説明

スピーカ装置

【課題】スピーカ装置の薄型化と大音量化を両立させる。
【解決手段】振動板2とフレーム3と駆動部4とを備え、駆動部4は、振動板2の振動方向とは異なる方向に磁気ギャップ40Gを備える磁気回路40と、磁気ギャップ40Gに沿って振動するボイルコイルと、ボイスコイルの振動を方向変換して前記振動板2に伝える振動方向変換部7とを備え、振動方向変換部7は、一端が振動板2に接続され、他端がボイスコイルに関節部70Aを介して接続される第1のリンク部分70と、一端が第1のリンク部分70の中間部に接続され、他端が振動板2とは逆側に位置する静止部34に関節部71Bを介して接続される第2のリンク部分71とを備え、第1のリンク部分とボイスコイルとを接続する関節部70Aは、第2のリンク部分71と静止部34を接続する関節部71Bと略平行に延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なスピーカ装置として、ダイナミック型スピーカ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このダイナミック型スピーカ装置は、例えば図1に示すように、フレーム3Jと、コーン形状の振動板21Jと、振動板21Jをフレーム3Jに支持するエッジ4Jと、振動板21Jの内周部に接合されたボイスコイルボビン610Jと、ボイスコイルボビン610Jをフレーム3Jに支持するダンパ7Jと、ボイスコイルボビン610Jに巻き回されたボイスコイル611Jと、ヨーク51J,磁石52J,プレート53Jを備えると共に、ボイスコイル611Jが配置される磁気ギャップが形成された磁気回路とを有する。このスピーカ装置では、音声信号がボイスコイル611Jに入力されると、磁気ギャップ内のボイスコイル611Jに生じたローレンツ力によりボイスコイルボビン610Jが振動し、その振動によって振動板21Jが駆動される。
【0003】
【特許文献1】特開平8−149596号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した一般的なダイナミック型スピーカ装置は、例えば図1に示すように、振動板21Jの音響放射側に対して反対側にボイスコイル611Jが配設され、ボイスコイル611J及びボイスコイルボビン610Jの振動方向と振動板21Jの振動方向が同じ方向になるように構成されている。そして、このようなスピーカ装置では、振動板21Jが振動するための領域、ボイスコイルボビン610Jが振動するための領域、磁気回路が配置される領域等が振動板21Jの振動方向(音響放射方向)に沿って形成されることになるので、スピーカ装置の全高が比較的大きく成らざるを得ない構造になっている。
【0005】
詳細には、図1に示すように、スピーカ装置の振動板21Jの振動方向に沿った大きさは、コーン形状の振動板21Jの振動方向に沿った大きさ及び振動板21Jをフレーム3Jに支持するエッジ4Jの全高(a)、振動板21Jとボイスコイルボビン610Jとの接合部からボイスコイル611Jの上端までのボイスコイルボビン高さ(b)、ボイスコイル高さ(c)、磁気回路の主に磁石高さ(d)、磁気回路の主にヨーク51Jの厚さ(e)等からなる。このようなスピーカ装置においては、充分な振動板21Jの振動ストロークを確保するためには、前述したa,b,c,dの高さを充分に確保する必要があり、また充分な駆動力を得るためには前述したc,d,eの高さを充分に確保する必要があるので、特に、大音量対応型スピーカ装置では、スピーカ装置の全高が大きく成らざるを得ない。
【0006】
このように、従来のスピーカ装置では、ボイスコイルボビン610Jの振動方向と振動板21Jの振動方向とが同方向になっているので、振動板21Jの振幅を大きくして大音量を得ようとすると、ボイスコイルボビン610Jの振動ストロークを確保するためにスピーカ装置の全高が大きくなってしまい、装置の薄型化を達成し難い。すなわち、装置の薄型化と大音量化を両立し難い問題がある。
【0007】
しかしながら、ボイスコイル611Jの振動を効率よく振動板21Jに伝達させるためには、ボイスコイル611Jの振動を直接振動板21Jに伝えること、すなわち、ボイスコイル611Jの振動方向と振動板21Jの振動方向とを一致させることが好ましい。ボイスコイル611Jの振動方向と振動板21Jの振動方向が異なる場合には、ボイスコイル611Jの振動が確実に振動板21Jに伝えられないことがあり、これがスピーカ装置の再生効率の悪化に繋がる問題が生じる。特に、高音域の良好な再生特性を得るためには、ボイスコイル611Jの振動を確実に振動板に伝えることが必要になる。
【0008】
一方、一般的なダイナミック型スピーカ装置では、コーン形状の振動板21Jの内周部にボイスコイルボビン610Jが接合されており、ボイスコイルボビン610Jから振動板21Jの内周部に駆動力が伝達されるので、振動板全体を略同位相にて駆動させることが比較的困難である。このため振動板全体を略同位相にて駆動することができるスピーカ装置が望まれている。
【0009】
ところで、薄型スピーカ装置として、例えばコンデンサ型スピーカ装置が知られている。このコンデンサ型スピーカ装置は、振動板(可動電極)と固定電極とが向い合せに配置された構造を有する。このスピーカ装置は、電極間への直流電圧の印加により振動板が変位した状態となり、音声信号が重畳された信号が電極に入力されると、その信号に応じて振動板が振動する。しかし、このコンデンサ型スピーカ装置では、比較的大振幅の音声信号が入力されると、駆動力が非線形に著しく変化して、再生音の音質が比較的低くなる場合がある。
【0010】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、比較的簡単な構造で大音量の再生音を放射することができる薄型のスピーカ装置を提供すること、ボイスコイルの振動を確実に振動板に伝えて再生効率の高いスピーカ装置を得ること、特に高音域の再生に適したスピーカ装置を得ること、比較的簡単な構造で高音質な再生音を放射することができる薄型のスピーカ装置を提供すること、また、比較的簡単な構成で振動板が略同位相で振動する薄型のスピーカ装置を提供すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明によるスピーカ装置は、以下の各独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
振動板とフレームと駆動部とを備え、前記駆動部は、前記振動板の振動方向とは異なる方向に磁気ギャップを備える磁気回路と、前記磁気ギャップに沿って振動するボイルコイルと、前記ボイスコイルの振動を方向変換して前記振動板に伝える振動方向変換部とを備え、前記振動方向変換部は、一端が前記振動板に接続され、他端が前記ボイスコイルに関節部を介して接続される第1のリンク部分と、一端が前記第1のリンク部分の中間部に接続され、他端が前記振動板とは逆側に位置する静止部に関節部を介して接続される第2のリンク部分とを備え、前記第1のリンク部分と前記ボイスコイルとを接続する関節部は、前記第2のリンク部分と前記静止部を接続する関節部と略平行に延在することを特徴とするスピーカ装置。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来技術の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の基本構成を示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の基本構成(駆動部)を示した説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の基本構成(駆動部)を示した説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の基本構成(駆動部)を示した説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の基本構成(振動方向変換部の動作)を示した説明図である。
【図7】本発明の他に実施形態に係るスピーカ装置の説明図である。
【図8】本発明の他に実施形態に係るスピーカ装置の説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の一部(振動方向変換部)を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の一部(振動方向変換部のリンク機構)を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態に係るスピーカ装置の一部(振動方向変換部のリンク機構)を示す説明図である。
【図12】本発明の実施例を説明する説明図(斜視図)である。
【図13】本発明の実施例を説明する説明図(断面斜視図)である。
【図14】本発明の実施例を説明する説明図(上面斜視図)である。
【図15】本発明の実施例を説明する説明図(上面図)である。
【図16】本発明の他の実施例を説明する説明図(斜視図)である。
【図17】本発明の実施形態に係るスピーカ装置を備えた電子機器を示した説明図である。
