説明

スライディングノズルプレート

【課題】耐酸化性、耐食性及び耐スポーリング性に加え、耐面荒れ性にも優れたスライディングノズルプレートを提供すること。
【解決手段】鉱物相としてAlCを5〜95質量%含有し、熱膨張係数が8×10-6/K以下で、常温での曲げ強さが10MPa以上60Mpa以下であるスライディングノズルプレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の流量を制御するスライディングノズル装置(以下「SN装置」という。)に用いられるプレートれんがである、スライディングノズルプレート(以下「SNプレート」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の製造において、取鍋やタンディッシュ等の溶融金属容器から排出される溶鋼の流量を制御するために、SN装置が使用される。このSN装置には2枚もしくは3枚の耐火物製のノズル孔を持つSNプレートが使用される。このSNプレートは拘束された条件下、重ね合わせられ、さらに面圧が付加された状態で摺動され、ノズル孔の開度を調整することで溶鋼の流量が調整される。
【0003】
このことから、SNプレートには、拘束条件下での使用に耐えうる機械的強度、鋳造時の熱応力に対する耐スポーリング性、溶鋼中の成分やスラグなどに対する耐食性、耐酸化性、さらには、稼動面となる摺動面が損耗を受ける「面荒れ」に対する「耐面荒れ性」などの特性が要求される。
【0004】
SNプレートには、一般的に、アルミナカーボン質耐火物が使用されており、例えば耐スポーリング性を向上させるために、低熱膨張率であるジルコニアムライトやアルミナジルコニア等の耐火原料が使用されている。また、耐食性を向上するためには、スラグと反応しにくい電融アルミナ等の高純度で緻密な原料の使用、さらにカーボンの種類やカーボン含有量の適正化等が検討されている。摺動による耐摩耗性を向上するためには、使用する原料の粒度構成の適正化等により組織を緻密化し高強度化する、さらには摺動面の研磨精度を向上させるなどの手法が実施されている。また、酸化防止のためには炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミ等の酸化防止剤や、シリコンやアルミニウムなどの金属が焼結材として用いられている。
【0005】
一方で、特許文献1には、アルミナカーボン質耐火物の耐酸化性、耐食性及び耐スポーリング性を向上させることを目的として、炭素質原料を3〜40質量%とアルミニウムオキシカーバイドを0.5〜15質量%配合することが提案されている。また、特許文献2には、アルミナ−アルミニウムオキシカーバイドを主成分とし、含有炭素量が0.5〜3.0質量%である電融された耐火物骨材を配合した耐火物が示されている。
【0006】
しかしながら、SNプレートに求められる要素としては、上述のとおり、耐酸化性、耐食性及び耐スポーリング性以外に、摺動面の損耗、いわゆる「面荒れ」に対する抵抗を示す「耐面荒れ性」がある。特許文献1、2では、「耐面荒れ性」が考慮されておらず、これらの文献の記載に基づいて、「耐面荒れ性」に優れたSNプレートを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−295857号公報
【特許文献2】特開昭55−60067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、耐酸化性、耐食性及び耐スポーリング性に加え、「耐面荒れ性」にも優れたSNプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のSNプレートは、鉱物相としてAlCを5〜95質量%含有することを特徴とする。
【0010】
このように本発明のSNプレートは、アルミニウムオキシカーバイドであるAlCを特定量含有する。アルミニウムオキシカーバイドとしては、AlCのほかにAlOCが知られているが、本発明はアルミニウムオキシカーバイドのうちAlCに特定している。これは、AlOCに対して、AlCの方が工業的に安定した品質のものを製造することが可能であり、SNプレートの特性を安定して向上させる効果が高いからである。
【0011】
