説明

スムージングプレス装置

【課題】湿紙表面の平滑化を図ると共に、高速での抄紙を可能とするクローズドドロー型抄紙機に適用するのに好適なスムージングプレス装置を提供する。
【解決手段】スムージングプレス装置100は、クローズドドロー型抄紙機のプレスパート11の最終段に配置されており、一対のプレスロール23,25からなるスムージングプレス17と、該スムージングプレス17により湿紙Wと共に挟持されて湿紙表面を平滑化するスムージングベルト27と、湿紙Wを搬送してスムージングベルト27に受け渡す抄紙搬送フェルト21と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スムージングプレス装置に関し、より詳細には、スムージングベルトにより湿紙の一面を保持して搬送すると共に、該湿紙の表面を平滑化するクローズドドロー型抄紙機に適用するのに好適なスムージングプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に抄紙機は、ワイヤーパートと、プレスパートと、ドライヤーパートと、を備える。これらワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートは、この並び順で湿紙の搬送方向に沿って配置される。湿紙は、ワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートそれぞれに配設された抄紙搬送用具に次々と受け渡されながら搬送されるとともに水分を搾り出され(即ち、搾水され)、最終的にはドライヤーパートで乾燥させられる。プレスパートに配置されたプレス装置は、湿紙の搬送方向に沿って直列に並設された複数のプレス機構を具備する。各プレス機構は、一対の無端ベルト状の抄紙搬送フェルトと、当該抄紙搬送フェルトそれぞれの一部を間に挟むように上下に対向配置されるプレスとして一対のロール(即ち、ロールプレス)或いはロールおよびシュー(即ち、シュープレス)と、を有しており、略同一速度で同一方向に走行する抄紙搬送フェルトにより搬送されてくる湿紙を該抄紙搬送フェルトと共にロールとロール或いはロールとシューとで加圧することにより、該湿紙を搾水しながら抄紙搬送フェルトにその水分を吸収させる。尚、プレスパートに配置されたプレス装置の最終段に、スムージングベルトによって搬送される湿紙をスムージングベルトと共に押圧して、湿紙の表面を平滑化するスムージングプレス装置が配置されることもある。このような抄紙機には、湿紙を挟持した抄紙搬送フェルトの一部をロールとロールとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたロールプレス型抄紙機、湿紙を挟持した抄紙搬送フェルトの一部をロールとシューとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたシュープレス型抄紙機、等がある。
【0003】
また、抄紙機には、湿紙の両面または片面が常に搬送フェルトや搬送ベルトで保持された状態で湿紙を搬送するクローズドドロー型抄紙機と、湿紙が搬送フェルトや搬送ベルトで保持されることなく、即ち、湿紙単独で搬送される区間を有するオープンドロー型抄紙機とがある。クローズドドロー型抄紙機は、湿紙が搬送フェルトや搬送ベルトで保持されながら搬送されるので、高速での抄紙が可能である反面、少なくとも湿紙の片面が搬送フェルトまたは搬送ベルトに接触しているので、搬送フェルトまたは搬送ベルトに接触する面の平滑性が低下する虞があった。特に、近年、クローズドドロー型抄紙機には、高い搾水性を有し抄紙効率が高いシュープレスが多用されており、このような抄紙機における湿紙表面の平滑性の向上が困難であった。
【0004】
従来からこのような湿紙の平滑性を改善して嵩高の紙を抄紙可能とするため、プレスパートの最終段にスムージングプレスを配置し、これにより搾水された湿紙表面の平滑化を図ることが考えられている。しかし、従来のスムージングプレスは、オープンドロー型抄紙機に配設したものが殆どであり、高速で抄紙しながら湿紙表面の平滑性を改善することが困難であった。
【0005】
