説明

スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン及びその製造方法

【課題】高耐熱性、高屈折率、低複屈折及び低結晶性であるポリスルホンを提供する。
【解決手段】スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、式(1):


(式中、A及びAは同一又は異なってアルキレン基を示し、Zは芳香族炭化水素環を少なくとも含む二価基を示し、R〜Rは同一又は異なって置換基を示し、n1及びn2は0以上の整数、m1〜m4は0〜4の整数である)
で表される構造単位を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピロビフルオレン骨格を有する新規なポリスルホン及びその製造方法に関する。詳細には、本発明は、耐熱性などに優れ、各種電子機器又は機器部品、光学機器用部品などに有用な新規なポリスルホン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスルホンは、耐熱性に優れ、透明で硬質なエンジニアリングプラスチックとして知られており、電気特性にも優れるため、電気・電子分野などの用途などに使用されている。このようなポリスルホンは、通常、ジフェニルスルホン骨格を有するモノマーを用いて、フリーデル・クラフツ反応や求核的芳香族置換反応などの縮重合反応により製造される。
【0003】
これに対して、塩素系副生成物の低減を目的として、特表2002−541286号公報(特許文献1)には、二反応性である芳香族化合物、硫酸および三酸化イオウのうちの一つまたは双方、およびカルボン酸無水物を接触させることを含むポリスルホンの製造方法が開示されている。この文献には、芳香族化合物として、ナフチル環又はフェニル環を有する芳香族化合物が記載されている。しかし、この方法で得られるポリスルホンは、耐熱性が低く、光学的特性も充分でない。
【0004】
特開平6−340742号公報(特許文献2)には、含フッ素ポリアリーレンスルフィドポリマーを酸化剤で酸化することにより含フッ素ポリスルホンを製造する方法が開示されている。しかし、この方法で得られる含フッ素ポリスルホンは、耐油性、耐薬品性には優れるものの、成形性が低く、光学特性も充分でない。
【0005】
一方、特開2008−69212号公報(特許文献3)には、フルオレン骨格を有するチオール類又はその誘導体と、芳香族炭化水素環を有するジハライド化合物とを用いて、チオエーテルフルオレン骨格を含有するポリマーを製造する方法が開示されている。しかし、このチオエーテル系ポリマーでは、剛性などの機械的特性、耐熱性が充分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−541286号公報(請求項1、段落[0009][0010]、実施例)
【特許文献2】特開平6−340742号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2008−69212号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、高耐熱性、高屈折率、低複屈折及び低結晶性である新規なスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、透明性及び溶媒溶解性に優れたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、上記のような優れた特性を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを効率良く製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、スピロビフルオレン骨格を有する特定のジチオール類と、特定の芳香族ジハロゲン化合物とを反応させた後に酸化する方法などにより、スピロビフルオレン骨格と芳香族骨格とがスルホニル結合を介して結合した新規なポリスルホンが得られること、このような新規なポリスルホンが、高耐熱性、高屈折率、低複屈折及び低結晶性であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、A及びAは同一又は異なってアルキレン基を示し、Zは芳香族炭化水素環を少なくとも含む二価基を示し、R〜Rは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基又はハロゲン原子を示し、n1及びn2は0以上の整数、m1〜m4は0〜4の整数である。但し、スピロビフルオレン骨格に結合するスルホニル基を含む2つの単位は、それぞれの単位が、スピロビフルオレン骨格を構成するベンゼン環のうち、異なるベンゼン環に結合している限り、いずれのベンゼン環に結合していてもよい)
で表される構造単位を有している。前記式(1)において、Zは、式(1a):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、環Z〜Zは芳香族炭化水素環を示し、Dは芳香族炭化水素環、複素環、エーテル基、スルホニル基又は直接結合を示し、Y及びYは同一又は異なって直接結合又は連結基を示し、R〜Rは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基又はハロゲン原子を示し、s1及びs2は同一又は異なって0又は1を示し、s3は1〜6の整数を示し、m5〜m9は同一又は異なって0又は1〜8の整数を示す。ただし、Dがエーテル基、スルホニル基又は直接結合であるとき、m7=0である)
で表される基であってもよい。前記式(1a)において、環Z〜ZはC6−10芳香族炭化水素環であり、DはC6−10芳香族炭化水素環、芳香族複素環、エーテル基、チオエーテル基又は直接結合であり、Y及びYは直接結合、カルボニル基、オキシカルボニル基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、置換基を有していてもよいアルキニレン基、又は置換基を有していてもよいアリーレン基であってもよい。
【0016】
本発明には、式(2):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、A及びA、R〜R、n1及びn2、m1〜m4は前記に同じ)
で表されるジチオール類又はその誘導体と、式(3):
−Z−X (3)
(式中、X及びXは同一又は異なってハロゲン原子を示し、Zは前記に同じ)
で表されるジハライド化合物とを重合させて生成したポリチオエーテルを酸化して、前記スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを製造する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、スピロビフルオレン骨格と芳香族骨格とがスルホニル結合を介して結合した新規なポリスルホンであり、高耐熱性、高屈折率、低複屈折及び低結晶性を有している。さらに、透明性及び溶媒溶解性に優れている。また、本発明では、スピロビフルオレン骨格を有するジチオール類又はその誘導体と、芳香族炭化水素環を少なくとも含む特定のジハライドとを重合させた後に酸化することにより、前記のような優れた特性を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン]
本発明のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、前記式(1)で表される構造単位(スルホニルユニット)を有している。前記スルホニルユニット(1)は、前記式(2)で表されるジチオール類(又はその誘導体)に対応するフルオレン骨格を有するユニットと、このフルオレン骨格を有するユニットのスルホニル基に結合したユニットであって、前記式(3)で表されるジハライドに対応するユニットZとで構成されている。
【0021】
前記スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、前記スルホニルユニット(1)を有する限り特に制限されないが、前記式(2)で表されるジチオール類又はその誘導体と、前記式(3)で表されるジハライド(又はジハロゲン化物)との重合物(ポリチオエーテル)を酸化することにより得てもよい。なお、このようなポリチオエーテルの酸化工程を経て製造されるポリスルホンは、スルホニルユニットを構成するスルホニル結合の一部が未酸化のチオエーテル結合、スルホキシドを含んでいてもよい。
【0022】
(ジチオール類又はその誘導体)
式(2)において、A及びAで表されるアルキレン基は、特に限定されないが、例えば、C2−6アルキレン基(エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基など)、通常、C2−4アルキレン基などが例示でき、特に、C2−3アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基)が好ましい。なお、A及びAは互いに同一の又は異なるアルキレン基であってもよいが、通常、同一のアルキレン基である。
【0023】
