スプレッダーシュー及び摩擦低減方法
【課題】板材間の摩擦係数をより小さくしたスプレッダーシュー及び摩擦低減方法を提供する。
【解決手段】スプレッダーシュー1の摩擦低減構造11は、互いに重なり合う2枚の板材4a、4bと、板材4aを支持する支持板5と、板材4bを滑動可能に保持する保持装置6と、板材4a、4b間に潤滑液7を充填するための潤滑液供給装置8と、を備えている。板材4aには、潤滑液7を板材4bと当接する面で貯留するための溝4cと、板材4aを貫通して潤滑液7を溝4cへ送給するための複数の貫通孔4dと、が設けられている。
【解決手段】スプレッダーシュー1の摩擦低減構造11は、互いに重なり合う2枚の板材4a、4bと、板材4aを支持する支持板5と、板材4bを滑動可能に保持する保持装置6と、板材4a、4b間に潤滑液7を充填するための潤滑液供給装置8と、を備えている。板材4aには、潤滑液7を板材4bと当接する面で貯留するための溝4cと、板材4aを貫通して潤滑液7を溝4cへ送給するための複数の貫通孔4dと、が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機に設置されたシールドジャッキの推力をセグメントに伝達するためのスプレッダーシュー及びその摩擦低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド機のシールドジャッキが反力をとるセグメントは、掘削されたトンネル内壁面に沿って環状に組立てられる。この場合、シールドジャッキ本体の直径とセグメントの厚みとにはかなりの差があり、シールドジャッキの軸心とセグメントの厚み方向の中心との間にかなりの偏心量がある。このとき、セグメントの厚みの中心は、シールドジャッキの軸心に対して外方に位置しているので、シールドジャッキを伸張してセグメントに当接させた状態で反力をとる場合には、セグメントを外方に押しやる径方向の分力が作用し、このような径方向の分力がセグメントの端部に加わると、曲線部の施工中や高い推力が作用した場合にセグメントにクラックが発生することがあった。
そこで、シールドジャッキのスプレッダーにスプレッダーシューを取り付けて、セグメントの径方向の分力を低減する方法が提案されている。
例えば、本出願人は、特許文献1において、複数の板材と、当該複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持するばねと、を備えたスプレッダーシューを提案している。かかる構成のスプレッダーシューによれば、シールド機を推進させる際に、シールドジャッキを伸張させて、このスプレッダーシューをセグメントの前端面に当接させた際、この当接位置がセグメントの径方向中央位置からずれていても、スプレッダーに固定されている一方の板材と、セグメントに当接する他方の板材とが相対的に滑ることで、セグメントの径方向の分力を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−241785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているスプレッダーシューでは、板材同士が接触しているので、摩擦係数は板材自体の材質に依存して大きく(例えば、約0.1)、これ以上小さくならない。このため、シールドジャッキによって大きな推力(例えば、500N程度)が作用すると、板材同士が滑り始めるまでに過大な力(例えば、50N程度)がセグメントの前端面に作用するので、板材が滑り始める前にセグメントを損傷させてしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、板材間の摩擦係数をより小さくしたスプレッダーシュー及び摩擦低減方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置とを備え、何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されているスプレッダーシューであって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とする。
【0007】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、が形成されていることとしてもよい。
【0008】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔が形成されていることとしてもよい。
【0009】
本発明において、前記潤滑液を供給するための供給装置を更に備えることとしてもよい。
【0010】
また、本発明は、シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置と、を備えて何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されたスプレッダーシューの摩擦を低減する摩擦低減方法であって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、を形成することとしてもよい。
【0012】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔を形成することとしてもよい。
【0013】
本発明において、前記溝内又は前記貫通孔内の圧力を測定して、前記溝内の圧力が所定の値以下の場合に前記潤滑液を前記溝内に供給することとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、板材間の摩擦係数をより小さくしたスプレッダーシュー及び摩擦低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るシールド機の鉛直断面図である。
【図2】スプレッダーシューをスプレッダーに取り付けた状態を示す平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB矢視図である。
【図5】図4のC部を拡大した図である。
【図6】図5のD−D断面図である。
【図7】図5のE−E断面図である。
【図8】図6のF−F断面図である。
【図9】図5の背面図である。
【図10】潤滑液の広がりを示す図である。
【図11】潤滑液の広がりを示す図である。
【図12】3枚以上の板材を備えた場合の実施例を示す図である。
【図13】ストッパー及び板材の他の実施例を示す図である。
【図14】板材に溝を設けた場合の実施例を示す図である。