すなわち、AlCは、式(1)に示すとおり、耐火物中のカーボンがFeO等により酸化されて生じたCOガスと反応してアルミナとカーボンを析出し、組織を緻密化することから、れんがの酸化を抑制する効果が知れられている。また、AlCは、式(2)に示すとおり、耐火物中のカーボンと反応しアルミニウムガスを生成することから、このアルミニウムガスが式(3)に示すとおり、同じくCOガスと反応し、アルミナとカーボンを析出し、組織を緻密化する効果がある。さらに稼動面では、式(4)に示すとおり、アルミニウムガスが鋼中のFeOと反応し、アルミナを析出することから、同様に耐酸化性効果が得られる。
【0012】
AlC(s)+2CO(g)=2Al(s)+3C(s) …(1)
AlC(s)+3C(s)=4Al(g)+ 4CO(g) …(2)
2Al(g)+3CO(g)=Al(s)+ 3C(s) …(3)
2Al(g)+3FeO(l)=Al(s)+ Fe(s) …(4)
【0013】
このようにAlCは、式(1)及び式(3)、(4)で示されるように、金属アルミニウムのように空洞とはならずに、アルミナとカーボンを析出し組織を緻密化することが知られている。
【0014】
本発明者らは、SNプレートにとって重要な特性である「耐面荒れ性」の評価を、特開2009−204594号公報に記載の(耐酸化性の)評価方法を用いて試みた。すなわち、図1に示す誘導炉を用い溶鋼とサンプルである耐火物の反応により生じた鋼浴部の脱炭層厚みを(ベース材質を100として)指数化した値と、これらの耐火物が実機で使用され、受けた摺動面の損耗である「面荒れ」との関係を調査した。
【0015】
図2は、鋼浴部の脱炭層厚み指数と「耐面荒れ性」の指標であるストローク消化速度との関係を示す。ストローク消化速度とは、摺動面の損傷、「面荒れ」の損耗速度のことで、SNプレートの「耐面荒れ性」を表す指標である。すなわちストローク消化速度が小さいほど、「耐面荒れ性」が良好である。図2に示すように、鋼浴部の脱炭層厚みと「耐面荒れ性」には良い相関が認められ、鋼浴部の脱炭層厚み指数が小さいほど、ストローク消化速度も小さく「耐面荒れ性」が良好であることが確認できる。このことから図1に示す評価方法が「耐面荒れ性」の評価方法として有効であることがわかる。
【0016】
よって、この評価方法によりAlCを適用した耐火物の「耐面荒れ性」を評価した。その結果、AlCを適用した耐火物は、鉄浴部の稼動表面のみに薄い脱炭層である緻密なアルミナ層を形成することが確認され、このことからAlCの適用が「耐面荒れ性」を向上させる手段として有効であることが推定された。
【0017】
稼動面となる摺動面では、従来報告されていたように、式(1)および式(3)、(4)により、アルミナとカーボンを析出し、耐酸化性が付与されるが、それと同時に形成された薄い脱炭層である緻密なアルミナ層により、摺動に対する耐摺動磨耗性も付与され、「耐面荒れ性」に対する効果が得られると考えられる。また、稼動面内部ではAlCの反応は極僅かであり保持されることから、低熱膨張率という特徴も維持され、耐スポーリング性効果も持続することができる。
【0018】
金属アルミニウムにも同様の効果が期待できるが、金属アルミニウムの場合、反応後に空洞を形成する他、融点が低いことから摺動面内部でも反応が進行し、炭化アルミニウム或いは炭化アルミニウムを経由してアルミナを生成する。このことから、AlCと比較して、酸化防止効果の持続性が乏しく、さらに焼結により組織が過度に緻密化され耐スポーリング性を低下させる。
【0019】
以上のことから、AlCを適用すれば、「面荒れ」の要因の一つと考えられている、熱衝撃による組織の緩みも緩和され、さらに高い「耐面荒れ性」の効果を得ることができる。
【0020】
同じアルミニウムオキシカーバイドであるAlOCでも同様の効果が期待できるが、AlOCは、図3のAl−Al系状態図に示されるように高温域でのみ安定であり、常温では順安定相として存在する。このことからAlOC組成物を、とくに電気炉を用いた溶融法によって安定して製造することは困難であり、AlOCの特性や品質をコントロールすることが困難である。これに対して、AlCは、常温で安定相として存在することから、安定した品質の原料を工業的に製造することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐酸化性、耐食性及び耐スポーリング性に加え、耐面荒れ性にも優れたSNプレートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】耐面荒れ性を評価するための液相酸化試験の装置を示す。
