説明

スパイラル鋼管の周長測定方法および周長測定装置

【課題】スパイラル鋼管の製造時に、内面溶接直後でもスパイラル鋼管周方向の変形挙動に対応して精度よくスパイラル鋼管周長を測定できる周長測定装置を提供する。
【解決手段】スパイラル鋼管10の製造装置に設けられた押さえロール9を保持する保持部11からスパイラル鋼管10の略周方向に沿って延びる変位計保持架台12を備えている。変位計保持架台12には、スパイラル鋼管10表面の押さえロール9どうしの間となる範囲で、かつ、当該押さえロール9から所定距離以上となる位置の変位を測定する変位計13が設けられている。この変位計13で測定されたスパイラル鋼管10表面の変位量からスパイラル鋼管10の周長の変化量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイラル鋼管の周長を自動的かつ連続的に高精度で測定可能なスパイラル鋼管の周長測定方法および周長測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイラル鋼管は、例えば、外径400mm〜2650mm、肉厚3mm〜30mm程度の溶接鋼管である。またスパイラル鋼管は最長40m程度の長さのものがある。なお、理論上はより広い範囲の外径の鋼管やより長い鋼管の製造も可能である。
【0003】
このようなスパイラル鋼管は、各種配管、ラインパイプ、水道用鋼管、構造用鋼管(鋼管杭、鋼管矢板)等に用いられている。これらの用途では、数10mのスパイラル鋼管の端部どうしを溶接により接続していくことで、延長しつつ敷設される。このような施工に際して溶接される鋼管どうしの周長(管周長)に大きな差異があると溶接不良の要因となったり、溶接作業の効率を低下させる要因となったりする。このため互いに溶接されるスパイラル鋼管の周長が合致している事が望ましく、スパイラル鋼管における周長(径)は、重要な品質である。
【0004】
スパイラル鋼管の製造装置(製造設備)の概略を図17および図18に示す。これらの図において、スパイラル鋼管は熱延コイル等のコイル状の鋼板1をスパイラル状に成形しつつ、スパイラル状で円筒状(管状)にされた鋼板の互いに突き合わされる左右側縁部を溶接することにより、連続的に製造される。例えば、コイル状の鋼板1は、アンコイラー2により、巻いた状態から板状に引き出され、ピンチロール3で送られ、フラットナー(レベラー)4およびレベラー5で平坦度を矯正後、端面研削装置6により鋼板の左右則縁(エッジ)の端面をトリムし、幅調整等が行われる。すなわち、鋼板1の板幅を一定とするとともに溶接面となる左右の端面のスケールを除去する。
【0005】
その後ピンチロール7で鋼板1を送るとともに成形ロール8により、鋼板1の長さ方向(鋼板1の送り方向)に対して所定の角度を持った状態で所定の曲率で鋼板1を曲げつつ、曲げられることで管状となる部分の管内面側で、既に管状に形成された部分の端面に曲げられた鋼板1の管側の側縁を溶接(内面溶接)していく。また、管状に成形された直後の部分は、周囲に互いに間隔をあけて配置された押えロール9で管状に成形された直後の部分をサポートしつつ、管状に成形された部分で、鋼板の互いに突き合わされる左右側縁を管外面側から溶接(外面溶接)する。
【0006】
前記押さえロール9は、管内面側および管外面側の溶接位置およびその近傍で、図18に示すように製造する鋼管の目標外径Dを決め、目標外径Dの円が全て押えロールに接する様に配置されており、成形されたスパイラル鋼管10を所定位置に保持している。
スパイラル鋼管10の製造では、製造中にスパイラル鋼管10の径(周長)が変動することが知られており、スパイラル鋼管の周長を一定に保つように制御する必要がある。
【0007】
このようなスパイラル鋼管10の周長の変動要因としては、鋼管のキャンバーや蛇行、成形ロールの位置偏差、鋼板の進行方向と鋼管軸のなす角度(φ)の誤差、鋼板の送り出し速度変動、溶接ギャップ(鋼板のエッジと鋼管のエッジの隙間やこれらエッジの位置関係に基づく)の変動等、種々の要因がある。実際の製造時には、設定条件だけではスパイラル鋼管の周長は必ずしも安定しないことがあるので、上述の変動要因のうち比較的容易に変更可能なものを、周長の変動に応じて制御する。
【0008】
このようにスパイラル鋼管10の周長を制御するには、成形直後のスパイラル鋼管10の周長の変動を測定する必要がある。
従来、スパイラル鋼管10の周長測定は、オペレータがメジャーで測定を行う方法が一般的である。できるだけ高い歩留まりで安定した品質(周長)を得るため、スパイラル鋼管製造には、溶接後、早いタイミングで周長測定を行う必要がある。この周長測定の位置は、押さえロールから少し圧延した位置での測定が望ましく、この部位で、オペレータがメジャーを用い周長測定を行う方法がある。この方法では、測定に際し、スパイラル鋼管10の製造を止める必要がある場合には製造速度が阻害される。また、人による測定では測定頻度が限られ、連続的に周長の全長測定を行うことができない。そのためオペレータによる測定が行われていない期間に周長の大きな変動(周長ハズレ)が発生することが問題となる。
【0009】
また、オペレータが間欠的に測定しつつ、その測定結果に基づき周長を制御することになるが、制御に手間を要し、周長ハズレが生じた際に、周長を適正値に戻すまで手間と時間とがかかるとともに、歩留まりが低下する場合がある事も問題である。また、周長の測定、周長の制御等の作業には、熟練した技術が必要であり、オペレータに技術習熟が必要となることが問題である。
【0010】
以上のように、オペレータによるメジャーでの測定では、連続的に周長を測定できず、迅速な周長の制御ができないという問題があることから、自動的、かつ、連続的な周長測定を可能とする方法が提案されている。
例えば、スパイラル鋼管の外周に設置した複数の非接触変位計を用い、当該変位計から表面までの距離の変位を測定し、この変位量をパイプ(鋼管)外周値に換算する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この従来例では、非接触型変位計としては、パイプの回りに、ほぼ等角度で、パイプ表面から等距離に設置し、パイプ径変更の際も、常にパイプ中心を狙うように配置されたレーザ式センサを用いた装置が例示されている。
【0011】