オキシアルキレン基の置換数(付加数)n1及びn2は、同一又は異なって、0又は1〜15程度の整数から選択でき、例えば、0〜12(例えば、1〜10)、好ましくは0〜8(例えば、1〜7)、さらに好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、特に0〜4(例えば、1〜2)程度、通常0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。また、n1とn2の和(n1+n2)は、0〜30程度の範囲から選択でき、例えば、0〜24(例えば、2〜20)、好ましくは0〜16(例えば、2〜14)、さらに好ましくは0〜12(例えば、2〜10)、特に0〜8(例えば、2〜4)程度、通常0〜4(例えば、0〜2)であってもよい。なお、n1(又はn2)が2以上の場合、ポリアルコキシ(又はポリオキシアルキレン)基は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、異種のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)が混在して構成されていてもよいが、通常、同一のオキシアルキレン基で構成されている場合が多い。
【0024】
スピロビフルオレン環に置換する2つの(ポリオキシアルキレン基を有してもよい)メルカプト基の置換位置は、重合性の点から、スピロビフルオレン環を構成するベンゼン環のうち、異なるベンゼン環に置換すれば、いずれのベンゼン環に置換してもよい。具体的には、スピロビフルオレン環の1〜8位及び1′〜8′位(好ましくは2〜7位及び2′〜7′位、さらに好ましくは2、3、6、7、2′、3′、6′、7′位)から選択される2種の位置に置換できるが、それぞれの基が異なるフルオレン環に置換するのが好ましく、例えば、2位及び2′位の組み合わせ、2位及び3′位の組み合わせ、3位及び3′位の組み合わせ(特に2及び2′位の組み合わせ)に置換していることが多い。
【0025】
また、R〜Rで表される置換基は、特に限定されず、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基などのC1−4アルコキシ基など);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など);ニトロ基;シアノ基;ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)などが挙げられる。
【0026】
好ましいR〜Rは、アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)、シクロアルキル基(好ましくはC5−8シクロアルキル基)、アルコキシ基(好ましくはC1−6アルコキシ基)、アリール基(好ましくはC6−10アリール基)、アラルキル基(好ましくはC6−8アリール−C1−2アルキル基)である。これらのうち、特に、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−8アリール基が好ましい。R〜Rは、それぞれ、2個以上存在する場合、異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0027】
また、スピロビフルオレン環に置換するR〜Rの置換位置は、チオール基の置換位置以外であれば、特に限定されず、例えば、スピロビフルオレン環の1〜8位及び1′〜8′位(好ましくは2〜7位及び2′〜7′位、さらに好ましくは2、3、6、7、2′、3′、6′、7′位)から選択でき、チオール基が2及び2′位に置換している場合、4、4′、6、6′、7又は7′位など(特に7及び7′位)であってもよい。置換数m1〜m4は、それぞれ、0又は1〜4の整数(但し、チオール基が置換しているベンゼン環では、3以下の整数)、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1(特に0)である。なお、置換数m1〜m4は、異なっていてもよいが、同一である場合が多く、1以上の置換基を有する場合、チオール基を有さないベンゼン環における置換数は同一である場合が多い。
【0028】
前記式(2)で表される代表的なジチオール類としては、ジメルカプトスピロビフルオレン類、ビス(メルカプト(ポリ)アルコキシ)スピロビフルオレン類などが含まれる。
【0029】
ジメルカプトスピロビフルオレン類としては、例えば、2,2′−ジメルカプトスピロビフルオレン、2,3′−ジメルカプトスピロビフルオレン、3,3′−ジメルカプトスピロビフルオレン、3,4′−ジメルカプトスピロビフルオレン、4,4′−ジメルカプトスピロビフルオレン、2,6−ジメルカプトスピロビフルオレン、2,7−ジメルカプトスピロビフルオレン、3,6−ジメルカプトスピロビフルオレン、3,7−ジメルカプトスピロビフルオレンなどのジメルカプトスピロビフルオレン;前記例示の置換基を有するジメルカプトスピロビフルオレン[例えば、アルキルジメルカプトスピロビフルオレン(2,2′−ジメルカプト−7,7′−ジメチルスピロビフルオレン、2,2′−ジメルカプト−4,4′−ジメチルスピロビフルオレンなど)、シクロアルキルジメルカプトスピロビフルオレン(2,2′−ジメルカプト−7,7′−ジシクロヘキシルスピロビフルオレンなど)、アリールジメルカプトスピロビフルオレン(2,2′−ジメルカプト−7,7′−ジフェニルスピロビフルオレンなど)など]などが挙げられる。
【0030】
ビス(メルカプト(ポリ)アルコキシ)スピロビフルオレン類としては、例えば、2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)スピロビフルオレン、2,2′−ビス(2−メルカプトプロポキシ)スピロビフルオレン、2,2′−ビス(3−メルカプトプロポキシ)スピロビフルオレン、2,2′−ビス(4−メルカプトブトキシ)スピロビフルオレンなどのビス(メルカプトC2−4アルコキシ)スピロビフルオレン;前記例示の置換基を有するビス(メルカプトアルコキシ)スピロビフルオレン[例えば、アルキル−ビス(メルカプトアルコキシ)スピロビフルオレン(2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)−7,7′−ジメチルスピロビフルオレン、2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)−4,4′−ジメチルスピロビフルオレンなど)、シクロアルキル−ビス(メルカプトアルコキシ)スピロビフルオレン(2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)−7,7′−ジシクロヘキシルスピロビフルオレンなど)、アリールビス(メルカプトアルコキシ)スピロビフルオレン(2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)−7,7′−ジフェニルスピロビフルオレンなど)など]、及びこれらのビス(メルカプトアルコキシ)スピロビフルオレン類に対応し、前記式(1)においてn1及びn2が2以上であるビス(メルカプトポリアルコキシ)スピロビフルオレン類{例えば、2,2′−ビス{4−[2−(2−メルカプトエトキシ)エトキシ]}スピロビフルオレンなどの2,2′−ビス[(メルカプトC2−4アルコキシ)C2−4アルコキシ]スピロビフルオレン(n1=n2=2の化合物)など}などが挙げられる。
【0031】
好ましい前記ジチオール類には、ジメルカプトスピロビフルオレン類[例えば、2,2′−ジメルカプトスピロビフルオレン、2,2′−ジメルカプト−7,7′−ジメチルスピロビフルオレンなどのビス(C1−4アルキル−メルカプト)スピロビフルオレンなど]、ビス(メルカプト(ポリ)アルコキシ)スピロビフルオレン類[例えば、2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)スピロビフルオレンなどの2,2′−ビス(メルカプトC2−4アルコキシ)スピロビフルオレン、2,2′−ビス(2−メルカプトエトキシ)−7,7′−ジメチルスピロビフルオレンなどのビス(C1−4アルキル−メルカプトC2−4アルコキシ)スピロビフルオレンなど]などが含まれる。
【0032】
なお、ジメルカプトスピロビフルオレン類は、種々の合成方法、例えば、(a)ジアミノスピロビフルオレン類のアミノ基をアゾ化し、硫酸アニオンを反応させ、加水分解する方法、(b)フェノールとN,N−ジメチルカルバオイルクロリドとを反応させた後、転移反応によりチオール保護体を合成し、脱保護する方法、(c)アルキルスルホキシドをトリフルオロメタンスルホン酸無水物によりカチオン化した後、Friedel−Crafts型の反応により置換、還元する方法、(d)クロロ硫酸によるスルホン化の後、還元する方法などを利用して製造することができる。これらの合成方法のうち、方法(a)及び(b)が汎用される。
【0033】
さらに、ビス(メルカプト(ポリ)アルコキシ)スピロビフルオレン類は、(c)ジヒドロキシスピロビフルオレン類に、(ポリ)アルコキシ基(又は基OA及びOA)に対応する化合物)、例えば、アルキレンオキシド(エチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)やハロアルカノール類(例えば、3−クロロ−1−プロパノールなどのハロC3−6アルカノールなど)などを反応させて、ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)スピロビフルオレン類を形成させたのち、チオニルクロリドなどのクロル化剤と反応させ、ヒドロキシル基をクロル化し、次にNaSなどにより−SNaに置換後、適量の硫酸などで酸処理する方法、(d)ジヒドロキシスピロビフルオレン類と、基OA及びOAに対応するハロゲン化チオール化合物(例えば、3−クロロ−1−プロパンチオールなどのハロC3−6アルカンチオールなど)とを反応させる方法などにより得られる。
【0034】
