説明

スパークプラグ用絶縁体の検査方法

【課題】コストの増大及び生産性の低下を防止できるとともに、スパークプラグ用絶縁体の検査精度の向上を図る。
【解決手段】検査装置1は、第1検査電極2、第2検査電極3を備える。絶縁碍子11の検査は、基準電圧決定行程、検査領域決定行程、検査電圧決定行程、電流検出行程を経てなされる。基準電圧決定行程では、検査基準電圧VLが決定される。検査領域決定行程では、検査基準電圧VLを印加された第2検査電極3を絶縁碍子11の検査を行うべき箇所が全て含まれるよう移動させ、フラッシュオーバーが発生しない領域が検査領域として決定される。検査電圧決定行程では、検査領域内に第2検査電極3が配置され、フラッシュオーバーが発生しない範囲で最大の検査電圧VCが決定され、電流検出行程で、第2検査電極3に検査電圧VCが印加され、両検査電極2,3間の電流が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに用いられる絶縁体の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグは、軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔に挿通される中心電極と、前記絶縁体の外側に設けられる主体金具と、当該主体金具の先端面に設けられる接地電極とを備えるものである。また、中心電極に高電圧が印加されることで、中心電極先端と接地電極との間で火花放電が生じる。ここで、絶縁体に微小な孔等の欠陥が存在していると、中心電極と主体金具との間で当該欠陥を通って電流のリーク(貫通放電)が発生してしまい、正常な火花放電が行われなくなってしまうおそれがある。このため、絶縁体に欠陥が存在しているか否かの検査を行う必要がある。
【0003】
従来の絶縁体の検査方法としては、例えば、絶縁体の軸孔に棒形状(針形状)の第1電極を挿入する一方で、絶縁体の外側に第2電極を配置し、当該第2電極に高電圧を印加することで、第1電極と第2電極との間で電位差を生じさせるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該検査においては、絶縁体の軸孔の開口部を通過して、第1電極と第2電極との間で火花放電(フラッシュオーバー)が発生した場合には、絶縁体に欠陥が存在していないものと判定される。一方で、絶縁体の軸孔の開口部を通過することなく、第1電極と第2電極との間で火花放電が発生した場合には、絶縁体の欠陥を通過して貫通放電が発生したものであるから、絶縁体に欠陥が存在しているものと判定される。
【0004】
ところで、検査精度の向上を図るためには、両電極間の電位差を増大させることが効果的である。これにより、絶縁体に欠陥がある場合において、当該欠陥を通過しての貫通放電が起こりやすくなるからである。そこで、前述の検査方法を採用した上で、第2電極により高い電圧を印加することによって、両電極間の電位差を増大させることが考えられる。ところが、印加電圧を増大させたとしても、所定の電圧値に到達した時点で、前記軸孔の開口部を通過するフラッシュオーバーが発生してしまう。このため、当該所定電圧値以上の電圧を印加することは無意味であって、単に高電圧を印加することだけでは検査精度の向上を図る上で限界がある。
【0005】
これに対し、密封容器内において高圧条件下で検査を行うことにより、前記軸孔を通過するフラッシュオーバーの発生に要する電位差を増大させることが考えられている。これにより、前記軸孔を通過するフラッシュオーバーの発生を抑制しつつ、両電極間の電位差を増大させることができ、その結果、検査精度の向上が図られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2550790号公報
【特許文献2】特開2004−108817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、当該技術を採用した場合には、高圧のエアーを供給するための装置や、エアーを封止するための耐圧容器等が必要となってくる。従って、検査装置に関するコストが増大してしまうおそれがある。また、検査前の絶縁体と検査後の絶縁体とを入れ替える際には、容器内を一旦減圧した上で絶縁体の入れ替えを行い、容器密封後、再度加圧するという非常に手間のかかる行程が必要となってしまう。このため、検査時間の増大を招いてしまい、ひいては生産性が低下してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、コストの増大及び生産性の低下を防止できるとともに、検査精度の向上を図ることができるスパークプラグ用絶縁体の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0009】
構成1.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、第1検査電極及び第2検査電極間に軸孔を有する検査対象物を配置し、当該両検査電極間に電位差を発生させて前記検査対象物の欠陥の有無を判別するスパークプラグ用絶縁体の検査方法であって、
検査空間において前記検査対象物を挟むことが可能な隙間だけ離間させて前記両検査電極を配置したときに、当該両検査電極間を短絡し得る電圧以上の検査基準電圧VLを決定する基準電圧決定行程と、
前記検査対象物と同一素材、同一形状、同一サイズである基準検査対象物を前記両検査電極間に配置し、前記検査基準電圧VLを印加するとともに、前記検査対象物の検査を行うべき検査箇所を全て含むよう前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記基準検査対象物に沿って移動させた場合における、フラッシュオーバーが発生しない領域を検査領域として決定する検査領域決定行程と、
前記検査空間において前記基準検査対象物を前記両検査電極間に配置するとともに、前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記検査領域のうち任意の位置に配置し、フラッシュオーバーが発生しない範囲で最大となる検査電圧VCを決定する検査電圧決定行程と、
前記検査空間において前記検査対象物を前記両検査電極間に配置するとともに、前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記検査領域のうち任意の位置に配置し、かつ当該両検査電極間に前記検査電圧VCを印加し、当該両検査電極間に流れる電流を検出する電流検出行程と
によって前記検査対象物の欠陥の有無を判別することを特徴とする。
【0010】
尚、「フラッシュオーバー」とは、検査対象物の軸孔の開口部を通って両検査電極間で発生する火花放電をいうものである(以下、同様とする)。
【0011】
上記構成1の検査方法は、基準電圧決定行程、検査領域決定行程、検査電圧決定行程、及び電流検出行程から構成される。
【0012】
