説明

スパッタリング用チタンターゲット

【課題】ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させ、高品質のスパッタリング用チタンターゲットを提供する。
【解決手段】高純度チタンターゲットであって、添加成分として、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppm含有し、添加成分とガス成分を除き、ターゲットの純度が99.99質量%以上であることを特徴とするスパッタリング用チタンターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させることのできる高品質のスパッタリング用チタンターゲットに関する。
なお、本明細書中に記載する不純物濃度については、全て質量ppm(massppm)で表示する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体の飛躍的な進歩に端を発して様々な電子機器が生まれ、さらにその性能の向上と新しい機器の開発が日々刻々なされている。
このような中で、電子、デバイス機器がより微小化し、かつ集積度が高まる方向にある。これら多くの製造工程の中で多数の薄膜が形成されるが、チタンもその特異な金属的性質からチタン及びその合金膜、チタンシリサイド膜、あるいは窒化チタン膜などとして、多くの電子機器薄膜の形成に利用されている。
【0003】
一般に上記のチタン及びその合金膜、チタンシリサイド膜、あるいは窒化チタン膜等はスパッタリングや真空蒸着などの物理的蒸着法により形成することができる。この中で最も広範囲に使用されているスパッタリング法について説明する。
【0004】
このスパッタリング法は陰極に設置したターゲットに、Ar+などの正イオンを物理的に衝突させてターゲットを構成する金属原子をその衝突エネルギーで放出させる手法である。窒化物を形成するにはターゲットとしてチタンまたはその合金(TiAl合金など)を使用し、アルゴンガスと窒素の混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成することができる。
【0005】
最近では、生産効率を上げるために、高速スパッタリング(ハイパワースパッタリング)の要請があり、この場合、ターゲットに亀裂が入ったり、割れたりすることがあり、これが安定したスパッタリングを妨げる要因となる問題があった。先行技術文献としては、次の特許文献1及び特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO01/038598号公報
【特許文献2】特表2001−509548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の諸問題点の解決、ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させ、高品質のスパッタリング用チタンターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1)高純度チタンターゲットであって、添加成分として、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppm含有し、添加成分とガス成分を除き、ターゲットの純度が99.99質量%以上であることを特徴とするスパッタリング用チタンターゲットを提供する。
【0009】
本発明は、さらに2)添加成分とガス成分を除く純度が99.995質量%以上であることを特徴とする前記1)記載のスパッタリング用チタンターゲット、3)添加成分とガス成分を除く純度が99.999質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング用チタンターゲット、4)ターゲットの平均結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする前記1)〜3)のいずれか一項に記載のスパッタリング用チタンターゲット、5)スパッタリングを行う前のターゲットの平均結晶粒径が30μm以下であり、スパッタリングを開始した後の平均結晶粒径が70μm以下であることを特徴とする前記1)〜4)のいずれか一項に記載のスパッタリング用チタンターゲット、6)チタンターゲットを500°Cに加熱した場合のターゲットの0.2%耐力が36N/mm以上であることを特徴とする前記1)〜5)のいずれか一項に記載のスパッタリング用チタンターゲット、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
スパッタリング用チタンターゲットは、ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させ、高品質の成膜ができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の、スパッタリング用チタンターゲットは、純度が99.99質量%以上の高純度チタンターゲットである。さらに、好ましくは99.995質量%以上である。上記チタンターゲットの純度は、添加成分とガス成分を除くことは言うまでもない。
一般に、ある程度の酸素、窒素、水素等のガス成分は他の不純物元素に比べて多く混入する。これらのガス成分の混入量は少ない方が望ましいが、通常混入する程度の量は、本願発明の目的を達成するためには、特に有害とならない。
【0012】
本願発明において、添加成分として、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppm含有するのが大きな特徴の一つである。これらの元素の添加により、ターゲットの製造の段階で、ターゲットの平均結晶粒径を30μm以下とすることができる。
