説明

ステンレス鋼製金網入りガラス板

【課題】 (1)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204-1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(2)外観を損なわないこと、(3)長期間に亘って錆びないこと、(4)切断し易いこと、(5)磁性を有すること、(1)〜(5)の要件を全て満足するステンレス鋼製金網入りガラス板を提供する。
【解決手段】 ステンレス鋼製金網入りガラス板において、表面にニッケルメッキ層が形成された径0.45mm以上、0.64mm以下のステンレス鋼製線材を交差させ交点を溶接し正方形、長方形または菱形のマス目を形成した金網を使用し、正方形、長方形または菱形の前記マス目の1辺の長さが8.0mm以上、21.0mm以下であることを特徴とするステンレス鋼製金網入りガラス板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、防火ガラス用途等として、建築用窓ガラスに用いられる金網入りガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
金網入りガラス板は、破損時にガラス片が飛び散りにくく飛散防止に優れ、割れたとしても金網に支えられ崩れ落ちることが無く、火災時に類焼を防ぐ働きがあり、建築用窓ガラス等に防火のために広く用いられている。
【0003】
通常、金網入りガラス板は、ガラス窯中の高温の溶融ガラスをガラス窯から連続的に出し、溶融ガラスが固まらず溶融状態で進行するガラスリボンに、金網を挿入して製造される。金網入りガラス板の生産ラインにおいては、金属線を矩形あるいは菱形のマス目に編んだ金網をロールに巻き、溶融状態で進行するガラスリボン付近に設置される。前記ロールから金網を引き出し、引き出した金網をガラスリボンの進行方向と同じ方向に送りつつ、ガラスリボン中に挿入して封入する。金網を封入したガラスリボンは、ロールで平面に成形され、ついで徐冷し硬化させ、ガラスリボン状の金網入りガラス板となる。次いで、連続成形されるガラスリボン状の金網入りガラスを所望のサイズに切断して金網入りガラス板として出荷する。
【0004】
金網入りガラス板には、(1)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204-1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(2)外観を損なわないこと、金網入りガラス板に使用する金網用金属線材には(3)長期間に亘って錆びないこと、(4)切断し易いこと、(5)磁性を有することが求められ、(1)〜(5)の要件を全て満足することが好ましい。
【0005】
(1)の要件、防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格することについて説明する。金網入りガラス板は、割れたとしても金網に支えられ崩れ落にくいので、火災時に類焼を防ぐ働きがあり、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格した金網入りガラス板は、防火ガラスとして建築物の窓等に広く用いられている。金網をなす鋼製金属線の径が大きいほど、金網のマス目が小さいほど、前記評価試験に合格し易い。
【0006】
次いで(2)の要件、外観を損なわないことについて説明する。金網入りガラス板の冷却過程において、ガラス転移点以上の高温時にガラスと金属線の熱膨張差により径方向に引っ張り応力が発生し、金属線周辺のガラスに微細なクラックが生じ、これがぎらつきの原因となり、外観を損なう問題がある。
【0007】
次いで(3)の要件、長期間に亘って錆びないことについて説明する。金網に軟鋼線(鉄)を用いる場合には、軟鋼線にクロムメッキ、ニッケルメッキまたはスズメッキ等を施したものが使用される。しかしながら、メッキしたとしても、切断した際のガラスエッジ部の軟鋼線の切り口は、鉄が露出するので錆び易い。錆が発生すると軟鋼線が錆びることによる体積膨張で金網入りガラス板がエッジ部より割れることがあり、金網入りガラス板における特に重要な問題である。
【0008】
次いで(4)の要件、切断し易いことについて説明する。金網入りガラス板は、連続したガラスリボンに金網を挿入した後、所定の大きさに切断して使用するため、金属線材には切断しやすいことが求められる。
【0009】
次いで、(5)の要件、磁性を有することについて説明する。金網入りガラス板を破砕しカレットとしてリサイクルする際に、金属線材が磁性を有しないと、カレットより金属線を磁力選別できないのでリサイクルが困難となる。
【0010】
上記(4)切断し易いことおよび(5)磁性を有することの要件を満たす鋼製金属線材は、特許文献1にて知られている。特許文献1に記載の組成の金属線材は切断し易いが、快削元素を含むことにより錆び易い。
【0011】
更に(3)長期間に亘って錆びないことの要件を満たす鋼製金属線材が特許文献2に開示されている。
【0012】