基準電圧決定行程においては、検査基準電圧VLが決定される。当該検査基準電圧VLとは、両検査電極を、検査対象物を挟み込むことが可能な距離だけ離間させて配置した上で、両検査電極間において短絡が生じうる電圧以上の電圧をいうものである。例えば、5kVで両検査電極間において短絡が生じた場合には、当該5kV以上の電圧(例えば、10kV等)が検査基準電圧VLとして決定される。
【0013】
検査領域決定行程においては、基準検査対象物が両検査電極間に配置され、前記検査基準電圧VLが検査電極に印加され、さらに、第1検査電極を固定状態とした上で、検査対象物の検査を行うべき検査箇所を全て含むよう第2検査電極を前記基準検査対象物に沿って移動させた場合に、フラッシュオーバーが発生しない領域を決定する。当該フラッシュオーバーが発生しない領域が、後述する検査電圧決定行程及び電流検出行程において、第2検査電極が配置される検査領域とされる。尚、検査領域決定行程においては、検査空間に検査電極や基準検査対象物を実際に配置した上で検査領域を決定することとしてもよいし、検査空間に検査電極や基準検査対象物を実際には配置することなく、検査基準電圧VLや基準検査対象物の素材、形状、サイズ等のデータに基づいて検査領域を算出、決定することとしてもよい。
【0014】
検査電圧決定行程では、基準検査対象物が両検査電極間に配置されるとともに、第1検査電極が固定状態とされた上で、前記検査領域内の任意の位置に第2検査電極が配置され、フラッシュオーバーが発生しない範囲で最大となる検査電圧VCが決定される。ここで、当該検査電圧VCは、検査領域内の各位置によって種々異なるものとすることができる。すなわち、基準検査対象物と検査電極との位置関係において、両検査電極間で比較的フラッシュオーバーが発生しにくい位置関係にあれば、検査電圧VCを比較的高い値に決定することができる。一方で、両検査電極間で比較的フラッシュオーバーが発生しやすい位置関係にあれば、検査電圧VCを比較的低い値に決定することができる。
【0015】
電流検出行程では、検査対象物を両検査電極間に配置するとともに、第1検査電極が固定状態とされた上で、第2検査電極が前記検査領域に配置され、かつ両検査電極間に検査電圧VCが印加される。そして、両検査電極間を流れる電流が検出される。ここで、前記検査電圧VCとしては、欠陥のない検査対象物であれば、両検査電極間においてフラッシュオーバーが発生しない電圧が予め設定されている。このため、検出された電流が所定の電流値以上であれば、両検査電極間で欠陥を通っての貫通放電が発生していると考えられるため、検査対象物に欠陥が存在するものと判別される。一方で、検出された電流が所定の電流値未満であれば、検査対象物に欠陥がないものと判別される。
【0016】
すなわち、本構成1のスパークプラグ用絶縁体の検査方法では、フラッシュオーバーの発生が抑制されつつ、フラッシュオーバーが発生しない範囲内で最大の電圧である検査電圧VCが両検査電極間に印加されることによって、検査対象物の検査が行われることとなる。このため、大がかりな装置や手間のかかる作業を要することなく、微小な欠陥であっても当該欠陥を通っての貫通放電をより発生しやすくすることができる。その結果、コストの増大及び生産性の低下を防止できるとともに、検査精度の向上を図ることができる。
【0017】
構成2.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成1の前記検査領域決定行程において、前記検査空間に前記基準検査対象物を実際に前記両検査電極間に配置し、前記検査基準電圧VLを印加するとともに、前記検査対象物の検査を行うべき検査箇所の全てを含むよう前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記基準検査対象物に沿って移動させ、フラッシュオーバーが発生しない領域を検査領域として決定することを特徴とする。
【0018】
上記構成2によれば、基本的には上記構成1と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0019】
構成3.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成1又は2の前記検査電圧決定行程において、
前記両検査電極間に前記基準検査対象物を配置した上で、前記基準検査対象物に沿った前記第1検査電極と前記第2検査電極との距離のうち最も短い距離となる最短経路を求め、
当該最短経路の一端に位置する前記第1検査電極の部位Aと前記基準検査対象物との最短距離をt(mm)、
前記最短経路の他端に位置する前記第2検査電極の部位Bと前記基準検査対象物との最短距離をs(mm)、
前記第1検査電極の部位Aに対して距離tを隔てた前記基準検査対象物の部位Xから、前記第2検査電極の部位Bに対して距離sを隔てた前記基準検査対象物の部位Yまでの前記基準検査対象物の表面に沿った最短距離をL(mm)、
前記両検査電極間の最短距離をd(mm)としたとき、
次の式(1)を満たすように、前記検査電圧VC(kV)を決定することを特徴とする。
【0020】
8×(t+s)+0.4×L>VC≧2×d…(1)
上記構成3によれば、前記検査電圧VCは、前記式(1)を満たすように決定されている。ここで、式(1)の左側の〔8×(t+s)+0.4L>VC〕とは、検査電圧VCとして、両検査電極間でフラッシュオーバーが発生する電圧未満の電圧に決定されているということである。すなわち、〔8×(t+s)+0.4L〕は、第1(第2)検査電極から、検査対象物の沿面を沿って、第2(第1)検査電極へと電流が流れるために要する電圧(電位差)を意味している。
【0021】
より詳しくは、〔8×(t+s)〕によって、第1検査電極及び基準検査対象物間で空気中を絶縁破壊して電流が流れるために要する電圧(8×t)と、第2検査電極及び検査対象物間で空気中を絶縁破壊して電流が流れるために要する電圧(8×s)との和を得ることができる。すなわち、一方の検査電極から他方の検査電極へと電流が流れる経路のうち、空気中を電流が流れるために要する電圧を得ることができる。また、〔0.4×L〕によって、基準検査対象物の部位Xから部位Yまで、当該基準検査対象物を沿って電流が流れるために要する電圧を得ることができる。
【0022】
一方で、式(1)の右側の〔VC≧2×d〕を満たすことによって、検査電圧VCとして、2d以上の電圧が印加される。換言すれば、検査電圧VCを両検査電極間の最短距離dで除算した値(VC/d)、すなわち両検査電極間の平均的な電界強度が2kV/mm以上となるよう、検査電圧VCが決定されるということである。尚、フラッシュオーバーの発生を抑制しつつ、電界強度を高めるためには両検査電極間の距離をより小さなものとすることが効果的である。
【0023】
つまり、式(1)を満たすように検査電圧VCを決定することで、両検査電極間においてフラッシュオーバーの発生を抑制しつつ、両検査電極間の電界強度を比較的大きなものとすることができる。その結果、検査対象物の欠陥を一層検出しやすくなり、ひいては検査精度の一層の向上を図ることができる。
【0024】
