ストレスの判定方法
【課題】ストレスをかけずに唾液を採取し、唾液中の生理活性物質を簡便に測定して、被験者のストレスを判定する方法を提供する。
【解決手段】唾液中のα−アミラーゼに注目し、ストレスがかかった被験者ではα−アミラーゼ活性が高いことから、唾液中のα−アミラーゼ活性を指標とし、測定時の唾液中α-アミラーゼ活性値が、基準値より大きければ不快なストレス(distress)の大きさを、基準値より小さければ快適なストレス(eustress)の大きさの程度を判定するストレス判定方法による。
【解決手段】唾液中のα−アミラーゼに注目し、ストレスがかかった被験者ではα−アミラーゼ活性が高いことから、唾液中のα−アミラーゼ活性を指標とし、測定時の唾液中α-アミラーゼ活性値が、基準値より大きければ不快なストレス(distress)の大きさを、基準値より小さければ快適なストレス(eustress)の大きさの程度を判定するストレス判定方法による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は簡便なストレス判定方法に関し、特に、被験者の唾液中のα−アミラーゼ活性を指標とするストレス判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会が複雑になるにつれて、人々が受けるストレスは種々であって多大なものがある。様々なストレスを受けた人々が各種疾患にかかり、その対処法にも複雑な治療が要求されている。これらのストレスの治療に先立ち、ストレスの程度を判定することは医療分野において大きな重要性を占めるものと考えられる。
【0003】
これまでのストレスの判定方法は、生体に精神的または肉体的苦痛のいずれもが全く与えられないことが必要であるため、利用可能な手法はかなり限定されていた。一般に用いられる方法としては心拍数や血圧を測定することが挙げられる。しかし、これらの方法は一過性のものであり、長期的に続くストレスの判定方法としては採用することができなかった。
【0004】
また、血液中のコルチゾールなどの副腎皮質ホルモンやアドレナリン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が、それらが本来もつ生理作用のほかにストレスを反映する指標となることがよく知られている。しかし、血液中の成分では、血液の採取それ自体にストレスが伴うという致命的な欠点があるばかりでなく、ホルモン等の濃度は非常に低いので分析には大型の装置が必要であり、測定には長時間を要している。
【0005】
また、唾液中の生理活性物質では、例えば、唾液中のコルチゾール濃度を測定する慢性ストレス判定法(特許第3108765号公報(特許文献1))、唾液中の副腎性性ステロイドおよび/またはその代謝物の濃度を指標とするストレス定量法(特開平11-38004号公報(特許文献2))、唾液中のデヒドロエピアンドロステロン濃度を測定するストレス鑑定法(特開平11-326318号公報(特許文献3))、および血液、尿または唾液中の各種指標物質から快・不快ストレス状態を解析する方法(特開2000-131318号公報(特許文献4))などが提案されている。
【0006】
しかしながら、唾液中の指標を採取することは、血液を採取する場合に比べて、簡単な手法を使うことができ、簡便ではあるが、指標である生理活性物質の測定は、一般的な診断用試薬に比べて、高価な薬剤を使用するか、あるいは手法が複雑であり、一般化することは困難である。
【特許文献1】特許第3108765号公報
【特許文献2】特開平11-38004号公報
【特許文献3】特開平11-326318号公報
【特許文献4】特開2000-131318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、簡便にかつ、容易に判定が可能なストレス判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために、種々鋭意検討したところ、唾液中のα−アミラーゼに注目し、ストレスがかかった被験者ではα−アミラーゼ活性が高いことを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は被験者から唾液を採取し、該唾液中のα−アミラーゼ活性を測定し、該活性から被験者のストレスの程度を判定することを特徴とするストレス判定方法である。
【0009】
本発明は、以下よりなる。
1.被験者の唾液中に存在するα-アミラーゼ活性を指標にすることを特徴とする被験者のストレス判定方法であって、測定時の唾液中α-アミラーゼ活性値が、基準値より大きければ不快なストレス(distress)の大きさを、基準値より小さければ快適なストレス(eustress)の大きさの程度を判定するストレス判定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ストレスをかけずに唾液を採取し唾液中α-アミラーゼ活性を測定することで、その場で短時間にストレスを判定する技術を確立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(唾液の採取)
本発明において唾液の採取は、被験者の身体または精神にストレスをかけることなく行う。特に、唾液の採取量は微量で十分であるので、被験者にストレスを与えることなく短時間で採取できるものが望ましい。さらに、唾液の採取には、毛細管現象を利用して採取することが好ましい。
【0012】
唾液を採取する器具としては、図1−Aに示される器具(キャピラリー)が例示される。該器具の構造は、唾液を毛細管現象で吸引可能とするために、同一形状のフィルム3枚を使用し、中央に溝を形成した毛細管形成板を配して両側から溝のない上板と下板で挟み込む構造を有し、採取口と試験紙との間に細い溝を構成する。一般にプラスチックフィルムは撥水性を有しているので、2枚の溝のない含む内側には、例えばエタノールで5%に希釈した界面活性剤(例えば、DKエステル、しょ糖脂肪酸エステル、:第一工業製薬株式会社)を塗布、乾燥させてある。
【0013】
また、採取器具は口腔内に挿入するためにディスポーザブル式とする必要があることから、使用材料は低廉なポリエステルフィルムのみを使用してもよい。1枚当りのフィルムの厚さは30μmとし、超音波溶着で接合形成する。
