス構造に構成されるスチールハウスのトラス壁構造について、当該トラス壁構造に水平力が作用したときの弾塑性復元力特性を、構造解析装置を用いて解析するスチールハウスのトラス壁構造の解析方法であって、断面寸法及び材質が前記ブレース材と同一の部材の両端に、断面寸法及び材質が前記ガセットと同一の部材をピン接合で連結することによって試験体を作成する試験体作成工程と、前記試験体の軸方向に引張力を載荷して、前記引張力と前記試験体の変形量との荷重−変形関係を計測する試験体載荷工程と、前記構造解析装置を用いて、前記試験体の荷重−変形関係に基づいて前記トラス壁構造を骨組解析モデルにモデル化するモデル化工程と、前記骨組解析モデルについてマトリックス変位法で解析することにより、前記弾塑性復元力特性を求める解析工程と、を備えることを特徴とするスチールハウスのトラス壁構造の解析方法である。
【0008】
かかる方法によれば、解析対象であるトラス壁構造のうちのブレース材とガセットの連結部分を模した試験体を作成し、この試験体で載荷試験を行うことで荷重−変形関係を求め、この荷重−変形関係に基づいて骨組解析モデルの荷重−変形関係を設定し、設定した骨組解析モデルについて構造解析装置を用いて解析すると、トラス壁構造の弾塑性復元力特性が得られる。そして、このような解析の結果として得られるトラス壁構造の弾塑性復元力特性は、トラス壁構造の実物大の試験体に水平載荷試験を行って得られる弾塑性復元力特性と、従来の解析による結果に比べて高い精度で一致する。
【0009】
また、前記モデル化工程は、前記竪枠材と前記上枠材と前記下枠材と前記ブレース材とを直線でモデル化する工程と、前記ブレース材が前記ガセットに連結された連結点をピン接合点としてモデル化するとともに、前記竪枠材と前記上枠材との連結点及び前記竪枠材と前記下枠材との連結点を剛接合点としてモデル化する工程と、前記竪枠材をモデル化した直線と前記ピン接合点との間の領域を剛域としてモデル化する工程と、前記試験体載荷工程で求めた前記荷重−変形関係に基づいて、前記剛域の荷重−変形関係を設定する工程と、を含むように構成するのがよい。
【0010】
かかる方法によれば、前記試験体載荷工程で求めた前記荷重−変形関係に基づいて、前記剛域の荷重−変形関係が設定されるので、トラス壁構造の弾塑性復元力特性を高い精度で求めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、部分的な試験体による載荷試験で済むので、大規模な試験設備が不要となる。また、部分的な試験体でよいので、手間と材料が少ない。さらに、部分的な試験体による載荷試験によって得られた荷重−変形関係を用いて骨組解析モデルの解析を行うので、トラス壁構造の弾塑性復元力特性を精度良く求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための第1実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。参照する図面において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、スチールハウスのトラス壁構造の正面図である。図2は、トラス壁構造の解析方法に用いる試験体の概略斜視図である。図3は、構造解析装置の概略構成を示すブロック図である。図4は、トラス壁構造の解析方法に用いる骨組解析モデルの正面図である。
【0013】
はじめに、解析対象となるスチールハウスのトラス壁構造について説明する。
図1に示すように、スチールハウスのトラス壁構造1(以下、単に「トラス壁構造1」という)は、建物の土台や梁等の上に立設される鋼製の壁下地であり、一対の竪枠材2,2と、この一対の竪枠材2,2の上端部同士を連結する上枠材3と、一対の竪枠材2,2の下端部同士を連結する下枠材4と、一対の竪枠材2,2の互いに向かい合う側面間に連結された複数のブレース材5,5,…と、によってトラス構造に構成されている。
【0014】
竪枠材2は、例えばウェブ背面同士を溶接接合した2本のC形鋼から構成されており、C形鋼の溝の開口部を面外方向に向けて建物の土台や梁等に取り付けられている。竪枠材2は、例えば「C−100×50×20×2.3」や「C−100×50×20×3.2」などで構成されている。C形鋼の溝の開口部には、補強のためのプレートが溶接固定されている。
【0015】
竪枠材2,2の向かい合う側面には、ブレース材5を連結するためのガセット6が千鳥状に溶接固定されている。ガセット6は、短尺の溝形鋼からなり、溝の開口部を内側に向けて取り付けられている。ガセット6は、例えば「[−65×70×2.3」や「[−65×70×3.2」などで構成されている。