またクローズドドロー型抄紙機にスムージングプレスを配設した従来の抄紙機としては、弾性部材により湿紙の一面を保持しながら搬送し、一対のプレスロールにより弾性部材と共に該湿紙を押圧して湿紙表面を平滑化するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】 国際公開 WO 2004/101885 号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている抄紙機のスムージングプレスは、湿紙の一面を保持しながら一対のプレスロールにより該湿紙と共に押圧される弾性部材として、通気性を有しない通紙ベルト、または通気性を有する表面性改善フェルトが用いられている。通気性を有しない通紙ベルトとしてはゴムベルトなどが例示され、また表面性改善フェルトとしては通気度10cc/(Sec・cm)以下の僅かに通気性を有するフェルトが例示されている。しかし、近年ますます高速での抄紙、ならびに湿紙表面の更なる平滑化の要求が強まっており、それらの要求を満たすためには、必ずしも十分ではなく、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、湿紙表面の平滑化を図ると共に、高速での抄紙を可能とするクローズドドロー型抄紙機に適用するのに好適なスムージングプレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係るスムージングプレス装置は、下記(1)〜(6)を特徴としている。
【0010】
(1) 滑らかな表面を有する第1プレスロールと、滑らかな表面を有し且つ前記第1プレスロールに対向配置された第2プレスロールと、前記第1プレスロールと第2プレスロールとにより湿紙と共に挟持されて前記湿紙表面を平滑化するスムージングベルトと、前記湿紙を搬送して前記スムージングベルトに受け渡す抄紙搬送フェルトと、を備え、クローズドドロー型抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置に配置されたスムージングプレス装置であって、
前記スムージングベルトは、基体と、前記基体の湿紙側表面に形成された第1バット層と、前記基体のロール側表面に形成された第2バット層と、前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側表面に多孔性薄膜層を具備すること。
(2) 上記(1)に記載のスムージングプレス装置において、前記多孔性薄膜層がポリウレタン樹脂と、親水性度合いの異なる複数種の界面活性剤と、無機化合物の粉末とを溶剤に混合して混合物を形成し、前記第1バット層の湿紙側表面から前記混合物を含浸して含浸層を形成し、前記含浸層を水と接触して形成された発泡樹脂層であること。
(3) 上記(1)と(2)に記載のスムージングプレス装置において、前記発泡樹脂層は50g/m〜150g/mの範囲の付着量であって、スムージングベルトの通気度が1cc/cm/sec〜5cc/cm/secの範囲であること。
(4) 上記(1)〜(3)に記載のスムージングプレス装置において、前記発泡樹脂層の湿紙側表面が研磨されていること。
(5) 上記(2)に記載のスムージングプレス装置において、前記界面活性剤が、カルボン酸塩,硫酸エステル塩,スルホン酸塩,燐酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール型,多価アルコール型等のノニオン系界面活性剤、の中から選択された複数種の異なる界面活性剤であって、HLB(親水性疎水性バランス)による親水性度合いが少なくとも1以上の異なるHLB値を有する界面活性剤を使用すること。
(6) 上記(2)に記載のスムージングプレス装置において、前記無機化合物の粉末が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムから選択される1種または複数種の混合物であること。
【0011】