【図15】溝の両端を板材の側面に到達するように延設した場合の実施例を示す図である。
【図16】貫通孔を格子状に形成した場合の実施例を示す図である。
【図17】貫通孔を格子状に形成した場合の実施例を示す図である。
【図18】貫通孔のみを複数形成した場合の実施例を示す図である。
【図19】貫通孔のみを複数形成した場合の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のスプレッダーシュー1の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態では、1台のスプレッダーシュー1に2本のシールドジャッキ2を接続した場合について説明するが、これに限定されるものではなく、1本のシールドジャッキ2に接続した場合にも適用可能である。
【0017】
図1は、本実施形態に係るシールド機10の鉛直断面図である。また、図2は、スプレッダーシュー1をスプレッダー3に取り付けた状態を示す平面図である。さらに、図3及び図4は、それぞれ図2のA−A断面図、B矢視図であり、図5は、図4のC部を拡大した図である。
【0018】
図1〜図5に示すように、スプレッダーシュー1の摩擦低減構造11は、互いに重なり合う2枚の板材4a、4bと、板材4aを支持する支持板5と、板材4bを滑動可能に保持する保持装置6と、板材4a、4b間に潤滑液7を供給する潤滑液供給装置8と、を備えている。
【0019】
板材4a、4b(図2参照)は、摩擦係数の小さい板状部材からなり、本実施形態では、ポリテトラフルオロエチレンからなる強化プラスチック板を用いた。
【0020】
板材4a、4b間には潤滑液供給装置8(図1参照)によって供給された潤滑液7が充填されており、この潤滑液7によって板材4a、4bの摩擦抵抗が低減されている。
潤滑液7は、2本のシールドジャッキ2により大きな推力、例えば、500N程度が作用することを考慮して、本実施形態では、NLGIちょう度番号の0番の極圧グリスを用いた。極圧グリスを用いたことにより、摩擦係数が0.05以下となった。
【0021】
極圧グリスには、潤滑液7が少なくなって板材4a、4b同士が直接接触した場合でも板材4a、4bの摩耗を防止するための固体潤滑剤が含まれている。
【0022】
固体潤滑剤として、例えば、有機モリブデン、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、グラファイト、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイトのうちの少なくとも1種が含まれるものを用いることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、極圧グリスを用いたが、これに限定されるものではなく、常温下にて半固体又は半流動性のものであればよく、シールドジャッキ2の推力、トンネル内の温度、湿度等に基づいて選定される。
【0024】
板材4a(図3参照)には、潤滑液7(図3中の左下がり斜線ハッチング部分)を貯留するための溝4cと、板材4aを貫通して潤滑液7を溝4cへ送給するための複数の貫通孔4dと、が設けられている。
【0025】
溝4c(図4参照)は、他方の板材4bと当接する面(以下、当接面という)に格子状に、全ての貫通孔4dと連通するように形成されている。これにより、何れか一つの貫通孔4dから潤滑液7を送給することにより、溝4c全体へ潤滑液7(図4中の左下がり斜線ハッチング部分)を送給することができる。したがって、例えば、4つの貫通孔4dのうち、3つの貫通孔4dが使用不可能となっても、1つの貫通孔4dから潤滑液7を供給することにより、溝4c全体へ潤滑液7を送給することができる。なお、貫通孔4dにおいて、本実施形態では、貫通孔4dを4つ設けた場合について説明したが、この数に限定されるものではなく、貫通孔4dの数や配置は、シールド機10の稼働時間や潤滑液7の性質等に基づいて設計等により決定される。
【0026】
板材4aは、支持板5に埋込みボルト4e(図7、図8参照)で固定されている。この支持板5は、鋼板からなり、スプレッダー3に揺動可能に取り付けられている。
支持板5には、板材4aと同様に、潤滑液7を送給するための貫通孔5d(図3参照)が設けられている。そして、この貫通孔5dのシールドジャッキ側孔口には圧力計8e(後述する)を介して給脂ニップル5aが取り付けられている。
給脂ニップル5aから潤滑液7を供給することにより、貫通孔4d、5dを介して板材4aの当接面に潤滑液7を供給することができる。
【0027】
また、支持板5の四隅には、板材4bの径方向及び周方向の移動範囲を制限するためのストッパー5b(図5参照)が設けられている。
ストッパー5bは、直方体の形状を有し、埋込みボルト5cで支持板5に取り付けられている。本実施形態では、ストッパー5bとして、板材4a、4bと同じ材質の強化プラスチック板を用いた。
【0028】
板材4bの四隅部分は、板材4bの側面がストッパー5bの側面に密着して当接できるように、ストッパー5bの形状に沿って角が落とされている。
なお、ストッパー5bの側面と板材4bの四隅部分の側面との間には、所定の大きさの隙間H、Vが設けられており、板材4bの面内方向の移動範囲は、その隙間H、Vの大きさで許容されることとなる。
板材4bの四隅部分の側面には、潤滑液7が塗布されており、板材4bの隅部がストッパー5bに当接した状態で径方向又は周方向に滑動する際の摩擦抵抗は無視できる程度となっている。
【0029】
図6及び図7は、それぞれ図5のD−D断面図、E−E断面図である。また、図8は、図6のF−F断面図である。さらに、図9は、図5の背面図である。
図6〜図9に示すように、保持装置6は、保持装置本体6aと、この本体6aを支持板5に固定するための一対のブラケット6bと、を備え、板材4bを板材4aに対して滑動可能に保持する。
【0030】
保持装置本体6aは、板材4bの側部中央に連結された中間部6c(図6参照)と、中間部6cを挟み込むようにその上下にそれぞれ配置されたにコイルばね6dと、コイルばね6dの長さを調整するためのばね調整用ボルト6eと、から構成されている。
一対のブラケット6bは両コイルばね6dを上下から挟むように配置されて、それぞれが支持板5に固定されている。
【0031】
板材4bの側部中央と中間部6cとは、それぞれを貫通するように設けられた鋼製のピン6fにより連結されている。
【0032】