構成4.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成1又は2の前記検査電圧決定行程において、
前記両検査電極間に前記基準検査対象物を配置した上で、前記基準検査対象物に沿った前記第1検査電極と前記第2検査電極との距離のうち最も短い距離となる最短経路を求め、
当該最短経路の一端に位置する前記第1検査電極の部位Aと前記基準検査対象物との最短距離をt(mm)、
前記最短経路の他端に位置する前記第2検査電極の部位Bと前記基準検査対象物との最短距離をs(mm)、
前記第1検査電極の部位Aに対して距離tを隔てた前記基準検査対象物の部位Xから、前記第2検査電極の部位Bに対して距離sを隔てた前記基準検査対象物の部位Yまでの前記基準検査対象物の表面に沿った最短距離をL(mm)としたとき、
前記検査電圧VC(kV)が、次の式(2)を満たすとともに、
前記検査対象物の検査対象部位表面の電界強度が、5kV/mm以上となるよう前記検査領域内に前記第2検査電極を配したことを特徴とする。
【0025】
8×(t+s)+0.4×L>VC…(2)
尚、「検査対象部位表面」とは、検査対象物のうち両検査電極によって挟まれている部位の表面をいう(以下、同様とする)。
【0026】
上記構成4によれば、式(2)を満たすことで、上記構成3でも述べたように、両検査電極間でフラッシュオーバーが発生しない電圧が検査電圧VCとして決定されることとなる。加えて、本構成4では、第2検査電極を検査領域内に配するに際して、検査対象物の検査対象部位表面の電界強度が5kV/mm以上となるように第2検査電極が配される。このため、検査対象物の欠陥を一層検出しやすくなり、一層精度よく検査を行うことできる。
【0027】
構成5.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成1又は2の前記検査電圧決定行程において、
前記両検査電極間に前記基準検査対象物を配置した上で、前記基準検査対象物に沿った前記第1検査電極と前記第2検査電極との距離のうち最も短い距離となる最短経路を求め、
当該最短経路の一端に位置する前記第1検査電極の部位Aと前記基準検査対象物との最短距離をt(mm)、
前記最短経路の他端に位置する前記第2検査電極の部位Bと前記基準検査対象物との最短距離をs(mm)、
前記第1検査電極の部位Aに対して距離tを隔てた前記基準検査対象物の部位Xから、前記第2検査電極の部位Bに対して距離sを隔てた前記基準検査対象物の部位Yまでの前記基準検査対象物の表面に沿った最短距離をL(mm)、
前記両検査電極間の最短距離をd(mm)としたとき、
前記検査領域内の任意の検査位置で前記両検査電極間に電圧を印加し、火花放電が発生するまで電圧を増大させ、火花放電が発生したときの火花放電発生電圧VF(kV)を確認後、
当該火花放電発生電圧VFが、次の式(3)を満たす場合には、前記基準検査対象物に欠陥があると判定し、式(3)を満たさない場合には、前記火花放電発生電圧VFを徐々に減少させ、火花放電が発生しなくなった電圧を前記検査電圧VC(kV)とすることを特徴とする。
【0028】
F<1.3×[8×(t+s)+0.4×(d−t−s)]…(3)
尚、「貫通放電」とは、基準検査対象物に欠陥が存在している場合において、当該欠陥を通って両検査電極間で発生する火花放電をいうものである。
【0029】
上記構成5によれば、検査領域内の任意の位置に第2検査電極を配置して、検査電圧を決定するに際して、まず、両検査電極間で火花放電が発生するまで電圧を増大させる。そして、火花放電が発生した時点の電圧が、火花放電発生電圧VFとして確認される。当該火花放電発生電圧VFの値が、前記式(3)を満たす場合には、前記検査対象物は欠陥があると判定されることとなる。
【0030】
ここで、〔8×(t+s)+0.4×(d−t−s)〕のうち、〔8×(t+s)〕とは、上記構成3で述べたように、空気中を絶縁破壊して電流が流れるために要する電圧を示している。一方で、〔0.4×(d−t−s)〕のうち(d−t−s)とは、両検査電極間の最短距離dから(t+s)を減算した値、すなわち、両検査電極で挟まれた基準検査対象物の肉厚を表している。ここで、基準検査対象物に孔等の欠陥が存在している場合において、当該欠陥の長さは少なくとも(d−t−s)となる。従って、基準検査対象物の欠陥に沿って電流が流れるために要する最小電圧は、〔0.4×(d−t−s)〕となる。つまり、基準検査対象物に欠陥が存在する場合には、両検査電極間に〔8×(t+s)+0.4×(d−t−s)〕で得られる電圧が印加された時点で、貫通放電が発生してしまうおそれがある。
【0031】
ところが、欠陥の長さが(d−t−s)よりも長い場合や計測誤差等が発生してしまう場合には、〔8×(t+s)+0.4×(d−t−s)〕よりも若干大きい電圧値が火花放電発生電圧VFとして確認され得る。このため、〔8×(t+s)+0.4×(d−t−s)〕に対して1.3を乗算することで、誤差等の悪影響を排除して、より正確に基準検査対象物の欠陥の有無を判定することができる。
【0032】
また、式(3)を満たさない場合には、火花放電発生電圧VFを減少させ、火花放電が発生しなくなった電圧が検査電圧VCとして決定される。このため、検査電圧VCは、フラッシュオーバーが発生しない範囲で最大の電圧である、火花放電発生電圧VFの直下の電圧値に設定されることとなる。
【0033】
すなわち、本構成5を採用することで、検査電圧VCを決定することができるとともに、基準検査対象物の欠陥の有無を判定することができる。その結果、基準検査対象物を用いて決定される検査領域及び検査電圧VCをより正確に決定することができ、ひいては検査対象物をより一層精度よく検査することができる。
【0034】
構成6.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成1乃至5のいずれかの前記電流検出行程において
前記検査対象物の前記軸孔に棒状又は柱状の前記第1検査電極を挿入する一方で、前記検査対象物の外側に複数の前記第2検査電極を前記第1検査電極の軸方向に間隙を隔てて配置し、
前記第1検査電極を接地させるとともに、前記各第2検査電極の各検査領域に対応した前記検査電圧VC1〜VCnを前記各第2検査電極に印加して、前記検査対象物の複数箇所を同時に検査することを特徴とする。
【0035】
尚、「棒状又は柱状」とあるのは、厳密な意味での棒状や柱状に限られるものではなく、外周面に段差を有していたり、長手方向に異なる外径を有していたりするものであってもよいという趣旨である。
【0036】
上記構成6によれば、検査対象物の軸孔に第1検査電極が挿入される一方で、検査対象物の外側に複数の第2検査電極が配置される。そして、第1検査電極が接地されるとともに、各第2検査電極の各検査領域に対応した検査電圧VC1〜VCnがそれぞれの第2検査電極に対して印加され、検査対象物の複数箇所を同時に検査することができる。これにより、検査時間の短縮を図ることができ、生産性の向上を図ることができる。
【0037】
構成7.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成6の前記電圧決定行程において、
