説明

ストレーナエレメントとこれを用いた濾過機

【課題】夾雑物を掻取りよって除去し、掻取りの難しい部分においても夾雑物の付着を防いで藻類等の増殖を防ぎ、圧力損失の増加を防止して濾過性能を維持することができるストレーナエレメントとこれを用いた濾過機を提供する。
【解決手段】処理流体F中に含有される夾雑物Sを濾過する濾過面7を有する円筒体2の一次側に夾雑物Sを掻取る掻取部材3を設け、この円筒体2と掻取部材3とを相対的に摺動自在に設けると共に、この円筒体2に防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有する合金皮膜4を被覆処理して皮膜層5を施したストレーナエレメントである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プラント施設などで使用される水などの処理流体中に含まれる夾雑物を除去するためのストレーナ用エレメントとこれを用いた濾過機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水処理プラント、食品プラント、パルププラント等のプラント施設では、処理流体中に不純物等の夾雑物が混入するとこの夾雑物が各種機器や装置に浸入して目詰まりを起こし、これらが破損したり故障したりすることがある。これを防ぐため、通常、この種のプラント施設や水処理を必要とする施設では、流路にストレーナが設けられ、このストレーナにはストレーナエレメントが内装されている。ストレーナエレメントは、細かい目のスロットを有し、このスロットを処理流体が通過することで夾雑物がスロットの一次側に引っ掛かって除去される構造である。
【0003】
この場合、各施設では、下水や工業用水などの汚水以外の処理流体として、海水や河川の水などを濾過する場合もある。そのため、処理流体中には各種の不純物に加えて藻類や小さい生物や菌類等が含まれることがあり、これらがスロットに付着して滞留するおそれがある。この滞留により藻類等がスロット付近に付着して増殖すると、スロットの濾過面積が小さくなることがあり、その結果、圧力損失が生じて濾過性能の低下に繋がることになる。このため、この種の施設で使用されるストレーナは、スロットへの藻類等の夾雑物の付着を防ぐ必要がある。
【0004】
藻類等の固着を防止するようにした濾過機としては、例えば、特許文献1の濾過器がある。同文献1の濾過器は、濾過エレメントとこの濾過エレメントを収納する本体容器とを有し、本体容器を亜鉛及び/又はアルミニウムを主成分とする金属で溶融メッキしたものである。
【0005】
一方、特許文献2のストレーナは、濾過滓の洗浄装置を備えたストレーナであり、円筒形のスクリーンと、このスクリーンに内接するブラシが取付けられた回転軸とを有し、回転軸とブラシとの間にはバネが装着されている。この構造により、このストレーナは、バネによりブラシをスクリーンに押圧状態で接触させ、このブラシによりスクリーンの1次側に付着した濾過滓を掻き落とそうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−209955号公報
【特許文献2】実用新案登録第3073804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この種のストレーナでは、藻類や小さい生物や菌類等がスロットの交差部分などに引っ掛かることがあり、この藻類等が付着して剥がれ難くなることがある。この場合、これらが成長してストレーナの二次側で増殖し、スロットの開口面積が小さくなって圧力損失が増大し、濾過性能が低下するおそれがある。更に、増殖した藻類等が濾過した水に混入することでこの水に有害物質が含有されたり、濾過後の水に混入した藻類等がプラント施設等の機器や装置に浸入して生産性を下げる可能性もある。また、増殖した藻類等がストレーナの腐食を促進させることでストレーナが劣化しやすくなり、ストレーナの寿命が短くなる場合もある。
【0008】