【図18】本発明の実施形態に係るスピーカ装置を備えた自動車を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るスピーカ装置は、振動板と、前記振動板を振動方向に沿って振動自在に支持するフレームと、該フレームに設けられ、音声信号によって前記振動板に振動を与える駆動部とを備え、前記駆動部は、前記振動板の振動方向とは異なる方向に沿って磁気ギャップを形成する磁気回路と、ボイスコイルを有し前記磁気ギャップに沿って振動するボイスコイル支持部と、前記ボイスコイル支持部の振動を方向変換して前記振動板に伝える振動方向変換部とを備え、前記振動方向変換部は、前記ボイスコイル支持部と前記振動板との間に形成されたリンク部分を角度変換させるリンク機構を備えることを特徴とする。
【0014】
また、前記リンク機構は、前記リンク部分が前記振動板側とは逆側に位置する静止部からの反力を受けて角度変換することを特徴とし、より具体的には、前記静止部は前記フレームの一部であることを特徴とする。
【0015】
また、前記フレームは平面状の底面を有し、前記振動板は前記フレームの底面に沿って平面的に支持され、前記磁気ギャップは前記フレームの底面に沿って形成され、前記振動方向変換部は前記フレームの底面からの反力により当該底面と交差する方向に前記振動板を振動させることを特徴とする。
【0016】
また、前記磁気回路は、互いに逆方向の磁場が形成される一対の磁気ギャップを有し、前記ボイスコイル支持部は、平面状に形成されて、前記一対の磁気ギャップで異なる方向に電流が流れるように環状に形成されたボイスコイルを有することを特徴とする。
【0017】
このような特徴のスピーカ装置では、音声信号が駆動部のボイスコイルに入力されると、磁気回路の磁気ギャップに配置されたボイスコイルにローレンツ力が生じて、ボイスコイル支持部が、振動板の振動方向に対して異なる方向、好適には振動板の振動方向に対して直交する方向に沿って振動する。これに対して振動方向変換部が機能してボイスコイル支持部の振動を方向変換して振動板に伝える。振動板は、振動方向変換部を介して伝達された駆動力によりボイスコイル支持部とは異なる(例えば、ボイスコイル支持部と直交する)振動方向に沿って振動する。
【0018】
一般的なスピーカ装置では、例えば振動板の背面側にボイスコイルボビンが配置され、振動板の振動方向とボイスコイルボビンの振動方向とが同方向になるように構成されているために、振動方向に沿って振動板およびボイスコイルボビンが振動するための領域を要するので、スピーカ装置の音響放射方向に沿った幅(全高)が比較的大きい。
【0019】
一方、本発明の実施形態に係るスピーカ装置では、振動板の振動方向に対して異なる方向、好適には、振動板の振動方向に対して直交する方向に形成された磁気ギャップを有する磁気回路とその磁気回路に沿って振動するボイスコイル支持部、更にはボイスコイル支持部の振動方向を方向変換して振動板に伝える振動方向変換部を有するので、前述した一般的なスピーカ装置と比べて、音響放射方向に沿った幅が比較的小さい。つまり、薄型スピーカ装置を提供することができる。また、ボイスコイル支持部の振動ストロークをスピーカ装置の全高に影響しない方向に設定できるので、ボイスコイル支持部の振動ストロークすなわち振動板の振幅を大きくした場合であってもスピーカ装置の薄型化を達成しやすい。これによって、スピーカ装置の薄型化と大音量化を両立することが可能になる。
【0020】
また、振動方向変換部は、ボイスコイル支持部と振動板との間に形成されたリンク部分を角度変換させるリンク機構によって形成されているので、機械的に確実にボイスコイル支持部の振動を振動板に伝えることができる。そして、リンク機構を、リンク部分が振動板側とは逆側に位置する静止部からの反力を受けて角度変換するように構成することで、ボイスコイル支持部の振動が静止部からの反力を受けながら確実に振動板に伝達されることになり、ボイスコイルの振動方向と振動板の振動方向が異なる場合であっても、良好な振動の伝達効率を得ることができ、スピーカ装置の良好な再生効率を得ることができる。特に、ボイスコイルの振動を確実に振動板に伝えることで高音域の良好な再生特性を得ることが可能になる。
【0021】
また、本発明の実施形態に係るスピーカ装置では、ボイスコイルに生じる駆動力を、リンク機構を有する振動方向変換部を介して機械的に角度変換して振動板に伝達するものであるから、駆動原理自体はダイナミック型スピーカと変わらない。したがって、前述したコンデンサ型スピーカと比較すると、大音量発生時に比較的高音質な再生音を放射することが可能である。
【0022】
また、例えばボイスコイルから振動板に駆動力を伝達させる際に、可撓性部材の撓みを利用して駆動力を伝達させる方式のスピーカ装置もあるが、これによると可撓性部材に共振(特に低周波数にて)が発生し易いという問題がある。可撓性部材の撓みを利用して駆動力を伝達させる方式のスピーカ装置と比べて、本発明の実施形態に係るスピーカ装置では、剛性のリンク機構により、ボイスコイルから振動板に駆動力を伝達しているので、例えば可撓性部材の歪みによるレスポンスの低下がなく、比較的高感度にて振動板を振動させることができる。
【0023】
また、具体的な配置構成として、フレームは平面状の底面を有し、振動板はフレームの底面に沿って平面的に支持され、磁気ギャップはフレームの底面に沿って形成され、前記振動方向変換部は前述した静止部となるフレームの底面からの反力により当該底面と交差する方向に前記振動板を振動させるので、スピーカ装置全体をフレームの底面に沿った平面的な形状にすることができ、全体的な装置の薄型化が可能になる。
【0024】
また、駆動部の具体的な構造としては、磁気回路が、互いに逆方向の磁場が形成される一対の磁気ギャップを有し、ボイスコイル支持部は、平面状に形成されて、一対の磁気ギャップで異なる方向に電流が流れるように環状に形成されたボイスコイルを有するので、平面状のボイスコイル支持部を一対の磁気ギャップを利用して高い駆動力で平面的に振動させることができ、ボイスコイル支持部の平面的な剛性を高めることで、揺らぎの無い直線的な振動が可能になる。特に、前述した平面状のフレーム底面を有するものでは、フレーム底面上の薄い空間をボイスコイル支持部の振動スペースにすることができ、厚さ方向のスペース効率を向上させることができる。
【0025】
本発明に係るスピーカ装置は、例えば、携帯電話機、車載用スピーカ、パーソナルコンピュータ用スピーカ、テレビジョン放送受信機用スピーカ、など各種装置に採用することができる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るスピーカ装置について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図2〜図6は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置の基本構成を示した説明図である。図2(a)が平面図(振動板は仮想線で示し、振動板を除いた状態を示している)、図2(b)が図2(a)におけるA−A断面図(振動板を含む)、図3〜図5は駆動部を示した説明図(図3が組立斜視図、図4が分解斜視図、図5が断面図)、図6は振動方向変換部の動作を示した説明図である。以下の説明において、音響放射方向(SD)をZ軸方向と規定し、スピーカ装置の長手方向をそのZ軸方向に直交するX軸方向、Z軸方向とX軸方向に直交する方向をY軸方向と規定している。
【0028】
本発明の実施形態に係るスピーカ装置1は、振動板2,フレーム3,駆動部4を主要な構成要素としている。振動板2はその外縁がエッジ5を介してフレーム3の外周縁部3Aに支持されている。このエッジ5の機能によって振動板2は基本的にZ軸方向にのみ振動方向が規制されている。音声信号が駆動部4に加えられると駆動部4が駆動し、その駆動によって生じる振動が振動板2に与えられる。
【0029】
駆動部4は、磁気回路40とボイスコイル支持部6と振動方向変換部7を備えている。磁気回路40は振動板2の振動方向(例えばZ軸方向)とは異なる方向(例えばX軸方向)に沿って磁気ギャップ40Gを形成している。図示の例では、振動板2の振動方向と直交する方向に沿って磁気ギャップ40Gを形成しているが、特にそれに限定されるものではない。ボイスコイル支持部6は、ボイスコイル60を有し磁気ギャップ40Gに沿って振動するものである。ダンパ8によって動きが規制され、磁気ギャップ40Gに沿った方向のみの移動が許容されており、ボイスコイル60に音声信号が入力されると、磁気ギャップ40G内のボイスコイル60にローレンツ力が作用して、ボイスコイル60と一体のボイスコイル支持部6が振動する。
【0030】
また、振動方向変換部7は、ボイスコイル支持部6の振動を方向変換して振動板2に伝えるものである。この振動方向変換部7は、後述するようなリンク機構を備えており、ボイスコイル支持部6と振動板2との間に形成されたリンク部分(第1のリンク部分)70を角度変換させることによって、ボイスコイル支持部6の振動を方向変換して振動板に伝えている。
【0031】
このような本発明の実施形態によると、例えば音声信号発生源50から信号線51を介してフレーム3に備えた端子52に音声信号が送られ、更に端子52から信号線53を介してボイスコイル支持部6のボイスコイル60に音声信号が入力されると、振動板2の許容される振動方向とは異なる方向に沿って形成された磁気ギャップ40Gに沿ってボイスコイル支持部6が振動することになり、この振動が振動方向変換部7によって方向変換されて振動板2に伝達されることになって、振動板2を振動させて音響放射方向SDに音声信号に応じた音が放射される。
【0032】