【0016】
上枠材3及び下枠材4は、例えば溝形鋼からなり、一対の竪枠材2,2の向かい合う側面間に、溝の開口部をブレース材5側に向けた状態で溶接固定されている。上枠材3及び下枠材4は、例えば「[−65×75×2.3」や「[−67×75×3.2」などで構成されている。
【0017】
各ブレース材5は、例えば溝形鋼からなり、竪枠材2,2の向かい合う側面間に斜めに架け渡されている。ブレース材5は、例えば「[−60×35×2.3」や「[−58×35×3.2」などで構成されている。各ブレース材5の両端部は、千鳥に配置されたガセット6にボルトB及びナットNによってピン接合されている。これにより、トラス壁構造1は、トラス構造に構成される。また、上下に隣り合うブレース材5,5の近接する端部同士は同じガセット6に連結されている。なお、最も上部のブレース材5の上側の端部は、上枠材3を介して一方の竪枠材2に連結されている。また、最も下方のブレース材5の下側の端部は、下枠材4を介して他方の竪枠材2に連結されている。
【0018】
つづいて、本実施形態に用いる試験体10の構成について説明する。
図2に示すように、試験体10は、トラス壁構造1のブレース材5とガセット6との接合部分について部分的な試験を行うための試験体である。試験体10は、2本の試験用ブレース材11A,11Bと、この2本の試験用ブレース材11A,11Bのそれぞれの両端にピン接合された試験用ガセット12A,12A,12B,12Bと、この試験用ガセット12A,12Bの間に挟まれて溶接固定されたプレート13,13と、から構成されている。
【0019】
試験用ブレース材11A,11Bは、断面寸法及び材質がブレース材5と同一の溝形鋼である。試験用ブレース材11Aと試験用ブレース材11Bとは、両端に試験用ガセット12A,12A、及び、試験用ガセット12B,12Bを取り付けた状態で、互いに平行に配置されている。なお、本実施形態では、試験用ブレース材11A,11Bは、ブレース材5よりも短尺に形成されているが、ブレース材5と同じ長さ寸法に形成してもよい。
【0020】
試験用ガセット12A,12Bは、断面寸法及び材質がガセット6と同一の溝形鋼である。試験用ガセット12A,12Bのウェブ部12Aa,12Baは、プレート13,13の両面にそれぞれ溶接固定されている。試験用ガセット12A,12Bと試験用ブレース材11A,11Bとは、ボルトB及びナットNによってピン接合されている。また、本実施形態では、試験用ガセット12A,12Aに跨って、試験体10の変位を測定する変位センサー14が取り付けられている。
【0021】
プレート13は、試験体10を載荷試験器15に取り付けるための部材であり、例えば所定長さに形成した平鋼からなる。プレート13の一端側は、試験用ガセット12A,12Bに溶接固定されている。プレート13の他端側は、載荷試験器15に取り付け易いように、試験用ガセット12A,12Bの端部から突出している。
【0022】
載荷試験器15は、試験体10の軸方向に引張力を載荷する装置であり、図示は省略するが、プレート13,13をそれぞれ把持する2つの把持部と、この2つの把持部を近接・離間させる油圧ジャッキと、油圧ジャッキの油圧を調節する制御部と、を備えて構成されている。また、載荷試験器15は、試験体10に載荷された引張力を計測する荷重センサー16を備えている。載荷試験器15は、この荷重センサー16と、前記した変位センサー14と、によって、試験体10の荷重−変形関係を計測するようになっている。
【0023】
つぎに、構造解析装置20について説明する。
図3は、構造解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【0024】
構造解析装置20は、トラス壁構造1の弾塑性復元力特性をマトリックス変位法によって解析する装置であり、例えば、マトリックス変位法による解析プログラムをインストールしたコンピュータ装置によって構成されている。構造解析装置20は、図3に示すように入力部21と、出力部22と、データ記憶部23と、制御部24と、を備えている。
【0025】
入力部21は、構造解析装置20にデータ等を入力する部分であり、例えばキーボード、マウスなどから構成されている。出力部22は、構造解析装置20による解析結果やデータの入力画面等を出力する部分であり、例えばディスプレイ、プリンタなどから構成されている。データ記憶部23は、必要なデータを記憶する部分であり、例えば、RAM(Random access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリ装置やハードディスクやCD−ROMなどのドライブ装置などから構成されている。
