スポット溶接方法およびスポット溶接用電極
【課題】非破壊検査により、スポット溶接の良否判定が行える方法の提供
【解決手段】スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用い、スポット溶接を行い、スポット溶接により前記窪みに対応して金属体表面に形成された溶接痕の形状に基づいてスポット溶接の良否を判定する。
【解決手段】スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用い、スポット溶接を行い、スポット溶接により前記窪みに対応して金属体表面に形成された溶接痕の形状に基づいてスポット溶接の良否を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスポット溶接方法およびスポット溶接用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接は、ナゲット径でスポット溶接の強度を評価することが知られている。具体的手法としては、スポット溶接された2枚の鋼板の間にタガネを圧入してスポット溶接部を剥がし、ナゲット径を直接計測するいわゆるタガネ検査や、スポット溶接部を切断してナゲット径を直接計測する切断検査などの個別破壊計測が行なわれている。
【0003】
また、スポット溶接に関する非破壊計測技術としては超音波を利用したもの(特開昭62−119453号、特開平4−265854号)、振動を利用したもの(特開平9−171007号)、断続光照射に伴う音波を検出するもの(特開平3−2659号)、溶接電極から発した弾性波の反射波を検出するもの(特開平4−40359号)などが各種提案されている。また、特開2001−165911号公報には、スポット溶接部に磁力線を貫通させたときに測定されるスポット溶接部のナゲット周縁での環状高インダクタンス部分の直径と、前記高インダクタンス部分とナゲット中央部における低インダクタンス部分とのインダクタンス高低落差の2つの変数を用いて、ナゲット直径の予測値としての各変数を判別式で表し、ナゲット直径の良否を区別する閾値を設定するものが開示されている。
【特許文献1】特開2001−165911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タガネ検査は、破壊計測したものについて、スポット溶接の強度を評価することができるが、破壊計測していないものはスポット溶接の強度を直接評価することができない。また、近年、自動車のボディー等には軽量化を図るためハイテン(高張力鋼)材が多く用いられつつあるが、ハイテン材をスポット溶接した部位は通常の鋼板を溶接した部位に比べて硬いため、製造ラインで抜き打ちによるタガネ検査を行うには不向きであった。
【0005】
従って、非破壊検査によるスポット溶接の良否評価を行えるスポット溶接方法を確立することが望まれている。非破壊検査は特開2001−165911号公報などに開示されているが、設備コストや作業性の面を考慮すれば、より簡単な設備でより簡単に検査でき、信頼性が高い検査方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図1に示すように、スポット溶接を行う一対の電極1、2のうち、一方の電極2に、電極面に窪み3を形成したものを用いてスポット溶接を行うと、図1、図2に示すように、電極2の電極面に形成した窪み3に対応して鋼板4、5(金属体)の表面に凸状の溶接痕6が形成される。本発明者らは、この凸状の溶接痕6に着目し、凸状の溶接痕6の高さと、ナゲット7の直径(ナゲット径)と、引張せん断強度(TSS)のそれぞれの相関関係を調べた。
【0007】
図3は、凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータの一例を、図4は凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータの一例を、図5はナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータの一例をそれぞれ示している。
【0008】
この実施形態では、図2に示すように、上下一対の電極3,4のうち、上側の電極3の表面に凹部5として、所定直径(3mmと5mm)の円筒形状の窪みを形成した電極を用いている。図3〜図5の相関関係図は、電極3の表面に凹部5として形成した円筒形状の窪みの直径が3mmのものと、5mmのもので2種類の電極でデータを取った。それぞれ加圧力は250kgf(約2.45kN)と150kgf(約1.47kN)の2通り、また電流値は5kA〜13kAの間で変え、通電時間は4cycle〜10cycleの間で変えてスポット溶接のエネルギーを変え、凸部の高さやナゲット径、引張せん断強度(TSS)が異なる試料を作成した。また異なる条件毎に複数個ずつ試料を作成した。なお、この実施形態では、周波数60Hzの交流でスポット溶接を行っており、cycleは通電時間を設定する単位であり、1cycleは1/60secである。
【0009】
その結果、図3〜図5に示すように、これらには相関関係が見られ、凸状の溶接痕6の高さからナゲット径及び引張せん断強度(TSS)が推定できるとの知見を得た。そして、斯かる知見を基に、非破壊検査により、スポット溶接の良否判定が行える方法について以下のような発明をした。
【0010】