また、ステンレス鋼製金網入りガラス板に使用されるステンレス鋼製金網において、(4)切断しやすいことの要件を、金網に使用される線材の径を細くすることで満たすため、特許文献2において、ステンレス鋼線材の径を0.45mm以下、好ましくは0.40mm以下、より好ましくは0.39mm以下と開示されているが、(1)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格することを目的とするものではない。
【0013】
また、(2)外観を損なわないことの要件に関連する微細クラックの抑制が、特許文献3に開示されているが、メッキ層からの発泡や必要以上の手間、コストが掛かっており、不経済である。
【特許文献1】特開昭55-136136号公報
【特許文献2】国際公開WO 03/028919号公報
【特許文献3】特開昭51-39710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、(1)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204-1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(2)外観を損なわないこと、(3)長期間に亘って錆びないこと、(4)切断し易いこと、(5)磁性を有すること、(1)〜(5)の要件を全て満足するステンレス鋼製金網入りガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明は、溶融した状態で進行するガラス内部に外部より金網を挿入して作製され、正方形、長方形または菱形のマス目を形成してなるステンレス鋼製金網入りガラス板において、表面にニッケルメッキ層が形成された径0.45mm以上、0.64mm以下のステンレス鋼製線材を交差させ交点を溶接し正方形、長方形または菱形のマス目を形成した金網を使用し、正方形、長方形または菱形の前記マス目の1辺の長さが8.0mm以上、21.0mm以下であることを特徴とするステンレス鋼製金網入りガラス板である。
【0016】
更に、本発明は、ニッケルメッキ層の厚みが、0.01μm以上、0.20μm以下であることを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板。
【0017】
更に、本発明は、ステンレス鋼製線材の組成が、重量百分率表示で、C、0.005%以上、0.12%以下、Si、0.03%以上、1.0%以下、Mn、0.1%以上、1.5%以下、Cr、13.0%以上、24.0%以下、Mo、3.0%以下を含み、残部はFeおよび不純物からなることを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、(1)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(2)外観を損なわないこと、(3)長期間に亘って錆びないこと、(4)切断し易いこと、(5)磁性を有すること、(1)〜(5)の要件を全て満足するステンレス鋼製金網入りガラス板が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
始めに、ステンレス鋼製ガラス板の製造方法について説明する。
【0020】
図1は、ニッケルメッキを施したステンレス鋼製金網入りガラス板の一例の斜視図である。図2は、ニッケルメッキを施したステンレス鋼製金網入りガラス板の図1とは異なる一例の斜視図である。
【0021】
ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは、図1または図2に示すように、マス目に形成するように線材を交差させてなるマス目の形状が正方形、長方形あるいは菱形のステンレス鋼製金網1がガラス板1に挿入されてなる。ガラス板1の種類としては、窓ガラス用に通常使用されているソーダライムシリケートガラスが挙げられる。隣り合う線材がなす菱形のマス目における鋭角部の角度は、80度以上、90度以下である。鋭角部の角度が、80度より小さいと、マス目が密となることで透明な窓ガラス本来の開放感が得られず、ガラス面積に対して必要以上に金網を使わなければならず不経済となり実用的ではない。
【0022】
本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ニッケルメッキを施したステンレス鋼製線材1を使用し、ステンレス鋼製線材1が交差した交差部2がスポット溶接またははんだ付け等により固着し相互に固定されてなる。交差部2をスポット溶接またははんだ付け等で固着させることにより、ステンレス鋼製金網1において、マス目の形状が乱れることがない。交差部2が外れることなきよう固着部に強度を得るには、はんだ付けより、スポット溶接を用いることが好ましく。電気溶接にて行うことが好ましい。尚、ニッケルメッキは公知のメッキ法、電気メッキ法、化学メッキ法によって行うが、ニッケル層の均等な厚みを得るには、電気メッキ法を用いることが好ましい。
【0023】
図3は、溶融した状態で進行するガラスリボン4にステンレス鋼製金網を挿入する際の説明図である。
【0024】
