説明

スポット溶接検査装置およびスポット溶接検査方法

【課題】 スポット溶接部の非破壊検査を低コストで行うことができ、また、検査装置を容易に持ち運びできるようにする。
【解決手段】 コンデンサ22に充電した電荷を放電回路20に放出してナゲットNに電流を流す。このとき、ナゲットNには、電流が流れ始める瞬間において誘導起電力が発生する。この誘導起電力は、ナゲットNの径φが小さいほど大きくなる。従って、誘導起電力の大きさでナゲットNの径を推定することができる。ピークホールド回路60は、ナゲットNに発生した誘導起電力の最大電圧を保持する。検査者は、ピークホールド回路60の出力電圧を電圧計70にて測定し、誘導起電力の最大電圧vmaxと判定電圧vrefとを比較してスポット溶接検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接のナゲットの大きさの良否を非破壊で判定する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属板同士のスポット溶接は、金属板を重ね合わせて1対の電極で挟んで加圧するとともに、電極間の通電により金属板をジュール熱で瞬間溶融して、ナゲットと呼ばれる所定径の溶融塊を形成することにより行われる。ナゲットの径は、スポット溶接の強度に影響するため、スポット溶接の良否はナゲットの径で決定されると言ってよい。ナゲットの径を測定する方法として、スポット溶接した金属板を剥がして直接測定する方法や、金属板を剥がすのに必要な力を測定することにより行う方法があるが、いずれも破壊検査であるため、抜き取り検査を行うしかなく、全数検査は不可能である。
【0003】
これに対して、非破壊検査であれば全数検査が可能となる。スポット溶接部の非破壊検査方法としては、例えば、特許文献1に提案されている。この検査方法は、スポット溶接部分に磁力線を貫通させ、そのときに測定されるナゲット周縁での環状高インダクタンス部分の直径と、高インダクタンス部分とナゲット中央部における低インダクタンス部分とのインダクタンス高低落差の2つの変数を用いてナゲットの直径を推定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−165911号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案された方法では、スポット溶接部に磁力線を貫通させる装置や、インダクタンスを測定する装置といった精密な構造の装置が多く必要となるため、検査装置のコストが高くなる。また、検査装置が大型になるうえに、精密な構造の装置では衝撃を与えないようにする必要があるため、容易に持ち運ぶことができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、スポット溶接部の非破壊検査を低コストで行うことができ、また、持ち運びが容易なスポット溶接検査装置およびスポット溶接検査方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のスポット溶接検査装置の特徴は、スポット溶接により2つの金属板間に形成されたナゲットを検査するスポット溶接検査装置において、コンデンサと、前記コンデンサを充電する充電手段と、前記充電されたコンデンサと前記2つの金属板とを導通させて、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電手段と、前記ナゲットに電流が流れ始める瞬間に前記ナゲットに発生する誘導起電力を測定する誘導起電力測定手段とを備えたことにある。
【0008】
本発明のスポット溶接検査装置においては、スポット溶接により2つの金属板間に形成された略円形のナゲットの径を推定することができる。発明者は、2つの金属板を介してナゲットに電流を流したとき、電流の流れ始めとなる瞬間にナゲットに誘導起電力が発生することを発見した。そして、この誘導起電力は、ナゲットの径と相関関係を有し、ナゲットの径が大きいほど小さく、ナゲットの径が小さいほど大きくなることもわかった。従って、スポット溶接部を破壊しなくても、この誘導起電力を測定することにより、ナゲットの径を推定する事ができる。
【0009】
ナゲットに発生する誘導起電力は、ナゲットに電流が流れ始める瞬時にのみ発生し、ナゲットに流れる電流が大きいほど大きくなる。そこで、本発明においては、充電手段によりコンデンサを充電しておき、充電後に、通電手段が、コンデンサと2つの金属板とを導通させて、コンデンサからの放電(コンデンサに蓄積した電荷の放出)によりナゲットに電流を流す。従って、瞬時的に大電流を流すことができるため、スポット溶接部の発熱を抑えるとともにナゲットに大きな誘導起電力を発生させることができる。
【0010】
誘導起電力測定手段は、ナゲットに電流が流れ始める瞬間にナゲットに発生する誘導起電力を測定する。誘導起電力とナゲットの径とは相関関係を有するため、この誘導起電力の測定値からナゲットの径を推定でき、スポット溶接部の良否を判定することができる。例えば、ナゲットの径が基準値以上であれば合格、基準値より小さければ不合格と判定する場合、この基準値に対応する誘導起電力の値(電圧値)を実験等により求めて判定電圧として予め設定しておくことにより、測定した誘導起電力が判定電圧以下であれば合格、判定電圧を超えていれば不合格と判定することができる。また、判定用の基準値を設けずに、単に、誘導起電力の大きさからナゲットの径(直径または半径)を測定するものであってもよい。
【0011】
従って、本発明によれば、簡易な構成にてスポット溶接部の非破壊検査を行うことができる。このため、低コスト化を実現できる。また、精密な装置を必要としなく、しかも、装置が大型化しないため、持ち運びが容易となる。これにより、検査現場での使い勝手が良くなる。
【0012】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記通電手段は、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電路にコイルを直列に備えたことにある。
【0013】
ナゲットに発生する誘導起電力は、ナゲットに流れる電流の立ち上がりに依存し、電流が瞬時に立ち上がる場合には、発生期間が非常に短い。そこで、本発明においては、ナゲットに電流を流す通電路(コンデンサの放電路)にコイルを直列に接続しておくことで、ナゲットに流れる電流の立ち上がりを緩くする(電流の上昇勾配を緩くする)。これにより、誘導起電力の発生期間が確保され、誘導起電力の測定が容易となる。