すなわち、本発明に係るスポット溶接方法は、スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用い、スポット溶接を行い、スポット溶接により前記窪みに対応して金属体表面に形成された溶接痕の形状に基づいてスポット溶接の良否を判定することを特徴としている。また、本発明に係るスポット溶接用電極は、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
このスポット溶接方法によれば、スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用いて、スポット溶接を行っている。このため、スポット溶接の良否は溶接痕の外形形状で、溶接痕が窪みの最深部に到達したか否かを判定でき、これにより、溶接痕の外形形状でスポット溶接の良否判定が可能であり、非破壊検査によりスポット溶接の良否が判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るスポット溶接方法およびスポット溶接用電極を図面に基づいて説明する。
【0013】
このスポット溶接方法では、スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、図6(a)(b)に示すように、電極面11が略凸曲面で、かつ、電極面11の中心部に窪み12を形成したスポット溶接の良否判定用電極10(以下、「マーク電極」という。)を用いてスポット溶接を行う。マーク電極10の電極面11に形成した窪み12は、図7に示すように、スポット溶接により良好にナゲット13が形成された場合に、金属体としての鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部16に到達する所定深さに設定している。なお、図7に図示する例では、スポット溶接は、一方の電極にマーク電極10を用い、他方に通常のスポット溶接用電極20を用いている。
【0014】
すなわち、斯かるマーク電極10を用いてスポット溶接を行うと、図7に示すように、鋼板14の表面には、マーク電極10に対応した凸状の溶接痕15が形成される。マーク電極10の電極面11に形成した窪み12は、図7に示すように、スポット溶接により良好にナゲット13が形成された場合に、鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部16に到達する所定深さに設定している。このため、スポット溶接により形成されるナゲット13が不十分な場合には、鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部に到達せず、スポット溶接により良好にナゲット13が形成された場合には、鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部に到達する。斯かる窪み12の深さは、予め基礎実験を行うことにより、斯かる機能を奏するのに適切な深さを見出して設定するとよい。
【0015】
ナゲット13の形成は、重ね合わせる金属体の材質や厚さ、重ね合わせる数、電極の形状、電流、通電時間、加圧力などの条件により変わる。基礎実験では、例えば、これらの条件を変えながら、スポット溶接を行い、タガネ検査等の個別破壊計測により良好にナゲット7が形成される場合の溶接痕15の高さを見出し、マーク電極10の電極面11の中心部に形成する窪み12について適切な深さを見出すとよい。
【0016】
また、この実施形態では、マーク電極10の電極面11に形成する窪み12は、図6(a)に示すように、窪み12の周縁部にRを付けて、電極面11から滑らかに窪ませている。これにより、スポット溶接の際、マーク電極10の窪みに沿って、鋼板14の表面が滑らかに隆起していき、通電面積(電極の接触面積)が急激に変化した場合に生じる散り(溶融金属が飛び散る現象)を防止することができる。このように散りが生じにくい構造を採用することにより、通電する電流値を大きくすることが可能になり、スポット溶接を良好に行うことができる。
【0017】
また、マーク電極10は窪み12の最深部16にマーカーを設けてもよい。マーク電極10は窪み12の最深部にマーカーを設けることにより、溶接痕15の頂部に、マーカーに対応したマークが形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することができるので、スポット溶接の良否判定が容易になる。
【0018】
例えば、図6(a)(b)に示すマーク電極10は、窪み12の最深部16にマーカーとして平坦面17を形成している。この場合、図7に示すように、溶接痕15の頂部に、マーク電極10の窪み12に形成したマーカーとしての平坦面17に対応した平坦面18が形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することができる。
【0019】
また、マーカーは、図8に示すように、凸起21で形成してもよい。この場合、図9に示すように、溶接痕15の頂部に、マーカーとしての凸起21に対応した凹み22が形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することできる。
【0020】
また、マーカーは、図10に示すように、凹み23で形成してもよい。この場合、図11に示すように、溶接痕15の頂部に、マーカーとしての凹み23に対応した凸起24が形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することができる。