図3に示すように、ガラス熔融窯3中で加熱し熔融状態のガラス10を、連続したガラスリボン4として流出させつつ引き出し、ガラスリボン4の厚みを一対の圧延ロール5によって調整しつつ、厚みが一定になるように成形する。ステンレス鋼製金網1は、一対の圧延ロール5の直前に形成されるガラス盛り上がり部6において引っ張られつつ挿入される。
【0025】
ステンレス鋼製金網1が挿入されたガラスリボン4´はキャリアロール8により平面となるように水平に搬送され、成形および徐冷しつつ搬送され固化した後で、通常、表面研磨をし、所定の寸法に切断して、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gに製造される。
【0026】
次いで、本発明のステンレス鋼製金網入り板ガラスGにおけるステンレス鋼製金網の仕様について説明する。
【0027】
金網入りガラス板および金属線入りガラス板は、割れた時にガラス片が飛び散りにくく飛散防止に優れ、特に金網入りガラス板は、火災時等に熱でガラスが割れたとしても金網に支えられ窓自体が即座に崩れ落ちることがないので、類焼を防ぐ働きがあり防火性能に優れるため、JIS R 3204−1994の防火性試験に合格して、建築用窓ガラスに防火目的で広く用いられている。
【0028】
火災時にステンレス鋼製金網入りガラス板Gよりなる窓ガラスが熱により割れた際、割れたガラスの重みにより即座に崩落しないように、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材の径は、0.45mm以上であることが好ましい。ステンレス鋼製線材の径が0.45mmより細いと、ステンレス鋼製金網1自体が脆弱でガラスリボン4への挿入時、ステンレス鋼製金網1の中央部にシワ状の凹凸が発生することがある。シワ状の凹凸が発生すると、ガラスリボン4´の厚み方向におけるステンレス鋼製金網1の挿入位置が不揃いとなり、所望のステンレス鋼製金網入りガラス板Gが得られない。加えて、ステンレス鋼製金網1の挿入位置が揃わないことによりステンレス鋼製金網1によるシワ状の凹凸発生の影響を受けて、得られるステンレス鋼製金網入りガラス板Gの表面に凹凸が発生する。尚、ステンレス鋼製金網1の交差部2を溶接またはハンダ付けしないと、このステンレス鋼製金網1のシワ状の凹凸、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gの表面の凹凸発生は一層顕著になるばかりか、ガラスリボン4にステンレス鋼製金網1が挿入し得ないこともありえる。
【0029】
ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材の径が0.64mmより太いと、ステンレス鋼製金網入りガラス板の切断が容易ではなくなるので、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gの生産のし易さを考慮し、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製線材の径は0.64mm以下であることが好ましい。本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材の径が0.45mm以上、0.64mm以下の範囲内であれば、ステンレス鋼製線材の径に多少のばらつきがあっても、特に問題は起こらない。
【0030】
しかしながら、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材の径が0.45mm以上であっても、ステンレス鋼製金網1がなすマス目の1辺の長さが21.0mmより大きいと、火災時等に熱によりステンレス鋼製ガラス板Gよりなる窓ガラスが割れた際、割れたガラスの重みにより割れた箇所が崩落し易いために、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格し難い。一方、ステンレス鋼製金網1がなすマス目の1辺の長さが8.0mm未満であれば、マス目が密となることで透明な窓ガラス本来の開放感が得られず、ガラス面積に対して必要以上に金網を使わなければならず不経済となり実用的ではない。
【0031】
従って、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材の径は0.45mm以上、0.64mm以下の範囲内で、ステンレス鋼製金網1のマス目は、その辺の長さが8.0mm以上、21.0mm以下の範囲内とすることが好ましく、これら範囲内とすることで、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは(1)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204-1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(4)切断し易いことの要件を満足する。加えて、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製線材にニッケルメッキを施すことで、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは(2)外観を損なわないことを満足する。(3)長期間に亘って錆びないことの要件を満足するには、金網をなす線材の材料にステンレス鋼を選択し、(5)磁性を有することを満足するには、磁性を有する組成のステンレス鋼を選択する。
