説明

スメクティック液晶化合物の混合物における層間隔を制御する方法

【課題】ティルトスメクティックメソフェーズにおける層間隔を制御すること。
【解決手段】少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを組み合わせる工程を含んでなるスメクティック液晶化合物の混合物における層間隔を制御する方法であって、前記組成物の各々が少なくとも1種のスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物を含んでなる方法。この方法はティルトスメクティックメソフェーズにおける層間隔を制御することを可能にし、それによってシェブロン層のジオメトリーを制御又は抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズ(tilted smectic mesophase)において制御可能な(温度に対する)層膨張性又は層収縮性を有するスメクティック又は潜在的スメクティック(latent smectic)液晶化合物の混合物を製造する方法に関する。他の観点において、本発明は、前記方法により製造される混合物及びこの混合物を含む電気光学的表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶を用いる素子は、種々の電気光学的用途において、特に、嵩張らず、エネルギー効率の良い電圧制御型ライトバルブ(voltage-controlled light valve)を必要とするようなもの、例えば時計及び計算機のディスプレイ、並びにポータブルコンピューター及びコンパクトテレビに見られるようなフラットパネルディスプレイにおいての使用が見出されている。液晶ディスプレイは、低電圧及び低電力で動作することを含む数々の特徴を有し、この特徴は液晶ディスプレイを最も将来有望な現在利用可能な非発光形電気光学ディスプレイの候補にならしめている。しかしながら、遅い応答は多くの潜在的な応用に対して限界を与える。応答速度は素子に組み込まなければならない部品の数に比例して特に重要になってきており、そしてこのことはあるタイプの液晶化合物の潜在的な用途を制限している。
【0003】
現在、最も広範に用いられている液晶ディスプレイのモードは、ねじれネマティック(twisted nematic :TN)、超ねじれ複屈折効果(supertwisted birefringence effect :SBE)、及び動的散乱(dynamic scattering:DS)であり、これらは全てネマティック又はキラルネマティック(コレステリック)液晶を用いる。これらの素子は、電界の印加によるネマティック及び/又はキラルネマティック液晶(又はネマティック若しくはキラルネマティック液晶の混合物)の誘電配列効果(フレデリクス効果(Freedericksz effect ))に基礎をおくものである。液晶物質の平均の分子長軸は、印加された電界中で好ましい配向をとり、その配向はその物質の又は混合物の誘電異方性の符号に依存し、そしてこの配向は印加電界の除去により緩和する。この再配向及び緩和は、数ミリ秒程度の遅いものである。
【0004】
ネマティック及びキラルネマティック液晶は最も広範に使用されているが、より高度に配向するスメクティック液晶を用いる液晶素子が存在する。これらの素子も液晶化合物の誘電再配向に基礎をおくものであり、その応答時間はミリ秒程度である。
【0005】
液晶技術分野における最近の発展は、素子においてマイクロ秒のスイッチングを与える強誘電性液晶とも称されているティルトキラルスメクティック液晶(tilted chiral smectic liquid crysta l)の素子への利用である。強誘電性液晶は、R. B. Meyer 等により発見され(J. Physique 36, 1-69 (1975) )、そしてフッ素含有強誘電性液晶物質が最近になって開発された(例えば、米国特許第4,886,619 号(Janulis )、同第5,082,587 号(Janulis )、及び同第5,262,082 号(Janulis 等)を参照されたい)。強誘電性液晶は、分子の偏向方向に垂直且つスメクティック層の面に平行な巨視的電気双極子密度を有する。これは、印加された電界に対し、誘電異方性により得られるものよりもかなり強い分子配向のカップリングを与える。更に、このカップリングは極性であり、そのため分子配向を調節するために印加電界の逆転を有効に用いることができる。
【0006】
高速光学的スイッチング現象は、N. A. Clark 等により強誘電性液晶において発見された(Appl. Phys. Lett. 36, 899 (1980)及び米国特許第4,367,924 号)。Clark は、上記の素子のいずれにおいても不可能であった双安定動作を可能にする表面安定化強誘電性液晶ディスプレー(surface-stabilized ferroelectric liquid crystal display )(以下、SSFLCDと称する)を開発した。SSFLCDは、情報量、視角、コントラスト比、及びスイッチング時間に関して高い性能を有するものとして認識されているが、SSFLCDの開発は液晶の層状構造中の欠陥に関する問題によって妨げられてきた。これらの欠陥は、(ティルトスメクティックメソフェーズにかかわる温度範囲を経る)冷却時の層の収縮及びその結果によるシェブロン(chevron )層状構造の形成によって発生する(例えば、T. P. Rieker等による Phys. Rev. Lett. 59, 2658(1987)及び Ferroelectrics 113, 245 (1991) における議論、並びにY. Ouchi等による J. Appl. Phys. 27, L1993 (1988)における議論を参照されたい)。欠陥は、例えば不十分なコントラスト比及び望ましくない双安定性の原因となり、研究者はシェブロン構造の形成を防ぐ手段を熱心に探究している。
【0007】
ヨーロッパ特許出願第405,868 号(富士通株式会社等)は、書棚型構造(bookshelf structure )を示す液晶組成物を開示している。この組成物は強誘電性(ティルトキラルスメクティック)液晶化合物の混合物を含んでなり、この混合物は特定のナフタレン環構造を有する所定量のキラル強誘電性液晶化合物を含む。
【0008】
Takanishi 等は、ナフタレン環から誘導された強誘電性液晶における準書棚型層状構造(quasi-bookshelf layer structure )の自発的形成を記述している(Jpn. J. Appl. Phys. 29, L984 (1990)及びMol. Cryst. Liq. Cryst. 199, 111 (1991) )。
【0009】