前記各第2検査電極を個々に単独で対応する検査領域に配置し、前記検査電圧VC1〜VCnを個別に決定することを特徴とする。
【0038】
上記構成6のように複数の第2検査電極を用いて検査を行う場合も、その前段階の検査電圧決定行程において各検査電圧VC1〜VCnを決定する必要がある。ここで、複数の第2検査電極を各検査領域内に配置したまま、検査電圧VC1〜VCnの決定を行おうとすると、第2検査電極間で火花放電が発生してしまい、検査電圧VC1〜VCnが適正に決定されないおそれがある。
【0039】
この点、上記構成7によれば、複数の第2検査電極がそれぞれ1つずつ対応する検査領域に配置された上で、検査電圧VC1〜VCnが各第2検査電極に対して個別に決定される。従って、各第2検査電極の検査領域に対応した適正な検査電圧VC1〜VCnを決定することができ、複数箇所の同時検査するに際しても、検査精度の低下を招くことなく、検査を行うことができる。
【0040】
構成8.本構成のスパークプラグ用絶縁体の検査方法は、上記構成1乃至7のいずれかにおいて、前記第1検査電極と前記検査対象物との距離、及び、前記第2検査電極と前記検査対象物との距離を、それぞれ1.0mm以下とすることを特徴とする。
【0041】
上記構成8によれば、第1検査電極と検査対象物との距離、及び、第2検査電極と検査対象物との距離が、それぞれ1.0mm以下と比較的小さくされる。従って、両検査電極間の電界強度を一層高めることができ、ひいては、検査精度のより一層の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示すように、本実施形態のスパークプラグ用絶縁体の検査方法における検査対象物は、スパークプラグ用絶縁碍子11(以下、単に絶縁碍子11と称す)であって、アルミナ等を焼成して形成される筒状の成形体である。当該絶縁碍子11は、軸孔12を有し、当該軸孔12の長手方向に沿ってその肉厚が増減する形状とされており、スパークプラグの一部を構成する。また、絶縁碍子11の軸孔12には、スパークプラグの一部である中心電極(図示せず)を係止するための段部13が形成されている。
【0043】
次に、このような絶縁碍子11の欠陥の有無を判別するための検査装置1について説明する。
【0044】
検査装置1は、鉛直方向に延びる棒状の第1検査電極2と、当該第1検査電極2に対応する位置に透孔4を有する板状の第2検査電極3とを備える。また、検査に際しては、絶縁碍子11とは別に、基準絶縁碍子5が用いられる。
【0045】
第1検査電極2は、導電性を有する所定の金属材で形成され、先端側に位置する比較的小径の小径部6と、当該小径部6の基端側(図の下側)に位置する大径部7とを備えている。また、当該小径部6及び大径部7との間には段部8が形成されている。加えて、第1検査電極2は、図示しない電流計に電気的に接続されており、当該電流計によって、第1検査電極2及び第2検査電極3間を流れる電流を計測できるようになっている。さらに、当該第1検査電極2は、図示しないアースに接続されている。
【0046】
第2検査電極3は、図の上下方向に移動可能に構成されているとともに、図示しない直流電源装置に電気的に接続されている。これにより、第1検査電極2と当該第2検査電極3との間で電位差が発生可能とされている。
【0047】
また、基準絶縁碍子5は、後述する絶縁碍子11の検査方法における検査領域決定行程及び検査電圧決定行程において用いられるものである。当該基準絶縁碍子5は、絶縁碍子11と同様の素材によって形成され、同一の形状、サイズを有するものである。尚、本実施形態においては、当該基準絶縁碍子5として、予め欠陥が存在していないものが選定されている。
【0048】
次いで、このような検査装置1による絶縁碍子11の欠陥の有無を判別するためのスパークプラグ用絶縁体の検査方法について、図3のフローチャートに従って、適宜図1,2,4を参照しつつ、説明する。
【0049】
まず、図3に示すステップS1の基準電圧決定行程において、検査基準電圧VLが決定される。当該基準電圧決定行程においては、図2に示すように、第1検査電極2と第2検査電極3とで絶縁碍子11(図示略)を挟むことができる間隙だけ両者を離間させた上で、両検査電極2,3間で短絡が発生する電圧が決定される。本実施形態では、当該短絡が発生したときの電圧が検査基準電圧VLとして決定される。尚、短絡が発生したときの電圧に所定の電圧値を加算した値を検査基準電圧VLとして決定することとしてもよい。検査基準電圧VL決定後、後述する検査領域決定行程の前段階で、図1に示すように、前記第1検査電極2が前記基準絶縁碍子5の軸孔に挿入され、第1検査電極2の段部8に対して基準絶縁碍子5の段部14が係合されることで、第1検査電極2に対して基準絶縁碍子5が配置される。
【0050】
次いで、図3に示すステップS2の検査領域決定行程では、検査領域が決定される。当該行程においては、前記検査基準電圧VLを第2検査電極3に印加した状態で、絶縁碍子11の検査を行うべき検査箇所の全てを含むように、当該第2検査電極3を水平状態を維持しつつ、基準絶縁碍子5に沿って上下方向に移動させる(図1参照)。そして、第1検査電極2と第2検査電極3との間でフラッシュオーバーが発生しない領域が検査領域として決定される。
【0051】
より詳しくは、絶縁碍子11の検査を行うべき検査箇所とは、絶縁碍子11の長手方向に沿って任意に設定された部位(「上方部位という」)と当該上方部位の下方に任意に設定された部位(「下方部位」という)との間に位置する部位である。従って、第2検査電極3は、前記上方部位と対向することとなる高さ位置と、前記下方部位に対向することとなる高さ位置との間で移動させられることとなる。
【0052】
本実施形態では、絶縁碍子11の検査を行うべき検査箇所が、絶縁碍子11の長手方向先端側に位置する部位Pと、絶縁碍子11の長手方向中央側に位置する部位Qとの間に設定されている。従って、基準絶縁碍子5に沿って、前記部位Pと対向することとなる高さ位置pと、前記部位Qと対向することとなる高さ位置qとの間で、第2検査電極3が移動されることとなる。
【0053】
また、検査領域の上限位置としては、第2検査電極3を上方へ移動させていったときに、当該第2検査電極3が前記上方部位と対向することとなる高さ位置へと移動される前段階にフラッシュオーバーが発生したときには、当該フラッシュオーバーが発生する直前の第2検査電極3の高さ位置が検査領域の上限位置とされる。一方で、フラッシュオーバーが発生することなく、第2検査電極3が、前記上方部位と対向することとなる高さ位置へと移動されたときには、当該高さ位置が検査領域の上限位置とされる。
【0054】
一方で、検査領域の下限位置としては、第2検査電極3を下方へと移動させていったときに、当該第2検査電極3が前記下方部位と対向することとなる高さ位置へと移動される前段階にフラッシュオーバーが発生したときには、フラッシュオーバーが発生する直前の第2検査電極3の高さ位置が検査領域の下限位置とされる。これに対して、フラッシュオーバーが発生することなく、第2検査電極3が、前記下方部位と対向することとなる高さ位置へと移動されたときには、当該高さ位置が検査領域の下限位置とされる。
