説明

スピーカ取り付け構造

【課題】シートの着座フィーリングの向上を図るとともに、スピーカの有無に関わりなく同一のシート構造としてコストの低減を図る。
【解決手段】 左右のシートフレーム間に掛け渡されたSバネ10にスピーカを取り付けるためのスピーカ取り付け構造であって、Sバネ10に樹脂製クリップ14を取り付けるとともに、クリップ14に金属製ブラケットを介してスピーカを固定するように構成され、クリップ14が、Sバネ10の対向する2つの直線部分10a,10bのうち一方の直線部分10aと左右方向から係合する第1係合部21と、Sバネ10の他方の直線部分10bと前後方向から係合する第2係合部22と、第1係合部21と第2係合部22との間に一体に形成されて金属製ブラケットが固定される本体部22とから構成され、第1係合部21が、少なくとも上記の一方の直線部分10aに対し左右方向に変位可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両や映画館のシート等に用いて好適の、スピーカ取り付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車のシートや映画館のシートにスピーカ、特に低音用のスピーカを取り付け、スピーカから発生する振動を着座者の人体に直接伝導することにより、低音域の音を着座者の体全体に感じさせるようにしたスピーカ内蔵式の音響用シートが広く知られている。このような音響用シートは例えばボディソニックなどとも呼ばれ、映画館等のみならず、家庭内での使用を考慮したものもすでに実用化されている。
【0003】
ところで、例えば下記特許文献1には、シートに対するスピーカの取り付け構造に関する技術が開示されている。そして、この特許文献1では、スピーカを取り付けたボードの左右端をそれぞれSバネを介して左右のシートフレームに取り付ける技術が開示されている。つまり、左側シートフレームとスピーカボードの左端との間にSバネを介装し、同様に右側シートフレームとスピーカボードの右端との間に上記Sバネとは別にSバネを介装してスピーカを取り付けているのである。
【特許文献1】特開昭61−191691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなスピーカの取り付け構造では以下のような課題が生じることになる。まず、スピーカボードは剛体であるため、Sバネの伸縮時であってもスピーカボードは弾性変形しない。このため、スピーカが取り付けられていない他のSバネと、スピーカた取り付けられたSバネとで特性が異なってしまい、着座フィーリングが悪化してしまう。
【0005】
また、スピーカを取り付けるシートとスピーカを取り付けないシートとでシートの構成が異なり、このため部品点数が増加し、コスト増を招くという課題がある。さらには、専用の取り付け用のボードが必要になるため重量も増加するという課題がある。
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、シートの着座フィーリングの向上を図るとともに、スピーカの有無に関わりなく同一のシート構造としてコストの低減を図るようにした、スピーカ取り付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明のスピーカ取り付け構造は、左右のシートフレーム間に掛け渡されたSバネにスピーカを取り付けるためのスピーカ取り付け構造であって、該Sバネに樹脂製クリップを取り付けるとともに、該クリップに金属製ブラケットを介してスピーカを固定するように構成され、該クリップが、該Sバネの対向する2つの直線部分のうち一方の直線部分と左右方向から係合する第1係合部と、該Sバネの他方の直線部分と前後方向から係合する第2係合部と、該第1係合部と第2係合部との間に一体に形成されて該金属製ブラケットが固定される本体部とから構成され、該第1係合部が、少なくとも該一方の直線部分に対し左右方向に変位可能に構成されていることを特徴としている。
【0007】
なお、該第1係合部及び該第2係合部がいずれも該直線部分に対して上下方向に変位可能に構成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスピーカ取り付け構造によれば、クリップの第1係合部がSバネの一方の直線部分に対し左右方向に変位可能に構成されているので、Sバネの伸縮時にSバネの伸縮を許容することができる。したがって、クリップがSバネのたわみ(伸縮)を阻害しないので、シートの乗り心地に何ら悪影響を与えることがなく、従来構造のものよりも大幅に着座フィーリングを向上させることができるという利点がある。
【0009】
また、クリップを樹脂で形成しているため、Sバネの伸縮時に、主に第1係合部においてSバネとクリップとが擦れても異音の発生を防止することができる利点がある。
また、スピーカを取り付けるシートと取り付けないシートとではクリップやブラケットの有無が異なるのみであり、シート自体の構造を共通化することができる。したがって部品点数の低下及びコストの低減を図ることができる。また、スピーカを取り付けるシートでは、スピーカ以外に取り付ける部品が樹脂製クリップや金属製ブラケットのみであるので、従来構造のものよりも重量を低減することができる。
【0010】
また、クリップの上下方向への動きを許容することにより、スピーカを取り付ける際の厳密な寸法管理が必要なくなり、この結果コスト低減を図ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかるスピーカ取り付け構造について説明すると、図1は本発明を車両用シートに適用した場合の構成の一例を示す模式図、図2〜図7はいずれも本シートのスピーカ取り付け構造を説明する図であって、図2及び図4はシートバックのフレームを左前方から見た斜視図、図3は同じく左後方から見た斜視図、図5は同じく右後方から見た図である。また、図6及び図7はその要部を拡大して示すものであって、図6(a)及び図7(a)はいずれも、図2,図4と同様に左前方から見た斜視図、図6(b)及び図7(b)はいずれも、図3と同様に左後方から見た斜視図である。
