説明

スペーサグリッド

本発明は、沸騰水型原子炉用の最終の、すぐに使用できるスペーサグリッドに関する。当該最終スペーサグリッドは、i)スペーサグリッドを構成するように成形されかつ組み立てられた合金からできているスペーサグリッド構造体と、ii)当該スペーサグリッド構造体の表面の上の酸化物コーティングと、を含む。当該合金は、以下(表)からなるNi系合金である。本発明は、本発明に係る最終スペーサグリッドを製造する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料棒を、沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉の中で互いに対して所定の位置で離して保持するように構成された、最終のすぐに使用できるスペーサグリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉は複数の燃料集合体を有する炉心を具える。各燃料集合体は複数の燃料棒を含み、各燃料棒はクラッディング(cladding)によって囲まれた核燃料を含む。燃料棒は、いくつかの軸方向に分散して置かれたスペーサグリッドの助けを借りて互いに対して所定の位置で保持され、各スペーサグリッドは、燃料棒が延在するいくつかのセルをもつ格子構造からなる。
【0003】
沸騰水型原子炉の炉心の中の環境はその中に配置される構成要素にとっては過酷である。その環境は非常に酸化性である。スペーサグリッドは、例えば以下の状況に耐えなければならない:約286℃という温度にある蒸気および水の二相の流れで、この蒸気の流量は10m/sであり、この圧力は70bar(7MPa)である。この蒸気の中には水滴が存在し、この環境の中の酸素含有量および過酸化水素含有量はそれぞれ0.4ppmおよび<1ppmである。このスペーサグリッドは強い放射線にも曝される。
【0004】
スペーサグリッドは、ジルコニウム合金またはNi系合金の金属の薄板から製造されることが多い。周知のNi系合金はX−750と呼ばれる。合金X−750は、30年間を超えて、かなりの成功を収めながらBWRスペーサグリッド用に使用されてきた。しかしながら、合金X−750から製造されたスペーサグリッドに関する欠点は、いくつかの原子炉における比較的高い腐食速度が、上記の特有の環境に起因して、スペーサグリッド表面の一般腐食を生じるということである。スペーサグリッドの一般腐食は、原子炉水の中への58Coの放出につながる可能性がある。58CoはCoの同位体であり、それは原子炉の中の表面の上へと堆積する。58Coは、主に58Niの中性子放射化を通して形成される。さらには、Coの別の同位体である60Coは、一般的な同位体59Coの中性子放射化によって形成される。58Coおよび60Coはともに放射性同位体であり、原子炉水の中へのこれらの放射性同位体の放出は、原子炉プラントで働く職員の被爆についての危険の増加をもたらす。
【0005】
用語「Ni系合金」は、本発明に関しては、この合金の中の主用元素はNiであることを意味する。他の元素でより大量に存在するものはない。Ni系合金は、溶解状態のCrおよびFeなどの他の元素を伴うNiでできているマトリクスを有する。この合金の熱処理によって、いわゆるγ’第二相粒子が、温度に伴う固溶度の変化によって形成される可能性がある。微細なγ’第二相粒子は、その合金のマトリクスの中での転位、すなわち欠陥の移動を防止し、これによりその物質の機械的強度を高める。Ni系合金におけるγ’第二相粒子は、通常Ni(Ti、Al)である。
【0006】
特許文献1は、応力腐食割れ(SCC)に対する改善された抵抗性を有すると記載される高強度のNi系合金を記載する。この合金は、とりわけ、沸騰水型原子炉または加圧水型原子炉(加圧水炉)の高温の熱水環境の内側でのばね、ボルトおよびピンなどの構成要素で使用されることが意図されている。この合金は合金X−750に類似している。しかしながら特許文献1は、合金X−750と比べてより高いFeの量を記載している。Feの量を増加させることによって、特許文献1は改善されたSCC抵抗性が得られると記載している。
【0007】
金属の応力腐食割れは、腐食性の環境の中での、とりわけ高温でのその金属の一定の引張り応力に起因して起こる。応力腐食は、通常、構成要素の表面のほとんどを攻撃を受けないまま残すが、一定の引張り応力に曝されている位置で起こる。微細な割れ目が、その物質の中で形成され、そしてこの割れはその金属の予想外の突然の破壊につながる可能性がある。特許文献1に記載されているような、沸騰水型原子炉または加圧水型原子炉の高温の熱水環境の内側のばね、ボルトおよびピンは、SCCに曝される構成要素の例である。
【0008】
