説明

ストリッピング部材、ストリッピング装置、及びサイクロトロンから粒子ビームを抽出するための方法

【課題】 サイクロトロンから粒子ビームを抽出するためにサイクロトロンの周囲の負に帯電された粒子ビームから電子をストリッピングするためのストリッピング部材を提供する。
【解決手段】 このストリッピング部材は、前記粒子ビームが第一ストリッパー箔を通過するように前記サイクロトロンの周囲に設けられるのに適合した第一ストリッパー箔を含んでおり、さらに前記負に帯電された粒子ビームが、前記第一ストリッパー箔が損傷したとき、第二ストリッパー箔を通過するように、前記第一ストリッパー箔より大きな周囲半径で前記サイクロトロンの周囲の第一箔と並んで設けられるのに適合した第二ストリッパー箔を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクロトロンのような帯電粒子加速器の分野に関する。より詳細には、本発明は、ストリッピング部材、ストリッピング装置、並びにサイクロトロンから粒子ビームを抽出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロンは、医療用途(例えばラジオアイソトープの製造または粒子療法)、科学研究、及び工業用途のような多くの用途でかなり使用されている。
【0003】
サイクロトロンは、高減圧下で作動する再循環粒子加速器であり、イオンを数MeV、さらに高いエネルギーまで加速する。前もってイオン源により発生された帯電粒子は、サイクロトロン内で螺旋運動で加速され、前記螺旋運動の終りに抽出システムによりサイクロトロンから抽出される。
【0004】
サイクロトロン内での粒子加速は、一方ではイオン源から来る粒子を磁界に垂直な面内の円経路に従う電磁石により発生された磁界を使用することにより、他方では粒子をさらに加速する高周波交流電圧を付与することができるRFシステム(高周波電力供給を含む)により発生された電界により達成される。
【0005】
結果として、粒子はサイクロトロンから抽出されることができるか、または特別な用途ではサイクロトロン自体の内側で、例えばアイソトープを製造するために使用されることができるサイクロトロンの外径までエネルギーを獲得することにより(エネルギーの増加は粒子軌道半径の増加を意味する)螺旋経路に従う。しかし、ほとんどの用途では、イオンビームをサイクロトロンから抽出し、それをそれが使用されることができるターゲットに案内することが必要である。この場合、抽出システムは典型的にはサイクロトロンの内部外径の近くに設置される。
【0006】
正に帯電された粒子を抽出するための一般的な抽出方法は、加速された粒子をその加速軌道から抽出軌道に偏向することができる強い電界を作る静電偏向器により達成される。この静電偏向器は典型的には、サイクロトロンの最後の内部軌道と粒子が抽出されるであろう抽出軌道との間に置かれる隔壁と呼ばれる非常に薄い電極からなる。しかし、この抽出法は次のような二つの主な欠点を持つ。第一の欠点は、かかる方法の抽出効率が極めて制限され、それによりさえぎられたビームによる隔壁の熱的加熱のために抽出されることができる最大ビーム強度を制限することである。第二の欠点は、隔壁による粒子のさえぎりがサイクロトロンの放射性に強く寄与することである。
【0007】
別の抽出法がEP0853867(本出願人による)から知られており、そこではイオンビームがサイクロトロンからどのような抽出システムも使用せずに抽出されることができる。しかし、この技術の主な欠点は、前記方法が複雑であることにある。
【0008】
別の一般的な抽出法はストリッピング抽出法であり、それは陰イオン源から来る陰イオンビームを抽出するために炭素ストリッピング箔を使用する。陰イオンビームは、陰イオンの一つ以上の電子をストリッピングすることにより陽イオンビームに変換される。かかる方法の抽出効率は99%ほどで高く、従来のものよりかなり簡単でありかつ材料の厚さに依存する。ストリッピング材料の厚さが大きいほど、イオンビームはより多く拡大される。結果として、サイクロトロンを出るビームの分散は、ストリッピング箔の厚さが増加するときに増大する。
【0009】