この際、磁気ギャップ40Gの方向を振動板2の振動方向及びスピーカ装置1の厚さ方向に交差させているので、磁気回路40の駆動力或いはボイスコイル支持部6の振動ストロークを大きくすることが直接的にスピーカ装置1の厚さ方向(Z軸方向)の大きさに影響を与えない。よって、大音量化を図りながらスピーカ装置1の薄型化を実現することが可能になる。また、構造的にはボイスコイル支持部6の振動ストローク(変位)よりスピーカ装置1の厚さを薄くすることも可能になり、薄型化が実現しやすい構造になっている。
【0033】
また、振動方向変換部7は、機械的なリンク機構によってボイスコイル支持部6の振動方向を変換して振動板2に伝えているので、振動の伝達効率が高い。更に、リンク部分70の角度変換がボイスコイル支持部6の振動に対して静止部となっているフレーム3からの反力を受けて行われるので、より確実にボイスコイル支持部6からの振動を振動板に伝えることができる。これによって、スピーカ装置1の良好な再生効率を得ることができ、特に、ボイスコイル60の振動を確実に振動板に伝えることで高音域の良好な再生特性を得ることが可能になる。
【0034】
以下、本実施形態に係るスピーカ装置1の各構成要素について詳細に説明する。
【0035】
[フレーム3]フレーム3は、振動板2を振動方向に沿って振動自在に支持すると共に駆動部4を内部で支持している。また、フレーム3は振動方向変換部7のリンク機構の一部を支持してリンク機構の動作に対してフレーム3からの反力を加える。このようなフレーム3は平面状の底面31Aを有していることが望ましい。
また、フレーム3は、ボイスコイル支持部6に対して静止している状態で配置されている静止部でもある。なお、静止部は、完全に静止している状態を意図するわけでなく、例えば、振動板2を支持できる程度に静止していれば良く、スピーカ装置1を駆動する際に生じる振動が伝搬し、振動が静止部全体に生じても構わない。ここでいう静止部には、フレーム3以外にも、磁気回路40の一部やスピーカ装置1が装着される被装着箇所等が該当する。
【0036】
また、静止部は後述する磁気回路40と機械的に一体となって配置されていればよく、フレーム3は磁気回路40に支持されているとも言えるので、この点でフレーム3は静止部になる。更には、磁気回路40を構成している部材や磁気回路40に支持されている他の部材も静止部になりうる。
【0037】
図2に示したフレーム3は、音響放射方向(SD)から視認すると、平面形状が矩形状に形成されており、断面形状が凹形状に形成されている。図示のように、フレーム3は、詳細には、平面形状が矩形状の底板部31と、底板部31の外周部から音響放射方向(SD)に向かって立設される矩形状の筒状部32とを有し、上部に開口部30が形成されている。また、底板部31上には磁気回路40が配置され、筒状部32の上端部にはエッジ5の外周部が接着剤などにより接合され、開口部30にはエッジ5を介して支持された振動板2が配置されている。図示の例では、筒状部32の上端部には、内側に向かって延在した平坦な外周縁部3Aが形成されており、この外周縁部3Aにエッジ5が接合されている。フレーム3の形成材料としては、例えば樹脂、金属などの公知の材料を採用することができる。また、図示の例では、フレーム3は磁気回路40とは別部材にて形成されているが、後述する磁気回路を構成するヨーク41の下端平坦部41Aをさらに拡大させて、フレーム3のように筒状部32を設け、エッジ5を支持させてもよく、下側平坦部41Aではなく、上側平坦部41Bを更に拡大させる等、適宜変更しても構わない。
【0038】
また、図2(b)に示すように、フレーム3は例えば側面部や底面部に孔部33が形成されている。この孔部33は、例えば通気孔として機能する。例えば通気孔を設けない場合、スピーカ駆動時に、振動板2の振動に伴い、振動板2とフレーム3により囲まれた空間の空気がバネ性を帯びて、振動板2の振動が低減する場合がある。これに対して、図示の例では、孔部33が設けられているので、そのような振動板2の振動低減を抑止することができる。また、この孔部33は磁気回路40やボイスコイル60の熱を放熱するように機能する。また、孔部33は、例えばスピーカ装置外部に設けられた、アンプ、イコライザ、チューナ、放送受信機、テレビジョンなどの音声信号発生源50と、ボイスコイル60とを電気的に接続する信号線が通る孔として用いてもよい。
【0039】
[振動板2]振動板2は、図2(b)に示すように、振動方向(Z軸方向)に沿って振動自在にフレーム3に支持されている。振動板2は、スピーカ駆動時、音響放射方向(SD)に音波を放射する。また、振動板2は、エッジ5を介してフレーム3に支持されており、振動方向以外の方向、詳細にはX軸方向やY軸方向に沿った移動は、エッジ5により規制されている。このエッジ5と振動板2は一体形成されてもよい。
【0040】
振動板2の形成材料としては、例えば、樹脂系材料、金属系材料、紙系材料、セラミックス系材料、複合材料などを採用することができる。振動板2は、例えば剛性を有することが好ましい。振動板2は、例えば平板形状、ドーム形状、コーン形状などの規定形状に形成することができる。図示の例で振動板2は平板形状に形成されており、また、フレーム3の平面状の底面31Aに沿って支持されている。薄型化の実現を課題とする本発明の実施形態としては、平板形状の振動板2が特に好ましい。また、振動板2は、音響放射方向(SD)から視認した形状(平面形状)が、矩形状、楕円形状、円形状、多角形状など、規定形状に形成することができる。図示の例では、振動板2は平面形状が矩形状に形成されている。
【0041】
また、必要に応じて、振動板2の表面(音響放射側の面)又は裏面(音響放射側とは逆側の面)に、突起部を形成しても構わない。突起部は振動板2の剛性を大きくする機能を有する。突起部は振動板2の表面に対し、直線状、環状、格子状に形成してもよく、例えば直線状の突起部を振動板の表面に複数形成するなど、適宜変更してもよい。
【0042】
振動板2は、振動自在にフレーム3に支持されており、振動板2の背面側(音響放射方向とは逆側)における振動板2とフレーム3とで囲まれる空間が音響放射方向に対して遮断されているので、振動板2の背面側から発せられる音波が音響放射方向に向けて放射されるのを抑止できる。
【0043】
[エッジ5]エッジ5は、振動板2とフレーム3との間に配置され、内周部が振動板2の外周部を支持するとともに、外周部がフレーム3に接合することにより、振動板2を規定位置に保持する。詳細には、エッジ5は、振動板2を振動方向(Z軸方向)に沿って振動自在に支持するとともに、振動方向に直交する方向には制動する。図示のエッジ5は、音響放射方向から視認した場合、リング形状(環状)に形成されている。エッジ5は、図2(b)に示すように、断面形状が規定形状、例えば凸形状、凹形状、波型形状などに形成されている。本実施形態ではエッジ5は、音響放射方向に凹形状に形成されている。これに限らず、音響放射方向に凸形状に形成されても構わない。エッジ5は、例えば、皮,布,ゴム,樹脂,それらに目止め加工を施したもの、ゴムや樹脂などを規定の形状に成形した部材等を採用することができる。
【0044】
[磁気回路40]磁気回路40は、フレーム3に内に配置されている。図示の磁気回路40は、図2(b)に示すように、フレーム3に収容されており、フレーム3の平面状の底面31Aに沿って磁気ギャップ40Gが形成されている。磁気回路40としては、例えば、内磁型磁気回路、外磁型磁気回路、等を採用することができる。
【0045】
磁気回路40の具体的な構造としては、図4〜5に示すように、ヨーク41、および磁石42を有する。図示の磁気回路40は、複数の磁石42A〜42Dを有する。この磁気回路40では、磁石42が、磁気ギャップ40Gの磁場の方向に沿った両側に設けられている。例えば磁気ギャップ40Gは、ボイスコイル60がX軸方向に沿って規定範囲内で移動することができるようにX軸方向に沿って形成されている。
【0046】
ヨーク41は、下側平坦部41A、上側平坦部41B、および支柱部41Cを有する。下側平坦部41Aと上側平坦部41Bは規定間隔をあけて略平行に配置されており、中央部には、支柱部41Cが下側平坦部41Aおよび上側平坦部41Bに対して略直交する方向へ延在するように形成されている。
【0047】
磁気ギャップ40Gの磁場中のボイスコイル60に音声信号(電流)が流れた場合、フレミング左手の法則により、磁場の方向および電流の方向それぞれに直交する方向に沿ってローレンツ力が生じる。本実施形態に係るスピーカ装置1は、振動板2の振動方向と異なる規定方向、詳細には、振動板2の振動方向(Z軸方向)に対して直交する方向(X軸方向)に沿って、ボイスコイル60にローレンツ力が生じて、ボイスコイル60がX軸方向に沿って振動するように、ボイスコイル60および磁気回路40が構成されている。平坦部41A,41Bには磁石42A〜42Dが配置され、磁石42Aと磁石42Cとで一つの磁気ギャップ40G1が形成され、磁石42Bと磁石42Dとでもう一つの磁気ギャップ40G2が形成されている。この一対の磁気ギャップ40G1と磁気ギャップ40G2は、平面的に並べて形成され、互いに逆方向の磁場が形成されるようになっている。
【0048】
一方、本実施形態に係るリング状のボイスコイル60は、音響放射方向(SD)から視認した場合、平面形状が略矩形状に形成されており、Y軸方向に沿って形成された直線部60A,60Cと、X軸方向に沿って形成された直線部60B,60Dにより構成されている。ボイスコイル60の直線部60A,60Cは、磁気回路40の磁気ギャップ40G内に配置され、磁場の方向がZ軸方向に沿うように規定されている。ボイスコイル60の直線部60B,60Dには磁場を印加しないほうが好ましい。また、直線部60B,60Dに磁場が印加されている場合でも、その直線部60B,60Dに生じるローレンツ力が互いに相殺するように構成されている。