上記(1)の構成のスムージングプレス装置によれば、透過性の抄紙搬送フェルトにより湿紙を搬送して、第1バット層の湿紙側表面に発泡樹脂層を具備してなるスムージングベルトに受け渡し、スムージングベルトと共に湿紙を一対のプレスロールで挟持して湿紙表面を平滑化するようにした。該湿紙を抄紙搬送フェルトとスムージングベルトとで挟み、ニップ圧を加えると、搬送される湿紙は、一般的に表面の滑らかな方に、また硬度の高い方に貼り付く性質がある。従って、抄紙搬送フェルトによって搬送される湿紙は、硬度が高く、表面の滑らかなスムージングベルトに確実に受け渡される。また、湿紙は、スムージングベルトと共に一対のプレスロールで押圧されてスムージングベルトの滑らかな面に接触する表面の平滑化が図られる。
前記スムージングベルトは、第1バット層の湿紙側表面に発泡樹脂層を具備しているから、第1バット層による衝撃緩和性(クッション性)と、発泡樹脂層の緻密性によって高速での抄紙でも嵩高い平滑な湿紙表面を得ることができる。
【0012】
上記(2)〜(6)の構成のスムージングプレス装置によれば、前記発泡樹脂層の開孔は均一で緻密、しかも微細な連続した細孔にすることができるため、細孔による湿紙を吸引する効果と表面平滑性が有効に機能するため、抄紙搬送フェルトから確実に湿紙を受け取ることができるので、嵩高く表面平滑性の良い湿紙を得ることができる。同時に高速での抄紙でも耐久性の良い発泡樹脂層を得ることができる。
【0013】
また、本発明に係るスムージングプレス装置は、下記(7)〜(8)を特徴としている。
【0014】
(7) 上記(1)に記載のスムージングプレス装置において、前記多孔性薄膜層が、湿紙側表面の上部に広がったロート状の開孔部を有し、かつ湿紙側表面の開孔率が3%〜30%の範囲の開孔樹脂層であること。
(8) 上記(1)に記載のスムージングプレス装置において、前記多孔性薄膜層が、湿紙側表面の下部に広がった逆ロート状の開孔部を有し、かつ湿紙側表面の開孔率が1%〜10%の範囲の開孔樹脂層であること。
【0015】
上記(7)〜(8)の構成のスムージングプレス装置によれば、抄紙搬送フェルトによって搬送される湿紙は、硬度が高く、表面の滑らかなスムージングベルトに確実に受け渡される。また、湿紙は、スムージングベルトと共に一対のプレスロールで押圧されてスムージングベルトの滑らかな面に接触するので、湿紙表面の平滑化が図られる。
前記スムージングベルトは、第1バット層の湿紙側表面に開孔樹脂層を具備しているから、第1バット層によるクッション性と、開孔樹脂層の緻密性によって高速での抄紙でも嵩高く表面平滑な湿紙を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスムージングプレス装置によれば、抄紙搬送フェルトにより湿紙を搬送してスムージングベルトに受け渡し、湿紙をスムージングベルトと共に一対のプレスロールで押圧して湿紙表面を平滑化するようにしたので、湿紙を抄紙搬送フェルトからスムージングベルトに確実に受け渡すことができ、且つ表面平滑度が高く嵩高い湿紙を高速で抄紙することができる。
【0017】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態であるスムージングプレス装置を備えたクローズドドロー型抄紙機の概略構成図、図2は抄紙搬送フェルトの縦断面図、図3は該抄紙機に配置されたスムージングベルトの縦断面図である。
【0020】
図1に示されるように、クローズドドロー型抄紙機は、プレスパート11と、ドライヤーパート13が、その順序で湿紙Wの搬送方向に直列に配置されている。スムージングプレス装置100を構成するスムージングプレス17は、プレスパート11の最終の搾水プレスロール15A,15Bの下流側に、プレスパート11の最終段のプレスとして配置されている。搾水プレスロール15A,15Bは、湿紙Wの搬送路を挟んで対向して配設されており、湿紙Wを挟持して搬送する搬送フェルト19および抄紙搬送フェルト21を湿紙Wと共に押圧して湿紙Wを搾水する。
【0021】
スムージングプレス17は、搾水された湿紙の表面を平滑化してドライヤーパート13に搬送するためのものであって、湿紙Wの搬送路を挟んで対向して配設された第1プレスロール23と、第2プレスロール25とを有する。第1プレスロール23および第2プレスロール25は、共にその表面硬度は高く、滑らかな表面となっている。第1プレスロール23および第2プレスロール25は、湿紙Wの一面を保持しながら走行するスムージングベルト27を湿紙Wと共に押圧することにより湿紙の表面(両面)を平滑化する。
【0022】