【0014】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧を測定することにある。
【0015】
ナゲットに発生する誘導起電力は、電流の流れ始める瞬間にのみ発生し、すぐに消失する。そこで、本発明においては、誘導起電力の最大電圧を測定することで、測定を容易にする。特に、通電路にコイルを直列に接続した場合においては、誘導起電力の最大電圧を測定すると、その測定値がナゲットの径と安定した比例関係になるため、精度良くスポット溶接検査を行うことができる。
【0016】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記ナゲットに流れる電流を測定する電流測定手段を備えたことにある。
【0017】
ナゲットに発生する誘導起電力は、ナゲットに流れる電流の大きさにも依存する。従って、色々な大きさや形状のものを検査対象とした場合には、ナゲットに流れる電流値が変わってしまう可能性がある。このような通電条件が変化した場合には、ナゲットに発生する誘導起電力の大きさも変化する。そこで、本発明においては、ナゲットに流れる電流を測定する電流測定手段を備えることで、誘導起電力とナゲットの径の対応関係を合わせることができる。例えば、予め設定した検査時における通電条件(電流値条件)と、検査時に流した実際の通電(電流値)とが相違する場合には、検査判定用の閾値となる誘導起電力の判定電圧を、測定した電流値に合わせて補正するようにすることでスポット溶接の判定レベルを一定に維持することができる。あるいは、測定した電流値が予め設定した電流値となるように通電手段の出力を調整するようにしてもよい。この結果、スポット溶接検査を精度良く行うことができる。
【0018】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記電流測定手段は、前記ナゲットに流れる最大電流を測定することにある。
【0019】
コンデンサからの放電によりナゲットに瞬時的に通電する場合、その電流値が大きく変化する。そこで、本発明においては、ナゲットに流れる最大電流を測定することにより、検査時における通電条件と実際の通電との相違を確認することが容易となる。
【0020】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記充電手段は、前記コンデンサの充電電圧を変更できる電圧可変電源装置を備えていることにある。
【0021】
本発明においては、コンデンサの充電電圧を変更できる電圧可変電源装置を備えることで、コンデンサからの放電によりナゲットに流す電流値を調整することができる。例えば、ナゲットに流れる電流を電流測定手段により測定し、測定した電流値が予め設定した検査時における通電条件(電流値条件)となるように電圧可変電源装置の出力電圧を調整してコンデンサの充電電圧を変更すれば、検査時における通電条件を満足させることができる。この結果、通電条件を一定にしてスポット溶接部の検査を行うことができるため、検査の信頼性が高くなる。
【0022】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記通電手段は、前記ナゲットが形成された位置から離れた位置にて前記2つの金属板にそれぞれ通電用プローブが取り付けられた状態で前記通電用プローブ間に前記コンデンサの放電電流を流し、前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットが形成された位置における前記2つの金属板の外側面にそれぞれ測定用プローブが取り付けられた状態で前記測定用プローブ間の電圧を測定することにある。
【0023】
本発明においては、誘導起電力測定手段が、ナゲットが形成された位置における2つの金属板の外側面にそれぞれ測定用プローブが取り付けられた状態で、測定用プローブ間の電圧を測定することで、誘導起電力を良好に測定することができる。また、通電手段が、ナゲットが形成された位置から離れた位置にて2つの金属板にそれぞれ通電用プローブが取り付けられた状態で、通電用プローブ間にコンデンサの放電電流を流すため、誘導起電力の測定に通電用プローブからのノイズが乗るなどの不具合を生じない。
【0024】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットに発生する誘導起電力をデジタル信号に変換し電圧波形を作成して表示する波形表示装置を備えたことにある。
【0025】
本発明においては、波形表示装置により、誘導起電力をデジタル値に変換し電圧波形を作成して表示することで、検査者は、表示波形を見てスポット溶接の検査を行うことができる。例えば、波形表示装置としてデジタルオシロスコープを使用するとよい。この場合、既存のデジタルオシロスコープを接続して使用することができるため、スポット溶接検査装置の低コスト化を図ることができる。また、波形表示装置を別に持ち運びするようにすれば、スポット溶接検査装置の持ち運びが容易となる。
【0026】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧を保持するピークホールド回路と、前記ピークホールド回路が出力する電圧を測定する電圧測定手段とを備えたことにある。
【0027】
本発明においては、ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧をピークホールド回路により保持し、保持された電圧を電圧測定手段により測定する。従って、瞬間的に発生する誘導起電力を容易に測定することができる。また、スポット溶接検査装置の低コスト化を図ることができるとともに、精密な装置を必要としなく、しかも、装置が大型化しないため、持ち運びが容易となる。
【0028】
また、本発明のスポット溶接検査装置の他の特徴は、前記電流測定手段は、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電路に直列に設けた標準抵抗と、前記標準抵抗の最大電圧を保持するピークホールド回路と、前記ピークホールド回路が出力する電圧を測定する電圧測定手段とを備えたことにある。
【0029】
本発明においては、コンデンサからナゲットへの通電路に電流測定用の標準抵抗を備えており、コンデンサからの放電により発生した標準抵抗の最大電圧をピークホールド回路で保持し、保持された電圧を電圧測定手段により測定する。ピークホールド回路で保持された最大電圧は、ナゲットに流れる最大電流に対応したものとなる。従って、ナゲットに流れる電流を容易に測定することができる。
【0030】
