説明

スモモ果実の着色促進剤

【課題】
スモモ果実に対する着色促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、キク科カワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)から得られたカワラヨモギ抽出物を0.05〜0.5重量%含有する着色促進剤であり、スモモ果実に対して優れた着色促進効果を発揮する。成熟する前に収穫されたスモモ果実に対してこの着色促進剤を処理することで、流通過程、特に店頭から消費者までの棚持ち期間において、果実のハリ、ツヤ、食味などの鮮度を保持しつつ、果皮の着色を向上させ、商品価値を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物、特にスモモ果実に対する着色促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
青果物の表面の色彩(着色)は、消費者の購買意欲を刺激する重要な要素の一つである。スモモ果実においては、果皮が緑色の未熟な果実や果皮が暗赤色の過熟な果実と比べて、果実表面が鮮やかな赤色の果実は消費者にとって好印象であり、商品価値が高い。
【0003】
青果物の中でもスモモ果実は、収穫後の鮮度保持期間が短いことが知られている。収穫後のスモモ果実は、鮮度を保持する為に低温環境下において出荷、流通されているが、店頭で陳列される場合や消費者の手に渡った場合には、常温で保存されることが多い。よって現状では、果実の退化を遅らせる目的で、成熟する前に収穫された果実が出荷されている。しかしながら、店頭では果皮が緑色の未熟な果実が陳列されることが多くなる為、消費者の購買意欲が低下する問題がある。
【0004】
スモモ果実を含む青果物の着色を向上させる成分として例えば、縮合リン酸のカリウム塩、特にトリポリリン酸カリを有効成分とする水溶液(特許文献1)、メチオニンを必須成分として含有する水溶液(特許文献2)などが挙げられる。しかしながら果実収穫前の特定の期間内において果樹の葉面に散布するものであり、収穫後の果実に対しては有効ではなかった。
【0005】
収穫後の青果物に対して着色を向上させる成分としてはエチレンが挙げられ、例えば塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と活性炭とエタノールを含有するエチレン発生剤(特許文献3)などが使用される。しかしながら果皮の着色に加え、果実の軟化、糖度の上昇、酸度の減少等の果実の成熟が進むことから、棚持ち期間が減少する問題がある。
【特許文献1】特開平2003−274761号公報
【特許文献2】特開平2007−259714号公報
【特許文献3】特開平2006−87330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑みて行われたものであり、流通過程、特に店頭から消費者までの棚持ち期間において、果実の鮮度を保持しつつ、果皮の着色を向上させることができるスモモ果実の着色促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カワラヨモギ抽出物を含有することでスモモ果実に対して優れた着色促進効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、カワラヨモギ抽出物を含有することを特徴とするスモモ果実の着色促進剤である。
【0009】
また本発明は、カワラヨモギ抽出物と加水分解型タンニンを含有することを特徴とするスモモ果実の着色促進剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、優れた着色促進効果を発揮する着色促進剤を提供できる。当該発明を用いて果実のハリ、ツヤ、食味などの鮮度を保持しつつ、果皮を赤色に着色させることで果実の商品価値を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明において使用するカワラヨモギは、キク科カワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)である。本発明で使用されるカワラヨモギの部位は茎または葉、花穂、など地上部であれば特に限定されることはない。カワラヨモギは抽出効率を高めるため、必要により機械的破砕手段によって粉砕などの工程を含めて良い。
【0012】
カワラヨモギ抽出物はカワラヨモギを抽出溶媒に浸漬して得るが、カワラヨモギを浸漬する抽出溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルエーテルやジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒、植物油や動物油脂等の油脂類、水を単独又は混合して使用すると良い。該抽出溶媒にて抽出したカワラヨモギ抽出物はそのまま使用しても良いが、有効成分の含有量が低く多量に配合する必要がある場合もあるため、溶剤を完全に留去してあるいは適度に濃縮して使用しても良い。その際、成分が溶媒とともに留出することを防止するため、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコールや、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を添加して濃縮しても良い。また、カワラヨモギから水蒸気蒸留により得た精油成分をそのまま使用しても良い。更に、超臨界流体などの公知の方法を用いて抽出した抽出物を使用しても良い。
【0013】
本発明の着色促進剤におけるカワラヨモギ抽出物の含有量は、精油を含む固形分含量として0.05〜0.5重量%である。精油を含む固形分含量が0.05重量%以下である場合、着色促進効果を発揮しない。0.5重量%を超えて固形分が含まれる場合、着色が過度に進み暗赤色となる可能性がある。
【0014】