【0021】
図6(a)、図8、図10に示すようにマーク電極10の窪み12にマーカー17、21、23を設けることにより、図7、図9、図11に示すように溶接痕15の頂部に対応するマーク18、22、24が形成されるので、スポット溶接の良否判定が容易になる。スポット溶接の良否判定は、作業者の目視で行ってもよいが、溶接痕の形状をCCDカメラなどの撮影装置で撮影し、コンピュータによる画像処理により、形状マッチングを行って判定するようにしてもよい。この際、図6、図8、図10に示すようなマーカー17、21、23を設けることにより、図7、図9、図11に示すように溶接痕15の頂部に対応するマーク18、22、24が形成されるので、コンピュータによる画像処理により、形状マッチングを行って判定をする場合においても、画像処理においてマーク18、22、24を識別すればよく、画像処理が比較的容易になり、スポット溶接の良否判定の精度を向上させることができる。
【0022】
以下、本発明者らが行った一実施例を説明する。本発明者らは、図7に示すように、SPC590、厚さ1.2mmの鋼板14a、14bを2枚重ね、これを上下一対の電極10、20で挟み、400kgfで加圧し、16cycleで通電した場合に、溶接電流値と、ナゲット径の関係を調べた。上下一対の電極10、20は、一方にマーク電極10を用い、他方に通常の電極20を用いている。
【0023】
通常の電極20には、図12(b)に示すように、直径が16mmの電極で、先端の周縁部をR8の曲面とし、先端の中央部を直径10mmの領域をR15の曲面として電極面21を形成したものを用いた。マーク電極10は、図12(a)に示すように、直径が16mmの電極で、先端の周縁部をR8の曲面とし、先端の中央部を直径10mmの領域をR15の曲面として電極面11を形成している。マーク電極10の電極面11の中央部には、直径6.2mmの領域に窪み12を形成している。窪み12の中央部に形成される最深部16は、マーカーとして、深さを1.4mm、直径2.0mmの平坦面17を形成している。窪み12は、窪み12の周縁部および最深部16の平坦面17に掛けて、Rを付けて電極面11から全体として滑らかに窪ませている。
【0024】
試験は、上記の条件で、溶接電流値を変えて、スポット溶接を行い、切断検査などの個別破壊計測によりナゲット径を調べた。斯かる試験による溶接電流値とナゲット径との関係を図13に示す。図13中、黒抜きのプロット点aは溶接痕の頂部にマーカー17に対応したマークが形成できなかったものであり、白抜きのプロット点bは溶接痕の頂部にマーカー17に対応したマークが形成されたものである。黒抜きプロット点aではナゲット径も小さく、良好なスポット溶接とは言えない程度であるが、白抜きプロット点bでは、ナゲット径も十分に大きく良好なスポット溶接と言える。なお、白抜き星印のプロット点cは、溶接中にチリが発生したものであり、溶接電流値が高過ぎたものと考えられる。
【0025】
また、この試験では、上下一対の電極にそれぞれ通常の電極20を用いる場合に比べて、少なくとも一方の電極に上記のマーク電極10を用いてスポット溶接を行う場合には、チリやスパッタが発生する条件が緩和されることがわかった。すなわち、マーク電極10は、電極面11の中央部に電極面11から滑らかに窪んだ窪み12が形成されているので、通電初期の接触面積が円形で接触面積が稼げる点、および、通電が開始され、鋼板14が加熱されて表面が軟化されるとそれに応じて接触面積が増えていく。このためスポット溶接における散りやスパッタの発生も極めて低いレベルに抑えることができると考えられる。このように上記のマーク電極10を用いると、チリやスパッタが発生しにくくなるので、溶接電流値を高く設定でき、溶接電流値を高く設定することにより良好なナゲットが形成され、良好なスポット溶接が行える。
【0026】
以上、本発明の一実施形態に係るスポット溶接方法およびスポット溶接の良否判定用電極を説明したが、本発明に係るスポット溶接方法およびスポット溶接の良否判定用電極は上記の実施形態に限定されない。
【0027】
例えば、マーク電極の窪みの最深部に形成するマーカーは上述した実施形態で例示したものに限定されず、他の形態を採用することができる。また、本発明に係るスポット溶接方法およびスポット溶接の良否判定用電極は、ダイレクトスポット溶接、インダイレクトスポット溶接、シリーズスポット溶接など、種々のスポット溶接に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電極面に窪みを形成した電極を用いてスポット溶接を行う基礎実験を示す概略図。
【図2】凸状の溶接痕の縦断面図。
【図3】スポット溶接により形成される凸部の高さとナゲット径との相関関係の一例を示す図である。
【図4】スポット溶接により形成される凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係の一例を示す図である。
【図5】ナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係の一例を示す図である。
【図6】(a)は本発明の一実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極を示す部分縦断面図。(b)は本発明の一実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極の底面図。