特許文献1の濾過器は、本体容器を亜鉛及び/又はアルミニウムを主成分とする金属で溶融メッキすることで、この本体容器に藻類等が固着することを防止しようとはしているが、この濾過器では濾過エレメント自体に溶融メッキを施す事項は全く開示されていないため、この濾過エレメントに藻類等が付着して増殖し、その結果、圧力損失が増大することに繋がるおそれがある。
【0009】
一方、特許文献2のストレーナは、ブラシによりスクリーンに付着した濾過滓を強制的に掻き落とそうとしている。しかし、このストレーナでは、スロットの交差部分に絡みついた微細な藻類等をブラシで掻き落とせない場合、この藻類等がスクリーンの2次側まで増殖して圧力損失が生じることになる。
【0010】
本発明は、上記した実情に鑑み、鋭意検討の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、夾雑物を掻取りよって除去し、掻取りの難しい部分においても夾雑物の付着を防いで藻類等の増殖を防ぎ、圧力損失を招くことを防止して濾過性能を維持することができるストレーナエレメントとこれを用いた濾過機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、処理流体中に含有される夾雑物を濾過する濾過面を有する円筒体の一次側に夾雑物を掻取る掻取部材を設け、この円筒体と掻取部材とを相対的に摺動自在に設けると共に、この円筒体に防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有する合金皮膜を被覆処理して皮膜層を施したストレーナエレメントである。
【0012】
本発明は、合金皮膜は、Ni−P系合金皮膜であるストレーナエレメントである。
【0013】
本発明は、濾過面に濾過孔を形成し、この濾過孔を掻取部材の摺動方向に対して傾斜させたストレーナエレメントである。
【0014】
本発明は、断面略三角形状に形成した角状線材を傾斜状に並設して濾過孔を有する円筒体を構成し、この角状線材の底面側を円筒体の内周面とし、かつ、角状線材の二辺側を円筒体の遠心方向に位置させ、更に円筒体の外周囲を保持部材で保持させたストレーナエレメントである。
【0015】
また、他の発明は、少なくとも原液処理流路と濾過液流路とを有する濾過機本体内にストレーナエレメントを内蔵し、このストレーナエレメントに原液処理流路と濾過液流路とを連通させると共に、濾過機本体の内周面に合金皮膜を皮膜処理して皮膜層を施したストレーナエレメントを用いた濾過機である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、円筒体の濾過面に付着した夾雑物を掻取部材の摺動により掻取って除去でき、掻き取りの難しい部分においても防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有する合金皮膜が被覆処理されてなる皮膜層により、夾雑物の付着を防いで全体に藻類等が増殖する事態を未然に防ぐことができる。これにより、濾過面積を確保して濾過性能を維持できる。しかも、皮膜層は、光の届かない暗所でも明るい箇所に設置した場合と同様の特性を発揮し、何れの場合でもその性能を長期間持続できる。また、被覆層が濾過性能に悪影響を与えることがなく、断面略三角形状に設けた角状線材の二辺側を遠心方向に位置させて保持部材により保持しているので、濾過孔の二次側がより広く開口した構造となり、濾過時の圧力損失の増加を防止して濾過性能を維持できる。
【0017】
夾雑物を掻取る際には、掻取部材が濾過面の濾過孔に対して斜交しながら摺動するため夾雑物を簡単に破砕でき、掻取った夾雑物をこの傾斜した濾過孔により誘導して効率よく濾過流路から排出できる。このとき、掻取部材が角状線材の底面側を円滑に摺動するため夾雑物が剥離しやすく、かつ、掻取部材の摩耗や合金皮膜の剥離を抑えることができる。
【0018】
また、他の発明によると、圧力損失を防ぎつつ濾過流体中の夾雑物を除去して濾過性能を高めることができ、濾過後の水に藻類等の夾雑物が混入することを防いでクリーンな水に濾過することができる。このため、濾過機本体が設置されるプラント施設等の各種機器や装置への夾雑物の浸入も防いでこれらの破損や故障を防止することが可能となり、もって、濾過機としての使用価値を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明におけるストレーナエレメントの一実施形態を示す断面図である、(a)は、ストレーナエレメントの縦断面図である。(b)は、ストレーナエレメントの横断面図である。