また、スパイラル鋼管の移動方向に移動可能な台車と、スパイラル鋼管をクランプし、このスパイラル鋼管の回転とともに回転可能に前記台車に支持されたクランプ装置と、外周に接して転動するメジャリングロールを1または複数配置したメジャーリング装置と、スパイラル鋼管の回転角を検出する回転角検出器とを用い、1つまたは複数のメジャリングロールにより検出した部分外周長と回転角とにより外周を求める方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
また、スパイラル鋼管の管軸方向に溶接シームを挟み表面波の発信子と受信子を配置し、発信子から受信子までの表面波(超音波)の伝搬時間より表面波の伝搬経路長を求め、発信子と受信子の位置関係とこの伝搬経路長から周長を求める方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−23733号公報
【特許文献2】特開平6−201368号公報
【特許文献3】特開平7−83644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載された測定方法および装置では、次のような問題がある。
スパイラル鋼管の直径は、先述した様に400mm〜2650mmに及ぶ。ここで、内面溶接位置の高さと成形ロールの高さは、一般にライン入り側の鋼板パスラインの高さ(コイル状から平にされて成形ロール側に搬入される鋼板の高さ)とほぼ一致するように設定され、製造する鋼管径が変化した際にもこの高さは変わらない。
【0015】
このため、製造する鋼管の直径が変化すると、鋼管の中心は2650mm/2−400mm/2=1125mm上下し、スパイラル鋼管上部の表面位置は2000mm程度の変動がある。この様な条件で、上記記載の設備条件を達成するためには、変位計のために3m×3m程度あるいはそれ以上の大がかりな架台と、その架台から6個のセンサの位置や角度を精度良く調整可能な機構を設ける必要がある。
【0016】
このため、装置として高額なものとなり、また、これらの仕組みを設置出来る場所が必要となる。場合によっては、押さえロールやその保持機構との干渉やオペレータの作業スペースの確保等の観点から、溶接位置から離れて設置することになるので、溶接位置から測定位置までの間の不良発生の可能性は避けられない不利がある。
【0017】
さらに、変位計の周方向測定位置についても、「ほぼ等角度」との態様が示されるのみであり、押さえロールとの位置関係は考慮されていない。そのため、押さえロールが配置されている溶接位置の直後で測定する場合、スパイラル鋼管表面の押さえロールに当接した場所およびその近傍では、スパイラル鋼管の周長が長くなるように変動しても、押さえロールで鋼管表面の変位が押えられてしまうので、鋼管の表面の変位と、スパイラル鋼管の周長の変動とが対応しておらず、このような場所を測定箇所とすると誤った周長を算出する虞がある。
【0018】
また、特許文献2に記載された測定方法および装置では、特許文献1の場合と同様に大きく変動する直径に対応するためには、大がかりな装置が必要となり、また測定位置の制約が発生しうる。また、一般にメジャリングロールの測定ではメジャリングロールと材料の間のスリップが発生し0.5%〜3%程度の測定精度しか得られない。0.5%の精度のメジャリングロールで直径1000mm程度の鋼管の周長を測定する場合は、おおよそ3000mm×0.005=15mmと、例えば特許文献1と比較しても大きな誤差が生じる。
【0019】
また、特許文献3に記載された測定方法および装置では、表面波の伝搬特性の影響が問題となる。表面波(超音波)の伝搬速度は、伝搬媒質(スパイラル鋼管)の温度や材質(組成・組織)の影響を受け変化する。そのため安定した測定が出来ない場合がある。
【0020】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、スパイラル鋼管の製造時に、内面溶接直後でもスパイラル鋼管周方向の変形挙動に対応して精度よくスパイラル鋼管周長を測定でき、かつ、コンパクトに設けることが可能であることからスパイラル鋼管の製造装置の各部材の邪魔になることなく、溶接位置近傍でスパイラル鋼管の周長を測定できるスパイラル鋼管の周長測定方法および周長測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、請求項1に記載のスパイラル鋼管の周長測定方法は、管状に成形された鋼板の側縁部の溶接を外周側から周方向に並んで配置された複数の押さえロールで保持しながら行ってスパイラル鋼管を製造する際に当該スパイラル鋼管の周長を溶接直後となる位置で測定するスパイラル鋼管の周長測定方法であって、前記スパイラル鋼管の隣り合う前記押さえロール同士の間の部分となる複数のロール区間のうち、隣り合う前記押さえロール同士の間隔が全ロール区間における前記間隔の平均値以上となる少なくとも1つのロール区間を選択し、当該ロール区間内で前記スパイラル鋼管の周方向に沿った押さえロールからの距離が所定長さ以上の位置で前記スパイラル鋼管表面の変位を測定し、測定された前記変位に基づいてスパイラル鋼管の周長を算出することを特徴とする。
【0022】
請求項1に記載の発明において、複数の押さえロールは、実際は、スパイラル鋼管の外周に厳密に等間隔に配置されるのは稀で、等間隔な配置に対して少しずれて配置される。したがって、各ロール区間の間隔は等しくない。ここで、後述するように、間隔の広いロール区間、具体的には、全ロール区間の間隔の平均値よりも間隔の広いロール区間では、スパイラル鋼管の周長が変化した場合のスパイラル鋼管表面の変位が大きくなる。このような間隔の広いロール区間で鋼管表面の変位を測定し、この変位に基づいて周長を算出することで、精度よく周長の変化を認識することができる。なお、ロール区間は、製造されるスパイラル鋼管の押さえロールで押えられている範囲において、押さえロールの位置で分割されるスパイラル鋼管の区間で、上述のように隣り合う押さえロールどうしの間となる区間となる。
【0023】
また、押さえロールの位置関係は、鋼管径によっても変動するので、間隔の広いロール区間(すなわち、周長変化算出のための変位測定に適したロール区間)も、鋼管径によって変動しうる。したがって、鋼管径に応じて、測定に適したロール区間を選択することで鋼管径を精度よく算出することができる。
【0024】