【図7】スポット溶接において凸状の溶接痕が形成される状態を示す図。
【図8】本発明の他の実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極を示す部分縦断面図。
【図9】図8に示すスポット溶接の良否判定用電極を用いて形成された凸状の溶接痕を示す縦断面図。
【図10】本発明の他の実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極を示す部分縦断面図。
【図11】図10に示すスポット溶接の良否判定用電極を用いて形成された凸状の溶接痕を示す縦断面図。
【図12】一実施例の試験で用いた上下一対の電極を示す縦断面図であり、(a)はマーク電極を示し、(b)は通常の電極を示す。
【図13】一実施例の試験で得られた溶接電流値とナゲット径との関係を示す図。
【符号の説明】
【0029】
10 マーク電極(スポット溶接の良否判定用電極)
11 電極面
13 ナゲット
14 鋼板(金属体)
15 溶接痕
16 最深部
17 平坦面(マーカー)
18 平坦面(マーク)
20 スポット溶接用電極
21 凸起(マーカー)
22 窪み(マーク)
23 窪み(マーカー)
24 凸起(マーク)
【技術分野】
【0001】
本発明はスポット溶接方法およびスポット溶接用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接は、ナゲット径でスポット溶接の強度を評価することが知られている。具体的手法としては、スポット溶接された2枚の鋼板の間にタガネを圧入してスポット溶接部を剥がし、ナゲット径を直接計測するいわゆるタガネ検査や、スポット溶接部を切断してナゲット径を直接計測する切断検査などの個別破壊計測が行なわれている。
【0003】
また、スポット溶接に関する非破壊計測技術としては超音波を利用したもの(特開昭62−119453号、特開平4−265854号)、振動を利用したもの(特開平9−171007号)、断続光照射に伴う音波を検出するもの(特開平3−2659号)、溶接電極から発した弾性波の反射波を検出するもの(特開平4−40359号)などが各種提案されている。また、特開2001−165911号公報には、スポット溶接部に磁力線を貫通させたときに測定されるスポット溶接部のナゲット周縁での環状高インダクタンス部分の直径と、前記高インダクタンス部分とナゲット中央部における低インダクタンス部分とのインダクタンス高低落差の2つの変数を用いて、ナゲット直径の予測値としての各変数を判別式で表し、ナゲット直径の良否を区別する閾値を設定するものが開示されている。
【特許文献1】特開2001−165911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タガネ検査は、破壊計測したものについて、スポット溶接の強度を評価することができるが、破壊計測していないものはスポット溶接の強度を直接評価することができない。また、近年、自動車のボディー等には軽量化を図るためハイテン(高張力鋼)材が多く用いられつつあるが、ハイテン材をスポット溶接した部位は通常の鋼板を溶接した部位に比べて硬いため、製造ラインで抜き打ちによるタガネ検査を行うには不向きであった。
【0005】
従って、非破壊検査によるスポット溶接の良否評価を行えるスポット溶接方法を確立することが望まれている。非破壊検査は特開2001−165911号公報などに開示されているが、設備コストや作業性の面を考慮すれば、より簡単な設備でより簡単に検査でき、信頼性が高い検査方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図1に示すように、スポット溶接を行う一対の電極1、2のうち、一方の電極2に、電極面に窪み3を形成したものを用いてスポット溶接を行うと、図1、図2に示すように、電極2の電極面に形成した窪み3に対応して鋼板4、5(金属体)の表面に凸状の溶接痕6が形成される。本発明者らは、この凸状の溶接痕6に着目し、凸状の溶接痕6の高さと、ナゲット7の直径(ナゲット径)と、引張せん断強度(TSS)のそれぞれの相関関係を調べた。
【0007】
図3は、凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータの一例を、図4は凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータの一例を、図5はナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータの一例をそれぞれ示している。
【0008】
この実施形態では、図2に示すように、上下一対の電極3,4のうち、上側の電極3の表面に凹部5として、所定直径(3mmと5mm)の円筒形状の窪みを形成した電極を用いている。図3〜図5の相関関係図は、電極3の表面に凹部5として形成した円筒形状の窪みの直径が3mmのものと、5mmのもので2種類の電極でデータを取った。それぞれ加圧力は250kgf(約2.45kN)と150kgf(約1.47kN)の2通り、また電流値は5kA〜13kAの間で変え、通電時間は4cycle〜10cycleの間で変えてスポット溶接のエネルギーを変え、凸部の高さやナゲット径、引張せん断強度(TSS)が異なる試料を作成した。また異なる条件毎に複数個ずつ試料を作成した。なお、この実施形態では、周波数60Hzの交流でスポット溶接を行っており、cycleは通電時間を設定する単位であり、1cycleは1/60secである。