【0014】
図1−Aに示される器具の先端部1を被験者の歯溝に接触させると、毛細管現象により先端部から溝2にそって、唾液が採取される。唾液は試験紙3に染み込み、数秒間で約1〜10μlの唾液が採取される。
【0015】
図1−Bには、被験者から唾液を採取する態様が示され、上記器具にて唾液を採取し、α−アミラーゼ活性測定試薬により発色あるいは発光させた上記器具を光学的測定計に挿入して、α−アミラーゼ活性を測定する。また、α−アミラーゼ活性測定のためのセンサ部分を直接口腔内に挿入することにより、連続的に測定でき、身体に受けるストレスをリアルタイムで判定することが可能となる。
本発明によるストレス判定装置では、毛細管現象を利用して微量の唾液を瞬時に採取できるような採取部を備えることが好ましい。
【0016】
(α-アミラーゼ活性の計測)
ストレス判定の指標となるα-アミラーゼの酵素活性測定には、すでに公知となっている測定法が利用できるが、特に酵素センサ等の技術により短時間で簡便に測定することが好ましい。具体的には、唾液中のα-アミラーゼを基質に作用させ、必要により追随酵素(共役酵素)を作用させて生成した該酵素反応生成物を検出して、α-アミラーゼ活性を測定する。前記基質としては、デンプンまたはオリゴ糖、およびこれらの誘導体などがある(臨床検査提要改定版第31版622〜626頁)。
【0017】
本発明のα−アミラーゼ活性測定の一例を下記反応式にて示す。
α-アミラーゼ グルコシダーゼ
デンプン → マルトース → ブドウ糖(C6H12O6)
グルコースオキシダーゼ(GOD)
C6H12O6 + O2 → C6H10O6 + H2O2
H2O2 → 2H+ + 2e- + O2
(電流検出)
【0018】
前記基質がデンプンである場合、生成したマルトースにα−グルコシダーゼを作用させ、さらに生成したグルコースに、グルコースオキダーゼを作用させ、生成した過酸化水素からの電子または酸素をセンサにより検出する。
【0019】
本発明において使用するセンサーとしては、例えば、図2に示す構造を有する酵素固定化膜を備えた電極がある。このセンサーは、過酸化水素電極上に固定化グルコースオキシダーゼ膜、固定化α-グルコシダーゼ膜を順次積層してなる。唾液中のα-アミラーゼは基質であるデンプンに作用して、2〜数個のマルトオリゴ糖に分解され、さらにα-グルコシダーゼの作用により、グルコースが生成する。グルコースはグルコースオキシダーゼの作用により過酸化水素を生成し、この過酸化水素を電極にて測定する。図2の下に各記号により各物質を明示した。
【0020】
電極としては、酸素電極のほかに、酵素FETセンサー、酵素フォトダイオード、オプロード型センサーまたは表面プラズモン式センサーなどが利用できる。また、これらのセンサーは小型化が可能であり、携帯可能なサイズにすることにより唾液を採取した現場で短時間にα-アミラーゼ活性を測定することができる。
【0021】
また、α-アミラーゼの基質としては、デンプンの他にグルコース単位で構成されるマルトオリゴ糖であって、その非還元性末端グルコースがグルコース以外の置換基で修飾されている、かつ/または還元性末端グルコースの1位の位置において検出可能な色素等を結合しているマルトオリゴ糖などが使われ得る。
具体的には、下記の一般式よりなる修飾マルトオリゴ糖がα-アミラーゼの基質となり得る。
【0022】
【化1】
【0023】
式中のR1、R2はそれぞれ水素原子あるいは保護基により修飾されていてもよい。保護基は格別限定されるものではないが、例えば、非置換または置換の低級アルキル基、低級アルコキシル基またはフェニル基、アジド基、ハロゲン原子、N-モノアルキルカルバモイルオキシ基、アルキル若しくはアリールスルホニルオキシ基またはアルキルオキシ基、α-グルコシル基、α-マルトシル基、β−ガラクトシル基であり、R1、R2は互いに架橋していてもよく、該架橋基にはさらに置換基を有していてもよい。R3は水素原子あるいはシグナル発生基例えば光学的にシグナルを検出可能な基(好適には発色性芳香族基)であり、nは0〜5である。上記式では-OR3は、還元性末端グルコースの1位にβ-結合したものであるが、α-結合したものであってもよい。
【0024】
このようなマルトオリゴ糖の例としてより具体的には、p−ニトロフェニル−マルトペンタオース、2−クロロ−4−ニトロフェニル−マルトペンタオース、2−クロロ−p−ニトロフェニルマルトテトラオース、4−ニトロフェニルベンジル−αーマルトペンタオシドなども使用可能である。
【0025】
α-アミラーゼ活性の測定には、デンプン等の基質からα-アミラーゼにより生成したマルトオリゴ糖にα-グルコシダーゼを作用させ、生成したグルコースにNADの存在下にグルコースデヒドロゲナーゼを作用させて、NADHを測定することも可能である。
【0026】
(反応条件)
本発明のα-アミラーゼ活性の測定は、採取された唾液濃度は薄めることなくそのまま測定に付される。基質濃度は、自体公知の最適量が使用される。通常は0.05mM〜1M程度の濃度になるように調製される。反応温度は、特に限定されないが、好ましくは約25〜40℃である。反応時間は、1〜10数分で十分であるが、基質および共役酵素の種類に依存する。反応至適pHは特に限定されないが、所望により適当な緩衝液でpH6〜8に調節しても良い。さらに、所望により、反応の促進のために、公知のα-アミラーゼの活性化剤を用いてもよい。
【0027】
(ストレス判定装置)
本発明のストレス判定装置は、α-アミラーゼ酵素活性測定可能なセンサ部を有する。本発明において使用する唾液中のα−アミラーゼ活性を簡便に測定することができるセンサとは、(1)少なくとも2つの電極とα-アミラーゼの基質、必要により追随酵素(共役酵素)(α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼなど)を含む電気化学センサ、(2)少なくともα-アミラーゼ基質(例えば、p−ニトロフェニルマルトトリオシド)からα-アミラーゼ反応により生成する色素(例えばp−ニトロフェノール)、またはα-アミラーゼ基質(例えばデンプン)からα-アミラーゼ、α-グルコシダーゼおよびグルコースオキシダーゼの反応により生成した過酸化水素に、ぺルオキシダーゼ、4−アミノアンチピリンおよびアニリン類またはフェノール類を反応させて生成する色素を認識する化学センサ、(3)少なくともα-アミラーゼ基質、発光素子、受光素子および光反射面を担持する、表面プラズモン共鳴を利用するセンサ等が含まれる。なお、追随酵素(共役酵素)は、固定化されていることがより好ましい。
