説明

スライディングノズル駆動装置

【課題】非常時にスライディングノズルを確実に動作させることができるスライディングノズル駆動装置を提供する。
【解決手段】本発明によるスライディングノズル駆動装置100は、取鍋からの溶鋼の流出量を制御するスライディングノズル駆動装置であって、スライディングノズルを動作させる駆動力を供給する駆動源9と、該駆動源9からの駆動力をスライディングノズルに伝達する伝達手段11と、該伝達手段11と直結する一方、駆動源9とは遮断可能に連結する連結手段10とを有し、さらに伝達手段11に連結可能な非常用駆動源14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋からの溶鋼の流出量を制御するスライディングノズルを動作させるスライディングノズル駆動装置に関し、特に、非常時にスライディングノズルを確実に動作させることができるスライディングノズル駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライディングノズルは、取鍋や連続鍛造のタンディッシュに設けられ、溶融金属、特に、鉄鋼業においては溶鋼の流量制御を行う装置として使用されている。このスライディングノズルは、例えば上ノズルを有する上プレートの下面に、摺動自在に取り付けられた下ノズルを有する下プレートからなり、スライディング駆動装置により下プレートを上プレートに対して摺動させることにより、取鍋等から排出される溶鋼の流量を制御する。
【0003】
図1は、こうしたスライディングノズルを用いた溶鋼の鋳込工程の一例を示す図である。この図において、溶鋼が装入される取鍋1の底部にスライディングノズル2が設けられており、上ノズルUNを有する上プレート2aおよび下ノズルLNを有する下プレート2bからなる。ここで、下プレート2bは、スライディングノズル駆動装置3に連結されており、ベルクランク4およびアーム5を介してスライディングノズル駆動装置3からの駆動力により上プレート2aに対して摺動する。この下プレート2bの下ノズルLNにはロングノズル6が接続され、このロングノズル6の下プレート2b側の一端は支持部7により支持されている。また、ロングノズル6の他端はタンディッシュ8の内部に配置されており、このロングノズル6を介して取鍋1から排出された溶鋼がタンディッシュ内部に供給される。
【0004】
取鍋1から排出される溶鋼の流量制御は、スライディングノズル駆動装置3により供給される駆動力が、ベルクランク4およびアーム5を介して、スライディングノズル2の下プレート2bを上プレート2aに対して摺動させ、ノズル穴の開度を調整することにより行うことができる。
【0005】
こうしたスライディングノズル駆動装置3は、スライディングノズル2を動作させる駆動力を供給する駆動源と、該駆動源に連結され、駆動力をスライディングノズル2に伝達する伝達手段とを有するのが一般的である。ここで、伝達手段は、例えば減速機や、下プレート2bを摺動させるための駆動力を与えるシリンダからなる。
【0006】
上記シリンダとしては、電動シリンダまたは油圧シリンダが用いられるのが一般的である。このうち、油圧シリンダは、スライディングノズル2の停止位置の制御を精度よく行えるため、ノズル穴の開度制御を細かく行える利点があるが、取鍋1の周辺は高温になるため、高温雰囲気下での作動保証が確実な、電動シリンダが安全上の観点から広く用いられている。
【0007】
しかし、電動シリンダを用いる場合、スライディングノズル駆動装置3における駆動源への電源ケーブルが損傷した場合や、駆動源の内外における配線が断線した際に、スライディングノズル2が動作不能になるおそれがある。
【0008】
そこで、従来、駆動源の減速機が連結されていない方に非常用駆動源を設けることにより、上記した非常時における駆動力を確保することが行われてきた。例えば、特許文献1には、駆動源としてのエアモータを取り付けて圧縮空気を供給することにより、非常用の駆動力をスライディングノズルに供給する技術について記載されている。
また、特許文献2には、駆動源の減速機が連結されていない方の軸を延長し、その先端に回転軸変換用の傘歯車からなる非常用駆動力外挿機構を設け、外部から非常用の駆動力を伝達させる技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−281417号公報
【特許文献2】実開昭59−85666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、駆動源と、該駆動源からの駆動力をスライディングノズル2に伝達する、例えば減速機およびシリンダからなる伝達手段との間には、過剰なトルク負荷から駆動源を保護するための、摩擦クラッチ等の連結手段が設けられているのが一般的である。