前記ジチオール類の誘導体としては、前記ジチオール類のメルカプト基が保護基で保護された化合物などが挙げられる。前記保護基としては、前記誘導体が前記ジハライドとの反応によりチオエーテル結合を形成できる限り特に限定されず、例えば、N−置換カルバモイル基(例えば、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N−プロピルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基などのモノ又はジC1−6アルキルカルバモイル基、好ましくはモノ又はジC1−4アルキルカルバモイル基など)などが挙げられる。
【0035】
これらのジチオール類又はその誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
(ジハライド)
前記式(3)において、X及びXで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。これらの原子のうち、フッ素原子、塩素原子などが好ましく、特にフッ素原子が好ましい。前記X及びXで表されるハロゲン原子は、異なっていてもよいが、同一であってもよい。
【0037】
前記ジハライド(又はポリハライド)は、前記式(3)で表される化合物(又は前記式(1)において二価基Zに対応する化合物、すなわち、芳香族炭化水素環を少なくとも含むジハライド)であればよく、例えば、ジ(ハロアリール)ケトン類(例えば、ジクロロベンゾフェノンなどのジ(ハロC6−10アリール)ケトンなど)などであってもよいが、代表的には、例えば、下記式(3)で表される化合物などが挙げられる。
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、環Z〜Zは芳香族炭化水素環を示し、Dは芳香族炭化水素環、複素環、エーテル基、チオエーテル基又は直接結合を示し、Y及びYは同一又は異なって直接結合又は連結基を示し、R〜Rは同一又は異なって置換基を示し、s1及びs2は同一又は異なって0又は1を示し、s3は1〜6の整数を示し、m5〜m9は同一又は異なって0又は1〜8の整数を示し、X及びXは前記に同じである。ただし、Dがエーテル基、チオエーテル基又は直接結合であるとき、m7=0である)。
【0040】
上記式(3)において、環Z〜Zで表される芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アントラセン環などのC6−20芳香族炭化水素環(好ましくはC6−14芳香族炭化水素環)が挙げられる。これらの芳香族炭化水素環のうち、特にベンゼン環などのC6−10芳香族炭化水素環が好ましい。
【0041】
Dで表される芳香族炭化水素環としては、前記環Z〜Zで例示の芳香族炭化水素環が挙げられ、特に、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6−10芳香族炭化水素環が好ましい。
【0042】
なお、s3は、1〜6の整数であればよく、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2であってもよい。
【0043】
また、Dで表される複素環としては、非縮合複素環{複素5員環[一種のヘテロ原子を含む複素5員環(ピロール、イミダゾールなどの窒素原子のみを含む複素5員環;フランなどの酸素原子のみを含む複素5員環;チオフェンなどの硫黄原子のみを含む複素5員環など);二種以上のヘテロ原子を含む複素5員環(チアゾール環などの窒素原子及び硫黄原子を含む複素5員環;オキサジアゾール環(1,2,4−オキサジアゾール環、1,3,4−オキサジアゾール環など)などの窒素原子及び酸素原子を含む複素5員環など)など]、複素6員環[一種のヘテロ原子を含む複素6員環(ピリジン環、ピリミジン環などの窒素原子のみを含む複素6員環など)など]など};縮合複素環[複素5員環と複素6員環との縮合複素環(プリンなど);2個以上の複素6員環の縮合複素環(プテリジン環など);前記複素環とベンゼン環との縮合複素環(インドール環、キノリン環など)などであってもよい。これらの複素環は、芳香族複素環又は非芳香族複素環のいずれであってもよい。なお、これらのDで表される複素環のうち、特に、オキサジアゾール環などの芳香族複素5員環、ピリジン環などの芳香族複素6員環などが好ましい。
【0044】
なお、環Z〜Z、芳香族炭化水素環又は複素環Dなどにおいて、隣接基(例えば、X、X、Y、Yなど)に対するこれらの環の結合位置は、特に制限されない。例えば、環が、ベンゼン環であるとき、結合に対応するフェニレン基としては、特に、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基などが挙げられ、環がナフタレン環であるとき、結合に対応するナフチレン基としては、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、ナフタレン2,7−ジイル基などが挙げられる。また、複素環では、複素環を構成する炭素原子と隣接基とが結合している場合が多い。
【0045】
前記式(3)のY及びYにおいて、連結基としては、例えば、カルボニル基、オキシカルボニル基(又はエステル基、−COO−)、アミド基(−NHCO−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、置換基を有していてもよい二価の炭化水素基などが挙げられる。
【0046】
前記二価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基{例えば、アルキレン基(又はアルキリデン基、例えば、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ブタン−2−イリデン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ペンタン−2,3−ジイル基などのC1−8アルキレン基、好ましくはC1−4アルキレン基)、シクロアルキレン基[例えば、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロへプチレン基などのC5−10シクロアルキレン基(好ましくはC5−8シクロアルキレン基)、ビ又はトリシクロアルキレン基(ノルボルナン−ジイル基など)]などの飽和脂肪族炭化水素基;アルケニレン基(例えば、ビニレン、プロペニレンなどのC2−6アルケニレン基、好ましくはC2−4アルケニレン基)、アルキニレン基などの不飽和脂肪族炭化水素基など}、芳香族炭化水素基{例えば、アリーレン基(フェニレン基、ナフタレンジイル基などのC6−10アリーレン基)、アルキレン(又はアルキリデン)−アリーレン基[又はアリーレン−アルキレン基、例えば、メチレン−フェニレン基、エチレン−フェニレン基、エチレン−メチルフェニレン基、エチリデンフェニレン基などのC1−6アルキレン−C6−20アリーレン基(好ましくはC1−4アルキレン−C6−10アリーレン基、さらに好ましくはC1−2アルキレン−フェニレン基)などの芳香脂肪族炭化水素基など]など}が例示できる。なお、アルキレン−アリーレン基とは、−R−R−(式中、Rはアルキレン基、Rはアリーレン基を示す)で表される基を示す。
【0047】
及びYで表される二価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、ハロアルキル基(モノ乃至トリフルオロメチル基、モノ乃至トリクロロメチル基などのハロC1−4アルキル基など)、アシル基(アセチル基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基など)、シアノ基、ニトロ基などの電子求引性基などが挙げられる。
【0048】
スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの耐熱性を向上させるという観点からは、連結基Y及びYとしては、カルボニル基、オキシカルボニル基、アミド基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、置換基を有していてもよいアルキニレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基などが好ましい。
【0049】
〜Rで表される置換基は、例えば、前記R〜Rの項で例示の基が挙げられる。好ましい置換基には、アルキル基[例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(好ましくはC1−4アルキル基)など]、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5−8シクロアルキル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基などのC1−4アルコキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6−10アリール基など)などが含まれ、特にC1−4アルキル基が好ましい。R〜Rの置換位置は特に制限されない。m5〜m9は、同一又は異なって、好ましくは0又は1〜5の整数、さらに好ましくは0又は1〜3の整数である。なお、m5、m6、m8及びm9は、0又は1〜2の整数(好ましくは0又は1)であってもよい。また、m7は0又は1〜4(好ましくは1〜3)の整数であってもよい。
【0050】
好ましい前記ジハライドとしては、少なくとも芳香族環を分子中に2以上有するジハライド、例えば、下記式(3a)で表されるカルボニル基を有するジハライド、下記式(3b)で表されるカルボニル基を有しないジハライドなどが挙げられる。
【0051】
【化5】