また本発明の着色促進剤は、更に効果を高める目的で加水分解型タンニンを配合することが好適である。タンニンは、植物の葉などに含まれるポリフェノールの総称である。ポリフェノールは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)をもつ化合物の総称で、光合成により生成された色素や苦味などの成分としてほとんどの植物に含まれており、抗酸化能力に優れた水溶性(一部は脂溶性)物質である。ポリフェノールとしては、大豆に含まれるイソフラボン、緑茶に含まれるカテキン、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸、カカオ豆に含まれるクロマミド類、葡萄果皮に含まれるアントシアニン、ウコンに含まれるクルクミン、ゴマに含まれるセサミン、カキの果実、クリの渋皮五倍子、タマリンドの種皮、タラ末、没食子、ミモザの樹皮、リンゴ、芍薬および桂皮等から抽出することができるタンニンが例示される。好適には、柿渋やお茶に含まれている縮合型タンニンよりも、五倍子、没食子、チョウジ等に含まれている加水分解型タンニンが選択されていることがより好ましい。より好適には、タンニン酸が選択される。
【0015】
本発明に係る着色促進剤の加水分解型タンニンの含有量は特に限定されるものではないが、0.01〜5重量%である事が好ましい。
【0016】
本発明の着色促進剤の適応できるスモモ果実はその種類を問わないが、例えば大石早生、ソルダム、太陽、サンタローザ、ガラリ等が挙げられる。
【0017】
本発明の着色促進剤の使用方法としては果実の全体を浸漬・噴霧する方法、また不織布、繊維、ウレタン、綿、吸水性ポリマーのような吸収体へ吸収させ、果実を包む方法などがある。これらの使用方法により、スモモ果実に対する本発明の着色促進剤の使用量を調節することができる。
【0018】
本発明の着色促進剤は、低温保存、脱酸素剤、包装材等の鮮度保持技術と併用することが可能である。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0020】
(製造例1:カワラヨモギ抽出液の調製)
乾燥したカワラヨモギの花穂100gにエタノール500gを加えて常温にて24時間浸漬して抽出後、ろ過し、カワラヨモギ抽出液350gを得た。この抽出液中にカワラヨモギ抽出物は1.32重量%含有されていた。
【0021】
(製造例2:カワラヨモギ濃縮液の調製)
乾燥したカワラヨモギの花穂300gにエタノール1500gを加えて常温にて24時間浸漬して抽出後、ろ過し、カワラヨモギ抽出液1200gを得た。これよりエタノールを留去し、全量を400gとし、カワラヨモギ濃縮液を得た。この濃縮液中にカワラヨモギ抽出物は3.96重量%含有されていた。
【0022】
製造例1及び製造例2に記載のカワラヨモギ抽出液及びカワラヨモギ濃縮液を使用し、表1記載の実施例1〜5の着色促進剤及び比較例1〜4の組成物を作製した。なお、この表における配合量は全て重量%で示す。
【0023】
作製した着色促進剤及び組成物に関して、以下の試験により着色促進効果を確認した。成熟前のスモモ果実(品種:大石早生)を収穫し、傷がなく且つ大きさや成熟度が同等のものを選別した。実施例1〜5の着色促進剤、及び比較例1〜4の組成物にそれぞれ10個の果実を2秒間浸漬した後風乾させた。処理した果実は5℃で8日間貯蔵し、果皮の着色及び鮮度について評価を行なった。また、無処理の果実についても同様に貯蔵し、対照区とした。試験はまず所定の期間経過後の果皮色を目視により評価することにより行ない、0:果皮全面が緑色、1:果皮の3分の1が赤色、2:果皮の2分の1が赤色、3:果皮全面が赤色、4:果皮全面が暗赤色、と判定した。次に果皮のハリ・ツヤについて目視、感触により評価し、A:ハリがあり鮮度が良好、B:ハリが保たれている、C:やや萎びてツヤがない、D:ツヤがなく萎びている、と判定した。最後に食味・食感について官能試験により評価し、食味については、○:甘味と酸味のバランスに優れる、△:甘味と酸味のバランスにやや優れる、×:甘味と酸味のバランスに劣る、と判定し、食感については○:果肉が硬く食感に優れる、△:果肉がやや硬く食感にやや優れる、×:果肉が軟らかく食感に劣る、と判定した。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1より明らかなように、本発明の着色促進剤は比較例の組成物と比べ、優れた着色促進効果を示すことが確認された。実施例1〜4はカワラヨモギ抽出物を0.05〜0.5重量%含有する着色促進剤であり、スモモ果実の店頭陳列が想定される2日目以降において、果実の鮮度を保持した状態で、優れた着色促進効果を示すことが確認された。実施例5の着色促進剤で示すように、加水分解型タンニンを併用することで、更に優れた着色促進効果を示すことが確認された。一方、比較例1及び比較例2はカワラヨモギ抽出物を含有しない組成物であり、鮮度・着色共に無処理との有意差は確認されなかった。比較例3の組成物で示すように、カワラヨモギ抽出物の含有量が0.05重量%以下の場合、鮮度・着色共に無処理との有意差が確認されなかった。また、比較例4の組成物で示すように、カワラヨモギ抽出物の含有量が0.5重量%よりも多い場合、果実の鮮度は保持されていたが、果皮の着色が過度に進み、早期から暗赤色となることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カワラヨモギ抽出物を含有することを特徴とし、且つカワラヨモギ抽出物の含有量が0.05〜0.5重量%であることを特徴とするスモモ果実の着色促進剤。
【請求項2】
加水分解型タンニンを含有することを特徴とする請求項1に記載されたスモモ果実の着色促進剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の着色促進剤で処理されたスモモ果実。

【公開番号】特開2010−46(P2010−46A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162381(P2008−162381)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】