説明

ストレッチ織物

【課題】編物では達成することの出来ない低目付かつ高伸度のストレッチ織物を提供する。
【解決手段】
芯糸に3倍以上、4倍以下のドラフトを掛けたスパンデックス繊維、鞘糸に合成繊維を用いた撚係数6500から12000のシングルカバリング糸をタテ糸およびヨコ糸に用いた織物において、タテおよびヨコ方向の伸長率がそれぞれ50%以上であることを特徴とするストレッチ織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低目付かつ高伸度のストレッチ織物に関する。
【背景技術】
【0002】
水着には100分の1秒の速さを競う競泳用水着、夏の浜辺やホテルのプールで楽しむ遊泳用水着、小中学校の体育時間に着用する学童用水着、さらには健康維持を目的とするフィットネス用水着など多くの水着がある。これらの水着は身体全体を激しく動かすことから、身体に十分フィットし、身体の動きを妨げず、その動きに追従する優れたストレッチ性と回復性が要求されている。従来、水着にはフィット性、およびストレッチ性と回復性を得るために、スパンデックスと呼ばれるポリウレタン系弾性繊維をナイロン繊維やポリエステル繊維と組み合わせた丸編地もしくは経編地が一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、それら編地はポリウレタン系弾性繊維を中層に挿入するため多層組織により編成されており、そのため目付や厚みの低減が出来ないことが問題であった。
【0004】
また織物では過去からスパンデックスを用いた2wayストレッチ織物が多数提案されている。例えば特許文献1では比較的薄地のストレッチ織物が提案されているが、伸長率がタテ方向でも40%以下であり水着には適さないものである。また特許文献2では伸長率30から100%の防塵衣用織物が提案されている。該発明は着用快適性を持った防塵衣とするため適度な通気度やストレッチを目指したものであり、厚みや緻密感等水着には不適なものである。特許文献3,4においてはスパンデックスを用いたストレッチ織物が提案されているが、伸長率等記載が無く、前記特許文献同様水着には不適なものである。
【特許文献1】特許第2820464号
【特許文献2】特許第2874996号
【特許文献3】特許第3266222号
【特許文献4】特開2002-249955
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、編物では達成することの出来ない低目付かつ高伸度のストレッチ織物およびそれを用いた水着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は鋭意検討の結果、下記構成により達成できる事を見出した。
(1)芯糸にスパンデックス繊維、鞘糸に合成繊維を用いた撚係数6500から12000のシングルカバリング糸をタテ糸およびヨコ糸に用いた織物において、タテおよびヨコ方向の伸長率がそれぞれ50%以上であることを特徴とするストレッチ織物。
(2)該合成繊維がポリアミド系繊維もしくはポリエステル系繊維であることを特徴とする上記(1)に記載のストレッチ織物。
(3)該合成繊維が仮撚加工を施されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のストレッチ織物。
(4)該シングルカバリング糸の芯成分を構成するスパンデックス繊維が44T以下であり、かつ鞘成分を構成する合成繊維が44デシテックス以下であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかにに記載のストレッチ織物。
(5)目付が130g/m以下である上記(1)から(4)のいずれかに記載のストレッチ織物。
(6)ストレッチ織物に表面平滑化もしくは/および撥水加工が施されていることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれかに記載のストレッチ織物。
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載の織物を少なくともその一部に用いたことを特徴とする水着。
【発明の効果】
【0007】
本発明のストレッチ織物は、従来の編物に比べ、低目付であり、かつ水着や、インナー等として充分なストレッチ性を付与することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明においては、編地ではなく織物にすることが重要である。織物の2wayストレッチは従来から生産されているが、本発明では一般衣料で問題とならないが、激しい運動を伴う水泳等に対応するためスナッグが問題となりやすく、その改善のためカバリング時の撚係数を高く設定する必要がある。その範囲は6500から12000が好ましく、スナッグレベルを最良とするためには7500から11000に設定することが望ましい。
【0010】
なお撚係数は次式で算出される。
撚係数K=(SS÷D+SC)1/2×R
SS:スパンデックス繊維の繊度(DTEX)
SC:鞘糸の繊度(DTEX)
D :スパンデックス繊維のドラフト率(倍)
R :カバリング数(T/M)