典型的に、炭素ストリッピング箔はストリッピング探針またはフォーク上に取り付けられ、サイクロトロンの外部領域内のストリッパー腕によりサイクロトロンの減圧室内に挿入される(この挿入は従来技術で周知である)。ストリッピング箔は通常、炭素から作られ、2×2cmのオーダーの寸法を持つ。高強度陰イオンビーム(例えばHまたはD)が螺旋経路に沿って加速器内で加速され、次いでそれはかかるストリッピング箔により散乱される。前記陰イオンビームと前記ストリッパー箔の表面との間の衝突時に、陰イオンビームの二つの電子が前記ストリッピング箔の物質の原子核と陰イオンビームとの間のクーロン力のためにストリッピング箔によりストリッピングされる。結果として、例えばプロトンのような希望の帯電粒子が得られ、一方で二つのストリッピングされた電子は接地された捕捉電子装置により陰イオンビームの流れを測定するために使用される。
【0010】
サイクロトロンでは、この相互作用は、加速軌道の回転成分を提供する磁界内で起こるので、イオンの特定の電荷の変化はストリッパー箔後のイオン軌道の方向の変化をもたらす。この特別な効果は典型的には、図1に示されたように、サイクロトロンからイオンビームを抽出するために使用される。図1では、ストリッパー箔100の前の陰イオンH軌道は実線により示され、一方ストリッパー箔100の後の陽イオンH軌道は点線により示され、ここでBはイオンビーム軌道に垂直な磁界方向を示す。二つのストリッピングされた電子2eは接地された捕捉電子装置101によりイオンビームの流れを測定するために使用される。
【0011】
図2は、同様に、ストリッパー箔100が設けられているサイクロトロンの抽出領域内の陰イオンビーム1000の抽出工程を示す。ストリッパー箔100を通過した後の陰イオンビームはその軌道半径を変え、従ってサイクロトロンを出る。
【0012】
多くの用途で、サイクロトロンにより発生されたイオンビームのエネルギーは固定されることができない。事実、異なるエネルギーを持つ(すなわち異なる半径軌道を持つ)幾つかのイオンビームの生成が典型的には要求され、この場合には、希望のイオンビームのそれぞれはサイクロトロンからイオンビームを抽出するための抽出領域内に対応する箔位置を持つ。
【0013】
しかし、通常のストリッピング箔は抽出効率要求のために非常に脆く、従って、繰り返されるイオン衝突時にそれらの物理的性質を維持することができない。かかる繰り返される衝突は典型的に、実際に過剰な加熱、従ってストリッパー箔の損傷を起こす。さらに、加速器の減圧状態が失われるとき(例えば、標準メンテナンス工程時または突然の事故による減圧損失時)、ストリッパー箔は典型的には圧力変動のために割れる。結果として、通常のストリッパー箔の寿命は非常に短く、典型的な寿命範囲はビーム電流強度及び密度に依存して数時間から数日までである。
【0014】
既述のように、ストリッパー箔厚さ、従ってストリッパー箔寿命の選択はイオンビームのエネルギーに依存し、さらに抽出されるイオンビームのタイプに依存する。2μm〜5μmの厚さを持つストリッピング箔は非常に高い抽出効率を持つが、非常に低い耐久性(機械的応力及び/または繰り返されるイオン衝突による加熱のため)を持つことは従来周知である。対照的に、16μm〜50μmの厚さを持つストリッピング箔は非常に高い耐久性を持つが、同時に例えば50%〜65%であることができる低い抽出効率を持つ。
【0015】
従って、抽出効率は以下のようにストリッピング箔の厚さに依存する。陰イオンビームがストリッパー箔を通過するとき、多散乱の機構によるビーム損失がある。多散乱はビーム放射率の増加からなる。すなわち粒子ビームとストリッパー箔との間の衝突の結果としてビームがストリッパー箔を通過するときの粒子ビームのある範囲の方向中への分散からなる。ストリッパー箔の厚さが高いほど、多散乱は多く増加する。サイクロトロンの出口は非常に小さい直径を持つので、もしストリッピングされた粒子ビームの放射率が高いなら、粒子ビームの大きな部分がサイクロトロンの出口を通過不可能にするために失われるかもしれない。
【0016】
前述のように、通常のストリッピング箔は脆く、摩耗のために定期的に交換されることが必要である。ストリッピング箔を交換することは厄介で時間がかかる:サイクロトロン内の減圧が破壊され、サイクロトロンが開かれ、メンテナンス時の人手が取られなければならず、ストリッパー箔が交換され、サイクロトロンが閉じられ、そしてサイクロトロンが良好な減圧が得られるまで空気を抜かれる。この問題を克服するため、Heikkinenら(Cyclotron development program at Jyvaskyla,Cylotron and their applications 2001,Sixteenth International Conference)は30MeVサイクロトロンの減圧タンク内に、四つのストリッパー箔を持つ回転箔保持器を備えたストリッパー機構を設置した。ストリッパー箔が損傷した場合、ストリッパー機構は新しいストリッパー箔をビームの前方に配置するために回転される。