更に、本発明の実施にあたっては、スポット溶接検査装置の発明に限定されることなく、スポット溶接検査方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成図である。
【図2】ピークホールド回路の構成図である。
【図3】スポット溶接部におけるプローブの取り付け位置を表す説明図である。
【図4】ナゲットに電流が流れるときの電気力線を表す説明図である。
【図5】ナゲットに流れる電流とナゲットに発生する誘導起電力の推移を共通の時間軸にて表したグラフである。
【図6】コイルを設けない場合のナゲットに流れる電流の推移を表すグラフである。
【図7】誘導起電力とナゲットの径との関係を表すグラフである。
【図8】第1変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成図である。
【図9】第2変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成図である。
【図10】第3変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成図である。
【図11】第4変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、実施形態に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成を表す。
【0033】
スポット溶接検査装置10は、図3に示すように、2枚の金属板M1,M2をスポット溶接したときに金属板M1,M2のあいだに形成された円柱状のナゲットNの径φを非破壊で推定できるようにしたものである。以下、金属板M1,M2にナゲットNが形成された部位を検査対象部Aと呼ぶ。
【0034】
スポット溶接検査装置10は、図1に示すように、検査対象部Aの金属板M1,M2に通電用プローブP1,P2を接続して、検査対象部Aに電流を流す放電回路20を備えている。この放電回路20は、コイル21と、検査対象部Aに電荷を放出して電流を流すコンデンサ22と、コンデンサ22の放電路を開閉するための放電路スイッチ23とを検査対象部Aに直列に接続して構成される。コンデンサ22の両極には、充電回路30が接続されている。充電回路30は、コンデンサ22を充電するための充電用電源31と、コンデンサ22の充電路を開閉する充電路スイッチ32とから構成される。放電路スイッチ23および充電路スイッチ32は、信号を入力している間のみ接点を閉じるノーマルオープンスイッチである。
【0035】
スポット溶接検査装置10は、主電源40と、主電源40の電源供給路を開閉する操作スイッチ41とを備えている。操作スイッチ41は、スポット溶接検査の開始および終了を指示する操作部として機能する。放電路スイッチ23は、その信号端子が遅延回路51、操作スイッチ41を介して主電源40に接続されている。遅延回路51は、操作スイッチ41がオン操作されてから設定時間経過したときに信号を出力するよう構成されている。
【0036】
また、充電路スイッチ32は、その信号端子の一方が充電終了用スイッチ42を介して主電源40の正極に接続され、信号端子の他方が操作スイッチ41を介して主電源40の負極に接続される。充電終了用スイッチ42は、信号を入力している間のみ接点を開くノーマルクローズスイッチであり、その信号を遅延回路51から入力するように構成されている。従って、充電終了用スイッチ42は、操作スイッチ41がオン操作されたときにはオン状態を維持し、操作スイッチ41のオン操作から設定時間経過後にオフ状態に切り替わる。このため、充電路スイッチ32は、操作スイッチ41のオン操作と同時にオン状態となり、設定時間経過後にオフ状態に切り替わる。
【0037】
従って、検査者が操作スイッチ41をオン操作すると、充電路スイッチ32がオン状態となり充電用電源31の電圧がコンデンサ22に印加される。これにより、コンデンサ22の内部に電荷が蓄積される。つまり、コンデンサ22が充電される。そして、操作スイッチ41のオン操作から設定時間が経過すると、充電終了用スイッチ42がオフ状態となる。これにより、充電路スイッチ32がオフ状態に切り替わってコンデンサ22の充電が終了する。同時に、放電路スイッチ23がオン状態に切り替わる。従って、コンデンサ22に充電された電荷により放電回路20に電流が流れる。
【0038】
尚、遅延回路51は、充電用電源31によりコンデンサ22を充電する期間を設定するものであるため、その設定時間は、コンデンサ22の充電が完了するのに要する時間より長めに設定される。
【0039】
検査対象部Aには、ナゲットNで発生する誘導起電力の最大電圧を保持するピークホールド回路60が測定用プローブP3,P4を介して接続される。測定用プローブP3,P4は、図3に示すように、ナゲットNの中心軸線上となる位置で2枚の金属板M1,M2の外側面に取り付けられる。一方、通電用プローブP1,P2は、ナゲットNの中心軸線から離れた位置で金属板M1,M2の外側面に取り付けられる。この場合、通電用プローブP1,P2は、通電時に自身が発生する磁界が測定用プローブP3,P4に影響を及ぼしてノイズが発生しないように、測定用プローブP3,P4に対して所定の離隔が設定されている。
【0040】
ピークホールド回路60は、測定用プローブP3と測定用プローブP4との間の電圧vinを入力し、その最大電圧を保持する回路である。ピークホールド回路60は、図2に示すように、直列に接続される2つのオペアンプ61,62と、ダイオード63と、オペアンプ61の出力により充電されるコンデンサ64と、コンデンサ64の両極を短絡するための放電用スイッチ65とから構成される。放電用スイッチ65は、ノーマルクローズスイッチであり、遅延回路51の出力が開閉制御信号として入力される。従って、検査開始時においては、常に、コンデンサ64の蓄電量がゼロとなる状態に設定される。そして、操作スイッチ41がオン操作されたのち設定時間が経過すると、遅延回路51の出力信号により放電用スイッチ65がオフ状態に切り替わり、コンデンサ64がオペアンプ61の出力により充電可能状態となる。コンデンサ64は、入力電圧vinと同じ電圧になるまで充電される。コンデンサ64に蓄積された電荷はリーク電流等で漏れて徐々にコンデンサ64の両端電圧が低下するが、その電圧降下が誤差範囲以内に収まっている期間においては、入力電圧vinの最大値をコンデンサ64がホールドしているとみなすことができる。これにより、オペアンプ62の出力電圧voutは、入力電圧vinの最大値を示すことになる。
【0041】