【0055】
例えば、図1において、第2検査電極3を上方に移動させたときは、第2検査電極3が高さ位置pより下方に位置する高さ位置rの直上方に移動された時点でフラッシュオーバーが発生したとする。一方で、第2検査電極3を下方に移動させたときは、第2検査電極3が高さ位置qに到達してもフラッシュオーバーが発生しなかったとする。この場合には、高さ位置r及び高さ位置qの間が検査領域として決定されることとなる。
【0056】
次に、図3のステップS3の検査電圧決定行程では、前記検査領域決定行程において決定された検査領域内に、第2検査電極3を配置するとともに、フラッシュオーバーが発生しない範囲で最大となる電圧が検査電圧VCとして決定される。
【0057】
ここで、図4に示すように、前記基準絶縁碍子5に沿って、第1検査電極2から第2検査電極3まで移動する経路のうち最も短い距離となる最短経路は、第1検査電極2から軸孔の先端側開口部を通過して第2検査電極3へと移動する経路である。そして、当該最短経路の一端に位置する第1検査電極2の部位Aと前記基準絶縁碍子5との最短距離をt(mm)、前記最短経路の一端にある第2検査電極3の部位Bと基準絶縁碍子5との最短距離をs(mm)、第1検査電極2の部位Aに対して距離tを隔てた基準絶縁碍子5の部位Xから、第2検査電極3の部位Bに対して距離sを隔てた基準絶縁碍子5の部位Yまでの当該基準絶縁碍子5に沿った最短距離をL(mm)、前記両検査電極2,3間の最短距離をd(mm)とする。このとき、次の式(1)を満たすように、前記検査電圧VC(kV)が決定される。
【0058】
8×(t+s)+0.4×L>VC≧2×d…(1)
例えば、上述のように高さ位置r及び高さ位置qの間が検査領域として決定されている場合には、第1検査電極2から第2検査電極3までの経路が最も短くなる、第2検査電極3が高さ位置rにあるときに、前記式(1)の左側の〔8×(t+s)+0.4×L〕から算出される軸孔の先端側開口部を通過してのフラッシュオーバーが発生する電圧値の直下の値が検査電圧VCとして決定されている。また、両検査電極2,3間の最短距離dは、前記式(1)の右側の〔VC≧2×d〕を満足しなければならない。このため、両検査電極2,3は極力近づけて配置されている。
【0059】
さて、検査電圧VCが決定された後、後述する電流検出行程の前段階で、前記基準絶縁碍子5を第1検査電極2から取外した上で、第1検査電極2に検査対象となる絶縁碍子11が配置される。
【0060】
そして、図3のステップS4の電流検出行程では、前記検査領域内で第2検査電極3を移動させつつ、前記検査電圧VCが所定時間、当該第2検査電極3に対して印加される。また、このとき、両検査電極2,3間を流れる電流値Ikが、前記電流計によって確認される。
【0061】
次いで、ステップS5に移行し、電流値Ikと予め設定された所定電流値Isとが比較判定される。ここで、絶縁碍子11に孔等の欠陥が存在していない場合には、両検査電極2,3間でフラッシュオーバーが発生しない。そのため、前記電流値Ikは、前記所定電流値Is未満の値となり、ステップS6において、良判定がなされる。一方で、絶縁碍子11に欠陥が存在している場合には、両検査電極2,3間において貫通放電が発生してしまう。従って、前記電流値Ikは、前記所定電流値Is以上の値となる。この場合、ステップS7に移行し、欠陥有判定がなされることとなる。
【0062】
以上、詳述したように本実施形態の検査方法によれば、フラッシュオーバーの発生が抑制されつつ、フラッシュオーバーが発生しない範囲内で最大の電圧である検査電圧VCが両検査電極2,3間に印加されることによって、絶縁碍子11の検査が行われることとなる。このため、大がかりな装置や手間のかかる作業を要することなく、微小な欠陥であっても当該欠陥を通っての貫通放電をより発生しやすくすることができる。その結果、コストの増大及び生産性の低下を防止できるとともに、検査精度の向上を図ることができる。
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ、特に上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0063】
本実施形態においては、複数本の絶縁碍子11が同時に検査されるようになっている。すなわち、図5に示すように、各絶縁碍子11は、孔15aを具備する孔網15によって支持されている(図では1つのみ示す)。そして、絶縁碍子11の搬送に際しては、当該孔網15を移動させることで、複数の絶縁碍子11を一度に搬送できるようになっている。
【0064】
また、検査時において、孔網15の上下には、複数の(図では2つの)第2検査電極3a,3bが設けられる。より詳しくは、第2検査電極3aは、絶縁碍子11の上側部位に対応して配置され、第2検査電極3bは、絶縁碍子11の下側部位に対応して配置される。尚、検査時において、前記孔網15は、絶縁物によって支持されており、絶縁碍子11に対し電気的に浮いた状態(非接触状態)となっている。従って、後述する各行程において、孔網15は電気的な影響を及ぼさないようになっている。
【0065】
本実施形態における絶縁碍子11の検査では、基準電圧決定行程において、各第2検査電極3a,3bに対応する検査基準電圧VL1,VL2が決定される。本実施形態では、図6に示すように、第2検査電極3aと第1検査電極2との間で絶縁碍子11を挟み込むことができる距離と比較して、第2検査電極3bと第1検査電極2との間で絶縁碍子11を挟み込むことができる距離の方が大きくなっている。従って、第2検査電極3aに対応して比較的小さい検査基準電圧VL1が決定され、一方で、第2検査電極3bに対応して、前記検査基準電圧VL1よりも大きい検査基準電圧VL2が決定される。
【0066】
次いで、検査領域決定行程において、各第2検査電極3a,3bの各検査領域が決定される。すなわち、図5に示すように、前記検査基準電圧VL1,VL2を第2検査電極3a,3bにそれぞれ印加した上で、第2検査電極3aを、絶縁碍子11の検査を行うべき箇所に対応する高さ位置p1から高さ位置q1の間を移動させ、一方で、第2検査電極3bを、絶縁碍子11の検査を行うべき箇所に対応する高さ位置p2から高さ位置q2の間を移動させる。
【0067】
例えば、第2検査電極3aについては、第2検査電極3aを上方に移動させたときは、第2検査電極3aが高さ位置p1より下方に位置する高さ位置r1の直上方に移動された時点でフラッシュオーバーが発生したとする。一方で、第2検査電極3aを下方に移動させたときは、第2検査電極3aが高さ位置q1に到達してもフラッシュオーバーが発生しなかったとする。この場合には、高さ位置r1及び高さ位置q1の間が検査領域として決定されることとなる。
【0068】