【0049】
また、本実施形態に係るボイスコイル60は、薄型の平板形状に形成されており、巻き数を比較的多くすることで、磁気ギャップ40G中の部分を比較的大きくすることができ、スピーカ駆動時、比較的大きな駆動力を得ることができる。
【0050】
そして、本実施形態に係る磁気回路40は、図5に示すように、ボイスコイル60の直線部60Aにかかる磁場の向きが、直線部60Cに係る磁場の向きに対して逆向きとなるように、複数の磁石42A〜42Dが着磁されている。また、ボイスコイル60の直線部60A,直線部60Cそれぞれには逆向きに音声信号が流れるように、ボイスコイル60は環状に形成されている。
【0051】
このようなスピーカ装置1では、ボイスコイル60に音声信号が入力されると、直線部60Aに生じるローレンツ力と、直線部60Cに生じるローレンツ力が同一方向となり、例えば直線部60A,60Cのいずれか一方のみに磁場を印加している構成と比較して、駆動力が2倍となっている。このため、このような構成の磁気回路40とボイスコイル60では、比較的薄型に構成することができ、かつ比較的大きな駆動力を得ることができる。
【0052】
[ボイスコイル支持部6]ボイスコイル支持部6は、前述したボイスコイル60を備えるとともに、振動板2の振動方向に対して異なる方向に沿って移動自在に形成されている。図示の例では、フレーム3の平面状の底面31Aに沿って形成された磁気ギャップ40Gに沿って振動自在に配置されている。更に詳細には、本実施形態に係るボイスコイル支持部6は、X軸方向に沿ってのみ移動自在に形成されており、それ以外の方向には移動が規制されている。このボイスコイル支持部6の移動範囲の規制は、本実施形態では規制部としてダンパ8を設けたが、この形態に限られるものではない。例えば、レールやガイド部材,溝部等による規制手段を設けることもできる。
【0053】
また、ボイスコイル支持部6は、磁気回路40の磁気ギャップ40G内にボイスコイル60が配置されるとともに、ボイスコイル60から移動方向に沿って磁気ギャップ40G外まで延出した形状の平面状の絶縁部材61を有する。また、ボイスコイル支持部6は、開口部62が形成されており、その開口部62の外周に沿ってボイスコイル60が備えられている。このような構造のボイスコイル支持部6は、絶縁部材61の内部にボイスコイル60が埋め込まれた構造にすることができるので、これによってボイスコイル60の強度を補強することができ、ボイスコイル60の歪みを低減することができる。
【0054】
図示の例では開口部62は、磁気回路40の支柱部41Cに遊嵌されており、この状態でボイスコイル支持部6の移動範囲が規制されている。具体的には開口部62は矩形状に形成されており、ボイスコイル支持部6の移動方向に沿った両辺の間隔が、支柱部41Cの幅と略同じ大きさ又は大きく形成されており、移動方向に直交する方向の両辺の間隔は、ボイスコイル支持部6の移動範囲に対応して比較的大きく形成されている。
【0055】
[振動方向変換部7]振動方向変換部7は、ボイスコイル支持部6の振動とフレーム3から受ける反力によってボイスコイル支持部6と振動板2との間に形成されたリンク部分(第1のリンク部分)70を角度変換させるリンク機構を備える。具体的には、図2及び図3に示した例では、一端をボイスコイル支持部6との関節部70Aとし、他端を振動板2との関節部70Bとする第1のリンク部分70と、一端を第1のリンク部分70の中間部との関節部71Aとし、他端をフレーム3との関節部71Bとする第2のリンク部分71とを有し、第1のリンク部分70と第2のリンク部分71をボイスコイル支持部6の振動方向(例えば、X軸方向)に対して異なる方向に傾斜配置している。
【0056】
ここでいうリンク部分とは、リンク機構を形成するための一部であって、基本的には変形しない(剛性を有する)部分で、その両端に関節部を有する。この関節部は二つの部材を回転可能に接合することによって形成することもできるし、一つの部材を任意の角度に屈折自在にした屈折箇所として形成することもできる。図2(b)に示した例では、関節部71Bはフレーム3の底面31A上に突出して形成された支持部34(静止部)上に形成されている。
【0057】
図2及び図3に示した例では、第1のリンク部分70,第2のリンク部分71,関節部70A,70B,71A,71Bによってリンク機構が形成されている。この例では第2のリンク部分71とフレーム3との関節部71Bが位置変位しない関節部であって、他の関節部70A,70B,71Aは位置が変位する関節部になっている。これによって、全体のリンク機構は関節部71Bにおいてフレーム3からの反力を受ける構造になっている。このリンク機構では、関節部70Aがボイスコイル支持部6の振動によってX軸方向に移動すると、関節部70BはZ軸方向に沿って移動することになり、ボイスコイル支持部6の振動を方向変換して振動板2に伝える。
【0058】
本発明の実施形態に係る振動方向変換部7は、線状の屈折部を有する板状部材によって形成することができ、この屈折部を前述したリンク機構の関節部にすることができる。すなわち、図示の例では、第1のリンク部分70及び第2のリンク部分71を板状部材によって形成し、リンク機構の関節部70A,70B,71A,71Bを線状の屈折部によって形成することができる。これによると、振動板2との接合部分を線状に接合することができるので、平面状の振動板2に対して幅方向に沿って均一に振動を加えることができ、振動板全体を略同位相で振動させることが可能になる。すなわち、分割振動の発生を抑えて特に高音域側の再生が可能になる。また、各リンク部分は剛性を有するので、固有振動モードでの振動が発生しにくく、リンク部分のたわみ振動等が振動板2の振動へ悪影響を与えるのを抑止し、音響特性が低減することを抑止できる。
【0059】
本実施形態に係る振動方向変換部7は、図示はしていないが、例えば通気孔を形成しても良い。通気孔は、スピーカ振動時の振動板2とフレーム3で囲まれる空間の空気圧の局所的な変動を低減することができ、空気圧による振動方向変換部7の制動を抑止する。また、通気孔によって例えばリンク部分に中抜きが形成されて、リンク部分を軽量化できるので、これによって高域再生が可能になる。また、振動方向変換部の軽量化は特に再生特性の広域化や、所定の音声電流に対する音波の振幅及び音圧レベルを大きくすることに有効である。
【0060】
また、振動方向変換部7は、屈折部で繋がった一体部品からなるようにしてもよい。この場合は、複雑なリンク機構を形成する振動方向変換部7を即座にボイスコイル支持部6や振動板2に接合することができ、装置の組立性が良好になる。また、振動方向変換部7は例えばボイスコイル支持部6や振動板2と一体に形成することも可能である。
【0061】
[ダンパ8]ダンパ8は、ボイスコイル支持部6が磁気回路40に接触しないように、ボイスコイル支持部6を磁気ギャップ40G内の規定位置に保持するとともに、ボイスコイル支持部6を振動方向(X軸方向)に沿って移動自在に支持している。このダンパ8は、ボイスコイル支持部6の振動方向と異なる方向、例えばZ軸方向やY軸方向には、ボイスコイル支持部6が移動しないように規制している。
【0062】
本実施形態に係るダンパ8は、例えば板形状に形成され可撓性を有する。このダンパ8は、Y軸方向における断面形状が曲線状に形成され、屈曲可能となる形状を有している。また、ダンパ8はZ軸方向に所定の厚さ(X軸方向における厚さよりも大きい)を有し、特にZ軸方向における剛性を有するような形状に形成されている。ダンパ8は断面形状が、凸形状、凹形状、波型形状など、厚みが均一、不均一など各種形状に形成されていてもよい。ダンパ8は、一端部がボイスコイル支持部6に接合し、他端部がフレーム3に接合している。ダンパ8は、この形態に限られるものではなく、例えば一端部がボイスコイル支持部6に接合し、他端部が磁気回路40に接合した構成となっていてもよい。
【0063】
また、ボイスコイル支持部6の移動規制又は支持は、前述したダンパ8に換えて、例えばレールや溝部、段部、ガイド部材等をフレーム3に設けてもよい。つまり、スピーカ装置1は、レール、溝部、段部等に、ボイスコイル支持部6の端部が嵌合した状態で、このボイスコイル支持部6が摺動するような構造を有することもできる。
【0064】
[動作]図6は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置1の動作を説明するための説明図である。詳細には、図6(b)は振動板2が基準位置に位置した状態の振動方向変換部7の状態、図6(a)は振動板2が基準位置に対して音響放射側に変位している状態の振動方向変換部7の状態、図6(c)は振動板2が基準位置に対して音響放射側に対して反対方向に変位している状態の振動方向変換部7の状態を示している。
【0065】
前述したように、関節部71Bが唯一位置変動しない関節部であり、これがフレーム3に対して支持され、フレーム3からの反力をリンク機構に付与している。これによって、ボイスコイル支持部6が基準位置X0からX軸方向にX1だけ移動すると、図6(a)に示すように、異なる方向に傾斜配置している第1のリンク部分70と第2のリンク部分71の角度がほぼ同角度立ち上がることになり、関節部71Bでフレーム3からの反力を受けて関節部70Bは確実に振動板2を基準位置Z0からZ軸方向にZ1だけ押し上げる。また、ボイスコイル支持部6が基準位置X0からX軸と逆方向にX2だけ移動すると、図6(c)に示すように、第1のリンク部分70と第2のリンク部分71の角度がほぼ同角度下がることになり、関節部71Bでフレーム3からの反力を受けて関節部70Bは確実に振動板2を基準位置Z0からZ軸と逆方向にZ2だけ押し下げる。