ばね調整用ボルト6eは、ブラケット6bに形成された穴6g及びコイルばね6d内を貫通するように設けられ、先端が中間部6cに固定されている。
【0033】
ばね調整用ボルト6eの頭部とブラケット6bとの間にナット6hが設けられており、ナット6hを締め付けたり、緩めたりしてコイルばね6dの長さLを変更することにより、コイルばね6dの弾性力を調整することができる。かかる場合には、板材4bの滑りを妨げず、かつ、板材4bを元の位置に戻す復帰力を十分に発生させる程度にコイルばね6dの弾性力を調整する。
【0034】
なお、本実施形態では、両コイルばね6dの長さLを同じにしたときに、中間部6cの位置、すなわち板材4bの位置がスプレッダーシュー1の径方向中央位置となるように保持装置6を配置した。
【0035】
以上の構成によれば、板材4bが径方向又は周方向に滑動した状態でセグメント12の前端面12aに当接していても、シールドジャッキ2を収縮させて板材4bをセグメント12の前端面12aから離間させると、両コイルばね6dの弾性力によって、板材4bはスプレッダーシュー1の径方向中央位置に戻ることができる。これによって、再びシールドジャッキ2を伸張させて板材4bをセグメント12の前端面12aに当接させた際の板材4bの移動範囲を確保することができる。
【0036】
また、板材4aと板材4bとが重なり合っているので、潤滑液7が漏れにくい。
【0037】
なお、コイルばね6dの性状が変化して板材4bをスプレッダーシュー1の径方向中央位置に配置することができなくなった場合は、少なくとも何れか一方のばね調整用ボルト6eを締めたり、緩めたりして、コイルばね6dの長さLを変更してコイルばね6dの弾性力を調整することにより、板材4bをスプレッダーシュー1の径方向中央位置に配置することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、コイルばね6dを用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、弾性的に伸縮可能なシリンダーを用いてもよい。要は、板材4bがセグメント12の前端面12aから離間した後、板材4bをスプレッダー3の径方向中央位置に復帰させる機構を備えているものであればよい。
【0039】
潤滑液供給装置8は(図1参照)、潤滑液7を貯留するためのタンク8aと、タンク8a内を加圧するための加圧器8bと、潤滑液7を供給するためのポンプ8cと、一端が給脂ニップル5aに接続され、他端がポンプ8cに接続されたホース8dと、溝4c内の圧力を測定するための圧力計8eと、ポンプ8cの駆動を制御するための制御部8fと、を備えている。
【0040】
ポンプ8cから吐出された潤滑液7は、ホース8d、給脂ニップル5a及び貫通孔4d、5dを通過して溝4c内に送給される。
【0041】
加圧器8bでタンク8a内に圧力を加えて潤滑液7をポンプ8cへ送給する。これにより、粘度の高い潤滑液7を用いても、ポンプ8cは容易に潤滑液7を吸入することが可能となる。
【0042】
潤滑液7がスプレッダーシュー1に到達した際に、給脂ニップル5aのチェックバルブを開くことができる程度の圧力を有するように、ポンプ8cの吐出圧を調整する。
【0043】
ホース8dは、シールドジャッキ2の伸縮に追随して伸縮可能なスライドレール8gに固定されている。
【0044】
制御部8fは、溝4c内の圧力が所定の値以下になる(すなわち圧力計8eが所定の値以下を示す)と、自動的にポンプ8cを駆動して潤滑液7を供給する。そして、潤滑液7が溝4c内に充填されて、圧力計8eが所定の値よりも大きい値を示すとポンプ8cを停止する。
【0045】
上述した構成からなるスプレッダーシュー1の動作について以下に説明する。
【0046】
まず、シールド機10による掘進に先立って板材4a内の溝4cへ潤滑液7を充填する。溝4c内の圧力が上記所定の値よりも大きくなったら充填作業を停止する。
次に、スプレッダーシュー1をセグメント12に当接させながらシールドジャッキ2を伸張して地山を掘進する。このとき、セグメント12を外方に押しやる径方向の分力がスプレッダーシュー1に作用して板材4bが滑動する。
板材4bが滑動すると、図10に示すように、板材4aと板材4bとの間で、この板材4bの移動領域(図10中の右下がり斜線ハッチング部分)に潤滑液7が広まる。
次に、掘進作業終了後、シールドジャッキ2を収縮させてスプレッダーシュー1をセグメント12から離間させると、コイルばね6dの弾性力によって板材4bはスプレッダーシュー1の径方向中央位置(すなわち、元の位置)に戻る。
そして、再び、シールド機10で地山を掘進する際は、前回の掘進時と同様に、スプレッダーシュー1をセグメント12に当接させながらシールドジャッキ2を伸張することによって、径方向の分力がスプレッダーシュー1に作用して板材4bが滑動する。板材4bが滑動すると、図11に示すように、前回の移動領域分と今回の移動領域(図11中の右下がり斜線ハッチング部分)分とを加えた領域に潤滑液7が広まる。
このように、シールドジャッキ2を伸張させながら地山を掘進して、その後、シールドジャッキ2を収縮する作業を繰り返し行うことにより、板材4aと板材4bとの間に潤滑液7を次第にいきわたらせることができる。なお、溝4c内の圧力が上記所定の値以下になると随時、潤滑液7が補充される。
【0047】
以上の構成によれば、シールドジャッキ2を伸張させた際に、セグメント12を押圧する位置が中心からずれていても、板材4aと板材4bとが相対的に滑ることにより、セグメント12の径方向の分力を抑制できる。
【0048】
また、板材4a、4b間に潤滑液7が充填されているため、板材4a、4b同士を直接接触させて滑動させた場合と比べて摩擦抵抗が大幅に小さくなる。したがって、シールドジャッキ2でセグメント12を押圧しても、セグメント12を破損させるような力がセグメント12に作用する前に板材4a、4bが滑り始めるので、セグメント12を損傷させることがない。具体的には、両シールドジャッキ2の合計推力が500N程度の場合、本実施形態に係る摩擦係数は0.05なので、セグメント12に25Nの押圧が作用すると板材4a、4bが滑り始めるので、セグメント12を損傷させることがない。
【0049】
また、シールドジャッキ2を収縮させて板材4bがセグメント12の前端面12aから離れると、両コイルばね6dの弾性力によって、板材4bはスプレッダーシュー1の径方向中央位置に戻ることができる。
【0050】
また、板材4bを保持するための保持装置6が設けられているので、板材4bは面内方向の全ての向きに移動することができる。