また、第2検査電極3bについては、例えば、第2検査電極3bを下方に移動させたときは、第2検査電極3bが高さ位置q2より上方に位置する高さ位置r2の直下方に移動された時点でフラッシュオーバーが発生したとする。一方で、第2検査電極3bを上方に移動させたときは、第2検査電極3bが高さ位置p2に到達してもフラッシュオーバーが発生しなかったとする。この場合には、高さ位置p2及び高さ位置r2の間が検査領域として決定されることとなる。
【0069】
次に、検査電圧決定行程において、両第2検査電極3a,3bのそれぞれ検査領域内において、第1検査電極2との間でフラッシュオーバーが発生しない範囲で最大となる検査電圧VC1,VC2が決定される。
【0070】
ここで、図4に示すように、前記基準絶縁碍子5に沿って、第1検査電極2から第2検査電極3aまで移動する経路のうち最も短い距離となる最短経路は、第1検査電極2から軸孔の先端側開口部を通過して第2検査電極3aへと移動する経路である。そして、当該最短経路の一端に位置する第1検査電極2の部位A1と前記基準絶縁碍子5との最短距離をt1(mm)、前記最短経路の一端にある第2検査電極3aの部位B1と基準絶縁碍子5との最短距離をs1(mm)、第1検査電極2の部位A1に対して距離t1を隔てた基準絶縁碍子5の部位X1から、第2検査電極3aの部位B1に対して距離s1を隔てた基準絶縁碍子5の部位Y1までの当該基準絶縁碍子5に沿った最短距離をL1(mm)、前記両検査電極2,3a間の最短距離をd1(mm)とする。
【0071】
このとき、上述のように、第2検査電極3aについて、高さ位置r1及び高さ位置q1の間が検査領域と決定されている場合には、第2検査電極3aが高さ位置r1にあるときに、式〔8×(t1+s1)+0.4×L1〕から算出される値の直下の値が検査電圧VC1として決定される。
【0072】
また、図7に示すように、前記基準絶縁碍子5に沿って、第1検査電極2から第2検査電極3bまで移動する経路のうち最も短い距離となる最短経路は、第1検査電極2から軸孔の後端側開口部を通過して第2検査電極3bへと移動する経路である。そして、当該最短経路の一端に位置する第1検査電極2の部位A2と前記基準絶縁碍子5との最短距離をt2(mm)、前記最短経路の一端にある第2検査電極3bの部位B2と基準絶縁碍子5との最短距離をs2(mm)、第1検査電極2の部位A2に対して距離t2を隔てた基準絶縁碍子5の部位X2から、第2検査電極3bの部位B2に対して距離s2を隔てた基準絶縁碍子5の部位Y2までの当該基準絶縁碍子5に沿った最短距離をL2(mm)、前記両検査電極2,3b間の最短距離をd2(mm)とする。
【0073】
ここで、上述のように、第2検査電極3bについて、高さ位置p2及び高さ位置r2の間が検査領域と決定されている場合には、第2検査電極3bが高さ位置r2にあるときに、式〔8×(t2+s2)+0.4×L2〕から算出される値の直下の値が検査電圧VC2として決定される。
【0074】
そして、電流検出行程において、当該第2検査電極3a,3bを各検査領域内で移動させつつ、前記検査電圧VC1、VC2が第2検査電極3a,3bに対して同時に印加される。このとき、第1検査電極2と、第2検査電極3a,3bとの間を流れる電流が確認される。
【0075】
尚、当該電流検出行程において、両第2検査電極3a,3b間における電位差は、第1検査電極2、第2検査電極3a間の電位差、及び、第1検査電極2、第2検査電極3b間の電位差に対して、比較的小さなものである。このため、両第2検査電極3a,3b間の距離が所定距離以上であれば、両第2検査電極3a,3b間で火花放電が発生することはなく、検査に支障が生じることはない。
【0076】
以上、本実施形態の検査方法によれば、基本的には上記第1実施形態と同様の作用効果が奏されることとなる。加えて、本第2実施形態の検査方法では、絶縁碍子11の複数箇所を同時に検査することができる。その結果、検査時間の短縮を図ることができ、生産性の向上を図ることができる。
〔第3実施形態〕
次いで、第3実施形態について図面を参照して、特に第1、第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0077】
本実施形態においては、図8に示すように、上記第2実施形態と同様に、複数本の絶縁碍子11を同時に検査するため、孔網15が設けられている。但し、上記第2実施形態と異なり、検査時においては、孔網15の上方に、2つの第2検査電極3a,3bが設けられる。
【0078】
また、本実施形態では、第2実施形態と同様、基準電圧決定行程、検査領域決定行程、及び、電流検出行程において、各第2検査電極3a,3b,3cが、それぞれ所定の位置に配置された状態で各行程が行われる。すなわち、各第2検査電極3a,3b,3cについて、それぞれの検査基準電圧及び検査領域が同時に決定可能であるとともに、検査電圧の印加を同時に行うことができるようになっている。
【0079】
但し、上記実施形態と比較して、検査電圧決定行程における検査電圧VC1〜VC3の決定方法が異なる。当該検査電圧決定行程では、例えば、第2検査電極3aについての検査電圧VC1を決定する際に、一旦他の第2検査電極3b,3cを取外した上で、検査電圧VC1の決定がなされる。すなわち、各第2検査電極3a〜3cを個々に単独で対応する各検査領域に配置した上で、個別に検査電圧VC1,VC2,VC3が決定される。
【0080】
以上、本実施形態の検査方法によれば、基本的には上記第1、第2実施形態と同様の作用効果が奏される。これに加えて、複数の第2検査電極3a,3b,3cがそれぞれ1つずつ対応する検査領域に配置された上で、検査電圧VC1〜VCnが各第2検査電極3a,3b,3cに対して個別に決定される。従って、各第2検査電極3a,3b,3cの検査領域に対応した適正な検査電圧VC1〜VCnを決定することができ、複数箇所の同時検査するに際しても、検査精度の低下を招くことなく、検査を行うことができる。
【0081】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0082】
(a)上記実施形態では、第1検査電極2の外周面は、平滑面とされているが、第1検査電極2の外周面に、第2検査電極3に向かって突出する突部を設けることとしてもよい。従って、例えば、図9に示すように、第1検査電極2の外周面に、第2検査電極3に向かって突出する複数の突部21を設けることとしてもよい。さらに、突部21の数に関しては、少なくとも1以上の突部21が設けられていればよい。また、突部21としては、例えば、第1検査電極2の周方向に延びるフランジであってもよいし、ローレット形状等であってもよい。
【0083】
さらに、図10に示すように、第2検査電極3の透孔4の内周面に第1検査電極2に対して突出する突部22を設けることとしてもよい。勿論、両検査電極2,3に突部21,22を同時に設けることとしてもよい。
【0084】
このように突部を設けることで、検査対象部位表面の電界強度がより高められるため、検査精度のより一層の向上を図ることができる。尚、突部21,22としては、先細り形状等、エッジが存在することで電気力線がより集中しやすい形状に形成されていることがより好ましい。また、突部21,22は、少なくとも0.1mm以上突出していることがより好ましい。