【0028】
図12には電気化学的センサの構造を示す。絶縁性を有する材料で形成されたベース表面には、電極1、電極2が形成されている。ベースの材質としては、樹脂フィルムもしくはカーボンなどが利用できる。また、これらの電極の形成にはエッチング、スクリーン印刷、もしくは電極シートの接着固定にいずれの方法を用いても本発明の効果には影響ない。
【0029】
該電極1および2の先端上面には、アミラーゼに対する基質を充分に含んだ基質膜が形成されている。該基質膜の基材には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロース、その他の人体に無害な蛋白などの高分子化合物が用いられる。そして、基質膜で覆われない部分は水濡れによる短絡を防ぐために保護用カバーが設けられている。
【0030】
該電気化学センサを口腔内に挿入すると、α−アミラーゼ活性の計測に記載したように唾液中に含まれるα−アミラーゼが基質膜の基質の分解を促進して所定の化学反応が進み、その結果としてα−アミラーゼ濃度に応じた電流が計測されるものである。すなわち、本電気化学センサを用いれば、連続的に唾液中のα−アミラーゼ活性を測定することが可能となる。ここで、このような電気化学的センサでは、それを形成する部材は生体安全性の確認されたもののみで構成することが可能であり、安全上も何等問題ない。
【0031】
次に、図13には表面プラズモン共鳴を利用するセンサの構造を示す。該センサは表面の一方に金属薄膜が形成されたガラス基板と、LEDやレーザなどの光源と、受光素子、ガラス基板の金属薄膜が形成されていない面に形成されたプリズム、および金属薄膜上に固定されたリガンドから構成されている。α−アミラーゼ活性を測定する場合には、このリガンドとして基質または抗体を固定化する。
【0032】
採取された唾液検体が流路を経由してセンサ表面に至ると、該α−アミラーゼ活性に応じて光の屈折率が変化し、その結果、受光素子で受け取る光の位置が変化する。この差から、唾液中のα−アミラーゼ活性を測定することができる。本センサでは金属薄膜上に固定化されるリガンドにもともと生体内に存在する化学物質のみを使用することができるので、流路は必須要件ではなく、該センサを直接、口腔内に挿入することも可能である。
【0033】
(ストレスの判定方法)
本発明におけるストレスとは、肉体的ストレス、精神的ストレスのいずれも包含する。本発明のストレス判定法は、唾液中のα−アミラーゼ量、特に酵素活性により判定する。
【0034】
具体的には、被験者の安静時に採取した唾液中のα-アミラーゼ活性を測定し、その活性値を記録、記憶して基準値とする。然る後に被験者の任意の状態におけるα-アミラーゼ活性を測定し、安静時に記録、記憶した基準値と比較する。基準値より酵素活性が大きければ、不快なストレス(distress)を受けていると判定し、小さければ、快適なストレス(eustress)を受けていると判定できる。また、基準値との差が大きいほど、受けているストレスも大きく、身体または精神に受けているストレスの程度も判定できる。
【0035】
また、連続してα-アミラーゼ活性を測定することにより経時的なストレスの変化を捉えることができる。不快なストレスを受けると唾液中のα-アミラーゼ活性が上昇する。この際の正の時間勾配の大きさによってストレスの大きさの程度を判定することができる。逆に快適なストレスを受けている場合はα-アミラーゼの酵素活性が低下するので、負の時間勾配として現れ、同様にその大きさの程度も判定できる。
【0036】
更には経時的にα-アミラーゼ活性を測定し、測定時間内に加えられた任意のストレスによる酵素活性変化を捉え、ストレス負荷前の値(基準値)に戻るまでの時間・変化の大きさからストレスの大きさの程度を判定することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
【0038】
(実施例1)
任意に選出した4名の被験者を用いて、コールドプレッサーテストを実施し、ストレスの判定を試みた。コールドプレッサーテストとは、片手を手首のところまで氷水の入った容器に30秒間浸し、その後容器から手を出し30秒間休む。これを7回繰り返すことでストレスをかけるテストである。
【0039】
図3〜6に結果を示す。横軸はコールドプレッサーテストを開始してからの経過時間を示しており、コールドプレッシャーの実施中および実施後に数回唾液を採取した。縦軸は採取した唾液中のα-アミラーゼ活性値を表している。コールドプレッシャーすなわちストレスによりα-アミラーゼの酵素活性が上昇し、コールドプレッシャーの終了後は低下していることがわかる。
【0040】
被験者によってα-アミラーゼの活性値や変動の仕方が異なるが、これは被験者によってストレスと感じる程度が異なる、つまり感性の違いが現れている。被験者Aに比べ被験者Bではコールドプレッサーテストから受けるストレスの程度が小さいことがわかる。また、プレッシャーを止められるいうことから快感(喜び)を感じ、コールドプレッシャーの終了後急激にα-アミラーゼ活性が下がる場合も考えられる。被験者Cがこの例にあたり、他の被験者と異なりコールドプレッシャーの終了後すぐにテスト開始時の値にまでα-アミラーゼの活性値が戻っている。ストレスから開放されたことによる快感が作用していることが示されている。
【0041】
(実施例2)
任意に選出した2名の被験者を用いて、クレペリンテストを実施し、ストレスの判定を試みた。クレペリンテストとは、心理検査の一手法として考案されている筆記試験で、一桁の数値が並んでいる用紙を用いて被験者に足し算を連続して行わせる、精神的苦痛を与えるストレス負荷試験である。
【0042】
図7〜8に結果を示す。図3〜6と同様に横軸にクレペリンテスト開始からの経過時間、縦軸にα-アミラーゼの活性値である。