ピークホールド回路60の出力端子は、電圧計70に接続される。電圧計70は、スポット溶接検査装置10に内蔵しても良いし、ピークホールド回路60の出力端子をスポット溶接検査装置10のケーシング(図示略)に露出して設け、出力端子にマルチメータのような電圧計の測定プローブを接続できるようにしてもよい。
【0042】
スポット溶接検査は、上述したように検査対象部Aに通電用プローブP1,P2と測定用プローブP3,P4とを接続してから、操作スイッチ41をオンにすることにより開始される。操作スイッチ41をオンにすると、遅延回路51により設定される時間のあいだコンデンサ22が充電用電源31により充電される(充電ステップ)。このとき、ピークホールド回路60のコンデンサ64は、放電用スイッチ65がオンしているため蓄電量がゼロにリセットされている。そして、操作スイッチ41のオンから設定時間が経過すると、コンデンサ22に蓄積された電荷が放電回路20に放出される。
【0043】
これにより通電用プローブP1,P2を介して検査対象部Aに電流が流れる(通電ステップ)。検査対象部Aにおいて、ナゲットNは電気力線が密になる部分となるため、放電回路20の電流の大きさが大きく変化すると、ナゲットNがインダクタとして作用して誘導起電力を発生する。この場合、検査対象部Aに電流が流れ始める瞬間(電流値が急激に増加する期間)において、ナゲットNに電流の向きとは逆向きの誘導起電力が発生する。
【0044】
この誘導起電力の大きさは、ナゲットNの径φに応じて変化する。つまり、ナゲットNの径φが小さい場合には、図4(a)に示すように電気力線が密となるため、図5(a)に示すように電流iの変化に対して大きな誘導起電力vが発生する。一方、ナゲットNの径φが大きい場合には、図4(b)に示すように電気力線の密度が低下するため、図5(b)に示すように電流iの変化に対して発生する誘導起電力vは小さくなる。従って、誘導起電力vの大きさとナゲットNの径φとは相関関係を有するため、誘導起電力vを測定することによりナゲットNの径φを推定することができる。
【0045】
誘導起電力が発生する期間は非常に短く、電流の立ち上がり期間内にほぼ終了する。そこで本実施形態においては、放電回路20内にコイル21を直列に接続することにより、図5(a),(b)に示すように、電流iの立ち上がりの傾斜を緩くして、ナゲットNに誘導起電力vが発生する期間をできるだけ長くして良好に電圧測定できるようにしている。尚、コイル21を設けない場合には、放電回路20に流れる電流iは、図6に示すように、立ち上がりが急激であるため、ナゲットNに誘導起電力が発生する期間が極めて短くなり、誘導起電力の電圧検出時間が不足するおそれがある。尚、図6中の式におけるEはコンデンサ22の充電電圧、Rは放電回路20内の抵抗値、Cはコンデンサ22の静電容量である。
【0046】
ナゲットNでの誘導起電力は、放電回路20に流れる電流が大きくなる方向に変化するときは電流の流れる方向とは反対向きに発生し、放電回路20に流れる電流が小さくなる方向に変化するときは電流の流れる方向と同じ向きに発生する。このため、図5に示すように、誘導起電力vの変化曲線は、放電回路20に流れる電流iがピークとなる手前でピークとなる。そして、この誘導起電力vの最大値である最大電圧vmaxは、ナゲットNの径φが小さいほど大きくなる。換言すれば、ナゲットNの径φが大きいほど小さくなる。
【0047】
ピークホールド回路60は、放電回路20に電流が流れると同時にコンデンサ64の両端が開放されるため、ナゲットNにて発生する誘導起電力vの最大電圧vmaxを保持する。従って、ピークホールド回路60の出力電圧vout(=vmax)を電圧計70にて測定することでナゲットの径φを推定できる(誘導起電力測定ステップ)。
【0048】
例えば、複数の種類の金属板のスポット溶接部を検査する場合には、スポット溶接する金属板の種類毎に、図7に示すように、ナゲットNの径φと誘導起電力vの最大電圧vmaxとの相関関係を予め実験等により求めておき、ナゲットNの径φが基準値φref以上となる合格範囲に対する誘導起電力vの最大電圧vmaxの適正範囲を定める。検査者は、ナゲットNの径φが基準値φrefとなるときの誘導起電力の最大電圧を判定電圧vrefとして定め、測定した誘導起電力の最大電圧vmaxが判定電圧vref以下であるときに合格、判定電圧vrefより大きいときに不合格と判定する。
【0049】
こうして、誘導起電力の最大電圧vmaxの測定によるスポット溶接検査が終了すると、検査者は、操作スイッチ41をオフにする。これにより、放電路スイッチ23がオフ状態となる。また、ピークホールド回路60の放電用スイッチ65がオン状態となり、コンデンサ64が放電して蓄電量がゼロにリセットされる。これにより、ピークホールド回路60の出力電圧voutはゼロボルトとなる。検査者は、次に検査する検査対象物がある場合には、その検査対象物に通電用プローブP1,P2と測定用プローブP3,P4とをセットして、操作スイッチ41をオン操作することにより、上述したスポット溶接検査を開始することができる。
【0050】
以上説明した実施形態のスポット溶接検査装置およびスポット溶接検査方法によれば、検査対象部Aに電流を流したときにナゲットNに発生する誘導起電力に基づいてナゲットNの径φを推定するため、非破壊にてスポット溶接検査を行うことができる。しかも、回路構成が簡単であるため、低コストにて実施することができる。また、精密な装置を必要としなく装置が大型化しないため持ち運びが容易となり、検査現場での使い勝手が良い。
【0051】
また、検査対象部Aへの通電は、コンデンサ22の放電を利用していることから、瞬時的に大電流を流して大きな誘導起電力を発生させることができるため、検査(電圧測定)が容易であり検査精度も高くなる。しかも、検査時の電力量としては少ないため検査対象部Aを過熱損傷するようなこともない。また、充電用電源31を大容量化する必要もない。
【0052】
また、誘導起電力は、ナゲットNに電流が流れ始める瞬間において発生しすぐに消失してしまうが、放電回路20にコイル21を直列に設けてナゲットNに流れる電流の立ち上がりを緩くしたため、誘導起電力の発生期間を十分に確保できる。そして、ピークホールド回路60で保持した誘導起電力の最大電圧vmaxを測定するようにしているため、誘導起電力の測定が容易となり、測定精度も高い。また、ピークホールド回路60と電圧計70とを用いて誘導起電力を測定する構成を採用しているため、低コストにて実施することができる。
【0053】
また、測定用プローブP3,P4を、ナゲットNの中心軸線上となる位置で金属板M1,M2の外側面に取り付けるようにしているため、ナゲットNに発生する誘導起電力を良好に測定できる。また、通電用プローブP1,P2を、ナゲットNの中心軸線から所定距離だけ離れた位置で金属板M1,M2の外側面に取り付けるようにしているため、通電用プローブP1,P2の周囲に発生する磁界の影響がノイズとして測定結果に表れない。