さらに、押さえロールからスパイラル鋼管の周方向に沿って所定距離以上離れた位置、好ましくはロール区間の中間位置(隣接する押さえロールどうしの間の略中央となる位置)でスパイラル鋼管表面の変位を測定することで、精度高く周長の変化を認識することが可能であり、精度の高い周長の測定が可能となる。
これにより、溶接直後(例えば、後述の内面溶接直後)のスパイラル鋼管の周長を高精度で測定可能となるので、スパイラル鋼管の周長に大きな変動が生じるような場合に、当該変動が生じはじめた際に、それを検知して、周長が大きく変動する前に周長の変動を抑える制御を開始することができる。
【0025】
請求項2に記載のスパイラル鋼管の周長測定方法は、請求項1に記載の発明において、スパイラル鋼管の鉛直方向の変位もしくは水平方向の変位を測定し、当該測定された変位に基づく補正を行って周長を算出することを特徴とする。
【0026】
請求項2に記載の発明においては、スパイラル鋼管の鋼管径が小さい場合等には、鋼管径が押さえロールに内接する円の径よりも小さくなり、一部の押さえロールでは押えられていない状態になりうる。そうすると、押さえロールで押えられることによる上述のようなロール区間でのスパイラル鋼管表面の変位が生じない(または小さくなる)。そこで、スパイラル鋼管の垂直方向もしくは水平方向の変位、すなわち、スパイラル鋼管の水平方向の径の変位もしくは垂直方向の径の変位を測定して、測定された測定値を用いて楕円近似法による補正を行って周長を算出する。
【0027】
請求項3に記載のスパイラル鋼管の周長測定装置は、管状に成形された鋼板の側縁部の溶接を外周側から周方向に並んで配置された複数の押さえロールで保持しながら行ってスパイラル鋼管を製造する際に当該スパイラル鋼管の周長を溶接直後となる位置で測定するスパイラル鋼管の周長測定装置であって、複数の前記押さえロールのうち一つまたは複数の押さえロールの保持部に、当該保持部から前記スパイラル鋼管の略周方向に沿って延びる腕部が設けられ、当該腕部には、当該腕部が設けられた保持部で保持される押さえロールとこれと隣接する押さえロールとの間の部分となるロール区間内でかつこれら押さえロールから前記スパイラル鋼管の周方向に沿って所定距離以上となる位置のスパイラル鋼管表面の変位を測定する変位計が設けられていることを特徴とする。
【0028】
請求項3に記載の発明においては、押さえロールを保持する保持部からスパイラル鋼管の周方向に沿って伸びる腕部に変位計が設けられていることで、製造されるスパイラル鋼管の周長(径)が大きく変更されても、変位計は押さえロールに自動的に追随するので、スパイラル鋼管表面との距離関係はほとんど変動しない。鋼管表面に近い位置で鋼管表面の変位を測定することができる。したがって、製造されるスパイラル鋼管の周長の大きな変更に伴なって変位計の位置を大きく変更させる装置を必要としないので、装置自体がコンパクトになり、またコスト面でも有利である。
【0029】
なお、前記腕部は、スパイラル鋼管の中心を中心とする円弧状であっても良いし、当該円弧に近似する直線状であってもよい。
また、前述したように、間隔の広いロール区間で鋼管表面の変位を測定することで鋼管の周長を精度よく算出することができるが、押さえロールの位置関係は、鋼管径によっても変動しうる。また、設備配置等の事情により最も間隔の広いロール区間で測定が困難な場合もありえる。このような場合にも、複数のロール区間での測定を可能にしておくことで、鋼管径や設備配置等に応じて測定に適したロール区間を1または複数選択することで、鋼管径を精度よく算出することができる。
【0030】
請求項4に記載のスパイラル鋼管の周長測定装置は、請求項3に記載の発明において、前記変位計が前記腕部の長さ方向に沿って移動自在に当該腕部に取り付けられているかまたは当該腕部の長さ方向に沿って複数個の変位計が取り付けられていることを特徴とする。
【0031】
スパイラル鋼管の周長を精度よく測定するには、ロール区間内の押さえロールから所定距離以上となる位置、好ましくはロール区間の中間位置で鋼管表面の変位を測定する。
ここで製造されるスパイラル鋼管の鋼管径が異なると、これに伴ってロール区間の間隔も異なる。このとき、変位計が前記腕部の長さ方向に沿って移動自在に当該腕部に取り付けられていると、ロール区間内の測定に適した位置に変位計を移動させて測定することができ、また、変位計が腕部の長さ方向に複数取り付けられていると、ロール区間内の測定に適した位置にある変位計を選択して測定することができる。
【0032】
請求項5に記載のスパイラル鋼管の周長測定装置は、請求項3または4に記載の発明において、前記腕部が設けられる保持部に保持された押さえロールから、当該スパイラル鋼管の周方向に沿って100mm〜300mm離れた位置に変位計が配置されていることを特徴とする。
【0033】
精度高くスパイラル鋼管の周長を測定する上では、変位計が少なくとも押さえロールから100mm以上離れていることが好ましい。
一方、変位計は、適切な配置位置を捜すために、隣接する押さえロールどうしの間の略中央となる位置まで配置可能となっていることが好ましいが、スパイラル鋼管の製造装置で、製造される最も長い周長のスパイラル鋼管の周長は、例えば、周長が最も長いスパイラル鋼管の外径を2650mmとすると、周長が約8330mm程度となり、押さえロールの数を6とすると、押さえロールどうしの間隔の平均は、約1390mm程度となり、その半分は、約695mmとなる。
それに対して、スパイラル鋼管の製造装置で最も短い周長は、例えば、外径を約400mmとすると、周長が約1256mm程度となり、押さえロールの数を6とすると、押さえロールどうしの間隔の平均は、約209mm程度となる。このような条件では、例えば、腕部を長くしすぎてしまうと、複数の押さえロールに架け渡されるように腕部が配置されることになり、腕部が押さえロールやその保持部材に干渉する可能性が高くなってしまう。すなわち、押さえロールから300mmより大きく離れて変位計を配置可能な長い腕部を設けた場合に、腕部と押さえロールやその保持装置が干渉する可能性が高くなるので、押さえロールから変位計までの距離を300mm以下とすることが好ましい。
【0034】
請求項6に記載のスパイラル鋼管の周長測定装置は、請求項3〜5のいずれかに記載の発明において、前記変位計がレーザ変位計であることを特徴とする。
【0035】