【0026】
制御部24は、データ記憶部23に記憶されたマトリックス変位法による解析プログラムを読み出して実行する部分であり、いわゆる中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)などから構成されている。制御部24は、マトリックス変位法による解析プログラムを実行することにより、主に、解析モデル作成部241、物性値入力部242、荷重入力部243、及び、解析モデル計算部244、として機能する。マトリックス変位法による解析プログラムとしては、従来公知の骨組解析プログラムを適宜用いることができる。
【0027】
解析モデル作成部241は、解析対象となるトラス壁構造1の各部材を、その中心又は重心を通る直線にモデル化することにより、後記する骨組解析モデル30(図4参照)を作成する機能を有する。解析モデル作成部241は、例えば、トラス壁構造1の各部材に対応する直線の始点と終点の座標を入力部21から入力することによって、骨組解析モデル30を作成するようになっている。また、解析モデル作成部241は、各部材の接合点について、ピン接合であるか剛接合であるかを設定できるようになっている。
【0028】
ここで、骨組解析モデル30について説明する。図4は、骨組解析モデルを示す正面図である。
図4に示すように、骨組解析モデル30は、トラス壁構造1をコンピュータ上でモデル化したものであり、一対の竪枠材2をモデル化した一対の竪枠材モデル31,31と、上枠材3をモデル化した上枠材モデル32と、下枠材4をモデル化した下枠材モデル33と、複数のブレース材5をモデル化した複数のブレース材モデル34,34…と、ブレース材5と竪枠材2との連結部分、及び、ブレース材5と上枠材3又は下枠材4との連結部分を剛域としてモデル化した連結部モデル35,35…と、から構成されている。本実施形態においては、ブレース材5と竪枠材2との連結部分をモデル化した連結部モデル35は、横Y字形状の線状モデルとしてモデル化されている。
竪枠材モデル31と上枠材モデル32との接合点、竪枠材モデル31と下枠材モデル33との接合点、及び、竪枠材モデル31と連結部モデル35との接合点は、剛接合点としてモデル化されている。また、ブレース材モデル34と連結部モデル35との接合点は、ピン接合点Pとしてモデル化されている。また、竪枠材モデル31の下端部は、ヒンジ支点としてモデル化されている。
【0029】
図3に戻って制御部24の説明をつづける。
物性値入力部242は、竪枠材モデル31、上枠材モデル32、下枠材モデル33、ブレース材モデル34、及び、連結部モデル35、について、解析に必要な各部材の物性値を入力する機能を有する。必要な物性値としては、断面係数やヤング率などがある。また、物性値入力部242は、試験体10を用いて測定した荷重−変位関係に基づいて、連結部モデル35の荷重−変位関係を設定できるようになっている。
【0030】
連結部モデル35の荷重−変位関係の設定は、試験体10を用いて測定した荷重−変位関係をそのまま適用してもよいし、材料に付属したミルシートの値に基づいて低減した荷重−変位関係を適用してもよい。また、荷重−変位関係を応力−ひずみ関係に変換して適用してもよい。
【0031】
荷重入力部243は、骨組解析モデル30に載荷する荷重の位置及び大きさを設定する機能を有する。本実施形態では、図4に示すように、一対の竪枠材モデル31,31の上端に、水平力S,Sが載荷されている。
【0032】
解析モデル計算部244は、物性値と荷重とを設定した骨組解析モデル30について、マトリックス変位法による解析を行うことにより、骨組解析モデル30の弾塑性復元力特性を計算する機能を有する。計算された骨組解析モデル30の弾塑性復元力特性は、出力部22に出力されるようになっている。
【0033】
つぎに、本実施形態に係るスチールハウスのトラス壁構造の解析方法の各工程について説明する。図5は、スチールハウスのトラス壁構造の解析方法の各工程を示すフロー図である。なお、以下の説明中、符号については適宜図1〜図5を参照する。
【0034】
(試験体作成工程S1)
はじめに、試験体10を作成する。具体的には、試験用ブレース材11A,11Bの両端に試験用ガセット12A,12A,12B,12BをボルトB及びナットNでピン接合し、この一方の試験用ブレース材11Aに取り付けられた試験用ガセット12Aと、他方の試験用ブレース材11Bに取り付けられた試験用ガセット12Bとで、プレート13を両面から挟み、各試験用ガセット12A,12Bのウェブ部12Aa,12Baを前記プレート13に溶接固定することにより、試験体10を作成する。
【0035】
(試験体載荷工程S2)