搾水プレスロール15A,15Bとスムージングプレス17との間には、一対のトランスファーロール29A,29Bが配置されており、湿紙Wを抄紙搬送フェルト21とスムージングベルト27で挟んだ状態で押圧してニップ圧を発生し、抄紙搬送フェルト21により搬送されてきた湿紙Wをスムージングベルト27に移送するようになっている。
【0023】
図2は抄紙搬送フェルト21の縦断面図である。抄紙搬送フェルト21は、基体41の両面にステープルファイバー47からなるバット層43が、ニードルパンチによる絡合一体化している。すなわち湿紙側表面に形成された第1バット層43Aと、ロール側表面に形成された第2バット層43Bとを具備する、透過性の抄紙搬送フェルトである。
【0024】
次に、本実施形態のスムージングプレス装置100で用いられるスムージングベルト27について詳述する。図3に示されるように、スムージングベルト27は、基体41の両面にステープルファイバー47からなるバット層43が、ニードルパンチによる絡合一体化している。すなわち湿紙側表面に形成された第1バット層43Aと、ロール側表面に形成された第2バット層43Bとを具備する。そして前記第1バット層43Aの湿紙側表面に、湿紙と直接接触するように多孔性薄膜層45が配置されている。基体41は、例えば、ポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、高分子量ポリエチレンなどからなるフィルムや編物、狭い幅の帯状体をスパイラルに巻いたものなどが用いられる。尚、基体41は、例えば、MD(Machine Direction)方向(換言すれば、湿紙の走行(流れ)方向)の糸材と、CMD(Cross Machine Direction)方向(換言すれば、幅方向)の糸材とで織成された織布の他、両糸材を織成せずに重ね合わせたもの、フィルムや編物、狭い幅の帯状体をスパイラルに巻いたものなどが用いられる。
【0025】
本発明では多孔性薄膜層を形成するための好適な例として、ポリウレタン樹脂と、親水性度合い(HLB:親水性疎水性バランス)の異なる複数種の界面活性剤と、無機化合物の粉末とを溶剤に混合して、混合物を形成した後、前記第1バット層43Aの湿紙側表面から前記混合物を含浸して含浸層を形成し、前記第1バット層43Aの内部に混合物を浸透させ、更にその上にも混合物を積層してから、水と接触させることで溶剤と無機化合物の粉末とを抽出して、含浸層から多孔性の発泡樹脂層に変換することができる。この方法は一般に湿式製膜法と呼ばれるが、この方法により第1バット層43Aの内部と、その上部に発泡樹脂層を形成することができる。
【0026】
本発明の多孔性薄膜層である発泡樹脂層を形成する樹脂は、ポリウレタンやポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂などの発泡体(フォーム)を形成するものが好適に使用される。特に機械的強度の高いポリエステル系ポリウレタンや、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン等のポリウレタンが好適に使用できる。
【0027】
本発明の発泡樹脂層を形成する樹脂は、固形分20重量%〜50重量%で25℃での粘度が1万cp〜20万cpの水系樹脂またはエマルジョン樹脂を使用することが好ましい。
【0028】
本発明の発泡樹脂層は、その湿紙側表面を研磨することで閉塞された気泡を開孔することができ、同時にスムージングベルト表面の平滑性が向上する。
【0029】
本発明で使用する界面活性剤は、HLBによる親水性度合いが少なくとも1以上の異なるHLB値を有する複数種の界面活性剤を使用することである。HLBの高い親水性の界面活性剤は、湿式製膜法での製膜形成を促進する性質があり、反対にHLBの低い疎水性の界面活性剤は、湿式製膜法での製膜形成を抑制する性質があるために、これらを一緒に使用することで一定の範囲の孔径を得ることができる。すなわち複数種の界面活性剤の使用により、発泡樹脂層の開孔は孔径で20μm〜100μmの範囲に規定することができる。
【0030】
本発明で使用する界面活性剤の使用量は、発泡樹脂層の樹脂量に対して1重量%〜5重量%を使用することが好ましい。1重量%より少ないと発泡樹脂層を形成する能力が劣ることになり、5重量%より多いと、混合物が発泡し過ぎてしまい第1バット層の湿紙側表面への含浸が悪くなる。