【0011】
しかし、例えば摩擦クラッチの劣化やゆるみ等により、摩擦クラッチの滑りトルク設定が不適切になっている場合には、非常時に、非常用駆動源や非常用駆動力外挿機構により駆動源の回転軸を回転させようとしても、駆動源と伝達手段との間の連結が遮断されてしまい、スライディングノズル2を駆動できないおそれがあった。
また、駆動源におけるベアリングが破損した場合や回転軸が破損して機械的に回転不能となった場合にも、非常用駆動源による駆動力を伝達手段に供給できず、スライディングノズル2を動作させることができないことが問題となっていた。
【0012】
そこで、本発明の目的は、非常時に、スライディングノズルを確実に動作させることができるスライディングノズル駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。その結果、非常時に、非常用駆動力をスライディングノズルに確実に供給するためには、非常用駆動力を既存の駆動源および連結手段を介さずに伝達手段に伝達させることが肝要であり、そのためには、非常用駆動源を伝達手段に連結可能に構成することが有効であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0014】
即ち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)取鍋からの溶鋼の流出量を制御するスライディングノズルの駆動装置であって、前記スライディングノズルを動作させる駆動力を供給する駆動源と、該駆動源からの駆動力を前記スライディングノズルに伝達する伝達手段と、前記伝達手段と直結する一方、前記駆動源とは遮断可能に連結する連結手段とを有し、さらに前記伝達手段に連結可能な非常用駆動源を有するスライディングノズル駆動装置。
【0015】
(2)前記連結手段は摩擦クラッチである、前記(1)に記載のスライディングノズル駆動装置。
【0016】
(3)前記非常用駆動源はエアモータである、前記(1)または(2)に記載のスライディングノズル駆動装置。
【0017】
(4)前記非常用駆動源と直結する一方、前記伝達手段とは連結可能に遮断された非常用連結手段を更に備える、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のスライディングノズル駆動装置。
【0018】
(5)前記非常用連結手段はピストンクラッチである、前記(4)に記載のスライディングノズル駆動装置。
【0019】
(6)前記非常用連結手段は前記非常用駆動源と前記伝達手段との間で着脱可能である、前記(4)または(5)に記載のスライディングノズル駆動装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、非常用駆動源が駆動源および連結手段を介さずに伝達手段に連結可能に構成されているため、非常時に駆動源や連結手段が正常に動作しない場合にも、スライディングノズルを確実に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】溶鋼の鋳込工程の一例を示す図である。
【図2】本発明によるスライディングノズル駆動装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図2は、本発明によるスライディングノズル駆動装置を示す図である。このスライディングノズル駆動装置100は、スライディングノズル2を動作させる駆動力を供給する駆動源9と、該駆動源9からの駆動力をスライディングノズル2に伝達する伝達手段11と、該伝達手段11と直結する一方、駆動源9とは遮断可能に連結する連結手段10とを有し、さらに伝達手段10に連結可能な非常用駆動源14を有する。また、伝達手段11は、減速機12とシリンダ13からなり、減速機12は、ピニオン軸12aと、第1のギア12bと、第2のギア12cとを有する。
【0023】
本発明によるスライディングノズル駆動装置100においては、非常時に、非常用駆動源14からの非常用駆動力を、駆動源9および連結手段10を介さずに伝達手段11に伝達させることが肝要であるとの発明者らの知見の下、伝達手段11に連結可能な非常用駆動源14を有しているため、駆動源9や連結手段10が正常に動作しない場合にも、非常時に、非常用駆動力を伝達手段11に伝達させて、スライディングノズル2を確実に動作させることができるのである。以下、本発明のスライディングノズル駆動装置100の各構成について説明する。
【0024】
駆動源9は、スライディングノズル2の動作させる駆動力を供給する。この駆動源9としては、例えば電動モータを用いることができる。
【0025】