【図2】図1のストレーナエレメントの一部切欠き正面図である。
【図3】ストレーナエレメントの要部を示した拡大斜視図である。
【図4】図1のストレーナエレメントの一部拡大断面図である。
【図5】他の発明における濾過機の一実施形態を示した一部切欠き斜視図である。
【図6】ストレーナエレメントの要部を示す拡大断面図である。
【図7】本発明のストレーナエレメントと対比するためのストレーナエレメントを示した要部拡大断面図である。
【図8】本発明のストレーナエレメントと対比するためのストレーナエレメントを示した正面図である。
【図9】本発明のストレーナエレメントの他例を示した一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明におけるストレーナエレメントとこれを用いた濾過機を図面に基づいて詳細に説明する。図1、図2においては、本発明のストレーナエレメントの一実施形態を示し、図3においては、ストレーナエレメントの要部を示している。また、図5においては、他の発明における濾過機の一実施形態を示している。
【0021】
図1において、ストレーナエレメント本体(以下、エレメント本体という)1は、円筒体2と掻取部材3とを有し、円筒体2には合金皮膜4による皮膜層5がめっき処理により施されている。
このうち、円筒体2は、例えば、ステンレス等の金属を材料として形成され、角状線材6を有している。角状線材6は、例えば、押出し或は引抜き成形により断面略三角形状に形成され、傾斜状に適宜数並設されることにより円筒体2が構成される。このとき、並設された角状線材6には濾過面7が形成され、この濾過面7の角状線材6同士の間に濾過孔8が形成される。角状線材6は、底面側が円筒体2の内周面9、かつ、二辺側が円筒体2の遠心方向に位置されるように並べられ、円筒体2の濾過孔8は、内周面9側よりも遠心側が広く開口した形状になっている。
【0022】
図3に示すように、円筒体2の濾過面7は、濾過孔8が形成されることで処理流体F中に含有される夾雑物Sを濾過することが可能になっており、更に、円筒体2の一次側に夾雑物を掻取るための掻取部材3が設けられる。図2において、角状線材6は、円筒体2の軸心Oに対して傾斜するように配設され、この傾斜によって濾過孔8が掻取部材3の摺動方向に対して傾斜する。
【0023】
円筒体2の外周囲は、保持部材11によって保持されており、この保持部材11は、例えば、中実の断面略矩形状に形成され、円筒体2を包囲可能に環状に曲げられている。保持部材2は、スポット溶接等の適宜の固着手段で角状線材6に固着され、この角状線材6による円筒体2の形状を保持するようになっている。更に、円筒体2の開口両端側には、保持リング12が取付けられ、円筒体2はこの保持リング12により補強される。
【0024】
ここで、円筒体2を形成する場合、例えば、先ず、保持部材11を平面状に並列させ、この上から保持部材に対して直交させるように角状線材6を載置させ、この角状線材6を保持部材11にスポット溶接等で固着する。続いて、これを角状線材6が軸心Oに対して傾斜するように円筒状に裏返し、両方の開口端部側に保持リング12、12を固着して円筒体2を形成する。次に、後述する取付部材15と回転軸16とを介して掻取部材3を円筒体2内に装着する。これにより、角状線材6が軸心Oに対して傾斜し、濾過孔8が掻取部材3の摺動方向に対して傾斜した円筒体2を設けることができる。
【0025】
