説明

ストリップ線路、該ストリップ線路を備えたマイクロ波回路及び該マイクロ波回路の周波数調整方法

【目的】 ストリップ線路及び該ストリップ線路を用いたマイクロ波回路の小型化を可能にする。
【構成】 電力分配器1は誘電体基板2の両端面に第1ポートP1と第2,第3ポートP2,P3とを形成し、かつ、第1ポートP1と第2,第3ポートP2,P3間をそれぞれ波状に屈曲させた波長ストリップ電極7,8で結合して構成されている。ストリップ電極7,8の線路上にそれぞれ凹溝21〜23,21′〜23′を設け、該ストリップ電極7,8を誘電体基板2の高さ方向にも屈曲させることにより第1ポートP1と第2,第3ポートP2,P3間の直線距離L1を短縮し、電力分配器1の小形化を可能にした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、誘電体基板の表裏面に接地電極とストリップ電極とを形成してなるストリップ線路に係り、特にストリップ電極の構造、該ストリップ線路を備えたマイクロ波回路及び該マイクロ波回路の周波数調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図6は、従来のストリップ線路を備えたY型電力分配器の構造を示す斜視図である。
【0003】同図に示す電力分配器は、ウィルキンソン(Wilkinson)の2分配形電力分配器である。誘電体基板100の一方側面101に第1ポートP1が設けられ、他方側面102に長手方向に伸びる中心線Mに対する対称位置に第2ポートP2と第3ポートP3とが設けられ、該第1ポートP1と第2,第3ポートP2,P3間はそれぞれ波状に屈曲されたλg/4(λg:管内波長)のマイクロストリップ線路103,104により結合されている。そして、上記電力分配器は、例えばマイクロストリップ線路103,104の電極の長さを変化させて動作周波数の微調整が行なわれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の電力分配器は、第1ポートP1と第2,第3ポートP2,P3間をそれぞれ1/4波長のマイクロストリップ線路103,104で結合しているので、周波数が低くなると、波長が長くなり、動作周波数の低下に応じて大型化するため、上記マイクロストリップ線路103,104を波状に屈曲させて直線距離Lを短縮するとともに、誘電体基板100の比誘電率εを大きくして管内波長λgを短くし、小型化が図られている。
【0005】しかし、ストリップ線路103,104の特性インピーダンスZoはw(線幅)/√(ε)に比例するので、誘電体基板100の比誘電率εに関係なく所定の特性インピーダンスZo(例えば50Ω)を有するマイクロストリップ線路103,104を形成しようとすると、誘電体基板100の比誘電率εを大きくするのに応じて線幅wが狭くなり、マイクロストリップ線路103,104の形成が困難になる。従って、誘電体は基板100の比誘電率εを大きくするには、一定の限界がある。
【0006】一方、マイクロストリップ線路103,104を波状に屈曲させる場合、折り返された電極を一定寸法以上に近接させると、互いに干渉して特性が劣化するため、直線距離Lの短縮率は屈曲数に反比例するから、直線距離Lの短縮率を大きくすべく屈曲数を少なくすると、各折返線路の長さSが長くなり、直線距離Lが短くなる反面、基板幅Wが増大するという不都合が生じる。
【0007】また、上記電力分配器は、マイクロストリップ線路103,104の長さを変化させるために、電極を形成するパターンマスクから再度、作成し直すことで周波数の調整が行われているので、マスク作成の時間がかかり、マスク作成の費用も必要でコストが高くつく欠点がある。
【0008】本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、より小型化が可能で、しかも特性の微調整が容易なストリップ線路、該ストリップ線路を備えたマイクロ波回路及び該マイクロ波回路の周波数調整方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、1又は2以上の凹溝が穿設された誘電体基板の表面に該凹溝に交叉し、かつ凹溝の内側面に沿って屈曲された所定長のストリップ電極が形成されてなるものである。