【0051】
さらに、板材4a、4bに用いるポリテトラフルオロエチレンは、一般的な材料であり、入手性がよい。ただし、板材4a、4bは、ポリテトラフルオロエチレンに限定されるものではなく、低摩擦材であれば他の材質を用いてもよく、例えば、超高分子ポリエチレン等のプラスチック、テフロン、オイルレスメタル等の金属を用いてもよい。
【0052】
また、潤滑液供給装置8を備えているので、潤滑液7が不足して溝4c内の圧力が低下した場合は、直ちに潤滑液7を供給することができる。
【0053】
なお、本実施形態において、板材4a、4bとして同一材質のものを重ね合わせる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、異なる材質同士でも摩擦係数が小さくなるものであればよい。
【0054】
なお、本実施形態においては、4a、4bを2枚用いた場合について説明したが、この枚数に限定されるものではなく、図12に示すように、板材4a、4bを3枚以上用いてもよい。
【0055】
なお、本実施形態においては、角柱状のストッパー5bを設けた場合について説明したが、この形状に限定されるものではなく、図13に示すように、三角柱状のストッパー5eを設けてもよい。その際は、板材4bの四隅もストッパー5eの形状に沿って角を落とすこととなる。
【0056】
なお、本実施形態においては、潤滑液供給装置8を用いて潤滑液7を供給する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、手動グリスガン等を給脂ニップル5aに接続して潤滑液7を供給してもよい。
【0057】
なお、本実施形態においては、板材4aの当接面にのみ溝4cを設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、板材4bの当接面にも溝4gを設けてもよい。その際は、例えば、図14に示すように、板材4aの溝4cの形成されていない部位と対向する位置で、かつ、板材4aの溝4cと交差するように板材4bに溝4gを形成することが望ましい。これにより、潤滑液7を板材4aの溝4cに送給すると、この溝4cと交差している板材4bの溝4gにも送給されることとなる。
【0058】
なお、本実施形態においては、板材4aに形成された溝4cの両端を板材4aの内部に留めたが、これに限定されるものではなく、図15に示すように、溝4cの両端をそれぞれ板材4aの側面に到達するまで延設してもよい。溝4cの両端をそれぞれ板材4aの側面に到達するように延設することにより、新しい潤滑液7を供給した際に、古い潤滑液7を側面から排出させることができる。潤滑液7の性能は経時劣化するので、古い潤滑液7を全て新しい潤滑液7で完全に置換することが望ましく、板材4aの側面から新しい潤滑液7が出てくるまで新しい潤滑液7を供給することで新しいものと置換したことを確認できる。
【0059】
なお、本実施形態においては、板材4aに形成された貫通孔4dと連通するように溝4cを設けて、貫通孔4dから潤滑液7を供給してその潤滑液7を溝4で貯留することとしたが、これに限定されるものではなく、図16及び図17に示すように、溝4cを設けることなく、溝状の貫通孔4dを格子状に形成して、この貫通孔4dに供給された潤滑液7を貫通孔4dで貯留してもよい。かかる場合には、板材4aの中央部分4hは、板材4aに形成された穴に挿入された埋込みボルト4jで支持板5に固定され、板材4aの周囲部分4iは、埋込みボルト4e(図7、図8参照)で支持板5に固定されている。また、貫通孔4dを、図18及び図19に示すように、複数形成してもよい。かかる場合には、この貫通孔4d内に潤滑液7を供給できるように支持板5にも同数の貫通孔5dを形成する。
【符号の説明】
【0060】
1 スプレッダーシュー
2 シールドジャッキ
3 スプレッダー
4a 板材
4b 板材
4c 溝
4d 貫通孔
4e 埋込みボルト
4g 溝
4h 板材の中央部分
4i 板材の周囲部分
4j 埋込みボルト
5 支持板
5a 給脂ニップル
5b ストッパー
5c 埋込みボルト
5d 貫通孔
5e ストッパー
6 保持装置
6a 保持装置本体
6b ブラケット
6c 中間部
6d コイルばね
6e ばね調整用ボルト
6f ピン
6g 穴
6h ナット
7 潤滑液
8 潤滑液供給装置
8a タンク
8b 加圧器
8c ポンプ
8d ホース
8e 圧力計
8f 制御部
8g スライドレール
10 シールド機
11 摩擦低減構造
12 セグメント
12a 前端面
L コイルばねの長さ
H 隙間
V 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機に設置されたシールドジャッキの推力をセグメントに伝達するためのスプレッダーシュー及びその摩擦低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド機のシールドジャッキが反力をとるセグメントは、掘削されたトンネル内壁面に沿って環状に組立てられる。この場合、シールドジャッキ本体の直径とセグメントの厚みとにはかなりの差があり、シールドジャッキの軸心とセグメントの厚み方向の中心との間にかなりの偏心量がある。このとき、セグメントの厚みの中心は、シールドジャッキの軸心に対して外方に位置しているので、シールドジャッキを伸張してセグメントに当接させた状態で反力をとる場合には、セグメントを外方に押しやる径方向の分力が作用し、このような径方向の分力がセグメントの端部に加わると、曲線部の施工中や高い推力が作用した場合にセグメントにクラックが発生することがあった。
そこで、シールドジャッキのスプレッダーにスプレッダーシューを取り付けて、セグメントの径方向の分力を低減する方法が提案されている。
