説明

スポンジチタン製造方法

【課題】 クロール法によるスポンジチタンの製造方法において、還元操業途中にチャージされる溶融Mgの利用率を高めて生産性(チタン収率)を高める。溶融Mgのチャージによる品質低下を抑制する。
【解決手段】 クロール法により還元反応容器10内でスポンジチタンを製造する際に、還元反応途中にTiCl4 供給用の滴下パイプ14からのTiCl4 の供給を一次停止し、その停止中に還元反応容器10の上部蓋10Bを貫通して挿入されるMg追加投入用の補助パイプ18により、還元反応容器10の上方から容器内に溶融Mgの追加投入を行う。滴下パイプ14からのTiCl4 の供給を停止しているときに滴下パイプ14に不溶性ガスを流通させて詰まりを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロール法によるスポンジチタン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタンの工業的な製造方法として、クロール法により製造されたスポンジチタンを溶解する方法が多用されている。クロール法によるスポンジチタンの製造方法を図5を参照して説明する。この方法では、まず還元反応容器10内に予め溶融Mgを充填しておく。この状態で、反応容器10の上部蓋中心部から容器内に挿入された滴下パイプ14から、液状のTiCl4 を滴下供給する。これにより、反応容器10内のロストル11上にスポンジチタンが生成される。生成されたスポンジチタンは、真空分離工程後、反応容器10から取り出される。
【0003】
溶融Mgによる還元反応中、反応容器10内では、反応の進行に伴ってスポンジチタン20が容器底部内のロストル11上に生成すると共に、MgCl2 が副生し、反応液面が上昇する。反応液面が上昇すると、反応容器上部に装着された上部蓋への熱影響が激しくなる。また、上部に存在するTiCl4 供給用の滴下パイプ14が閉塞し易くなる。これらのため、反応途中に何回もMgCl2 を反応容器10の底部から抜き取って反応液面を低下させる作業が繰り返される。
【0004】
反応容器10から副生MgCl2 を抜き取る操作は一般にタップと呼ばれている。タップ操作は、反応容器10の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプ12を通して行われる。1回のタップ量は基本的に一定であり、経験的に設定されている。
【0005】
また、MgCl2 のタップと並行して溶融Mgの追加投入を行うこともある。この追加投入はチャージと呼ばれる。チャージを行うのは、次のような理由による。還元反応開始時における溶融Mgの充填量(溶融Mgの初期チャージ量)を多くすると、反応液面が上部蓋に近づく時期が早くなり、また還元反応に使用される溶融Mgの絶対量が限られているため、溶融Mgの初期チャージ量を制限する必要性が生じる。その初期チャージ量は、反応容器10内の有効容積に対する比率で40%程度に制限される。しかし、初期チャージ量を制限したままだと、生産性(チタン収率)が低下する。そこで、初期チャージ量を制限した上で、スポンジチタンの生成と共に徐々に溶融Mgを補充するタップ操作が行われるのである。
【0006】
溶融Mgのチャージを行う場合、その時期はタップの直後が都合がよいとされている。チャージの頻度については、2回或いは3回のタップに1回の割合でチャージ操作が行われており、チャージ量も一定で、通常はタップ量と同程度に設定されている。また、そのチャージ操作は、反応容器の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプ12を通して行われる。タップ及びチャージの詳細は特許文献1に記載されているとおりである。
【0007】
このような溶融Mgによる還元反応を用いた従来のスポンジチタン製造方法では、主に溶融Mgのチャージ操作に関係して以下のような問題がある。
【0008】
溶融Mgのチャージ操作を繰り返して溶融Mg量を増やしても、有効な還元材料として利用される溶融Mg量は、全溶融Mg量の60%程度に制限される。これは、反応容器10の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプ12を通して、容器底部からチャージ操作を行うため、反応容器10内で既に還元精製されたスポンジチタン中に注入Mgがトラップされ、反応容器内に上方から滴下されるTiCl4 と有効に接触しないからと考えられる。更に、溶融状態のMgと副生物であるMgCl2 との比重差が小さいため、両者が完全に分離されておらず、タップ時にMgCl2 と共に溶融Mgを抜き取ってしまうという問題もある。
【0009】