【0054】
また、操作スイッチ41の1回の操作だけで、コンデンサ22の充電と放電、および、ピークホールド回路60のリセットといった処理を一連のシーケンスにより実行するため、効率よくスポット溶接検査を行うことができる。
【0055】
<第1変形例>
次に、上述した実施形態の第1変形例について説明する。図8は、第1変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成を表す。このスポット溶接検査装置11は、実施形態のスポット溶接検査装置10の放電回路20に標準抵抗としてシャント抵抗90を直列に設けたもので、他の構成は実施形態と同一である。
【0056】
ナゲットNに発生する誘導起電力の大きさは、ナゲットNに流れる電流(放電回路20に流れる電流)の大きさに依存して変化する。従って、図7に示したナゲットNの径φと誘導起電力vの最大電圧vmaxとの相関関係は、ナゲットNに流れる電流iが予め定めた基準電流値となることを前提としている。このため、検査対象部Aへの通電が予め設定した通電条件と同一となる場合には問題ないが、そうでない場合には、図7に示すナゲットNの径φと誘導起電力vの最大電圧vmaxとの相関関係がずれる。そこで、第1変形例においては、スポット溶接検査を行う前に、スポット溶接検査と同じ条件で試し通電することで、検査対象部Aへの通電が予め設定した通電条件と同じかどうかを確認できる構成となっている。
【0057】
放電回路20に設けたシャント抵抗90は、抵抗値が既知(低抵抗)である電流検出用の標準抵抗である。放電回路20に流れる電流iは、シャント抵抗90の両端電圧を検出することにより測定することができる。また、この電流iは、図5に示すように大きく変化する。そこで、この変形例においては、検査対象部Aに流す最大電流imaxを通電条件として設定し、実際に流れた最大電流imaxが、予め設定した通電条件となる設定最大電流imaxrefと同程度かどうかを確認できるようにしている。
【0058】
本変形例においては、ピークホールド回路60を利用してシャント抵抗90に発生した電圧の最大値を保持し、ピークホールド回路60の出力電圧を電圧計70で測定することにより、ナゲットNに流れた最大電流imaxを検出する。この電流測定は、スポット溶接検査の前に1回行っておけば、同じ形状および大きさの金属板のスポット溶接の検査に対しては、それ以降行う必要はないが、検査の度に毎回行うようにしてもよい。
【0059】
検査者は、電流測定を行うにあたって、図8に破線で示すように、測定用プローブP3,P4をシャント抵抗90の両端に接続する。また、通電用プローブP1,P2をスポット溶接検査時と同じ位置(ナゲットNの中心軸から所定距離離れた金属板M1,M2の外側面)に取り付ける。そして、操作スイッチ41をオン操作する。これにより、コンデンサ22への充電が開始され、充電開始から設定時間が経過すると、充電路スイッチ32がオフ状態に、放電路スイッチ23がオン状態に切り替わり、コンデンサ22に充電された電荷が放電回路20に流れる。従って、ナゲットNには、スポット溶接検査時と同じ条件で電流が流れる。同時に、ピークホールド回路60の放電用スイッチ65がオフして、ピークホールド回路60がシャント抵抗90の両端における最大電圧を保持するようになる。
【0060】
検査者は、ピークホールド回路60が出力する電圧を電圧計70により測定することで、シャント抵抗90に流れた最大電流imax、つまり、ナゲットNに流れた最大電流imaxを検出することができる(電流測定ステップ)。検出した最大電流imaxが設定最大電流imaxrefと同程度であれば、図7に示すナゲットNの径φと誘導起電力vの最大電圧vmaxとの相関関係をそのまま利用することができる。
【0061】
一方、最大電流imaxが設定最大電流imaxrefと相違する場合には、その後行うスポット溶接検査における判定電圧vrefを補正する必要がある。例えば、測定した最大電流imaxが設定最大電流imaxrefに比べて小さい場合には、ナゲットNに発生する誘導起電力も小さくなるので、それに応じて判定電圧vrefを小さくする補正をする。この場合、種々の最大電流imaxをナゲットNに流したときの、ナゲットNの径φと誘導起電力vの最大電圧vmaxとの相関関係を実験等により求めておくことで、実際に検出された最大電流imaxに対応するナゲットNの径φと誘導起電力vの最大電圧vmaxとの相関関係を使って、ナゲットNの径の基準値φrefに対応する判定電圧vrefを設定することができる。また、例えば、測定した最大電流imaxと設定最大電流imaxrefとの比(imax/imaxref)に応じた補正係数αを決めておき、オリジナルの判定電圧vrefに補正係数αを乗じることにより、補正した判定電圧vrefを求めるようにしてもよい。
【0062】
検査者は、電流測定が終了すると、操作スイッチ41をオフ状態にする。そして、測定用プローブP3,P4をシャント抵抗90から外し、図3に示すように、ナゲットNの中心軸線上の金属板M1,M2の外側面に取り付ける。その後、上述した実施形態と同様なスポット溶接検査を開始する。この場合、検査者は、ナゲットNに発生する誘導起電力の最大電圧vmaxと比較する判定電圧vrefとして、検査開始前に実際に測定した最大電流imaxに応じた値を用いる。
【0063】
以上説明した第1変形例によれば、放電回路20にシャント抵抗90を直列に設けて、ナゲットNに流れる最大電流imaxを測定することにより、検査対象部Aへの通電が予め設定した通電条件と同じかどうかを確認できる。そして、検査対象部Aへの通電が通電条件と相違している場合には、最大電流imaxに基づいて、ナゲットNの径の基準値φrefに対応する判定電圧vrefを適正値に補正することができる。このため、スポット溶接の良否を一層適正に判定することができる。また、最大電流の測定は、測定用プローブP3,P4の取付位置が異なるだけで、スポット溶接検査と同じ操作方法で行うことができるため、わかりやすく簡単である。また、スポット溶接検査に用いるピークホールド回路60,電圧計70を兼用して最大電流を測定できるため、装置のコストアップや大型化を招かない。
【0064】
<第2変形例>
次に、第2変形例について説明する。図9は、第2変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成を表す。このスポット溶接検査装置12は、第1変形例における充電用電源31に代えて電圧可変充電用電源33を備えたものであり、他の構成は第1変形例と同一である。