例えば、本出願人は、特許文献1において、複数の板材と、当該複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持するばねと、を備えたスプレッダーシューを提案している。かかる構成のスプレッダーシューによれば、シールド機を推進させる際に、シールドジャッキを伸張させて、このスプレッダーシューをセグメントの前端面に当接させた際、この当接位置がセグメントの径方向中央位置からずれていても、スプレッダーに固定されている一方の板材と、セグメントに当接する他方の板材とが相対的に滑ることで、セグメントの径方向の分力を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−241785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているスプレッダーシューでは、板材同士が接触しているので、摩擦係数は板材自体の材質に依存して大きく(例えば、約0.1)、これ以上小さくならない。このため、シールドジャッキによって大きな推力(例えば、500N程度)が作用すると、板材同士が滑り始めるまでに過大な力(例えば、50N程度)がセグメントの前端面に作用するので、板材が滑り始める前にセグメントを損傷させてしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、板材間の摩擦係数をより小さくしたスプレッダーシュー及び摩擦低減方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置とを備え、何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されているスプレッダーシューであって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とする。
【0007】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、が形成されていることとしてもよい。
【0008】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔が形成されていることとしてもよい。
【0009】
本発明において、前記潤滑液を供給するための供給装置を更に備えることとしてもよい。
【0010】
また、本発明は、シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置と、を備えて何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されたスプレッダーシューの摩擦を低減する摩擦低減方法であって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、を形成することとしてもよい。
【0012】
本発明において、前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔を形成することとしてもよい。
【0013】
本発明において、前記溝内又は前記貫通孔内の圧力を測定して、前記溝内の圧力が所定の値以下の場合に前記潤滑液を前記溝内に供給することとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、板材間の摩擦係数をより小さくしたスプレッダーシュー及び摩擦低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るシールド機の鉛直断面図である。
【図2】スプレッダーシューをスプレッダーに取り付けた状態を示す平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB矢視図である。
【図5】図4のC部を拡大した図である。
【図6】図5のD−D断面図である。
【図7】図5のE−E断面図である。
【図8】図6のF−F断面図である。
【図9】図5の背面図である。
【図10】潤滑液の広がりを示す図である。
【図11】潤滑液の広がりを示す図である。
【図12】3枚以上の板材を備えた場合の実施例を示す図である。
【図13】ストッパー及び板材の他の実施例を示す図である。
【図14】板材に溝を設けた場合の実施例を示す図である。
【図15】溝の両端を板材の側面に到達するように延設した場合の実施例を示す図である。
【図16】貫通孔を格子状に形成した場合の実施例を示す図である。
【図17】貫通孔を格子状に形成した場合の実施例を示す図である。
【図18】貫通孔のみを複数形成した場合の実施例を示す図である。
【図19】貫通孔のみを複数形成した場合の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のスプレッダーシュー1の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態では、1台のスプレッダーシュー1に2本のシールドジャッキ2を接続した場合について説明するが、これに限定されるものではなく、1本のシールドジャッキ2に接続した場合にも適用可能である。
【0017】
図1は、本実施形態に係るシールド機10の鉛直断面図である。また、図2は、スプレッダーシュー1をスプレッダー3に取り付けた状態を示す平面図である。さらに、図3及び図4は、それぞれ図2のA−A断面図、B矢視図であり、図5は、図4のC部を拡大した図である。
【0018】
図1〜図5に示すように、スプレッダーシュー1の摩擦低減構造11は、互いに重なり合う2枚の板材4a、4bと、板材4aを支持する支持板5と、板材4bを滑動可能に保持する保持装置6と、板材4a、4b間に潤滑液7を供給する潤滑液供給装置8と、を備えている。
【0019】
板材4a、4b(図2参照)は、摩擦係数の小さい板状部材からなり、本実施形態では、ポリテトラフルオロエチレンからなる強化プラスチック板を用いた。
【0020】
板材4a、4b間には潤滑液供給装置8(図1参照)によって供給された潤滑液7が充填されており、この潤滑液7によって板材4a、4bの摩擦抵抗が低減されている。
潤滑液7は、2本のシールドジャッキ2により大きな推力、例えば、500N程度が作用することを考慮して、本実施形態では、NLGIちょう度番号の0番の極圧グリスを用いた。極圧グリスを用いたことにより、摩擦係数が0.05以下となった。
【0021】
極圧グリスには、潤滑液7が少なくなって板材4a、4b同士が直接接触した場合でも板材4a、4bの摩耗を防止するための固体潤滑剤が含まれている。
【0022】
固体潤滑剤として、例えば、有機モリブデン、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、グラファイト、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイトのうちの少なくとも1種が含まれるものを用いることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、極圧グリスを用いたが、これに限定されるものではなく、常温下にて半固体又は半流動性のものであればよく、シールドジャッキ2の推力、トンネル内の温度、湿度等に基づいて選定される。