【0052】
(式中、Dは、C6−10芳香族炭化水素環、芳香族複素環、エーテル基、チオエーテル基又は直接結合を示し、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、m5〜m9は同一又は異なって0又は1〜2の整数を示し、X、X、s1〜s3は前記と同様である)
【0053】
【化6】

【0054】
(式中、Y、Yは同一又は異なって直接結合、置換基を有していてもよいアルケニレン基、置換基を有していてもよいアルキニレン基、又は置換基を有していてもよいアリーレン基を示し、DはC6−10芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を示し、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、m5、m7及びm9は同一又は異なって0又は1〜2の整数を示し、X及びXは前記と同様である)
前記式(3a)で表される代表的なジハライドには、下記(i)〜(iv)に記載の化合物などが含まれる。
【0055】
(i)DがC6−10芳香族炭化水素環[例えば、ベンゼン環(又はフェニレン基、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基など)又はナフタレン環(又はナフチレン基、例えば、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基など)]であり、R、R及びRが、同一又は異なってアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基)であり、s1及びs2が0であり、s3が1〜3(例えば、1又は2)であり、m5、m7及びm9が同一又は異なって0又は1〜2(例えば、m5及びm9が0、m7が0又は1〜2)であるジハライド。
【0056】
(ii)Dが芳香族複素環[例えば、ピリジン環(又はピリジンジイル基、例えば、2,6−ピリジンジイル基など)などの芳香族複素6員環]であり、R、R及びRが、同一又は異なってアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基)であり、s1及びs2が0であり、s3が1であり、m5、m7及びm9が同一又は異なって0又は1〜2(例えば、m5、m7及びm9が0)であるジハライド。
【0057】
(iii)Dがエーテル基又はチオエーテル基(例えば、エーテル基)であり、R〜Rが、同一又は異なってアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基)であり、s1〜s3が1であり、m5〜m9が同一又は異なって0又は1〜2(例えば、m5〜m9が0)であるジハライド。
【0058】
(iv)Dが直接結合であり、R及びRが、同一又は異なってアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基)であり、s1が1であり、s2及びs3が0であり、m5及びm6が同一又は異なって0又は1〜2(例えば、m5及びm6が0)であるジハライド。
【0059】
これらの化合物(iv)のうち、R及びRがC1−4アルキル基である化合物、又はm5及びm6が0である化合物は、高い光学特性(高屈折率)を有するポリスルホンを生成するのに適している。
【0060】
また、前記式(3b)で表される代表的なジハライドには、下記(v)〜(vi)に記載の化合物などが含まれる。
【0061】
(v)DがC6−10芳香族炭化水素環[例えば、ベンゼン環(又はフェニレン基、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基など)など]であり、Y及びYが置換基を有していてもよいアルケニレン基(例えば、シアノビニレン基などの置換基を有していてもよいC2−4アルケニレン基、特に置換基を有していてもよいビニレン基)であり、R、R、及びRが、同一又は異なってアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基)であり、m5、m7及びm9が同一又は異なって0又は1〜2(例えば、m5、m7及びm9が0)であるジハライド。
【0062】
(vi)芳香族複素環(例えば、オキサジアゾール環などの芳香族複素5員環)であり、Y及びYが直接結合であり、R、R及びRが、同一又は異なってアルキル基又はアルコキシ基(例えば、メチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基)であり、m5、m7及びm9が同一又は異なって0又は1〜2(例えば、m5、m7及びm9が0)であるジハライド。
【0063】
(スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン)
本発明のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、前記ジチオール類又はその誘導体と、1種の前記ジハライドとを重合成分とするホモポリマーの酸化物であってもよく、少なくとも1種の前記ジチオール類又はその誘導体と、2種以上(例えば2〜3種、特に2種)の前記ジハライドとを重合成分とするコポリマーの酸化物であってもよい。例えば、ジハライドを2種使用する場合の割合は、第1のジハライド/第2のジハライド(モル比)=5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20(例えば、30/70〜70/30)程度であってもよい。また、スピロビフルオレン骨格含有コポリマーは、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマーなどであってもよい。前記スピロビフルオレン骨格含有コポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーなどであってもよい。
【0064】
前記スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、ガラス転移温度Tg及び5%分解温度が高く、耐熱性に優れている。スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのガラス転移温度Tgは、200℃以上(例えば、200〜500℃程度)、好ましくは210〜450℃、さらに好ましくは220〜400℃(特に230〜380℃)程度である。また、5%分解温度は、例えば、250〜600℃、好ましくは300〜580℃、さらに好ましくは350〜550℃程度である。
【0065】
前記スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、屈折率が高い。前記スピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの屈折率は、波長587.6nmにおいて、1.60以上(例えば、1.62〜1.9)、好ましくは1.63〜1.85、さらに好ましくは1.64〜1.8(特に1.65〜1.75)程度である。さらに、フィルムの複屈折も低く、厚み約50μmにおいて、例えば、0.1×10−4〜30×10−4、好ましくは0.5×10−4〜20×10−4、さらに好ましくは1×10−4〜15×10−4(特に2×10−4〜12×10−4)程度である。
【0066】
スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mnは、例えば、1,500〜500,000、好ましくは1,800〜200,000、さらに好ましくは2,000〜100,000(特に、2,500〜50,000)程度であってもよい。また、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、例えば、1〜20、好ましくは1.5〜15、さらに好ましくは1.8〜12(特に2〜10)程度であってもよい。なお、上記、数平均分子量及び分子量分布は、ポリスチレンを基準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより評価した値である。
【0067】
[スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの製造方法]
本発明のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、特に限定されないが、通常、式(2)で表されるジチオール類又はその誘導体と、式(3)で表される芳香族炭化水素環を少なくとも含むジハライドとを重合させて生成したポリチオエーテルを酸化することにより製造できる。
【0068】
(ポリチオエーテルの重合工程)
前記ジハライドの割合は、前記ジチオール類又はその誘導体1当量に対して、0.5〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.3当量、さらに好ましくは0.9〜1.1当量、通常1当量程度である場合が多い。
【0069】
また、少なくとも1種の前記ジチオール類又はその誘導体と、2種以上(例えば2〜3種、特に2種)の前記ジハライドとを反応させて、チオエーテルスピロビフルオレン骨格含有コポリマーを製造することもできる。前記ジハライドの総量の割合は、前記ジチオール類又はその誘導体1当量に対して、0.5〜1.3当量、好ましくは0.8〜1.5当量、通常1当量程度である場合が多い。例えば、ジハライドを2種使用する場合の割合は、第1のジハライド/第2のジハライド(モル比)=5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20(例えば、30/70〜70/30)程度であってもよい。
【0070】
前記重合反応は、触媒の存在下で行ってもよい。前記触媒としては、塩基触媒、酸触媒などが例示でき、通常、塩基触媒を使用することが多い。塩基触媒としては、金属水酸化物(水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属酸化物など)、金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸水素塩など)などの無機塩基;アミン類[例えば、第3級アミン類(N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、1−メチルイミダゾールなどの複素環式第3級アミン)など]、カルボン酸金属塩(酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどの酢酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩など)などの有機塩基などが例示できる。これの触媒のうち、金属炭酸塩、特に、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などが好ましい。触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0071】