沸騰水型原子炉の炉心において、一般腐食は起こる可能性があり、これが起こると上記のとおりの放射活性のCo同位体の望ましくない放出を生じる可能性がある。一般腐食は、原子炉の炉心に存在する特有の条件に起因する原子炉の炉心の特有の問題である。一般腐食はある構成要素の表面全体にわたって起こる可能性があり、この腐食は均一な攻撃を特徴とする。スペーサグリッドは原子炉の炉心の内側に置かれるため、それは特に一般腐食に曝される。
【0009】
上記のように、合金X−750から作製されたスペーサグリッドに関する欠点は、いくつかの原子炉における比較的高い腐食速度がスペーサグリッドの表面上での一般腐食につながるということである。それゆえ、スペーサグリッドの耐腐食性を改善するという要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−324233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、沸騰水型原子炉におけるスペーサグリッドの耐腐食性を改善し、従って上記のとおりの一般腐食の問題を軽減して、原子炉水の中への放射活性なCo同位体のより低い放出レベルをもたらすことである。本発明の別の目的は、改善された耐腐食性を有するスペーサグリッドを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の目的は、最初に明記された最終スペーサグリッドを用いて得られ、これは、当該最終スペーサグリッドが、
i)スペーサグリッドを構成するように成形されかつ組み立てられた合金からできているスペーサグリッド構造体と、
ii)当該スペーサグリッド構造体の表面上の外側の酸化物コーティングと、
を含み、この合金は、以下からなるNi系合金である:
【表1】

ことを特徴とする。
【0013】
表現「スペーサグリッド構造体」は、本発明に関しては、スペーサグリッドとして形成されているがまだ最終の熱処理を経ていない金属格子フレームを記載することが意図されている。さらには、表現「最終スペーサグリッド」は、本発明に関しては、熱処理された、すぐに使用できるスペーサグリッド構造体を記載することが意図されている。
【0014】
本発明に係る最終スペーサグリッドは、合金X−750に類似のNi系合金でできている。しかしながら、本発明のNi系合金は、増加した量のFeを含有する。最終スペーサグリッド上の外側の酸化物コーティングは、運転中の耐一般腐食性にとって非常に重要である。先行技術に係る外側の酸化物コーティングは、通常、Niに富む酸化物の外側層を含む。このNiに富む酸化物は、実質的に純粋なNi酸化物を含むが、少量の混合Ni−Fe酸化物をも含む。本発明のために使用される合金を用いると、最終の熱処理の間にその混合Ni−Fe酸化物を得ることがより容易であるということが見出された。これに対する理由は、増加した量のFeを含む使用される特定の合金組成に起因する。この混合Ni−Fe酸化物は、純粋なNi酸化物よりも腐食に対して抵抗性があるということが示されており、そして本発明に係る最終スペーサグリッドが改善された耐腐食性を有するということが見出された。特に、本発明に係る最終スペーサグリッドは、沸騰水型原子炉の炉心の中に存在する特定の環境の中での一般腐食に対して改善された抵抗性を有する。
【0015】
特段の記載がない限り、本願明細書中では「%」はいつでも重量%を指すということに留意されたい。
【0016】
好ましくは、当該Ni系合金は、50%より多い、より好ましくは60%より多い量でNiを含有する。Niはマトリクス形成元素であり、γ’(Ni(Ti、Al))第二相粒子の形成に参加する。Niはまた、耐腐食性をもたらす酸化物層であるNiFeの形成にも参加する。
【0017】
好ましくは、当該Ni系合金は、14〜21%、より好ましくは14〜17%の量でCrを含有する。Crは、予備酸化の間の酸化クロムの形成を通して、また腐食の間の不動態膜の形成によって耐腐食性をもたらす。あまりにも高いCr含有量は、脆化相の形成の危険性の増加をもたらす。
【0018】
好ましくは、当該Ni系合金は、12〜23%、より好ましくは15〜19%の量でFeを含有する。Feはマトリクス形成元素であり、少量のNiを置き換えることにより、γ’(Ni(Ti、Al))第二相粒子の形成に参加する可能性がある。Feはまた、上記のとおり耐腐食性をもたらす混合Ni−Fe酸化物層の中の必要な成分でもある。主にNiFeから構成される外側の酸化物層を形成するために、比較的高いFe含有量が必要とされる。
【0019】