しかし、この機構もまた、18MeVサイクロトロンのような小さなサイクロトロンに対しては煩わしすぎる。さらに、ストリッピング箔の欠陥の場合に、もしビームが停止されないと、それは減圧室またはサイクロトロンの内側の他の構造に当り、損傷する。これを避けるために、欠陥を検出しかつビームを停止する情報を提供するためにサイクロトロンの内側に探針が設けられる。そのときホイールがビームの軌道内に新しいストリッピング箔を配置するために回転され、ビーム加速が再始動される。加えて、欠陥を検出するための探針の実施は装置を複雑にし、サイクロトロンの内側に追加の嵩を必要とする。かかる回転箔保持器と組合されたかかる探針は、小さなサイクロトロン内で利用できる減少した容積内で実施不可能である。これらの著者によりもたらされたこの解決策の別の欠点は、たとえサイクロトロンが開かれなかったとしても、短い半減期の放射性同位元素の製造の場合には、ストリッパー箔の交換時間を最少にすること、及びビームの停止を避けることが重要であることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服する、新しい種類のストリッピング装置及びストリッピング部材、並びに方法を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、繰り返されるイオン攻撃時及びサイクロトロンの減圧状態が失われた時であっても通常のストリッパー箔と比較して高い抽出効率及び高い耐久性を提供するストリッピング装置及びストリッピング部材、並びに方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、一方ではサイクロトロンの処理量を改善し、他方ではメンテナンス行動時間を最少にするストリッピング装置及びストリッピング部材、並びに方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、添付請求項に述べられたようなストリッピング部材及び方法に関連している。特定の実施態様は、独立請求項と一つ以上の従属請求項との組合せで記載される。本発明の第一態様によれば、負に帯電された粒子ビームから電子をストリッピングするためのかつ粒子ビームを前記サイクロトロンから抽出するためのストリッピング部材が提供される。前記ストリッピング部材は、前記粒子ビームが前記第一ストリッパー箔を通過するように前記サイクロトロンの周囲に設けられるように適合された第一ストリッパー箔を含み、それはさらに、前記サイクロトロンの周囲に前記第一ストリッパー箔より大きな周囲半径で設けられるように適合されかつ第一ストリッパー箔と共通面内にかつ並んだ関係で配置された第二ストリッパー箔を含み、従って前記第一ストリッパー箔が損傷したとき、前記負に帯電された粒子ビームが前記第二ストリッパー箔を通過する。ストリッパー箔は、第一箔に対する損傷の場合に第一から第二箔への切替えがビームを停止する必要なしにかつストリッピング部材を動かす必要なしに行なわれるような方法で配置される。
【0021】
有利には、前記第二ストリッパー箔の厚さは前記第一ストリッパー箔の厚さより大きい。
【0022】
好ましくは、前記第一ストリッパー箔と前記第二ストリッパー箔は両者とも熱分解炭素から作られる。
【0023】
より有利には、前記第一ストリッパー箔は2μg/cm〜10μg/cmの坪量を持ち、前記第二ストリッパー箔は12μg/cm〜35μg/cmの坪量を持つ。
【0024】
本発明の第二態様によれば、サイクロトロンから粒子ビームを抽出するためにサイクロトロンの周囲で負に帯電された粒子ビームから電子をストリッピングするためのストリッピング装置が提供される。前記ストリッピング装置は、本発明の第一態様によるストリッピング部材、及び前記ストリッピング部材を前記サイクロトロンの周囲に維持するために適合された支持手段を含む。
【0025】
有利には、ストリッピング装置はさらに、サイクロトロン内の前記ストリッピング部材の位置を調整することができる調整手段を含み、それにより前記負に帯電された粒子ビームが前記第二ストリッパー箔によりストリッピングされるときに前記ストリッピング部材の抽出効率を増加する。
【0026】
好ましくは、前記第二態様によれば、前記支持手段は、第三ストリッパー箔及び第四ストリッパー箔を持つ同じタイプの第二ストリッピング部材を支持するのに適合されている。
【0027】