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて調整でき、ジチオール類又はその誘導体1モルに対して、0〜5モルの範囲から選択でき、例えば、0.001〜4.5モル、通常、0.01〜4モル、好ましくは0.01〜3.5モル、さらに好ましくは0.05〜3モル程度であってもよい。
【0072】
重合反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、溶媒の存在下で行う場合が多い。溶媒は、特に限定されず、幅広い範囲で使用できる。代表的な溶媒(有機溶媒)としては、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、複素環化合物(N−メチル−2−ピロリドンなど)、スルホン系溶媒(スルホラン、ジメチルスルホンなどの脂肪族スルホン、ジフェニルスルホンなどの芳香族スルホンなど)などが挙げられる。これらの溶媒のうち、特に、N−メチル−2−ピロリドンなどの複素環化合物;スルホラン、ジフェニルスルホンなどのスルホン系溶媒などの高沸点溶媒(例えば、沸点が180℃以上(例えば、200〜500℃、好ましくは210〜450℃、さらに好ましくは220〜400℃程度)の溶媒など)が好ましい。前記溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0073】
溶媒の使用量は、前記ジチオール類又はその誘導体及び前記ジハライドの総量1重量部に対して、0.1〜30重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜5重量部程度であってもよい。
【0074】
重合反応は、使用するジチオール類又はその誘導体、ジハライド、触媒などの種類に応じて異なるが、通常、加熱下で行うことが多く、例えば、120〜350℃、好ましくは130〜330℃、さらに好ましくは140〜310℃(例えば180〜250℃)程度で行う場合が多い。加熱は、昇温及び/又は降温操作などを適宜利用してもよく、略一定の温度にて一段階で行ってもよく、異なる温度で複数段階の加熱を行ってもよい。なお、反応時間は、例えば、30分〜48時間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは1.5〜16時間(例えば、2〜10時間)程度であってもよい。
【0075】
分子量分布幅が狭く、均一で高分子量のポリマーを得る場合には、複数の工程で加熱して重合を行ってもよい。複数の加熱工程では、順次加熱温度を高くする場合が多い。例えば、二段階加熱において、一段階目の加熱温度は、例えば、120〜250℃、好ましくは140〜240℃、さらに好ましくは150〜230℃程度であってもよい。また、二段階目の加熱温度は、例えば、190〜350℃、好ましくは200〜330℃、さらに好ましくは210〜310℃程度であってもよい。なお、複数段階の加熱により重合を行う場合、後続の加熱温度への移行は連続的に行ってもよく、時間的間隔を置いて行ってもよい。なお、二段階加熱による重合反応では、一段階目及び二段階目の加熱時間は、それぞれ、例えば、30分〜24時間、好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは1.5〜8時間程度の範囲から適宜選択できる。なお、反応は、攪拌しながら行ってもよい。
【0076】
反応は、空気中で行ってもよいが、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下又は流通下で行ってもよい。また、反応は、常圧又は加圧下でおこなってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)などにより確認(又は追跡)できる。
【0077】
(ポリチオエーテルの酸化工程)
ポリスルホンは、前記ジチオール類又はその誘導体と前記ジハライドとの重合物であるポリチオエーテルを酸化工程に供することにより得られる。
【0078】
酸化工程で使用される酸化剤としては、慣用の酸化剤を利用でき、例えば、酸素、オゾン、無機過酸化物[例えば、過酸化水素、過酸化金属類(過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化マグネシウムなど)、過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)など]、マンガン化合物(例えば、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸など)、無機酸(クロム酸、硝酸、次亜塩素酸ナトリウム、メタ過ヨウ素酸ナトリウムなど)、金属酸化物(酸化ルテニウム、酸化オスミウムなど)、有機過酸化物[例えば、過酸(過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、過安息香酸など)、過酸化アルキル、過酸化アシル、ヒドロパーオキシド(クメンヒドロパーオキシドなど)など]などが利用できる。これらの酸化剤のうち、無機及び有機過酸化物、マンガン化合物、無機酸などが好ましく、副生成物の発生を抑制でき、簡便な点から、過酸化水素(過酸化水素水)が特に好ましい。
【0079】
酸化工程における溶媒としては、酸化剤の種類に応じて、適宜選択でき、重合工程における前述の溶媒(例えば、塩化メチレンやクロロホルムなど)などを利用できる。酸化剤として過酸化水素などの無機又は有機過酸化物を利用する場合、酸化効率を向上する点から、酸性の溶媒、例えば、ギ酸、酢酸、ハロ酢酸、プロピオン酸などの有機酸(特にギ酸)などが好ましい。さらに、慣用の酸化触媒、例えば、遷移金属化合物や、ホウ素化合物などを使用してもよい。
【0080】
酸化剤の使用量は、酸化剤の種類に応じて選択できるが、例えば、ポリチオエーテル1重量部に対して、例えば、0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部(特に1〜5重量部)程度であってもよい。
【0081】
酸化反応は、使用する酸化剤や溶媒などの種類に応じて異なるが、酸化反応を促進するために、通常、加熱下で行うことが多い。例えば、ギ酸を溶媒として、過酸化水素水を使用した場合、比較的穏やかな条件で酸化反応することができ、加熱温度は、例えば、20〜100℃、好ましくは30〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃程度である。なお、反応時間は、例えば、10分〜24時間、好ましくは20分〜12時間、さらに好ましくは1〜10時間(特に2〜8時間)程度であってもよい。
【0082】
この酸化工程により、ポリチオエーテルのチオエーテル基は、スルホニル基に酸化され、スピロビフルオレン骨格を有するポリスルホンが得られる。通常、ポリスルホンを得るために、全てのチオエーテル基が酸化されるように、酸化条件は調整されるが、一部に、チオエーテル基やスルホキシドが含まれていてもよい。ポリスルホンの酸化率(前駆体であるポリチオエーテルの全チオエーテル基に対するポリスルホンにおけるスルホニル基の割合)は、例えば、80モル%以上(例えば、80〜100モル%)、好ましくは90モル%以上(例えば、90〜100モル%、さらに好ましくは99モル%以上(例えば、99〜100モル%)程度であってもよい。なお、ジハライド由来の骨格がチオエーテル基などの酸化可能な基を有する場合も同様に酸化される。
【0083】
なお、反応終了後、生成物であるスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、慣用の分離方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの特性は、以下の方法により測定又は評価した。
【0086】
(1)数平均分子量測定
スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの分子量(数平均分子量Mn)及びその分布(Mw/Mn)は、溶出液としてクロロホルムを用い、30℃の条件で、連結カラム(東ソー(株)製、TSK−gel G2000HXL、TSK−gel GMHXL、TSKガードカラムHXL−H)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン基準によって見積もった。
【0087】
(2)ガラス転移温度(Tg)測定
示差走査熱量計(島津製作所(株)製、「DSC−60」)を用い、50ml/分の窒素流下、10℃/分の昇温条件で測定した。
【0088】
(3)熱重量分析(TG)
熱重量分析(TG)は、島津製作所(株)製、「TGA−50」装置を用いて、窒素雰囲気下及び空気雰囲気(流量50ml/分)中、昇温速度10℃/分で行い、熱分解温度を測定した。
【0089】
(4)FT/IRスペクトル
FT/IRスペクトルは、JASCO製、FT/IR−230を用いてKBr法により測定した。
【0090】
(5)H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトル
H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルは、内標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用い、溶媒としてCDClを用いて、JEOL AL−400によって測定した。
【0091】
(6)溶媒溶解性
スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン3mgを表1に示す溶媒1mLに混合し、溶媒溶解性を以下の基準で評価した。
【0092】
A…瞬時に溶解した
B…ゆっくり溶解した
C…加熱により溶解した
D…加熱により一部溶解した
E…溶解しなかった。
【0093】
(7)屈折率
カルニュー精密屈折計 KPR−30((株)島津デバイス製造製)を用い、587.6nmでの屈折率を測定した。なお、サンプルは、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンをNMP(N−メチルピロリドン)に溶解し、キャスト後、150℃にてアニールして作成したものを用いた。
【0094】
(8)複屈折
複屈折は、カルニュー精密屈折計 KPR−30((株)島津デバイス製造製)を用いて、厚み約50μmのフィルムを用い測定した。
【0095】
(ジチオール類の誘導体の合成)
ジチオール類の誘導体2cを以下の反応工程に従って製造した。
【0096】
【化7】