ここでも、実施例1と同様にクレペリンテストすなわちストレスによりα-アミラーゼの活性値が上昇し、クレペリンテストが終了するとα-アミラーゼの活性値は低下した。
【0043】
(実施例3)
任意に選出した1名の被験者を用いて、ミラードローイングテストを実施し、ストレスの判定を試みた。ミラードローイングテストとは、自分の手を直接見られない様に仕切りを立て、鏡に映った像を見ながら所定の経路をペンで描かせるストレス負荷試験である。本試験では、二重の星型の線が印刷された用紙を用い、線の間をはみ出さない様にペンで描かせた。はみ出したらもう一度スタート地点からやり直すというペナルティを与え、5分間継続させた。
【0044】
図9に結果を示す。横軸にミラードローイングテスト開始からの経過時間、縦軸にα-アミラーゼの活性値である。
実施例1、2と同様にミラードローイングテストすなわちストレスによりα-アミラーゼの活性値が上昇し、ミラードローイングテストが終了するとα-アミラーゼの活性値は低下した。
【0045】
(実施例4)
任意に選出した2名の被験者を用いて、穿刺テストを実施し、ストレスの判定を試みた。これは、血糖測定用の針を用いて指尖を自ら穿刺させることによりストレスを与えるテストである。
【0046】
図10〜11に結果を示す。図10では穿刺を実施後α-アミラーゼ活性値が上昇した。また、図11では穿刺の指示によりα-アミラーゼ活性値が上昇し、穿刺の実施時にはすでにα-アミラーゼ活性値が上昇していた。
【0047】
(実施例5)
任意に選出した1名の被験者を用いて、クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の判定を試みた。
これは、精神的ストレス負荷であるクレペリンテストを実施後に、座位または仰臥位の姿勢をとってもらう、またはマッサージを受けてもらうことによるリラクゼーション効果との関係をみることで、快適なストレス(eustress)の大きさを判定するものである。
【0048】
図14〜16および表1に結果を示す。図14ではクレペリンテスト実施後に座位をとってもらった場合、α-アミラーゼ活性値はゆっくり下降した。図15ではクレペリンテスト実施後に仰臥位をとってもらった場合、α-アミラーゼ活性値は座位に比べ早く下降した。図16ではクレペリンテスト実施後にマッサージを受けてもらった場合、α-アミラーゼ活性値は速やかに下降した。また図14、15、16ではα-アミラーゼ活性値の上昇および下降の経時変化をみるためにα−アミラーゼ活性値の時間勾配を求めたが、クレペリンテストで正の時間勾配を、リラクゼーションで負の時間勾配を示した。以上の結果を表1にまとめたが、表1では、快適なストレス(eustress)により、α−アミラーゼ活性値が安静時の値に復帰するまでの時間が短縮し、α−アミラーゼ活性値の経時変化における時間勾配が急激な負の勾配を呈した。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記したごとく本発明によれば、ストレスをかけずに唾液を採取し唾液中α-アミラーゼ活性を測定することで、その場で短時間にストレスを判定する技術を確立することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1a】唾液採取部および色原体を有する化学センサ(器具)を示す分解図である。
【図1b】被験者から唾液を採取し、計測計に該器具を挿入する態様を示す図である。
【図2】α-アミラーゼ活性測定に用いる固定化酵素膜を有する酵素センサの構造を示す図である。各記号の意味は図中に示した。
【図3】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図4】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図5】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図6】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図7】クレペリンテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図8】クレペリンテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図9】ミラードローイングテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図10】穿刺テストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図11】穿刺テストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図12】電気化学センサの構造を示す図である。
【図13】表面プラズモン共鳴を利用するセンサの構造を示す図である。図中、逆Y字白抜きは固定化されたリガンド、白抜き丸は被測定物質を意味する。
【図14】クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の変動を示す表である。
【図15】クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の変動を示す表である。
【図16】クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の変動を示す表である。
【符号の説明】
【0052】
A:先端部
B:溝
C:試験紙
1:測定孔(直径1.6mm)
2:上板(ポリエステル)
3:毛細管形成板(ポリエステル)
4:下板(ポリエステル)
5:界面活性剤
【技術分野】
【0001】
本発明は簡便なストレス判定方法に関し、特に、被験者の唾液中のα−アミラーゼ活性を指標とするストレス判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会が複雑になるにつれて、人々が受けるストレスは種々であって多大なものがある。様々なストレスを受けた人々が各種疾患にかかり、その対処法にも複雑な治療が要求されている。これらのストレスの治療に先立ち、ストレスの程度を判定することは医療分野において大きな重要性を占めるものと考えられる。