合金皮膜4は、防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有する合金より成り、この合金皮膜4が円筒体2に、例えば3〜5μm程度の厚さで被覆処理されて皮膜層5が施される。合金皮膜4としては、例えば、Ni−P系合金皮膜を用いることが好ましく、この場合、Pは1〜10%程度の含有量であることが好ましい。これは、仮に、P含有量が1%未満であると、防藻性、抗菌性および防黴性の何れも低下し、一方、P含有量が10%よりも多いと、防藻性、抗黴性は高くなるものの抗菌性が低下するためである。Ni−P系合金皮膜が抗菌性を発揮する対象としては、例えば、緑膿菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、O157:H7などがある。
【0026】
Pを含有するNi−P系合金皮膜としては、例えば、Ni−P、Ni−P−B、Ni−P−C、Ni−Co−P、Zn−Ni−P等があり、この中から適宜選択した合金皮膜4を円筒体2に被覆処理するようにする。合金皮膜4を被覆処理する場合、例えば、電気めっき、無電解めっき、気相めっきなどの適宜の被覆処理手段を用いるようにすればよい。
【0027】
特に、合金皮膜4としてNi−P系合金皮膜を用いた場合には、このNi−P系合金皮膜が水素を含有していてもよい。その際の水素含有量としては、例えば、0.00001〜0.005%であることが好ましい。仮に、水素含有量が0.00001%未満であると、防藻性および抗黴性が低下する可能性があるためこれを避ける必要がある。ここで、水素含有量とは、合金皮膜4を円筒体2から剥がし、この合金皮膜4を室温から350℃まで昇温分析したときに測定される水素の含有量を指す。
【0028】
一方、掻取部材3は、例えば、高分子ポリマー製又は金属製のスクレーパや、金属製又は樹脂製のブラシ等からなっている。掻取部材3は、取付部材15を介して回転軸16に取付けられる。この回転軸16は、円筒体2の中心位置に配設され円筒体2に対して回転可能に設けられる。取付部材15は、回転軸16の軸心方向に対して180°の間隔で2ヶ所に設けられる。
【0029】
この取付けによって、図4に示すように、掻取部材3は、円筒体2の流路の一次側に設けられた状態で回転軸16を中心に回転可能になり、円筒体2と掻取部材3とが相対的に摺動自在になっている。この場合、掻取部材3をスクレーパとしたときには、このスクレーパ3を円筒体2の濾過面7に対して線接触の状態で取付けできるため着脱が容易であり、交換やメンテナンスも簡単になる。
【0030】
上記の実施形態では、円筒体2を固定側とし、この円筒体2に対して掻取部材3を回転させることによって円筒体2と掻取部材3とを相対的に摺動自在に設けているが、図示しないが、掻取部材を固定側とし、この掻取部材に対して円筒体を相対的に摺動させるようにしてもよい。また、上記実施形態では、円筒体2の内周側を一次側とし、この内周側に掻取部材3を設けているが、図示しないが、円筒体の外周側を一次側とし、この外周側に掻取部材を設けるようにしてもよい。
【0031】
続いて、上述したエレメント本体1を用いた濾過機の実施形態を説明する。図5においては、他の発明における濾過機の一実施形態を示している。濾過機本体20は、例えば、プラント施設等の流路の一部に接続され、少なくとも原液処理流路21と濾過液流路22とを有し、その内部に上述したエレメント本体1を内蔵可能になっていると共に、濾過機本体20の内部には合金皮膜4による皮膜層24がめっき処理により形成されている。濾過機本体20は、ボデー25とカバーフランジ26とを有し、更に、濾過機本体20にはモータ27が取付けられている。
【0032】
濾過機本体20に内蔵されるエレメント本体1において、掻取部材3は取付部材15を介して回転軸16に取付けられ、この回転軸16がモータ27に接続されている。モータ27にはスイッチ28が設けられ、このスイッチ28の投入時にモータ27が回転して掻取部材3を円筒体2に対して相対的に摺動できるようになっている。
【0033】
濾過機本体20におけるボデー25は、略円筒形状に形成され、このボデー25の一次側に原液処理流路21、二次側に濾過液流路22が形成され、更に、底面側には排出流路29が形成される。カバーフランジ26は、ボデー25の開口端部25aを塞ぐために設けられる。濾過機本体20は、このボデー25内の所定位置にエレメント本体1を内蔵した状態で、図示しないガスケットを介在させつつボルト・ナット30でボデー25にカバーフランジ26が固着されて構成される。