【0013】
また、スパッタリング時にターゲットが700°C程度に加熱されるが、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素の添加は、加熱による結晶粒径の粗大化も抑制できる。すなわち、このような高温の熱を受けても、平均結晶粒径が70μm以下を維持すること、すなわちターゲットのスパッタリングを開始した後に、このような加熱を受けても、ターゲットの平均結晶粒径を70μm以下に維持することが可能である。
【0014】
ターゲットの結晶粒径はスパッタリング開始後に、熱影響を受けやや粗大化する傾向があるが、実質的には殆ど熱影響を受けないと言える。
【0015】
スパッタリング時の熱は、結晶面配向にも影響を与える。しかし、上記のAl、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素の添加は、この結晶面配向の変化を効果的に抑制できる効果を有する。結晶面配向の変化は、成膜の速度及び膜の品質に影響を与えるので好ましくないので、結晶面配向の変化を抑制できることは、成膜の品質を一定に維持できる効果を有する。
【0016】
また、後述する実施例に示すように、ターゲットの強度が高く、かつ熱影響を受けても高い強度を有する。これによって、ターゲットの亀裂や割れの発生を抑制できる大きな効果を得ることができる。
【0017】
上記添加元素については、合計量で3〜100質量ppm含有するのが良いが、個々に単独で添加する場合には、好適な範囲がある。それを列挙すると次のようになる。しかし、この単独添加に制限されるものでなく、使用する材料あるいは目的に応じて、単独添加、複数添加、いずれも推奨されるものである。
Al:1ppm〜100ppm
Si:0.3ppm〜100ppm
S:1ppm〜100ppm
Cl:0.2ppm〜100ppm
Cr:0.5ppm〜100ppm
Fe:10ppm〜100ppm
Ni:1ppm〜100ppm
As:1ppm〜100ppm
Zr:0.2ppm〜100ppm
Sn:1ppm〜100ppm
Sb:1ppm〜100ppm
B:0.5ppm〜100ppm
La:0.1ppm〜100ppm
【0018】
ターゲットの強度が高く、かつ熱影響を受けても高い強度を示すということは、ターゲットの亀裂や割れの発生を抑制できる効果を有する。しかも、この現象は、スパッタリング開始前のターゲットだけでなく、スパッタリング時に700°Cという高温の熱影響を受けても、ターゲットの亀裂や割れの発生を抑制できる効果を有する。
また、結晶配向が安定であるため、安定したスパッタリング特性を得ることができ、成膜の均一性に効果がある。
【0019】
さらに、ターゲットの強度が高く、かつ熱影響を受けても高い強度を示すため、スパッタリング時の反り又はスパッタリングパワーのON/OFFによる熱応力、熱疲労に対して、ターゲット表面にかかる歪を小さくすることができ、ターゲットの割れを効果的に防止できる効果を有する。
【0020】
以上の効果は、チタンターゲット自体が高純度であり、かついずれも添加成分として、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppmを含有することにより、達成できるものであり、これらの数値範囲は、本願発明の有効性を実現できる範囲を示すものである。
下限値未満では本願発明の目的を達成できず、また上限値を超えるものは高純度ターゲットとしての特性を損ない不純物と化すので、上記の範囲とする。
【0021】
高純度チタンを製造するには、既に知られた溶融塩電解法を使用できる。雰囲気は不活性雰囲気とするのが望ましい。電解時には、初期カソード電流密度を低電流密度である0.6A/cm以下にして行うのが望ましい。さらに、電解温度を600〜800°Cとするのが良い。
【0022】
このようにして得た電析Tiと上記Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を所定量混合してEB(電子ビーム)溶解し、これを冷却凝固させてインゴットを作製し、800〜950°Cで熱間鍛造又は熱間押出し等の熱間塑性加工を施してビレットを作製する。これらの加工により、インゴットの不均一かつ粗大化した鋳造組織を破壊し均一微細化することができる。
【0023】
このようにして得たビレットに対して、冷間鍛造又は冷間押出し等の冷間塑性変形を繰返し実行し、高歪をビレットに付与することにより、最終的にターゲットの結晶組織を30μm以下の均一微細組織にする。
次に、このビレットを切断し、ターゲット体積に相当するプリフォームを作製する。このプリフォームにさらに冷間鍛造又は冷間押出し等の冷間塑性加工を行って高歪を付与しかつ円板形状等のターゲットに加工する。
【0024】
さらに、このように高い歪を蓄えた加工組織をもつターゲットを、流動床炉等を用いて急速昇温し、400〜500°Cで短時間の熱処理を行う。これによって、30μm以下の微細な再結晶組織をもつターゲットを得ることができる。
そして、このようにして得られた本願発明のチタンターゲットは、500°Cに加熱した場合の0.2%耐力は36N/mm以上となり、高温での0.2%耐力が高く、ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れを抑制できる効果がある。
【0025】