【0065】
第1変形例においては、スポット溶接検査の前に最大電流の測定を行って、必要に応じて判定電圧vrefを補正したが、この第2変形例においては、これに代えて、コンデンサ22の充電電圧を増減変更して、スポット溶接時における通電を設定通電条件に合わせることができるようにしたものである。
【0066】
充電回路30に設けた電圧可変充電用電源33は、検査者の操作によりその出力電圧を変更できる電源である。従って、電圧可変充電用電源33の出力電圧を調整することで、コンデンサ22の充電電圧が調整され、コンデンサ22からの放電電流、つまり、ナゲットNに流れる電流の大きさを調整することができる。
【0067】
検査者は、スポット溶接検査を行う前に、第1変形例と同様に、測定用プローブP3,P4をシャント抵抗90の両端に接続して操作スイッチ41をオン操作し、設定時間後にピークホールド回路60が出力する電圧を電圧計70により測定することでナゲットNに流れた最大電流imaxを検出する(電流検出ステップ)。そして、操作スイッチ41をオフ状態にする。この最大電流imaxが、予め設定した通電条件(設定最大電流imaxref)と同程度であれば、第1変形例と同様に、測定用プローブP3,P4の取付位置を変更してスポット溶接検査を実施する。
【0068】
一方、最大電流imaxが、予め設定した通電条件と同程度でない場合には、最大電流imaxが通電条件と同程度となるように電圧可変充電用電源33の出力電圧を調整する(充電電圧変更ステップ)。この場合、上記の試し通電を何回か行って通電条件を満足するように電圧可変充電用電源33の出力電圧を調整しても良いが、検出した最大電流imaxに対する設定最大電流imaxrefの比(imaxref/imax)と、電圧可変充電用電源33の出力電圧を補正する補正係数βとの関係を予め実験等により求めておき、この補正係数βを使って電圧可変充電用電源33の出力電圧を調整することが好ましい(調整出力電圧=現在出力電圧×β)。
【0069】
尚、必ずしも、電圧可変充電用電源33の出力電圧を設定最大電流imaxrefが得られるようにする必要はなく、通電量が小さすぎてナゲットNに十分な誘導起電力を発生させることができないようなケースにおいてのみ電圧可変充電用電源33の出力電圧を調整し、それ以外は、第1変形例のように判定電圧vrefを補正するようにしてもよい。また、電圧可変充電用電源33の出力電圧の調整と、判定電圧vrefの補正とを組み合わせるようにしても良い。
【0070】
検査者は、最大電流の測定、および、電圧可変充電用電源33の出力電圧の調整が終了すると、第1変形例と同様に、測定用プローブP3,P4をナゲットNの中心軸線上の金属板M1,M2の外側面に移し替えて上述したスポット溶接検査を実施する。
【0071】
以上説明した第2変形例によれば、第1変形例の作用効果を奏するだけでなく、放電回路20にシャント抵抗90を直列に設けて、ナゲットNに流れる最大電流imaxを測定し、検査対象部Aへの通電が通電条件と相違している場合には、電圧可変充電用電源33の出力電圧の調整によりコンデンサ22の充電電圧を変更できるため、スポット溶接検査時における通電を設定通電条件に合わせることができる。この結果、スポット溶接検査の信頼性が高くなる。
【0072】
<第3変形例>
次に、第3変形例について説明する。図10は、第3変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成を表す。このスポット溶接検査装置13は、第2変形例における電圧可変充電用電源33に代えて制御信号により出力電圧を可変できる電圧可変充電用電源34を備えるとともに、この電圧可変充電用電源34の出力電圧を調整する電源コントローラ100を設けたもので、他の構成は第2変形例と同一である。
【0073】
第2変形例においては、検査者が、手動で電圧可変充電用電源33の出力電圧を調整してコンデンサ22の充電電圧を増減変更したが、この第3変形例においては、スポット溶接検査の前に行った電流測定値に基づいて、自動で電圧可変充電用電源34の出力電圧を調整できるようにしたものである。
【0074】
電源コントローラ100は、シャント抵抗90の両端電圧信号、および、遅延回路51の出力信号を入力するとともに、電圧可変充電用電源34に対して電圧調整信号を出力できるように配線接続されている。電源コントローラ100は、シャント抵抗90の両端の最大電圧を保持するピークホールド回路(図示しないが、ピークホールド回路60に相当するもの)を内蔵しており、遅延回路51から信号が出力されたときにピークホールド回路が作動し、ピークホールド回路に保持された最大電圧からシャント抵抗90に流れる最大電流imaxを検出する。
【0075】
電源コントローラ100は、例えば、マイコンを備え、予めスポット溶接検査時の通電条件である設定最大電流imaxref、および、検出した最大電流imaxに対する設定最大電流imaxrefの比と電圧可変充電用電源33の出力電圧を補正する補正係数βとの対応関係をマイコンに記憶している。この補正係数βは、最大電流imaxが予め設定した通電条件と同程度となるように電圧可変充電用電源34の出力電圧を調整する係数であり、実験等により求められている。電源コントローラ100は、最大電流imaxを検出したときに、最大電流imaxに対する設定最大電流imaxrefの比を算出し、この比に対応する補正係数βを求める。そして、電圧可変充電用電源34の出力電圧の目標値を(現在出力電圧×β)として計算し、この目標値に応じた信号を電圧可変充電用電源34に出力する。こうした動作は、マイコンに記憶した制御プログラムの実行により実施される。
【0076】
検査者は、スポット溶接検査を行うに先だって、電圧可変充電用電源34の出力電圧の自動調整を行う。この場合、上述した実施形態と同様の位置に通電用プローブP1,P2と測定用プローブP3,P4とを取り付けておく。また、電源コントローラ100の電源スイッチ(図示略)をオン状態にしておく。そして、操作スイッチ41をオン操作する。これにより、コンデンサ22への充電が開始され、充電開始から設定時間が経過すると、コンデンサ22に充電された電荷が放電回路20に流れる。同時に、電源コントローラ100が作動して、シャント抵抗90の両端における最大電圧に基づいてナゲットNに流れた最大電流imaxを検出し、最大電流imaxが設定最大電流imaxrefと相違する場合には、電源コントローラ100から電圧可変充電用電源34に制御信号が出力され電圧可変充電用電源34の出力電圧が調整される(充電電圧変更ステップ)。こうして電圧可変充電用電源34の出力電圧の自動調整が終了すると、検査者は、操作スイッチ41および電源コントローラ100の電源スイッチをオフ状態に切り替える。