【0034】
原液処理流路21と濾過液流路22は、エレメント本体1に連通し、このうち、原液処理流路21は、図示しない外部の一次側流路と接続され、エレメント本体1の濾過孔8の一次側と繋がっている。一方、濾過液流路22は、エレメント本体1の濾過孔8の二次側と繋がっており、図示しない外部の二次側流路と接続されている。一方、排出流路29には排出弁31が取付けられており、この排出弁31の操作により排出流路29の開度調節が可能になっている。
【0035】
皮膜層24は、濾過機本体20の内周面、すなわち、ボデー25とカバーフランジ26の接液部位に設けられる。この皮膜層24は、エレメント本体1に設けられる皮膜層5と同様に適宜の厚さに設けられ、その種類としては、防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有するNi−P系合金皮膜が被覆処理される。
【0036】
続いて、上述した濾過機本体20により処理流体Fを濾過する場合には、外部の一次側流路を介して原液処理流路21よりこの処理流体Fの原液Fを濾過機本体20内に流入させると、この原液Fはエレメント本体1の一次側開口部位を介して円筒体2内に流入する。このとき、原液Fは、旋回流となって円筒体2内を流れ、濾過面7の濾過孔8を通過するときに、この濾過孔8の一次側に夾雑物Sが付着しやすくなっている。夾雑物Sは、例えば、0.15mm程度の狭い隙間Wを有する濾過孔8により確実に濾過され、濾過孔8の二次側に浸入することが防がれる。続いて、濾過孔8を通過した処理流体である濾過液Fは、濾過液流路22から外部の二次側流路を介して外部に流出する。このとき、濾過液Fは、ボデー25の底面側まで移動するが、排出弁31を閉状態にしていることで夾雑物Sが排出流路29から外部に漏れることはない。
【0037】
そして、エレメント本体1の一次側に付着した夾雑物Sを除去する場合には、スイッチ28を投入してモータ27を回転させ、回転軸16を回転させることで掻取部材3を円筒体2に対して相対的に摺動させる。この掻取部材3の摺動により、円筒体2の一次側に付着した夾雑物Sを掻取ってこの夾雑物Sに含まれる藻類や小さい生物や黴などの菌類を除去することができる。これにより、円筒体2の一次側における藻類等の増殖が防がれる。掻取部材3により掻取られた夾雑物Sは、ボデー25の底面側に溜まるが、排出弁31を開状態に操作することでこの夾雑物Sをボデー外部に排出することができる。掻取部材3による夾雑物Sの除去は、濾過機本体20が接続されたプラント施設等の稼働中に動作させることも可能である。
【0038】
濾過面7に形成した濾過孔8を掻取部材3の摺動方向に対して傾斜させているので、掻取部材3により掻取った夾雑物Sを、傾斜した濾過孔8に沿って図5において円筒体2の上方、又は下方に誘導することにより効率的に排出することができる。また、この構造により、夾雑物Sが固形物や繊維質又はガム状の異物等の破砕が困難な物質であっても簡単に破砕することができる。更に、掻取部材3が常に何れかの濾過面7と接触する構造であるため、掻取り時の摺動抵抗が常に略一定に安定しており、掻取部材3と円筒体2との相対摺動が円滑におこなわれ、かつ、掻取部材3の摩耗も少なくなる。夾雑物Sは、上記したように濾過孔8に誘導されながら除去されるため、円筒体2の二次側に押出されることも防がれている。また、エレメント本体1と掻取部材3の先端側とを直線状に配置して接触させているため掻取部材3の着脱が容易であり、摩耗や消耗等に応じてこの掻取部材3を容易に交換できる。
【0039】
更に、円筒体2に防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有するNi−P合金皮膜からなる合金皮膜4を被覆処理して皮膜層5を形成しているので、このNi−P系合金皮膜4の表面に、通常で10nm〜1μm、高湿度の状態で数10〜数100μm厚さの吸着水が存在し、この吸着水中に皮膜中のNiおよびPが溶出する。そして、Niが有する防藻性、抗菌性、防黴性の作用により、吸着水を介して藻類や菌類、黴類を死滅させて剥離させることができ、エレメント本体1の二次側でも藻類等の付着や増殖を防ぐことができる。このとき、合金皮膜4表面の薄水膜に抗菌イオンが溶出し、この抗菌水膜が表面を被覆し、バクテリアがこの抗菌水膜に接触したときにバクテリアが死滅するようになっている。