【0031】
本発明で使用する無機化合物の粉末は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムから選択される1種または複数種の混合物であって、水に容易に溶解し、溶剤には溶解し難く、そして湿式製膜法で良好な開孔を形成するものが好適であるため、特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0032】
本発明の湿式製膜法では、第1バット層の湿紙側表面から混合物を含浸して含浸層とその上の積層を形成した後、これらを水と接触させて、溶剤と共に前記無機化合物の粉末を抽出して開孔させるものである。含浸層とその上の積層の部分は、水との接触が良いので微細で連続した細孔を得ることができるが、第1バット層の内部の含浸層は水との接触が遅れるため、無機化合物の粉末の一部を残すこともある。しかしそれによりスムージングベルトの機能を阻害することはない。
【0033】
本発明で使用する溶剤は、発泡樹脂層と、HLBの異なる複数種の界面活性剤と、無機化合物の粉末を均一に分散せしめ、混合物の分散を安定した状態に維持できるものが好ましい。本発明では混合物の分散安定性が良く、水による抽出性(すなわち水との混和性、水への溶解性)に優れ、取扱易いジメチルホルムアミド(DMF)が好適に使用できる。
【0034】
本発明の発泡樹脂層は50g/m〜150g/mの範囲の付着量であって、スムージングベルトの通気度は1cc/cm/sec〜5cc/cm/secの範囲である。付着量が50g/mより少ないと、スムージングベルトの通気度が高く硬度が低くなってしまい、スムージングベルトの湿紙側表面の平滑性が落ちるため、湿紙を抄紙搬送フェルトから受け取ることが困難となり、表面平滑性の良い湿紙が得られなくなる。一方、付着量が150g/mより多いと、スムージングベルトの第1バット層の衝撃緩和性(クッション性)が低下するため、高速での抄紙で嵩高い湿紙表面が得られなくなる。
【0035】
本発明の第1実施形態の発泡樹脂層を形成するための手順について、その一例を示す。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の多孔性薄膜層である発泡樹脂層の形成には、水系ポリウレタン樹脂(有効成分濃度が30%)を100部と、溶剤としてDMFを120部と、ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)のエマルゲン105(花王株式会社製:HLB9.7)とエマルゲン106(花王株式会社製:HLB10.5)とを1部づつ、この順に混合し、攪拌しながら炭酸水素ナトリウムの粉末80部を加えて、混合物を形成する。次に、該混合物を図3のように第1バット層43Aの表面から含浸し、第1バット層の内部に混合物を浸透させ、更にその上にも混合物を積層してから、水を満たした凝固槽に通過させて含浸層を発泡樹脂層に変換する。凝固槽の大きさや水との接触時間などは、含浸層の厚さにより適宜決めればよい。更に、発泡樹脂層を乾燥させた後、発泡樹脂層の湿紙側表面を、研磨紙やグリッドブラシ等で研磨して、表面の緻密性と平滑性を整えることができる。
【0036】
図5は第1実施形態の発泡樹脂層の表面図、図6は第1実施形態の発泡樹脂層を含むスムージングベルトの断面図である。発泡樹脂層の開孔径は50μm〜100μm、発泡樹脂層の付着量は100g/mでその厚みは500μm、通気度は2.3cc/cm/secである。
【0037】
(第2実施形態)
次に、スムージングプレス装置の第2実施形態について図4を参照して説明する。
【0038】
図4は本発明の第2実施形態のスムージングプレス装置を備えたクローズドドロー型抄紙機の概略構成図である。
【0039】
図4に示されるように、第2実施形態のスムージングプレス装置200は、第1実施形態のスムージングプレス装置100と同様に構成されており、一対のトランスファーロール29A,29Bの代わりにサクションローラ123が設けられ、抄紙搬送フェルト121は第1実施形態と同じものを使用することができるが、スムージングベルト127の構成は異なる。その他の部分については、本発明の第1実施形態のスムージングプレス装置100と同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0040】