連結手段10は、伝達手段11と直結する一方、駆動源9とは遮断可能に連結されており、過剰なトルクが負荷される場合に、駆動源9と伝達手段11との間の連結を遮断して駆動源9を保護するように構成されている。また、駆動源9に問題があり、駆動源の回転軸が回転不能になった場合にも、非常用駆動源14により、スライディングノズル2を動作させることができる。
【0026】
この連結手段10としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。摩擦クラッチの種類は多種多様であり、単板、多板、また、乾式、湿式と様々なものが存在する。また動作原理も、機械式、油圧式、電磁式があるが、本発明のスライディングノズル駆動装置100においては、これらのいずれも用いることができる。摩擦クラッチの一般的な構造としては、摩擦面を有する駆動軸と従動軸とを有しており、図2を参照して摩擦クラッチの原理を説明すると、摩擦面10aと10bとの間の摩擦力により、駆動源9から供給された駆動力が伝達手段11に伝達される。しかし、予め設定された値を超えるトルクがかかると、摩擦面10aと10bとの間において滑りが生じ、駆動源9と伝達手段11との間の結合が遮断される。こうして、駆動源9の回転軸に過度なトルクがかかることが抑制され、駆動源9を保護することができる。
【0027】
伝達手段11は、駆動源9から連結手段10を介して供給される駆動力を、スライディングノズル2に伝達する。本発明において、「伝達手段」とは、連結手段10とスライディングノズル2との間に介在する駆動力の経路を構成する、駆動力をスライディングノズル2に伝達する全ての構成を意味している。図1に示した構成においては、減速機12およびシリンダ13から構成され、この減速機12は、ピニオン軸12a、第1のギア12bおよび第2のギア12cからなる3段減速機であるが、これらに限定されない。ただし、上述のように、駆動源9が連結されていない方のピニオン軸12aの端部に、非常用駆動源14を連結可能に構成する必要があるため、シリンダ13をピニオン軸12aに直結させないように構成する必要がある。
【0028】
駆動源9を駆動させると、連結手段10を介してピニオン軸12aが回転し、これに伴って2つのギア12bおよび12cも回転し、シリンダ13が長手方向に伸縮運動する。
【0029】
非常用駆動源14は、非常時における駆動力を供給する。上述の駆動源9、連結手段10および伝達手段11により、通常時にスライディングノズル2を動作させることができるが、非常用駆動源14は、駆動源9または連結手段10に何らかの問題が発生した場合、例えば、駆動源9におけるベアリングが故障したような場合に、スライディングノズル2を動作させるための非常用駆動力を供給する。上述のように、本発明においては、非常用駆動力を、駆動源9および連結手段10を介さないで伝達手段11に伝達させることが肝要であり、駆動源9が連結されていない方の伝達手段11の端部に連結可能に構成されている。
この非常用駆動源14としては、エアモータや電動モータ等を使用できる。装置の小型化および非常用駆動力を供給する上での利便性から、エアモータを用いることが好ましい。
【0030】
このように、非常用駆動源14は伝達手段11に直結されているため、非常時に、駆動源9や連結手段10に問題がある場合にも、非常用駆動力を伝達手段11に伝達し、スライディングノズル2を確実に動作させることができる。
また、非常用駆動源14は、伝達手段11を構成するピニオン軸12aに対して駆動源9の反対側に直結されているため、本発明によるスライディングノズル駆動装置100をスライディングノズル2に連結すると、従来のスライディングノズル駆動装置に比べて取鍋1の下部から離れて位置することになる。これにより、万一、何らかの理由によりスライディングノズル2が動作不可能になり、溶融金属の流量制御が不可能になった場合にも、溶融金属の影響を受けにくくなる。
更に、ロングノズル6の支持部7の形状によっては、アーム5が駆動源9の近傍まで移動するため、駆動源9の周囲には非常用駆動源14を設けるスペースがない場合があるが、本発明によるスライディングノズル駆動装置100においては、こうしたスペースの心配無しに非常用駆動源14を取り付けることが可能となる。
【0031】
以上の本発明によるスライディングノズル駆動装置100は、駆動源9の駆動により連結手段10を介して減速機12のピニオン軸12aが回転し、これに伴って、2つのギア12bおよび12cも回転し、シリンダ13が長手方向に伸縮運動する。このシリンダ13の伸縮運動がベルクランク4およびアーム5を介してスライディングノズル2の下ノズル2bを摺動させ、取鍋1から排出される溶融金属の流量を調節することが可能となる。
【0032】
このように、本発明のスライディングノズル駆動装置によれば、非常用駆動源が駆動源および連結手段を介さずに伝達手段に直結されているため、非常時に駆動源や連結手段に問題がある場合にも、スライディングノズルを確実に動作させることができる。