【0085】
(b)上記実施形態では、検査電圧として、少なくとも2d(kV)以上の検査電圧が印加されているが、検査対象部位表面に対しての電界強度が5kV/mm以上となるように検査電圧を印加することとしてもよい。この場合には、絶縁碍子11の欠陥を一層検出しやすくなり、より一層精度よく検査を行うことできる。
【0086】
(c)上記実施形態では、基準絶縁碍子5として欠陥の存在しないものが選定されているが、検査電圧決定行程において、図11に示す各行程を経て、検査電圧VCを決定するとともに、基準絶縁碍子5の欠陥の有無を判別することとしてもよい。すなわち、ステップS11において、前記検査領域内の任意の検査位置に第2検査電極3を配置する。次いで、ステップS12へと移行し、前記第2検査電極3の印加電圧を徐々に増大させ、ステップS13において、火花放電(FO等)が発生するか否かを判定する。そして、火花放電が発生したとき、ステップS14に移行し、火花放電発生電圧VFを確認する。次に、ステップS15に移行し、当該火花放電発生電圧VFが、次の式(3)を満たすか否かを判断する。
【0087】
F<1.3×[8×(t+s)+0.4×(d−t−s)]…(3)
当該式(3)を満たさない場合には、ステップS17へと移行する。一方で、式(3)を満たす場合には、ステップS16に移行し、欠陥有判定を行う。欠陥有判定が行われた場合には、基準絶縁碍子5に欠陥が存在するものと判別される。ステップS17及びS18において、前記印加電圧を徐々に減少させつつ、火花放電が発生するか否かを判定する。火花放電が発生しなくなったとき、ステップS19へと移行し、その時点の印加電圧が、検査電圧VCとして決定されることとなる。
【0088】
この場合には、検査電圧VCを決定することができるとともに、基準絶縁碍子5の欠陥の有無を判定することができる。その結果、基準絶縁碍子5を用いて決定される検査領域及び検査電圧VCをより正確に決定することができ、ひいては絶縁碍子11を一層精度よく検査することができる。
【0089】
(d)第1検査電極2と絶縁碍子11との距離、及び、第2検査電極3と絶縁碍子11との距離を、それぞれ1.0mm以下としてもよい。この場合には、両検査電極2,3間の電界強度を一層高めることができ、ひいては、検査精度のより一層の向上を図ることができる。
【0090】
(e)上記実施形態では、検査基準電圧VL、検査領域、及び、検査電圧VCを検査時に求めているが、絶縁碍子11の形状等に合わせて、検査基準電圧VL、検査領域、及び、検査電圧VCを事前に設定することとしてもよい。
【0091】
(f)上記実施形態では、検査電圧VCを印加することで、絶縁碍子11の欠陥の有無が判定されているが、検査電圧VCを印加することで、絶縁碍子11に潜在的に存在する欠陥を顕在化させることとしてもよい。
【0092】
(g)上記実施形態では、第1検査電極2は、所定の金属材により形成されているが、導電性ゴム等、他の導電性材料により形成することとしてもよい。また、導電性ゴムで形成された第1検査電極2を中空状とし、検査時に空気圧等で膨張させることで、絶縁碍子11と第1検査電極2とを接触させることとしてもよい。この場合には、両検査電極2,3間の電界強度を一層大きくすることができ、より精度よく絶縁碍子11の検査を行うことができる。
【0093】
(h)検査領域決定行程、検査電圧決定行程、及び電流検出行程において、絶縁碍子11(基準絶縁碍子5)の先端側開口部にシリコンゴム等の絶縁性の蓋を設けることとしてもよい。これにより、先端側開口部を通過してのフラッシュオーバーの発生を効果的に抑制でき、ひいては一層大きな検査電圧VCを第2検査電極3に対して印加することができる。
【0094】
(i)上記実施形態では、検査領域決定行程において、両検査電極2,3及び基準絶縁碍子5を実際に配置した上で検査領域を決定しているが、両検査電極2,3及び基準絶縁碍子5を実際には配置することなく、基準検査電圧VL及び基準絶縁碍子5の素材、形状、サイズ等のデータから検査領域を算出、決定することとしてもよい。
【0095】
(j)上記第3実施形態では、3つの第2検査電極3a〜3cが設けられているが、第2検査電極を4つ以上設けることとしてもよい。
【0096】
(k)上記第1実施形態では、第1検査電極2をアースに接続し、第2検査電極3を前記直流電源装置に接続することで、両検査電極2,3間に電位差を発生させているが、第1検査電極2を前記直流電源装置に接続し、第2検査電極3をアースに接続することで、両検査電極2,3間に電位差を生じさせることとしてもよい。また、両検査電極2,3をそれぞれ電源装置に接続するとともに、印加される電圧値に差異を生じさせることで、両検査電極2,3間に電位差を生じさせることとしてもよい。
【0097】
(l)上記第2、第3実施形態では、孔網15は、電気的に浮いた状態とされているが、孔網15に所定の検査電圧を印加することで、検査電極として用いることとしてもよい。
【0098】
(m)上記実施形態では、第1検査電極2は小径部6及び大径部7を備えているが、小径部6を大径部7内に埋没させることで、基準絶縁碍子5の表面に沿った最短距離Lをより大きくしてもよい。この場合には、フラッシュオーバーが発生する電圧を増大させることができるとともに、より広い範囲を検査領域とすることができる。このため、絶縁碍子11のより広い範囲をより精度よく検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】第1実施形態における検査装置の部分拡大側面断面図である。
【図2】第1実施形態の基準電圧決定行程における両検査電極等の側面断面図である。
【図3】各検査行程を示すフローチャートである。
【図4】絶縁碍子の先端側部位及び第1検査電極等の部分拡大側面断面図である。
【図5】第2実施形態における検査装置の部分拡大側面断面図である。
【図6】第2実施形態の基準電圧決定行程における検査電極の側面断面図である。
【図7】絶縁碍子の後端側部位及び第1検査電極等の部分拡大側面断面図である。
【図8】第3実施形態における検査装置の側面断面図である。
【図9】別の実施形態における第1検査電極等を示す側面断面図である。
【図10】別の実施形態における第2検査電極等を示す側面断面図である。
【図11】別の実施形態の検査電圧決定行程における各行程をしめすフローチャートである。
【符号の説明】
【0100】
2…第1検査電極、3,3a,3b,3c…第2検査電極、5…基準検査対象物としての基準絶縁碍子、11…検査対象物としての絶縁碍子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1検査電極及び第2検査電極間に軸孔を有する検査対象物を配置し、当該両検査電極間に電位差を発生させて前記検査対象物の欠陥の有無を判別するスパークプラグ用絶縁体の検査方法であって、
検査空間において前記検査対象物を挟むことが可能な隙間だけ離間させて前記両検査電極を配置したときに、当該両検査電極間を短絡し得る電圧以上の検査基準電圧VLを決定する基準電圧決定行程と、