【0066】
ここで、関節部70Aから関節部71Aまでのリンク部分の長さaと関節部71Aから関節部70Bまでのリンク部分の長さbと関節部71Aから関節部71Bまでのリンク部分の長さcを等しくして、ボイスコイル支持部6の移動方向の直線上に関節部70Aと関節部71Bを配置していることが好ましい。このようなリンク機構はスコットラッセルの機構として知られており、関節部70A,70B,71Bは関節部71Aを中心として直径が第1のリンク部分70の長さ(a+b=2a)の円周上にある。すなわち、関節部70Aと関節部71Bを通る直線と、関節部70Bと関節部71Bを通る直線とがなす角は常に直角になる。これによって、ボイスコイル支持部6をX軸方向に移動させると、第1のリンク部分70と振動板2との関節部70Bは常にX軸と垂直なZ軸に沿って移動することになり、ボイスコイル支持部6の振動方向をそれとは垂直方向に変換して振動板2に伝えることができる。
【0067】
以上、説明したように、スピーカ装置1は、振動板2の振動方向とは異なる方向に沿って磁気回路40の磁気ギャップ40Gを形成し、振動方向変換部7を介して磁気ギャップ40Gに沿って振動するボイスコイル支持部6の振動を振動板2に伝えている。この際、ボイスコイル支持部6の振動方向と振動板2の振動方向が直交することが好ましい。これによると、スピーカ装置の各部品の幅をスピーカ装置の幅方向(振動板の振動方向)とは異なる方向に重ねることができるので、一般的なスピーカ装置と比べて、音響放射方向に沿ったスピーカ装置の幅(スピーカ装置の全高)を比較的小さくすることができ、スピーカ装置1の薄型化を実現することができる。
【0068】
また、例えばボイスコイル60から振動板2に駆動力を伝達させる際に、可撓性部材の撓みを利用して駆動力を伝達させる方式のものと比べて、スピーカ装置1は、機械的なリンク機構を介してボイスコイル支持部6から振動板2に駆動力を伝達しているので、例えば可撓性部材の歪みによるレスポンスの低下がなく、比較的高感度に振動板2を振動させることができる。また、共振(特に低周波数にて)が発生し易い可撓性部材が無く、効率的に駆動部4の駆動力を振動板2に伝達することが可能となる。
【0069】
また、スピーカ装置1は、駆動部4のボイスコイル60に生じる駆動力を、機械的なリンク機構を介して角度変換して振動板2に伝達するので、コンデンサ型スピーカ装置のような大音量出力時の再生音質低下が生じない。よって、コンデンサ型のスピーカ装置と比較して大音量で高音質な再生音を放射することができる。
【0070】
また、スピーカ装置1では、平面状の底面31Aを有し、振動板2をフレーム3の底面31Aに沿って支持し、磁気ギャップ40Gをその底面31Aに沿って形成することができるので、スピーカ装置1全体を平面的且つ薄型に形成することができる。また、振動方向変換部7はフレーム3の底面31Aからの反力によりこの底面31Aと交差する(好ましくは直交する)方向に振動板2を振動させるので、磁気ギャップ40Gに沿ったボイスコイル支持部6の振動方向が直接スピーカ装置の厚さ方向に影響しない。これによって、ボイスコイル支持部6の振動を大きくし且つ駆動力を大きくしながらスピーカ装置1の全高を小さくすることが可能になり、出力の大音量化とスピーカ装置の薄型化を両立させることが可能になる。また、ボイスコイル60は、薄型の平板形状に形成されており、巻き数を比較的多くすることで、磁気ギャップ40G中の部分を大きくすることができるので、これによっても比較的大きな駆動力を得ることができる。
【0071】
図7及び図8は、本発明の他に実施形態に係るスピーカ装置の説明図である。前述した実施形態と共通する箇所は同一符号を付して重複説明を省略する。図7(a),(b)及び図8に示す実施形態はそれぞれ2つの特徴を有しており、その一つは、振動方向変換部7が、ボイスコイル支持部6の振動方向両端に設けられ、両端に設けられた振動方向変換部7のリンク部分によって平行リンクが形成されていること、他の特徴は、駆動部4を一対設け、振動方向変換部7を互いに左右対称に対向配置していることである。
【0072】
図7(a),(b)に示すスピーカ装置100,101は、それぞれ、一つの振動板2に対して、左右一対の駆動部4(R),4(L)を備えており、駆動部4(R),4(L)は左右対称に設けられている。つまり、駆動部4(R)には、磁気回路40(R)とボイスコイル支持部6(R)が設けられ、ボイスコイル支持部6(R)の振動板2中心側の端部には第1のリンク部分70(R)と第2のリンク部分71(R)が設けられ、ボイスコイル支持部6(R)の外側端部には、一端をボイスコイル支持部6(R)との関節部72A(R)とし、他端を振動板2との関節部72B(R)とする外側リンク部分72(R)が設けられている。同様に、駆動部4(L)には、磁気回路40(L)とボイスコイル支持部6(L)が設けられ、ボイスコイル支持部6(L)の振動板2中心側の端部には第1のリンク部分70(L)と第2のリンク部分71(L)が設けられ、ボイスコイル支持部6(L)の外側端部には、一端をボイスコイル支持部6(L)との関節部72A(L)とし、他端を振動板2との関節部72B(L)とする外側リンク部分72(L)が設けられている。
【0073】
そして、図7(a)に示したスピーカ装置100は、ボイスコイル支持部6(R),6(L)の振動板2中心側端部に設けられる振動方向変換部において、第1のリンク部分70(R),70(L)の振動板2との関節部70Bが共通部となっており、第2のリンク部分71(R),71(L)のフレーム3との関節部71Bが共通部になっている。これよって、関節部70B,71A(R),71A(L),71Bによって菱形状のリンク機構が形成され、ボイスコイル支持部6(R),6(L)の互いにX軸方向に沿って近接・離間する振動を方向変換して振動板2にZ軸方向(音響放射方向)の振動を与える。この場合にも、関節部71Bがフレーム3に支持されていることで、ボイスコイル支持部6(R),6(L)の近接・離間振動に対して、第1のリンク部分70(R),70(L)及び第2のリンク部分71(R),71(L)からなるリンク機構がフレーム3からの反力を受け、この反力によって振動板2を確実にZ軸方向に振動させている。
【0074】
また、一つのボイスコイル支持部6(R)の振動方向両側に設けられる第1のリンク部分70(R)と外側リンク部分72(R)、或いはボイスコイル支持部6(L)の振動方向両側に設けられる第1のリンク部分70(L)と外側リンク部分72(L)は、それぞれ平行リンクを形成しており、ボイスコイル支持部6(R),6(L)のX方向の移動によって、ほぼ平行な第1のリンク部分70(R)と外側リンク部分72(R)、或いは第1のリンク部分70(L)と外側リンク部分72(L)がほぼ同じ角度で角度変換することになる。これによって3箇所の関節部70B,72B(R),72B(L)が振動板2の平面状態を維持しながら上下動することになり、平面状の振動板2に略同位相で振動させることが可能になる。これによって、振動板2の分割振動を抑制することが可能になる。この際、一対のボイスコイル支持部6(R),6(L)の振動は、略同位相・略同振幅で互いに逆方向に振動することが条件になる。
【0075】
図7(b)に示したスピーカ装置101は、関節部70Bが関節部70B(R)と70B(L)に分離してそれぞれ離間配置され、関節部71Bが関節部71B(R)と71B(L)に分離してそれぞれ離間配置されている以外は、図7(a)に示したスピーカ装置100と同様である。したがって、図7(b)に示したスピーカ装備101は図7(a)に示したスピーカ装置100と同様の機能を示すが、スピーカ装置101は同時に上下動する4箇所の関節部70B(R),70B(L),72B(R),72B(L)によって振動板2が上下動するので、更に振動板2の分割振動を抑制することが可能になる。
【0076】
図8に示す実施形態は、外側リンク部分のリンク機構を除いては、図7に示す実施形態と同様である(図示の例は図7(a)に対応する構成例を示しているが、同様に外側リンク部分のみを換えて図7(b)に対応する構成例を実施することができる。図7との共通部分は同一符号を付して重複説明を省略する)。同図(a)は全体断面図、同図(b),(c)は外側リンク部分とフレームとの関節部を示した説明図である。このスピーカ装置102は、外側リンク部分が第1の外側リンク部分72(R),72(L)と第2の外側リンク部分73(R),73(L)を備える。ここでも、ほぼ左右対称の一対の駆動部4(R),4(L)を備えている。
【0077】
ここでは、一端をボイスコイル支持部6(R)又は6(L)の外側部分との関節部72A(R)又は72A(L)とし、他端を振動板2との関節部72B(R)又は72B(L)とする第1の外側リンク部分72(R),72(L)と、一端を第1の外側リンク部分72(R)又は72(L)の中間部との関節部73A(R)又は73A(L)とし、他端をフレーム3との関節部73B(R)又は73B(L)とする第2の外側リンク部分73(R),73(L)とを備える。図示の例では、関節部73B(R),73B(L)は支持部35を介してフレーム3に支持されている。
【0078】