【0097】
50mlナスフラスコにメタノール16ml、水酸化カリウム1.45g(25.8mmol)を添加して溶解させ、0℃に冷却した。スピロビフルオレン−2,2′−ジオール(2a)3.00g(8.61mmol)を添加し、そのまま1時間攪拌した。その後、この混合物に、さらにN,N−ジメチルチオカルバモイルクロライド3.19g(25.8mmol)を添加した後、60℃に昇温し、温度を保持したまま2時間撹拌を続けた。得られた淡黄色沈殿物を濾過により収集し、メタノール水溶液(メタノール/水(体積比)=1:1、室温)で洗浄し、白色の固体を得た。この白色固体をシリカゲルカラム(溶出液:ジクロロメタン/ヘキサン(体積比)=2/1)で精製し、白色固体であるO,O′−9,9′−スピロビ(フルオレン)−2,2′−ジイル−ビス(ジメチルカルバモチオエート)(2b)2.79g(収率62%)を得た。なお、固体の融点は250.2〜255.0℃であった。
【0098】
以下に、得られた白色固体(2b)のIRスペクトルデータ、H−NMRスペクトルデータ、13C−NMRスペクトルを示す。
【0099】
IR(KBr)νmax:2937(CH),1609(C=O),1585,1525,1451,1389,1289,1236,1193,1168,1143,1123,1004,829,762,744,724cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ7.81(d,2H),7.77(d,2H),7.34(dd,2H),7.12−7.07(m,4H),6.77(d,2H),6.47(d,2H),3.34(s,6H),3.18(s,6H);
13C−NMR(100MHz,CDCl,298K)δ187.5(2C),153.7(2C),149.3(2C),148.4(2C),140.9(2C),139.4(2C),127.9(2C),127.8(2C),124.1(2C),122.7(2C),120.0(2C),119.8(2C),118.7(2C),65.8,43.1(2C),38.6(2C)ppm;
Anal.Calcd for C3126:C,71.24:H,5.01:N,5.36:S,12.27.Found:C,7152:H,4.76:N,5.31:S,12.29。
【0100】
得られた白色固体(2b)2.00g(3.83mmol)及びジフェニルエーテル(DPE)3mlの混合液をアルゴンガスの入口を備えたナスフラスコに入れ、アルゴンガスでバブリングしながら、280℃で3.5時間加熱した。時間が経つにつれて溶液は淡い黄色になっていった。室温に冷却した後、メタノールを添加し、析出した沈殿物を濾過し、メタノール水溶液(メタノール/水(体積比)=1:1)で洗浄した。さらに、白色沈殿物を、クロロホルム及び酢酸エチルの混合液で再結晶し、白色沈殿物であるS,S′−9,9′−スピロビ(フルオレン)−2,2′−ジイル−ビス(ジメチルカルバモチオエート)(2c)1.19gを得た(収率60%)。なお、白色沈殿物(2c)の融点は272.4〜274℃であった。
【0101】
以下に、得られた白色沈殿物(2c)のIRスペクトルデータ、H−NMRスペクトルデータ、13C−NMRスペクトルを示す。
【0102】
IR(KBr)νmax:2926(CH),1662(C=O),1444,1361,1258,1099,906,830,759,731,687cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ7.84(d,2H),7.82(d,2H),7.54(dd,2H),7.36(dd,2H),7.18(dd,2H),6.83(d,2H),6.28(d,2H),2.97(s,12H)ppm;
13C−NMR(100MHz,CDCl,298K)δ166.6(C=O)(2C),148.5(2C),148.4(2C),142.7(2C),140.8(2C),135.8(2C),130.6(2C),128.4(2C),127.9(2C),127.8(2C),124.2(2C),120.3(2C),120.3(2C),65.7(cardo C),36.8(CH)(4C)ppm;
HRMS−FAB(m/z):[M+Na]calcd for C3126Na,545.1333;found,545.1338。
【0103】
(スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン)
(実施例1)
S,S′−9,9′−スピロビ(フルオレン)−2,2′−ジイル−ビス(ジメチルカルバモチオエート)(2c)0.1568g(0.300mmol)、ビス(4−フルオロフェニル)ケトン0.300mmol、ジフェニルスルホン0.900g、炭酸セシウム0.048g(0.150mmol)、炭酸カルシウム0.09g(0.900mmol)をアルゴン流通下で30mlの二口ナスフラスコに仕込んだ。この混合液を200℃で2時間加熱を続けた。その後、昇温して210℃、220℃、230℃で15分ずつ加熱した後、240℃に昇温し、この温度で2.5時間保ち重合反応を行った。得られた混合液に、酢酸(0.5mL)を添加して反応を停止さえた後、メタノールを注入し、ポリマーの沈殿物を得た。沈殿物を濾過により収集し、メタノールで洗浄した。得られた粗ポリマーを、クロロホルムに溶解し、セライトろ過により塩を除去した後、クロロホルム及びメタノールの溶液中で再沈殿により精製し、スピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルを得た(収率91%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの数平均分子量Mnは7,300、分子量分布Mw/Mnは1.6であった。
【0104】
さらに、得られたポリチオエーテル0.100g、ギ酸2mlを10mlナスフラスコに仕込み、50℃に加熱した後、30%過酸化水素水溶液1mlを滴下し、50℃で2時間攪拌した。反応溶液をろ過し、得られた白色固体をメタノールで洗浄し、乾燥して下記式で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン0.102gを得た(収率93%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mn7,400、分子量分布Mw/Mn2.1、スルホン化率(酸化率)100%であった。
【0105】
【化8】