前記検査対象物と同一素材、同一形状、同一サイズである基準検査対象物を前記両検査電極間に配置し、前記検査基準電圧VLを印加するとともに、前記検査対象物の検査を行うべき検査箇所を全て含むよう前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記基準検査対象物に沿って移動させた場合における、フラッシュオーバーが発生しない領域を検査領域として決定する検査領域決定行程と、
前記検査空間において前記基準検査対象物を前記両検査電極間に配置するとともに、前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記検査領域のうち任意の位置に配置し、フラッシュオーバーが発生しない範囲で最大となる検査電圧VCを決定する検査電圧決定行程と、
前記検査空間において前記検査対象物を前記両検査電極間に配置するとともに、前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記検査領域のうち任意の位置に配置し、かつ当該両検査電極間に前記検査電圧VCを印加し、当該両検査電極間に流れる電流を検出する電流検出行程と
によって前記検査対象物の欠陥の有無を判別することを特徴とするスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
【請求項2】
前記検査領域決定行程において、前記検査空間に前記基準検査対象物を実際に前記両検査電極間に配置し、前記検査基準電圧VLを印加するとともに、前記検査対象物の検査を行うべき検査箇所の全てを含むよう前記第1検査電極を固定状態とした上で、前記第2検査電極を前記基準検査対象物に沿って移動させ、フラッシュオーバーが発生しない領域を検査領域として決定することを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
【請求項3】
前記検査電圧決定行程において、
前記両検査電極間に前記基準検査対象物を配置した上で、前記基準検査対象物に沿った前記第1検査電極と前記第2検査電極との距離のうち最も短い距離となる最短経路を求め、
当該最短経路の一端に位置する前記第1検査電極の部位Aと前記基準検査対象物との最短距離をt(mm)、
前記最短経路の他端に位置する前記第2検査電極の部位Bと前記基準検査対象物との最短距離をs(mm)、
前記第1検査電極の部位Aに対して距離tを隔てた前記基準検査対象物の部位Xから、前記第2検査電極の部位Bに対して距離sを隔てた前記基準検査対象物の部位Yまでの前記基準検査対象物の表面に沿った最短距離をL(mm)、
前記両検査電極間の最短距離をd(mm)としたとき、
次の式(1)を満たすように、前記検査電圧VC(kV)を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
8×(t+s)+0.4×L>VC≧2×d…(1)
【請求項4】
前記検査電圧決定行程において、
前記両検査電極間に前記基準検査対象物を配置した上で、前記基準検査対象物に沿った前記第1検査電極と前記第2検査電極との距離のうち最も短い距離となる最短経路を求め、
当該最短経路の一端に位置する前記第1検査電極の部位Aと前記基準検査対象物との最短距離をt(mm)、
前記最短経路の他端に位置する前記第2検査電極の部位Bと前記基準検査対象物との最短距離をs(mm)、
前記第1検査電極の部位Aに対して距離tを隔てた前記基準検査対象物の部位Xから、前記第2検査電極の部位Bに対して距離sを隔てた前記基準検査対象物の部位Yまでの前記基準検査対象物の表面に沿った最短距離をL(mm)としたとき、
前記検査電圧VC(kV)が、次の式(2)を満たすとともに、
前記検査対象物の検査対象部位表面の電界強度が、5kV/mm以上となるよう前記検査領域内に前記第2検査電極を配したことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
8×(t+s)+0.4×L>VC…(2)
【請求項5】
前記検査電圧決定行程において、
前記両検査電極間に前記基準検査対象物を配置した上で、前記基準検査対象物に沿った前記第1検査電極と前記第2検査電極との距離のうち最も短い距離となる最短経路を求め、
当該最短経路の一端に位置する前記第1検査電極の部位Aと前記基準検査対象物との最短距離をt(mm)、
前記最短経路の他端に位置する前記第2検査電極の部位Bと前記基準検査対象物との最短距離をs(mm)、
前記第1検査電極の部位Aに対して距離tを隔てた前記基準検査対象物の部位Xから、前記第2検査電極の部位Bに対して距離sを隔てた前記基準検査対象物の部位Yまでの前記基準検査対象物の表面に沿った最短距離をL(mm)、
前記両検査電極間の最短距離をd(mm)としたとき、
前記検査領域内の任意の検査位置で前記両検査電極間に電圧を印加し、火花放電が発生するまで電圧を増大させ、火花放電が発生したときの火花放電発生電圧VF(kV)を確認後、
当該火花放電発生電圧VFが、次の式(3)を満たす場合には、前記基準検査対象物に欠陥があると判定し、式(3)を満たさない場合には、前記火花放電発生電圧VFを徐々に減少させ、火花放電が発生しなくなった電圧を前記検査電圧VC(kV)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
F<1.3×[8×(t+s)+0.4×(d−t−s)]…(3)
【請求項6】
前記電流検出行程において
前記検査対象物の前記軸孔に棒状又は柱状の前記第1検査電極を挿入する一方で、前記検査対象物の外側に複数の前記第2検査電極を前記第1検査電極の軸方向に間隙を隔てて配置し、
前記第1検査電極を接地させるとともに、前記各第2検査電極の各検査領域に対応した前記検査電圧VC1〜VCnを前記各第2検査電極に印加して、前記検査対象物の複数箇所を同時に検査することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
【請求項7】
前記電圧決定行程において、
前記各第2検査電極を個々に単独で対応する検査領域に配置し、前記検査電圧VC1〜VCnを個別に決定することを特徴とする請求項6に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。
【請求項8】
前記第1検査電極と前記検査対象物との距離、及び、前記第2検査電極と前記検査対象物との距離を、それぞれ1.0mm以下とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスパークプラグ用絶縁体の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−2820(P2009−2820A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164555(P2007−164555)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】