【0024】
板材4a(図3参照)には、潤滑液7(図3中の左下がり斜線ハッチング部分)を貯留するための溝4cと、板材4aを貫通して潤滑液7を溝4cへ送給するための複数の貫通孔4dと、が設けられている。
【0025】
溝4c(図4参照)は、他方の板材4bと当接する面(以下、当接面という)に格子状に、全ての貫通孔4dと連通するように形成されている。これにより、何れか一つの貫通孔4dから潤滑液7を送給することにより、溝4c全体へ潤滑液7(図4中の左下がり斜線ハッチング部分)を送給することができる。したがって、例えば、4つの貫通孔4dのうち、3つの貫通孔4dが使用不可能となっても、1つの貫通孔4dから潤滑液7を供給することにより、溝4c全体へ潤滑液7を送給することができる。なお、貫通孔4dにおいて、本実施形態では、貫通孔4dを4つ設けた場合について説明したが、この数に限定されるものではなく、貫通孔4dの数や配置は、シールド機10の稼働時間や潤滑液7の性質等に基づいて設計等により決定される。
【0026】
板材4aは、支持板5に埋込みボルト4e(図7、図8参照)で固定されている。この支持板5は、鋼板からなり、スプレッダー3に揺動可能に取り付けられている。
支持板5には、板材4aと同様に、潤滑液7を送給するための貫通孔5d(図3参照)が設けられている。そして、この貫通孔5dのシールドジャッキ側孔口には圧力計8e(後述する)を介して給脂ニップル5aが取り付けられている。
給脂ニップル5aから潤滑液7を供給することにより、貫通孔4d、5dを介して板材4aの当接面に潤滑液7を供給することができる。
【0027】
また、支持板5の四隅には、板材4bの径方向及び周方向の移動範囲を制限するためのストッパー5b(図5参照)が設けられている。
ストッパー5bは、直方体の形状を有し、埋込みボルト5cで支持板5に取り付けられている。本実施形態では、ストッパー5bとして、板材4a、4bと同じ材質の強化プラスチック板を用いた。
【0028】
板材4bの四隅部分は、板材4bの側面がストッパー5bの側面に密着して当接できるように、ストッパー5bの形状に沿って角が落とされている。
なお、ストッパー5bの側面と板材4bの四隅部分の側面との間には、所定の大きさの隙間H、Vが設けられており、板材4bの面内方向の移動範囲は、その隙間H、Vの大きさで許容されることとなる。
板材4bの四隅部分の側面には、潤滑液7が塗布されており、板材4bの隅部がストッパー5bに当接した状態で径方向又は周方向に滑動する際の摩擦抵抗は無視できる程度となっている。
【0029】
図6及び図7は、それぞれ図5のD−D断面図、E−E断面図である。また、図8は、図6のF−F断面図である。さらに、図9は、図5の背面図である。
図6〜図9に示すように、保持装置6は、保持装置本体6aと、この本体6aを支持板5に固定するための一対のブラケット6bと、を備え、板材4bを板材4aに対して滑動可能に保持する。
【0030】
保持装置本体6aは、板材4bの側部中央に連結された中間部6c(図6参照)と、中間部6cを挟み込むようにその上下にそれぞれ配置されたにコイルばね6dと、コイルばね6dの長さを調整するためのばね調整用ボルト6eと、から構成されている。
一対のブラケット6bは両コイルばね6dを上下から挟むように配置されて、それぞれが支持板5に固定されている。
【0031】
板材4bの側部中央と中間部6cとは、それぞれを貫通するように設けられた鋼製のピン6fにより連結されている。
【0032】
ばね調整用ボルト6eは、ブラケット6bに形成された穴6g及びコイルばね6d内を貫通するように設けられ、先端が中間部6cに固定されている。
【0033】
ばね調整用ボルト6eの頭部とブラケット6bとの間にナット6hが設けられており、ナット6hを締め付けたり、緩めたりしてコイルばね6dの長さLを変更することにより、コイルばね6dの弾性力を調整することができる。かかる場合には、板材4bの滑りを妨げず、かつ、板材4bを元の位置に戻す復帰力を十分に発生させる程度にコイルばね6dの弾性力を調整する。
【0034】
なお、本実施形態では、両コイルばね6dの長さLを同じにしたときに、中間部6cの位置、すなわち板材4bの位置がスプレッダーシュー1の径方向中央位置となるように保持装置6を配置した。
【0035】
以上の構成によれば、板材4bが径方向又は周方向に滑動した状態でセグメント12の前端面12aに当接していても、シールドジャッキ2を収縮させて板材4bをセグメント12の前端面12aから離間させると、両コイルばね6dの弾性力によって、板材4bはスプレッダーシュー1の径方向中央位置に戻ることができる。これによって、再びシールドジャッキ2を伸張させて板材4bをセグメント12の前端面12aに当接させた際の板材4bの移動範囲を確保することができる。
【0036】
また、板材4aと板材4bとが重なり合っているので、潤滑液7が漏れにくい。
【0037】
なお、コイルばね6dの性状が変化して板材4bをスプレッダーシュー1の径方向中央位置に配置することができなくなった場合は、少なくとも何れか一方のばね調整用ボルト6eを締めたり、緩めたりして、コイルばね6dの長さLを変更してコイルばね6dの弾性力を調整することにより、板材4bをスプレッダーシュー1の径方向中央位置に配置することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、コイルばね6dを用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、弾性的に伸縮可能なシリンダーを用いてもよい。要は、板材4bがセグメント12の前端面12aから離間した後、板材4bをスプレッダー3の径方向中央位置に復帰させる機構を備えているものであればよい。
【0039】
潤滑液供給装置8は(図1参照)、潤滑液7を貯留するためのタンク8aと、タンク8a内を加圧するための加圧器8bと、潤滑液7を供給するためのポンプ8cと、一端が給脂ニップル5aに接続され、他端がポンプ8cに接続されたホース8dと、溝4c内の圧力を測定するための圧力計8eと、ポンプ8cの駆動を制御するための制御部8fと、を備えている。
【0040】
ポンプ8cから吐出された潤滑液7は、ホース8d、給脂ニップル5a及び貫通孔4d、5dを通過して溝4c内に送給される。
【0041】
加圧器8bでタンク8a内に圧力を加えて潤滑液7をポンプ8cへ送給する。これにより、粘度の高い潤滑液7を用いても、ポンプ8cは容易に潤滑液7を吸入することが可能となる。
