説明

スプライサ装置

【課題】 小型化が可能で、糸継ぎ中には、スプライスヘッドに設けられる糸挿入用の切欠きを塞ぐことができるスプライサ装置を提供する。
【解決手段】 保持部13で保持される複数の糸12から、糸選択部3で糸継ぎすべき糸12aを選択する。選択した糸12aと使用中の糸12bとを、糸案内レバー14で案内して、スプライスヘッド7の切欠き7aを介して糸継ぎ孔7bに挿入する。糸案内レバー14に設けられる蓋部材300は、使用中の糸12bと選択された糸12aとが糸継ぎ孔7bに挿通された状態で、スプライスヘッド7の切欠き7aに嵌合するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の糸に圧縮流体を吹き付けることによって、糸継ぎをするスプライサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、編地や織地を形成する際には、異なる糸の末端同士の糸継ぎが必要となる。スプライサ装置は、スプライスヘッドに設けられた糸継ぎ孔に複数の糸を挿入し、圧縮流体を吹き付けることによって、糸の末端の繊維の撚りをいったん解いたあとで互いに絡み合わせて継ぎ目を形成する。スプライサ装置は、たとえば、糸を巻き取って織機などに装着するコーンを形成するワインダなどでの糸継ぎに使用されている。
【0003】
スプライスヘッドには、糸継ぎ孔に糸を挿入するために、糸継ぎ孔の軸線方向全長にわたって、糸継ぎ孔に達する切欠きが形成されている。従来のスプライスヘッドでは、糸継ぎ中の糸が圧縮流体によって飛び出さないように、切欠きがスリット状に形成されるものと、糸の出し入れが容易なように、切欠きを幅広に形成し、別途、切欠きを塞ぐ蓋部材が設けられるものとがある(たとえば、特許文献1,2,3参照。)。
【0004】
またスプライサ装置としては、糸継ぎする糸の末端の向きを揃えて糸継ぎを行うと、直線状に接続される糸から末端同士が絡み合う糸継ぎ部が横に延びだして、いわばT字形に糸継ぎ部が形成されるもの(たとえば、特許文献3参照)と、糸の末端の向きを互いに対向するようにして糸継ぎを行うと、糸継ぎ部が直線状に接続される糸の周囲を覆うように絡みあって、いわばI字形に糸継ぎ部を形成するもの(たとえば、特許文献1,2参照)とがある。
【0005】
【特許文献1】特公昭62−23699号公報
【特許文献2】特開2000−63044号公報
【特許文献3】特開2004−27463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
編地は基本的に1本の編糸で形成されるので、異なる糸を継ぎ足すと、同一の糸では得られないような性質や色の変化などを与えることができる。編み機では、複数の糸を交互に使用することも可能であるけれども、形成される編地で同じ糸を使用する部分が離れていると、渡り糸が生じるが、糸継ぎで糸を切り換えれば、渡り糸は生じない。また、編み機で複数の糸が使用可能であっても、糸を供給する部分は狭い領域に限られるので、使用可能な糸の数にも制限がある。しかしながら、従来のワインダなどに備えられるスプライサは大型であり、編み機などの糸の供給経路に設けることはできない。
【0007】
また、編み機に使用するスプライサは、たとえば色を切り換えるような場合、前述のI字形の糸継ぎ部では、糸継ぎ部が中間の色の部分となってしまう。前述のT字形の糸継ぎ部であれば、糸継ぎ部は前後の糸の外部に出るので、前後の糸の色を中間色の部分なしに切り換えることができる。編み機では、色を変える模様の境界部分で糸継ぎが行われ、糸継ぎ部が編地の裏側などに隠れるような制御も可能である。したがって、編み機などには、前述のT字形の糸継ぎ部を形成するスプライサが好ましい。さらに、編み機などに組み込むためには、糸継ぎの対象となる糸を自動的にスプライスヘッドに挿入する機構が必要となる。
【0008】