【0009】
その結果、図3〜図5に示すように、これらには相関関係が見られ、凸状の溶接痕6の高さからナゲット径及び引張せん断強度(TSS)が推定できるとの知見を得た。そして、斯かる知見を基に、非破壊検査により、スポット溶接の良否判定が行える方法について以下のような発明をした。
【0010】
すなわち、本発明に係るスポット溶接方法は、スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用い、スポット溶接を行い、スポット溶接により前記窪みに対応して金属体表面に形成された溶接痕の形状に基づいてスポット溶接の良否を判定することを特徴としている。また、本発明に係るスポット溶接用電極は、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
このスポット溶接方法によれば、スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用いて、スポット溶接を行っている。このため、スポット溶接の良否は溶接痕の外形形状で、溶接痕が窪みの最深部に到達したか否かを判定でき、これにより、溶接痕の外形形状でスポット溶接の良否判定が可能であり、非破壊検査によりスポット溶接の良否が判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るスポット溶接方法およびスポット溶接用電極を図面に基づいて説明する。
【0013】
このスポット溶接方法では、スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、図6(a)(b)に示すように、電極面11が略凸曲面で、かつ、電極面11の中心部に窪み12を形成したスポット溶接の良否判定用電極10(以下、「マーク電極」という。)を用いてスポット溶接を行う。マーク電極10の電極面11に形成した窪み12は、図7に示すように、スポット溶接により良好にナゲット13が形成された場合に、金属体としての鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部16に到達する所定深さに設定している。なお、図7に図示する例では、スポット溶接は、一方の電極にマーク電極10を用い、他方に通常のスポット溶接用電極20を用いている。
【0014】
すなわち、斯かるマーク電極10を用いてスポット溶接を行うと、図7に示すように、鋼板14の表面には、マーク電極10に対応した凸状の溶接痕15が形成される。マーク電極10の電極面11に形成した窪み12は、図7に示すように、スポット溶接により良好にナゲット13が形成された場合に、鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部16に到達する所定深さに設定している。このため、スポット溶接により形成されるナゲット13が不十分な場合には、鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部に到達せず、スポット溶接により良好にナゲット13が形成された場合には、鋼板14の表面に形成される溶接痕15が最深部に到達する。斯かる窪み12の深さは、予め基礎実験を行うことにより、斯かる機能を奏するのに適切な深さを見出して設定するとよい。
【0015】
ナゲット13の形成は、重ね合わせる金属体の材質や厚さ、重ね合わせる数、電極の形状、電流、通電時間、加圧力などの条件により変わる。基礎実験では、例えば、これらの条件を変えながら、スポット溶接を行い、タガネ検査等の個別破壊計測により良好にナゲット7が形成される場合の溶接痕15の高さを見出し、マーク電極10の電極面11の中心部に形成する窪み12について適切な深さを見出すとよい。
【0016】
また、この実施形態では、マーク電極10の電極面11に形成する窪み12は、図6(a)に示すように、窪み12の周縁部にRを付けて、電極面11から滑らかに窪ませている。これにより、スポット溶接の際、マーク電極10の窪みに沿って、鋼板14の表面が滑らかに隆起していき、通電面積(電極の接触面積)が急激に変化した場合に生じる散り(溶融金属が飛び散る現象)を防止することができる。このように散りが生じにくい構造を採用することにより、通電する電流値を大きくすることが可能になり、スポット溶接を良好に行うことができる。
【0017】
また、マーク電極10は窪み12の最深部16にマーカーを設けてもよい。マーク電極10は窪み12の最深部にマーカーを設けることにより、溶接痕15の頂部に、マーカーに対応したマークが形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することができるので、スポット溶接の良否判定が容易になる。
【0018】
例えば、図6(a)(b)に示すマーク電極10は、窪み12の最深部16にマーカーとして平坦面17を形成している。この場合、図7に示すように、溶接痕15の頂部に、マーク電極10の窪み12に形成したマーカーとしての平坦面17に対応した平坦面18が形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することができる。