【0042】
潤滑液7がスプレッダーシュー1に到達した際に、給脂ニップル5aのチェックバルブを開くことができる程度の圧力を有するように、ポンプ8cの吐出圧を調整する。
【0043】
ホース8dは、シールドジャッキ2の伸縮に追随して伸縮可能なスライドレール8gに固定されている。
【0044】
制御部8fは、溝4c内の圧力が所定の値以下になる(すなわち圧力計8eが所定の値以下を示す)と、自動的にポンプ8cを駆動して潤滑液7を供給する。そして、潤滑液7が溝4c内に充填されて、圧力計8eが所定の値よりも大きい値を示すとポンプ8cを停止する。
【0045】
上述した構成からなるスプレッダーシュー1の動作について以下に説明する。
【0046】
まず、シールド機10による掘進に先立って板材4a内の溝4cへ潤滑液7を充填する。溝4c内の圧力が上記所定の値よりも大きくなったら充填作業を停止する。
次に、スプレッダーシュー1をセグメント12に当接させながらシールドジャッキ2を伸張して地山を掘進する。このとき、セグメント12を外方に押しやる径方向の分力がスプレッダーシュー1に作用して板材4bが滑動する。
板材4bが滑動すると、図10に示すように、板材4aと板材4bとの間で、この板材4bの移動領域(図10中の右下がり斜線ハッチング部分)に潤滑液7が広まる。
次に、掘進作業終了後、シールドジャッキ2を収縮させてスプレッダーシュー1をセグメント12から離間させると、コイルばね6dの弾性力によって板材4bはスプレッダーシュー1の径方向中央位置(すなわち、元の位置)に戻る。
そして、再び、シールド機10で地山を掘進する際は、前回の掘進時と同様に、スプレッダーシュー1をセグメント12に当接させながらシールドジャッキ2を伸張することによって、径方向の分力がスプレッダーシュー1に作用して板材4bが滑動する。板材4bが滑動すると、図11に示すように、前回の移動領域分と今回の移動領域(図11中の右下がり斜線ハッチング部分)分とを加えた領域に潤滑液7が広まる。
このように、シールドジャッキ2を伸張させながら地山を掘進して、その後、シールドジャッキ2を収縮する作業を繰り返し行うことにより、板材4aと板材4bとの間に潤滑液7を次第にいきわたらせることができる。なお、溝4c内の圧力が上記所定の値以下になると随時、潤滑液7が補充される。
【0047】
以上の構成によれば、シールドジャッキ2を伸張させた際に、セグメント12を押圧する位置が中心からずれていても、板材4aと板材4bとが相対的に滑ることにより、セグメント12の径方向の分力を抑制できる。
【0048】
また、板材4a、4b間に潤滑液7が充填されているため、板材4a、4b同士を直接接触させて滑動させた場合と比べて摩擦抵抗が大幅に小さくなる。したがって、シールドジャッキ2でセグメント12を押圧しても、セグメント12を破損させるような力がセグメント12に作用する前に板材4a、4bが滑り始めるので、セグメント12を損傷させることがない。具体的には、両シールドジャッキ2の合計推力が500N程度の場合、本実施形態に係る摩擦係数は0.05なので、セグメント12に25Nの押圧が作用すると板材4a、4bが滑り始めるので、セグメント12を損傷させることがない。
【0049】
また、シールドジャッキ2を収縮させて板材4bがセグメント12の前端面12aから離れると、両コイルばね6dの弾性力によって、板材4bはスプレッダーシュー1の径方向中央位置に戻ることができる。
【0050】
また、板材4bを保持するための保持装置6が設けられているので、板材4bは面内方向の全ての向きに移動することができる。
【0051】
さらに、板材4a、4bに用いるポリテトラフルオロエチレンは、一般的な材料であり、入手性がよい。ただし、板材4a、4bは、ポリテトラフルオロエチレンに限定されるものではなく、低摩擦材であれば他の材質を用いてもよく、例えば、超高分子ポリエチレン等のプラスチック、テフロン、オイルレスメタル等の金属を用いてもよい。
【0052】
また、潤滑液供給装置8を備えているので、潤滑液7が不足して溝4c内の圧力が低下した場合は、直ちに潤滑液7を供給することができる。
【0053】
なお、本実施形態において、板材4a、4bとして同一材質のものを重ね合わせる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、異なる材質同士でも摩擦係数が小さくなるものであればよい。
【0054】
なお、本実施形態においては、4a、4bを2枚用いた場合について説明したが、この枚数に限定されるものではなく、図12に示すように、板材4a、4bを3枚以上用いてもよい。
【0055】
なお、本実施形態においては、角柱状のストッパー5bを設けた場合について説明したが、この形状に限定されるものではなく、図13に示すように、三角柱状のストッパー5eを設けてもよい。その際は、板材4bの四隅もストッパー5eの形状に沿って角を落とすこととなる。
【0056】
なお、本実施形態においては、潤滑液供給装置8を用いて潤滑液7を供給する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、手動グリスガン等を給脂ニップル5aに接続して潤滑液7を供給してもよい。
【0057】
なお、本実施形態においては、板材4aの当接面にのみ溝4cを設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、板材4bの当接面にも溝4gを設けてもよい。その際は、例えば、図14に示すように、板材4aの溝4cの形成されていない部位と対向する位置で、かつ、板材4aの溝4cと交差するように板材4bに溝4gを形成することが望ましい。これにより、潤滑液7を板材4aの溝4cに送給すると、この溝4cと交差している板材4bの溝4gにも送給されることとなる。
【0058】
なお、本実施形態においては、板材4aに形成された溝4cの両端を板材4aの内部に留めたが、これに限定されるものではなく、図15に示すように、溝4cの両端をそれぞれ板材4aの側面に到達するまで延設してもよい。溝4cの両端をそれぞれ板材4aの側面に到達するように延設することにより、新しい潤滑液7を供給した際に、古い潤滑液7を側面から排出させることができる。潤滑液7の性能は経時劣化するので、古い潤滑液7を全て新しい潤滑液7で完全に置換することが望ましく、板材4aの側面から新しい潤滑液7が出てくるまで新しい潤滑液7を供給することで新しいものと置換したことを確認できる。
【0059】