Mochizuki 等は、「ラビングされたポリマー配向フィルムパネルと共にナフタレンに基づく液晶混合物」を使用することによる書棚型構造及び準書棚型構造の双方を得た( Ferroelectrics 122, 37(1991)を参照されたい)。
【0010】
Research Disclosure 34573 (1993)は、ペルフルオロエーテル含有液晶化合物を高い割合で含む強誘電性液晶混合物を開示している。この混合物は自発的に書棚型層状構造を示すものであって、層の厚さの温度依存性を小さくさせるために、負の層膨張率を示す材料を使用して配合されたものである。
【0011】
電界の印加により得られる書棚型構造は、M. Johno等によるJpn. J. Appl. Phys. 28, L119 (1989) において報告されており、また米国特許第5,206,751 号(Escher等)に記載されている。
【0012】
斜め蒸着技術により得られる書棚型構造は、A. Yasuda 等によるLiquid Crystals 14, 1725 (1993) に報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
幾つかの液晶化合物は、驚くべきことに、少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにかかわる温度領域を経る冷却の際に、層の収縮よりもむしろ層の膨張を示すことが見出された。このような化合物は、特定の他の液晶化合物との混合物で使用された場合には、(温度に対して)制御可能な層が膨張又は収縮する性質を有する混合物を与えることも見出された。これは、ティルトスメクティックメソフェーズにおいて基本的に温度に依存しない層間隔にするため、また非ティルトメソフェーズとティルトメソフェーズの間の転移に関わる温度範囲において層間隔の温度依存性を小さくするために使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、1つの態様において、本発明は、スメクティック液晶化合物の混合物における層間隔を制御する方法を提供する。この方法は、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率(net negative thermal layer expansion)を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率(net positive thermal layer expansion)を有する液晶組成物を組み合わせる工程を含んでなる。前記組成物の各々は少なくとも1種のスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物を含んでなる(潜在的スメクティック液晶化合物は、それら自体ではスメクティックメソフェーズ(例えばティルトスメクティックメソフェーズ)を示さないが、スメクティックメソフェーズを有する化合物又は潜在的スメクティックメソフェーズを有する他の化合物との混合物において、適切な条件下でスメクティックメソフェーズを形成するか又は呈するようなものである)。好ましくは、正味で負の熱膨張性を示す組成物(以下、「負の組成物」と称する)は、結果として得られる組合せが約-0.05 〜約+0.05 Å/℃の範囲内の正味の層熱膨張率を有するような量で使用される。
【0015】
本発明の方法は、ティルトスメクティックメソフェーズにおいて層間隔を制御することを可能にし、そしてシェブロン層のジオメトリーの制御又は抑制を可能にする。このような抑制は、ティルトスメクティックメソフェーズを経る冷却時のジグザグ配向欠陥(zig-zag alignment defect)の形成を減少させるか又は無くし、その結果として電気光学的性能を高め、駆動コーン−ティルト角に対するメモリー比(memory to driven cone-tilt angle ratio)を増加させ、そしてコントラスト比を高める。この方法は、加熱及び冷却サイクルに起因する応力により生じる欠陥及び非書棚型層ジオメトリーを減少させるか又はなくすことができる。
【0016】
更に、本発明の方法は、キラル又はアキラル液晶化合物のいずれかを使用して実施でき、特定の型のコア(core)構造を有する化合物に限定されない。低粘性物質を使用することができるため、速いスイッチング速度を達成することができる。
【0017】
他の態様において、本発明は、本発明の方法により調製される混合物及びその混合物を含む電気光学的表示素子も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の方法に係る負の組成物として使用するのに適する液晶組成物は少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有するような組成物である。負の組成物中に含めることが適切なスメクティック(又は潜在的スメクティック)液晶化合物は、例えば、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて分子の偏向に関係する層の収縮を相殺する機構を示すものと、前記メソフェーズにおいて負の熱的膨張性を示すものを含む。このような化合物は、結果として得られる組成物が正味で負の層熱膨張率を有するとの条件で、このような機構を示さない(即ち、正の層間熱膨張性を示す)液晶化合物との混合物で使用することができる。
【0019】
負の組成物に使用することができる好ましいスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物は、少なくとも1つのフッ素化された末端部分を有し、且つ、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて負の層間熱膨張性を示すキラル又はアキラル液晶化合物である。このような化合物の好ましい種類は、少なくとも2つのカテナリー、即ち鎖内にあるエーテル状酸素原子を含む少なくとも1つのフルオロエーテル末端部分を有するキラル又はアキラル液晶化合物の種類である。このような化合物は、例えば、(a)少なくとも2つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含む脂肪族フルオロカーボン末端部分;(b)脂肪族炭化水素末端部分;及び(c)前記末端部分を連結している中心コア;を含んでなることができる。前記化合物の脂肪族炭化水素末端部分はキラル又はアキラルのいずれかであることができる(このようなアキラル化合物は米国特許第5,262,082 号(Janukis 等)に記載されている)。脂肪族フルオロカーボン末端部分は下記式により表される:
−D(Cx2xO)zy2y+1