本発明のスムージングベルト127は、図3に図示されるように、基体41の両面にステープルファイバー47からなるバット層43が、ニードルパンチによる絡合一体化している。すなわち湿紙側表面に形成された第1バット層43Aと、ロール側表面に形成された第2バット層43Bとを具備する。そして前記第1バット層43Aの湿紙側表面に、湿紙と直接接触するように多孔性薄膜層である開孔樹脂層45が配置されている。
【0041】
本実施形態の作用を説明する。図4に示されるように、サクションロール61により吸引されてその一面が搬送フェルト19に保持された湿紙Wは、搾水プレスロール15A,15Bで搾水された後、サクションロール63により吸引されて抄紙搬送フェルト121によって搬送される。そして、更にサクションロール123で吸引されて抄紙搬送フェルト121からスムージングベルト127に移送する。抄紙搬送フェルト121は、第1実施形態の抄紙搬送フェルト21と同じ構成の透過性のフェルトであり、その表面は比較的粗い面となっている。
【0042】
一方、スムージングベルト127は、その湿紙側表面に開孔樹脂層が配置しているため、その表面は極めて滑らかである。湿紙Wは、ニップされたとき、より滑らかな面に貼り付く特性に加えて、サクションロール123による吸引がスムージングベルト127の開孔樹脂層を介して湿紙に作用するので、湿紙Wは確実にスムージングベルト127に移送することができる。そして、湿紙Wは、その一面がスムージングベルト127に保持された状態でスムージングプレス17に供給され、スムージングベルト127と共に第1プレスロール23および第2プレスロール25で押圧され、これにより、湿紙Wの両表面が平滑化する。
【0043】
このとき、湿紙Wの一方の面は極めて滑らかな面であるスムージングベルト127の開孔樹脂層45の表面に接触し、また他方の面は表面硬度が高く、滑らかな表面の第2プレスロール25に接触して平滑化されるので、極めて面粗さの細かい湿紙Wが得られる。湿紙Wは、更にカンバス65を介してドライヤーパート13に搬送され、ドライヤ67により乾燥する。
【0044】
本実施形態のスムージングベルト127の開孔樹脂層45は、樹脂シートに対してレーザー(例えば炭酸ガスレーザー)や、超高圧水流(例えばノズル径0.2mmで1000〜3000kg/cmの超高圧水流)などの開孔手段を施すことによって、樹脂シートの一方の表面側から開孔することができる。開孔はランダムに、または升目状や千鳥状に0.5mm〜5mmのピッチ間隔で配置して形成することができる。
【0045】
本発明の開孔樹脂層45の開孔率は、開孔径と開孔のピッチ間隔で適宜調整できる。本発明では、開孔部が湿紙側表面の上部に広がったロート状の場合、その開孔率は3%〜30%の範囲が適し、または開孔部が湿紙側表面の下部に広がった逆ロート状の場合、その開孔率は1%〜10%の範囲が適する。
【0046】
開孔率が前記範囲を下回る場合は、湿紙搬送フェルトからの湿紙の移送が悪くなる。また、開孔率が前記範囲を上回る場合は、開孔部が湿紙表面にマークを付けるように転写することがあり、湿紙平滑性が悪くなる。
【0047】
なお、本発明の開孔樹脂層の開孔率とは、開孔樹脂層が直接湿紙と接触する側の、湿紙側表面に占める開孔面積の率である。
【0048】
前記開孔樹脂層は開孔が均一で緻密なものとすることができるため、抄紙搬送フェルトから確実に湿紙を受け取ることができる。前記開孔樹脂層が湿紙側表面の上部に広がった、ロート状の開孔部を有するものは、開孔部のマークが湿紙表面に転写してしまうこともあるが、サクションロールを介して湿紙を吸引する効果が顕著に発揮できるため、抄紙搬送フェルトから確実に湿紙を受け取ることができる利点がある。
【0049】
前記開孔樹脂層が湿紙側表面の下部に広がった、逆ロート状の開孔部を有するものは、開孔部のマークが湿紙表面に転写してしまうことがなく、サクションロールを介して湿紙を吸引する効果も併せ持つため、抄紙搬送フェルトから確実に湿紙を受け取ることができ、しかも嵩高く表面平滑性の良い湿紙を得ることができる。特に高速での抄紙で耐久性の良い開孔樹脂層を得ることができる。
