説明

スピーカー用振動板

【課題】成形性と高出力時の耐久性に優れたスピーカー用振動板、及びスピーカー振動板用フィルムを得る。
【解決手段】ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを成形してなることを特徴とするスピーカー用振動板、及び平均厚みが40μm以下であることを特徴とするポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー用振動板に関し、さらに詳細には、成形性と高出力時の耐久性に優れたスピーカー用振動板およびこれに好適に用いられるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スピーカー用振動板には、音響輻射音圧レベルを維持するため密度が低いこと、歪を抑制して耐許容入力を大きく保持するため剛性が大きいことに加えて、再生周波数帯を広げるため比弾性率が大きいこと、振動板の分割振動を抑え周波数特性を平坦にするため内部損失が大きいことなどが要求される。また、スピーカーの駆動源であるボイスコイル近傍や車載用スピーカーなどに使用する場合には、振動板が高温に長時間さらされるため、このような使用条件下で十分に耐えうる耐熱性が必要となる。
【0003】
一方、近年、モバイルやユビキタス社会あるいは、音楽ソースのデジタル化などを背景に、各種小型電子機器(例えば、携帯電話、PDA、ノートブックコンピューター、DVD、液晶TV、デジタルカメラ、携帯音楽機器など)の高機能化、高性能化が行われている。これらに用いられているスピーカー(通常、マイクロスピーカーと呼ばれる)においても、例えば、携帯電話のスピーカー用振動板に要求される耐入出力レベルが通常、汎用機種の0.3W程度に対して、高出力機種では、0.6W程度以上と向上してきている。
【0004】
ここで例えば、特許文献1及至3には、芳香族ポリサルホン樹脂、具体的には、ポリエーテルサルホン樹脂からなるフィルムを成形したスピーカー用振動板が開示されている。これらの特許文献では、ポリエーテルサルホン樹脂からなるフィルムを用いることでスピーカー用振動板の成形性、耐熱性や音響特性などに優れることが記載されている。しかしながら、これらの特許文献に記載のスピーカー用振動板では、高出力時の耐久性が不十分であり、振動板の亀裂や破壊などが発生しやすいという問題があった。また、これらの特許文献には、芳香族ポリサルホン樹脂の構造、特に、特定の繰り返し単位を有する芳香族ポリサルホン樹脂からなるフィルムを成形したスピーカー用振動板と高出力時の耐久性については記載も検討もされていない。
【0005】
一方、高出力時の耐久性に優れたスピーカー用振動板としては、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)フィルムやポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)フィルムなどの二軸延伸熱固定フィルムが用いられている。しかしながら、これらのフィルムは、結晶性で剛性が高すぎるために最低共振周波数(f:エフゼロ)が高く、低音再生性に劣るなど音響特性が不十分であったり、特に、振動板の成形性(プレス成形や真空成形など)や成形サイクルがガラス転移温度(Tg)の高い非晶性樹脂(ポリエーテルイミドなど)からなるフィルムよりも劣るという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−139099号公報
【特許文献2】特開昭59−63897号公報
【特許文献3】特開2002−291092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形性と高出力時の耐久性に優れたスピーカー用振動板とこれに用いられるスピーカー振動板用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の繰り返し単位を有する芳香族ポリサルホン樹脂を含有するフィルムを用いることにより、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨とするところは、
下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを成形してなることを特徴とするスピーカー用振動板に存する。
【化1】

(式中、R乃至Rは、−O−、−SO−、−S−、C=Oである。但し、R乃至Rのうちの少なくとも1つは、−SO−であり、且つ、R乃至Rのうちの少なくとも1つは、−O−である。Ar、Ar及びArは、6〜24の炭素原子を含有するアリーレン基であり、好ましくは、フェニレン又はビフェニレンである。a及びbは、0又は1のいずれかである。)
【0009】
ここで、前記ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムは、下記構造式(2)の繰り返し単位を有するポリフェニルサルホン樹脂が主成分として好適に用いることができる。
【化2】

【0010】
また、本発明の別の要旨は、平均厚みが40μm以下であることを特徴とするポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するスピーカー振動板用フィルムに存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形性と高出力時の耐久性に優れたスピーカー用振動板とこれに用いられるスピーカー振動板用フィルムが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものである。また、本発明における主成分とは、最も多量に含有されている成分のことであり、通常50質量%以上含有する成分のことである。
【0013】
本発明のスピーカー用振動板は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを成形してなることを特徴とする。ここで、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂とは、その構造単位に芳香核結合、スルホン結合、エーテル結合およびビフェニル結合を含む熱可塑性樹脂であり、下記構造式(1)の繰り返し単位を有する芳香族ポリサルホン樹脂である。
【0014】
【化1】