【0010】また、請求項2記載の発明は、上記ストリップ線路からなる結合線路又はハイブリッド線路を備えたマイクロ波回路である。
【0011】また、請求項3記載の発明は、上記凹溝のストリップ線路の形成位置に誘電体部材を充填することにより動作周波数の調整を行なうようにしたものである。
【0012】
【作用】請求項1記載の発明によれば、ストリップ電極は、各凹溝において基板の高さ方向に屈曲されるので、この分ストリップ線路の信号伝播方向の見かけ上の線路長が短縮される。
【0013】請求項2記載の発明によれば、ストリップ線路の信号伝播方向の見かけ上の路長が短縮されるので、マイクロ波回路の全体的な寸法が小さくなる。
【0014】請求項3記載の発明によれば、凹溝のストリップ線路の形成位置に誘電体部材を充填することにより該凹溝内における相対向するストリップ電極の屈曲部の結合量が変化する。これによりストリップ線路の電気長が変化してマイクロ波回路の動作周波数が変化する。
【0015】
【実施例】図1は、本発明に係るストリップ線路が適用された電力分配器の斜視図、また、図2は、同電力分配器の断面図、図3は同電力分配器の等価回路である。
【0016】電力分配器1は、図3に示すウィルキンソンの2分配形電力分配器で、第1ポートP1と第2,第3ポートP2,P3間の伝送線路をそれぞれλg(管内波長)/4のマイクロストリップ線路で構成したものである。なお、第2,第3ポートP2,P3間に設けられる抵抗Rは、電力分配器1に設けていないが、必要に応じて設けることもできる。
【0017】電力分配器1は、セラミックス等からなる方形盤状の高誘電体基板4に所要の電極を形成して構成されている。誘電体基板2の表面には長手方向に伸びる中心線Mに対する対称位置に該中心線Mに平行に3対の凹溝21,21′、22,22′、23,23′が穿設されている。上記凹溝21〜23,21′〜23′は、例えば円盤状のダイヤモンド・ブレードを備えたダイシングソー(Dicing Saw)によりハーフカット技術を用いて形成することができ、回転中の円盤状のダイヤモンド・ブレードの下端を誘電体基板4の表面より所望の深さ寸法だけ下降させ、該誘電体基板2を該ダイヤモンド・ブレードに対して相対移動させることにより穿設される。
【0018】なお、上記凹溝21〜23,21′〜23′の断面形状は矩形であるが、半円形状乃至U字状であってもよい。
【0019】誘電体基板2の裏面は全面、接地電極3で被覆され、一方端面の中央に第1ポートP1の電極4が、他方端面の上記中心線Mに対する対称位置に第2ポートP2の電極5と第3ポートP3の電極6とが形成されている。また、誘電体基板2の表面の上記第1ポートP1と第2ポートP2間にストリップ電極7が上記凹溝21〜23と交叉するように波状に屈曲させて形成され、上記第1ポートP1と第3ポートP3間にストリップ電極8が上記凹溝21′〜23′と交叉するように波状に屈曲させて形成されている。なお、このストリップ電極7,8は、上記中心線Mに対して互いに鏡像関係となっている。
【0020】上記接地電極3、第1〜第3ポートの電極4,5,6及びストリップ電極7,8は、厚膜技術又は薄膜技術を用いて形成される。薄膜法では、例えば銀、銅、金等の金属導体の薄膜を鍍金、真空蒸着若しくはスパッタリング等により誘電体基板2の全面に形成した後、フォトエッチングにより不必要な電極を除去して上記各電極4〜8が形成される。また、厚膜法では、上記誘電体基板2の各電極4〜8の形成位置に、例えば銀、銅、金等の金属導体ペーストをスクリーン印刷により塗布した後、誘電体基板2を所定の焼成温度で加熱することにより上記各電極4〜8が形成される。
【0021】上記のように、ストリップ電極7,8は、水平面内(基板表面と平行な面内)において波状に屈曲させるとともに、ストリップ線路上に凹溝41〜43,41′〜43′を設け、垂直面内(基板表面に対して垂直の面内)においても屈曲させているので、ストリップ電極7,8の直線距離(第1ポートP1と第2,第3ポート間の距離)L1は、従来の水平面内のみで屈曲させたものより短くすることができる。これにより電力分配器1の小形化が可能となる。