これに加えて、チャージされる溶融Mgが、MgCl2 抜き取りパイプ12内、反応容器底部に配置されたロストル11内を通過すると共に、反応初期に不純物を多く含む溶融Mgにより還元生成された汚染度の高いスポンジチタン内(スポンジチタン塊の下部内)を通過するため、NiやFeにより溶融Mgが再汚染される危険性がある上に、TiCl4 による初期装填Mgの精製効果も得られない。これらのために、チャージにより収率を高めた場合は、高品質のスポンジチタンを製造することが困難となる。TiCl4 による初期Mg精製効果とは、還元反応容器10内に初期装填されている溶融Mgに対しては、TiCl4 が滴下されることにより生じたTiが初期装填Mg中のNiやFeをトラップし、初期装填Mgが精製される現象である(図4参照)。
【0010】
なお、反応容器10の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプ12を使わずに反応容器10の頂部から溶融Mgや固形Mgのチャージを行うことは以前により考えられているが、特許文献2に記載されているように、固形投入にあっては、インゴットの作製や水分含有及び不純物含有の問題により実用が不可能とされている。溶融Mgの投入にあっては、スポンジチタンの甚だしい異形(傘状)の生成の問題により、実用が不可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3701930号公報
【特許文献2】特公昭35−13656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、還元操業途中にチャージされる溶融Mgの利用率を高めて生産性(チタン収率)の向上を図り、なおかつチャージによる品質低下を抑制できる高品質で経済的なスポンジチタン製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者は還元操業途中にチャージされる溶融Mgの利用率が低い最大の原因が、反応容器の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプを利用した容器底部からのチャージにあるとの認識に立って、反応容器上部からのチャージを企画した。その結果、反応容器の上方からのチャージによると、前述した異形生成の問題、更には後述する容器内圧力の急上昇の問題を別にすれば、抜き取りパイプを利用した容器底部からのチャージによる問題が実質的に解決されることを見出した。
【0014】
すなわち、反応容器の上方からのチャージによると、第1に、反応容器内で既に還元精製されたスポンジチタン中に注入Mgがトラップされることがない。第2に、注入Mgが、MgCl2 抜き取りパイプ内、反応容器底部に配置されたロストル内を通過しない上に、反応初期に不純物を多く含む溶融Mgにより還元生成された汚染度の高いスポンジチタン内(スポンジチタン塊の下部内)を通過しないため、NiやFeによる注入Mgの再汚染の危険性もない。しかし、その一方で前述した異形生成の問題があり、更には最近の大型容器では反応容器上部からのチャージに伴って容器内圧力が急上昇し、安全上の問題もあることが判明した。
【0015】
すなわち、最近は生産性向上のために反応容器の大型化が進んでおり、反応容器の高さだけでなく内径も増大しており、その内径が1.4m以上の大型容器では反応液面積(溶融Mgの液面積)が大きいことから、反応容器上部からのチャージに伴う容器内圧力の急上昇が特に顕著となり、安全面で大きな問題となることが明らかになった。
【0016】
これらの観点に立って、本発明者は反応容器の上方から溶融Mgをチャージしたときに問題となる異形生成の現象、及び容器内圧力の急増を解消するために、様々な方面からアプローチを行った結果、反応容器の上方からの溶融Mgチャージを行うときにTiCl4 の滴下を停止しておくのが有効なことを知見した。反応容器の上方から溶融MgをチャージするときにTiCl4 の滴下を停止しておけば、異形生成の問題も容器内圧力急増の問題も生じない。これらの問題は、気相反応を含むTiCl4 との急激な反応が原因であるため、TiCl4 の滴下を停止しておけば両問題とも発生しないのである。
【0017】
本発明のスポンジチタン製造方法は、かかる知見を基礎として完成されたものであり、クロール法により還元反応容器内でスポンジチタンを製造する際に、還元反応途中にTiCl4 の供給を一次停止し、その停止中に還元反応容器の上方から容器内に溶融Mgの追加投入を行うことを技術上の特徴点としている。
【0018】
本発明のスポンジチタン製造方法においては、還元反応容器の上方から容器内に溶融Mgの追加投入を行うので、反応容器内で既に還元精製されたスポンジチタン中に注入Mgがトラップされることがない。また投入Mgが、MgCl2 抜き取りパイプ内、反応容器底部に配置されたロストル内を通過しない上に、反応初期に不純物を多く含む溶融Mgにより還元生成された汚染度の高いスポンジチタン内(スポンジチタン塊の下部内)を通過接触しないため、NiやFeによる注入Mgの再汚染の危険性もない。しかも、そのMg投入時にTiCl4 の供給が停止されているので、異形生成の問題も容器内圧力急増の問題も生じない。結果、高品質のスポンジチタンが高収率で製造することが可能となる。