請求項6に記載の発明においては、レーザ変位計を用いることで、スパイラル鋼管に対して非接触で高精度の測定が可能となる。なお、レーザ変位計とは、レーザ距離計と同義であり、スパイラル鋼管表面の変位をレーザ変位計からスパイラル鋼管表面の所定位置までの距離の変動として計測するものである。なお、レーザの向きがスパイラル鋼管の径方向もしくは径方向に近似していることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、スパイラル鋼管の製造時に、溶接位置の近傍(例えば、内面溶接の直後)の段階で鋼管の周長を精度よく測定できるので、これを速やかに製造条件にフィードバックすることにより、形状精度のよいスパイラル鋼管、すなわち、周長が略一定となるスパイラル鋼管を製造できる。また、変位計を抑えロールの保持部からスパイラル鋼管の周方向に伸びる腕部に設けることで、製造すべきスパイラル鋼管の径を変更した際に、変位計が押さえロールの移動に対応して移動することになり、変位計の支持装置に製造すべきスパイラル鋼管の径に対応して変位計を移動する装置の必要がなく、スパイラル鋼管の周長測定装置を製造すべきスパイラル鋼管の径に対応して移動可能でありながら、極めてコンパクトな形状とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態のスパイラル鋼管の周長測定装置の要部を示す概略図である。
【図2】前記周長測定装置の変形例の要部を示す概略図である。
【図3】押さえロールによるスパイラル鋼管の変形とスパイラル鋼管の外径(周長)との関係を説明するための図である。
【図4】スパイラル鋼管の押さえロールによる変形を模擬的にテストした際の押さえ量とスパイラル鋼管表面の変位量との実測地の関係を示すグラフである。
【図5】前記模擬的なテストの実測地と、FEM解析によるシミュレーション結果との比較を示すグラフである。
【図6】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量(押さえ量)とスパイラル鋼管表面の変位量との関係を示すグラフである。
【図7】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量とスパイラル鋼管表面の変位量(変化量)との関係を示すグラフである。
【図8】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量とスパイラル鋼管表面の変位量(変化量)との関係等を示すグラフである。
【図9】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量とスパイラル鋼管表面の変位量(変化量)との関係等を示すグラフである。
【図10】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量とスパイラル鋼管表面の変位量(変化量)との関係等を示すグラフである。
【図11】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量とスパイラル鋼管表面の変位量(変化量)との関係等を示すグラフである。
【図12】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて押しつけ量とスパイラル鋼管表面の変位量(変化量)との関係等を示すグラフである。
【図13】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて感度係数aとスパイラル鋼管外径との関係を示すグラフである。
【図14】FEM解析のシミュレーション結果に基づいて感度係数aとスパイラル鋼管外径との関係を示すグラフである。
【図15】スパイラル鋼管製造装置の押さえロール付近を模擬するテスト用架台の模式図である
【図16】本発明のスパイラル鋼管の周長測定装置の一例の概略図である。
【図17】一般的なスパイラル鋼管の製造装置を示す概略図である。
【図18】一般的なスパイラル鋼管の製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、スパイラル鋼管の周長測定方法の理論的背景について説明し、次いで、具体的なスパイラル鋼管の周長測定装置および当該周長測定装置を用いた周長測定方法を説明する。
1.周長測定方法
(1)製造装置
この実施の形態の周長測定方法は、一般的なスパイラル鋼管の製造装置(製造設備)に適用可能なもので、例えば、上述の図17および図18に示されるスパイラル鋼管の製造装置で製造される場合に適用可能である。そこで、本発明を詳細に説明するために、一般的なスパイラル鋼管の製造装置、特に押さえロール9周りについて簡単に説明する。
【0039】
スパイラル鋼管10の製造装置には、スパイラル鋼管10の製造時に管状に成形される鋼板1どうしの溶接が行われる際に、前記スパイラル鋼管10の外周側に配置され、当該スパイラル鋼管10を外周側から押えて保持する押さえロール9を有し、複数の前記押さえロール9が前記スパイラル鋼管10の周方向に沿って配置されている。
【0040】
押さえロール9の配置位置は、例えば、上述の内面溶接の位置もしくはその直後となる位置を含むものであり、かつ、押さえロール9で押えられている範囲で外面溶接が行われる。また、押さえロール9は略等間隔に配置されるが、通常は厳密に等間隔とはならずロール同士の間隔には大小が生じる。
【0041】
また、押さえロール9は、例えば、螺旋状に巻かれた鋼板1の配置に対応して、スパイラル鋼管10の軸方向位置が、螺旋方向に沿ってずれた状態となっている。すなわち、スパイラル鋼管10の成形ロール8で鋼板1が成形される側の端部(以後前端部)に最も近い押さえロール9から、螺旋方向に沿って順番に、前記端部から離れていくように押さえロール9が配置されている。
【0042】
そして、押さえロール9は、図示しない保持部により、製造すべきスパイラル鋼管10の外周面に当接する位置より僅かに内側に配置される。すなわち、押さえロール9でスパイラル鋼管10の外周面(表面)をスパイラル鋼管10の径方向内側に押した状態となるように押さえロール9が配置される。したがって、全ての押さえロール9に接する仮想上の円の周長(径)に対して、製造すべきスパイラル鋼管10の設定上の周長(径)の方が少し長くなっている。
【0043】