【0003】
これまでのストレスの判定方法は、生体に精神的または肉体的苦痛のいずれもが全く与えられないことが必要であるため、利用可能な手法はかなり限定されていた。一般に用いられる方法としては心拍数や血圧を測定することが挙げられる。しかし、これらの方法は一過性のものであり、長期的に続くストレスの判定方法としては採用することができなかった。
【0004】
また、血液中のコルチゾールなどの副腎皮質ホルモンやアドレナリン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が、それらが本来もつ生理作用のほかにストレスを反映する指標となることがよく知られている。しかし、血液中の成分では、血液の採取それ自体にストレスが伴うという致命的な欠点があるばかりでなく、ホルモン等の濃度は非常に低いので分析には大型の装置が必要であり、測定には長時間を要している。
【0005】
また、唾液中の生理活性物質では、例えば、唾液中のコルチゾール濃度を測定する慢性ストレス判定法(特許第3108765号公報(特許文献1))、唾液中の副腎性性ステロイドおよび/またはその代謝物の濃度を指標とするストレス定量法(特開平11-38004号公報(特許文献2))、唾液中のデヒドロエピアンドロステロン濃度を測定するストレス鑑定法(特開平11-326318号公報(特許文献3))、および血液、尿または唾液中の各種指標物質から快・不快ストレス状態を解析する方法(特開2000-131318号公報(特許文献4))などが提案されている。
【0006】
しかしながら、唾液中の指標を採取することは、血液を採取する場合に比べて、簡単な手法を使うことができ、簡便ではあるが、指標である生理活性物質の測定は、一般的な診断用試薬に比べて、高価な薬剤を使用するか、あるいは手法が複雑であり、一般化することは困難である。
【特許文献1】特許第3108765号公報
【特許文献2】特開平11-38004号公報
【特許文献3】特開平11-326318号公報
【特許文献4】特開2000-131318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、簡便にかつ、容易に判定が可能なストレス判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために、種々鋭意検討したところ、唾液中のα−アミラーゼに注目し、ストレスがかかった被験者ではα−アミラーゼ活性が高いことを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は被験者から唾液を採取し、該唾液中のα−アミラーゼ活性を測定し、該活性から被験者のストレスの程度を判定することを特徴とするストレス判定方法である。
【0009】
本発明は、以下よりなる。
1.被験者の唾液中に存在するα-アミラーゼ活性を指標にすることを特徴とする被験者のストレス判定方法であって、測定時の唾液中α-アミラーゼ活性値が、基準値より大きければ不快なストレス(distress)の大きさを、基準値より小さければ快適なストレス(eustress)の大きさの程度を判定するストレス判定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ストレスをかけずに唾液を採取し唾液中α-アミラーゼ活性を測定することで、その場で短時間にストレスを判定する技術を確立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(唾液の採取)
本発明において唾液の採取は、被験者の身体または精神にストレスをかけることなく行う。特に、唾液の採取量は微量で十分であるので、被験者にストレスを与えることなく短時間で採取できるものが望ましい。さらに、唾液の採取には、毛細管現象を利用して採取することが好ましい。
【0012】
唾液を採取する器具としては、図1−Aに示される器具(キャピラリー)が例示される。該器具の構造は、唾液を毛細管現象で吸引可能とするために、同一形状のフィルム3枚を使用し、中央に溝を形成した毛細管形成板を配して両側から溝のない上板と下板で挟み込む構造を有し、採取口と試験紙との間に細い溝を構成する。一般にプラスチックフィルムは撥水性を有しているので、2枚の溝のない含む内側には、例えばエタノールで5%に希釈した界面活性剤(例えば、DKエステル、しょ糖脂肪酸エステル、:第一工業製薬株式会社)を塗布、乾燥させてある。
【0013】
また、採取器具は口腔内に挿入するためにディスポーザブル式とする必要があることから、使用材料は低廉なポリエステルフィルムのみを使用してもよい。1枚当りのフィルムの厚さは30μmとし、超音波溶着で接合形成する。
【0014】
図1−Aに示される器具の先端部1を被験者の歯溝に接触させると、毛細管現象により先端部から溝2にそって、唾液が採取される。唾液は試験紙3に染み込み、数秒間で約1〜10μlの唾液が採取される。
【0015】
図1−Bには、被験者から唾液を採取する態様が示され、上記器具にて唾液を採取し、α−アミラーゼ活性測定試薬により発色あるいは発光させた上記器具を光学的測定計に挿入して、α−アミラーゼ活性を測定する。また、α−アミラーゼ活性測定のためのセンサ部分を直接口腔内に挿入することにより、連続的に測定でき、身体に受けるストレスをリアルタイムで判定することが可能となる。
本発明によるストレス判定装置では、毛細管現象を利用して微量の唾液を瞬時に採取できるような採取部を備えることが好ましい。
【0016】
(α-アミラーゼ活性の計測)
ストレス判定の指標となるα-アミラーゼの酵素活性測定には、すでに公知となっている測定法が利用できるが、特に酵素センサ等の技術により短時間で簡便に測定することが好ましい。具体的には、唾液中のα-アミラーゼを基質に作用させ、必要により追随酵素(共役酵素)を作用させて生成した該酵素反応生成物を検出して、α-アミラーゼ活性を測定する。前記基質としては、デンプンまたはオリゴ糖、およびこれらの誘導体などがある(臨床検査提要改定版第31版622〜626頁)。
【0017】
本発明のα−アミラーゼ活性測定の一例を下記反応式にて示す。
α-アミラーゼ グルコシダーゼ
デンプン → マルトース → ブドウ糖(C6H12O6)