【0050】
樹脂シートはポリウレタンやポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、高分子量ポリエチレンなどからなる樹脂シートが使用できる。樹脂シートの厚みは0.1mm〜5mmのものが使用できる。
【0051】
本実施形態のスムージングベルト127では、基体の湿紙側表面とロール側表面にバット層をニードルパンチで絡合一体化した後、樹脂シートをラミネート加工、例えば樹脂シートを熱活性させて湿紙側表面の第1バット層の表面に接合した後、開孔手段を施すことによって開孔することができる。或いは、予め開孔された樹脂シートを第1バット層の表面に接合(ラミネート加工)しても良い。
このような場合、湿紙側表面の上部に広がったロート状の開孔部を有する開孔樹脂層45を得ることができる。
【0052】
これとは逆に、湿紙側表面の下部に広がった、逆ロート状の開孔部を有する開孔樹脂層45を得るためには、予め開孔された樹脂シートを表裏反転してから第1バット層の表面に接合すれば良い。
【0053】
本発明の第2実施形態の開孔樹脂層を形成するための手順について、その一例を示す。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
多孔性薄膜層である開孔樹脂層を形成するため、ポリウレタン樹脂シート(熱可塑性ポリウレタンのシートで厚み0.3mm)に赤外線照射して樹脂シートを熱活性化し、図3のように第1バット層43Aの表面に載置し、更に一対のロール間を通過させて、接合(ラミネート加工)する。その後、該樹脂シート表面に炭酸ガスレーザービームを当てて開孔する。開孔部は、シート表面の上部に広がったロート状を呈している。
なお樹脂シートを熱活性化する代わりに接着剤を使用しても、併用しても良い。また湿紙側表面の下部に広がった逆ロート状にするためには、ポリウレタン樹脂シートに炭酸ガスレーザービームをシート表面に当てて、予め開孔しておく。開孔部は、シート表面の上部に広がったロート状を呈している。この樹脂シートを表裏反転させた後、赤外線照射して樹脂シートを熱活性化し、図3のように第1バット層43Aの表面に載置し、更に一対のロール間を通過させて、接合(ラミネート加工)する。
【0054】
図7は第2実施形態の開孔樹脂層45の表面図、図8は開孔部の拡大図、図9は第2実施形態の開孔樹脂層を含むスムージングベルトの断面の拡大図である。いずれも開孔部が湿紙側表面の上部に広がったロート状である。
【0055】
図8と図9では、開孔樹脂層の開孔径は上部が500μm、下部が200μmで、湿紙側表面の上部に拡がったロート状である。図7の開孔樹脂層の開孔パターンは升目状で、2mmのピッチ間隔で配置している。この開孔樹脂層の通気度は10cc/cm/secで、開孔率は3%である。
【0056】
このような構成のスムージングベルト127は、第1実施形態の発泡樹脂層を有するスムージングベルト27に比べて、サクションロール123による吸引効果が、スムージングベルト127を介して湿紙に作用する。従って、抄紙搬送フェルトから湿紙を確実にスムージングベルト127に移送することができるので、特に高速の抄紙において好適に使用できる。
【0057】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、前述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】 本発明の第1実施形態であるスムージングプレス装置を備えたクローズドドロー型抄紙機の概略構成図である。
【図2】 抄紙搬送フェルトの縦断面図である。
【図3】 スムージングベルトの縦断面図である。
【図4】 本発明の第2実施形態のスムージングプレス装置を備えたクローズドドロー型抄紙機の概略構成図である。
【図5】 本発明の第1実施形態である発泡樹脂層表面の表面図である。
【図6】 本発明の第1実施形態であるスムージングベルトの断面図である。
【図7】 本発明の第2実施形態である開孔樹脂層の表面図である。
【図8】 本発明の第2実施形態である開孔部の拡大図である。
【図9】 本発明の第2実施形態であるスムージングベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0059】