[上式中、xは、各Cx2xO基に対して独立に1〜約12の整数であり、yは1〜約12の整数であり、zは2〜約10の整数であり、並びにDは、共有結合、
【0020】
【化1】

【0021】
(上式中、r及びr’は独立に0〜約20の整数であり、sは各(Cs2sO)に対して独立に1〜約10の整数であり、tは1〜約6の整数であり、及びpは0〜約4の整数である)
及びこれらの組合せからなる群より選ばれる]。
【0022】
前記フルオロカーボン末端部分の(Cx2xO)zy2y+1基は、炭素に結合されている水素原子を少量含有しうるが、完全にフッ素化されていることが好ましい。好ましくは、フルオロカーボン末端部分は下記式により表される直鎖基である:
−D(Cx2xO)zy2y+1
(上式中、Dは−OCH2 −であり、xは各Cx2xO基に対して独立に1〜約8の整数であり、yは1〜約8の整数であり、及びzは2〜約6の整数である)。
【0023】
このような液晶化合物は下記一般式Iにより表される。
【0024】
【化2】

【0025】
[上式中、M、N及びPは、各々独立に、
【0026】
【化3】

【0027】
からなる群より選ばれ;
a、b及びcは各々独立に0又は1〜3の整数であり、ただしa+b+cの合計が少なくとも1であることを条件とし;
各A及びBは、非指向的且つ独立に、共有結合、
【0028】
【化4】

【0029】
からなる群より選ばれ;
各X、Y及びZは、独立に、−H,−Cl,−F,−Br,−I,−OH,−OCH3 ,−CH3 ,−CF3 ,−OCF3 ,−CN,及び−NO2 からなる群より選ばれ;
各l、m及びnは、独立に、0又は1〜4の整数であり;
Dは、共有結合、
【0030】
【化5】

【0031】
(上式中、r及びr’は独立に0〜約20の整数であり、sは各(Cs2sO)に対して独立に1〜約10の整数であり、tは1〜約6の整数であり、及びpは0〜約4の整数である)
及びこれらの組合せからなる群より選ばれ;
Rは、
【0032】
【化6】

【0033】
からなる群より選ばれ、且つRは直鎖又は分枝鎖のキラル又はアキラルであることができる;並びに
f は、
−(Cx2xO)zy2y+1
(上式中、xは、各(Cx2xO)に対して独立に1〜約12の整数であり、yは1〜約12の整数であり、及びzは2〜約10の整数である)
である]。好ましくは、Dは−OCH2 −であり、Rf は直鎖であり、xは各(Cx2xO)に対して独立に1〜約8の整数であり、yは1〜約8の整数であり、及びzは2〜約6の整数である。
【0034】
この化合物のサブクラスは下記式により表される:
【0035】
【化7】

【0036】
[上式中、xは、各Cx2xOに対して独立に1〜約8の整数であり;yは1〜約8の整数であり;及びzは2〜約4の整数であり;jは0又は1の整数であり;j’は0又は1の整数であり;及び
R”は、(R')v −Cq2q+1-v及び
【0037】
【化8】

【0038】
(上式中、各qは独立に2〜約10の整数であり;各R’は、独立に、水素、フッ素、塩素、メチル及びペルフルオロメチルからなる群より選ばれ;vは0〜約4の整数であり;並びにCq2q及びCq2q+1は直鎖又は分枝鎖であることができる)
からなる群より選ばれる]。
【0039】
少なくとも1つのフッ素化された末端部分を有し、且つ、負の組成物(negative composition)中に使用することができる液晶化合物のもつ一つの好ましい種類は、少なくとも1つのフルオロ脂肪族末端部分を有するスメクティック又は潜在的スメクティックのキラル又はアキラル液晶化合物(例えば、米国特許第4,886,619 号(Janulis )及び同第5,082,587 号(Janulis )に開示されている化合物)であって、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて負の層間熱膨張性を示すものである。例えば、5−ヘキシル−2−(4’−1,1−ジヒドロペルフルオロオクチルオキシ)フェニルピリミジンはこのような性質を示し、このような用途に適することが見出された。
【0040】
少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて分子の偏向にかかわる層の収縮を相殺する機構を有し、それによってそのメソフェーズにおいて負の熱膨張性を示す他の液晶化合物もこの負の組成物中に使用することができる。
【0041】
本発明の方法に係る上記した負の組成物との混合物に使用するのに適する液晶組成物は、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有するものであって、少なくとも1種のスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物を含んでなる。正味で正の層熱膨張率を有する液晶化合物(以下、「正の組成物」と称する)に含めることが適切なスメクティック(又は潜在的スメクティック)液晶化合物には、脂肪族末端部分を有し、且つ、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正の層熱膨張率を示すキラル又はアキラル液晶化合物、例えば、D. Demus等によるFlussige Kristalle in Tabellen, VEB Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie, Leipzig (1974) 第65〜76頁及び第260 〜263 頁、及びS. Kumarによる Phys. Rev. A 23, 3207 (198 4)に記載されているアルキル,アルコキシフェニルピリミジン及びアルコキシ,アルコキシフェニルベンゾエートのような化合物;少なくとも1つのフルオロ脂肪族末端部分を有するキラル及びアキラル液晶化合物(このような化合物は、例えば米国特許第4,886,619 号号(Janulis )及び同第5,082,587 号(Janulis )に記載されている)であって、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて負の層間熱膨張性を示すもの、例えば、下記表1に記載の化合物Bのような化合物;並びにただ1つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含む少なくとも1つのフルオロエーテル末端部分を有し、且つ、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズにおいて正の層間熱膨張性を示すキラル及びアキラル液晶化合物が含まれる。前記化合物は、例えば、(a)1つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含む脂肪族フルオロカーボン末端部分;(b)脂肪族炭化水素末端部分;及び(c)前記末端部分を連結する中心コア;を含んでなる化合物であることができる。前記脂肪族フルオロカーボン末端部分は下記式により表される:
−D(Cx2xO)zy2y+1
[上式中、xは独立に1〜約12(好ましくは1〜約8)の整数であり、yは1〜約12(好ましくは1〜約8)の整数であり、zは1であり、及びDは上記定義の 群から選ばれる]。このような化合物は、R,M,N,P,A,B,D,X,Y,Z,a,b,c,l,m及びnが上記定義の通りであり、且つRf が(Cx2xO)zy2y+1(式中、xは1〜約12の整数であり、yは1〜約12の整数であり、zは1である)である一般式Iにより表される。好ましくは、Dは−OCH2 −であり、Rf は直鎖であり、xは1〜約8の整数であり、及びyは1〜約8の整数である。
【0042】
少なくとも2つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含むフルオロエーテル末端部分を有する化合物が前記負の組成物の主成分として使用される場合には、好ましいことに、この組成物を、フルオロ脂肪族末端部分又はただ1つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含むフルオロエーテル末端部分を有する少なくとも1種のキラル又はアキラル液晶化合物を(主成分として)含んでなる正の組成物と組み合わせることができる。このような組合せは混和性(compatibility )の観点から好ましい。
【0043】
本発明の方法は、負の組成物と正の組成物とを組み合わせることにより実施できる。前記組成物を組み合わせること又は混合することは、概して同時に及び/又は引き続きかきまぜながら又は攪拌しながら、例えばローラー混合(roller mixing )しながら前記組成物を容器に導入することにより達成できる。前記容器は前記組成物の双方を室温で混合したままの状態を保つのに十分な大きさの開放容器又は密閉容器の何れであってもよい。前記組成物は、互いに組み合わせる前に形成させるか、または代わりに前記組成物の一方の成分の1種以上を残りの成分に加える前に、もう一方の組成物の成分の1種以上と組合せることができる。組成物の成分を組み合わせるいかなる順序及び方法も許容可能である。得られる組合せは、均一混合が達成されるほど十分にかきまぜ又は攪拌されることが好ましい。このことは、組合せを融解させるのに十分に加熱すること、又はこの組合せを、溶剤、例えば極性非プロトン性溶剤中に溶かすことにより容易になされ、その後、溶剤は例えばロータリーエバポレーションにより除去される。
【0044】
使用すべき組成物(及びそれらの成分)は、少なくとも1つのティルト(又は潜在的ティルト)スメクティックメソフェーズ、例えばスメクティックCメソフェーズにおけるそれらの層熱膨張率の符号及び値に基づいて選ぶことができる。このような膨張率の符号及び絶対値は、可変温度小角X線散乱(SAXS)を使用して決定できる。SAXS法は、例えば、A. Guinier等(C. B. Walkerにより翻訳)によるSmall-Angle Scattering of X-Rays, John Wiley & Sons, New York (1955)第1〜4頁に記載されており、液晶に対するその応用は、例えばS. Kumarによる Phys. Rev. A 23, 3207 (1981) に記載されている。膨張率の符号及び絶対値は、所望のメソフェーズにおける温度に対する層間隔のプロットのほぼ直線的な領域(目視により選択)に対してフィッティングした直線の傾きの符号及び大きさを計算することにより決定することができる。概して、フィッティングのために選択した温度領域を、特定の素子への応用にとって有用な温度範囲に対応させることができ、そしてティルトメソフェーズと非ティルトメソフェーズとの間の転移にかかわるデータは非直線的であるために選択した領域から一般に除外することができる。温度の上昇に伴って層間隔が増大(減小)する成分又は組成物は正(負)の層熱膨張率を有する。
【0045】
好ましくは、負の組成物は、結果として得られる組合せが、約-0.05 〜約+0.05 Å/℃、より好ましくは約-0.01 〜約+0.01 Å/℃、最も好ましくは約-0.005〜約+0.005Å/℃の範囲内の正味の層熱膨張率を有するような量で使用される。しかしながら、ある場合において、これらの範囲外の膨張率が特定の目的のために望ましく、そしてこれらの範囲は正の組成物と負の組成物とを混合することにより達成することができる。これらの範囲内の正味の膨張率は、概して、負の組成物の量に該組成物の正味の負の膨張率の絶対値を掛けた値が正の組成物の量に該組成物の正味の正の膨張率の絶対値を掛けた値に基本的に等しくなるように、負の組成物の量を選ぶことにより達成することができる(これは、重量%又はモル分率に対する膨張率のプロットに対する直線の式のフィッティングに対応する)。正味の膨張率の値の最適化(所望の値に近い値を得るため)は反復法(測定された混合物の正味の膨張率が、膨張率と重量%又はモル分率との間の関係を表す式を最適化するために用いられる)を通じて達成することができる。
【0046】
潜在的スメクティック液晶化合物が使用される場合には、濃度の異なる組成を有する(本発明に係る)混合物を調製すること、混合物の膨張率を測定すること、重量%又はモル分率に対する膨張率をプロットすること、データに直線の式をフィッティングすること、次いで潜在的スメクティック化合物100%に対応する組成物について式を求めることによって、それらの層熱膨張率(スメクティックメソフェーズの潜在性(latency )のために測定できない)を推定することができる。
【0047】
本発明の方法は、少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて基本的に温度に依存しない層間隔(及び非ティルトメソフェーズとティルトメソフェーズとの間の転移に関係する温度範囲において温度依存性の小さい層間隔)を達成するのに使用できる制御可能な層の膨張性又は収縮性(温度に対して)を有する組合せ又は混合物を提供する。この方法は、層の収縮を制御することができ、そのためシェブロン層のジオメトリーの抑制が可能となる。このことはティルトスメクティックメソフェーズを経る冷却時にジグザグ配向欠陥の形成を減らすか又は無くし、その結果として高い電気光学的スイッチング性能、大きな駆動コーン−ティルト角に対するメモリーの比、及び高いコントラスト比が得られる。この方法は、応力により生じる欠陥並びに加熱及び冷却サイクルに起因する非書棚型層ジオメトリーを減少させるか又は無くすことができる。
【0048】