第2の外側リンク部分73(R),73(L)とフレーム3との関節部73B(R),73B(L)について説明すると、図8(b)に示すように、ボイスコイル支持部6(R)には開口部63が形成され、開口部63を介して第2の外側リンク部分73(R)の端部がフレーム3に支持部35を介して支持されていてもよいし、同図(c)に示すように、第2の外側リンク部分73(R)は端部が門型状に形成され、ボイスコイル支持部6(R)を跨いで端部がフレーム3に支持部35を介して支持されていてもよい(図示は右側(R)の例のみを示したが左側も同様(ほぼ左右対称)である)。
【0079】
このような実施形態によると、ボイスコイル支持部6(R),6(L)外側端部のリンク部分においても、フレームからの反力を受けるリンク機構を形成することができ、ボイスコイル支持部6(R),6(L)の移動に対して、フレーム3からの反力を利用して第1の外側リンク部分72(R),72(L)を角度変換するので、確実に振動板2を上下動させることができる。
【0080】
また、この実施形態では、第1のリンク部分70(R),70(L)及び第2のリンク部分71(R),71(L)からなるリンク機構が、ボイスコイル支持部6(R),6(L)がX軸方向に沿って移動する際に、常にフレーム3からの反力を受けることになるので、振動板2を上下動(Z軸方向へ移動)させるときに振動板2から受ける反力によってボイスコイル支持部6(R),6(L)が上下動することを抑止できる。これによって、ボイスコイル支持部6(R),6(L)を円滑に振動させることができると共に、この振動を円滑に振動板2に伝えることができる。
【0081】
図9は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置の一部を示す説明図である(同図(a)が側面図、同図(b),(c)が振動方向変換部の平面図)。ここでは、ボイスコイル支持部6の振動を方向変換して振動板2に伝える振動方向変換部の他の実施形態を示している。
【0082】
この振動方向変換部は、一端をボイスコイル支持部6との関節部170Aとし、他端を振動板2との関節部170Bとする第1のリンク部分170と、一端を第1のリンク部分170の中間部との関節部171Aとし、他端をフレーム3との関節部171Bとする第2のリンク部分171と、ボイスコイル支持部6から一体的に延設されるか又はボイスコイル支持部6の一部からなる第3のリンク部分172と、振動板2に沿って固着されるか又は振動板2の一部からなる第4のリンク部分173と、一端を第3のリンク部分172の端部との関節部174Aとし、他端を第4のリンク部分173との関節部174Bとする第5のリンク部分174とを有し、第1のリンク部分170と第5のリンク部分174及び第3のリンク部分172と第4のリンク部分173がそれぞれ平行リンクを形成している。
【0083】
このような振動方向変換部によると、ボイスコイル支持部6の振動によって、関節部170AがX軸方向の基準位置X0からX1に移動すると、これによって平行リンクを形成している第3のリンク部分172と第4のリンク部分173は平行状態を維持して、第1のリンク部分170と第5のリンク部分174が立ち上がるように角度変換する。その際、関節部171Bがフレーム3に支持されているので、フレーム3からの反力を受けて第1のリンク部分170と第5のリンク部分174の角度変換が確実に行われ、ボイスコイル支持部6の位置X0から位置X1への変位を振動板2の位置Z0から位置Z1への変位に確実に変換する。
【0084】
同様に、関節部170AがX軸方向の基準位置X0からX2に移動すると、これによって平行リンクを形成している第3のリンク部分172と第4のリンク部分173は平行状態を維持して、第1のリンク部分170と第5のリンク部分174が倒れるように角度変換する。その際、関節部171Bがフレーム3に支持されているので、フレーム3からの反力を受けて第1のリンク部分170と第5のリンク部分174の角度変換が確実に行われ、ボイスコイル支持部6の位置X0から位置X2への変位を振動板2の位置Z0から位置Z2への変位に確実に変換する。
【0085】
このような実施形態によると、一つのボイスコイル支持部6のX軸方向の振動が略同位相・略同振幅で振動する2箇所の関節部170B,174B及び第4のリンク部分173におけるZ軸方向の振動に変換されることになる。これによって、振動板2は、広い範囲で支持されて略同位相・略同振幅の振動が与えられることになるので、面積が広い平面的な振動板2に対してボイスコイル支持部6の振動を略同位相で伝達することができる。
【0086】
図9(a)に示した振動方向変換部のリンク機構は、各リンク部分を同図(b),(c)に示すような板状部材によって形成することができる。各関節部分はリンク部分相互を回転可能に接合したものであっても良いし、リンク部分相互が屈折自在に連結又は一体化しているものであっても良い。板状部材は、剛性が高く軽量の部材が好ましく、繊維強化プラスチックフィルム等を用いることができる。
【0087】
図9(b)の例では、第3のリンク部分172,第4のリンク部分173,第5のリンク部分174をそれぞれ一対に平行配置しており、第1のリンク部分170を二股に形成してその中間部に第2のリンク部分171との関節部171Aが形成され、第2のリンク部分171は、一対に平行配置されている第3のリンク部分172,第4のリンク部分173,第5のリンク部分174の間に配備されている。
【0088】
同図(c)の例では、第3のリンク部分172,第4のリンク部分173,第5のリンク部分174が中央に配置されており、第1のリンク部分170の両側中間位置に関節部171Aを設けて第2のリンク部分171を中央が延設された第1のリンク部分170の両側に形成している。
【0089】
このようにリンク部分を1つの板状部材で形成することで、振動板2を面で支持して振動させることができるので、更に振動板2全体を略同位相で振動させることができ、分割振動を抑制することが可能になる。また、リンク部分を複数の板状部材で形成することもできるが、1つの板状部材で形成することで製造工程を簡略化することができる。リンク部分を1つの板状部材で形成する際、1つの平面状の板状部材からリンク部材を切り出しても構わない。図9に示した実施形態は、図7に示した例のように、駆動部を一対設けて、振動方向変換部を互いに略左右対称に対向配置させることも可能である。この場合には、より多くの箇所で振動板2を支持して略同位相の振動を加えることができるので、分割振動の発生を更に抑制することができる。
【0090】
図10は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置の一部を示す説明図である(同図(a)が側面図、同図(b)が斜視図、同図(c)が分解斜視図)。ここでも、ボイスコイル支持部6の振動を方向変換して振動板2に伝える振動方向変換部の他の実施形態を示している。ここでは、駆動部を一対設けて、振動方向変換部を互いに略左右対称に対向配置させる場合であって、振動方向変換部を一体部品で形成する場合の一例を示す。
【0091】
この実施形態に係る振動方向変換部は、一端をボイスコイル支持部6との関節部270A(R),270A(L)とし、他端を振動板2との関節部270B(R),270B(L)とする一対の第1のリンク部分270(R),270(L)を有する。また、一端を第1のリンク部分270(R),270(L)の中間部との関節部271A(R),271A(L)とし、他端をフレーム3(後述する第6のリンク部分275)との関節部271B(R),271B(L)とする一対の第2のリンク部分271(R),271(L)を有する。更に、ボイスコイル支持部6から一体的に延設される一対の第3のリンク部分272(R),272(L)と、振動板2に沿って固着される第4のリンク部分273とを有する。また、一端を第3のリンク部分272(R),272(L)の端部との関節部274A(R),274A(L)とし、他端を第4のリンク部分273との関節部274B(R),274B(L)とする一対の第5のリンク部分274(R),274(L)を有する。そして、第4のリンク部分273の両端に第1のリンク部分270と振動板2(第4のリンク部分273)との関節部270B(R),270B(L)を形成し、第2のリンク部分271(R),271(L)とフレーム3(後述する第6のリンク部分275)との関節部271B(R),271(L)を第4のリンク部分273とほぼ等しい長さの第6のリンク部分275の両端に形成する。更には、第1のリンク部分270(R)と第5のリンク部分274(R)又は第1のリンク部分270(L)と第5のリンク部分274(L)が平行リンクを形成し、第3のリンク部分272(R),272(L)と第4のリンク部分273がそれぞれ平行リンクを形成する。
【0092】
このような振動方向変換部のリンク機構は、実質的は、図9に示した実施形態のリンク機構をほぼ左右対称に対向配置し、その関節部174Bを離間配置したものと同等である。この例では、各リンク部分を板状部材によって形成し、リンク部分間の各関節部は線状の屈折部によって形成してリンク部分相互間が屈折部を介して一体的に形成されている。
【0093】
また、各関節部の近傍において、各リンク部分の端部には傾斜面が形成されている。特に、傾斜面はリンク部分が関節部において屈折する際に、互いに近づき合うリンク部分の側面とは逆側の側面に形成されており、リンク部分が関節部において効率良く屈折できるように形成されている。そして、このようなリンク機構を有する振動方向変換部が図10(b)に示すように一体部品になっており、その端部にボイスコイル支持部6の接合部200が形成されている。