また、スパイラル鋼管10の製造装置では、異なる径のスパイラル鋼管10の製造が可能となっており、前記保持装置は、製造すべきスパイラル鋼管10の径の設定変更に対応して、各押さえロール9の位置を変更して、上述の仮想上の円の周長(径)を変更できるようになっている。
【0044】
(2)周長算出過程
この例の周長測定方法は、隣接する押さえロール9で形成されるロール区間における鋼管表面の変位に基づいて鋼管の周長を測定する方法である。以下では、鋼管表面の変位から鋼管の周長を算出する過程について、説明する。
【0045】
図3は、押さえロール9に押えられたスパイラル鋼管10の変形を変形量を強調して図示したものである。そして、変位計13の測定値に基づくスパイラル鋼管の周長の算出は、以下のようにして行われる。
【0046】
図3に示すように、
押さえロール9に接する円の半径=スパイラル鋼管10の半径−押さえ量X
であるから
スパイラル鋼管10の半径=押さえロール9に接する円の半径+押さえ量X
である。
【0047】
近似的に基準管半径(スパイラル鋼管10の径の変動前の半径)=押さえロールに接する円の半径とし、基準管半径からのスパイラル鋼管10の半径の増加分を管半径変化量とすると
管半径変化量=押さえ量X
周長変化=管半径変化量×2π=押さえ量X×2π…(1)
【0048】
押さえ量Xは、押えロール9の位置を固定した状態では、スパイラル鋼管10の外径の変位により変化することになり、上述のように基準管半径を押さえロール9に接する円の半径とした場合に、押え量Xを管半径変化量と見なすことができる。後述の模擬実験や計算機シミュレーションで示されるように、押さえ量X(スパイラル鋼管の管半径変化量)の増減に応じてロール区間内でのスパイラル鋼管10の表面が半径方向に変位する。この変位をYとした場合に、押さえ量Xとの関係を直線関係:
Y=aX (以下、aを感度係数とよぶ)…(2)
で、近似する。
式(1)(2)より、
Y=a×周長変化/2π
として求められる。
【0049】
すなわち、感度係数aが大きいほど、周長の変化幅に対する鋼管表面の変位Yの変化幅が大きくなるので、周長のわずかな差異を感度よく検出することができる。
なお、実際のスパイラル鋼管10の製造においては、通常、基準管半径は、例えば、スパイラル鋼管10の製造開始直後等のタイミングで例えばメジャーを用いて実測された値とし、押さえロール9に接する円の半径は基準管半径より少し小さくなるように設定される。
【0050】
(3)本発明の態様の一例としての模擬試験、計算機シミュレーション
続いて、本発明の意義・効果について理解を容易にするために、押さえロール9周りでのスパイラル鋼管10の変位に関する模擬実験および計算機シミュレーションの結果を説明する。
【0051】
(3)−1.模擬実験
まず、押さえロール9で支持されるスパイラル鋼管10の表面の変位の状況を、模擬実験により調査した。図15は、スパイラル鋼管製造装置の押さえロール9付近を模擬するテスト架台20の模式図である。テスト架台20にスパイラル鋼管10を輪切りにした一部を設置し、当該スパイラル鋼管10の外周を囲むように外面補強パイプ21を配置し、当該外面補強パイプ21に当該外面補強パイプ21から内側のスパイラル鋼管10側に向けて螺合するボルト22を用い、押さえロール9の配置に対応する位置からスパイラル鋼管10をボルト22で押圧した。
このテストでは、スパイラル鋼管10として外径1386.6mm×厚さ8mmの鋼管を用い、スパイラル鋼管10の真下の0度となる位置は、テスト架台20に接した状態でボルト22による押し込みを行わず、時計回りで66度、120度、180度、235度、294度の位置でボルト22による押し込みを行った。
【0052】
このときのスパイラル鋼管10表面の変形を実測した結果を図4のグラフに示す。
図4のグラフは、約10〜20度ピッチでスパイラル鋼管10表面の変位を測定した結果である。表1に示すように、各ボルト22直下近傍が極小値となり、隣接する各ボルト22の間でスパイラル鋼管10の表面が外側に膨れ上がっていた。膨れ上がっているピーク(極大値)角度としては、80度、150度、200度、265度の近傍であり等ピッチとなっていなかった。さらに、その膨れ上がりの程度は、角度によって異なる。即ち、このサンプルでは、80度や200度近傍の膨れ上がりは小さく、150度や265度近傍の膨れ上がりは大きかった。
【0053】
ここで、隣接するボルト22間の間隔に注目すると66度のボルト22と120度のボルトの間が54度、120度のボルト22と180度のボルト22との間が60度、180度のボルト22と235度のボルト22の間が55度、235度のボルト22と294度のボルト22の間が59度である。上述の膨れ上がりが大きくなる150度の位置は、120度のボルト22と180度のボルト22との間のほぼ中間位置であり、同じく膨れ上がりが大きくなる265度の位置は、235度のボルト22と294度のボルト22との間のほぼ中間位置である。
【0054】
すなわち、ボルト22の押しつけ量(押さえロール9の押さえ量に相当)の増減に伴う鋼管表面の変位幅が大きくなるのは、ボルト22同士の間(隣接する押さえロールで形成されるロール区間に相当)の間隔が広いロール区間のほぼ中央位置である。
【0055】
なお、ボルト22(押さえロール)の位置を変化させての押さえ量の変化に基づくスパイラル鋼管10表面の変位と、ボルト22(押さえロール9)を固定してスパイラル鋼管10の径を変えた場合のスパイラル鋼管10表面の変位とは、スパイラル鋼管10の径の僅かな違いを除けば、実質的に同様の変位であり、押さえ量と変位量との関係は、略同じとなる。このことから、鋼管10の周長の増減による鋼管10表面の変位幅が大きくなるのは、間隔の広いロール区間の中央位置近傍であり、逆にこの位置でスパイラル鋼管10の表面の変位を測定することでスパイラル鋼管10の周長を精度よく測定できることが示唆される。
【0056】
(3)−2.計算機シミュレーション例1
次に、FEM解析(有限要素法を用いた弾性解析)によるシミュレーションで押さえ量とスパイラル鋼管10表面の変位との関係を求めた。スパイラル鋼管10の外径と厚さは、上述のテスト架台20で実測値を求めた場合と同様とした。押さえロール9の位置もテスト架台20の実験と同様としたが、0度の位置にも押さえロール9を配置してスパイラル鋼管10を押圧するものとした。また、押し込み量を1mmとした。
【0057】