より好ましくは、前記ストリッピング装置はさらに、前記支持手段を、前記負に帯電された粒子ビームがストリッピング部材の第一ストリッパー箔または第二ストリッパー箔のいずれかによりストリッピングされる第一位置から、前記負に帯電された粒子ビームが前記第二ストリッパー部材の前記第三ストリッパー箔または前記第四ストリッパー箔のいずれかによりストリッピングされる続く第二位置に動かすのに適合された駆動手段を含む。一実施態様によれば、前記支持手段は、粒子ビーム経路に垂直な垂直軸の周りに回転可能な回転可能ストリッパーヘッドである。
【0028】
本発明の第三態様によれば、サイクロトロンから粒子ビームを抽出するためにサイクロトロンの周囲で負に帯電された粒子ビームから電子をストリッピングするための方法が提供される。この方法は次の工程:
・ 本発明の第一態様によるストリッピング部材を準備する;
・ 前記粒子ビームを第一ストリッピング箔により抽出する;及び
・ 前記第一ストリッピング箔が損傷した場合に、前記帯電された粒子の加速器を停止することなく、前記粒子ビームを前記第二ストリッピング箔により抽出する;
を含む。
【0029】
好ましくは、前記帯電された粒子ビームを第二ストリッピング箔により抽出する前記工程はさらに次の工程:
・ 前記第二ストリッパー箔の抽出効率を増加するように前記帯電された粒子の加速器の内側で前記ストリッピング部材の位置を調整手段により調整する;
を含む。
【0030】
より好ましくは、前記方法は次の工程:
・ 第三ストリッパー箔及び第四ストリッパー箔を持つ同じタイプの第二ストリッピング部材を準備する;
・ 前記第二ストリッピング部材及び前記ストリッピング部材を支持するための支持手段を準備する;
・ 前記ストリッピング部材の前記第一ストリッパー箔または前記第二ストリッパー箔が損傷しているかどうかをチェックする;そして
・ 前記チェックが損傷を示すときは、前記帯電された粒子ビームが前記第二支持手段の前記第三ストリッパー箔または前記第四ストリッパー箔のいずれかによってストリッピングされるように前記支持手段を動かす;
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、陰イオンとストリッパー箔の間の相互作用を示す。この相互作用後に、陰イオンは陽イオンとなり、従って軌道が変更される。
【0032】
【図2】図2は、サイクロトロンの抽出領域の一部の上面図を示す。
【0033】
【図3】図3は、ストリッピング部材を示す。
【図4】図4は、本発明の第一態様による陰イオンビームをストリッピングするときの図3のストリッピング部材の図を示す。
【0034】
【図5】図5は、本発明の第二態様の第一実施態様によるストリッピング装置の図である。
【0035】
【図6】図6は、本発明の第二態様の第二実施態様によるストリッピング装置の透視側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の第一態様によれば、図3に概略的に示されたように、ストリッパー部材2が設けられる。前記ストリッパー部材2は第一ストリッパー箔10と第二ストリッパー箔20を含み、それらは、ねじ4により一緒に締め付けられた二つの金属枠を含む金属フォーク30により両側をはさまれている。前記金属フォーク30は、平行に配置された前記第一ストリッパー箔10と前記第二ストリッパー箔20を共通面内にかつ並んだ関係で維持する。これは、互いに接触した縁を持つ隣接箔、重複する縁を持つ箔及び間に開放空間を持つ箔を含む。しかし、金属のような固体材料は隣接箔間に存在しない。
【0037】
ストリッパー部材2がサイクロトロンの内側に挿入されるとき、第一ストリッパー箔10と第二ストリッパー箔20がそれぞれサイクロトロンの内部領域内のより内側位置に及びより外側位置に設けられるような態様で、前記第一ストリッパー箔10はストリッパー部材2の遠位領域に設けられ、一方第二ストリッパー箔20はストリッパー部材2の近位領域に設けられる(遠位/近位及び内側/外側という用語はサイクロトロンの中心軸に対して言う)。結果として、陰イオンビーム1000は、以下に説明するように、その螺旋経路中に最初に第一ストリッパー箔10に到達するであろう。
【0038】
本発明の他の実施態様では、二つのストリッパー箔10,20は、なお共通面内で並んで配置されていながら、サイクロトロン内に異なるフォークにより支持されかつ異なる半径で設けられることができる。例えば、図3に示されたような二つのフォークは、互いに面するフォーク開口を持って配置されることができ、各フォークは一つの箔を含む。
【0039】