【0106】
以下に、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのIRスペクトルデータ及びH−NMRスペクトルデータを示す。
【0107】
lR(KBr)νmax:3060,1671,1596,1398,1321,1150,1091,928,720,608cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ7.97(d,2H),7.92(d,2H),7.88(d,2H),7.84(d,4H),7.74(d,J=8.7Hz,4H),7.40(dd,2H),7.30(s,2H),7.17(dd,2H),6.64(s,2H)ppm。
【0108】
(実施例2)
ビス(4−フルオロフェニル)ケトンの代わりに、1,4−ビス(4−フルオロベンゾイル)ベンゼン0.300mmolを用い、240℃で3時間重合反応させる以外は実施例1と同様にして、下記式で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを得た(収率93%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mn9,000、分子量分布Mw/Mn2.3、スルホン化率(酸化率)100%であった。前駆体のスピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの数平均分子量Mnは12,000、分子量分布Mw/Mnは3.8であり、収率は96%であった。
【0109】
【化9】

【0110】
以下に、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのIRスペクトルデータ及びH−NMRスペクトルデータを示す。
【0111】
lR(KBr)νmax:3060,1664,1596,1398,1322,1268,1149,1091,924,745,695,617cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ7.99(d,2H),7.94(d,2H),7.89(d,2H),7.86(d,4H),7.82(d,4H),7.80(s,4H),7.42(dd,2H),7.33(s,2H),7.18(dd,2H),6.66(d,2H)ppm。
【0112】
(実施例3)
ビス(4−フルオロフェニル)ケトンの代わりに、5−t−ブチル−1,3−ビス(4−フルオロベンゾイル)ベンゼン0.300mmolを用い、240℃で6時間重合反応させる以外は実施例1と同様にして、下記式で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを得た(収率94%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mn2,900、分子量分布Mw/Mn9.1、スルホン化率(酸化率)100%であった。前駆体のスピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの数平均分子量Mnは5,400、分子量分布Mw/Mnは8.4であり、収率は93%であった。
【0113】
【化10】

【0114】
以下に、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのIRスペクトルデータ及びH−NMRスペクトルデータを示す。
【0115】
lR(KBr)νmax:3062,1670,1590,1397,1324,1247,1151,1092,1003,710,613cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ8.00(d,2H),7.98(brd,2H),7.93−7.89(m,4H),7.85(d,2H),7.82−7.80(m,5H),7.41(dd,2H),7.35(s,2H),7.18(dd,2H),6.65(d,2H),1.31(s,9H)ppm。
【0116】
(実施例4)
ビス(4−フルオロフェニル)ケトンの代わりに、2,5−ビス(4−フルオロフェニル)−1,3,4−オキサゾール0.300mmolを用い、240℃で6時間重合反応させる以外は実施例1と同様にして、下記式で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを得た(収率93%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mn3,600、分子量分布Mw/Mn2.9、スルホン化率(酸化率)100%であった。前駆体のスピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの数平均分子量Mnは27,000、分子量分布Mw/Mnは6.5であり、収率は91%であった。
【0117】
【化11】

【0118】
以下に、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのIRスペクトルデータ及びH−NMRスペクトルデータを示す。
【0119】
lR(KBr)νmax:3052,1542,1407,1322,1150,1092,1014,754,617cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ8.18(d,4H),7.97(d,2H),7.92(d,2H),7.88−7.86(m,6H),7.40(dd,2H),7.30(s,2H),7.16(dd,2H),6.63(d,2H)ppm。
【0120】
(実施例5)
ビス(4−フルオロフェニル)ケトンの代わりに、1,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)−2,6−ジメチルナフタレン0.300mmolを用い、240℃で4時間重合反応させる以外は実施例1と同様にして、下記式で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを得た(収率96%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mn9,600、分子量分布Mw/Mn2.2、スルホン化率(酸化率)100%であった。前駆体のスピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの数平均分子量Mnは22,000、分子量分布Mw/Mnは2.65であり、収率は43%であった。
【0121】
【化12】