カバリングの方式は芯糸に一方向の糸をカバリングするシングルカバリングと芯糸に、右方向と左方向の糸がカバーされるダブルカバリングが公知の方法として知られているが、本発明では目付の低減を目的とするため、カバリング糸の繊度を細くできるシングルカバリングが好ましい。またカバリングの際、スパンデックス繊維に適度なドラフトを掛けて行われるが、高ストレッチ織物とするためにそのドラフト率は3倍以上、4倍以下、より好ましくは3.5倍以上、3.8倍以下にすることが好ましい。ドラフト率が3倍未満では高ストレッチ織物にすることが難しく、逆に4倍を越えるとカバリング糸にスパンデックス繊維の糸切れ等により工程通過性が悪化する傾向にある。
【0011】
鞘糸には周知の合成繊維を用いればよい。合成繊維には各種あるが、特にポリアミド系繊維もしくはポリエステル系繊維や、ポリプロピレンを用いることが、強度や加工性の面から好ましい。
【0012】
ポリアミド系繊維にも各種あるが、強度の面およびスパンデックス混織物の加工性の面からナイロン66を用いることが更に好ましい。
【0013】
またポリエステル系繊維にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等いずれを使用しても良いが、良好な熱セット性を求めるのであればポリエチレンテレフタレート、高伸度を求めるのであればポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートを選択する等適宜選択することが出来る。ただし、これら繊維は一般に分散染料を用いて染められるが、分散染料はポリウレタン繊維に汚染してしまうため、最終製品に置いて色移り等堅牢度不良を発生させることがある。そのためカチオン染料で染色することの出来るカチオン可染ポリエステル系繊維を用いることが好ましい。
【0014】
鞘糸に用いる合成繊維の繊維形態および断面形状には特に制限は無いが、高ストレッチ織物とするためには鞘糸となる合成繊維に周知の手法により仮撚加工を施し、捲縮を付与しておくことが好ましい。一般にスパンデックス混織物は、芯糸となるスパンデックスの伸度不足ではなく、鞘糸の糸長が不足するためにストレッチ性に制限が出ることが多く、鞘糸に捲縮を与えてやることで、捲縮を有しない生糸使い品よりもストレッチ率を高くすることが出来る。
【0015】
仮撚加工の方法にはピンタイプ、フリクションタイプ、ベルトタイプ等種々存在するが、本発明においてはその方法に特に限定はない。ただし総繊度が細い合成繊維を用いるためピンタイプを用いることが好ましく、フリクションを用いる場合はディスク枚数を増やす等総繊度の細い合成繊維に対応した仮撚を施すことが好ましい。
【0016】
芯糸のスパンデックス繊維、鞘糸の合成繊維の繊度は両者共に44デシテックス以下であることが好ましい。これにより目付を130g/m以下と低くすることができる。
【0017】
また使用するスパンデックス繊維は公知のものでよく、例えば旭化成せんい株式会社の“ロイカ”やオペロンテックス株式会社の“ライクラ”等を使用すればよい。ただしプールでの使用が前提となるため、好ましくは“ロイカSP”や“ライクラT−254B”等耐塩素性に優れたスパンデックス繊維を用いることが好ましい。
【0018】
これら手法により得られたシングルカバリング糸を用いた織物は、タテ、ヨコそれぞれの伸長率が50%以上となるよう織物設計、染色加工を行う必要がある。
【0019】
織物設計においては通常衣料用途であればストレッチ率は最大40%程度であり、染色加工による縮率はたかだか50%程度であるが、本発明では編物同様の高ストレッチ率を必要とするためタテ方向は織機ヨコ入れ密度に対し仕上ヨコ密度で換算しタテ収縮率75%以上、ヨコ方向も筬入幅に対し仕上幅で換算しヨコ収縮率80%以上とする必要がある。そのため生機密度はかなり低い値となるため続く染色可能にて目ズレ等問題の発生しない範囲で低密度化する必要がある。製織にはポリウレタン繊維をヨコ糸として使用するため、ヨコ入れピーク張力の高いウォータージェットルーム(WJL)は好ましくなく、エアージェットルーム(AJL)もしくはレピアルームを使用することが好ましい。
【0020】
タテ収縮率(%)=(仕上ヨコ密度−織機ヨコ入れ本数)÷織機ヨコ入れ本数×100
ヨコ収縮率(%)=(筬入幅−仕上幅)÷仕上幅×100
染色仕上においては既存の2WAY織物もしくは編物を加工する公知のプロセスを利用することが出来る。具体的プロセスは拡布精練/リラックス、中間セット、染色、仕上げセットや液流精練/リラックス、染色、仕上げセット等目的とする織物のストレッチ率や表面品位の状態により適宜選択すればよい。
【0021】
さらに仕上げ加工においては撥水加工を生地に施すことが好ましい。水着の生地への保水率が高いと着用時の付加が高くなり、撥水加工を施すことでその付加を軽減することが出来る。撥水加工はストレッチ織物全面に施しても良いが、水抜け性を加味し、特開平09-049107、特開2000-226709、特開2003-328212等に記載のように部分的に撥水加工を施しても良い。
【0022】
また水に対する生地の表面抵抗を下げ、かつ保水率を下げるためにはストレッチ織物にカレンダー加工のような表面を平滑化処理することが好ましい。加工機としては通常の加熱ロールとペーパーロール、またはコットンロールよりなるカレンダー加工機、板状物を用いたカレンダー加工機を用いればよい。なお加熱金属ロールを用いる場合は鏡面ロールであることが好ましい。またその他手法として生地を縫製品にするため裁断後に熱プレスを行う事でも平滑化する事が出来る。なお、競泳水着用の織物として用いる場合、特開2003-328212等に記載されている様にカレンダー加工条件は、織物の幅100〜220cmに対して、線圧で1〜60t程度とし、ロール温度は130〜250℃程度で行うことが好ましい。