また、スプライスヘッドの糸挿入するための切欠きがスリット状に形成された場合には、糸にかかるテンションが弱いと、糸を、スリット状の切欠きを通過させる途中で、糸が引っ掛かって止まってしまうことがある。さらに、糸を糸継ぎ孔に挿入できた場合でも、糸継ぎ時に、T字形の糸継ぎ部がスリット状の切欠きに嵌るために、十分な糸継ぎができないことがある。切欠きを覆う蓋部材を設ける場合には、上述のような問題点はないけれども、蓋部材を駆動するために、何らかの駆動機構が必要となり、スプライサ装置が大型化する。
【0009】
特許文献1〜3に記載されるスプライサ装置を検討すると、これらのスプライサ装置は、いずれもワインダに備えられるものであり、編み機の糸の供給経路に設けるには不適当である。また、特許文献1,2に記載されるスプライサ装置で形成される糸継ぎ部は、I字形であり、編み機での糸継ぎ用には適していない。
【0010】
また、特許文献1〜3のスプライサ装置には、いずれも糸挿入用の切欠きを塞ぐため蓋部材が設けられているけれども、特許文献1,2に記載されるスプライサ装置、糸を糸継ぎ孔に案内するためのレバーとは別に、糸挿入用の切欠きを閉塞する機構が設けられていて、小型化には適していない。また、特許文献3には、スプライスヘッドに糸を自動的に挿入することが可能な糸挿入の機構は記載されていない。
【0011】
本発明の目的は、糸挿入用の切欠きを塞ぐ蓋部材を有し、小型化が可能であり、T字形の糸継ぎ部を形成するスプライサ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数の糸のうちの少なくとも1本の糸を使用中に、他の少なくとも1本の糸に糸継ぎすることが可能なスプライサ装置であって、
(a)複数の糸のうちで使用中ではない糸の末端部分を保持する保持部と、
(b)前記保持部が保持する糸のうちから、糸継ぎする対象となる糸を選択する糸選択部と、
(c)前記保持部と反対側の入口から前記保持部側の出口まで貫通する糸継ぎ孔、および該糸継ぎ孔をその軸線方向全長にわたって開放する切欠きが形成され、前記糸選択部によって選択される糸と使用中の糸とが、糸継ぎ孔に挿通されている状態で、圧縮流体の流れによって糸継ぎするスプライスヘッドと、
(d)前記糸選択部によって選択される糸を捕捉するフック部、および前記切欠きを塞ぐ蓋部材を備え、予め定める原点位置から、フック部が前記糸継ぎ孔の入口近傍に配置される作用位置に、前記糸選択部によって選択された糸を前記フック部によって捕捉した状態で移動することによって、前記選択された糸を、前記切欠きを介して前記糸継ぎ孔へ案内するとともに、前記蓋部材で前記切欠きを塞ぐ糸案内レバーと、
(e)前記糸案内レバーを、前記予め定める原点位置と前記作用位置とにわたって移動するように駆動する駆動部と、
を含むことを特徴とするスプライサ装置である。
【0013】
本発明のスプライサ装置において、前記切欠きが前記蓋部材によって塞がれた状態で、前記蓋部材の前記糸継ぎ孔に臨む表面は、前記糸継ぎ孔に臨んで周方向に連続する内周面の一部を構成することが好ましい。
【0014】
また本発明のスプライサ装置において、前記蓋部材が交換可能であることが好ましい。
また本発明のスプライサ装置において、前記スプライスヘッドよりも前記糸選択部側に配置され、前記使用中の糸を前記スプライスヘッドの前記糸継ぎ孔から前記切欠き側に脱出する方向に案内する糸ガイドをさらに含み、
前記糸案内レバーは、前記糸選択部と糸ガイドとにわたる使用中の糸の張架経路を、前記糸案内レバーの前記原点位置および作用位置間の移動時に通過する突起部を有するが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スプライサ装置は、使用中の糸に、使用中でない糸から任意の糸を選択して、糸継ぎすることができる。スプライスヘッドは、選択される糸と使用中の糸とが糸継ぎ孔に挿通された状態で、圧縮流体の流れで接合して糸継ぎするので、糸継ぎ孔に挿通された部分で糸の撚りがいったん解け、その後相互に絡まって糸継ぎ部が形成される。糸案内レバーは、フック部で選択用の糸を捕捉した状態で、フック部が糸継ぎ孔の入口近傍に配置される作用位置に移動するので、使用中の糸と選択された糸とは、スプライスヘッドの糸継ぎ孔の入口側で連続するように接続され、T字形の糸継ぎ部を形成することができる。蓋部材は、糸案内レバーが作用位置に移動したとき、スプライスヘッドの切欠きを塞ぐように糸案内レバーに取付けられるので、糸案内レバーを駆動する駆動部以外に、蓋部材を駆動するための駆動機構を必要としない。したがって、装置を小型化することができる。