【0122】
以下に、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのIRスペクトルデータ及びH−NMRスペクトルデータを示す。
【0123】
lR(KBr)νmax:3058,1672,1594,1446,1400,1322,1149,1091,976,583cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ7.98(d,2H),7.92(d,2H),7.89(d,2H),7.84(d,4H),7.81(d,4H),7.42(dd,2H),7.36(d,2H),7.31(s,2H),7.21(d,2H),7.18(dd,2H),6.65(d,2H),2.16(s,6H)ppm。
【0124】
(実施例6)
ビス(4−フルオロフェニル)ケトンの代わりに、ビス[4−(4−フルオロベンゾイル)フェニル]ケトン0.300mmolを用い、240℃で6時間重合反応させる以外は実施例1と同様にして、下記式で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを得た(収率97%)。得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンの数平均分子量Mn8,700、分子量分布Mw/Mn2.2、スルホン化率(酸化率)100%であった。前駆体のスピロビフルオレン骨格含有ポリチオエーテルの数平均分子量Mnは14,000、分子量分布Mw/Mnは2.2であり、収率は82%であった。
【0125】
【化13】

【0126】
以下に、得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンのIRスペクトルデータ及びH−NMRスペクトルデータを示す。
【0127】
lR(KBr)νmax:3060,1666,1596,1399,1268,1151,1091,921,754,696,614,586cm−1
H−NMR(400MHz,CDCl,298K)δ8.00(d,2H),7.96(d,2H),7.92−7.81(m,20H),7.43(dd,2H),7.34(s,2H),7.19(dd,2H),6.67(d,2H)ppm。
【0128】
実施例で得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンについて、熱的特性を測定した結果を表1に示す。なお、表1において、「Tg」とはガラス転移温度を示し、「Td」とは、熱分解温度を示し、「N」は窒素雰囲気下、「Air」とは空気雰囲気下での測定値であることを示し、「5%」などの値は、ポリマー重量が5%減少する温度を示す。例えば、Td(5%,N)とは、窒素雰囲気下において、ポリマー全体の5重量%が減少する温度を示す。
【0129】
【表1】

【0130】
表1の結果から、いずれも高いガラス転移温度及び熱分解温度を有し、高い耐熱性を示している。
【0131】
また、実施例で得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンについて、溶媒溶解性を評価した結果を表2に示す。なお、THFは「テトラヒドロフラン」、DMFは「ジメルホルムアミド」、DMAcは「ジメチルアセトアミド」、NMPは「N−メチルピロリドン」、DMSOは「ジメチルスルホキシド」を示す。
【0132】
【表2】

【0133】
表2の結果から、いずれも優れた溶媒溶解性を示す。特に、実施例1〜4のポリスルホンは、全ての溶媒に対して溶解性を示す。
【0134】
さらに、実施例1〜4で得られたスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンについて、屈折率を波長587.6nmで測定した結果を表3に示す。なお、参考のため、汎用ポリマーの屈折率も併せて表3に示す。PCは「ポリカーボネート」、PESは「ポリエーテルスルホン」、PVDCは「ポリビニリデンクロライド」、PVCは「ポリビニルカルバゾール」、PTEFは「ポリテトラフルオロエチレン」を示す。
【0135】
【表3】

【0136】
表3の結果から、いずれも高い屈折率及び低い複屈折を示す。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、耐熱性に優れるため、各種電子機器又は機械部品(例えば、航空機用コネクタ、自動車エンジン部品、電子部品、プリント配線基板、電子機器や液晶部材の保護膜、純粋製造器部品など)、各種ケーブル用途(油田用信号ケーブル、電子力発電用ケーブル、船舶ケーブル、ロボット用ケーブルなど)、フィルム、モノフィラメントなどに利用できる。また、スピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンは、屈折率が高く、光学特性に優れるため、光学機器用部品、例えば、自動車用ヘッドランプレンズ、CD(コンパクトディスク)[CD−ROM(シーディーロム:コンパクトディスク−リードオンリーメモリー)など]、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθ(エフシータ)レンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ、位相差フィルム、拡散フィルムなどのフィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基板などの用途にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、A及びAは同一又は異なってアルキレン基を示し、Zは芳香族炭化水素環を少なくとも含む二価基を示し、R〜Rは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基又はハロゲン原子を示し、n1及びn2は0以上の整数、m1〜m4は0〜4の整数である。但し、スピロビフルオレン骨格に結合するスルホニル基を含む2つの単位は、それぞれの単位が、スピロビフルオレン骨格を構成するベンゼン環のうち、異なるベンゼン環に結合している限り、いずれのベンゼン環に結合していてもよい)
で表される構造単位を有するスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン。
【請求項2】
式(1)において、Zが、式(1a):
【化2】

(式中、環Z〜Zは芳香族炭化水素環を示し、Dは芳香族炭化水素環、複素環、エーテル基、スルホニル基又は直接結合を示し、Y及びYは同一又は異なって直接結合又は連結基を示し、R〜Rは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基又はハロゲン原子を示し、s1及びs2は同一又は異なって0又は1を示し、s3は1〜6の整数を示し、m5〜m9は同一又は異なって0又は1〜8の整数を示す。ただし、Dがエーテル基、スルホニル基又は直接結合であるとき、m7=0である)
で表される請求項1記載のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン。
【請求項3】
式(1a)において、環Z〜ZがC6−10芳香族炭化水素環であり、DがC6−10芳香族炭化水素環、芳香族複素環、エーテル基、チオエーテル基又は直接結合であり、Y及びYが直接結合、カルボニル基、オキシカルボニル基、アミド基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、置換基を有していてもよいアルキニレン基、又は置換基を有していてもよいアリーレン基である請求項2記載のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホン。
【請求項4】
式(2):
【化3】

(式中、A及びA、R〜R、n1及びn2、m1〜m4は前記に同じ)
で表されるジチオール類又はその誘導体と、式(3):
−Z−X (3)
(式中、X及びXは同一又は異なってハロゲン原子を示し、Zは前記に同じ)
で表されるジハライド化合物とを重合させて生成したポリチオエーテルを酸化して、請求項1記載のスピロビフルオレン骨格含有ポリスルホンを製造する方法。

【公開番号】特開2011−57949(P2011−57949A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212460(P2009−212460)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集II、発行所:社団法人日本化学会、発行日:平成21年3月13日
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】