グルコースオキシダーゼ(GOD)
C6H12O6 + O2 → C6H10O6 + H2O2
H2O2 → 2H+ + 2e- + O2
(電流検出)
【0018】
前記基質がデンプンである場合、生成したマルトースにα−グルコシダーゼを作用させ、さらに生成したグルコースに、グルコースオキダーゼを作用させ、生成した過酸化水素からの電子または酸素をセンサにより検出する。
【0019】
本発明において使用するセンサーとしては、例えば、図2に示す構造を有する酵素固定化膜を備えた電極がある。このセンサーは、過酸化水素電極上に固定化グルコースオキシダーゼ膜、固定化α-グルコシダーゼ膜を順次積層してなる。唾液中のα-アミラーゼは基質であるデンプンに作用して、2〜数個のマルトオリゴ糖に分解され、さらにα-グルコシダーゼの作用により、グルコースが生成する。グルコースはグルコースオキシダーゼの作用により過酸化水素を生成し、この過酸化水素を電極にて測定する。図2の下に各記号により各物質を明示した。
【0020】
電極としては、酸素電極のほかに、酵素FETセンサー、酵素フォトダイオード、オプロード型センサーまたは表面プラズモン式センサーなどが利用できる。また、これらのセンサーは小型化が可能であり、携帯可能なサイズにすることにより唾液を採取した現場で短時間にα-アミラーゼ活性を測定することができる。
【0021】
また、α-アミラーゼの基質としては、デンプンの他にグルコース単位で構成されるマルトオリゴ糖であって、その非還元性末端グルコースがグルコース以外の置換基で修飾されている、かつ/または還元性末端グルコースの1位の位置において検出可能な色素等を結合しているマルトオリゴ糖などが使われ得る。
具体的には、下記の一般式よりなる修飾マルトオリゴ糖がα-アミラーゼの基質となり得る。
【0022】
【化1】
【0023】
式中のR1、R2はそれぞれ水素原子あるいは保護基により修飾されていてもよい。保護基は格別限定されるものではないが、例えば、非置換または置換の低級アルキル基、低級アルコキシル基またはフェニル基、アジド基、ハロゲン原子、N-モノアルキルカルバモイルオキシ基、アルキル若しくはアリールスルホニルオキシ基またはアルキルオキシ基、α-グルコシル基、α-マルトシル基、β−ガラクトシル基であり、R1、R2は互いに架橋していてもよく、該架橋基にはさらに置換基を有していてもよい。R3は水素原子あるいはシグナル発生基例えば光学的にシグナルを検出可能な基(好適には発色性芳香族基)であり、nは0〜5である。上記式では-OR3は、還元性末端グルコースの1位にβ-結合したものであるが、α-結合したものであってもよい。
【0024】
このようなマルトオリゴ糖の例としてより具体的には、p−ニトロフェニル−マルトペンタオース、2−クロロ−4−ニトロフェニル−マルトペンタオース、2−クロロ−p−ニトロフェニルマルトテトラオース、4−ニトロフェニルベンジル−αーマルトペンタオシドなども使用可能である。
【0025】
α-アミラーゼ活性の測定には、デンプン等の基質からα-アミラーゼにより生成したマルトオリゴ糖にα-グルコシダーゼを作用させ、生成したグルコースにNADの存在下にグルコースデヒドロゲナーゼを作用させて、NADHを測定することも可能である。
【0026】
(反応条件)
本発明のα-アミラーゼ活性の測定は、採取された唾液濃度は薄めることなくそのまま測定に付される。基質濃度は、自体公知の最適量が使用される。通常は0.05mM〜1M程度の濃度になるように調製される。反応温度は、特に限定されないが、好ましくは約25〜40℃である。反応時間は、1〜10数分で十分であるが、基質および共役酵素の種類に依存する。反応至適pHは特に限定されないが、所望により適当な緩衝液でpH6〜8に調節しても良い。さらに、所望により、反応の促進のために、公知のα-アミラーゼの活性化剤を用いてもよい。
【0027】
(ストレス判定装置)
本発明のストレス判定装置は、α-アミラーゼ酵素活性測定可能なセンサ部を有する。本発明において使用する唾液中のα−アミラーゼ活性を簡便に測定することができるセンサとは、(1)少なくとも2つの電極とα-アミラーゼの基質、必要により追随酵素(共役酵素)(α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼなど)を含む電気化学センサ、(2)少なくともα-アミラーゼ基質(例えば、p−ニトロフェニルマルトトリオシド)からα-アミラーゼ反応により生成する色素(例えばp−ニトロフェノール)、またはα-アミラーゼ基質(例えばデンプン)からα-アミラーゼ、α-グルコシダーゼおよびグルコースオキシダーゼの反応により生成した過酸化水素に、ぺルオキシダーゼ、4−アミノアンチピリンおよびアニリン類またはフェノール類を反応させて生成する色素を認識する化学センサ、(3)少なくともα-アミラーゼ基質、発光素子、受光素子および光反射面を担持する、表面プラズモン共鳴を利用するセンサ等が含まれる。なお、追随酵素(共役酵素)は、固定化されていることがより好ましい。
【0028】
図12には電気化学的センサの構造を示す。絶縁性を有する材料で形成されたベース表面には、電極1、電極2が形成されている。ベースの材質としては、樹脂フィルムもしくはカーボンなどが利用できる。また、これらの電極の形成にはエッチング、スクリーン印刷、もしくは電極シートの接着固定にいずれの方法を用いても本発明の効果には影響ない。
【0029】
該電極1および2の先端上面には、アミラーゼに対する基質を充分に含んだ基質膜が形成されている。該基質膜の基材には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロース、その他の人体に無害な蛋白などの高分子化合物が用いられる。そして、基質膜で覆われない部分は水濡れによる短絡を防ぐために保護用カバーが設けられている。
【0030】
該電気化学センサを口腔内に挿入すると、α−アミラーゼ活性の計測に記載したように唾液中に含まれるα−アミラーゼが基質膜の基質の分解を促進して所定の化学反応が進み、その結果としてα−アミラーゼ濃度に応じた電流が計測されるものである。すなわち、本電気化学センサを用いれば、連続的に唾液中のα−アミラーゼ活性を測定することが可能となる。ここで、このような電気化学的センサでは、それを形成する部材は生体安全性の確認されたもののみで構成することが可能であり、安全上も何等問題ない。