【0016】
また本発明によれば、蓋部材によってスプライスヘッドの切欠きが塞がれた状態では、蓋部材とスプライスヘッドとによって、糸継ぎ孔に臨んで周方向に連続する内周面が構成されるので、挿通された糸の引っ掛かりを生じることがなく、円滑に糸継ぎを行うことができる。
【0017】
また本発明によれば、蓋部材を交換可能に構成できるので、単糸、双糸および3本の単糸から成る三子糸などの糸の種類、および糸の本数などに応じて、糸継ぎ孔に臨む内周面の形状を変更することができる。
【0018】
また本発明によれば、糸ガイドは、使用中の糸をスプライスヘッドの糸継ぎ孔から切欠き側に脱出する方向に案内する位置に配置されて、編成中には使用中の糸が、スプライスヘッドの糸継ぎ孔に嵌り込んだ状態となることを防止できるので、円滑な編成動作を実現することができる。糸継ぎ時に選択された糸を案内するために糸案内レバーが移動するときには、糸選択部と糸ガイドとにわたる使用中の糸の張架経路を、糸案内レバーの突起部が通過して使用中の糸を引掛けることによって、糸ガイドから使用中の糸を離脱させて、糸継ぎ孔に導くことができるので、糸ガイドを駆動させる必要がなく、スプライサ装置の構造をさらに簡単化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1および図2は、本発明の実施の一形態であるプライサ装置1を正面側の上方から見て示す斜視図であり、図1は糸案内レバー14が原点位置にある状態を示し、図2は糸案内レバー14が作用位置にある状態を示す。
【0020】
スプライサ装置1は、ベース2に、糸選択部3、電動機によって実現される第1および第2駆動部、保持部13、スプライスヘッド(以下、ヘッドという)7、糸案内レバー14、吸引部19、および糸押え23、カッタ30、糸クランプ31および隔壁100が支持されて構成される。
【0021】
糸選択部3は、隔壁100よりも上方に設けられるベース2の最上部に配置される。隔壁100の手前側には、上から下へ、糸押さえ23、保持部13、吸引部19、カッタ30、ヘッド7、糸クランプ31が、この順で並んで配置され、隔壁の奥側には、第1および第2駆動部が配置される。スプライサ装置1では、使用中の糸は上方から下方へ供給されるが、スプライサ装置1の動作は、重力の影響をあまり受けないので、各部の配置は、たとえば上下を逆にして、下方から上方に糸の供給を行うようにすることもできる。
【0022】
糸選択部3は、個別に設けられるソレノイドによって揺動変位が可能な複数の糸選択レバー10を有する。糸選択レバー10の先端に設けられるリング11には、糸12が挿通される。理解を容易にするために、選択された糸選択レバー、そのリングおよびそのリングに挿通される糸の符号には、添え字「a」を付す。図1では、右端の糸選択レバー10aが選択されて先端のリング11aをベース2側に引き寄せている状態が示されているが、他の糸選択レバー10でも、同様に動作させることができる。選択されていない糸12は待機状態を続け、その末端部分は保持部13で保持される。保持部13は、流体圧で開閉され、閉状態では複数の糸12の末端部分を同時に保持することができる。使用中の糸(理解を容易にするために符号に添え字「b」を付す)12bは、末端部分が保持部13では保持されず、スプライサ装置1の下方に引かれる。
【0023】