【図2】液相酸化試験による鋼浴部の脱炭層厚みとストローク消化速度(耐面荒れ性)との関係を示す。
【図3】Al−Al系状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で使用するAlCは、炭素質原料とアルミナ原料とを焼成炉で熱処理する焼結法、あるいはアーク炉で溶融する溶融法によって製造することができる。とくに本出願人が特願2009−82729で提案したように、50メッシュ以下の炭素質原料と100メッシュ以下のアルミナ質原料とからなる配合物を、C成分のばらつきが±10%以内となるように均一に混合し、この混合物をアーク炉で溶融することによって、高純度のAlCを製造することができる。
【0024】
このAlCと、他の耐火原料とを所定の割合で混合し成形した後に焼成することで、本発明のSNプレートが得られる。必要に応じて焼成後に、ピッチ含浸してもよい。
【0025】
本発明のSNプレートは、鉱物相としてAlCを5〜95質量%含有する。AlCの含有量が5質量%未満では、「耐面荒れ性」及び耐スポーリング性に関して十分な効果を得ることができない。一方、95質量%を超えると、AlCの反応に起因した体積変化により焼成亀裂が生じ、SNプレートを製造することができない。AlCの含有量は、好ましくは40〜95質量%であり、さらに好ましくは70〜95質量%である。
【0026】
また、本発明のSNプレートは、熱膨張係数が8×10-6/K以下であることが好ましい。熱膨張係数が8×10-6/Kを超えると、ノズル孔からの放射状亀裂、ノズル孔のエッジ欠け等、熱応力に起因した損耗が大きくなる。さらに、ノズル内孔部は鋳造時、高温となり膨張することからエッジ欠けが生じるだけでなく、SNプレート面間からエアーが進入し、摺動面の酸化及び損耗を促進する要因となる。よって熱膨張係数としては8×10-6/K以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明のSNプレートは、常温での曲げ強さが10MPa以上60Mpa以下であることが好ましい。SNプレートは、SN装置に装着され拘束された条件下で使用される。このことから、拘束力に対して十分な強度を持たない場合は、特異な亀裂を生じトラブルの要因となる。また、強度と弾性率には相関関係があり、強度が高くなるほど弾性率は高くなる傾向がある。このことから、強度が過剰にある場合は耐スポーリング性が低下し、例えば、エッジ欠け等により耐用性を低下させる要因となる。
【実施例】
【0028】
AlC、アルミナ骨材原料、ジルコニア系原料、焼結材としてアルミニウム及び/又はシリコン、並びにカーボンを主として、所定の割合で配合した耐火原料配合物に、フェノール樹脂を所定の割合で添加し、混合、成形した後に所定の条件で焼成し、さらにピッチ含浸、コーキングすることにより製造されたれんがの特性を評価した(表1〜3)。具体的には、耐スポーリング性、熱膨張率及び「耐面荒れ性」及び耐食性を評価した。
【0029】
耐スポーリング性は、1600℃の溶鋼に3分浸漬した後の亀裂の状況から良否を判断した。表1〜3中、○は亀裂が軽微であり良好、△は小さい亀裂が発生、×は大きい亀裂が生じ不良であることを示す。
【0030】
熱膨張係数は、SNプレートのエッジ欠けの評価指標として有効である。すなわち、熱膨張係数が小さいほど、溶鋼流により高温となるノズル内孔部の膨張が抑えられることから熱応力は低く、エッジ欠けは生じにくい。熱膨張係数は、JISR2207によって測定した1500℃での熱膨張率から算出した。
【0031】
また、SNプレートにとって重要な特性である「耐面荒れ性」に関して、図1に示す誘導炉を用いた液相酸化試験において溶鋼と耐火物(サンプル)の反応により生じた鋼浴部の脱炭層厚みを、ベース材質である比較例1の厚みを100として指数化して評価した。鋼浴部の脱炭層厚み指数が小さいほど「耐面荒れ性」が良好である。