なお、本実施形態においては、板材4aに形成された貫通孔4dと連通するように溝4cを設けて、貫通孔4dから潤滑液7を供給してその潤滑液7を溝4で貯留することとしたが、これに限定されるものではなく、図16及び図17に示すように、溝4cを設けることなく、溝状の貫通孔4dを格子状に形成して、この貫通孔4dに供給された潤滑液7を貫通孔4dで貯留してもよい。かかる場合には、板材4aの中央部分4hは、板材4aに形成された穴に挿入された埋込みボルト4jで支持板5に固定され、板材4aの周囲部分4iは、埋込みボルト4e(図7、図8参照)で支持板5に固定されている。また、貫通孔4dを、図18及び図19に示すように、複数形成してもよい。かかる場合には、この貫通孔4d内に潤滑液7を供給できるように支持板5にも同数の貫通孔5dを形成する。
【符号の説明】
【0060】
1 スプレッダーシュー
2 シールドジャッキ
3 スプレッダー
4a 板材
4b 板材
4c 溝
4d 貫通孔
4e 埋込みボルト
4g 溝
4h 板材の中央部分
4i 板材の周囲部分
4j 埋込みボルト
5 支持板
5a 給脂ニップル
5b ストッパー
5c 埋込みボルト
5d 貫通孔
5e ストッパー
6 保持装置
6a 保持装置本体
6b ブラケット
6c 中間部
6d コイルばね
6e ばね調整用ボルト
6f ピン
6g 穴
6h ナット
7 潤滑液
8 潤滑液供給装置
8a タンク
8b 加圧器
8c ポンプ
8d ホース
8e 圧力計
8f 制御部
8g スライドレール
10 シールド機
11 摩擦低減構造
12 セグメント
12a 前端面
L コイルばねの長さ
H 隙間
V 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置とを備え、何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されているスプレッダーシューであって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とするスプレッダーシュー。
【請求項2】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスプレッダーシュー。
【請求項3】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスプレッダーシュー。
【請求項4】
前記潤滑液を供給するための供給装置を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか一項に記載のスプレッダーシュー。
【請求項5】
シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置と、を備えて何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されたスプレッダーシューの摩擦を低減する摩擦低減方法であって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とする摩擦低減方法。
【請求項6】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、を形成することを特徴とする請求項5に記載の摩擦低減方法。
【請求項7】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔を形成することを特徴とする請求項5に記載の摩擦低減方法。
【請求項8】
前記溝内又は前記貫通孔内の圧力を測定して、前記溝内の圧力が所定の値以下の場合に前記潤滑液を前記溝内に供給することを特徴とする請求項6又は7に記載の摩擦低減方法。
【請求項1】
シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置とを備え、何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されているスプレッダーシューであって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とするスプレッダーシュー。
【請求項2】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスプレッダーシュー。
【請求項3】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスプレッダーシュー。
【請求項4】
前記潤滑液を供給するための供給装置を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか一項に記載のスプレッダーシュー。
【請求項5】
シールドジャッキのスプレッダーの先端面に取り付けられて互いに重なり合う複数の板材と、前記複数の板材を、それらが重なり合った状態で相対的に移動可能に保持する保持装置と、を備えて何れか一方の端部側の板材が前記スプレッダーに固定されたスプレッダーシューの摩擦を低減する摩擦低減方法であって、
前記互いに重なり合う板材間に潤滑液を介在させることを特徴とする摩擦低減方法。
【請求項6】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、隣接する前記板材と対向する面に前記潤滑液を貯留するための溝と、前記板材を貫通して当該溝に前記潤滑液を送給するための貫通孔と、を形成することを特徴とする請求項5に記載の摩擦低減方法。
【請求項7】
前記スプレッダーに固定されていない他方の端部側の板材を除いた少なくとも1の板材に、前記潤滑液が供給され、その潤滑液を貯留するための貫通孔を形成することを特徴とする請求項5に記載の摩擦低減方法。
【請求項8】
前記溝内又は前記貫通孔内の圧力を測定して、前記溝内の圧力が所定の値以下の場合に前記潤滑液を前記溝内に供給することを特徴とする請求項6又は7に記載の摩擦低減方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−57448(P2012−57448A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204766(P2010−204766)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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