糸案内レバー14は、原点位置を検出するレバー原点センサ135および作用位置を検出する作用位置センサ136からの信号に応答する前記第1駆動部によって、予め定める原点位置と糸継ぎが行われる作用位置との間にわたって予め定める軸線まわりに角変位駆動され、一定の角度範囲を往復するように駆動される。糸案内レバー14の原点位置は、糸案内レバー14が、各糸12から退避した位置であり、作用位置は、選択された糸12aを、糸継ぎ孔7bに挿通させることができる位置である。糸案内レバー14の遊端には、フック部14aが設けられ、フック部14aで選択された糸12aを引っ掛けることができる。糸案内レバー14の中間部には、突起部14bが設けられ、角変位の途中で使用中の糸12bを引っ掛けることができる。また、糸案内レバー14のフック部14a寄りの部分に、蓋部材300が着脱可能に取付けられる。蓋部材300は、糸案内レバー14が作用位置にあるときに、後述するヘッド7の切欠き7aに嵌合する。
【0024】
糸案内レバー14と保持部13との間には、セパレータ15が配置されている。保持部13、糸案内レバー14およびセパレータ15は、隔壁100に対して手前側に設けられ、保持部13、セパレータ15、糸案内レバー14の順に、手前から奥に配置されている。使用中の糸12bは、セパレータ15と糸案内レバー14との間を通って下方に導かれる。待機中の糸12は、糸選択レバー10の先端のリング11を通って、セパレータ15の手前側を通り、保持部13で保持される。
【0025】
図3は、ヘッド7と、糸案内レバー14の蓋部材300とを取り出して示す斜視図であり、図3(1)は、ヘッド7の切欠き7aに蓋部材300が嵌合される前の状態を示し、図3(2)は、嵌合後の状態を示す。
【0026】
ヘッド7には、上下方向に貫通する糸継ぎ孔7bと、糸継ぎ孔7bをその軸線方向全長にわたって開放する切欠き7aとが形成されている。糸継ぎ孔7bの下方側が入口であり、上方側が出口である。図3に示すように、切欠き7aの前記軸線方向に垂直な断面形状は略V字状であり、糸継ぎ孔7bの前記軸線方向に垂直な断面形状は略C字状である。またヘッド7には、圧縮流体としての圧縮空気を糸継ぎ孔に噴射するためのガス噴射孔が、糸継ぎ孔7bの軸線と直交する方向に穿孔されている。楔型形状の蓋部材300は、切欠き7aに嵌合可能に形成される。
【0027】
また、本実施の形態では、糸の種類、糸の太さ、糸の材料ならびに糸の本数などに応じて、糸継ぎ孔7bの大きさおよび形状が変更可能なように、蓋部材300を交換することができる。図4は、ヘッド7および蓋部材300a,300b,300cを示す平面図であり、蓋部材300の形状の変形例を示すものである。ここで、図4の各図では、切欠き7aに対向する位置にガス噴射孔7cが形成されている。
【0028】
図4(1)に示す蓋部材300aでは、糸継ぎ孔7bの臨む表面301aが糸継ぎ孔7bから離反する方向に湾曲しており、蓋部材300aとヘッド7とによって周方向に連続する円筒状の内面が構成されている。これによって、糸継ぎ孔7bに挿通された糸が引っ掛かる部分をなくして、糸継ぎを円滑に行うことができる。
【0029】
図4(2)に示す蓋部材300bでは、蓋部材300aとヘッド7とによって形成される内面が周方向に連続し、蓋部材300bの糸継ぎ孔7bに臨む表面301bが平面上に形成される。これによって、ガス噴射孔7cから噴射された圧縮空気を、糸継ぎ孔7bに挿通された糸に激しく吹き付けることができ、糸の解撚と交絡を強力に行うことができる。
【0030】
図4(3)に示す蓋体300cでは、蓋部材300aとヘッド7とによって形成される内面は、周方向に連続するとともに、ガス噴射孔7cに対向する部分で、ガス噴射孔7cに沿って突出している。このような場合、ガス噴射孔7cから噴射された圧縮空気の気流は、蓋体300cの糸継ぎ孔7bに臨む内面301cに衝突した後、主として、糸継ぎ孔7bの周方向に分割されて流れ、周方向に旋回する旋回流となり、糸継ぎすべき糸を、より強く交絡させることができる。