【0077】
検査者は、次いで、操作スイッチ41を再度オン操作して、スポット溶接検査を実施する。このスポット溶接検査は、実施形態と同様である。この場合、ナゲットNへの通電が予め設定した通電条件となっているため、スポット溶接の合否を判定する判定電圧vrefとしては、予め定めたオリジナルの判定電圧vrefをそのまま使えばよく補正する必要がない。従って、金属板M1,M2の材質が1種類に限定されている場合であれば(即ち、判定電圧vrefが1つに限定されていれば)、例えば、ピークホールド回路60の出力電圧voutと判定電圧vrefとを比較するコンパレータをピークホールド回路60の出力端子に接続して、コンパレータの比較結果信号をスポット溶接検査結果信号として出力するようにしてもよい。
【0078】
以上説明した第3変形例によれば、第2変形例の作用効果を奏するだけでなく、操作スイッチ41の操作だけで電圧可変充電用電源34の出力電圧を自動調整してナゲットNへの通電を設定通電条件と同一にすることができる。このため、スポット溶接検査の信頼性が一層高くなる。
【0079】
<第4変形例>
次に、第4変形例について説明する。図11は、第4変形例に係るスポット溶接検査装置の概略回路構成を表す。このスポット溶接検査装置14は、実施形態のスポット溶接検査装置10のピークホールド回路60、電圧計70に代えて、デジタルオシロスコープ110を接続してスポット溶接検査を行うもので、他の構成については実施形態と同一である。
【0080】
このスポット溶接検査装置14は、デジタルオシロスコープ110を内蔵していなく、別体のデジタルオシロスコープ110を組み合わせて構成されるものである。スポット溶接検査時において、検査者は、デジタルオシロスコープ110の測定用プローブP5,P6をナゲットNの中心軸線上となる位置で金属板M1,M2の外側面に取り付けてから、実施形態と同様に、操作スイッチ41をオン操作する。これにより、コンデンサ22が充電され、設定時間後にコンデンサ22に蓄積された電荷が放電回路20に放出されてナゲットNに瞬間的に大電流が流れるとともに、電流が流れ始める瞬間において、ナゲットNに電流の向きとは逆向きの誘導起電力が発生する。デジタルオシロスコープ110は、測定用プローブP5,P6間において変化する電圧(ナゲットNに発生する誘導起電力に相当する)を所定のサンプリング周期でデジタル値に変換して記憶し電圧波形をディスプレイに表示する。
【0081】
検査者は、デジタルオシロスコープ110に表示された電圧波形を見ながら、最大電圧vmaxを読み取り、最大電圧vmaxと判定電圧vrefとを比較して検査対象部Aの合否を判定する。
【0082】
以上説明した第4変形例によれば、最大電圧のホールド機能、電圧測定機能をデジタルオシロスコープ110に持たせているため、スポット溶接検査装置14を軽量、コンパクト、低コストにて製造することができる。また、既存のデジタルオシロスコープ110を使用することで、非常に低コストにてスポット溶接検査を行うことができる。しかも、スポット溶接検査装置14とデジタルオシロスコープ110とを別々に持ち運ぶことができるため、持ち運びが容易となり検査現場での使い勝手が良い。
【0083】

尚、ピークホールド回路60、電圧計70に代えて、デジタルオシロスコープ110を接続してスポット溶接検査を行う構成は、上述した第1〜第3変形例においても実施できるものである。また、必ずしも、別体のデジタルオシロスコープ110を組み合わせる必要はなく、デジタルオシロスコープ110をスポット溶接検査装置に内蔵するものであってもよい。
【0084】
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0085】
例えば、上記実施形態および変形例においては、操作スイッチ41の1回のオン操作だけで、ナゲットNに誘導起電力を発生させ、その最大電圧を測定できるようにしたが、作業性を重視しなければ、コンデンサ22の充電用のスイッチ、コンデンサ22の放電用のスイッチ、ピークホールド回路60のコンデンサ64を放電させるスイッチをそれぞれ設け、検査者がスイッチを一つ一つオン/オフ操作するようにしてもよい。
【0086】
また、操作スイッチ41を所定の周期でオン/オフさせて、誘導起電力の最大電圧vmaxを複数回測定して平均値を求めるようにしてもよい。この場合、誘導起電力の測定にデジタルオシロスコープ110を用いれば、操作スイッチ41のオン/オフ切替を早い周期で行うことができる。また、操作スイッチ41に代えて、制御信号によりオン/オフ状態が切り替わるノーマルオープンスイッチを設け、パルス信号供給装置からこのスイッチに所定周期のパルス信号を供給してオン/オフさせれば、パルス信号供給装置の作動スイッチをオン操作するのみで、誘導起電力の最大電圧vmaxを複数回連続して測定することができる。
【0087】
また、上記実施形態および変形例においては、ナゲットNに発生する誘導起電力の最大電圧vmaxを測定して、この最大電圧vmaxに基づいてナゲットNの径φを推定しているが、最大電圧vmaxの測定に代えて、例えば、コンデンサ22の放電開始から設定時間後の誘導起電力の大きさ(電圧値)を測定して、この測定値からナゲットNの径φを推定する構成であってもよい。また、誘導起電力を積分する積分回路を設けて、コンデンサ22の放電開始から設定時間経過するまでの誘導起電力の積分値を測定し、この測定値からナゲットNの径φを推定する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0088】
10,11,12、13,14…スポット溶接検査装置、20…放電回路、21…コイル、22…コンデンサ、23…放電路スイッチ、30…充電回路、31…充電用電源、32…充電路スイッチ、33,34…電圧可変充電用電源、40…主電源、41…操作スイッチ、42…充電終了用スイッチ、51…遅延回路、60…ピークホールド回路、64…コンデンサ、65…放電用スイッチ、70…電圧計、90…シャント抵抗、100…電源コントローラ、110…デジタルオシロスコープ、A…検査対象部、N…ナゲット、M1,M2…金属板、P1,P2…通電用プローブ、P3,P4,P5,P6…測定用プローブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接により2つの金属板間に形成されたナゲットを検査するスポット溶接検査装置において、
コンデンサと、
前記コンデンサを充電する充電手段と、