【0019】
本発明のスポンジチタン製造方法は、還元反応容器内の反応面積が大きく、TiCl4 供給下で溶融Mgを上方からチャージしたときの容器内圧力の上昇が特に顕著な容器内径が1.4m以上の大型還元反応容器による操業に特に好適である。
【0020】
TiCl4 供給の停止タイミングと溶融Mgの追加投入タイミングとの関係については、TiCl4 供給の停止した後、TiCl4 の残存ガスとMg蒸気との反応が完全に終了した後から溶融Mgの追加投入を行うことがよく、このためにTiCl4 供給を停止してから1分以上、望ましくは5分以上の時間的間隔(静置時間)をあけて溶融Mgの追加投入を開始するのがよい。静置時間が短すぎると、溶融Mg投入時に反応容器の空間部に残存するTiCl4 ガス濃度が高いため、溶融Mgの投入により増加するMg蒸気と残存TiCl4 ガスとの反応が激しくなって炉内圧力上昇等の問題発生が危惧される。静置時間の上限については、圧力上昇等の問題を解決する観点からは長い方がよいが、長すぎても圧力上昇等の問題は飽和し、むしろ生産性の低下の方が大きな問題となる。この観点から300分以下が望ましく、100分以下がより望ましく、30分以下が特に望ましい。
【0021】
具体的な投入形態としては、還元反応容器の上部蓋を貫通するMg注入管から反応容器内の液面に向けて溶融Mgの追加投入を行うのがよい。そうすると反応容器の容器本体の構造変更する必要がない。上部蓋はTiCl4 供給用の滴下パイプだけでなく、圧抜き管なども備えており、圧抜き管などをMg注入管として利用することにより、上部蓋の構造変更も最小限に抑えることができる。
【0022】
反応容器内に初期装填されている溶融Mgは、前述したとおりTiCl4 の初期滴下に伴って生成したチタンにより溶融Mg中のNiやFeをトラップされ精製される。反応容器の上方から溶融Mgを追加投入する場合は、TiCl4 の注入が停止されているので、その投入MgについてはTiCl4 による精製効果を得ることができない。このため、追加投入する溶融Mgを、還元反応容器とは別の容器において事前にTiCl4 添加を行うことにより、高純度に精製してから使用するのがよい。反応容器の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプにより溶融Mgの追加投入を行う場合は、仮に事前に精製した溶融Mgを使用しても、容器底部内のロストルやスポンジチタン塊の汚染度が高い下部と接触することにより、反応に至るまでに汚染されることは前述したとおりである。追加投入Mgの事前精製は上方投入でのみ意味をもつ。
【0023】
反応容器の上部から溶融Mgを追加投入することに伴う重要現象の一つは、TiCl4 の供給を一次的に停止することによるTiCl4 供給用の滴下パイプの詰まりである。滴下パイプの詰まりは、気化したMgとTiCl4 が滴下パイプの先端で反応してしまうこと、及び液化したTiCl4 が通過する滴下パイプが比較的低温であることが原因であると考えられる。本発明のスポンジチタン製造方法を円滑に実施するためには、TiCl4 滴下停止中の滴下パイプの詰まりを防止するか、仮に詰まりが生じても再滴下に際してはその詰まりを取り除いておく必要がある。ちなみに、滴下再開のたびに滴下パイプを交換するのは合理的でなく、構造も複雑になり不経済である。
【0024】
このような事情のため、本発明のスポンジチタン製造方法においては、TiCl4 供給再開に際してTiCl4 供給用の滴下パイプを非閉塞状態にする閉塞防止機構が必要となる。閉塞防止機構としては、滴下パイプ内に挿入した掃除棒を滴下パイプ内で前後動させることにより、閉塞を機械的に取り除く機構とか、滴下停止状態中の滴下パイプに不溶性ガスを供給する機構が有効である。不溶性ガスの供給は連続的でも間欠的でもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のスポンジチタン製造方法は、クロール法により還元反応容器内でスポンジチタンを製造する際に、還元反応途中にTiCl4 の供給を一次停止し、その停止中に還元反応容器の上方から容器内に溶融Mgの追加投入を行うので、上方投入を行うにもかかわらず、異形生成や容器内圧力急増の問題を生じず、安定なスポンジチタン製造操業を可能とする。その上で、第1に、反応容器の底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプを通して溶融Mgの追加投入を行う場合に問題となるスポンジチタンによるトラップがなく、注入Mgの利用率が高いので生産性が高いという効果を奏する。第2に、注入Mgが、MgCl2 抜き取りパイプ内、反応容器底部に配置されたロストル内を通過しない上に、反応初期に不純物を多く含む溶融Mgにより還元生成された汚染度の高いスポンジチタン内(スポンジチタン塊の下部内)を通過接触しないため、NiやFeによる注入Mgの再汚染の危険性もなく、製品品質の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】クロール法によるスポンジチタン製造方法に使用される還元反応容器の縦断面図である。