【0031】
次に、図13には表面プラズモン共鳴を利用するセンサの構造を示す。該センサは表面の一方に金属薄膜が形成されたガラス基板と、LEDやレーザなどの光源と、受光素子、ガラス基板の金属薄膜が形成されていない面に形成されたプリズム、および金属薄膜上に固定されたリガンドから構成されている。α−アミラーゼ活性を測定する場合には、このリガンドとして基質または抗体を固定化する。
【0032】
採取された唾液検体が流路を経由してセンサ表面に至ると、該α−アミラーゼ活性に応じて光の屈折率が変化し、その結果、受光素子で受け取る光の位置が変化する。この差から、唾液中のα−アミラーゼ活性を測定することができる。本センサでは金属薄膜上に固定化されるリガンドにもともと生体内に存在する化学物質のみを使用することができるので、流路は必須要件ではなく、該センサを直接、口腔内に挿入することも可能である。
【0033】
(ストレスの判定方法)
本発明におけるストレスとは、肉体的ストレス、精神的ストレスのいずれも包含する。本発明のストレス判定法は、唾液中のα−アミラーゼ量、特に酵素活性により判定する。
【0034】
具体的には、被験者の安静時に採取した唾液中のα-アミラーゼ活性を測定し、その活性値を記録、記憶して基準値とする。然る後に被験者の任意の状態におけるα-アミラーゼ活性を測定し、安静時に記録、記憶した基準値と比較する。基準値より酵素活性が大きければ、不快なストレス(distress)を受けていると判定し、小さければ、快適なストレス(eustress)を受けていると判定できる。また、基準値との差が大きいほど、受けているストレスも大きく、身体または精神に受けているストレスの程度も判定できる。
【0035】
また、連続してα-アミラーゼ活性を測定することにより経時的なストレスの変化を捉えることができる。不快なストレスを受けると唾液中のα-アミラーゼ活性が上昇する。この際の正の時間勾配の大きさによってストレスの大きさの程度を判定することができる。逆に快適なストレスを受けている場合はα-アミラーゼの酵素活性が低下するので、負の時間勾配として現れ、同様にその大きさの程度も判定できる。
【0036】
更には経時的にα-アミラーゼ活性を測定し、測定時間内に加えられた任意のストレスによる酵素活性変化を捉え、ストレス負荷前の値(基準値)に戻るまでの時間・変化の大きさからストレスの大きさの程度を判定することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
【0038】
(実施例1)
任意に選出した4名の被験者を用いて、コールドプレッサーテストを実施し、ストレスの判定を試みた。コールドプレッサーテストとは、片手を手首のところまで氷水の入った容器に30秒間浸し、その後容器から手を出し30秒間休む。これを7回繰り返すことでストレスをかけるテストである。
【0039】
図3〜6に結果を示す。横軸はコールドプレッサーテストを開始してからの経過時間を示しており、コールドプレッシャーの実施中および実施後に数回唾液を採取した。縦軸は採取した唾液中のα-アミラーゼ活性値を表している。コールドプレッシャーすなわちストレスによりα-アミラーゼの酵素活性が上昇し、コールドプレッシャーの終了後は低下していることがわかる。
【0040】
被験者によってα-アミラーゼの活性値や変動の仕方が異なるが、これは被験者によってストレスと感じる程度が異なる、つまり感性の違いが現れている。被験者Aに比べ被験者Bではコールドプレッサーテストから受けるストレスの程度が小さいことがわかる。また、プレッシャーを止められるいうことから快感(喜び)を感じ、コールドプレッシャーの終了後急激にα-アミラーゼ活性が下がる場合も考えられる。被験者Cがこの例にあたり、他の被験者と異なりコールドプレッシャーの終了後すぐにテスト開始時の値にまでα-アミラーゼの活性値が戻っている。ストレスから開放されたことによる快感が作用していることが示されている。
【0041】
(実施例2)
任意に選出した2名の被験者を用いて、クレペリンテストを実施し、ストレスの判定を試みた。クレペリンテストとは、心理検査の一手法として考案されている筆記試験で、一桁の数値が並んでいる用紙を用いて被験者に足し算を連続して行わせる、精神的苦痛を与えるストレス負荷試験である。
【0042】
図7〜8に結果を示す。図3〜6と同様に横軸にクレペリンテスト開始からの経過時間、縦軸にα-アミラーゼの活性値である。
ここでも、実施例1と同様にクレペリンテストすなわちストレスによりα-アミラーゼの活性値が上昇し、クレペリンテストが終了するとα-アミラーゼの活性値は低下した。
【0043】
(実施例3)
任意に選出した1名の被験者を用いて、ミラードローイングテストを実施し、ストレスの判定を試みた。ミラードローイングテストとは、自分の手を直接見られない様に仕切りを立て、鏡に映った像を見ながら所定の経路をペンで描かせるストレス負荷試験である。本試験では、二重の星型の線が印刷された用紙を用い、線の間をはみ出さない様にペンで描かせた。はみ出したらもう一度スタート地点からやり直すというペナルティを与え、5分間継続させた。
【0044】
図9に結果を示す。横軸にミラードローイングテスト開始からの経過時間、縦軸にα-アミラーゼの活性値である。
実施例1、2と同様にミラードローイングテストすなわちストレスによりα-アミラーゼの活性値が上昇し、ミラードローイングテストが終了するとα-アミラーゼの活性値は低下した。
【0045】
(実施例4)
任意に選出した2名の被験者を用いて、穿刺テストを実施し、ストレスの判定を試みた。これは、血糖測定用の針を用いて指尖を自ら穿刺させることによりストレスを与えるテストである。
【0046】
図10〜11に結果を示す。図10では穿刺を実施後α-アミラーゼ活性値が上昇した。また、図11では穿刺の指示によりα-アミラーゼ活性値が上昇し、穿刺の実施時にはすでにα-アミラーゼ活性値が上昇していた。
【0047】
(実施例5)
任意に選出した1名の被験者を用いて、クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の判定を試みた。