【0040】
更に、Ni−P系合金皮膜4中に水素を含有させた場合には、この水素が還元作用を発揮して皮膜層表面の酸化を防ぎつつNiを活性化させ、このNiとPの溶出量を増加させることが可能になる。このとき、Pが、防藻性、抗菌性、防黴性に有効な水素化物として溶出することで、防藻性、抗菌性、防黴性の特性がより向上する。
【0041】
Ni−P系合金皮膜中の水素を増加させる方法としては、例えば、皮膜形成後に高温水素ガス雰囲気中に曝す方法、電気化学的には水素チャージする方法などがあり、適宜の方法を使用すればよい。
皮膜層5を電気めっきによって形成した場合、水素反応によってカソード反応を生じさせることができ、電流効率を低下させることによって水素含有量を増加させることができる。このため、水素含有量を増加させる皮膜形成方法として、電気めっきにより皮膜層5を形成することが好ましい。この場合、水素含有量が0.005%を越えると皮膜の靭性が著しく低下して皮膜に割れが発生することがあるため、前述したように、水素含有量を0.005%以下とするのがよい。
【0042】
図7、図8においては、本発明のストレーナエレメントと対比するためのストレーナエレメントを示したものであり、図7のエレメント体40を成す円筒体41の表面に皮膜層を施さないようにしたものである。円筒体41は、前記の場合と同様に、角状線材6の二辺側が遠心位置の保持部材11に固着されている構造であることから、この角状線材6と保持部材11との固着部42に藻類や小さい生物、菌類等が引っ掛かったりした場合には、掻取部材で掻取ることができないことがある。このとき、皮膜層が設けられていないと、固着部42付近の藻類等を死滅できなくなり、図7に示すように、付着した藻類等が濾過孔8を覆うように増殖して付着物43が付着することがある。その結果、図8に示すように、円筒体2の二次側全体に付着物43が付着して圧力損失の増大に繋がることになる。
【0043】
図9においては、本発明のストレーナエレメントの他例を示したものであり、掻取部材3が回転する方向の一次側に断面略コ字形状のホッパー45を設けたものである。更に、図示しないが、このホッパー45には吸込管が設けられており、この吸込管は、回転軸16の内側に形成した連通穴に連通し、この連通穴が濾過機本体20の外部に繋がるように設けられている。
【0044】
この場合、掻取部材3で掻取った夾雑物Sをホッパー45内に掻き集めつつ、この夾雑物Sを吸込管から吸い込んで連通穴から直接外部に排出することができるため、このようなホッパー45(及び吸込管)と、前記の排気流路29とを組合わせることにより、効果的に濾過機本体20から夾雑物Sを排出できる。
【0045】
更に、上述した実施形態においては、濾過機本体20を縦型として設けているが、横型やY型、いわゆる、Y型ストレーナの態様の濾過機を設けることもでき、この場合にも、上記実施形態と同様にして防藻性、抗菌性、防黴性の特性を発揮する合金皮膜をエレメント本体や濾過機本体に皮膜処理して皮膜層を形成することができる。
【0046】
また、上述したストレーナエレメントや濾過機に施した皮膜層は、あくまでも一例であって、円筒体と掻取部材とを有し、円筒体に合金皮膜を皮膜処理して皮膜層を施してこの円筒体が防藻性、抗菌性、防黴性を発揮可能であれば、めっき処理以外の皮膜形成手段によって皮膜層を施すようにしてもよく、また、円筒体や濾過機本体の材質や処理流体の種類などの各種態様に応じてNi−P系合金皮膜以外の合金皮膜を用いることも可能である。
【実施例】
【0047】
次に、上述した合金皮膜を被覆処理して皮膜層を施したストレーナエレメントに対して流量測定試験を実施し、その圧力を測定した。この場合、円筒体は、円筒部位の径をφ150〜φ184のうちの適宜の径とし、その長さを約387mmとした。また、図6に示した角状線材同士が成す濾過孔の一次側開口部位の隙間Wを0.15mmに設けた。角状線材は、この隙間Wに応じた適宜の太さとし、保持部材についても角状線材と同様に、適宜の太さとした。