ストリッピング箔10,20は両者とも、典型的にはガス状炭化水素化合物を好適な下方基板(炭素材料、金属、セラミックス)上に1000〜2500Kに及ぶ温度で蒸着すること(化学蒸着)により得られる黒鉛と同様の炭素材料である熱分解炭素材料から作られる。熱分解炭素は、ストリッパー箔を製造するために使用される通常の炭素と比較してより良好な耐久性及び抵抗性を持つ。
【0040】
本発明の一実施態様によれば、ストリッパー箔10,20は異なる厚さを持つ。箔は、μmで表されたその厚さにより特徴付けられるか、または紙産業のようにμg/cmで表された箔の面積当りの質量であるその坪量により特徴付けられることができる。μmでの箔の厚さは、坪量を箔材料の密度で割ることにより得られる。例えば、第一ストリッパー箔10は5μmの厚さを持ち、かつ出願人により指摘されたように約90%の抽出効率を与えるが、一方第二ストリッパー箔20は25μmの厚さを持ち、かつ約75%の抽出効率を与える。結果として、第二ストリッパー箔20は、第一ストリッパー箔10と比較してより損傷に対して抵抗性があるが低い抽出効率を持つ。
【0041】
本発明によれば、第二ストリッパー箔20は第一ストリッパー箔10が損傷したときにのみ使用され、従ってバックアップストリッパー箔として作用する。使用時には、ストリッパー部材2は、従来技術で周知のように、サイクロトロンの外方内部領域のわずかに内側の計画位置に配置される(図示せず)。高強度陰イオンビーム1000はエネルギーを取得することによりその螺旋経路を移動した後、それはストリッパー部材2の第一ストリッパー箔10をさえぎり、最終的に前記第一ストリッパー箔10により抽出される。図4に示されるように前記第一ストリッパー箔10が損傷したとしても(前述のように、例えば繰り返された攻撃、標準的な機械開口、または減圧損失または加熱に起因して)、陰イオンビーム1000を第二ストリッパー箔20によりストリッピングすることはなお可能である。実際、第一ストリッパー箔10が破壊したとき、陰イオンビーム1000はもはや抽出されず、それがストリッピング部材1の第二ストリッパー箔20に到達するまで(ある数のさらなる回転の後)サイクロトロンの内側で回転を保つ。後者はバックアップ箔として作用する。第一箔から第二箔への変更は自動的に起こる。すなわち、いかなる外側の妨害もなしに、ビームを停止する必要なしに、かつビームに対するストリッピング部材の移動なしに起こる。従って、この態様では、損傷したストリッパー箔を新しいものと交換するためにサイクロトロンを停止して開く必要はもはやない。結果として、サイクロトロンの処理量は従来技術に対して大きく改善されることができる。薄い第一ストリッパー箔10の使用はサイクロトロンに非常に高い抽出効率を持たせることを可能にするが、箔はまた、脆く、容易に破壊するであろう。その場合、より厚い第二ストリッパー箔を持つことが有利である。
【0042】
本発明の第二態様によれば、図5に概略的に示されたようなストリッパー装置1が提供される。第一実施態様によるストリッパー装置1は、サイクロトロン内のその外方内部領域内に前記ストリッピング部材2を維持するために、ストリッパー腕40のような支持手段を含む。
【0043】
ストリッピング装置1の位置、従ってサイクロトロン内の来入する陰イオンビーム1000に対する前記第二ストリッパー箔20の位置を調整するための調整手段(図示せず)が、ストリッピングされた粒子ビームのサイクロトロンの出口に渡る分散を減らすために、従って第二ストリッパー箔20の抽出効率を増やすためにさらに設けられることができる。調整される位置は、直接的または角度的のいずれの位置であることができ、例えば中心軸に対して半径方向に沿った直線的、または前記中心軸周りまたは水平軸周りに角度的であることができる。
【0044】
本発明の第二態様の第二実施態様によれば、前記ストリッピング装置1は、ストリッピング腕40の代わりに、追加の第二ストリッピング部材3を支持することができるストリッパーヘッド41を含み、第二ストリッピング部材3は、図6に示されるように、第二フォーク31により維持された第三ストリッパー箔11及び第四ストリッパー箔21を含む。前記ストリッパーヘッド41は、駆動手段(図示せず)により陰イオンビーム1000に垂直な垂直軸Aの周りに回転することができる。
【0045】
第二ストリッピング部材3の第三ストリッパー箔11及び第四ストリッパー箔21はそれぞれストリッピング部材2の第一ストリッパー箔10及び第二ストリッパー箔20と同じ特性を持つ。この第二実施態様によれば、陰イオンビーム1000をストリッピング部材2のストリッピング箔10,20によるかまたは第二ストリッピング部材3のストリッピング箔11,21によるかのいずれかで陰イオンビーム1000をさえぎるようにストリッピング装置1を回転することが可能である。図6に示されるように、陰イオンビーム1000は、ストリッピングヘッド41を軸A周りに予め定められた角度θに渡って回転した後、第二ストリッピング部材3のストリッパー箔21によりストリッピングされる。