図5は、このシミュレーションの結果と、前述のテスト架台20での実測値を合わせて示したものである。テスト架台20の実験結果と、シミュレーションの結果は、押える位置どうしの間の距離が広い場合に変位量が大きく、距離が狭い場合に変位量が小さいものとなっており、同様の傾向を示した。なお、スパイラル鋼管10の表面の変位量には違いが見られたが、これは、押さえロール9に模してボルト22を用いたことや、0度の位置における押圧のありなし等に基づくものと思われる。
【0058】
このシミュレーション例では、0度と66度との間と、294度と0度との間との角度がそれぞれ66度となっており、これらの角度の間が最も広く、スパイラル鋼管表面の膨れ上がり量(変位量)も最も多くなった。
【0059】
このように、隣り合う各押さえロール9どうしの間となる複数のロール区間のうち、間隔の広いロール区間(より具体的には、全ロール区間の間隔の平均値よりも間隔の広いロール区間)を選択して、そのロール区間のほぼ中央位置で、スパイラル鋼管10の表面の変位を測定し、測定された前記変位に基づいてスパイラル鋼管10の周長を算出することで、スパイラル鋼管10の周長を精度よく測定できること示された。
【0060】
(3)−3.計算機シミュレーション例2
さらにFEM解析のシミュレーション結果から、感度係数aを求めてみた。
スパイラル鋼管10の径、厚さおよび押さえロール9の角度は前述と同様とし、押さえロール9による押しつけ量(押さえ量)を0.5mm、1.0mm、1.5mmとした。
【0061】
このシミュレーション結果を図6のグラフおよび図7のグラフに示す。なお、図6が180度の押さえロール9からマイナス角度方向のロール区間(すなわち120度と180度の間のロール区間)での変位を示し、図7が235度の押さえロールからプラス角度方向のロール区間(すなわち235度と294度の間のロール区間)での変位を示す。
【0062】
図6および図7に示すように、スパイラル鋼管表面の変位(変位計の測定値)と、押しつけ量(押さえ量)との関係は、ほぼ直線状の比例関係となっている。したがって、グラフの各点を繋ぐ直線の傾きから感度係数aを求めることができる。
図6では、180度の押さえロールから100mm離れた位置の感度係数は0.6647となり、200mm離れた位置の感度係数は、1.5314となる。
また、235度の押さえロールから100mm離れた位置では感度係数aが0.8661となり、200mm離れた位置では感度係数aが1.9928となる。
なお、感度係数が高いほど、高感度で測定されたことになり、ロール区間の中央に近い方、ここでは押さえロール9から遠い位置で測定した方が感度が高いことになる。
【0063】
同様のシミュレーションを、スパイラル鋼管10の外径が600mmで、厚さが18mmの場合と、外径が800mmで、厚さが15mmの場合と、外径が1000mmで、厚さが19mmの場合と、外径が1500mmで、厚さが12mmの場合と、外径が2000mmで、厚さが20mmの場合とで行った。押さえロールの角度はそれぞれの径で異なっており、後述する図8〜12に記入した通りである。
【0064】
また、変位は、0度の押さえロールからプラス角度方向のロール区間(0度と66度の間のロール区間)と、180度の押さえロールからマイナス角度方向のロール区間(すなわち120度と180度の間のロール区間)における、押さえロールから100mm、150mm、200mmでの変位を計算した。
【0065】
それぞれのスパイラル鋼管10の外径毎の結果を図8から図12に示す。
図8はスパイラル鋼管の外径が600mmで、厚さが18mmの場合、図9は外径が800mmで、厚さが15mmの場合、図10は外径が1000mmで、厚さが19mmの場合、図11は外径が1500mmで、厚さが12mmの場合、図12は外径が2000mmで、厚さが20mmの場合である。
【0066】
また、図8から図12において、(a)は各押さえ量におけるスパイラル鋼管の全周での変位の状況を示し、(b)は0度の押さえロールから100mm、150mm、200mmでの変位を示し、(c)は180度の押さえロールから100mm、150mm、200mmでの変位を示している。
【0067】
スパイラル鋼管10の外径が小さい場合、例えば、外径が600mmの場合に、押し付け量と変位量との関係において、図8(b)、(c)に示すように、グラフの各点が少し直線からずれる傾向があるが、外径が大きければ極めて高い直線性を示すものとなっている。外径が小さい場合(例えば外径が600mm以下)でも必要な精度で、周長の変化を求めることが可能であり、外径が大きければ(例えば、外径が800mm以上)ならば、十分に高い精度で周長の変化を求めることが可能である。
また、ロール区間の中央に近い位置で測定した方が感度が高いことは、先の例と同様であり、鋼管径が600mmの場合では、押さえロールから150mmの位置と200mmの位置とでは感度係数があまり変わらないか、150mmの方が感度が高い場合もある。
【0068】
また、感度係数は、スパイラル鋼管10の材質や厚さ(肉厚)によっても影響を受ける。これは同じ押さえ量でも鋼板表面の変位が異なるためである。
さらに、感度係数aをスパイラル鋼管10の肉厚に関係なく外径で整理した結果を図13および14のグラフに示す。図13は、180度の押さえロールからマイナス角度方向に200mmの位置、図14は235度の押さえロールからプラス角度方向に200mmの位置における結果である。感度係数aは、スパイラル鋼管の外径が1000mm程度以上となっていれば、前述したように肉厚による影響が小さく、また鋼管径と直線に近い関係性を示す。そこで、従来製造したことのない鋼管径および肉厚のスパイラル鋼管10を製造する場合でも、この直線を示す式から感度係数aを求めることが可能である。
【0069】
なお、実際のスパイラル鋼管10の製造においては、シミュレーションの結果から求められた感度係数をスパイラル鋼管10の実測値等の操業実績で適宜補正することが好ましい。また、実測値から感度係数aを求めるものとしてもよい。
【0070】
さらに、実際のスパイラル鋼管10の製造では、間隔の広い複数(例えば2〜3か所)のロール区間で変位を測定し、その結果を平均する等の統計処理を行ってもよい。また、設備配置等の事情により最も間隔の広いロール区間での変位測定が困難な場合もありえる(例えば、鋼管の下側にあたるロール区間では床面とのスペースが取りにくくこのロール区間での変位測定が難しいことも考えられる。)。このような場合には、測定可能なロール区間のうち最も間隔の広いロール区間で測定すればよい。