【0032】
また、耐食性については、誘導炉において溶鉄と酸化鉄粉を用い、1600℃で2時間溶損試験を行い溶損量を評価した。表1〜3では、比較例1の溶損量を100として指数化しており、指数が小さいほど耐食性に優れる。
【0033】
化学成分は、X線回折及びJISR2212、2216に規定の耐火物の分析法により化学分析を行った。具体的には、内部標準法によるX線回折結果により先ずAlCを定量化し、JISR2212、2216に規定の分析結果から、定量化したAlC量に相当するAl量及びC量を除き、残部のZrO、Al、C含有量を算出した。化学成分の合計が100%に満たないものは、残部に、アルミニウムやシリコンなどの金属或いは、これらの反応物である炭化物、酸窒化物、窒化物、さらに炭化物、硼化物などの酸化防止剤の成分が含まれる。
【0034】
表1は、AlCの含有量を変化させた場合を示す。表1中、実施例1〜4はAlCの含有量が本発明の範囲内にあり、「耐面荒れ性」及び耐スポーリング性に優れている。熱膨張率は、AlCの含有量が多いほど低下する傾向にある。これに対して、比較例1及び2はAlCの含有量が本発明の範囲より少なく、「耐面荒れ性」及び耐スポーリング性に劣る。熱膨張率は、実施例と比較して高く、エッジ欠けを改善する効果が小さい。また、比較例3はAlCの含有量が本発明の範囲よりも多いことから、焼成時のAlCの体積変化により亀裂が生じた。
【0035】
表2は熱膨張係数を変化させた場合を示す。熱膨張係数は、低熱膨張率の骨材原料であるアルミナジルコニアやジルコニアムライトなどのジルコニア系原料、ムライトや溶融シリカなどのSiO含有骨材、炭化珪素や炭化硼素さらには、窒化珪素、窒化アルミニウム等の炭化物、窒化物の添加量、さらにはカーボン添加量、焼成温度、焼成時間などで調整することが可能である。表2では、本発明の範囲内で低熱膨張率骨材であるAlC及びアルミナジルコニア原料、カーボンの添加量、並びに焼成温度を調整し、熱膨張係数を変化させた。いずれも「耐面荒れ性」に関しては十分な効果が得られているが、実施例5は、熱膨張係数が8.1×10-6/Kと高く、耐スポーリング性の評価は、熱膨張係数が8.0×10-6/K以下である実施例6〜9と比較して劣る。したがって、熱膨張係数が8.0×10-6/K以上では、熱応力による損耗が問題になる場合がある。
【0036】
表3は常温での曲げ強さを変化させた場合を示す。常温での曲げ強さはアルミニウムやシリコンなど焼結材としての金属の添加量、焼成温度や焼成時間などの焼成条件、混合した耐火原料配合物の充填密度や粒度構成などにより調整することが可能である。表3では、本発明の範囲内で金属添加量及び粒度構成を調整することで常温での曲げ強さを変化させた。いずれも「耐面荒れ性」に関しては十分な効果が得られているが、実施例10は、常温での曲げ強さが10MPa以下と強度が低いため、実機使用において摺動面に特異な亀裂が生じるおそれがある。また、実施例14は、常温での曲げ強さが60Mpa以上と高強度であり、耐スポーリング性試験において、実施11〜13と比較して劣り、ノズル孔エッジ欠損等の実機での熱応力による損耗が懸念される。実施例11〜13は、十分な曲げ強さを得ることができており、「耐面荒れ性」も良好である。
【0037】
以上説明した実施例及び比較例のうち、実施例2、実施例5、実施例12及び比較例2について、実形状のSNプレートを作製し、実機テストを行った。本発明の実施例はいずれも比較例2と比較して摺動面の損傷である「面荒れ」が軽微であり、耐用性が向上した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物相としてAlCを5〜95質量%含有するスライディングノズルプレート。
【請求項2】
熱膨張係数が8×10-6/K以下である請求項1に記載のスライディングノズルプレート。
【請求項3】
常温での曲げ強さが10MPa以上60Mpa以下である請求項1又は2に記載のスライディングノズルプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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