【0012】
図1において、1は車内に設けられたシートであって、ここでは運転席シートを示している。そして、このシート1にはスピーカ2が内蔵されている。また、車内にはオーディオのヘッドユニット(CDプレーヤ,アンプ,チューナ等の機能を一体化したオーディオユニット)3が設けられ、スピーカ2はヘッドユニット3に接続されている。
また、車内には、上記のスピーカ2以外にも、例えばフロントドア等には別のスピーカ6が設けられている。そして、これらのスピーカ2,6からはヘッドユニット3で選択されたソース(音源)の音楽又は音声が出力されるようになっている。
【0013】
次に図2〜図7を用いてスピーカ2の取り付け手法について説明する。ここで、図2〜図7において、符号10,11はいずれもシート1の左右方向に配設されるSバネであって、図2〜図5に示すように、左右のシートフレーム12,13の間に架設されている。なお、Sバネとは、JISのばね用語(JIS B 0103)において定義されている用語のうち、「c).形状」の欄の「3800 その他のバネ」に分類される「3810 ジグザクばね」に相当しており(JISの付図52参照)、このジグザグばねを慣用的にSバネと称している。
【0014】
このSバネ10,11は図中の左右方向(バネの長さ方向)への伸縮を許容することによりシート1の乗り心地に寄与するバネであって、シートフレーム12,13間において、上下方向に複数配設されている。
そして、スピーカ2は、この隣接する2つのSバネ10,11に後述の樹脂製クリップ14,15及び金属製ブラケット16,17を介して固定されるようになっている。ここで、2つのクリップ14,15のうち、図2及び図4に示すように、13は上方のSバネ10に取り付けられる上側クリップであって、15は下方のSバネ11に取り付けられる下側クリップである。なお、これらのクリップ14,15は同一の形状に形成されており、特段の相違はない。したがって、以下では主に上側のクリップ14を用いて説明する。
【0015】
クリップ14は樹脂により一体に形成されたものであり、図6(a),(b)及び図7(a),(b)に示すように、クリップ本体(本体部)20と、クリップ本体20の一方側に形成されたスリット部(第1係合部)21と、クリップ本体20の他方側に形成された係合部(第2係合部)22とを有している。
スリット部21は、Sバネ10の一方の直線部分(一方の直線部分、以下第1直線部という)10aの線径よりも僅かに広い隙間を有して形成されており、このスリット部21において直線部10aが遊嵌されるようになっている。このため、クリップ14をSバネ10に取り付けた後、スリット部21においては左右方向及び上下方向に対してクリップ14とSバネ10との相対変位が許容されるようになっている。
【0016】
また、係合部22は上記第1直線部10aと対向する直線部(他方の直線部分、以下第2直線部という)10bと係合する部位であって、断面が凹部形状に形成されている。そして、この係合部22に第2直線部10bが係合されるようになっている。また、この係合部22では、第2直線部10bに対し上下方向に相対変位が許容されるようになっている。
【0017】
また、図示するように、スリット部21と係合部22とでは、Sバネ10の直線部10a,10bに対する取り付け方向が略直交するように形成されている。具体的には、スリット部21は、シート1の左右方向からSバネ10に向けて差し込むことで第1直線部10aを把持するように形成され、係合部22は、シート1の前後方向からSバネ10に向けて押圧することで第2直線部10bが係合するように形成されている。
【0018】
また、クリップ本体20には図示するように縦方向に2つの穴部20a,20bが形成されており、この穴部20a,20bを介してブラケット16が取り付けられるようになっている。
ここで、図2及び図3に示すように、ブラケット16,17はスピーカ取り付け用の2本のスタッドボルト24,25と、上記スタッドボルト24,25とは反対方向に向けて立設したクリップ14,15への固定用のスタッドボルト26,27(以下、スピーカ取り付け用の2本のスタッドボルト24,25と区別するために小スタッドボルト26,27という)とを備えている。
【0019】
そして、上記小スタッドボルト26,27をSバネ10に固定されたクリップ14,15の穴部20a,20bに挿通してナット28で締結することによりブラケット16,17がクリップ14,15に固定されるようになっている。また、図4,図5に示すように、ブラケット16,17のスタッドボルト24,25とナット29とを用いてスピーカ2が4点で固定されるようになっている。
【0020】
本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造は上述のように構成されているので、その作用等について説明すると以下のようになる。
まず、スピーカ2のシート1への取り付けについて説明する。スピーカ2はシート1の骨格が形成されたのちに表皮を被せる前に取り付けられる。以下、具体的に説明すると、まず最初にクリップ14,15の取り付けを行う。このとき、スリット部21をSバネ10の第1直線部10aに対して左右方向から差込み、上記直線部10aを把持する〔図6(a),(b)の状態〕。次に、スリット部21で把持した第1直線部10aを軸としてクリップ14を回動させて、第2直線部10bと係合部22とを対向させる。そして、この状態で係合部22を前後方向から第2直線部10bに押圧して、係合部22に第2直線部10bを係合させる。これにより、図7(a),(b)に示すような状態でクリップ14がSバネ10に取り付けられる。