【0019】
また、マーカーは、図8に示すように、凸起21で形成してもよい。この場合、図9に示すように、溶接痕15の頂部に、マーカーとしての凸起21に対応した凹み22が形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することできる。
【0020】
また、マーカーは、図10に示すように、凹み23で形成してもよい。この場合、図11に示すように、溶接痕15の頂部に、マーカーとしての凹み23に対応した凸起24が形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することができる。
【0021】
図6(a)、図8、図10に示すようにマーク電極10の窪み12にマーカー17、21、23を設けることにより、図7、図9、図11に示すように溶接痕15の頂部に対応するマーク18、22、24が形成されるので、スポット溶接の良否判定が容易になる。スポット溶接の良否判定は、作業者の目視で行ってもよいが、溶接痕の形状をCCDカメラなどの撮影装置で撮影し、コンピュータによる画像処理により、形状マッチングを行って判定するようにしてもよい。この際、図6、図8、図10に示すようなマーカー17、21、23を設けることにより、図7、図9、図11に示すように溶接痕15の頂部に対応するマーク18、22、24が形成されるので、コンピュータによる画像処理により、形状マッチングを行って判定をする場合においても、画像処理においてマーク18、22、24を識別すればよく、画像処理が比較的容易になり、スポット溶接の良否判定の精度を向上させることができる。
【0022】
以下、本発明者らが行った一実施例を説明する。本発明者らは、図7に示すように、SPC590、厚さ1.2mmの鋼板14a、14bを2枚重ね、これを上下一対の電極10、20で挟み、400kgfで加圧し、16cycleで通電した場合に、溶接電流値と、ナゲット径の関係を調べた。上下一対の電極10、20は、一方にマーク電極10を用い、他方に通常の電極20を用いている。
【0023】
通常の電極20には、図12(b)に示すように、直径が16mmの電極で、先端の周縁部をR8の曲面とし、先端の中央部を直径10mmの領域をR15の曲面として電極面21を形成したものを用いた。マーク電極10は、図12(a)に示すように、直径が16mmの電極で、先端の周縁部をR8の曲面とし、先端の中央部を直径10mmの領域をR15の曲面として電極面11を形成している。マーク電極10の電極面11の中央部には、直径6.2mmの領域に窪み12を形成している。窪み12の中央部に形成される最深部16は、マーカーとして、深さを1.4mm、直径2.0mmの平坦面17を形成している。窪み12は、窪み12の周縁部および最深部16の平坦面17に掛けて、Rを付けて電極面11から全体として滑らかに窪ませている。
【0024】
試験は、上記の条件で、溶接電流値を変えて、スポット溶接を行い、切断検査などの個別破壊計測によりナゲット径を調べた。斯かる試験による溶接電流値とナゲット径との関係を図13に示す。図13中、黒抜きのプロット点aは溶接痕の頂部にマーカー17に対応したマークが形成できなかったものであり、白抜きのプロット点bは溶接痕の頂部にマーカー17に対応したマークが形成されたものである。黒抜きプロット点aではナゲット径も小さく、良好なスポット溶接とは言えない程度であるが、白抜きプロット点bでは、ナゲット径も十分に大きく良好なスポット溶接と言える。なお、白抜き星印のプロット点cは、溶接中にチリが発生したものであり、溶接電流値が高過ぎたものと考えられる。
【0025】
また、この試験では、上下一対の電極にそれぞれ通常の電極20を用いる場合に比べて、少なくとも一方の電極に上記のマーク電極10を用いてスポット溶接を行う場合には、チリやスパッタが発生する条件が緩和されることがわかった。すなわち、マーク電極10は、電極面11の中央部に電極面11から滑らかに窪んだ窪み12が形成されているので、通電初期の接触面積が円形で接触面積が稼げる点、および、通電が開始され、鋼板14が加熱されて表面が軟化されるとそれに応じて接触面積が増えていく。このためスポット溶接における散りやスパッタの発生も極めて低いレベルに抑えることができると考えられる。このように上記のマーク電極10を用いると、チリやスパッタが発生しにくくなるので、溶接電流値を高く設定でき、溶接電流値を高く設定することにより良好なナゲットが形成され、良好なスポット溶接が行える。
【0026】
以上、本発明の一実施形態に係るスポット溶接方法およびスポット溶接の良否判定用電極を説明したが、本発明に係るスポット溶接方法およびスポット溶接の良否判定用電極は上記の実施形態に限定されない。
【0027】
例えば、マーク電極の窪みの最深部に形成するマーカーは上述した実施形態で例示したものに限定されず、他の形態を採用することができる。また、本発明に係るスポット溶接方法およびスポット溶接の良否判定用電極は、ダイレクトスポット溶接、インダイレクトスポット溶接、シリーズスポット溶接など、種々のスポット溶接に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電極面に窪みを形成した電極を用いてスポット溶接を行う基礎実験を示す概略図。
【図2】凸状の溶接痕の縦断面図。
【図3】スポット溶接により形成される凸部の高さとナゲット径との相関関係の一例を示す図である。