これらの製造工程は、本願発明の高純度チタンターゲットを得るための方法の一例を示すものであって、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppm含有し、残部がチタン及び不可避的不純物であり、添加成分とガス成分を除き、ターゲットの純度が99.99質量%以上であるスパッタリング用チタンターゲットを得ることができるものであれば、上記製造工程に特に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで1例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲に含まれる実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0027】
(実施例1)
純度99.995質量%のTiに、本発明において選択できる添加元素を次の通り、Al:4.3質量ppm(以下、質量を省略)、Si:0.5ppm、S:0.1ppm、Cl:0.1ppm、Cr:0.9ppm、Fe:15ppm、Ni:15ppm、As:8.6ppm、Zr:0.2ppm、Sn:4.8ppm、Sb:1.3ppm、B:1.1ppm、La:0.1ppm添加し、合計で52質量ppm、添加した。添加成分の一覧表を、文末の表10に示す。
【0028】
(実施例2)
純度99.995質量%のTiに、本発明において選択できる添加元素を次の通り、Al:4.7質量ppm(以下、質量を省略)、Si:0.4ppm、S:0.1ppm、Cl:0.1ppm、Cr:1.4ppm、Fe:13ppm、Ni:10ppm、As:6.8ppm、Zr:0.2ppm、Sn:4ppm、Sb:1.1ppm、B:1.1ppm、La:0.1ppm添加し、合計で43質量ppm添加した。添加成分の一覧表を、文末の表10に示す。
【0029】
(実施例3)
純度99.995質量%のTiに、本発明において選択できる添加元素を次の通り、Al:1.6質量ppm(以下、質量を省略)、Si:0.2ppm、S:4.3ppm、Cl:0ppm、Cr:0.3ppm、Fe:0.6ppm、Ni:0ppm、As:0ppm、Zr:0.1ppm、Sn:0.1ppm、Sb:0ppm、B:0ppm、La:0ppm添加し、合計で7.2質量ppm、添加した。添加成分の一覧表を、文末の表10に示す。
【0030】
(比較例1)
純度99.995質量%のTiに、添加元素を次の通り、Al:0.7質量ppm(以下、質量を省略)、Si:0.3ppm、S:0ppm、Cl:0.1ppm、Cr:0.1ppm、Fe:0.1ppm、Ni:0.9ppm、As:0ppm、Zr:0.1ppm、Sn:0.1ppm、Sb:0.1ppm、B:0ppm、La:0ppm添加し、合計で2.5質量ppm添加した。
【0031】
なお、実施例と対比が容易になるように、添加しない元素についても、0ppmとして列挙した。以上に示すように、比較例1は本願発明の添加元素の下限値3質量ppmの条件を満たしていない。添加成分の一覧表を、文末の表10に示す。
【0032】
上記実施例1−3及び比較例1に示す元素を添加したTiを、電子ビーム溶解し、上記段落[0021]〜[0022]の製造条件を適宜使用して、Tiインゴットを作成し、これをターゲット形状に加工した。これを550°Cと700°Cに加熱して、結晶粒の成長を見た。ターゲット作製時の結晶粒径及び加熱後の結晶粒径の結果を表1に示す。
実施例1−3及び比較例1については、ターゲットに作製した段階では、それぞれ5μm、5μm、5μm、8μmであり、30μm以下の微細結晶を有していた。
【0033】
なお、本発明のTiインゴットを製造する段階で、トップとボトム部で、成分の偏析があるので、実施例1について、その成分分析を実施した。その結果を表2及び表3に示す。表2はトップ部、表3はボトム部である。
この場合、いずれも添加成分との相違があるが、トップ部及びボトム部は、いずれも本願発明の添加成分の範囲にあった。トップ部及びボトム部に大きな隔たりが生じた場合には、インゴットから取得する箇所を適宜選択して(不適合な範囲を除去して)使用できることは言うまでもない。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
(実施例1−3及び比較例1の平均結晶粒径の推移)
表1に示すように、実施例1−3については、550°Cに加熱した段階で、若干粗大化したが殆ど変化がなかった。700°Cに加熱した場合でも、最大45μmに粗大化はしたが、70μmを超えるような粗大化は見られなかった。
これに対して、比較例1については、ターゲット作製時には、30μm以下の微細結晶を有していたが、550°Cに加熱した段階で、32μmに粗大化した。さらに700°Cに加熱した場合には、195μmに粗大化した。
【0038】
次に、各実施例1−3及び比較例1について、ターゲットに現れる結晶の配向について調べた。その結果を、表4及び表5に示す。表4はBasalの面配向率であり、表5は(002)面の配向率を示す。
なお、Basalの面配向率については、表6に示す式により計算したものであり、(002)配向率については、表7に示す式により計算したものである。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
表4に示すように、本願実施例1−3のBasalの面配向率については、ターゲット作製時の配向率が72−74%の範囲にあり、550°C加熱において70−75%の範囲となり、700°C加熱において74−77%の範囲となった。このように大きく変動することはなかった。
【0044】
これに対して、比較例1については、ターゲット作製時に61%の範囲にあるにもかかわらず、550°C加熱において72%となり、700°C加熱において75%と大きく増加し、Basalの面配向率が増加した。
以上から明らかなように、比較例に比べ、実施例についてはBasalの面配向率の変化が少ないことが確認できる。
【0045】