【0046】
本発明の第三態様によれば、帯電粒子加速器から来る前記陰イオンビーム1000をストリッピングするための方法が提供される。かかる方法の工程に従うことにより、サイクロトロンを停止して開くことなく損傷したストリッパー箔を第二のそれと容易にかつ迅速に交換することができる。実際、第一ストリッパー箔10が損傷されたとき、既述のように、陰イオンビーム1000はもはや抽出されず、それが前記ストリッパー部材2の第二ストリッパー箔20に到達するまで回転を保持する。従って、第二ストリッパー箔20はバックアップ箔として作用する。
【0047】
本発明の前記第三態様の変形例によれば、陰イオンビーム1000が結果として第二ストリッピング部材3のストリッパー箔11,21の一つによりストリッピングされ、一方損傷したストリッパー箔10,20を持つストリッピング部材2が陰イオンビーム1000の軌道から容易にわきによけさせられることができるような方法で、図6のストリッピング装置1をある予め定められた角度θに渡って回転することも可能である。しかし、用途に依存してどのストリッピング部材のどのストリッパー箔が使用されるべきかを決定することができることは明らかである。従って、ストリッパー箔を使用する順序は本発明から逸脱することなく容易に変更されることができる。図6の実施態様を使用すれば、ビームが活動したままでありながら保持器をθに渡って回転することが可能であり、従って箔11と21はバックアップ箔として作用する。しかし、操作の好適な方法は、特別な処理に関して箔10と20の厚さを選ぶことであり、従ってバックアップ箔20がビーム作動中に破壊しないことが実質的に確実である。処理後、追加の処理が箔11と21を使用して与えられることができるように保持器を回転することが可能である。この方法では、減圧は、箔交換の間、破壊されないままである。
【0048】
本発明の一つ以上の実施態様が添付図面に関して詳細に述べられた。記載された図面は概略的なものにすぎず、従って非限定的であるので、本発明は請求項によってのみ限定されることは明らかである。図面では、要素の幾つかの寸法は例示目的のため誇張されかつ一定の尺度で描かれていないかもしれない。寸法及び相対的寸法は必ずしも本発明の実施に対する実際の縮尺に相当しない。さらに、当業者は本発明の範囲により包含される本発明の発明の多くの変更及び修正を認めることができる。従って、好適な実施態様の説明は、本発明の範囲を限定すると見なされるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロトロンから粒子ビームを抽出するためのサイクロトロンの周囲で負に帯電された粒子ビーム(1000)から電子をストリッピングするためのストリッピング部材(2,3)であって、前記ストリッピング部材(2,3)が、前記負に帯電された粒子ビーム(1000)が第一ストリッパー箔(10,11)を通過するように前記サイクロトロンの周囲に設けられるために適合した第一ストリッパー箔(10,11)を含むものにおいて、前記部材が、第一ストリッパー箔が損傷したとき、前記負に帯電された粒子ビーム(1000)が第二ストリッパー箔(20,21)を通過するように、前記第一ストリッパー箔(10,11)より大きな周囲半径で前記サイクロトロンの周囲に設けられるために適合しかつ第一ストリッパー箔(10,11)と共通面内にかつ並んだ関係で配置された第二ストリッパー箔(20,21)を含むことを特徴とするストリッピング部材(2,3)。
【請求項2】
前記第二ストリッパー箔(20,21)の厚さが前記第一ストリッパー箔(10,11)の厚さより大きいことを特徴とする請求項1に記載のストリッピング部材(2,3)。
【請求項3】
前記第一ストリッパー箔(10,11)と前記第二ストリッパー箔(20,21)が両者とも熱分解炭素から作られることを特徴とする請求項1または2に記載のストリッピング部材(2,3)。
【請求項4】
前記第一ストリッパー箔(10,11)が2μg/cm〜10μg/cmの坪量を持ち、前記第二ストリッパー箔(20,21)が12μg/cm〜35μg/cmの坪量を持つことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のストリッピング部材(2,3)。