少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて基本的に温度に依存しない層間隔を有する混合物は、メソフェーズにおいて、好ましくは約-0.05 〜約+0.025Å/℃、より好ましくは約-0.01 〜約+0.01 Å/℃、最も好ましくは約-0.005〜約+0.005Å/℃の範囲内の非常に小さな負(又は非常に小さな正)の層熱膨張率を有するスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物(又は組成物)を組み合わせることにより調製することもできる。
【0049】
少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて特に望ましい零でない温度依存性の層間隔を有する混合物は、選ばれた負(正)の層熱膨張率をメソフェーズにおいて有するスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物又は組成物を、選ばれた正(負)の膨張率を有する他のそのような化合物又は組成物と組み合わせることにより調製できる。負(正)の膨張率は、所望の中間膨張率(及び上述のように膨張率と量との間のほぼ直線的な関係に基づく化合物又は組成物の量)の限界を定めるように選ぶか、又はこのような膨張率を推定するために選ぶことができる。代わりに、特に望ましい零でない温度依存性は、選ばれた負(正)の膨張率を有する化合物又は組成物をほぼ零の膨張率を有する化合物又は組成物と組み合わせることにより達成することができる。層間隔のこのような零でない温度依存性は、例えば、T. P. Ricker及びN. A. Clark によりPhase Transitions in Liquid Crystals(S. Martellucci及びA. N. Chester により編集), Plenum Press, New York (1992), 第310 頁に記載されている密度により起こるシェブロンの形成を相殺することに対して望ましい。
【0050】
本発明の目的及び利点を、以下の実施例により更に説明するが、これらの実施例中に挙げた特定の材料及びそれらの量並びに他の条件及び詳細は、本発明を著しく限定するものであると理解されるべきではない。実施例に使用したフッ素含有液晶化合物は、米国特許第4,886,619 号(Janulis )、同第5,082,587 号(Janulis )、及び同第5,262,082 号(Janulis 等)に記載されている方法の応用により調製できる。
【実施例】
【0051】
以下の実施例において、層間隔は、小角X線散乱を温度の関数として観測するSAXS法により測定した。Kratkyカメラ、銅のKα線、及び検出器を使用してデータを集めた。液晶試料(単一化合物又は混合物)を開口型石英キャピラリー管内に入れ、次いで管の軸が水平面内にあり、且つビーム経路に対して垂直になるようにステンレス鋼の試料ホルダーの表面上に置いた。試料は、層間隔の初期決定のため、等方的状態になるまで加熱し、次いで冷却し、データを収集する前に10分間の待ち時間をとった。次いで、試料を2〜3℃の間隔で冷却し、各温度において10分間の待ち時間の後でデータをとった。
【0052】
層間隔のデータを温度に対してプロットし、そしてほぼ直線的となったで望ましいメソフェーズ(スメクティックC)の領域を目視により選んだ。概して、ティルトメソフェーズと非ティルトメソフェーズとの間のデータ領域は、直線的でないために選んだデータから除外した。選んだ領域に対する層間隔のデータをプッロトし、次いでそのデータに直線の式をフィッティングさせた。直線の式の傾きは、選ばれた温度範囲における試料の層熱膨張率をあらわす。従って、温度上昇とともに増大する層間隔を有する試料は正の熱膨張率を有する。この方法を使用し、本発明の方法に使用するのに適する種々の液晶化合物の熱膨張率を決定した。この結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
実施例1
負の組成物と正の組成物を混合することによる層間隔の制御
5−デシルオキシ−2−(4’−(1,1−ジヒドロペルフルオロ−2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ)フェニルピリミジン(表1の化合物2)の層間隔を温度の関数として測定し、プロットし、次いで上記の方法により熱膨張率を算出した。選ばれた温度に対する得られた層間隔(オングストローム単位)のプロットは図1に示される。算出した膨張率はスメクティックCメソフェーズにおいて-2. 64×10-2Å/℃であった。用いた直線のフィットは、y=33.591-2.6404e-2x, R2=0.985 であった。
【0056】
次いで、化合物2と5−オクチル−2−(4’−(1,1−ジヒドロペルフルオロ−(3−ブトキシプロポキシ)フェニルピリミジン)(表1の化合物A)の一連の混合物を調製し、基本的に上記のように混合物の熱膨張率を決定した。選ばれた温度(摂氏温度)に対する得られた層間隔(オングストローム単位)のプロットは図1に示される。混合物の算出された熱膨張率は以下の通りである:
100%化合物2 -2.64×10-2Å/℃
75%化合物2/25%化合物A -1.78×10-2Å/℃
50%化合物2/55%化合物A -1.19×10-2Å/℃
25%化合物2/75%化合物A -0.37×10-2Å/℃
【0057】
化合物2の重量%に対し、各混合物の算出されたTE値をプロットすることにより、化合物Aが100 重量%(化合物2が0重量%)の理論組成物に対して外挿し、純粋な化合物AのTE値は +0.36×10-2Å/℃であると算出された。
【0058】
上記データは、正の物質の層の収縮を相殺し、それによって層の膨張性を制御し、スメクティックCメソフェーズ(TEはほぼ零に等しい)において基本的に温度に依存しない層間隔を達成するために、化合物2(負の熱膨張率を有する)を正の熱膨張率を有する液晶物質(ティルトメソフェーズにおいて冷却時に収縮を示す)と混合することができることを示している。
【0059】
混合物の上記熱膨張率(TE)は、下記式:
100×TE=0.3590-2.26×(化合物Aに対する化合物2の重量比)
にほぼ一致する。
【0060】
零に非常に近いTE値が望ましい場合には、反復法により式の最適化を達成することができる。
【0061】
実施例2
負の組成物と正の組成物とを混合することによる層間隔の制御