【0031】
図1および2を参照して、糸押さえ23は、保持部13と同様に、作用領域内に配置される糸12を押さえるためのもので、保持部13の上方となる糸選択部3側寄りの位置に設けられる。糸押さえ23は、保持部13と同様に、圧縮空気によって駆動され、たとえば、エアシリンダによって実現される。
【0032】
吸引部19は、糸継ぎ孔7bの出口付近に設けられ、周囲の空気とともに、糸の末端なども吸引することができる。
【0033】
隔壁100に対して奥側には、ヘッド7のガス噴射孔へ、圧縮空気の供給および供給停止を行うためのヘッド用の電磁弁と、吸引部19へ吸引力の導入および導入の停止を行うための吸引部用の電磁弁とが設けられる。圧縮空気をヘッド7に導く管路、および吸引部19に接続される管路などは、図示を省略している。さらに、隔壁100に対して奥側には、圧縮空気の保持部13への供給および供給停止を行うための保持部用の電磁弁と、圧縮空気の糸押さえ23への供給および供給停止を行うための糸押さえ用の電磁弁とが配置される。
【0034】
糸ガイド20は、使用中の糸12bを案内して、編成時における使用中の糸12bの張架経路の位置決めを行う。図5は、編成時の糸位置200と、糸継ぎ時の糸位置201とを説明するための図である。糸ガイド20は、ヘッド7の出口付近で、ヘッド7よりも選択部3側に配置されて、使用中の糸12bを、糸継ぎ孔7bから切欠き7a側に脱出する方向に案内する。具体的には、糸ガイド20は、セパレータ15の下端部で、かつ、糸継ぎ孔7bから切欠き7a側に脱出する方向の端部で、かつ、隔壁100とセパレータ15との間に形成される。
【0035】
糸ガイド20は、V字状の溝を有し、糸継ぎ孔7bから切欠き7a側に脱出する方向とは反対方向に進むにつれて先細に形成される2つの案内面を有する。編成時の使用中の糸は、糸ガイド20に案内されるとともに、スプライサ装置1から排出された使用中の糸を導糸する導糸部202とに案内されるとともに、テンションが与えられて、糸継ぎ孔7bから脱出して、切欠き7aに位置する。
【0036】
糸継ぎ時には、使用中の糸12bは、糸案内レバー14が原点位置から作用位置まで角変位する間に前記突起部14bによって引っ掛けられて、糸ガイド20から離脱してセパレータ15の奥側から手前側に移動するとともに、前記フック部14aによって案内されて、糸継ぎ孔7bに配置される。このように、使用中の糸12bを糸継ぎ孔7bに案内するために、糸ガイド20を駆動させる必要がないので、装置の構造を簡単化することができる。
【0037】
図6は、ヘッド7の近傍を拡大して示す図である。カッタ30は、固定刃30aと可動刃30bとを有し、ヘッド7の糸継ぎ孔7bの出口付近に配置され、糸継ぎ孔7bに配置される糸を切断可能である。糸クランプ31は、固定部31aと可動部31bとを有し、ヘッド7の糸継ぎ孔7bの入口付近に設けら、糸継ぎ孔7bに配置される糸を保持可能である。カッタ30および糸クランプ31の駆動は第2駆動部によって行われ、第2駆動部は図6(1)および(2)に示すように前記可動刃30aを、固定刃30bに対して変位駆動する。
【0038】
糸クランプ31の可動部31bは、可動刃30bの角変位に追従して移動し、選択された糸12aと使用中の糸12bとが糸継ぎ孔7bに挿通された状態で、図6(2)に示すように糸継ぎ孔7bの入口を塞ぐともに、選択された糸12aと使用中の糸12bとを、固定部31aとで挟むことができる。
【0039】
第1および第2駆動部は、たとえばステッピングモータが使用され、角度位置および回転方向を駆動パルスの発生数などで調整することができる。
【0040】
図7は、糸継ぎ動作の手順を示すフローチャートである。図8〜図11は、図7のフローチャートに含まれる糸継装置1の動作状態を示す。以下、図6および図8〜図11を適宜参照しながら、図7に示すフローチャートの各ステップについて説明する。
【0041】