好ましくは、当該Ni系合金は、1.5〜3%、より好ましくは1.75〜2.75%の量でTiを含有する。Tiは、熱処理された条件において十分な機械的強度を得るために必要なγ’(Ni(Ti、Al))第二相粒子の形成のために必要な元素である。あまりにも高いTi含有量は、外側の酸化物コーティングの形成を妨げるであろうし、またγ’の過剰形成(overaging)の傾向の高まりも生じるであろう。この過剰形成は、機械的強度の低下を引き起こす可能性がある。加えて、Ti含有量の増加はγ’についての溶解温度を上昇させ、これは、合金加工の間のγ’形成の危険性を高めることになり、次に当該合金の熱間加工または冷間加工の間の割れの形成の危険性につながる。
【0020】
好ましくは、当該Ni系合金は、0.5〜1.5%、より好ましくは0.4〜1.0%の量でAlを含有する。Alは、熱処理された条件において十分な機械的強度を得るために必要なγ’(Ni(Ti、Al))第二相粒子の形成に必要な元素である。あまりにも高いAl含有量は、γ’の過剰形成の傾向の高まりも生じるであろう。この過剰形成は、機械的強度の低下を引き起こす可能性がある。加えて、Al含有量の増加はγ’についての溶解温度を上昇させ、これは、上記のように合金加工の間のγ’形成の危険性を高めることになる。
【0021】
好ましくは、当該Ni系合金は、わずかに0.0001〜0.01%、より好ましくは0.0001〜0.0050%の量でCoを含有する。Coは、Ni金属の中の不可避的な混入物である。一般的な同位体59Coは、中性子照射下で60Coを形成する。60Coの形成は、原子力発電所の運転において、および使用済み核燃料の取り扱いにおいて深刻な問題である。それゆえ、当該合金中のCoの量は、低く制御され保たれるべきである。
【0022】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.001%の量でCを含有する。好ましくは、このCの量は0.001〜0.050%である。Cは、当該Ni系合金の中の不可避的な混入物である。あまりにも高いC含有量は粒間腐食への感度の上昇をもたらす。
【0023】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.001%の量でNを含有する。好ましくは、このNの量は0.001〜0.03%である。Nは当該Ni系合金の中の不可避的な混入物である。あまりにも高いN含有量は、脆化性の窒化物、例えばAlNの沈殿の危険性の増加をもたらす。融液中のあまりにも高いN含有量は、スペーサの製造で使用される薄いストリップ材料においては望ましくないかさ高いTiN沈殿物の形成をももたらす。
【0024】
好ましくは、当該Ni系合金は、0.001〜1.5%、より好ましくは0.7〜1.2%の量でNbを含有する。Nbは、熱処理の間に強化粒子を形成し、それゆえ当該合金の機械的強度に寄与する。Nbは溶解強化効果も有する。あまりにも高いNb含有量は熱間延性の喪失および鋳造の間の合金化元素の偏析の傾向の増加をもたらす。
【0025】
好ましくは、当該Ni系合金は、0.001〜0.03%の量でTaを含有する。Taの特性はNbの特性と類似している。
【0026】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.01%の量でSiを含有する。好ましくは、このSiの量は0.01〜0.5%である。
【0027】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.01%の量でMnを含有する。好ましくは、このMnの量は0.01〜1.0%である。
【0028】
SiおよびMnは、溶融加工および鋳造で使用される添加物の例である。これらの添加物は当該合金で常に見られる。脆化させる沈殿物の形成の危険性、または他の態様で当該合金に悪い影響を及ぼすことを回避するために、このSiおよびMn含有量はあまりにも高くあるべきではない。
【0029】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.001%の量でSを含有する。好ましくは、このSiの量は0.001〜0.02%、より好ましくは0.001〜0.01%である。
【0030】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.001%の量でPを含有する。好ましくは、このPの量は、0.001〜0.05%、より好ましくは0.001〜0.02%である。
【0031】
SおよびPは不可避的な不純物であり、それらの存在は製造中の熱間延性の低下を生じる可能性がある。
【0032】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.01%の量でCuを含有する。好ましくは、このCuの量は0.01〜0.5%である。Cuは、NiおよびFe系の合金の中に典型的に存在する混入物である。