(式中、R乃至Rは、−O−、−SO−、−S−、C=Oである。但し、R乃至Rのうちの少なくとも1つは、−SO−であり、且つ、R乃至Rのうちの少なくとも1つは、−O−である。Ar、Ar及びArは、6〜24の炭素原子を含有するアリーレン基であり、好ましくは、フェニレン又はビフェニレンである。a及びbは、0又は1のいずれかである。)
【0015】
一般に、ビフェニル又はビフェニレン基の濃度が高くなる程、ポリマーの耐衝撃性などの特性は良好になる傾向にある。構造式(1)において、好ましくは50モル%以上、より好ましくは75モル%以上のアリーレン基Ar、Ar及びArは、p−ビフェニレンのようなビフェニレン基である。このビフェニル結合を必須の構成単位として含有することで高出力時の耐久性に優れるものと思われる。また、繰り返し単位数は、1〜100の整数であり、機械物性の確保の点から、通常20〜50のものが好適に用いられる。
【0016】
ここで、構造式(1)の繰り返し単位を有するポリビフェニルエーテルサルホン樹脂としては、種々の組み合わせの繰り返し単位を有するものがあるが、本発明においては、ガラス転移温度(Tg)が150〜320℃、好ましくは、160〜300℃、特には180〜250℃であるものが好適に用いられる。ガラス転移温度(Tg)が150℃以上であれば、スピーカーの駆動源であるボイスコイル近傍や車載用スピーカーなどに使用する場合にも十分耐熱性があるため好ましく、一方、320℃以下であれば、振動板の成形(プレス成形や真空成形など)も比較的低温で行えるため好ましい。
【0017】
本発明においては、特に、下記構造式(2)の繰り返し単位を有するガラス転移温度(Tg)が220℃のポリフェニルサルホン樹脂がフィルムの製膜加工性、振動板の加工性、耐熱性、音響特性および高出力時の耐久性などの点から好適に用いられる。具体的には、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)から商品名「Radel R」として商業的に入手可能である。
【0018】
【化2】