糸継ぎ動作は、糸12の変更が必要になった時点で開始される。ステップs1では、複数の糸選択レバー10の先端のリング11には糸12がそれぞれ挿通されており、このうち、少なくとも1本の糸12bは、使用中である。またその他の糸12の末端部分は、保持部13で保持されている。保持部13での待機中の糸12の末端部分の保持は、セパレータ15の手前側で行われる。使用中の糸12bは、セパレータ15の奥側を通過して下方に延びるように、待機中の糸12と分離されている。各部の状態としては、糸押さえ23は糸を押さえておらず、保持部13は待機中の糸12の末端部分を保持しており、吸引部19は糸を吸引しておらず、カッタ30では2枚の刃30a,30bが開いており、糸クランプ31はヘッド7の入口を塞いでおらず、ヘッド7には糸継ぎのための圧縮空気が供給されていない。また保持部13では、保持する糸12の末端部分が保持部13から下方へ出るように保持しており、この末端部分は、吸引部19によって吸引することができる。また糸案内レバー14は、原点位置にある。各部の動作は、たとえばマイクロコンピュータによって実現される制御部によって制御される。
【0042】
ステップs2では、図8および図9に示すように、糸選択部3で少なくとも1本の糸12aを選択させる。選択された糸12aは、糸案内レバー14の角変位の移動軌跡にかかり、フック部14aによって引っ掛けられる位置まで移動する。
【0043】
ステップs3では、第1駆動部を制御し、糸案内レバー14の原点位置から作用位置に向かう角変位を開始させる。糸案内レバー14が角変位中に、選択されている糸12aをフック部14aで引っ掛けるとともに突起部14bで使用中の糸12bを引っ掛ける。これによって図10に示すように、糸12aを側方に引き出すことができる。糸12aの末端は、保持部13で他の待機中の糸の末端とともに保持されているけれども、他の糸については図示を省略する。使用中の糸12bは、突起部14bに引っ掛かるまではセパレータ15の奥側を通って糸ガイド20で案内されており、突起部14bに引っ掛かると図10および図11に示すように、糸ガイド20を離脱して、セパレータ15の側端を越えて、セパレータ15の手前側に移動し、糸押さえ23の作用領域内に入り込む。糸押さえ23の作用領域内には、図8に示すように、待機中の糸12も入り込んでいる。ただし、使用中の糸12bよりも右側となる糸12cを選択する場合は、突起部14bは使わないで、選択した糸12cが使用中の糸12bを連行する。これらの糸12,12bは、糸押さえ23によって、一時的に保持することが可能である。
【0044】
ステップs4では、糸案内レバー14が作用位置に到達して角変位を終了させる。糸案内レバー14の遊端のフック部14aは、ヘッド7の下方の入口まで選択された糸12aを案内し、選択された糸12aはヘッド7に設けられる糸継ぎ孔7bに嵌まり込む。選択された糸12aの末端側は、ヘッド7の上方の保持部13で保持されている。使用中の糸12bは、セパレータ15の側端を乗り越えて、開いた状態の糸押さえ23に挿入されるとともに、糸案内レバー14の遊端のフック部14aによって案内されて、糸継ぎ孔7bに配置される。糸案内レバー14が作用位置に到達した時点では、ヘッド7の切欠き7aに蓋部材300が嵌合するので、蓋部材300を駆動するための専用の駆動機構を必要とせず、切欠き7aを塞ぐことができる。
【0045】
ステップs5では、図11に示すように、保持部13に保持されている糸12,12aの保持部13から下方へ出ている末端部分を吸引部19によって吸引させ、これと同時に、糸押さえ23によって使用中の糸12bと待機中の糸12とを押える。
【0046】
ステップs6では、図6(1)および(2)に示すように糸クランプ31の可動部を変位させて、ヘッド7の糸継ぎ孔7bの入口を塞ぎ、同時に糸継ぎ孔7bに嵌まり込んでいる選択された糸12aおよび使用中の糸12bを、固定部31aと可動部31bとによって挟むとともに、カッタ30によって糸継ぎ孔7bの出口付近で、選択された糸12aおよび使用中の糸12bを切断する。