表5に示すように、本願実施例1−3の(002)の面配向率については、ターゲット作製時の配向率が1−2%で、550°C加熱において3−4%の範囲にあり、700°C加熱において1−2%の範囲となり、大きく変動することはなかった。
【0046】
これに対して、比較例1については、ターゲット作製時に7%の範囲にあるにもかかわらず、550°C加熱において27%となり、700°C加熱において63%と、(002)の面配向率が大きく増加した。
以上から明らかなように、比較例に比べ、実施例については(002)面配向率の変化が少ないことが確認できた。
【0047】
次に、上記実施例1−3及び比較例1の各種Tiターゲットについて、本願発明のターゲット作成時の平均結晶粒径が5μmにある場合の、0.2%耐力、及び比較例のターゲット作成時の平均結晶粒径が8μmである場合の、0.2%耐力を表8に示す。また、上記実施例1−3及び比較例1の各種Tiターゲットについて、500°Cに加熱した場合の0.2%耐力を表9に示す。
【0048】
【表8】

【0049】
【表9】

【0050】
【表10】

【0051】
上記表8に示すように、本願の実施例1−3では、0.2%耐力は220−285N/mmと高いが、添加元素で大きく変動することはない。また、比較例1においては、134N/mmと少し低い。
【0052】
以上から、本願発明のように、添加成分として、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppmを含有し、添加成分とガス成分を除き、ターゲットの純度が99.99質量%以上であるスパッタリング用チタンターゲットは、亀裂や割れの発生がないという大きな効果を得ることができる。
【0053】
上記実施例1、実施例2及び実施例3で作製したチタンから試験片を作製し、500°Cに加熱し、引張り試験を行い、その時の0.2%耐力を測定した。試験片は、中心、1/2R、外周の3点をサンプリングした場合である。
高温引張り試験の条件は、次の通りである。
試験片形状:JIS形状(G 0567II−6)
試験方法:JIS G 0567に準拠
試験機:100kN高温引張り試験機
温度:500°C
標点距離:30mm
試験速度:変位制御0.3%/min、耐力以降7.5%/min
昇温速度:45°C/min
500°Cでの保持時間:15分
測温方法:試験体中央熱電対括り付け
【0054】
この結果、0.2%耐力の平均値は、実施例1では、49N/mm、実施例2では、55N/mm、実施例3では、36N/mmとなり、いずれも0.2%耐力が36N/mm以上であるという条件を満たしていた。このように、高温での0.2%耐力が高いので、ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても、亀裂や割れを効果的に抑制できた。
【0055】
なお、ハイパワースパッタリングにおいて700°Cまでの加熱が想定されるが、その温度に到達するのはプラズマにさらされるターゲット最表層だけである。引張り試験においてはサンプル全体を700°Cに加熱することは実際のターゲット使用条件に対し過酷な条件であり、500°Cでの試験が実際に近いと言える。
【0056】
これに対して、比較例1について、上記と同様に作製したチタンから試験片を作製し、500°Cに加熱し、引張り試験を行い、その時の0.2%耐力を測定した。同様に、試験片は、中心、1/2R、外周の3点をサンプリングした場合である。
【0057】
この結果、0.2%耐力の平均値は、比較例1では、18N/mmとなり、0.2%耐力が36N/mm以上であるという本発明の条件を達成することができなかった。そして、ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時には、亀裂や割れの抑制は、実施例に比較して劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させることのできる高品質のスパッタリング用チタンターゲットを提供することができるので、電子機器等の薄膜の形成に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度チタンターゲットであって、添加成分として、Al、Si、S、Cl、Cr、Fe、Ni、As、Zr、Sn、Sb、B、Laから選択される1種以上の元素を合計3〜100質量ppm含有し、添加成分とガス成分を除き、ターゲットの純度が99.99質量%以上であることを特徴とするスパッタリング用チタンターゲット。
【請求項2】
添加成分とガス成分を除く純度が99.995質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング用チタンターゲット。
【請求項3】
添加成分とガス成分を除く純度が99.999質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング用チタンターゲット。
【請求項4】
ターゲットの平均結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリング用チタンターゲット。
【請求項5】
スパッタリングを行う前のターゲットの平均結晶粒径が30μm以下であり、スパッタリングを開始した後の平均結晶粒径が70μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリング用チタンターゲット。
【請求項6】
チタンターゲットを500°Cに加熱した場合のターゲットの0.2%耐力が36N/mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリング用チタンターゲット。