【0019】
本発明で用いられるポリビフェニルエーテルサルホン樹脂の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が採用できる。これらは、米国特許第3,634,355号、第4,008,203号、第4,108,837号及び第4,175,175号などの明細書に詳述されている。また、市販の樹脂をそのまま使用してもよい。ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂は、1種のみを単独で、又は2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0020】
また、本発明のスピーカー用振動板は、前記したポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを用いればよく、該フィルムを構成する樹脂組成物には、必要性に応じて他の樹脂を混合してもかまわない。混合する場合の混合質量比は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を(A)、他の樹脂を(B)とすると、(A)/(B)=1〜99/99〜1、好ましくは、30〜90/70〜10、更に好ましくは、50〜80/50〜20である。
【0021】
ここで他の樹脂としては、特に制限されるものではないが、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、液晶ポリマーおよび熱可塑性エラストマーなどが挙げられるが、本発明においては、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂との混合性やフィルムの製膜加工性などの点からポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂およびポリエーテルイミド樹脂が好適に用いられ、特にポリエーテルエーテルケトン樹脂が好適に用いられる。これらの混合する他の樹脂は、1種のみを単独で、又は2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0022】
さらに、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを構成する樹脂組成物には、本発明の主旨を超えない範囲で、充填材や各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を適宜配合してもよい。
【0023】
次に、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルム及びその製造方法について説明する。まずフィルムの製膜方法としては、公知の方法、例えばTダイを用いる押出キャスト法やカレンダー法、あるいは流延法等を採用することができ、特に限定されるものではないが、フィルムの生産性等の面からTダイを用いる押出キャスト法が好適に用いられる。Tダイを用いる押出キャスト法での成形温度は、用いる組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ね300℃以上、430℃以下である。
【0024】
本発明で用いられるフィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、スピーカー用振動板としては、5〜150μm、通常8〜100μm程度である。ここで、フィルムの厚み精度(%)(〔(フィルム厚み−平均厚み)/(平均厚み)〕×100)は、再生周波数帯、周波数特性などの音響特性に影響するため、±10%以内であることが好ましく、±8%以内であることがさらに好ましい。また、フィルムの押出機からの流れ方向(MD方向)とその直交方向(TD方向)における物性の異方性をできるだけなくすように製膜することも重要である。
【0025】
このようにして得られたフィルムは、スピーカー用振動板としてさらに加工される。加工方法は特に限定されるものではないが、該フィルムをそのガラス転移温度や軟化温度を考慮して加熱しプレス成形や真空成形等によりドーム形状やコーン形状などに加工される。また、振動板の形状は特に制限されず、任意であり、円形状、楕円形状、オーバル形状などが選択できる。さらに、振動板面には、所謂タンジェンシャルエッジと呼ばれている横断面形状がV字状の溝などを適宜付与することができる。この際、フィルムの平均厚みが40μm以下、より好ましくは20〜38μmであると、厚みが十分確保されているためにハンドリング性も良く、プレス成形等の時間当たりの加工性や加工精度(形状の再現性)が向上しやすいため好ましい。また、振動板の加工適性や防塵性あるいは、音響特性の調整等のために用いるフィルムや成形した振動板の表面にさらに帯電防止剤や各種エラストマー(例えば、ウレタン系、シリコーン系、炭化水素系、フッ素系など)をコーティングしたり、金属を蒸着したり、スパッタリングするなどの処理を適宜行ってもよい。
【0026】
本発明のスピーカー用振動板は、高出力時の耐久性に優れている。例えば、携帯電話においては汎用機種の0.3W程度に対して、高出力機種に適用できる0.6〜1.0W程度の耐出力レベルに対応が可能となる。また、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂は、通常、非晶性の高耐熱樹脂であるため、スピーカー用振動板、特にマイクロスピーカーの振動板としての基本的な音響特性に加えて、耐熱性や振動板加工時の成形性にも優れている。
【0027】
以上、スピーカー用振動板を中心に説明したが、本発明のフィルムから得られる振動板の適用範囲としては、スピーカーに限定されることなく、レシーバやマイクロホン等の電気音響変換器であれば、全てに適用可能である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示されるフィルムについての種々の測定値および評価は次のようにして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向、その直交方向を横方向とよぶ。
【0029】
(1)フィルム比重
得られたフィルムをJIS K7112(D法)により測定した。
【0030】
(2)引張弾性率
得られたフィルムの横方向についてJIS K7127により温度23℃の条件で測定した。
【0031】
(3)耐久性評価
得られたフィルムを加熱しプレス成形によりタンジェンシャルエッジを有するφ16mmの円形状ドーム型振動板を得た。次にボイスコイル、マグネット、フレーム、ダンパーなどによって構成されるマイクロスピーカーユニットを作製した。得られたマイクロスピーカーは、耐久性試験機(SIGMA電子(株)製、ST−2000B)の端子に接続して、ホワイトノイズのEIAモードで、0.3W(1.55V)、0.7W(2.37V)、1.0W(2.83V)3水準で負荷を変化させた時の振動板の状態を次の基準で評価した(評価試料数:5セット)。
(○):4セット以上が100時間の連続入力で振動板に亀裂や破壊が見られないもの
(△):2セット以上に10時間以上100時間未満で振動板に亀裂や破壊が見られるもの
(×):1セット以上に10時間未満で振動板に亀裂や破壊が見られるもの
【0032】
(4)平均厚み
得られたフィルムの横方向から等間隔にマイクロメーターで20点測定し、その平均値を求めた。
【0033】
(実施例1)
ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂として、ポリフェニルサルホン樹脂(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製、Radel R‐5000、Tg:220℃、非晶性樹脂)(以下、単にPPSUと略記することがある)100質量部をTダイを備えた押出機を用いて設定温度370℃で溶融混練し、190℃のキャストロールで急冷製膜することにより平均厚みが35.0μmのフィルムを得た。得られたフィルムを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0034】
(実施例2)
実施例1において、フィルムを構成する樹脂組成物をPPSU100質量部からPPSU50質量部とポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス社製、PEEK450G、Tg:143℃、Tm:334℃)(以下、単にPEEKと略記することがある)50質量部との混合樹脂組成物に変更した以外は、実施例1と同様にして、平均厚みが35.0μmのフィルムを得た。得られたフィルムを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
実施例1において、フィルムを構成する樹脂組成物をPPSU100質量部からポリエーテルサルホン樹脂(住友化学(株)製、スミカエクセルPES4100G、Tg:223℃、非晶性樹脂)(以下、単にPESと略記することがある)100質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、平均厚みが35.0μmのフィルムを得た。得られたフィルムを用いて、評価した結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、本発明のポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを成形してなるスピーカー用振動板は、成形性が良好であり、高出力時の耐久性に優れることが確認できる(実施例1、実施例2)。これに対して、ビフェニル結合を有さない従来のポリエーテルサルホン樹脂からなるフィルムを成形してなるスピーカー用振動板は、成形性には優れるものの、高出力時の耐久性が不十分であることが確認できる(比較例1)。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)の繰り返し単位を有するポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを成形してなることを特徴とするスピーカー用振動板。
【化1】

(式中、R乃至Rは、−O−、−SO−、−S−、C=Oである。但し、R乃至Rのうちの少なくとも1つは、−SO−であり、且つ、R乃至Rのうちの少なくとも1つは、−O−である。Ar、Ar及びArは、6〜24の炭素原子を含有するアリーレン基であり、好ましくは、フェニレン又はビフェニレンである。a及びbは、0又は1のいずれかである。)
【請求項2】
ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムが下記構造式(2)の繰り返し単位を有するポリフェニルサルホン樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1記載のスピーカー用振動板。
【化2】

【請求項3】
平均厚みが40μm以下であることを特徴とするポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するスピーカー振動板用フィルム。


【公開番号】特開2007−221754(P2007−221754A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291149(P2006−291149)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】