【0048】
このストレーナエレメントに対して、濾過機本体の原液処理流路(一次側)から所定圧力の水を流し、濾過液流路(二次側)の圧力を測定した。試験の条件としては、最高圧力:0.304MPaG、定格流量:70L/min(4.2m/Hr)及び8.0m/Hr、Vp:0.8m/s、Ve:0.123m/s、濾過孔の幅(スロット幅):0.15mmとし、この条件下において、被覆層を施したストレーナエレメント(供試品)と、皮膜層を施さない無垢のストレーナエレメント(比較品)について圧力を測定した。供試品の圧力測定結果を表1、比較品の圧力測定結果を表2に示す。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】
表1、表2を比較すると、定格流量が4.2m/Hr、8.0m/Hrの何れの場合でも、同じ定格流量下において、比較品の二次側圧力に対する供試品の二次側圧力はほぼ変わらなかった。また、供試品には、比較品の場合と同様に一次側圧力と二次側圧力の圧力差は見られなかった。更に、供試品は、比較品と同様に時間が経過した場合でも、一次側に対する二次側の圧力損失が増えることがなく、初期の二次側圧力と同じ圧力を維持できた。
以上の結果より、本発明のストレーナエレメントとこれを用いた濾過機は、一次側圧力に対する二次側圧力の低下を、被覆層を施さない無垢のストレーナエレメントと同様に抑えることができ、しかも、無垢のストレーナエレメントとほぼ変わらない二次側圧力を確保できる。このため、ストレーナエレメントに皮膜層を施した場合でも、無垢のストレーナエレメントと同等の流量特性を得ることができる。この場合、時間が経過した場合でも、流量特性の低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 ストレーナエレメント本体
2 円筒体
3 掻取部材
4 合金皮膜
5、24 皮膜層
6 角状線材
7 濾過面
8 濾過孔
9 内周面
11 保持部材
20 濾過機本体
21 原液処理流路
22 濾過液流路
F 処理流体
S 夾雑物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理流体中に含有される夾雑物を濾過する濾過面を有する円筒体の一次側に夾雑物を掻取る掻取部材を設け、この円筒体と前記掻取部材とを相対的に摺動自在に設けると共に、この円筒体に防藻性、抗菌性、防黴性の特性を有する合金皮膜を被覆処理して皮膜層を施したことを特徴とするストレーナエレメント。
【請求項2】
前記合金皮膜は、Ni−P系合金皮膜である請求項1に記載のストレーナエレメント。
【請求項3】
前記濾過面に濾過孔を形成し、この濾過孔を前記掻取部材の摺動方向に対して傾斜させた請求項1又は2に記載のストレーナエレメント。
【請求項4】
断面略三角形状に形成した角状線材を傾斜状に並設して濾過孔を有する円筒体を構成し、この角状線材の底面側を円筒体の内周面とし、かつ、角状線材の二辺側を円筒体の遠心方向に位置させ、更に円筒体の外周囲を保持部材で保持させた請求項1乃至3の何れか1項に記載のストレーナエレメント。
【請求項5】
少なくとも原液処理流路と濾過液流路とを有する濾過機本体内に前記ストレーナエレメントを内蔵し、このストレーナエレメントに前記原液処理流路と濾過液流路とを連通させると共に、前記濾過機本体の内周面に前記合金皮膜を皮膜処理して皮膜層を施した請求項1乃至4の何れか1項に記載のストレーナエレメントを用いた濾過機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−98309(P2011−98309A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255718(P2009−255718)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(594182993)大同工機株式会社 (4)
【Fターム(参考)】