つぎに、作成した試験体10を載荷試験器15にセットするとともに、試験用ガセット12A,12A間に変位センサー14を取り付け、試験体10の軸方向に引張力を載荷することにより、試験体10の荷重−変位関係を測定する。
【0036】
(モデル化工程S3)
つぎに、構造解析装置20を用いて、トラス壁構造1をコンピュータ上で骨組解析モデル30にモデル化する。
このモデル化工程S3においては、まず、竪枠材2と上枠材3と下枠材4とブレース材5とをその中心を通る直線としてモデル化する。つぎに、ブレース材5がガセット6に連結された連結点をピン接合点Pとしてモデル化するとともに、竪枠材2と上枠材3との連結点及び竪枠材2と下枠材4との連結点を剛接合点としてモデル化する。そして、ピン接合点Pと竪枠材モデル31、上枠材モデル32又は下枠材モデル33との間の領域を連結部モデル35として剛域にモデル化する。つぎに、各部材の物性値を設定する。このとき、試験体載荷工程S2で求めた荷重−変形関係に基づいて、連結部モデル35の荷重−変形関係を設定する。そして、竪枠材モデル31の上端に水平力S,Sを設定する。
【0037】
(解析工程S4)
つぎに、骨組解析モデル30についてマトリックス変位法で解析することにより、トラス壁構造1の荷重−変位関係、すなわち、弾塑性復元力特性を求める。
【0038】
以上、本実施形態に係るスチールハウスのトラス壁構造の解析方法について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例】
【0039】
本発明に係るスチールハウスのトラス壁構造の解析方法で求めた弾塑性復元力特性と、実物大の試験体に水平荷重を載荷して計測した弾塑性復元力特性と、を比較する試験を行った。以下、この試験の詳細について説明する。図6は、比較例の構成を示した構成表である。図7は、部分的な試験体の引張試験結果を示すグラフである。図8〜図10は、トラス壁構造の実物大の試験体による荷重−変形関係と、部分的な試験と解析による荷重−変形関係とを重ねて示したグラフである。
【0040】
(比較例)
比較例として、「MW23」、「MHW23」、「MW32」という3種類のトラス壁構造の実物大の試験体(図1参照)を作成し、水平荷重を載荷して弾塑性復元力特性を求める試験を行った。図6に実物大の試験体の構成を示す。なお、「MW23」と「MW32」についてはそれぞれ4つの試験体で、「MHW23」については3つの試験体で試験を行った。竪枠材の間隔は455mmとした。
【0041】
試験は、試験体の脚部を高力ボルトで加力装置の梁に固定し、頂部に油圧ジャッキにより水平力を加えて行った。加力は、試験体名称「MW23−0」及び「MW32−0」については単調加力とし、それ以外の試験体については正負交番加力とした。測定は、荷重センサーで荷重を測定した他、変位センサーで試験体の頂部と脚部の水平変形と、脚部の回転変形について行った。
【0042】
なお、正負交番加力を載荷した比較例の測定結果は、比較し易くするために、単調加力とした場合の荷重−変位関係に評価し直した。比較例の荷重−変位関係(より詳しくは引張力−変位関係)を図8〜10に示す。正負交番加力の測定結果を単調加力の測定結果に評価し直す方法は、「薄板軽量形構造建築物設計の手引き」(日本鉄鋼連盟,2002.6.)に準拠した。
【0043】
(実施例)
実施例として、部材厚の異なる2種類の部分的な試験体10(図2参照)について荷重−変位関係を測定するとともに、前記した「MW23」、「MHW23」、「MW32」をモデル化した骨組解析モデル30に当該荷重−変位関係を適用して、トラス壁構造1の荷重−変位関係(すなわち弾塑性復元力特性)を解析した。
【0044】
部分的な試験体10としては、部材厚が2.3mmの材料を用いた「TH1L」と、部材厚が3.2mmの材料を用いた「TH3L」とを用意した。また、試験用ブレース材11A,11Bの長さ寸法は150mm、試験用ガセット12A,12Bの長さ寸法は100mm、プレート13の長さ寸法及び厚さ寸法は355mm×9mmとした。試験用ブレース材11A,11Bと試験用ガセット12A,12Bとを連結するボルトBはM12高力ボルトとした。引張試験の結果を図7に示す。
【0045】
図7に示した試験体10の荷重−変位関係(より詳しくは引張力−変位関係)を、骨組解析モデル30の連結部モデル35に適用して解析を行った。実施例1は、「MW23」をモデル化した骨組解析モデル30に「TH1L」の試験結果を適用して解析した。実施例2は、「MHW23」をモデル化した骨組解析モデル30に「TH1L」の試験結果を適用して解析した。実施例3は、「MW32」をモデル化した骨組解析モデル30に「TH3L」の試験結果を適用して解析した。実施例1〜3の荷重−変位関係(より詳しくは「せん断力−せん断変形関係」)をそれぞれ図8〜10に示す。