【図4】スポット溶接により形成される凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係の一例を示す図である。
【図5】ナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係の一例を示す図である。
【図6】(a)は本発明の一実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極を示す部分縦断面図。(b)は本発明の一実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極の底面図。
【図7】スポット溶接において凸状の溶接痕が形成される状態を示す図。
【図8】本発明の他の実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極を示す部分縦断面図。
【図9】図8に示すスポット溶接の良否判定用電極を用いて形成された凸状の溶接痕を示す縦断面図。
【図10】本発明の他の実施形態に係るスポット溶接の良否判定用電極を示す部分縦断面図。
【図11】図10に示すスポット溶接の良否判定用電極を用いて形成された凸状の溶接痕を示す縦断面図。
【図12】一実施例の試験で用いた上下一対の電極を示す縦断面図であり、(a)はマーク電極を示し、(b)は通常の電極を示す。
【図13】一実施例の試験で得られた溶接電流値とナゲット径との関係を示す図。
【符号の説明】
【0029】
10 マーク電極(スポット溶接の良否判定用電極)
11 電極面
13 ナゲット
14 鋼板(金属体)
15 溶接痕
16 最深部
17 平坦面(マーカー)
18 平坦面(マーク)
20 スポット溶接用電極
21 凸起(マーカー)
22 窪み(マーク)
23 窪み(マーカー)
24 凸起(マーク)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用い、
スポット溶接を行い、スポット溶接により前記窪みに対応して金属体表面に形成された溶接痕の形状に基づいてスポット溶接の良否を判定することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項2】
前記少なくとも一方の電極の電極面中心部に形成される窪みは最深部にマーカーが形成されており、前記溶接痕の頂部に前記マーカーに対応したマークが形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接方法。
【請求項3】
電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成したことを特徴とするスポット溶接用電極。
【請求項4】
前記窪みの最深部にマーカーを設けたことを特徴とする請求項3に記載のスポット溶接の良否判定電極。
【請求項5】
前記マーカーは、平坦面で形成したことを特徴とする請求項4に記載のスポット溶接用電極。
【請求項6】
前記電極面に形成する窪みは、窪みの周縁部にRを付けて、電極面から滑らかに窪ませたことを特徴とする請求項3に記載のスポット溶接用電極。
【請求項1】
スポット溶接を行う少なくとも一方の電極に、電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成した電極を用い、
スポット溶接を行い、スポット溶接により前記窪みに対応して金属体表面に形成された溶接痕の形状に基づいてスポット溶接の良否を判定することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項2】
前記少なくとも一方の電極の電極面中心部に形成される窪みは最深部にマーカーが形成されており、前記溶接痕の頂部に前記マーカーに対応したマークが形成されたか否かで、スポット溶接の良否を判定することを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接方法。
【請求項3】
電極面が略凸曲面で、かつ、電極面中心部に、スポット溶接により良好にナゲットが形成された場合に、金属体表面に形成される溶接痕が最深部に到達する所定深さに設定した窪みを形成したことを特徴とするスポット溶接用電極。
【請求項4】
前記窪みの最深部にマーカーを設けたことを特徴とする請求項3に記載のスポット溶接の良否判定電極。
【請求項5】
前記マーカーは、平坦面で形成したことを特徴とする請求項4に記載のスポット溶接用電極。
【請求項6】
前記電極面に形成する窪みは、窪みの周縁部にRを付けて、電極面から滑らかに窪ませたことを特徴とする請求項3に記載のスポット溶接用電極。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−130659(P2007−130659A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325185(P2005−325185)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(502202409)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(502202409)
【Fターム(参考)】
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