【0032】
次いで、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gに用いるステンレス鋼製線材の表面に形成するニッケルメッキ層の厚みの好適な範囲に付いて説明する。
【0033】
図3に示すように、ガラスリボン4のガラス盛り上がり部6にステンレス鋼製金網1を挿入した後の、ガラスリボン4´キャリアロール8上を搬送される徐冷過程において、ガラスリボン4´が冷え軟化点以下となる際にガラスリボン4´の体積は収縮する。同様に、ステンレス鋼製線材も収縮するが、ガラスとステンレス鋼の熱膨張率の違いから、前記徐冷過程で熱収縮する際にガラスリボン4´とステンレス鋼製線材の境界で微細なクラックが生じる。微細なクラックが生じたステンレス鋼製金網入りガラス板Gを目視観察すると、ステンレス鋼製線材がぎらついて見える。
【0034】
本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製線材にニッケルメッキ層を形成することで、微細なクラックの発生を防止し、ぎらつきを抑制している。前記徐冷過程でガラスとステンレス鋼が熱収縮する際に、ニッケルメッキ層がガラスリボン4´とステンレス鋼製線材の間に存在し緩衝材のように働くため、ステンレス鋼製線材とガラス界面には微細なクラックは生じず、そのためのぎらつき感が抑えられたと思える。ぎらつき感を抑制するのに、必要なニッケルメッキ層の厚みは0.01μm以上である。
【0035】
一方、前記ニッケルメッキ層が必要以上に厚いとぎらつき感は抑制できるもの、ステンレス鋼製線材に電気メッキ法にてニッケルをメッキしてニッケルメッキ層を形成する際に発生する水素をニッケルメッキが吸収し吸蔵水素として取り込むため、吸蔵水素による発泡が生じやすく、ニッケルメッキ層を形成してなるステンレス鋼製線材によるステンレス鋼製金網1からの発泡でステンレス鋼製金網入りガラス板Gの外観を損なうことがある。従って、ニッケルメッキ層の厚みは0.20μm未満とすることが好ましい。よって、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材におけるニッケルメッキ層の厚みは0.01μm以上、0.20μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0036】
次いで、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材の組成物およびその好ましい組成範囲について説明する。
【0037】
本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材には、重量百分率表示で、C、0.005%以上、0.12%以下、Si、0.03%以上、1.0%以下、Mn、0.1%以上、1.5%以下、Cr、13.0%以上、24.0%以下の範囲内で、Mo、3.0%以下を含み、残部Feおよび不純物からなるステンレス鋼製線材を用い、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gとした際の外観を損なわないために、ステンレス鋼製線材の表面に従来公知の電気メッキ、化学メッキ等でニッケルメッキを行う。
【0038】
Cは、Crと炭化物を形成し、ステンレス鋼製線材の高温における引っ張り強度等の物性を低温時に比較して損なうことなく安定させる効果を奏する組成物である。しかしながら、ステンレス鋼製線材におけるCの含有が0.12wt%を超えると、ガラスリボン4に封入したステンレス鋼製金網1の周囲に発泡を生じさせる原因物質となる懸念がある。また、Cの含有が0.005wt%より少ないと、伸線や編網等の金網製造工程中にステンレス鋼製線材に傷が生じ切断する懸念がある。よって、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材におけるCの含有は、重量百分率表示で0.005%以上、0.12%以下の範囲内であることが好ましい。
【0039】
Siは、ステンレス鋼製線材を製造する際に脱酸素させる、およびステンレス鋼線の耐酸化性の向上させる効果を奏する。しかしながら、ステンレス鋼製線材におけるSiの含有が1.0wt%を超えると、ステンレス鋼製線材を製造する際の伸線加工が困難となる。また、Siの含有が0.03wt%より少ないと、伸線加工、編網等の金網製造工程中に脱酸素が十分に行われず、ステンレス鋼製線材の強度が低下する、およびステンレス鋼製線材中に酸化物が残存しステンレス鋼製金網入りガラス板Gとした際にガラス中で発泡する懸念がある。よって、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材におけるSiの含有は、重量百分率表示で0.03%以上、1.0%以下の範囲内であることが好ましい。