基本的に実施例1の方法を使用して表1の化合物10のTEを決定した。キャピラリー管の代わりに、シラン接着促進剤(VM651 としてDuPontから市販入手可能)により処理された基板(ガラスの顕微鏡用カバーグラス)上の液晶混合物の薄いホメオトロピック(homeotropic )フィルムを使用し、上記SAXS法を改良した方法を使用して化合物10と5−デシル−2−(4’−(1,1−ジヒドロペルフルオロヘキシルオキシ)フェニルピリミジン(化合物B、冷却時に強い層収縮を示す)との混合物のTEを決定した。得られた試料は、試料の層を垂直な向きにしたままKratkyジオメトリー内にX線ビームに水平に置き、散乱が最大になるよう調節した。選ばれた温度に対する層間隔(オングストローム単位)のプロットは図2に示される。
【0062】
混合物の熱膨張率は以下の通りに決定された:
100%化合物10 -4.01×10-2Å/℃
75%化合物10/25%化合物A -6.39×10-3Å/℃
50%化合物10/55%化合物A -5.00×10-3Å/℃
【0063】
このデータは、化合物10(大きな負の熱膨張率を有する)を、正の熱膨張率を有し、且つ、強い層収縮を示す液晶物質と混合し、その収縮を大いに相殺することができることを示している。
【0064】
実施例3
同一符号(負の符号)を有する熱膨張率を有する組成物を混合することよる層間隔の制御
表1の化合物11及び12のTEを基本的に実施例1に記載したように決定した。双方の化合物は負のTEを有することが見出された。これら2種の化合物の混合物を調製し、混合物のTEを基本的に同様な方法により決定した。選ばれた温度に対する層間隔(オングストローム単位)のプロットは図3に示される。
【0065】
混合物の熱膨張率は以下の通りに決定された:
【0066】
【表3】

【0067】
このデータは、化合物11及び12(双方とも負の熱膨張率を有する)を混合し、層間膨張性を制御し、該組成物のバルクの熱膨張率又は第2の組成物の正の層間膨張率を相殺するのに有用な望ましい中間の熱膨張率を達成できることを示している。
【0068】
実施例4
負の組成物と正の組成物を混合することによる層間隔の制御
5−オクチル−2−(4’−(1,1−ジヒドロペルフルオロ−2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ)フェニルピリミジン(表1の化合物9)及び5−オクチル−2−(4’−(1,1−ジヒドロペルフルオロ−(3−ブトキシプロポキシ)フェニルピリミジン(表1の化合物A)のTEを基本的に実施例1に記載したように決定し、TEは化合物9について負であり、そして化合物Aについて正であることがわかった。75重量%の化合物9と25重量%の化合物Aの混合物を調製し、次いで基本的に同様な方法により混合物のTEを決定した。選ばれた温度に対する層間隔(オングストローム単位)のプロットは表4に示される。
【0069】
純粋な化合物9及び混合物に対するデータのプロットから、41重量%の化合物9と59重量%の化合物Aの混合物がほぼ零のTEを有するであろうことが推定される(実施例1に記載のように組成物のTEのデータに直線を繰返しフィッティングすることにより推定)。この混合物を調製し、次いでそのTEを基本的に上記のように決定し、 -0.31×10-2Å/℃であることがわかった。このデータは、化合物9(負の熱膨張率を有する)を正の熱膨張性を有する液晶物質と混合し、少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて基本的に温度に依存しない予測可能な層間隔を達成できることを示している(ほぼ零に近いTE値が望ましい場合には、実施例1に記載のように反復法を使用することができる)。
【0070】
実施例5
潜在的スメクティック液晶化合物の(ティルトスメクティックメソフェーズにおける)熱膨張率の決定
この実施例において、負のTEを有するスメクティック液晶化合物(表1の化合物2)を種々の割合で潜在的ティルトスメクティック液晶化合物(表1の化合物C)と混合した。この特別な混合物中の化合物CのTE(スメクティックCメソフェーズの潜在性のために直接決定できない)の推定が可能となるように、種々の混合物のTEを基本的に実施例1におけるように決定した。温度に対する層間隔のプロットは図5に示される。
【0071】
化合物2の重量%に対する各混合物のTEの値をプロットすることにより、化合物Cが100 重量%(化合物2は0重量%)の理論組成物に対して外挿し、純粋な化合物CのTE値は図6に示されるように -0.44×10-2Å/℃であると算出された。
【0072】
実施例6
負の組成物と正の組成物を混合することによる層間隔の制御
この実施例において、負のTEを有するスメクティック液晶化合物(表1の化合物10)を正のTEを有するフッ素化されていないスメクティック液晶化合物(H. ZaschkeによるJ. prakt. chem. 317, 617 (1975) に記載されている方法により調製できる5−デシル−2−ヘキシルオキシフェニルピリミジン:表1の化合物D)と混合した。純粋な化合物及び90重量%の化合物10と10重量%の化合物Dの混合物のTEを基本的に実施例1におけるように決定し、得られたプロットを下記図7に示した。混合物のTEは2種の純粋な化合物のTEの中間の値であった。このことは、層の膨張性を制御するために、負の組成物と正の組成物とを本発明の方法により組み合わせることができることを表す。
【0073】
実施例7
本発明の方法により調製される強誘電性液晶混合物を含む液晶表示素子
本発明の方法により強誘電性液晶化合物の2種の混合物(下記表2に示される組成を有する混合物7A及び7B)を調製した。各混合物のスメクティックCメソフェーズに対するTEを基本的に実施例1におけるように決定し、温度に対する層間隔の得られたプロットを図8に示した。この図は、潜在的スメクティックC液晶化合物(混合物7Bに独特の2種の化合物)を添加剤として使用し、混合物のTE値を更に減少させ、そして強誘電性相においてかなり強い温度依存性を達成できることを示している。
【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
【表7】

【0078】
表面安定化強誘電性液晶素子(SSFLCD;surface stabilized ferroelectric liquid crystal device)を以下の方法で作製した:
【0079】
インジウム−スズ−酸化膜(ITO)(厚さ300 ÅのITO膜)により被覆された超音波洗浄されたガラス基板(2.85×3.5 ×0.1cm )の上にギ酸中に溶けたナイロン6/6 の0.52重量%溶液(Aldrich Chemical Co.)の数滴を滴下した。この基板を1200rpm で40秒間回転させ、次いで75℃で16時間を要して硬化させ、厚さ約400 Åのナイロン被膜を与えた。綿65%、レーヨン35%の別珍製布帛が周囲にきつく巻かれた115 gのラビング棒(直径2.5cm 、長さ10cmのガラス棒)を使用し、被覆した基板を一方向においてラビング(20回)し、基板上に配向した配向層を与えた。