【0047】
次にステップs7では、糸継ぎ孔7bに圧縮空気を供給し、糸継ぎを開始する。ガス噴射孔から噴射された圧縮空気によって、入口から出口に向かう方向の気流が形成されて、気流内で糸12a,12bの撚りをいったん解いてから再び絡めて糸継ぎが行われる。ステップs8では、保持部13による糸12の保持を解除させ、これによって選択された糸12aの端部が保持部13から解放されて、糸屑として吸引部19に吸引される。このとき、使用中の糸12bを含めて、待機中の糸12は糸押さえ23によって押えられている。
【0048】
ステップs9では、糸継ぎ孔への圧縮空気の供給を停止させ、糸継ぎを終了する。ステップs10では、保持部13によって待機状態の糸12の末端付近を保持する。使用中の糸12bは、ステップs6でのカッタ30による切断箇所から上方の部分が保持部13で保持され、待機状態となる。ステップs11では、第2駆動部によって糸クランプ31による糸の保持を解除して、糸継ぎ孔7bの入口を開くとともに、カッタ30の刃先を開く。
【0049】
次のステップs12では、吸引部用および糸押さえ用電磁弁をそれぞれ制御して、吸引部19による糸12の吸引を停止し、かつ糸押さえ23による糸12の押さえが停止される。ステップs13では、第1駆動部によって糸案内レバー14を原点位置に戻し、糸継ぎ動作が終了する。
【0050】
図12は、スプライサ装置1を横編機60に装着して編糸61を糸12として糸継ぎを行う構成を示す。スプライサ装置1は、織機やワインダなど、他の装置に装着することもできる。横編機60は、たとえば、特開2006−118059号として提案されている。図示を省略しているけれども、横編機60の上部には、色や性状の異なる複数種類の糸をそれぞれ供給可能なコーンが載置される。横編機60での編地の編成は、ニードルベッド62に配置される編針を、ニードルベッド62に沿って走行するキャリッジ63に搭載されるカム機構で選択的に駆動して行われる。編針に編糸61を供給するために、キャリッジ63はヤーンフィーダ64を連行する。横編機60では、複数のヤーンフィーダ64を選択して編糸61を切り換えることができるけれども、使用可能なヤーンフィーダ64の数には制限があり、したがって変更可能な編糸61の数にも制限がある。スプライサ装置1で編糸61を切り換えることができれば、ヤーンフィーダ64は1つでも、供給する編糸64を複数に切り換えることが可能となり、編成する編地に使用される編糸61の数を大幅に増大させることができる。
【0051】
編成する編地に編み込まれる編糸61の長さは、編糸61の張力変動が少ない条件で予め計算して求めることができる。編成される編地の品質を高めるためにも、急激な張力変動を避けることが好ましいので、編糸の定量送り出し装置65が設けられる。スプライサ装置1で編糸61の切換を行うタイミングは、編地で編糸61を切り換える位置に合わせるように調整される。
【0052】
上述した各実施形態は、本発明の一例示であって発明の範囲内において構成を変更することができる。たとえば、上述の各実施の形態では、圧縮流体として圧縮空気を用いたけれども、流体の種類は空気に限るものでなく、糸継ぎする糸に対して不活性なガス、たとえば窒素ガスを空気の代わりに用いることもできる。また、加圧した水を圧縮流体として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】糸案内レバー14が原点位置にあるスプライサ装置1を正面側の上方から見て示す斜視図である。
【図2】糸案内レバー14が作用位置にあるスプライサ装置1を正面側の上方から見て示す斜視図である。
【図3】ヘッド7および蓋部材300を取り出して示す斜視図である。
【図4】ヘッド7および蓋部材300a,300b,300cを示す平面図である。
【図5】編成時の糸位置200と、糸継ぎ時の糸位置201とを説明するための図である。