【0094】
また、この実施形態の振動方向変換部は、リンク部分を形成する一つの板状部材全体を凸台形状に屈折させて第1のリンク部分270(R),270(L)と第4のリンク部分273を形成し、この板状部材を部分的に切り出して凹台形状に屈折させて第2のリンク部分271(R),271(L)と第6のリンク部分275を形成している。
【0095】
更に、この振動方向変換部は、図10(c)に示すように、2枚の板状部材201,202を貼り合わせて形成し、一方の板状部材201に第1のリンク部分270(R),270(L),第2のリンク部分271(R),271(L),第4のリンク部分273,第6のリンク部分275を形成し、他方の板状部材202に、第3のリンク部分272(R),272(L)と第5のリンク部分274(R),274(L)を形成している。そして、第1のリンク部分270(R),270(L)と第4のリンク部分273に沿って第3のリンク部分272(R),272(L)と第5のリンク部分274(R),274(L)を形成すると共に、第2のリンク部分271(R),271(L)と第6のリンク部分275に対応する開口202Aが板状部材202に形成されている。
【0096】
図10(c)に示す例では、第2のリンク部分271(R),271(L)と第6のリンク部分275に対応する他方の板状部材202に形成される開口202Aの大きさが、他方の板状部材202の一端から内側に向かって拡大するように形成されている。このようにすることで、第2のリンク部分271(R),271(L)と第6のリンク部分275が他の板状部材202に接触することが無く、リンク機構の動きを円滑に行わせることができる。
【0097】
このような実施形態では、2つの対向するボイスコイル支持部6に対して一つの一体部品の装着のみで振動方向変換部のリンク機構を形成することができるので、一対の駆動部を備えたスピーカ装置を形成する場合にも組み立て作業を簡易に行うことができる。また、第6のリンク部分275を設けることで、ボイスコイル支持部6の対向振動(複数のボイスコイル支持部6が互いに逆方向となるように振動すること)に対しては、特に関節部271B(R),271B(L)をフレーム3に取り付けなくても、この関節部271B(R),271B(L)のフレーム3上での位置が常に一定に保持されることになり、これによっても振動方向変換部のスピーカ装置への組み込みを簡易化することができる。
【0098】
そして、リンク機構としては、右側の第1のリンク部分270(R)と第3のリンク部分274(R)、左側の第1のリンク部分270(L)と第3のリンク部分274(L)によって平行リンクが形成されているので、ボイスコイル支持部6の対向振動に対して振動板2に固着される第4のリンク部分273をZ軸方向に沿って安定に平行移動させることができる。これによって、平面状の振動板2に対して安定した振動を加えることが可能になる。
【0099】
図11に示す実施形態は、図10に示した実施形態の改良例である。図11(a)に示す例では、ボイスコイル支持部6の対向振動によって曲げが生じ易いリンク部分に対して凸部210を設けて剛性を高めている。図示の例では、第1のリンク部分270(R),270(L),第2のリンク部分271(R),271(L),第3のリンク部分272(R),272(L),第6のリンク部分275にそれぞれ凸部210が設けられている。また、同図(b)に示す例では、特に強度を必要としないリンク部分において開口部220を設けて振動方向変換部の軽量化を図っている。図示の例では、第4のリンク部分273に開口部220が設けられている。振動方向変換部の軽量化は特に再生特性の広域化や、所定の音声電流に対する音波の振幅及び音圧レベルを大きくすることに有効である。
【実施例】
【0100】
以下に、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。図12は、本発明の実施例に係るスピーカ装置100Sの斜視図である。図13は図12に示したスピーカ装置100Sの断面斜視図である。図14は、図12に示したスピーカ装置100Sの要部の上面図である。図15は、図12に示したスピーカ装置100Sの要部の上面図である。以下、前述した実施形態で説明した箇所は同一符号を付して一部説明を省略する。図14,図15では、振動板は省略している。図13において、図に向かって右側の磁気回路の一部は省略している。
【0101】
スピーカ装置100Sは、前述した実施形態で説明したように、振動板2,フレーム3,エッジ5,磁気回路40,ボイスコイル支持部6,振動方向変換部7,ダンパ(規制部)8を有する。この実施例では、フレーム3は矩形の外周を備えており、フレーム3の矩形の開口部30内に、その形状に対応する矩形外周を有する平面状の振動板2が配置されている。振動板2の外周縁にはエッジ5が設けられ、振動板2の全周がエッジ5を介してフレーム3の外周縁に支持されている。
【0102】
一対の磁気回路40(R),40(L)によって駆動される一対のボイスコイル支持部6には、振動方向に沿った両端部それぞれに振動方向変換部7が備えられている。この実施例では、中央に一対の第1のリンク部分70(R),70(L)と第2のリンク部分71(R),71(L)が設けられ、各ボイスコイル支持部6の外側に外側リンク部分72(R),72(L)が設けられている。
【0103】
第1のリンク部分70(R),70(L)は、振動板2の中央部(重心位置)に、関節部70Bを介して屈折自在に接合されている。一方、外側リンク部分72(R),72(L)は、振動板2の中央部(重心位置)より外周部側の位置にて、関節部72B(R),72(L)を介して屈折自在に接合されている。
【0104】
また、第1のリンク部分70(R),70(L)及び外側リンク部分72(R),72(L)の上端部付近には接合部端部75が形成されており、接合端部75が振動板2に形成された溝部21に嵌合している。また、例えば、接合端部75は、振動板2の表側面から突出した状態で固定されている。この振動板2は、3箇所で線状に振動方向変換部7に支持されていることになり、線状の接合部75が補強材になって内部に埋め込まれることになるので比較的大きな強度を有し、振動板のたわみ等の発生を抑止することができる。これによって振動板2全体を略同位相にて振動させることが可能になる。
【0105】
また、第1のリンク部分70(R),70(L)及び外側リンク部分72(R),72(L)は2つの対向した平行リンクを形成しているので、ボイスコイル支持部6の対向振動(複数のボイスコイル支持部6が互いに逆方向となるように振動すること)によって、3箇所の接合部が略同位相・略同振幅で振動することになる。これによっても、振動板2全体が略同位相で振動することになり、分割振動の発生を抑制することができる。
【0106】
第1のリンク部分70(R),70(L)及び外側リンク部分72(R),72(L)には、通気孔70P或いは72Pが設けられている。この通気孔70P,72Pを設けることで、空気抵抗を大きく受けることなく板状部材の各リンク部分を振動させることができる。また、通気孔70P,72Pを設けることで各リンク部分の軽量化が可能になり、再生特性の広域化などが可能になる。
【0107】
ボイスコイル支持部6の移動方向を規制する手段は、ダンパ8と支持部8Aを有する。支持部8Aは、例えば、ボイスコイル支持部6の両端部に沿って長手方向に形成されたL字形状の部材であり、各ボイスコイル支持部6を長手方向に沿って支持している。支持部8Aの端部は、ダンパ8によりフレーム3に振動自在に支持されている。つまり、このような規制手段により、各ボイスコイル支持部6は、X軸方向に沿ってのみ移動自在に形成されている。ダンパ8は、2つの磁気回路40(R),40(L)間を横切るY軸方向に平行な軸に対して、略対称に、ダンパ形状が形成されている。具体的には、ダンパ8は、その軸から遠くに向かって凸形状に形成されている。
【0108】
また、この実施例においては、フレーム3の側部に通気孔301が形成されており、フレーム3の内部とフレーム3の外部との空気流通を可能にしている。これによると、振動板2の振動に対してフレーム3内の圧力による制動が加わるのを抑止することができ、小さな駆動力で確実に振動板を振動させることができる。
【0109】
図16は、本発明の他の実施例に係るスピーカ装置100Tの斜視図である。なお、図16に示したスピーカ装置100Tの断面斜視図、図16に示したスピーカ装置100Tの要部の上面図は、図14、図15におけるフレームがヨークである以外には実質同じであるので、省略する。以下、前述した実施形態で説明した箇所は同一符号を付して一部説明を省略する。図16において、図に向かって右側の磁気回路の一部は省略している。
【0110】
スピーカ装置100Tは、前述した実施形態で説明したように、振動板2,ヨーク41A,エッジ5,磁気回路40,ボイスコイル支持部6,振動方向変換部7,ダンパ(規制部)8を有する。この実施例では、ヨーク43は矩形の外周を備えており、ヨーク43の矩形の開口部30内に、その形状に対応する矩形外周を有する平面状の振動板2が配置されている。振動板2の外周縁にはエッジ5が設けられ、振動板2の全周がエッジ5を介してヨーク43の外周縁に支持されている。
【0111】