【0080】
高さ1.5 μmのポリイミドスペーサ柱のパターンを有するもう一つのITO膜(厚さ300 ÅのITO膜)により被覆されたガラス基板(2.85×3.5 ×0.1cm )(超音波洗浄されたもの)の上にブチルアルコール中に溶けたポリジメチルシロキサン(Owen-Illinois, Inc. から入手可能な 5.6% GR-651L )の1.5 重量%溶液の数滴を滴下した。基板を8000rpm で20秒間回転させ、次いで75℃で16時間を要して硬化させ、厚さ約300 Åの配向膜を与えた。
【0081】
ITO構成電極と配向層が向かいあって2つのセルを形成するように、紫外線硬化性接着剤(Norland Products, Inc.から入手可能 Norland(商標)61 光学接着剤)を使用して2組の上記基板を集成した。次いで、減圧下で毛細管現象を用い、加熱することにより各セルに液晶化合物の2種の混合物(表2の混合物7A及び7B)の内の一方を充填した。
【0082】
素子のITO構成電極を種々の出力電圧を有する任意の波形発生器に接続した。素子を偏光顕微鏡の回転ステージ上に載せた。顕微鏡の白熱光源にフィルターを付け、その波長が450 〜700nm の間になるようにした。光電子倍増管を使用して光伝導度を測定し、オシロスコープ上に表示した。24℃の温度での20V/μmの電場で測定した素子のラッチング時間(latching time )は80マイクロ秒であった。少なくとも30ミリ秒間隔の20V/μmの双極矩形パルスからなり、強度6.7 V/μmの同一幅の矩形パルス列により分割された電圧波形により素子を駆動させた。素子のティルト角に対するメモリ比は測定の結果0.87であることがわかった。
【0083】
比較例
SSFLCDに使用するのに適するとして販売されている市販入手可能な強誘電性液晶混合物の代表として2種の市販入手可能な強誘電性液晶混合物(チッソ株式会社から入手可能なCS-1015 及びドイツ国メルク(Merck )社から入手可能なZLI 4654-100)を選んだ。混合物のTEを基本的に実施例1におけるように決定し、そして温度に対する層間隔のプロットを図9に示した。図9には、本発明の方法により調製された実施例7の混合物7Bに関する温度に対する層間隔のプロットも示されている。2種の市販入手可能な混合物に関するデータのプロットは、殆ど重ね合わせることができるほぼ一致する正のTE値を与える。2種の市販入手可能な混合物とは対照的に混合物7Bは、当該技術分野で非常に求められている基本的に温度に依存しない層間隔を示す。
【0084】
本発明の範囲及び真意から逸脱することなく、本発明の種々の改良及び変更が当業者により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、実施例1に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。大きさの小さい印により表されるプロット部分は直線をフィッテイングさせるために選んだ部分である(以下、図2〜4及び7〜9についても同様)。図中に示される式の傾きは試料の層熱膨張率に対応する(以下、図2〜4及び7〜9についても同様)。
【図2】図2は、実施例2に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。
【図3】図3は、実施例3に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。
【図4】図4は、実施例4に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。
【図5】図5は、実施例5に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。
【図6】図6は、実施例5に記載の液晶化合物の混合物についての組成に対する層熱膨張率のプロットである。
【図7】図7は、実施例7に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。
【図8】図8は、実施例8に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。
【図9】図9は、実施例9に記載の液晶試料(化合物又は混合物)についての温度に対する層間隔のプロット(温度変化させることのできる小角X線散乱により得た)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを組み合わせる工程を含んでなる層間隔を制御する方法であって、前記組成物の各々がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなる方法。
【請求項2】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で負の既知の大きさの層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で正の既知の大きさの層熱膨張率を有する液晶組成物とを組み合わせる工程を含んでなる層間隔を制御する方法であって、前記組成物がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、且つ、結果として得られる組合せが少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて所望の正味の層熱膨張率を有するように前記大きさに基づく量で前記組成物が使用される方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法により製造される液晶化合物の混合物。
【請求項4】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを含んでなる液晶化合物の混合物であって、前記組成物の各々がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、且つ、前記混合物が少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて約-0.05 〜約+0.05 Å/℃の正味の層熱膨張率を有するような量で正味で負の層熱膨張率を有する前記組成物が存在する液晶化合物の混合物。
【請求項5】
請求項3記載の混合物を含む液晶表示素子。
【請求項6】
請求項4記載の混合物を含む液晶表示素子。
【請求項7】
スメクティックCメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物とスメクティックCメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを組み合わせる工程を含んでなる層間隔を制御する方法であって、前記正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物が、少なくとも2つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含むフルオロエーテル末端部分を有するキラル又はアキラルのスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物の少なくとも1種を含んでなり、且つ、前記正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物が、フルオロ脂肪族末端部分及び1つのカテナリーのエーテル状酸素原子を含むフルオロエーテル末端部分からなる群より選ばれる末端部分を有するキラル又はアキラルのスメクティック又は潜在的スメクティック液晶化合物の少なくとも1種を含んでなり、結果として得られる組合せがスメクティックCメソフェーズにおいて約-0.05〜約+0.05 Å/℃の正味の層熱膨張率を有するような量で前記正味で負の層熱膨張率を有する組成物が使用される方法。
【請求項8】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて同一符号の既知の大きさの正味の層熱膨張率を有する液晶組成物の少なくとも2種を組み合わせる工程を含んでなる層間隔を制御する方法であって、前記組成物がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、且つ、結果として得られる組合せが少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて所望の正味の層熱膨張率を有するように前記大きさに基づく量で前記組成物が使用される方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法により製造される液晶化合物の混合物。
【請求項10】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて同一符号の正味の層熱膨張率を有する液晶組成物の少なくとも2種を含んでなる液晶化合物の混合物であって、前記組成物の各々がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、且つ、前記混合物が少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて約-0.05 〜約+0.025Å/℃の正味の層熱膨張率を有するような量で前記組成物の各々が存在する液晶化合物の混合物。
【請求項11】
請求項9記載の混合物を含む液晶表示素子。
【請求項12】
請求項10記載の混合物を含む液晶表示素子。
【請求項13】
少なくとも1つの潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて潜在的スメクティック液晶組成物の正味の層熱膨張率を推定する方法であって、
(a)少なくとも1種の潜在的スメクティック液晶化合物を含んでなる潜在的スメクティック液晶組成物と少なくとも1種のスメクティック液晶化合物を含んでなるスメクティック液晶組成物との少なくとも1つの混合物を調製すること;
(b)少なくとも1つの選ばれたティルトスメクティックメソフェーズにおいて前記混合物の正味の層熱膨張率を決定すること;
(c)少なくとも1つの対応するティルトスメクティックメソフェーズにおいて前記スメクティック液晶組成物の正味の層熱膨張率を決定すること;次いで
(d)前記潜在的スメクティック液晶組成物が100 %の組成物に対して外挿し、少なくとも1つの対応する潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおける前記潜在的スメクティック液晶組成物に対する正味の層熱膨張率の推定値を得ること;
を含んでなる方法。
【請求項14】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを含んでなる液晶化合物の混合物を含む液晶表示素子であって、前記組成物の各々がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、且つ、前記混合物が少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて基本的に温度に依存しない層間隔を有するような量で正味で負の層熱膨張率を有する前記組成物が存在する液晶表示素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを含んでなる液晶化合物の混合物を含み、前記組成物の各々がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、前記混合物が少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおいて-0.05 〜+0.05 Å/℃の正味の層熱膨張率を有するような量で正味で負の層熱膨張率を有する前記組成物が存在する液晶素子。
【請求項2】
少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で負の層熱膨張率を有する液晶組成物と少なくとも1つのティルト又は潜在的ティルトスメクティックメソフェーズにおいて正味で正の層熱膨張率を有する液晶組成物とを含んでなる液晶化合物の混合物を含み、前記組成物の各々がスメクティック液晶化合物及び潜在的スメクティック液晶化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶化合物を含んでなり、前記混合物が少なくとも1つのティルトスメクティックメソフェーズにおける非ティルト−ティルト転移より10℃低い温度とより高次の転移の温度よりも5℃高い温度との間で-0.05 〜+0.05 Å/℃の正味の層熱膨張率を有するような量で正味で負の層熱膨張率を有する前記組成物が存在する液晶素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−257436(P2006−257436A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114896(P2006−114896)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【分割の表示】特願2004−299261(P2004−299261)の分割
【原出願日】平成7年3月6日(1995.3.6)
【出願人】(590000422)スリーエム カンパニー (144)
【Fターム(参考)】