【図2】同還元反応容器を使用したスポンジチタン製造方法のチャージ工程を示す容器縦断面図である。
【図3】(a)及び(b)は還元反応容器におけるTiCl4 供給用の滴下パイプの構造説明図である。
【図4】TiCl4 によるMg精製原理を示す模式図である。
【図5】クロール法による従来のスポンジチタン製造方法に使用される還元反応容器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態のスポンジチタン製造方法は、図1に示す還元反応容器10を使用してクロール法によりスポンジチタンを製造する。図1に示す還元反応容器10は、ステンレス鋼等からなり、温度制御のために図示されていない炉体内に収容されている。
【0028】
この反応容器10は、主要構成部材として容器本体10Aと、その上面開口部を閉じる上部蓋10Bとを備えている。容器本体10Aの下部には、スポンジチタンを保持するロストル11が内蔵されると共に、副生されるMgCl2 の抜き取りのために、容器本体10Aの底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプ12が接続されている。
【0029】
一方、上部蓋10Bの中心部には、真空分離過程で別の反応容器と接続するのに使用される垂直な連結管13と、TiCl4 を供給するめための滴下パイプ14を取付けるための傾斜した支持管15とが設けられている。これらの周囲には、反応容器10内の圧力を調整するための垂直な圧抜き孔ノズル16が設けられている。連結管13は操業に先立って還元反応容器10内を不溶性ガス雰囲気に置換するためのガス吸引、ガス注入管を兼ねている。圧抜き孔ノズル16は、溶融Mgの追加投入パイプを兼ねており、支持管15は溶融Mgの初期投入パイプ及び予備の圧抜き孔チューブを兼ねている。
【0030】
上部蓋10Bの下には、熱遮蔽板であるバッフル17が、前述した上部蓋10Bの各種管類と干渉しないように配置されている。一方、容器本体10Aの上端部には、還元反応容器10を炉体等に支持するためのフランジ状の支持部19が設けられている。
【0031】
滴下パイプ14は、図3に示すように、支持管15内に挿入される本管14aと、本管14aを支持管15内の中心部に固定するために本管14aの基部に取付けられたフランジ部14bとを有している。フランジ部14bは、支持管15の閉止蓋を兼ねており、支持管15の端部に設けられたフランジ部とボルト止めにて結合されることにより、本管14aを支持管15内の中心部に固定すると共に、支持管15と本管14aとの間の環状空間を外部から気密に遮蔽する。
【0032】
本管14aの基端は、開閉弁14cを介して図示されない不活性ガス供給源と接続されている。本管14aのフランジ部14bより基端側には、開閉弁14eを備えたTiCl4 供給管14dが接続されている。そして開閉弁14cを閉じ、開閉弁14eを開けることにより、本管14aから液状のTiCl4 が流出する〔図3(a)〕。反対に、開閉弁14cを開け、開閉弁14eを閉じることにより、本管14aへのTiCl4 の供給、本管14aからのTiCl4 の流出が停止し、本管14aからArガスなどの不溶性ガスが吐出される〔図3(b)〕。
【0033】
操業では、還元反応容器10の容器本体10Aに上部蓋10Bを取付け、上部蓋10Bに設けられた連結管13及び圧抜き孔ノズル16を閉じる。滴下パイプ14は支持管15から外しておく。この状態で還元反応容器10内を不溶性ガス雰囲気(通常はArガス雰囲気)に置換し、上部蓋10Bの支持管15から容器内部に溶融Mgを初期チャージする。溶融Mgの初期チャージ量は、還元反応容器10内の有効空間の40%程度である。還元反応容器10内の有効反応空間とは、現実に還元反応を実施できる最大空間であって、具体的には容器上部内の最も下方に存在する障害物(例えばバッフル17)からロストル11に至るまでの空間である。
【0034】
溶融Mgの初期チャージが終わると、支持管15に滴下パイプ14を取付けて支持管15を閉じる。このとき、滴下パイプ14における開閉弁14c,14eはいずれも閉じておく。そして、滴下パイプ14の取付けが終わると、開閉弁14cを閉じたままで、開閉弁14eを開ける。これにより、図1に示すように、滴下パイプ14の本管14aから液状のTiCl4 が流出し、還元反応容器10内の溶融MgにTiCl4 に連続的に滴下供給される。これに伴って生成したスポンジチタン20が反応容器10内のロストル11上に堆積していく。