【0023】
表面平滑化のためにはプレス等手法を用いず、生地表面にウレタン等の合成樹脂を繊維内部に浸透させ、伸長率を妨げない程度に薄くコーティングする事や、生地と同等の伸度を有するフィルムをラミネートやボンディングしても良い。
【0024】
これら構成で得られたストレッチ織物はタテ、ヨコ両方向にてそれぞれ伸長率が50%以上あることが好ましい。繊維機械学会誌36巻6号(1983)「皮膚伸びと衣服伸び」原田隆司他著によると動作による皮膚の伸びは女性の場合、後肘部(肘頭部)にて垂直方向で62%、腋窩部にて垂直方向66%であり、皮膚に密着する水着は皮膚伸びと同等の伸長率を保有することが好ましく、ストレッチ織物の伸長率は50%以上必要である。50%以上あることで水着と皮膚とのゆとりにより差分が吸収され、ほぼ身体の動きに追従することができ、より好ましくは伸長率が70%以上あればゆとりが極小である競泳等にも使用することが出来る。なおここで伸長率はJIS L1096A法(ラベルドストリップ法)にて測定された値を示す。
【0025】
またストレッチ織物は皮膚の動きに合わせて伸びるだけでなく、伸ばされた後に戻ることも身体の動きに追従するためには必要である。従って本発明のストレッチ織物はタテ、ヨコ方向それぞれの伸長回復率が80%以上であることが好ましい。特に競泳等激しい動きを有する競技に使用される場合、伸長回復率は90%以上あることがより好ましい。なおここで伸長回復率はJIS L1096B−1法にて測定された値を示す。
【0026】
本発明のストレッチ織物は、低目付であり、かつ、優れたストレッチ性を有することから、水着、インナー、アスレ・スポーツアウター向けベース基布等として好適に用いることができる。
[実施例1]
鞘糸としてナイロン66の21デシテックス20フィラメントの仮撚加工糸、芯糸としてオペロンテックス株式会社の“ライクラT−254B”33Tを用い、芯糸のドラフト率3.5倍にて撚係数8900のシングルカバリング糸を作成した。このカバリング糸をタテ・ヨコ糸に用いAJLを用いて筬密度90羽/鯨寸、筬入れ2本入れ、ヨコ密度105本/2.54cmにて製織を行い、生機を得た。同生機を液流染色機にて精練/リラックスを行い、続けて酸性染料にて染色を行った後、有り幅にて仕上げセットを行った。得られた織物の伸長率などを表1に示した。
[実施例2]
鞘糸として33デシテックス24フィラメントのカチオン可染ポリエステル仮撚加工糸を用い、その他は実施例1と同様の芯糸、条件にて製織・加工を実施した。ただし染料のみカチオン染料に変更した。
【0027】
得られた織物の伸長率などを表1に示した。
[比較例1]
実施例1と同じカバリング糸を用い、筬入れ本数を3本/羽、織機ヨコ入れ本数を130本/2.54cmに変更し、製織・加工を実施した。
【0028】
得られた織物の伸長率などを表1に示した。
[比較例2]
鞘糸としてナイロン66の78デシテックス68フィラメントの仮撚加工糸、芯糸としてオペロンテックス株式会社の“ライクラT−127C”44Tを用い、芯糸のドラフト率3.4倍にて撚係数11400のシングルカバリング糸を作成した。このカバリング糸をタテ・ヨコ糸に用いAJLを用いて筬密度65羽/鯨寸、筬入れ2本入れ、ヨコ密度75本/2.54cmにて製織を行い、生機を得た。同生機を液流染色機にて精練/リラックスを行い、続けて酸性染料にて染色を行った後、有り幅にて仕上げセットを行った。
【0029】
得られた織物の伸長率などを表1に示した。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸にスパンデックス繊維、鞘糸に合成繊維を用いた撚係数6500から12000のシングルカバリング糸をタテ糸およびヨコ糸に用いた織物において、タテおよびヨコ方向の伸長率がそれぞれ50%以上であることを特徴とするストレッチ織物。
【請求項2】
該合成繊維がポリアミド系繊維もしくはポリエステル系繊維であることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ織物。
【請求項3】
該合成繊維が仮撚加工を施されていることを特徴とする請求項1または2に記載のストレッチ織物。
【請求項4】
該シングルカバリング糸の芯成分を構成するスパンデックス繊維が44T以下であり、かつ鞘成分を構成する合成繊維が44デシテックス以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかにに記載のストレッチ織物。
【請求項5】
目付が130g/m以下である請求項1から4のいずれかに記載のストレッチ織物。
【請求項6】
ストレッチ織物に表面平滑化もしくは/および撥水加工が施されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のストレッチ織物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の織物を少なくともその一部に用いたことを特徴とする水着。

【公開番号】特開2010−138496(P2010−138496A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312948(P2008−312948)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】