【0046】
図8〜図10に示すように、実施例1〜3による解析結果は、実物大の試験体を用いて求めたトラス壁構造1の荷重−変位関係と、ほぼ同様の傾向を示している。特に、せん断力が30kN程度までは非常によい相関を示し、その後、トラス壁構造1が降伏するまでは、実物大の試験体による試験結果よりも安全側の解析結果となっている。そのため、本発明によるスチールハウスのトラス壁構造の解析方法によれば、実用上問題ない精度で、かつ、安全な設計を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】スチールハウスのトラス壁構造の正面図である。
【図2】トラス壁構造の解析方法に用いる試験体の概略斜視図である。
【図3】構造解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】トラス壁構造の解析方法に用いる骨組解析モデルの正面図である。
【図5】スチールハウスのトラス壁構造の解析方法の各工程を示すフロー図である。
【図6】比較例の構成を示した構成表である。
【図7】部分的な試験体の引張試験結果を示すグラフである。
【図8】トラス壁構造の実物大の試験体による荷重−変形関係と、部分的な試験と解析による荷重−変形関係とを重ねて示したグラフである。
【図9】トラス壁構造の実物大の試験体による荷重−変形関係と、部分的な試験と解析による荷重−変形関係とを重ねて示したグラフである。
【図10】トラス壁構造の実物大の試験体による荷重−変形関係と、部分的な試験と解析による荷重−変形関係とを重ねて示したグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 トラス壁構造
10 試験体
20 構造解析装置
30 骨組解析モデル
S1 試験体作成工程
S2 試験体載荷工程
S3 モデル化工程
S4 解析工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を隔てて立設された一対の竪枠材と、前記一対の竪枠材の上端同士を連結する上枠材と、前記一対の竪枠材の下端同士を連結する下枠材と、前記一対の竪枠材の向かい合う側面に取り付けられた複数のガセットと、前記一対の竪枠材の向かい合う側面間に前記ガセットを介して連結された複数のブレース材と、によってトラス構造に構成されるスチールハウスのトラス壁構造について、当該トラス壁構造に水平力が作用したときの弾塑性復元力特性を、構造解析装置を用いて解析するスチールハウスのトラス壁構造の解析方法であって、
断面寸法及び材質が前記ブレース材と同一の部材の両端に、断面寸法及び材質が前記ガセットと同一の部材をピン接合で連結することによって試験体を作成する試験体作成工程と、
前記試験体の軸方向に引張力を載荷して、前記引張力と前記試験体の変形量との荷重−変形関係を計測する試験体載荷工程と、
前記構造解析装置を用いて、前記試験体の荷重−変形関係に基づいて前記トラス壁構造を骨組解析モデルにモデル化するモデル化工程と、
前記骨組解析モデルについてマトリックス変位法で解析することにより、前記弾塑性復元力特性を求める解析工程と、を備えることを特徴とするスチールハウスのトラス壁構造の解析方法。
【請求項2】
前記モデル化工程は、
前記竪枠材と前記上枠材と前記下枠材と前記ブレース材とを直線でモデル化する工程と、
前記ブレース材が前記ガセットに連結された連結点をピン接合点としてモデル化するとともに、前記竪枠材と前記上枠材との連結点及び前記竪枠材と前記下枠材との連結点を剛接合点としてモデル化する工程と、
前記竪枠材をモデル化した直線と前記ピン接合点との間の領域を剛域としてモデル化する工程と、
前記試験体載荷工程で求めた前記荷重−変形関係に基づいて、前記剛域の荷重−変形関係を設定する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のスチールハウスのトラス壁構造の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−39580(P2008−39580A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214140(P2006−214140)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(506270260)アジアンシルバーウッド株式会社 (2)
【出願人】(506270330)
【出願人】(502210529)
【Fターム(参考)】