【0021】
ここで、スリット部21においては、Sバネ10を左右方向に拘束していないので、Sバネ10が伸びた場合、第1直線部10aとスリット部21との間で左右方向に相対変位が許容され、これによりSバネ10の伸縮を何ら阻害せずにクリップ14,15をSバネ10に取り付けることができる。また、クリップ14,15の上下方向への動きも許容されるので、スピーカ2を取り付ける際の厳密な寸法管理が必要なくなり、この結果コスト低減を図ることが可能となる。
【0022】
そして、クリップ14,15をSバネ10に取り付けた後、ブラケット16,17の小スタッドボルト26,27をクリップ14,15の開口20a,20bに挿通してナット28で締結することにより、クリップ14,15にブラケット16,17が取り付けられる。また、このブラケット16,17に対してスタッドボルト24,25とナット29とを用いてスピーカ2を固定する。
【0023】
これにより、スピーカ2を簡単且つ確実に固定することができる。また、Sバネ10のたわみ(伸縮)を阻害しないので、シート1の乗り心地に何ら悪影響を与えることがないという利点がある。また、Sバネ10が伸縮した場合であっても、クリップ14を樹脂で形成することにより、スリット部21においてSバネ10とクリップ14とが擦れても異音の発生を防止することができる利点がある。
【0024】
また、クリップ14に対して金属製のブラケット16を取り付けることにより、剛性の高い取り付け構造とすることができる。
また、本実施形態のスピーカ取り付け構造によれば、取り付け構造自体を簡素化でき、部品点数を低減することができるほか、これにともない重量も低減することができるという利点がある。また、スピーカ2の有無に関係なくシート1の構造を共通化することができる。つまり、スピーカ2を取り付けるシート1とスピーカ2を取り付けないシート1とで異なる仕様のシートを用意する必要がなくなり、部品点数及びコストの低減を図る事ができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態では上下にそれぞれクリップ14,15とブラケット16,17とを設けた場合について説明したが。十分な取り付け剛性が確保できるのであれば、クリップ及びブラケットを1つずつとして取り付けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のスピーカ取り付け構造を車両用シートに適用した場合の構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを左前方から見た斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを左後方から見た斜視図。
【図4】本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを左前方から見た斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造を説明する図であって、シートバックのフレームを右後方から見た斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造の要部を説明する図であって、(a)は左前方から見た斜視図、(b)は左後方から見た斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るスピーカ取り付け構造の要部を説明する図であって、(a)は左前方から見た斜視図、(b)は左後方から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 シート
2 スピーカ
3 ヘッドユニット
10,11 Sバネ
10a 第1直線部(一方の直線部)
10b 第2直線部(他方の直線部)
12,13 シートフレーム
14,15 クリップ
16,17 ブラケット
20 クリップ本体(本体部)
21 スリット部(第1係合部)
22 係合部(第2係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のシートフレーム間に掛け渡されたSバネにスピーカを取り付けるためのスピーカ取り付け構造であって、
該Sバネに樹脂製クリップを取り付けるとともに、該クリップに金属製ブラケットを介してスピーカを固定するように構成され、
該クリップが、該Sバネの対向する2つの直線部分のうち一方の直線部分と左右方向から係合する第1係合部と、該Sバネの他方の直線部分と前後方向から係合する第2係合部と、該第1係合部と第2係合部との間に一体に形成されて該金属製ブラケットが固定される本体部とから構成され、
該第1係合部が、少なくとも該一方の直線部分に対し左右方向に変位可能に構成されている
ことを特徴とする、スピーカ取り付け構造。
【請求項2】
該第1係合部及び該第2係合部がいずれも該直線部分に対して上下方向に変位可能に構成されている
ことを特徴とする、請求項1記載のスピーカ取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−303131(P2009−303131A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157983(P2008−157983)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000225887)難波プレス工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】