これは、精神的ストレス負荷であるクレペリンテストを実施後に、座位または仰臥位の姿勢をとってもらう、またはマッサージを受けてもらうことによるリラクゼーション効果との関係をみることで、快適なストレス(eustress)の大きさを判定するものである。
【0048】
図14〜16および表1に結果を示す。図14ではクレペリンテスト実施後に座位をとってもらった場合、α-アミラーゼ活性値はゆっくり下降した。図15ではクレペリンテスト実施後に仰臥位をとってもらった場合、α-アミラーゼ活性値は座位に比べ早く下降した。図16ではクレペリンテスト実施後にマッサージを受けてもらった場合、α-アミラーゼ活性値は速やかに下降した。また図14、15、16ではα-アミラーゼ活性値の上昇および下降の経時変化をみるためにα−アミラーゼ活性値の時間勾配を求めたが、クレペリンテストで正の時間勾配を、リラクゼーションで負の時間勾配を示した。以上の結果を表1にまとめたが、表1では、快適なストレス(eustress)により、α−アミラーゼ活性値が安静時の値に復帰するまでの時間が短縮し、α−アミラーゼ活性値の経時変化における時間勾配が急激な負の勾配を呈した。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記したごとく本発明によれば、ストレスをかけずに唾液を採取し唾液中α-アミラーゼ活性を測定することで、その場で短時間にストレスを判定する技術を確立することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1a】唾液採取部および色原体を有する化学センサ(器具)を示す分解図である。
【図1b】被験者から唾液を採取し、計測計に該器具を挿入する態様を示す図である。
【図2】α-アミラーゼ活性測定に用いる固定化酵素膜を有する酵素センサの構造を示す図である。各記号の意味は図中に示した。
【図3】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図4】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図5】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図6】コールドプレッサーテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図7】クレペリンテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図8】クレペリンテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図9】ミラードローイングテストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図10】穿刺テストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図11】穿刺テストによるα-アミラーゼ活性値の変動を示す表である。
【図12】電気化学センサの構造を示す図である。
【図13】表面プラズモン共鳴を利用するセンサの構造を示す図である。図中、逆Y字白抜きは固定化されたリガンド、白抜き丸は被測定物質を意味する。
【図14】クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の変動を示す表である。
【図15】クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の変動を示す表である。
【図16】クレペリンテスト実施後のリラクゼーション効果の変動を示す表である。
【符号の説明】
【0052】
A:先端部
B:溝
C:試験紙
1:測定孔(直径1.6mm)
2:上板(ポリエステル)
3:毛細管形成板(ポリエステル)
4:下板(ポリエステル)
5:界面活性剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の唾液中に存在するα-アミラーゼ活性を指標にすることを特徴とする被験者のストレス判定方法であって、測定時の唾液中α-アミラーゼ活性値が、基準値より大きければ不快なストレス(distress)の大きさを、基準値より小さければ快適なストレス(eustress)の大きさの程度を判定するストレス判定方法。
【請求項1】
被験者の唾液中に存在するα-アミラーゼ活性を指標にすることを特徴とする被験者のストレス判定方法であって、測定時の唾液中α-アミラーゼ活性値が、基準値より大きければ不快なストレス(distress)の大きさを、基準値より小さければ快適なストレス(eustress)の大きさの程度を判定するストレス判定方法。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−345869(P2006−345869A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220512(P2006−220512)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【分割の表示】特願2000−364241(P2000−364241)の分割
【原出願日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年12月2日 日本唾液腺学会主催の「第四十五回日本唾液腺学会」において文書をもって発表
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【分割の表示】特願2000−364241(P2000−364241)の分割
【原出願日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年12月2日 日本唾液腺学会主催の「第四十五回日本唾液腺学会」において文書をもって発表
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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