【0022】また、上記構成の電力分配器1は、上記凹溝21〜23,21′〜23′に、例えばセラミックス粉と樹脂との混合材料、樹脂単体、若しくは前述の混合、単体材料を発泡させた材料等の粉状誘電体部材9を充填することにより動作周波数の微調整が可能になっている。図2に示すように、例えばストリップ電極7の凹溝21において、比誘電率が1を超える誘電体部材9が充填されることから、ストリップ線路周辺の誘電率が誘電体部材9を充填する前に比べて大きくなる。この比をα(>1)とすると、ストリップ線路の電気長は1/√(α)だけ短くなることになる。すなわち、これによりストリップ線路7の全体的な電気長が短縮され、電力分配器1の動作周波数は上昇方向に微調整される。
【0023】従って、電力分配器1の動作周波数を予め目標値よりも低く設定しておき、上記凹溝21〜23,21′〜23′に誘電体部材9を充填することにより高精度に周波数調整を行なうことができる。
【0024】なお、上記実施例では、電力分配器について説明したが、本発明はこれに限定されるものはなく、図4に示す1/4波長結合形方向性結合回路、図5(a)に示すブランチライン、同図(b)に示す1/4波長分布結合、同図(c)に示すラットレース及び同図(d)に示す位相反転形ハイブリッドリングを構成する各ストリップ線路10,11,12,13,14に適用することができ、各ストリップ線路10〜14の凹溝における屈曲部に粉状誘電体部材9を充填することにより動作周波数の微調整を行なうことができる。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、誘電体基板の表面に穿設された凹溝に交叉させ、かつて凹溝の内側面に沿って屈曲させてストリップ線路を形成したので、この分ストリップ線路の信号伝播方向の見かけ上の線路長が短くなる。
【0026】また、上記ストリップ線路からなる結合線路を用いてマイクロ波回路を構成したので、ストリップ線路の見かけ上の線路長が短縮される分、マイクロ波回路の小型化が可能になる。
【0027】また、凹溝のストリップ線路の形成位置に誘電体部材を充填することによりストリップ線路の電気長を変化させてマイクロ波回路の動作周波数を調整するようにしたので、周波数の微調整を簡単に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るストリップ線路が適用された電力分配器の斜視図である。
【図2】本発明に係るストリップ線路が適用された電力分配器の断面図である。
【図3】電力分配器の等価回路である。
【図4】本発明に係るストリップ線路が適用される1/4波長結合形方向性結合回路の回路構成図である。
【図5】本発明に係るストリップ線路が適用されるハイブリッド回路を示すもので、(a)はブランチラインの回路構成図、(b)は1/4波長分布結合の回路構成図、(c)はラットレースの回路構成図、(c)は位相反転形ハイブリッドリングの回路構成図である。
【図6】従来のストリップ線路を備えたY型電力分配器の構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 電力分配器
2 誘電体基板
21〜23,21′〜23′ 凹溝
3 接地電極
4,5,6 ポート電極
7,8 ストリップ電極
9 誘電体部材
10,11,12,13,14 ストリップ線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1又は2以上の凹溝が穿設された誘電体基板の表面に該凹溝に交叉し、かつ凹溝の内側面に沿って屈曲された所定長のストリップ電極が形成されてなることを特徴とするストリップ線路。
【請求項2】 請求項1記載のストリップ線路からなる結合線路又はハイブリッド線路を備えたことを特徴とするマイクロ波回路。
【請求項3】 上記凹溝のストリップ線路の形成位置に誘電体部材を充填することにより動作周波数の調整を行なうことを特徴とする請求項2記載のマイクロ波回路の周波数調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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