【0035】
この還元反応に伴って、副生物であるMgCl2 が還元反応容器10の底部内に溜まる。そのMgCl2 を容器外へ抜き出すタップ操作を適宜抜き取りパイプ12を通して行う。また、溶融Mgの初期チャージ量が容器容量の半分程度に制限されているため、溶融Mgのチャージを適宜(例えば2回のタップに1回の割合で)行う。
【0036】
具体的には、まず滴下パイプ14における開閉弁14cを開け、開閉弁14eを閉じる。これにより滴下パイプ14の本管14aからのTiCl4 の滴下供給が止まり、本管14aからのArガス吐出が始まる。本管14aからのTiCl4 の滴下供給が止まっても、本管14aからArガスが吐出し続けているので、本管14aが閉塞する事態は回避される。この静置状態を所定時間続け、TiCl4 の残存ガスとMg蒸気との残存反応を終了させる。しかる後に、図2に示すように、溶融Mgの追加投入パイプを兼ねる圧抜き孔ノズル16を開放し、ここにMg追加投入用の補助パイプ18を挿入する。そして、この補助パイプ18から溶融Mgを追加投入する。
【0037】
追加投入する溶融Mgは、図4に示すように、還元反応容器10とは別の精製容器30に入れ、これに満たした溶融MgにTiCl4 を添加する。添加されたTiCl4 が溶融Mgにより還元されてTiが生成されると共に、副生物であるTiCl4 が生成される。生成したTiCl4 は溶融Mgより比重が大きいので、溶融Mgの下に沈降する。また、溶融Mgで生成したTiは溶融Mg中のNiやFeをトラップして沈降する。このため、溶融Mgが高純度に生成される。この高純度に生成された溶融Mgを前記の追加投入に使用する。
【0038】
還元反応容器10内に上方から溶融Mgを追加投入したとき、還元反応容器10内ではTiCl4 の滴下供給が停止されており、残反応も終了しているので、傘状の異形にスポンジチタンが生成される事態は回避される。また、容器内圧力の急増も回避される。これらのために、溶融Mgの追加投入が支障なく行われる。
【0039】
還元反応容器10内に上方から追加投入された溶融Mgは、抜き取りパイプ12を経由せずに容器内の溶融Mgの液面に上方から供給されるので、容器内に生成しているスポンジチタン20中にトラップされる量が大幅に減少する。このため、追加投入された溶融Mgの利用率が上がる。しかも、追加投入された溶融Mgは、抜き取りパイプ12を経由しないこと、還元反応容器10の底部内に滞留しているMgCl2 と接触しないこと、還元反応容器10内に生成しているスポンジチタン20下部の汚染度が高い部分と接触しないことなどのために、容器内での汚染が可及的に防止され、高純度を維持する。このため、溶融Mgの追加投入を繰り返して生成されるスポンジチタン20の純度が、抜き取りパイプ12を経由して追加投入を行っていた場合と比べて向上する。
【0040】
溶融Mgの追加投入が終わると、圧抜き孔ノズル16から補助パイプ18を抜き出し、圧抜き孔ノズル16を閉じる。次いで、滴下パイプ14からのTiCl4 の滴下供給を再開する。具体的には、滴下パイプ14における開閉弁14cを閉じ、開閉弁14eを開ける。これにより滴下パイプ14の本管14aからのArガス吐出が停止し、TiCl4 の滴下供給が再開される。TiCl4 の供給停止中、本管14aをArガスが流通していたので、詰まりは生じず、円滑に供給再開が始まる。
【0041】
こうして、還元反応容器10の底部内に溜まるTiCl4 を抜き取りパイプ12から抜き出すタップ操作と、還元反応容器10の上部から溶融Mgを追加投入するチャージ操作を繰り返すことにより、還元反応容器10内に所定重量のスポンジチタン20が生成される。その生成においては、追加投入された溶融Mgがスポンジチタン20にトラップられることなく有効活用されるので、同じ重量のスポンジチタン20を生成する場合、溶融Mgの追加投入量を減らすことができる。しかも、追加投入される溶融Mgの純度が高いために、生成されるスポンジチタン20の品質も向上する。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例を示し、従来例と対比することにより、本発明の効果を明らかにする。
【0043】
(比較例)
内径が2mの還元反応容器10内に溶融Mg量を約7トン(還元反応容器10内の行有効反応空間の約40%に)初期装填した。還元操業中、MgCl2 のタップのみを行い、溶融Mgの追加投入(チャージ)を行わなかった。スポンジチタン20の収量は僅か約5トンであった。生成されたスポンジチタン20の品質は、溶融Mgのチャージを行っていないので、平均Fe値で300ppmであった。タップは、容器本体10Aの底部から外周面に沿って立ち上げられた垂直なタップ用の抜き取りパイプ12を通じて行った。
【0044】
(従来例1)