【0033】
通常、当該Ni系合金は、少なくとも0.001%の全量でMoおよびWを含有する。好ましくは、Mo+Wの量は、0.001〜1.0%、より好ましくは0.001〜0.20%である。MoおよびWは固溶体強化元素である。これらは、耐腐食性に対して有益な効果を及ぼすことはまったく予想されておらず、機械的強度に対してわずかな効果を予想されているだけである。
【0034】
Ni系合金は、全量で2.0%以下の、上記の表で言及した元素を除くすべての元素からなる群から選択される1以上の元素をさらに含有してもよい。好ましくは、このような元素の全量は、1.0%未満、より好ましくは0.5%未満、さらにより好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.05%未満である。このような元素は例えばCa、MgおよびCeであってもよく、これらの元素は、融液の脱酸素または脱硫で使用される包接物形成元素(inclusion forming element)の例である。Ca、MgおよびCeが当該Ni系合金の中に存在する場合、当該合金は、好ましくは0.001〜0.05%のこれらの元素の全量を含有する。
【0035】
本発明の1つの実施形態によれば、上述の各元素の量を参照して、当該Ni系合金は以下からなる:
【表2】

【0036】
本発明のさらなる実施形態によれば、上述の各元素の量を参照して、当該Ni系合金は以下からなる:
【表3】

【0037】
1つの実施形態によれば、最終スペーサグリッドの中の当該合金は、当該最終スペーサグリッドが十分な機械的強度を有するような、実質量のγ’第二相粒子を含む。このγ’第二相粒子は、上述したように、当該合金のマトリクスの中での転位、すなわち欠陥の移動を防止し、これによりその物質の機械的強度を高める。
【0038】
好ましくは、当該最終スペーサグリッドにおける当該合金の中のγ’第二相粒子のモル分率は5〜25%である。
【0039】
さらなる実施形態によれば、上記外側の酸化物コーティングは50〜1000nmの厚さを有する。この外側の酸化物コーティングは、あまりに厚すぎてはいけない。なぜなら、そうなるとこの物質の割れにつながる可能性があるからである。
【0040】
さらなる実施形態によれば、この外側の酸化物コーティングは、第1の組成の第1の内側の酸化物層およびこの第1の組成とは異なる第2の組成の第2の外側の酸化物層を含む。好ましくは、この第2の外側の酸化物層は、第1の内側の酸化物層の表面の上に形成される。好ましくは、この第1の内側の酸化物層は、当該スペーサグリッド構造体を作っている合金の表面の上に形成される。
【0041】
さらなる実施形態によれば、この第1の内側の酸化物層は主にCrからなり、第2の外側の酸化物層は主にNiFeからなる。表現「主に」は、本発明に関しては、その層が、それぞれ、少なくとも50%のCrおよび少なくとも50%のNiFeからなるということを意味する。Crは、金属カチオンの拡散を遅らせ、これにより全体の酸化を低減させる。NiFeは、燃料集合体の内側の特別の環境における腐食から当該最終スペーサグリッドを保護する。
【0042】
さらなる実施形態によれば、この第1の内側の酸化物層は50〜200nm、好ましくは約150nmの厚さを有し、第2の外側の酸化物層は20〜80nm、好ましくは約50nmの厚さを有する。
【0043】
本発明の第2の目的は、最初に明記した最終スペーサグリッドを製造する方法を用いて得られる。この方法は、
当該合金を製造して、この合金を成形しおよび組み立てて、当該スペーサグリッド構造体を得る工程と、
このスペーサグリッド構造体を650〜750℃の温度で5〜23時間熱処理する工程であって、この熱処理は酸化性雰囲気の中で実施され、この熱処理は、外側の酸化物コーティングがこのスペーサグリッド構造体の表面の上に形成されるような熱処理であり、これにより当該最終の、すぐに使用できるスペーサグリッドを得る工程と、
を含むということを特徴とする。
【0044】
好ましくは、当該スペーサグリッド構造体のこの熱処理は、上で明記されたとおりの第1および第2の酸化物層が形成されるような熱処理である。
【0045】
好ましくは、上記酸化性雰囲気は水蒸気および空気を含む。
【0046】
好ましくは、当該スペーサグリッド構造体のこの熱処理は、当該合金の中でγ’第二相粒子が形成され、これにより当該最終スペーサグリッドの改善された機械特性を得るような熱処理である。上で示したように、合金加工の間のγ’の形成は回避されるべきである。しかしながら、γ’第二相粒子の存在は、当該最終スペーサグリッドの特性にとっては重要である。それゆえ、本発明に係る方法は、合金加工の間にγ’第二相粒子が形成されない(または、少なくとも実質量のこのような粒子が形成されない)ように実施されることが好ましい。あるいは、当該方法は、実質的にすべてのγ’第二相粒子が最終の熱処理の間に、すなわち当該スペーサグリッド構造体の熱処理の間に形成されるように実施される。
【0047】
上記の熱処理手順により優れた機械的特性が得られ、外側の酸化物コーティングが生成される。この外側の酸化物コーティングは、当該最終スペーサグリッドに、沸騰水型原子炉の炉心の中での一般腐食に対する優れた保護を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る最終スペーサグリッドを概略的に示す。
【図2】本発明の1つの例に係る最終スペーサグリッドの製造方法についてのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明に係る最終スペーサグリッドを作製するために使用されるNi系合金の組成の例が下記の表に提示される。表の中に特定された元素に加えて、この合金は、原子炉の中でスペーサグリッドとして使用するための合金において通常受け入れられるレベルで少量の不純物をさらに含有してもよい。このNi系合金は、以下に記載される方法に係る最終スペーサグリッドの製造に適している。
【実施例】
【0050】
【表4】

【0051】
本発明に係る最終スペーサグリッドの1つの実施形態が、これより図1を参照して記載されることになる。この最終スペーサグリッドは金属格子を含む。この金属格子は、いくつかの均一なセル10を含む薄い金属構造体である。各セル10は、燃料棒を所定の位置で囲んで保持するように構成されている。この最終スペーサグリッドが沸騰水型原子炉の中で使用されるとき、この燃料棒はセル10を貫いて実質的に鉛直方向に延在する。
【0052】
本発明に係る最終スペーサグリッドは、沸騰水型原子炉の燃料集合体の内側に並べることができる。各燃料集合体は複数の燃料棒を含み、各燃料棒はクラッディングによって囲まれた核燃料を含む。いくつかの本発明に係る最終スペーサグリッドはこの燃料棒を適所に保持する。最終スペーサグリッドは、各燃料集合体に沿って軸方向に分散して置かれる。この示された実施形態に係る最終スペーサグリッドは、燃料集合体の中で、4個一組で同じレベルでグループにすることができる。しかしながら、本発明は他の設計のスペーサグリッドにも適用できる。
【0053】
図2は、本発明の1つの例に係る最終スペーサグリッドの製造方法を図示するフローチャートである。第1の工程では、当業者に公知の方法でNi系合金が得られる。本発明に係るNi系合金の例は上記の表に提示されている。この合金のビレットは当業者に公知の方法でいくつかの作業工程(熱処理および圧延を含む)を経て、金属の薄板が得られる。この金属の薄板は切断され、スペーサグリッド用の部品へと成形され、この部品は、例えば金属表面の酸洗浄によって表面処理される。この部品は、スペーサグリッド構造体が得られるように一緒に溶接される。このスペーサグリッド構造体は洗浄される。
【0054】
最終的に、このスペーサグリッド構造体は、この例によれば、水蒸気および空気を含む酸化性雰囲気の中で705℃の温度で20時間熱処理され、最終スペーサグリッドが得られる。この熱処理は、約150nmの厚さを有する第1の内側の酸化物層および約50nmの厚さを有する第2の外側の酸化物層が当該スペーサグリッド構造体の表面の上に形成されるような熱処理である。この第1の内側の酸化物層は実質的にCrを含み、当該スペーサグリッド構造体の表面の上に直接形成される。この第2の外側の酸化物層は実質的にNiFeを含み、第1の内側の酸化物層の表面の上に形成される。この熱処理は、γ’第二相粒子が合金の中に11%のモル分率で形成されるような熱処理でもある。これにより、このスペーサグリッドの改善された機械特性が得られる。
【0055】
本発明は記載された実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲の範囲内で変更および改変されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉の原子炉の中で核燃料棒を互いに対して所定の位置で離して保持するように構成された最終の、すぐに使用できるスペーサグリッドであって、
i)スペーサグリッドを構成するように成形されかつ組み立てられた合金からできているスペーサグリッド構造体と、
ii)前記スペーサグリッド構造体の表面上の外側の酸化物コーティングと、
を含み、前記合金は、以下からなるNi系合金である、最終スペーサグリッド。
【表1】

【請求項2】