【0071】
2.周長測定装置
続いて、上述の周長測定方法を実現するためのこの例の周長測定装置を説明する。図16等に示すように、本発明の周長測定装置は、ロール区間の複数の押さえロール9のうち少なくとも一つの押さえロール9の保持部11に、当該保持部11から前記スパイラル鋼管10の略周方向に沿って延びる腕部(変位計保持架台)12が設けられ、当該腕部12には、当該腕部12が設けられた保持部11で保持される押さえロール9とこれと隣り合う押さえロール9で形成されるロール区間内でかつ押さえロール9から前記スパイラル鋼管10の周方向に沿って所定距離以上となる位置のスパイラル鋼管10表面の変位を測定する変位計13が設けられている。
【0072】
図16は、2つの押さえロール9の保持部11にそれぞれ腕部12および変位計13(以下、「変位測定手段」とよぶことがある)を取り付けた例である。たとえば、スパイラル鋼管10製造の装置仕様や製造品種(鋼管径、肉厚等)から、仮に鋼管径が変動しても測定可能な間隔の広いロール区間が図18の2か所のいずれかまたはその両方であることが予めわかっている場合は、2か所にその2か所が測定可能になるようにすればよい。もちろん、2か所に限られるものではなく、例えば全ロールの区間で測定可能に変位測定手段を設けておき、鋼管径によって各ロール区間の間隔の大小関係が変動するのに応じて、適切な(間隔の広い)ロール区間を1または複数選択してその区間で測定することができるようにしてもよい。
【0073】
図2は、変位測定手段の詳細な例を示すものである。押さえロール9は、保持部11によりスパイラル鋼管10の外周側に支持されている。そして、保持部11には、押さえロール9の前端部および後端部に設けられる押さえロール9の軸受を支持する押さえロール軸受部材が含まれている。この例では、押さえロール9の前端部側の保持部11から、スパイラル鋼管10の周方向に沿って腕部12としての変位計保持架台12が延出して設けられている。なお、押さえロール10の後端部側の保持部11に変位計保持架台12を設けてもよい。
【0074】
変位計保持架台12は、基端部が保持部11に固定された腕状の部材であり、円弧状に曲がった状態に形成されている。また、変位計保持架台12は、基本的にスパイラル鋼管10の中心を中心とする円弧状に形成されている。
なお、変位計保持架台12の曲率半径は、例えば、スパイラル鋼管10の製造装置で製造可能な最も長い径のスパイラル鋼管10の半径と同程度としてもよいし、それよりも短いものとしてもよい。
【0075】
また、変位計保持架台12には、変位計13が取り付けられ、隣り合う押さえロールとで形成されるロール区間でのスパイラル鋼管の表面の変位を測定する。図2では、変位計13は変位計保持架台12の長さ方向にそって移動自在に取り付けられている。すなわち、変位計13は、スパイラル鋼管10の外周側で、スパイラル鋼管10の周方向に沿って移動自在に設けられている。変位計保持架台12に対する変位計13の取り付け構造は、例えば、変位計保持架台12に設けられたガイドレールに、変位計13に設けられた嵌合部がガイドレールに移動自在に嵌合した状態となっている。また、ガイドレールは、スパイラル鋼管の中心を中心とする円弧状に形成されている。
【0076】
また、変位計13の移動範囲は、例えば、押さえロール9からの距離が100mm以上の位置にまで移動可能であるのがよい。また、ロール区間の間隔の変動に応じてそのほぼ中央位置で測定できるのが精度上は好ましい。しかし、実際には、腕部12を長くしすぎてしまうと、スパイラル鋼管10の鋼管径が小さい場合に腕部12が押さえロール9やその保持部材に干渉する可能性が高くなってしまう。実用上は、押さえロール9から変位計13までの距離は300mm以下程度とし腕部12もそれに対応する長さであるのが好ましいと考えられる。
【0077】
また、変位計13は、スパイラル鋼管10表面までの距離を測定するとともに、距離の変化を計測するものである。変位計13としては、レーザ変位計(レーザ距離計)を用いることが好ましい。レーザ変位計としては、一般的なレーザを光源とした三角測距の原理を使った変位計、位相差方式、パルス方式等を用いることができ、その他の方式のものを用いることもできる。変位計13は、スパイラル鋼管10表面までの距離を測定するとともに、距離の変化を計測するものである。変位計13のレーザ照射の向きは、例えば、スパイラル鋼管10の中心を向いていることが好ましいが、スパイラル鋼管10表面の変位が計測可能ならば、必ずしも正確に前記中心を向いている必要はない。変位計13としては、レーザ変位計以外にも、LEDを光源とした三角測定距方式のもの、超音波距離計、などが適用できる。接触式のマグネスケール等やエンコーダー式のものも適用可能であるが、鋼板先端の衝突等の可能性があるので、プロテクター等の対策を施す事が必要となる。
【0078】
図1は、前記例の変位測定装置の変形例を示すもので、前記例の変位測定装置との違いは、変位計保持架台12が円弧状に湾曲しておらず直線状とされていることと、変位計13が変位計保持架台12に位置を固定されていることと、1つの変位計保持架台12に複数の変位計13が配置されていることであり、それ以外の点は、前記例の周長測定装置と同様となっている。
【0079】
変位計保持架台12は、例えば、当該変位計保持架台12が取り付けられる保持部11に支持された押さえロール9とスパイラル鋼管10との接触位置におけるスパイラル鋼管10の接線方向と平行となる方向に沿って長い直線状の部材(柱状や筒状などの部材)となっている。
そして、当該変位計保持架台12の長さ方向に沿ってこの例では2台の変位計13が互いに間隔をあけて並んで配置されている。すなわち、押さえロール9に近い側の変位計13と、当該変位計13より押さえロール9から遠い変位計13とが設けられている。
【0080】
当該変位計13は、押さえロール9に近い側が小径のスパイラル鋼管10の製造時の周長測定に用いられ、押さえロール9に遠い側が小径の前記スパイラル鋼管10より径が大きなスパイラル鋼管10の製造時の周長測定に用いられる。
また、レーザの照射角度は、スパイラル鋼管10の中心を向くことが好ましいが、変位計13が変位計保持架台12に固定となっているので、製造すべきスパイラル鋼管10の径の変更により、スパイラル鋼管10の中心に対してずれた位置となる。