【0040】
Mnは、ステンレス鋼製線材を製造する際に脱酸素させる効果を奏する。しかしながら、ステンレス鋼製線材におけるMnの含有が1.5wt%を超えると、熱間強度が低下し脆化して、ステンレス鋼製線材を製造する際の伸線加工が困難となる。また、Mnの含有が0.1wt%より少ないとステンレス鋼製金網入りガラス板とした際にステンレス鋼製線材の周囲のガラスにクラックが発生し易くなる。よって、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材におけるMnの含有は、重量百分率表示で0.1%以上、1.5wt%以下の範囲内であることが好ましい。
【0041】
Crは、ステンレス鋼製線材の高温における酸化防止と熱間強度の向上および耐食性を付与する効果を奏する。しかしながら、ステンレス鋼製線材におけるCrの含有が13.0wt%未満では前記効果が少ない。また、Crの含有が24.0wt%を超えると靭性が低下して熱間強度が低下し脆くなる、またステンレス鋼製線材を製造する際の伸線加工が困難となる。よって、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材におけるCrの含有は、重量百分率表示で13.0%以上、24.0%以下の範囲内であることが好ましい。
【0042】
Moは、CおよびCrと共に熱間強度を高めると共に、特にステンレス鋼製線材の耐食性向上に顕著な効果を奏する。しかしながら、ステンレス鋼製線材におけるMoの含有が3.0wt%を越えると熱間強度が低下して脆化して、ステンレス鋼製線材を製造する際の伸線加工が困難となる。本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材に含有していなくても充分な耐食性は得られるが、耐食性を更に向上させるには、Moを3.0wt%以下で含有させることが好ましい。
【0043】
尚、ステンレス鋼製線材は組成物として、前記以外に、残部としてのFeを含有し、S、P、N、Cu、BおよびAl等の原料に由来する不純物を含有する。
【0044】
ステンレス鋼製線材の組成を、上記組成範囲することで、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは、(2)外観を損なわないこと、(3)長期間に亘って錆びないこと、(5)磁性を有することの要件を満足することに対して、更なる向上の効果がある。
【0045】
尚、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するステンレス鋼製線材は断面が円形の一般的なものを使用するのが好ましく、本発明において線材の径とは断面の直径である。
【実施例1】
【0046】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0047】
0.03μmの厚みのニッケルメッキ層を電気メッキ法により形成した、径が0.64mmのステンレス鋼製線材でなる線材を菱形の編み目で編んだステンレス鋼製金網1を準備した。ステンレス鋼製金網1における菱形のマス目の1辺の長さは19.4mmであり、菱形の鋭角部の角度は80度であり、交点はスポット溶接により溶接してなる。尚、ステンレス鋼製金網をなすステンレス鋼製線材の組成は、重量百分率表示で、C、0.03%、Si、0.46%、Mn、0.36%、Cr、16.73%、残部Fe、82.38%、およびP、0.03%、S、0.01%等の不純物であり、磁性を有する。
【0048】
図3に示すように、前記ニッケルメッキを施したステンレス鋼製金網1をガラスリボン4における一対の圧延ロール5の直前に形成されるガラス盛り上がり部6に前記金網1を挿入した。ガラスリボン4の進行する速度は、一対の圧延ロール5の回転速度により調整し、ステンレス鋼製金網1の送り速度は網送りロール7の回転速度で調整した。ガラスリボン4に挿入するニッケルメッキを施したステンレス鋼製金網1の長さは250mである。金網入りのガラスリボン4´を徐冷後に採断し、サイズが2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得た。尚、ステンレス鋼製金網入りのガラスリボン4´の切断は、ガラスリボン4´の進行方向に直交する切り筋を、ガラスリボン4´を横断するように入れた後に、ガラスリボン4´の切り筋両端から互いに逆方向のせん断力を働かせて切断し、支障無く切断した。
【実施例2】
【0049】
電気メッキ法で形成したニッケルメッキ層の厚みを0.18μmとしたステンレス鋼製線材よりなる、菱形のマス目となるように編んで交差部2をスポット溶接してなるマス目が実施例1と同じ形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例と1と同様の手順で、サイズが2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得た。
【比較例】
【0050】
比較例1