ヨーク43は、ボイスコイル支持部に対し静止している状態にて配置されている静止部でもある。また、駆動部4を構成するヨーク43は、磁石42又はプレート46の下方に配置される底板部44と、底板部44を囲むように形成される筒状部45とを備える。なお、静止部であるヨーク43は、完全に静止している状態を意図するわけではなく、例えば、振動板2を支持できる程度に静止していれば良く、スピーカ装置100Tを駆動する際に生じる振動が伝播し、振動が静止部全体に生じても構わない。
【0112】
一対の磁気回路40(R),40(L)によって駆動される一対のボイスコイル支持部6には、振動方向に沿った両端部それぞれに振動方向変換部7が備えられている。この実施例では、中央に一対の第1のリンク部分70(R),70(L)と第2のリンク部分71(R),71(L)が設けられ、各ボイスコイル支持部6の外側に外側リンク部分72(R),72(L)が設けられている。
【0113】
第1のリンク部分70(R),70(L)は、振動板2の中央部(重心位置)に、関節部70Bを介して屈折自在に接合されている。一方、外側リンク部分72(R),72(L)は、振動板2の中央部(重心位置)より外周部側の位置にて、関節部72B(R),72B(L)を介して屈折自在に接合されている。
【0114】
また、第1のリンク部分70(R),70(L)及び外側リンク部分72(R),72(L)の上端部付近には接合部端部75が形成されており、接合端部75が振動板2に形成された溝部21に嵌合している。また、例えば、接合端部75は、振動板2の表側面から突出した状態で固定されている。この振動板2は、3箇所で線状に振動方向変換部7に支持されていることになり、線状の接合部75が補強材になって内部に埋め込まれることになるので比較的大きな強度を有し、振動板のたわみ等の発生を抑止することができる。これによって振動板2全体を略同位相にて振動させることが可能になる。
【0115】
また、第1のリンク部分70(R),70(L)及び外側リンク部分72(R),72(L)は2つの対向した平行リンクを形成しているので、ボイスコイル支持部6の対向振動(複数のボイルコイル支持部6が互いに逆方向となるように振動すること)によって、3箇所の接合部が略同位相・略同振幅で振動することになる。これによっても、振動板2全体が略同位相で振動することになり、分割振動の発生を抑制することができる。
【0116】
第1のリンク部分70(R),70(L)及び外側リンク部分72(R),72(L)には、通気孔70P或いは72Pが設けられている。この通気孔70P,72Pを設けることで、空気抵抗を大きく受けることなく板状部材の各リンク部分を振動させることができる。また、通気孔70P,72Pを設けることで各リンク部分の軽量化が可能になり、再生特性の広域化などが可能になる。
【0117】
第2のリンク部分71(R),71(L)は、一端を第1のリンク部分70の中間部との関節部71Aとし、他端をヨーク44との関節部71Bとしており、第2のリンク部分71(R)、71(L)をボイスコイル支持部6の振動方向(例えば、X軸方向)に対して異なる方向に傾斜配置している。
【0118】
また、図2(b)に示した例におけるフレーム3をヨーク43に置き換え、関節部71Bはヨーク43の底板部44上に突出して形成された支持部34(静止部)上に形成されていても構わない。
【0119】
図16に示されるように、第1のリンク部分70,第2のリンク部分71,関節部70A,70B,71A,71Bによってリンク機構が形成されている。この例では第2のリンク部分71とヨーク43との関節部71Bが位置変位しない関節部であって、他の関節部70A,70B,71Aは位置が変位する関節部になっている。これによって、全体のリンク機構は関節部71Bにおいてヨーク43からの反力を受ける構造になっている。このリンク機構では、関節部70Aがボイスコイル支持部6の振動によってX軸方向に移動すると、関節部71AはZ軸方向に沿って移動することになり、ボイスコイル支持部6の振動を方向変換して振動板2に伝える。
【0120】
ボイスコイル支持部6の移動方向を規制する手段は、ダンパ8と支持部8Aを有する。支持部8Aは、例えば、ボイスコイル支持部6の両端部に沿って長手方向に形成されたL字形状の部材であり、各ボイスコイル支持部6を長手方向に沿って支持している。支持部8Aの端部は、ダンパ8によりヨーク43に振動自在に支持されている。つまり、このような規制手段により、各ボイスコイル支持部6は、X軸方向に沿ってのみ移動自在に形成されている。ダンパ8は、2つの磁気回路40(R),40(L)間を横切るY軸方向に平行な軸に対して、略対称に、ダンパ形状が形成されている。具体的には、ダンパ8は、その軸から遠くに向かって凸形状に形成されている。
【0121】
また、この実施例においては、ヨーク43の側部に通気孔301が形成されており、ヨーク43の内部とヨーク43の外との空気流通を可能にしている。これによると、振動板2の振動に対してヨーク43内の圧力による制動が加わるのを抑止することができ、小さな駆動力で確実に振動板を振動させることができる。
【0122】
以上のように、本発明の実施形態に係るスピーカ装置は薄型化が可能であり、且つ大音量化の実現も可能である。このようなスピーカ装置は各種電子機器や車載用として効果的に用いることができる。図17は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置を備える電子機器を示した説明図である。同図(a)に示した携帯電話或いは携帯情報端末のような電子機器1000、或いは同図(b)に示したフラットパネルディスプレイのような電子機器2000は、スピーカ装置1の設置に必要な厚さスペースを小さくできるので、電子機器全体の薄型化が可能になる。また、薄型化された電子機器においても充分な音声出力を得ることができる。図18は、本発明の実施形態に係るスピーカを備えた自動車を示した説明図である。同図に示した自動車3000は、スピーカ装置1の薄型化によって車内スペースの拡大が可能になる。特にドアパネルに本発明の実施形態に係るスピーカ装置1を内装したものでは、ドアパネルの出っ張りを無くし運転者の操作スペースの拡大が可能になる。また、充分な音声出力が得られるので、雑音が多い高速走行時等でも車内で快適に音楽やラジオ放送を楽しむことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板とフレームと駆動部とを備え、
前記駆動部は、
前記振動板の振動方向とは異なる方向に磁気ギャップを備える磁気回路と、前記磁気ギャップに沿って振動するボイルコイルと、前記ボイスコイルの振動を方向変換して前記振動板に伝える振動方向変換部とを備え、
前記振動方向変換部は、
一端が前記振動板に接続され、他端が前記ボイスコイルに関節部を介して接続される第1のリンク部分と、
一端が前記第1のリンク部分の中間部に接続され、他端が前記振動板とは逆側に位置する静止部に関節部を介して接続される第2のリンク部分とを備え、
前記第1のリンク部分と前記ボイスコイルとを接続する関節部は、前記第2のリンク部分と前記静止部を接続する関節部と略平行に延在することを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
前記第1のリンク部分は、前記第2のリンク部分を介して前記静止部からの反力を受けて角度変換されることを特徴とする請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項3】
前記静止部は前記フレームの一部であることを特徴とする請求項1または2に記載のスピーカ装置。
【請求項4】
前記第2のリンク部分と前記静止部を接続する関節部は、
前記振動板の振動方向および前記ボイスコイルの振動方向とは異なる方向に延在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスピーカ装置。
【請求項5】
前記第1のリンク部分は前記振動板に関節部を介して接続され、
該関節部と前記第2のリンク部分と前記静止部を接続する関節部とは略平行に延在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスピーカ装置。
【請求項6】
前記第2のリンク部分は前記第1のリンク部分の中間部に関節部を介して接続され、
該関節部と前記第2のリンク部分と前記静止部を接続する関節部とは略平行に延在することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のスピーカ装置。
【請求項7】
前記振動板は、前記静止部側に凸形状に有するエッジを介して前記フレームに支持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスピーカ装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のスピーカ装置を備えることを特徴とする自動車。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のスピーカ装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−80577(P2012−80577A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274955(P2011−274955)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2010−502595(P2010−502595)の分割
【原出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】