【0081】
ただし、小径用の押さえロール9に近い側となる変位計13の角度(ここでは、変位計保持架台12の長さ方向に直交する方向に対して押さえロール側に傾斜する角度)が、押さえロール9に遠い側となる変位計13の角度より小さな角度となっており、小径用の変位計13と大径用の変位計13とで角度を変えることで、よりスパイラル鋼管10の中心に近い側にレーザの照射方向を合わせるようになっている。
また、1つの変位計保持架台12に3つ以上の変位計13を押さえロール9に近い側から遠い側に向かって並べて配置するものとしてもよい、この場合も、押さえロール9から遠くなるにしたがって、より径の大きなスパイラル鋼管10用の変位計13となる。
【0082】
変位測定手段が以上のような構成である、すなわち、変位計13が押さえロール9の保持部11に設けられた腕部としての変位計保持架台12に設けられているので、製造すべきスパイラル鋼管10の外径(周長)を変更する際に押さえロール9とともに変位計13の位置が移動することになり、変位計13の移動のために大掛かりな装置を必要とせず、周長測定装置のコンパクト化と低コスト化を図ることができる。
【0083】
言い換えれば、周長測定装置を押さえロール9が配置されている部分に配置可能なほどコンパクトなものとすることができる。
また、押さえロール9どうしの間隔が広い部分、すなわち、押さえロール9どうしの間隔の平均より間隔が広い押さえロール9どうしの間で、かつ、押さえロール9から所定距離以上離れた位置でスパイラル鋼管10表面の変位を測定した場合に、スパイラル鋼管10の外径の変化量よりスパイラル鋼管10表面の変位量が大きくなり、高感度での測定が可能となる。
【0084】
また、周長測定装置には、前記変位測定手段とは、別に、スパイラル鋼管10の左右に配置されて、スパイラル鋼管10の水平方向および/または垂直方向に沿った径の変化を測定するための変位計が設けられているのが好ましい。
これにより、スパイラル鋼管10の水平方向および/または垂直方向に沿った径が測定可能となる。なお、水平方向の変位計は、製造装置で製造される最大の外径のスパイラル鋼管10より外側に配置される。また、スパイラル鋼管10の軸方向に沿った位置としては、上述の押さえロール9の配置される範囲内となる。また、変位計は、上下に移動自在とされ、製造されるスパイラル鋼管10の中心と同じ高さ位置に配置される。
【0085】
また、垂直方向の変位計は、スパイラル鋼管10の真上となる位置に設けられ、製造装置で製造される最も外径の大きなスパイラル鋼管10より上側に前記変位計が配置される。また、変位計はスパイラル鋼管10の軸方向に直交する左右方向に移動自在となっていることが好ましく、スパイラル鋼管10の左右位置がずれても、スパイラル鋼管10の垂直方向に沿った径が計測可能となっていることが好ましい。なお、垂直方向の径の計測に際しては、スパイラル鋼管10の下端側の高さ位置が固定となるので、1つの変位計で測定可能となる。
【0086】
水平方向および/または垂直方向の変位を測定する手段を備えることで、上述のようにスパイラル鋼管10の外径が押さえロール9に接触する円の径より仮に小さくなった場合にも、スパイラル鋼管10の水平方向の外径の変位もしくは垂直方向の外径の変位の測定結果に基づいて周知の楕円近似法で周長を算出することが可能になる。
【符号の説明】
【0087】
1 鋼板
9 押さえロール
10 スパイラル鋼管
11 保持部
12 変位計保持架台(腕部)
13 変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に成形された鋼板の側縁部の溶接を外周側から周方向に並んで配置された複数の押さえロールで保持しながら行ってスパイラル鋼管を製造する際に当該スパイラル鋼管の周長を溶接直後となる位置で測定するスパイラル鋼管の周長測定方法であって、
前記スパイラル鋼管の隣り合う前記押さえロール同士の間の部分となる複数のロール区間のうち、隣り合う前記押さえロール同士の間隔が全ロール区間における前記間隔の平均値以上となる少なくとも1つのロール区間を選択し、当該ロール区間内で前記スパイラル鋼管の周方向に沿った押さえロールからの距離が所定長さ以上の位置で前記スパイラル鋼管表面の変位を測定し、
測定された前記変位に基づいてスパイラル鋼管の周長を算出することを特徴とするスパイラル鋼管の周長測定方法。
【請求項2】
スパイラル鋼管の鉛直方向の変位もしくは水平方向の変位を測定し、当該測定された変位に基づく補正を行って周長を算出することを特徴とする請求項1に記載のスパイラル鋼管の周長測定方法。
【請求項3】
管状に成形された鋼板の側縁部の溶接を外周側から周方向に並んで配置された複数の押さえロールで保持しながら行ってスパイラル鋼管を製造する際に当該スパイラル鋼管の周長を溶接直後となる位置で測定するスパイラル鋼管の周長測定装置であって、
複数の前記押さえロールのうち一つまたは複数の押さえロールの保持部に、当該保持部から前記スパイラル鋼管の略周方向に沿って延びる腕部が設けられ、当該腕部には、当該腕部が設けられた保持部で保持される押さえロールとこれと隣接する押さえロールとの間の部分となるロール区間内でかつこれら押さえロールから前記スパイラル鋼管の周方向に沿って所定距離以上となる位置のスパイラル鋼管表面の変位を測定する変位計が設けられていることを特徴とするスパイラル鋼管の周長測定装置。
【請求項4】
前記変位計が前記腕部の長さ方向に沿って移動自在に当該腕部に取り付けられているかまたは当該腕部の長さ方向に沿って複数個の変位計が取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載のスパイラル鋼管の周長測定装置。
【請求項5】
前記腕部が設けられる保持部に保持された押さえロールから、当該スパイラル鋼管の周方向に沿って100mm〜300mm離れた位置に変位計が配置されていることを特徴とする請求項3または4に記載のスパイラル鋼管の周長測定装置。
【請求項6】
前記変位計がレーザ変位計であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のスパイラル鋼管の周長測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate