説明

スポット定量装置、スポット定量方法及びプログラム

【課題】検出したスポットの特徴を簡易かつ正確に定量できる技術を提供する。
【解決手段】画像入力部10によりスポット定量装置1にスポットを含む画像が入力される。フィルタリング部15は、画像入力部10により入力された画像に対してカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリング複数回施す。特徴量算出部50は、フィルタリング部15によりフィルタリングが複数回施された各画像領域における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像に含まれるスポットの特徴を定量する技術に関する。
【0002】
特に、蛍光抗体によって標識された遺伝子あるいは染色体に対応する複数のスポットを含む画像におけるスポットの特徴を定量する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオテクノロジーに基づいた医療分野においては、遺伝子あるいは染色体を蛍光抗体によって標識し、その様態を観察することにより、癌をはじめとする様々な病気の診断が行われている。
【0004】
具体的には、蛍光抗体により標識化された遺伝子又は染色体を顕微鏡あるいは顕微鏡で観察すると、これらの遺伝子等に対応する蛍光領域(以下、「スポット」といういう)を含む画像が得られる。この画像をデジタル化してコンピュータに取り込み、診断対象とする遺伝子又は染色体に対応するスポットのみを検出し、検出したスポットの大きさや形状などの特徴を定量する。そして、定量化されたスポットの特徴に基づき、病気の診断を行う。
【0005】
例えば、慢性骨髄性白血病の診断においては、9番染色体上にある発ガン遺伝子c−abl と22番染色体上にある bcr遺伝子との間での転座の有無が診断の重要な指標となるので、これらの遺伝子に対応するスポットの特徴量に基づき転座の有無を判断し、診断を行う。
【0006】
検査技師が画像を肉眼で観察することにより、診断対象の遺伝子に対応するスポットを検出し、その特徴の定量を行うこともできるが、この方法では検査技師の主観が入り易く、客観性や再現性、定量性に問題があるので、病気の診断においては、スポットの特徴の定量をコンピュータ上で、自動的、客観的に行うことが試みられている。
【0007】
コンピュータを用いたスポットの特徴の定量装置または方法としては、特許文献1に開示されているように、スポットの強度(輝度)がピークとなる点を求め、ピーク点を中心とするn本の線分を設定し、各線分の輝度分布について、輝度が所与の値(th)となるn個の点を求め、これらの点を結んだ、n角形を最小楕円近似して、スポット径を測定するする装置又は方法がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されているように、細胞核を表す領域を残りの領域から分割し、分割した領域の輝度分布に基づき、スポット形状を定量する装置又は方法もある。
【0009】
ここで、ノイズが生じる場合には、定量を正確に行うため、特許文献3に開示されているように所定のカーネルを使用してフィルタリングを施すことでノイズを低減する。或いは、特許文献4に開示さているように、一つのスポットを認識するための可変的なスポット認識領域を設定し、このスポット認識領域のサイズを変化させたときのシグナル強度分布の変化に基づいてスポットを検出することで、ノイズの影響を抑える。
【特許文献1】特開平6−259784号公報
【特許文献2】特表2004−535569号公報
【特許文献3】特表2006−505782号公報
【特許文献4】特開2006−084281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示された装置又は方法では、輝度分布のピークを求める手順に加え、n個の点を求める手順やn角形を最小楕円近似する手順を行う必要があり、特徴の測定手順は煩雑なものとなる。そして、特許文献3に開示された装置又は方法では、細胞核を表す領域が備えるパラメータのパターンについて、予め多数の実験データを取得する必要があり、簡便な方法ではない。
【0011】
また、特許文献3又は4に開示された装置又は方法では、ノイズの影響を充分に抑制できず、ノイズや輝度の変動によりスポットの特徴の定量が不正確になるという問題があった。
【0012】
上述した問題点を鑑み、本発明は、検出したスポットの特徴を簡易かつ正確に定量できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかるスポット定量装置は、スポットを含む画像を入力する画像入力手段と、前記画像入力手段により入力された画像に対して、カーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施すフィルタリング手段と、前記フィルタリング手段によりフィルタリングが複数回施された各画像における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量するスポット定量手段と、
を有する。
【0014】
本発明にかかるスポット定量方法は、スポットを含む画像を入力し、入力した画像に対してカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施し、複数のフィルタリングが施された各画像における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量する。
【0015】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータを、スポットを含む画像に対してでカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施すフィルタリング手順、及び前記フィルタリング手順によりフィルタリングが複数回施された各画像領域における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量するスポット定量手順、として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出したスポットの特徴を簡易かつ正確に定量できる技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施形態)
本発明を実施するための第1実施形態について図1〜図9を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態のスポット定量装置1の構成を示すブロック図である。図1を参照すると、スポット定量装置1は、画像入力部10と、フィルタリング部15と、特徴量算出部50と、から構成されている。
【0019】
画像入力部10により、蛍光染色された遺伝子又は染色体に対応するスポットを含む画像がスポット定量装置1に入力される。
【0020】
この画像入力部10は、例えば、図2に示すように、光源100と、励起フィルタ101と、バリアフィルタ102と、CCDカメラ103と、試料104と、対眼レンズ105と、対物レンズ106と、ダイクロックミラー107と、から構成される。
【0021】
ユーザは、対物レンズ106、対眼レンズ105を通して、試料104の画像を観察し、蛍光試薬の波長特性に合致した励起フィルタ101及びバリアフィルタ102を選択する。
【0022】
そして、光源100から選択された励起フィルタ101を通して、ダイクロックミラー107で反射された励起光が試料104に照射される。この試料104の画像を、所定の波長域の光を分離する、ダイクロックミラー107及びバリアフィルタ102を通してCCDカメラ103が撮影する。
【0023】
図1に戻り、画像フィルタリング部15は、画像入力部10により入力された画像データに対してフィルタリングを施す。このフィルタリング部15は、画像フィルタリング部20と、領域分割部30と、スポット検出部40と、から構成される。
【0024】
画像フィルタリング部20は、画像入力部10により入力された画像データに対して、所与のパラメータにより規定されるカーネル(マスク)を使用して、フィルタリングを施す。フィルタリングでは、カーネルを定義するフィルタ関数と入力画像とを畳み込み積分することでフィルタ後の画像を得る。
【0025】
カーネルとしては、例えば、下記の(1)式又は(2)式で定義されるガウシアン(Gaussian)カーネルを用いることができる。
【0026】
【数1】

ここで、K(x)はフィルタ関数、xは輝度の入力値、hはバンド幅である。
【0027】
【数2】

ここで、K(x,y)はフィルタ関数、xは輝度の入力値、h1はx軸方向のバンド幅、h2はy軸方向のバンド幅、ρは軸の方向を定めるパラメータである。
【0028】
また、カーネルとして、下記の(3)式で定義されるイパネクニコフ(Epanechnikov)カーネルを用いることもできる。
【0029】
【数3】

ここで、K(x)はフィルタ関数、xは輝度の入力値、|x|は入力ベクトルの絶対値、hはバンド幅である。Icは条件Cが成立するときは1となり、それ以外のときは0となる指示関数である。
【0030】
また、カーネルとして、下記の(4)式で定義される同心円カーネルを用いることもできる。
【0031】
【数4】

ここで、K(x)はフィルタ関数、xは輝度の入力値、|x|は入力ベクトルの絶対値、r1は内心円の半径、r2は外心円の半径である。
【0032】
また、カーネルとして、下記の(5)式で定義されるメキシカンハットカーネルを用いることもできる。
【0033】
【数5】

ここで、K(x)はフィルタ関数、xは輝度の入力値、|x|は入力ベクトルの絶対値、hはバンド幅である。
【0034】
次に、領域分割部30は、スポットの中心間の距離に基づいて、画像フィルタリング部20によりフィルタリングが施された画像を、スポットを含む画像領域と含まない画像領域とに分割する。画像領域を分割する手続きの詳細については後述する。
【0035】
スポット検出部40は、領域分割部30により分割されたスポットを含む画像領域に対して、各画像領域内の輝度分布を求め、そのピーク点をスポットの中心位置(以下、「スポット位置」という)として検出する。また、スポット検出部40は、画像フィルタリング部20によりフィルタリングが施される前の原画像を特徴量算出部50に送信する。
【0036】
特徴量算出部50は、フィルタリングが施される前の原画像から、スポット検出部40により検出されたスポット位置を中心とする所定の大きさの矩形領域を抽出する。そして、特徴量算出部50は、抽出した矩形領域に対して、異なるパラメータにより規定されるカーネルを使用してフィルタリングを施し、スポットの特徴量を算出する。使用するカーネルとして、例えば、上述したカーネルのいずれかを選択する。スポットの特徴量の定量方法については後述する。
【0037】
特徴量算出部50で定量するスポットの特徴は、スポットの大きさ、面積、境界長又は形状等である。定量する形状は、長短軸の比率、長短軸のなす角度、円形度などである。
【0038】
スポットの円形度は、例えば下記の(6)式により算出する。
【0039】
【数6】

ここで、Sはスポットの面積、Lはスポットの境界の長さである。スポット形状が真円の場合に円形度は1をとり、そうでない場合は1より小さくなる。
【0040】
上述した画像フィルタリング部20、領域分割部30、スポット検出部40、及び特徴量算出部50は、例えば、図2に示すように、パソコン等のコンピュータ108および液晶表示装置等のモニタ109により構成される。
【0041】
次に、スポット定量装置1の動作について図3及び図4を参照して、詳細に説明する。
【0042】
図3は、第1実施形態における、スポット定量方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0043】
まず、画像入力部10により、遺伝子又は染色体に対応するスポットを含む画像がスポット定量装置1に入力される(ステップS1)。
【0044】
画像フィルタリング部20は、入力された画像に対して上記(1)〜(5)式等により定義される所定のカーネルを使用して、フィルタリングを施す(ステップS2)。
【0045】
領域分割部30は、フィルタリングが施された画像をスポットを含む画像領域と含まない画像領域とに分割する(ステップS3)。
【0046】
ステップS3で実行される領域分割処理について、図4を参照して詳細に説明する。図4は、領域分割方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0047】
同図を参照すると、まず、領域分割部30は、領域番号kの初期値を0に初期化する(ステップA1)。この領域番号kは、領域分割処理(ステップS3)でスポットを含む領域として分割される各画像領域に対して割り当てられる整数である。
【0048】
領域分割部30は、入力された画像の輝度分布を求める。そして、入力画像において所定の閾値t以上の輝度値を持つ画素の画素番号を集合Iとして保持する(ステップA2)。ここでの閾値tは、入力された画像の平均輝度に比較して充分小さな値であればよく、場合によっては0に設定することにより全ての画素の画素番号を集合Iに含めてもよい。集合Iは、入力画像のうち、スポット探索の対象とする画像領域内における、画素の画素番号の集合を意味する。また、画素番号としては、例えば、画素の座標を示す値を使用する。
【0049】
領域分割部30は、集合Iに含まれる画素の中から、最高輝度を持つ画素pを選択する(ステップA3)。
【0050】
領域分割部30は、ステップA3で選択された画素pを中心とした所与の半径rの円内に含まれる全ての画素の画素番号を求め、これらを集合Dp(以下、「近傍集合」という)として保持する(ステップA4)。この半径rの値は、検出対象とするスポットの大きさよりも十分大きな値であればよい。
【0051】
領域分割部30は、集合Ri(i=0,・・・,k−1)と近傍集合Dpとが重なりを持つか否かを判別する(ステップA5)。ここで、Ri(i=0,・・・,k−1)は、領域分割処理で抽出した画像領域内における、画素の画素番号の集合を意味し、ステップA5が最初に実行される際は(k=0のとき)、Riはまだ得られていない。
【0052】
iとDpとの間に重なりがない、若しくはRiがまだ得られていない場合(ステップA5:NO)、領域分割部30は、近傍集合Dpを集合Rkとする(ステップA6)。そして、領域分割部30は、領域番号kの値を1だけ増加させる(ステップA7)。
【0053】
iとDpとが重なりを持つ場合(ステップA5:YES)、領域分割部30は近傍集合DpとRiとの間の共通集合の要素数を重なりの大きさとして求め、この重なりの大きさが最大となるRiにDpを統合する(ステップA8)。重なりの大きさが最大となるRiが複数ある場合、例えば、領域番号が最小のRiを求める、あるいは領域サイズが最大であるRiを求めるなどの方法で、統合すべきRiを選択する。
【0054】
ステップA7又はステップA8の後、領域分割部30は、集合Iから既に探索を終えた近傍集合Dpを削除する(ステップA9)。
【0055】
領域分割部30は、集合Iに未探索の画素が含まれているか否か、即ち集合Iが空集合であるか否か(I=Φ)を判別する(ステップA10)。
【0056】
集合Iが空集合である場合(ステップA10:YES)、全ての領域が探索されたので領域分割部30は領域分割処理を終了し、スポット検出部40がステップS4を実行する。集合Iが空集合でない場合(ステップA10:NO)、領域分割部30は、ステップA3に戻る。
【0057】
このように、領域分割処理(ステップA1〜A10)では、領域分割部30は複数のピークのうち、互いに所定距離以上近い位置にあるピークの近傍領域を統合して一つの画像領域としている。一般に、複数のピークが存在する場合、互いに近い位置にあるピークのうち強度の比較的弱いものは、強度の比較的高いピークに対する副次的なピークか、ノイズである場合が多い。このため、統合した画像領域ごとに最高輝度を持つピークを検出することで、その領域内の副次的なピークやノイズを取り除くことができる。
【0058】
また、領域分割処理では、領域分割部30は互いに所定距離以上遠い位置にあるピークを異なる画像領域に帰属させている。一般に、複数のピークが存在する場合、あるピークに着目すると、そのピークから所定距離以上離れた位置にあるピークは、ノイズや副次的なピークではなく、独立した別のスポットに対応するピークである場合が多い。このため、抽出された各領域についてスポット検出を行うことで、強度が比較的弱いシグナルをもつピークであってもスポットとして検出することができる。
【0059】
図3に戻り、スポット検出部40は、抽出された各画像領域の輝度分布のピーク点を検出し、この点をスポット位置としてスポット検出を行う(ステップS4)。
【0060】
特徴量算出部50は、検出されたスポット位置を中心とした所定の矩形領域をフィルタリング前の原画像から抽出し、この矩形領域に対してしてパラメータをさまざまに変更したカーネルを使用してフィルタリングを施す(ステップS5)。
【0061】
ここで、使用するパラメータの値としては、検出対象とするスポットの特徴量と一致するパラメータを予測し、その予測した値の前後の所定範囲内でパラメータを変化させる。例えばガウシアンカーネルの場合、検出対象とするスポットの大きさ(例えば、半径)をRと仮定して、カーネルのパラメータ(例えば、バンド幅)をh(バンド幅)=0.5Rからh=2Rまで0.1ずつ変化させてフィルタリングを施す。
【0062】
そして、特徴量算出部50は、矩形領域におけるスポットの特徴量を算出する(ステップS6)。ステップS6の後、スポット定量装置1は、スポット定量処理を終了する。
【0063】
具体的な特徴量の算出方法について説明する。ステップ5において、原画像から切り出した矩形領域内の輝度分布を正規化して、例えば矩形領域内の輝度の和が1となるようにする。この正規化された矩形領域に対して上述のフィルタリングを施し、フィルタリング後の輝度分布のピーク値を求める。
【0064】
このフィルタリング及びピーク値の探索は、異なるパラメータ(例えば、バンド幅)により規定されるカーネルを用いて繰り返し行う。
【0065】
一般に、スポットの輝度分布は、輝度が中心位置から周辺へ向けてなだらかに変化する形状を有することが多い。この輝度分布を持つスポットを含む画像に対して、単純に所定の閾値以上の輝度値の画素のみを抽出する方法を用いても、スポットの形状は正確に検出されない。そこで、例えば、(1)〜(5)式に示したように、中心位置から周辺に向けて重み付けを徐々に変化させる、フィルタ関数を使用してフィルタリングを行うことで、スポットの形状を正確に検出できる。このフィルタ関数のパラメータ(例えば、バンド幅)を変更して複数回フィルタリングを行い、スポットが最も明瞭に検出されるパラメータを求める。この最適のパラメータに対応するフィルタ関数の波形は、実際の蛍光処理された遺伝子等(スポット)の形状とよく一致するので、最適なパラメータの値から検出対象のスポットの形状が正確に求められる。
【0066】
例えば、ガウシアンカーネル((1)式)を使用した場合、複数回検出したピーク値の系列において、最大のピーク値が検出された際にカーネルを規定したバンド幅hがスポットの直径にほぼ一致する。
【0067】
(2)式で定義されるガウシアンカーネルを使用する場合は、最大のピーク値に対応するx軸、y軸のバンド幅(h1、h2)、ρは軸の方向を定めるパラメータσから、長短軸の比率、スポットの面積、長短軸のなす角度等を求めることができる。
【0068】
(3)式、(5)式で定義されるカーネルを使用する場合も、バンド幅hが、スポットの直径に相当する。(4)式で定義されるカーネルを使用する場合、内円の半径r1がスポットの半径にほぼ一致する。
【0069】
このようにして、ステップ6において、この最大のピーク値に対応するパラメータを求めることで、スポットの特徴を簡易な手順により定量することができる。
【0070】
次に、第1実施形態にかかる、スポット定量処理を実行した結果の一例を図5〜図9に示す。
【0071】
図5は、スポット定量装置1に入力されたフィルタリング前の原画像の一例である。同図に示すように、この画像は、蛍光染色された遺伝子又は染色体に対応するスポットを1個、又は複数個含んでいる。
【0072】
図6は、図5に示した画像におけるシグナル強度(輝度)の分布を3次元表示した図である。図5及び図6を参照すると、入力画像は、比較的強いシグナルのスポットP1や比較的弱いシグナルのスポットP2を含んでいる。そして、スポットP1の周辺には、ノイズが混入している。このノイズは、スポットの取り逃しや疑スポットの誤検出の要因となり得るのでノイズの低減を試みる。
【0073】
ノイズを低減するため、例えば画像の輝度分布に基づいてスポットを検出する場合、特定の閾値以上のピークをスポットとして検出する。しかし、このノイズの強度は検出対象のスポットのシグナル強度よりも大きい場合があるので、ノイズを避けるために閾値を上げると弱いシグナルの見逃しが発生しやすくなり、逆に弱いシグナルを拾うために閾値を下げると、ノイズを拾って擬スポットの誤検出が生じ得るという問題がある。この問題は、図3に示したフィルタリング(ステップS2)及び図4に示した領域分割処理(ステップA1〜A10)を行うことで克服できる。
【0074】
図7に、領域分割処理後の画像を示す。同図に示す、白い実践で囲まれた領域I’は、所定の閾値t以上の輝度を持つ画素の画素番号の集合Iに対応する領域である(ステップA2)。白い点線で囲まれた円内の領域Di’(i=1,2,3,4)は、それぞれi番目に輝度の高い画素の画素番号を含む近傍集合Diに対応する領域である。
【0075】
上述の領域分割処理において、まず、集合Iの中で最高輝度を持つ画素を中心とした半径rの円内の画素の画素番号を含む、近傍集合D1が保持される(ステップA4)。最初はR0がないので(ステップA5:NO)、このD1がそのままR0となる(ステップA6)。次にD1がIから除かれ(ステップA9)、残りのIの中で最高輝度(I全体の中では2番目に高い輝度)の画素を中心とした近傍集合D2が保持される(ステップA6)。D2は、既に抽出された集合R0と重なりがあるので(ステップA5:YES)、R0に統合され、更新された集合R0は、R0=D1∪D2となる(ステップA8)。Iから、さらにD2が除かれ(ステップA9)、残りのIの中で最高輝度(I全体の中では3番目に高い輝度)の画素を中心した近傍集合D3が保持される(ステップA6)。D2もR0と重なりがあるので(ステップA5:YES)、R0に統合され、更新された集合R0は、R0=D1∪D2∪D3となる(ステップA8)。
【0076】
Iから、さらにD3が除かれ(ステップA9)、残りのIの中で最高輝度(I全体の中では4番目に高い輝度)の画素を中心した近傍集合D4が保持される(ステップA6)。このD3はR0と重なりがないので(ステップA5:NO)、このD4はR1となる(ステップA6)。IからD4を除くと(ステップA9)、Iが空集合となるので(ステップA10:YES)、スポット定量装置1は領域分割処理を終了する。
【0077】
図7を参照すると、上述の領域分割処理により、集合R0、R1に対応する2つの画像領域R0’、R1’が抽出されている。
【0078】
そして、スポット検出部40は、抽出された画像領域R0’、R1’における、それぞれの輝度分布のピーク点をスポット位置として検出する(ステップS4)。
【0079】
画像領域R0’、R1’のそれぞれについてスポット検出を行うことで、領域R0’内の疑スポットの誤検出を抑制することができ、画像領域R1’内の弱いシグナルのスポットを確実に検出することができる。
【0080】
続いて、特徴量算出部50は検出されたスポット位置を中心とした所定の矩形領域を原画像から抽出し、異なるパラメータにより規定されるカーネルを使用したフィルタリングを複数回施して、スポットの特徴量を算出する(ステップS6)。
【0081】
図8に、スポットの特徴を定量した結果を示す。ここでは、2つのスポットP6、P7が検出されたので、これらのスポットの位置を中心とした矩形領域に対し、外半径r1を内半径r2の1.5倍とし、r2を0.04から0.2まで0.04刻みで変えた同心円カーネルを使用してフィルタを施している。同図を参照すると、スポットP6に対応する領域では、内半径(r2)が0.16のときに最大のピーク値0.71をとり、スポットP7に対応する領域では、内半径(r2)が0.06のときに最大ピーク値1.72をとっている。スポットのピーク値が最大となるときに、内半径(r2)とスポットの半径とがほぼ一致するので、これらの結果から、スポットP6の直径として約0.32、スポットP7の直径として約0.12が算出される。これらの直径の値は、矩形領域の大きさで正規化した値である。
【0082】
定量した特徴量が正確な値か否かを、スポットを陽に抽出することで確認する。図9(a)、(b)にステップ4で検出されたスポットの輝度分布を2次元表示した一例を示す。同図(a)を参照すると、比較的面積の大きなスポットP6はおよそ0.3の直径を持ち、同図(b)を参照すると、比較的面積の小さなスポットP7はおよそ0.12の直径を持っている。よって、図8(a)、(b)及び図9の結果より、定量したスポットの直径は、実際のスポットの直径とよく一致していることがわかる。
【0083】
このように、フィルタを複数回施し、各画像における輝度分布のピーク値を調べるだけで、特徴量算出部50はスポットの特徴を簡易かつ正確に定量することができる(ステップS6)。
【0084】
以上説明したように、本実施形態によれば、カーネルのパラメータを変更してフィルタリングを施した複数の画像における輝度分布に基づいてスポットの特徴を定量するので、スポットの特徴を簡易かつ正確に定量することができる。
【0085】
また、本実施形態によれば、入力された画像に対して所定のカーネルを使用してフィルタリングを施し、フィルタリング後の画像を領域分割し、領域分割された画像領域におけるスポット位置を検出し、検出した位置を中心とした所定の画像領域に対してカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施す。このため、フィルタリングにおいてノイズがさらに低減され、ノイズや輝度の変化に対して頑強な定量が可能となる。
【0086】
(第2実施形態)
本発明を実施するための第2実施形態について図10及び図11を参照して詳細に説明する。
【0087】
図10は、本実施形態のスポット定量装置2の構成を示すブロック図である。図10を参照すると、スポット定量装置2の構成は、フィルタリング部15にクラスタリング部60を備えるほかは、第1実施形態にかかる、スポット定量装置1と同様である。
【0088】
クラスタリング部60は、領域分割部30により分割された画像領域の各画素について輝度分布に基づきクラスタリングを行い、この画像領域から輝度が比較的高い領域を抽出する。
【0089】
領域分割処理により分割された画像領域に対して、第2実施形態に示したように、単に各領域内で、輝度値の最も高い画素を抽出しても(図3におけるステップS4)、領域内に残存する副次的なピークやノイズ(例えば、図7おける領域D2’、D3’内のピーク)を誤検出する可能性はある。そこで、分割された領域から、クラスタリングにより輝度値の平均値が比較的高い領域(例えば、図7おける領域D1’)のみを抽出し、抽出した領域内においてスポット検出部40が輝度分布のピーク点を検出することで誤検出を避けることができる。
【0090】
クラスタリングにおいては、例えば、画像データ空間を粗視化した後、粗視化経験確率分布の算出、各ピクセルのクラス帰属確率の算出、クラスの属性を規定するパラメータの更新及び評価関数の算出を評価関数の変化がなくなるまで繰り返し、閾値を自動的に決定する、特開2003−303344号公報に開示された画像抽出方法を使用する。
【0091】
次に、スポット定量装置1の動作について図11を参照して、詳細に説明する。
【0092】
図11は、第2実施形態にかかるスポット定量方法の処理手順を示すフローチャートである。同図を参照すると、本実施形態にかかるスポット定量方法は、ステップS3の後にステップT1を実行し、ステップT1の後にステップS4を実行する他は、第1実施形態にかかるステップ定量方法と同様である。
【0093】
領域分割処理により画像領域が抽出された後(ステップS3)、クラスタリング部60は、抽出された画像領域の各画素についてクラスタリングを行い、輝度値の比較的高い画像領域を抽出する(ステップT1)。
【0094】
そして、スポット検出部40は、ステップT1で抽出された画像領域の輝度分布のピーク点をスポットの位置として検出する(ステップS4)。
【0095】
上述したように、本実施形態によれば、領域分割された画像領域における各画素を輝度分布に基づいて複数のクラスタに分類し、輝度値の平均値が最も高いクラスタに帰属する画素のうち最高輝度の画素の位置をスポット位置として検出する。このため、領域分割処理で分割した画像領域内に残存するノイズをさらに低減し、スポットの特徴をより正確に定量することができる。
【0096】
なお、上述の実施形態では、細胞の蛍光染色画像を入力とし、蛍光抗体によって標識された遺伝子領域のスポットを定量する場合を例にとって説明したが、それ以外の染色手法、あるいは撮影方法であっても、細胞核内の染色体などに対応するスポットが局在し、輝度分布によって表示されている画像であれば、本実施形態にかかる方法を使用して解析できる。
【0097】
それ以外の場合にも、例えば、核、遺伝子(または染色体)がRGB(Red、Green、Blue)の異なるチャネルで撮影されたカラー画像を入力とする場合であっても、原画像をRGBに対応した3枚のグレースケール画像に分解し、解析対象となるスポットを含んだグレースケール画像に対して同様な手順を行えばよい。
【0098】
フィルタリングで使用するカーネルは、上記(1)〜(5)式で定義したものに限られない。ノイズを低減し、スポットの特徴を定量するのに適したカーネルであれば、上述したもの以外のカーネルを使用することもできる。
【0099】
カーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施す場合(図3におけるステップS5)、上記(1)〜(5)式で定義したカーネルのうち1つのみ使用するのでなく、例えば、ガウシアンカーネル((1)式)及びメキシカンハットカーネル((5)式)など、複数の種類のカーネルを使用することもできる。この場合、それぞれのカーネルにおいてパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを施し、輝度値のピーク値を求め、得られたピーク値のうち、最も高いピーク値に対応するパラメータの値に基づいてスポットの特徴を定量する。
【0100】
また、図3のステップS2〜S6の処理の全部又は一部は、コンピュータプログラムで実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】第1実施形態におけるスポット定量装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における、スポット定量装置の構成の一例を示した図である。
【図3】第1実施形態における、スポット定量方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態における、領域分割方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態における、入力画像の一例を示す図である。
【図6】第1実施形態における、入力画像の輝度分布を3次元表示した一例を示す図である。
【図7】第1実施形態における、領域分割処理により分割された画像領域の一例を示す図である。
【図8】第1実施形態における、同心円カーネルでフィルタリングを施して得られた特徴量の一例である。
【図9】(a)第1実施形態における、直径の比較的大きなスポットの輝度分布を二次元表示した一例を示す図である。(b)第1実施形態における、直径の比較的小さなスポットの輝度分布を二次元表示した一例を示す図である。
【図10】第2実施形態における、スポット定量装置の構成を示すブロック図である。
【図11】第2実施形態における、スポット定量方法の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0102】
1,2 スポット定量装置
10 画像入力部
15 フィルタリング部
20 画像フィルタリング部
30 領域分割部
40 スポット検出部
50 特徴量算出部
60 クラスタリング部
100 光源
101 励起フィルタ
102 バリアフィルタ
103 CCDカメラ
104 試料
105 対眼レンズ
106 対物レンズ
107 ダイクロックミラー
108 コンピュータ
109 モニタ
S1〜S6,A1〜A10,T1 ステップ
P1,P2,P6,P7 スポット
I’,D1’,D2’,D3’,D4’,R0’ R1’ 画像領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポットを含む画像を入力する画像入力手段と、
前記画像入力手段により入力された画像に対して、カーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施すフィルタリング手段と、
前記フィルタリング手段によりフィルタリングが複数回施された各画像における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量するスポット定量手段と、
を有するスポット定量装置。
【請求項2】
前記スポット定量手段は、
前記フィルタリング手段によりフィルタリングが複数回施された各画像における正規化された輝度分布のピーク値を求め、該ピーク値が最大となる画像で使用されたカーネルのパラメータの値に基づいて前記スポットの特徴を定量する、請求項1に記載のスポット定量装置。
【請求項3】
前記フィルタリング手段は、前記カーネルのパラメータを、前記スポットの特徴量に対応するパラメータの値を含む所定範囲内で変更してフィルタリングを施す、請求項1又は2に記載のスポット定量装置。
【請求項4】
前記カーネルがガウシアンカーネルである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスポット定量装置。
【請求項5】
前記カーネルがイパネクニコフカーネルである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスポット定量装置。
【請求項6】
前記カーネルがメキシカンハットカーネルである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスポット定量装置。
【請求項7】
前記フィルタリング手段は、前記カーネルのバンド幅を所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施し、
前記スポット定量手段は、前記フィルタリング手段によりフィルタリングが複数回施された各画像における正規化された輝度分布のピーク値を求め、該ピーク値が最大となる画像で使用されたカーネルのバンド幅を前記スポットの直径として定量する、請求項4乃至6のいずれか1項に記載のスポット定量装置。
【請求項8】
前記カーネルが同心円カーネルである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスポット定量装置。
【請求項9】
前記フィルタリング手段は、カーネルの内円半径を所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施し、
前記スポット定量手段は、前記フィルタリング手段によりフィルタリングが複数回施された各画像における正規化された輝度分布のピーク値を求め、該ピーク値が最大となる画像で使用されたカーネルの内円半径を前記スポットの半径として定量する、請求項8に記載のスポット定量装置。
【請求項10】
前記フィルタリング手段は、
前記画像入力手段により入力された画像に対して所定のカーネルを使用してフィルタリングを施す第1のフィルタリング手段と、
前記第1のフィルタリング手段によりフィルタリングが施された画像をスポットの中心間の距離に基づいてスポットを含む画像領域と含まない画像領域とに分割する画像領域分割手段と、
前記画像領域分割手段により分割されたスポットを含む画像領域におけるスポットの中心をスポット位置として検出するスポット検出手段と、
前記スポット検出手段により検出されたスポット位置を中心とした所定の画像領域を前記画像入力手段により入力された画像から抽出し、抽出した画像領域に対してカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施す第2のフィルタリング手段と、
を有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のスポット定量装置。
【請求項11】
前記画像領域分割手段は、互いの中心点が所定距離内にあるスポットを同一の画像領域に帰属させ、互いの中心点が所定距離より離れたスポットを異なる画像領域に帰属させることで、前記第1のフィルタリング手段によりフィルタリングが施された画像をスポットを含む画像領域と含まない画像領域とに分割する、請求項10に記載のスポット定量装置。
【請求項12】
前記スポット検出手段は、前記画像領域分割手段により分割されたスポットを含む画像領域における各画素を輝度分布に基づいて複数のクラスタに分類し、輝度値の平均値が最も高いクラスタに帰属する画素のうち最高輝度の画素の位置をスポット位置として検出する、請求項10又は11に記載のスポット定量装置。
【請求項13】
スポットを含む画像を入力し、
入力した画像に対してカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施し、
複数のフィルタリングが施された各画像における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量する、スポット定量方法。
【請求項14】
コンピュータを、
スポットを含む画像に対してカーネルのパラメータを所定範囲内で変更してフィルタリングを複数回施すフィルタリング手順、及び
前記フィルタリング手順によりフィルタリングが複数回施された各画像領域における輝度分布に基づいて前記スポットの特徴を定量するスポット定量手順、
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−168725(P2009−168725A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9261(P2008−9261)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】