【0033】
上記の本発明のスライディングノズル駆動装置100において、非常用駆動源14と伝達手段11との間に、非常用連結手段15を設け、平常時には、非常用駆動源14と伝達手段11との連結を遮断し、非常時にのみ、非常用駆動源14を伝達手段11に連結させることが好ましい。これにより、平常時における駆動源9の回転軸の回転により、非常用駆動源14の回転軸の回転が防止され、非常用駆動源14の寿命を向上させることができる。
【0034】
このような非常用連結手段15としては、例えばエア駆動のクラッチ(以下、「ピストンクラッチ」と称する)を用いることができる。図2を参照してピストンクラッチの動作を説明すると、通常時には、ばね15cにより非常用駆動源14と伝達手段11のピニオン軸12aとが切り離されているが、非常時に、圧縮空気供給口15aからピストン15bの内部に圧縮空気を供給すると、ピストン15b内部の圧力上昇に伴って、ばね15cが押し縮められ、非常用駆動源14の係合部とピニオン軸12aの係合部とが係合する。こうして、非常用連結手段15を設けることにより、非常時にのみ、非常用駆動源14を伝達手段11に連結させ、非常用駆動力を供給してスライディングノズル2を動作させることが可能となる。
【0035】
更に、上記非常用連結手段15を設ける場合には、該非常用連結手段15は、非常用駆動源14と伝達手段11との間で着脱可能に構成されていることが好ましい。従来、シリンダ13のストローク調整等を行う際には、駆動源9が連結されていない方のピニオン軸12aの端部を用いて減速機12を手動で回転させて行っていたが、上述のように、本発明によるスライディングノズル駆動装置100においては、この駆動源9が連結されていない方のピニオン軸12aの端部には、非常用駆動源14が非常用連結手段15を介して連結されている。そのため、上述のような調整を行うためには、非常用連結手段15を一旦取り外し、調整後に再度取り付ける必要がある。
【0036】
そこで、非常用連結手段15を非常用駆動源14と伝達手段11との間で嵌め込み式に着脱可能に構成されていることにより、非常用連結手段15を再度取り付ける際に、非常用駆動源の回転軸とピニオン軸12aとの回転軸の中心合わせ(芯出し)を行う必要がなくなり、作業効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 取鍋
2 スライディングノズル
2a 上プレート
2b 下プレート
3,100 スライディングノズル駆動装置
4 ベルクランク
5 アーム
6 ロングノズル
7 支持部
8 タンディッシュ
9 駆動源
10 連結手段
10a,10b 摩擦面
11 伝達手段
12 減速機
12a ピニオン軸
12b 第1のギア
12c 第2のギア
13 シリンダ
14 非常用駆動源
15 非常用連結手段
15a 圧縮空気供給口
15b ピストン
15c ばね
UN 上ノズル
LN 下ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋からの溶鋼の流出量を制御するスライディングノズルの駆動装置であって、
前記スライディングノズルを動作させる駆動力を供給する駆動源と、
該駆動源からの駆動力を前記スライディングノズルに伝達する伝達手段と、
前記伝達手段と直結する一方、前記駆動源とは遮断可能に連結する連結手段と、
を有し、さらに前記伝達手段に連結可能な非常用駆動源を有するスライディングノズル駆動装置。
【請求項2】
前記連結手段は摩擦クラッチである、請求項1に記載のスライディングノズル駆動装置。
【請求項3】
前記非常用駆動源はエアモータである、請求項1または2に記載のスライディングノズル駆動装置。
【請求項4】
前記非常用駆動源と直結する一方、前記伝達手段とは連結可能に遮断された非常用連結手段を更に備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスライディングノズル駆動装置。
【請求項5】
前記非常用連結手段はピストンクラッチである、請求項4に記載のスライディングノズル駆動装置。
【請求項6】
前記非常用連結手段は前記非常用駆動源と前記伝達手段との間で着脱可能である、請求項4または5に記載のスライディングノズル駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75309(P2013−75309A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216109(P2011−216109)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】