ニッケルメッキ層を施していないステンレス鋼製線材よりなる、菱形のマス目となるように編んで交差部2をスポット溶接してなるマス目が実施例1と同じ形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例と1と同様の手順で、サイズが2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得た。
比較例2
ニッケルメッキ層の厚みを0.35μmとしたステンレス鋼製線材よりなる、菱形のマス目となるように編んで交差部2をスポット溶接してなるマス目が実施例1と同じ形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例と1と同様の手順で、サイズが2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得た。
【0051】
比較例3
ニッケルメッキ層の厚みを0.18μmとした軟鋼線でなる、菱形のマス目となるように編んで交差部2をスポット溶接してなるマス目が実施例1と同じ形状の軟鋼製金網を準備した。該軟鋼製金網1を用いて、実施例と1と同様の手順で、サイズが2.6m×1.9mの軟鋼製金網入りガラス板を得た。
(外観の評価)
実施例1、実施例2、比較例1〜2のステンレス鋼製金網入りガラス板および比較例3の軟鋼製金網入りガラス板の外観を目視により評価した。具体的には、金網とガラスの境界における微細クラックの有無、金網とガラスの境界における発泡の有無を目視評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例1および実施例2のステンレス鋼製金網入りガラス板において、金網とガラスの境界において微細クラックおよび発泡が見られず、製品として出荷するに問題のない良好な外観を示した。
(防錆性の評価)
実施例1、実施例2、比較例1〜2で得たステンレス鋼製金網入りガラス板、比較例3で得た軟鋼製金網入りガラス板を切断して、300mm角の大きさとし、水の浸漬と乾燥の繰り返しによる防錆性を評価する試験を行った。具体的には300mm角に切断した実施例1、実施例2、比較例1〜2で得たステンレス鋼製金網入りガラス板、比較例3の軟鋼製金網入りガラス板を、水槽内に水道水を各ガラス板が150mm浸漬するように立て置きして浸漬させた。24時間浸漬させた後、48時間、乾燥させることを1サイクル単位として、繰り返し10サイクルを実施した。1サイクル終る毎に、図1に示すガラスエッジの線材端部9から交差部2までの間の線材の表面において錆の発生の有無を観察し、錆が発生した箇所の数を数えて防錆性を評価した。防錆性の評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、実施例1、実施例2および比較例2のステンレス鋼製金網入りガラス板において、錆の発生は全く観察されず、製品として出荷するに問題のない良好な外観を示した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ニッケルメッキを施したステンレス鋼製金網入りガラス板の一例の斜視図である。
【図2】ニッケルメッキを施したステンレス鋼製金網入りガラス板の図1とは異なる一例の斜視図である。
【図3】溶融した状態で進行するガラスリボン4´にステンレス鋼製金網1を挿入する際の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
G ステンレス鋼線入りガラス板
1 ステンレス鋼製金網
2 交差部
3 ガラス熔融釜
4、4´ ガラスリボン
5 圧延ロール
6 ガラス盛り上がり部
7 網送りロール
8 キャリアロール
9 線材端部
10 熔融状態のガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した状態で進行するガラス内部に外部より金網を挿入して作製され、正方形、長方形または菱形のマス目を形成してなるステンレス鋼製金網入りガラス板において、表面にニッケルメッキ層が形成された径0.45mm以上、0.64mm以下のステンレス鋼製線材を交差させ交点を溶接し正方形、長方形または菱形のマス目を形成した金網を使用し、正方形、長方形または菱形の前記マス目の1辺の長さが8.0mm以上、21.0mm以下であることを特徴とするステンレス鋼製金網入りガラス板。
【請求項2】
ニッケルメッキ層の厚みが、0.01μm以上、0.30μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板。
【請求項3】
ステンレス鋼製線材の組成が、重量百分率表示で、C、0.005%以上、0.12%以下、Si、0.03%以上、1.0%以下、Mn、0.1%以上、1.5%以下、Cr、13.0%以上、24.0%以下、Mo、3.0%以下を含み、残部はFeおよび不純物からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−256878(P2006−256878A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72971(P2005−72971)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】