前記合金中のFeの量は12.0〜23.0重量%である、請求項1に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項3】
前記合金中のFeの量は15.0〜19.0重量%である、請求項2に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項4】
前記合金中のCoの量は0.010重量%未満である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項5】
前記合金中のCoの量は0.0050重量%未満である、請求項4に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項6】
前記最終スペーサグリッドの中の前記合金は実質量のγ’第二相粒子を含み、そのため前記最終スペーサグリッドは十分な機械的強度を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項7】
前記最終スペーサグリッドの中の前記合金の中のγ’第二相粒子のモル分率は5〜25%である、請求項6に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項8】
前記外側の酸化物コーティングは50〜1000nmの厚さを有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項9】
前記外側の酸化物コーティングは、第1の組成の第1の内側の酸化物層、および前記第1の組成とは異なる第2の組成の第2の外側の酸化物層を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項10】
前記第1の内側の酸化物層は主にCrからなり、前記第2の外側の酸化物層は主にNiFeからなる、請求項9に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項11】
前記第1の内側の酸化物層は50〜200nmの厚さを有し、前記第2の外側の酸化物層は20〜80nmの厚さを有する、請求項9または請求項10に記載の最終スペーサグリッド。
【請求項12】
前記合金は、以下からなるNi系合金である、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッド。
【表2】

【請求項13】
前記合金は以下からなるNi系合金である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッド。
【表3】

【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の最終の、すぐに使用できるスペーサグリッドの製造方法であって、
前記合金を製造して、前記合金を成形しおよび組み立てて、前記スペーサグリッド構造体を得る工程と、
前記スペーサグリッド構造体を650〜750℃の温度で5〜23時間熱処理する工程であって、前記熱処理は酸化性雰囲気の中で実施され、前記熱処理は、外側の酸化物コーティングが前記スペーサグリッド構造体の表面の上に形成されるような熱処理であり、これにより前記最終の、すぐに使用できるスペーサグリッドを得る工程と、
を含む方法。
【請求項15】
前記スペーサグリッド構造体の前記熱処理は、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の第1および第2の酸化物層が形成されるような熱処理である、請求項14に記載の最終スペーサグリッドの製造方法。
【請求項16】
前記酸化性雰囲気は水蒸気および空気を含む、請求項14または請求項15に記載の最終スペーサグリッドの製造方法。
【請求項17】
前記スペーサグリッド構造体の前記熱処理は、前記合金の中でγ’第二相粒子が形成され、これにより前記最終スペーサグリッドの改善された機械特性が得られるような熱処理である、請求項14から請求項16のいずれか1項に記載の最終スペーサグリッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524007(P2011−524007A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511563(P2011−511563)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050579
【国際公開番号】WO2009/145708
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(504446548)ウェスティングハウス エレクトリック スウェーデン アーベー (26)