100 スムージングプレス装置
200 スムージングプレス装置
11 プレスパート
13 ドライヤーパート
15A 搾水プレスロール
15B 搾水プレスロール
17 スムージングプレス
19 搬送フェルト
21 抄紙搬送フェルト
23 第1プレスロール
25 第2プレスロール
27 スムージングベルト
29A トランスファーロール
29B トランスファーロール
41 基体
43 バット層
43A 第1バット層
43B 第2バット層
45 多孔性薄膜層
47 ステープルファイバー
121 抄紙搬送フェルト
127 スムージングベルト
W 湿紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑らかな表面を有する第1プレスロールと、滑らかな表面を有し且つ前記第1プレスロールに対向配置された第2プレスロールと、前記第1プレスロールと第2プレスロールとにより湿紙と共に挟持されて前記湿紙表面を平滑化するスムージングベルトと、前記湿紙を搬送して前記スムージングベルトに受け渡す抄紙搬送フェルトと、を備え、クローズドドロー型抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置に配置されたスムージングプレス装置であって、
前記スムージングベルトは、基体と、前記基体の湿紙側表面に形成された第1バット層と、前記基体のロール側表面に形成された第2バット層と、前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側表面に多孔性薄膜層を具備することを特徴とするスムージングプレス装置。
【請求項2】
前記多孔性薄膜層がポリウレタン樹脂と、親水性度合いの異なる複数種の界面活性剤と、無機化合物の粉末とを溶剤に混合して混合物を形成し、前記第1バット層の湿紙側表面から前記混合物を含浸して含浸層を形成し、前記含浸層を水と接触して形成された発泡樹脂層であることを特徴とする請求項1に記載のスムージングプレス装置。
【請求項3】
前記発泡樹脂層は50g/m〜150g/mの範囲の付着量であって、スムージングベルトの通気度が1cc/cm/sec〜5cc/cm/secの範囲であることを特徴とする請求項1〜2に記載のスムージングプレス装置。
【請求項4】
前記発泡樹脂層の湿紙側表面が研磨されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のスムージングプレス装置。
【請求項5】
前記界面活性剤が、カルボン酸塩,硫酸エステル塩,スルホン酸塩,燐酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール型,多価アルコール型等のノニオン系界面活性剤、の中から選択された複数種の異なる界面活性剤であって、HLB(親水性疎水性バランス)による親水性度合いが少なくとも1以上の異なるHLB値を有する界面活性剤を使用することを特徴とする請求項2に記載のスムージングプレス装置。
【請求項6】
前記無機化合物の粉末が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムから選択される1種または複数種の混合物であることを特徴とする請求項2に記載のスムージングプレス装置。
【請求項7】
前記多孔性薄膜層が、湿紙側表面の上部に広がったロート状の開孔部を有し、かつ湿紙側表面の開孔率が3%〜30%の範囲の開孔樹脂層であることを特徴とする請求項1に記載のスムージングプレス装置。
【請求項8】
前記多孔性薄膜層が、湿紙側表面の下部に広がった逆ロート状の開孔部を有し、かつ湿紙側表面の開孔率が1%〜10%の範囲の開孔樹脂層であることを特徴とする請求項1に記載のスムージングプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−248461(P2008−248461A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114817(P2007−114817)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】