【図6】図6(1)は、糸継ぎする糸12a,12bがヘッド7の糸継ぎ孔7bに嵌まり込んでいる状態のヘッド7付近の構成を簡略化して示す側面図であり、図6(2)は、糸クランプ31およびカッタ30を作用させている状態のヘッド7付近の構成を簡略化して示す側面図である。
【図7】糸継ぎ動作の手順を示すフローチャートである。
【図8】糸継ぎを行うための糸12aを選択している状態のスプライサ装置1を簡略化して示す正面図である。
【図9】図8の状態のスプライサ装置1を簡略化して示す左側面図である。
【図10】選択した糸12aを糸案内レバー14の遊端のフック部14aで引っ掛けている状態のスプライサ装置を簡略化して示す正面図である。
【図11】糸案内レバー14の遊端のフック部14aで選択した糸12aをヘッド7の入口に案内している状態のスプライサ装置1を簡略化して示す正面図である。
【図12】スプライサ装置1を横編機60に装着して編糸61を糸12として糸継ぎを行う構成を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 スプライサ装置
2 ベース
3 糸選択部
4 第1駆動部
5 第2駆動部
7 スプライスヘッド
10,10a,10b 糸選択レバー
12,12a,12b,12c 糸
13 保持部
14 糸案内レバー
20 糸ガイド
23 糸押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸のうちの少なくとも1本の糸を使用中に、他の少なくとも1本の糸に糸継ぎすることが可能なスプライサ装置であって、
(a)複数の糸のうちで使用中ではない糸の末端部分を保持する保持部と、
(b)前記保持部が保持する糸のうちから、糸継ぎする対象となる糸を選択する糸選択部と、
(c)前記保持部と反対側の入口から前記保持部側の出口まで貫通する糸継ぎ孔、および該糸継ぎ孔をその軸線方向全長にわたって開放する切欠きが形成され、前記糸選択部によって選択される糸と使用中の糸とが、糸継ぎ孔に挿通されている状態で、圧縮流体の流れによって糸継ぎするスプライスヘッドと、
(d)前記糸選択部によって選択される糸を捕捉するフック部、および前記切欠きを塞ぐ蓋部材を備え、予め定める原点位置から、フック部が前記糸継ぎ孔の入口近傍に配置される作用位置に、前記糸選択部によって選択された糸を前記フック部によって捕捉した状態で移動することによって、前記選択された糸を、前記切欠きを介して前記糸継ぎ孔へ案内するとともに、前記蓋部材で前記切欠きを塞ぐ糸案内レバーと、
(e)前記糸案内レバーを、前記予め定める原点位置と前記作用位置とにわたって移動するように駆動する駆動部と、
を含むことを特徴とするスプライサ装置。
【請求項2】
前記切欠きが前記蓋部材によって塞がれた状態で、前記蓋部材の前記糸継ぎ孔に臨む表面は、前記糸継ぎ孔に臨んで周方向に連続する内周面の一部を構成することを特徴とする請求項1記載のスプライサ装置。
【請求項3】
前記蓋部材が交換可能であることを特徴とする請求項2記載のスプライサ装置。
【請求項4】
前記スプライスヘッドよりも前記糸選択部側に配置され、前記使用中の糸を前記スプライスヘッドの前記糸継ぎ孔から前記切欠き側に脱出する方向に案内する糸ガイドをさらに含み、
前記糸案内レバーは、前記糸選択部と糸ガイドとにわたる使用中の糸の張架経路を、前記糸案内レバーの前記原点位置および作用位置間の移動時に通過する突起部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のスプライサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−132359(P2010−132359A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75645(P2007−75645)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】