前記充電されたコンデンサと前記2つの金属板とを導通させて、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電手段と、
前記ナゲットに電流が流れ始める瞬間に前記ナゲットに発生する誘導起電力を測定する誘導起電力測定手段と
を備えたことを特徴とするスポット溶接検査装置。
【請求項2】
前記通電手段は、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電路にコイルを直列に備えたことを特徴とする請求項1記載のスポット溶接検査装置。
【請求項3】
前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧を測定することを特徴とする請求項1または2記載のスポット溶接検査装置。
【請求項4】
前記ナゲットに流れる電流を測定する電流測定手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項記載のスポット溶接検査装置。
【請求項5】
前記電流測定手段は、前記ナゲットに流れる最大電流を測定することを特徴とする請求項4記載のスポット溶接検査装置。
【請求項6】
前記充電手段は、前記コンデンサの充電電圧を変更できる電圧可変電源装置を備えていることを特徴とする請求項4または5記載のスポット溶接検査装置。
【請求項7】
前記通電手段は、前記ナゲットが形成された位置から離れた位置にて前記2つの金属板にそれぞれ通電用プローブが取り付けられた状態で、前記通電用プローブ間に前記コンデンサの放電電流を流し、
前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットが形成された位置における前記2つの金属板の外側面にそれぞれ測定用プローブが取り付けられた状態で、前記測定用プローブ間の電圧を測定することを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れか一項記載のスポット溶接検査装置。
【請求項8】
前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットに発生する誘導起電力をデジタル信号に変換し電圧波形を作成して表示する波形表示装置を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項7の何れか一項記載のスポット溶接検査装置。
【請求項9】
前記誘導起電力測定手段は、前記ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧を保持するピークホールド回路と、前記ピークホールド回路が出力する電圧を測定する電圧測定手段とを備えたことを特徴とする請求項3ないし請求項7の何れか一項記載のスポット溶接検査装置。
【請求項10】
前記電流測定手段は、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電路に直列に設けた標準抵抗と、前記標準抵抗の最大電圧を保持するピークホールド回路と、前記ピークホールド回路が出力する電圧を測定する電圧測定手段とを備えたことを特徴とする請求項5ないし請求項7の何れか一項記載のスポット溶接検査装置。
【請求項11】
スポット溶接により2つの金属板間に形成されたナゲットを検査するスポット溶接検査方法において、
コンデンサを充電する充電ステップと、
前記充電されたコンデンサと前記2つの金属板とを導通させて、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電ステップと、
前記ナゲットに電流が流れ始める瞬間に前記ナゲットに発生する誘導起電力を測定する誘導起電力測定ステップと
を含むことを特徴とするスポット溶接検査方法。
【請求項12】
前記通電ステップは、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電路にコイルを直列に接続して、前記充電されたコンデンサと前記2つの金属板とを導通させることを特徴とする請求項11記載のスポット溶接検査方法。
【請求項13】
前記誘導起電力測定ステップは、前記ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧を測定することを特徴とする請求項11または12記載のスポット溶接検査方法。
【請求項14】
前記ナゲットに流れる電流を測定する電流測定ステップを含むことを特徴とする請求項11ないし請求項13の何れか一項記載のスポット溶接検査方法。
【請求項15】
前記電流測定ステップは、前記ナゲットに流れる最大電流を測定することを特徴とする請求項14記載のスポット溶接検査方法。
【請求項16】
前記電流測定ステップにより測定した電流に基づいて、前記コンデンサの充電電圧を変更する充電電圧変更ステップを含むことを特徴とする請求項14または15記載のスポット溶接方法。
【請求項17】
前記通電ステップは、前記ナゲットが形成された位置から離れた位置で前記2つの金属板にそれぞれ通電用プローブを取り付けて、前記通電用プローブ間に前記コンデンサの放電電流を流し、
前記誘導起電力測定ステップは、前記ナゲットが形成された位置における前記2つの金属板の外側面にそれぞれ測定用プローブを取り付けて、前記測定用プローブ間の電圧を測定することを特徴とする請求項11ないし請求項16の何れか一項記載のスポット溶接検査方法。
【請求項18】
前記誘導起電力測定ステップは、前記ナゲットに発生する誘導起電力をデジタル信号に変換し電圧波形を作成して表示する波形表示装置を用いて誘導起電力を測定することを特徴とする請求項11ないし請求項17の何れか一項記載のスポット溶接検査方法。
【請求項19】
前記誘導起電力測定ステップは、ピークホールド回路を用いて前記ナゲットに発生する誘導起電力の最大電圧を保持させ、電圧計を用いて前記ピークホールド回路が出力する電圧を測定することを特徴とする請求項13ないし請求項17の何れか一項記載のスポット溶接検査方法。
【請求項20】
前記電流測定ステップは、前記コンデンサからの放電により前記ナゲットに電流を流す通電路に直列に設けた標準抵抗の最大電圧をピークホールド回路を用いて保持させ、電圧計を用いて前記ピークホールド回路が出力する電圧を測定すること特徴とする請求項15ないし請求項17の何れか一項記載のスポット溶接検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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