【請求項5】
サイクロトロンから粒子ビームを抽出するためのサイクロトロンの周囲で負に帯電された粒子ビーム(1000)から電子をストリッピングするためのストリッピング装置(1)において、
・ 請求項1〜4のいずれかに記載のストリッピング部材(2,3);及び
・ 前記ストリッピング部材(2,3)を前記サイクロトロンの周囲に維持するために適合された支持手段(40,41)
を含むことを特徴とするストリッピング装置(1)。
【請求項6】
サイクロトロン内の前記ストリッピング部材(2,3)の位置を調整することができる調整手段を含み、それにより、前記負に帯電された粒子ビーム(1000)が前記第二ストリッパー箔(20)によりストリッピングされるときに前記ストリッピング部材(2,3)の抽出効率を増加することを特徴とする請求項5に記載のストリッピング装置(1)。
【請求項7】
前記支持手段(41)が、第一ストリッピング部材(2)、及び第一ストリッピング部材(2)と同じタイプの第二ストリッピング部材(3)を支持するために適合されており、第二ストリッピング部材(3)が第三ストリッパー箔(11)及び第四ストリッパー箔(21)を持つことを特徴とする請求項5または6に記載のストリッピング装置(1)。
【請求項8】
前記支持手段(41)を、前記負に帯電された粒子ビーム(1000)がストリッピング部材(2)の第一ストリッパー箔(10)または第二ストリッパー箔(20)のいずれかによりストリッピングされる第一位置から、前記負に帯電された粒子ビーム(1000)が前記第二ストリッパー部材(3)の前記第三ストリッパー箔(11)または前記第四ストリッパー箔(21)のいずれかによりストリッピングされる続く第二位置に動かすのに適合された駆動手段を含むことを特徴とする請求項7に記載のストリッピング装置(1)。
【請求項9】
前記支持手段(41)が、粒子ビーム経路に垂直な垂直軸の周りに回転可能な回転可能ストリッパーヘッドであることを特徴とする請求項7または8に記載のストリッピング装置(1)。
【請求項10】
サイクロトロンから粒子ビームを抽出するためにサイクロトロンの周囲で負に帯電された粒子ビーム(1000)から電子をストリッピングするための方法において、
・ 前記サイクロトロンの周囲に請求項1〜4のいずれかのストリッピング部材(2,3)を準備する;
・ 前記粒子ビームを第一ストリッピング箔(10,11)により抽出する;及び
・ 前記第一ストリッピング箔(10,11)が損傷した場合に、前記帯電された粒子の加速器を停止することなく、前記粒子ビームを前記第二ストリッピング箔(20,21)により抽出する
工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記粒子ビームを第二ストリッピング箔(20,21)により抽出する工程が、前記第二ストリッパー箔(20,21)の抽出効率を増加するように前記サイクロトロンの内側で前記ストリッピング部材(2,3)の位置を調整手段により調整する工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
・ 第三ストリッパー箔(11)及び第四ストリッパー箔(21)を持つ前記ストリッパー部材(2)と同じタイプの第二ストリッピング部材(3)を準備する;
・ 前記第二ストリッピング部材(3)及び前記ストリッピング部材(2)を支持するための支持手段(41)を準備する;
・ 前記ストリッピング部材(2)の前記第一ストリッパー箔(10)または前記第二ストリッパー箔(20)が損傷しているかどうかをチェックする;
・ 前記チェックが損傷を示すときは、前記負に帯電された粒子ビーム(1000)が前記第二支持手段(3)の前記第三ストリッパー箔(11)または前記第四ストリッパー箔(21)のいずれかによってストリッピングされるように前記支持手段(41)を動かす
工程をさらに含むことを特徴とする請求項10または11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−522364(P2011−522364A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511030(P2011−511030)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056670
【国際公開番号】WO2009/144316
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(509125981)
【Fターム(参考)】