比較例と同じ還元操業において、前記抜き取りパイプ12を通して、溶融Mgの追加投入(チャージ)を4回行った。これにより、スポンジチタンの収量は比較例の5トンより遥かに多い約10トンになった。溶融Mgの総チャージ量は約10トン、溶融Mgの総使用量は約17(7+10)トンである。抜き取りパイプ12を通した容器底部からのチャージのため、生成されたスポンジチタン20の品質は、平均Fe値で500ppmに低下した。
【0045】
(従来例2)
従来例1において、追加投入する溶融MgをTiCl4 により事前に精製した。スポンジチタンの収量は従来例1と同じ約10トン、溶融Mgの総チャージ量も従来例1と同じ約10トンであった。抜き取りパイプ12を通した容器底部からのチャージのため、事前に精製した高純度の溶融Mgを追加投入したにもかかわらず、生成されたスポンジチタン20の品質は平均Fe値で500ppmであった。
【0046】
(実施例1)
従来例1において、溶融Mgの追加投入を図1及び図2に示す装置を使用して還元反応容器10の上部から行った。この間、TiCl4 の供給を停止した。Mg追加投入の開始はTiCl4 の供給停止から10分後とした。従来例1と同じ約10トンのスポンジチタン収率を得るために必要とした溶融Mgの総チャージ量は約5トンに減少した。溶融Mgの総使用量は約12(7+5)トンである。チャージ回数は1回とした。精製されたスポンジチタン20の品質は、従来例1と同じ未精製の追加投入Mgを使用したが、生成されたスポンジチタン20の品質は平均Fe値で400ppmであった。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、追加投入する溶融Mgとして、TiCl4 により事前に精製した高純度Mgを使用した。他の条件は実施例1と同じである。生成されたスポンジチタン20の品質は平均Fe値で300ppmに向上した。
【符号の説明】
【0048】
10 還元反応容器
10A 容器本体
10B 上部蓋
11 ロストル
12 タップ用の抜き取りパイプ
13 連結管
14 TiCl4 供給用の滴下パイプ
15 支持管
16 圧抜き孔ノズル
17 バッフル
18 Mg追加投入用の補助パイプ
20 スポンジチタン
30 還元反応容器10とは別の精製容器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロール法により還元反応容器内でスポンジチタンを製造する際に、還元反応途中にTiCl4 の供給を一次停止し、その停止中に還元反応容器の上方から容器内に溶融Mgの追加投入を行うスポンジチタン製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスポンジチタン製造方法において、還元反応容器の内径が1.4m以上の大型容器であるスポンジチタン製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスポンジチタン製造方法において、TiCl4 供給の停止した後、1分以上経過した後に還元反応容器の上部からの追加投入を開始するスポンジチタン製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のスポンジチタン製造方法において、追加投入する溶融Mgを、還元反応容器とは別の精製容器で事前にTiCl4 添加により精製するスポンジチタン製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のスポンジチタン製造方法において、還元反応容器の上部蓋を貫通するパイプにより溶融Mgの追加投入を行うスポンジチタン製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のスポンジチタン製造方法において、TiCl4 の滴下供給停止中における滴下パイプの詰まりを防止するスポンジチタン製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のスポンジチタン製造方法において、TiCl4 の滴下供給停止中における滴下パイプの詰まり防止のために、TiCl4 の滴下供給停止中に滴下パイプに不溶性ガスを流通させるスポンジチタン製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のスポンジチタン製造方法において、TiCl4 の滴下供給停止中における滴下パイプの詰まり防止のために、滴下パイプ内に挿入した掃除棒を滴下パイプ内で前後動させることにより、閉塞を機械的に取り除くスポンジチタン製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−184476(P2012−184476A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48564(P2011−48564)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】