説明

スラグ排出方法

【課題】 溶鋼の汚染を防止しつつ、スラグの排滓効率を向上させる。
【解決手段】鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記不活性ガスは、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量が所定値以下になるように吹き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュ内のスラグを連続鋳造終了後に排出するスラグ排出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼魂(鋳片)を連続的に鋳造する連続鋳造装置では、取鍋から溶鋼をタンディッシュ内へ注入し、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型に供給して表面が冷却された鋳片を鋳型から引き抜くことにより連続鋳造が行われている。
取鍋交換を行う連々鋳造を実施するにあたっては、タンディッシュの浴面には、取鍋スラグの流入や溶鋼の酸化等によりスラグ層が形成されるが、このスラグの厚みはチャージ数の増加に伴って次第に増加する傾向がある。また、前記スラグは時間の経過に伴ってスラグの温度が低下して固体化する傾向にある。
【0003】
タンディッシュを熱間で再使用する場合、タンディッシュ内のスラグを除去する必要があるが、固体化したスラグはタンディッシュの側壁に固着するなどして、流動化したスラグに比べると排出作業は非常に困難である。そこで、スラグを流動化した状態で排出しようとする方法が考えられている。
スラグを流動化する方法として、連続鋳造中にスラグの温度を下げてしまわない、即ち、連続鋳造中におけるスラグの温度低下を防止することが考えられる。
また、スラグを流動化する他の方法として、スラグの排出をする前に、スラグの粘度を下げておくことも考えられる。
【0004】
前者の方法として、特許文献1にその技術が開示されている。即ち、特許文献1では、連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込んで溶鋼を攪拌することにより、溶鋼の熱をタンディッシュ内のスラグに伝達し、スラグの温度低下を防止している。
また、特許文献1では、不活性ガスを吹き込みつつ、フラックスをスラグに添加することでスラグの低粘化しており、後者の方法も採用している。
【特許文献1】特開2003−326341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、不活性ガスを溶鋼に吹き込めば スラグの温度低下を防止することができるが、不活性ガスの吹き込み状況によっては、溶鋼の攪拌が強くなりすぎて溶鋼中にスラグが混入し、スラグで溶鋼を汚染してしまう恐れがあるので、溶鋼の攪拌強度には十分注意する必要がある。
特許文献1では、不活性ガスの吹き込み量のみから溶鋼の攪拌強度を調整しているが、
溶鋼の量が変化した場合における不活性ガスの吹き込み量の調整が考慮されていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、最適な不活性ガスの吹き込み量を提供し、スラグで溶鋼を汚染するのを防止しつつ、スラグの排滓効率を向上させることを目的とする。
不活性ガスの吹き込みは排滓効率を上げるために行うのであるが、排滓効率を上げるためには不活性ガスの吹き込み時期を考慮する必要がある。
例えば、スラグを排出する直前に不活性ガスを吹き込んだ場合、スラグの多くが既に固体化しているため、溶鋼の熱がそのスラグに伝わり難く、流動化するスラグの総量が少なく排滓効率があまり向上しないことがある。特許文献1では、不活性ガスの吹き込み時期が考慮されていない。
【0007】
そこで、本発明は、不活性ガスの吹き込み時期の適正化を図り、スラグの排滓効率を向上させることを目的とする。
不活性ガスを吹き込んでスラグの流動化を図っても、スラグを排出する際に長時間要した場合、スラグの温度が低下してそのスラグが固体化し排滓効率があまり向上しないことがあるので、スラグを排滓する時間が長引いても排滓効率が低下しないように、スラグの排出前においてスラグの温度が下がらないようにする工夫が必要であるが、特許文献1には、その工夫がない。
【0008】
そこで、本発明は、スラグの温度が低下しないようにして、スラグの排滓効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。即ち、本発明は、鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記不活性ガスをタンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように吹き込む点にある。
本発明では、連続鋳造中に不活性ガスを吹き込むことで、溶鋼の熱がスラグに与えられ
スラグ温度が上昇し、スラグの流動化が促進されてスラグの排滓効率を向上させることができる。
【0010】
また、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように不活性ガスを吹き込んでるために、溶鋼の量が変化した場合であっても不活性ガスの吹き込みによる溶鋼の攪拌強度を制御することが可能となり、これにより、スラグで溶鋼を汚染するのを防止しつつ、スラグの排滓効率を向上させることができる。
なお、前記スラグの排滓効率は、[1−タンディッシュ内からスラグを排出した後に残留した残留スラグ重量/スラグを排出する前のスラグの重量]で示されるもので、排出前のスラグ重量に対する排出されたスラグの重量の割合を示したものである。
【0011】
他の本発明は、鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記不活性ガスを鋳造開始から鋳造終了まで吹き込む点にある。
本発明では、不活性ガスを鋳造開始から鋳造終了まで吹き込んでいるので、常にスラグに熱を与えることができる。
したがって、時間経過によるスラグの温度の下降を抑えて固体化するスラグの総量を減らし、流動化したスラグの総量が増えるので、排滓効率を向上させることができる。
【0012】
他の本発明は、鋼の連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを、連続鋳造終了後に外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記スラグを排出する前に、スラグの量に応じたAlを該スラグに添加してスラグを発熱させる点にある。
本発明では、スラグを排出する前に、スラグにAlをスラグに添加することで、スラグとAlとの反応熱でスラグ温度をさらに上昇させ、スラグの流動化を促進することができるためスラグの排滓効率が向上する。また、スラグの量に応じたAlを添加しているので、添加したAlの殆どがスラグに反応することになる。
【0013】
したがって、添加したAlが溶鋼中に入ることが少なくなるので、溶鋼のAl成分を規格値範囲に留めることが可能となり、Al添加による溶鋼の汚染を防止することができる。
他の本発明は、鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記不活性ガスをタンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように鋳造開始から鋳造終了まで吹き込む点にある。
【0014】
本発明では、不活性ガスを吹き込むことで、溶鋼の熱がスラグに与えられスラグ温度が上昇し、スラグの流動化が促進されてスラグの排滓効率が向上すると共に、流動化したスラグの総量が増えるので、この点からも排滓効率を向上させることができる。
他の本発明は、鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記不活性ガスをタンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように吹き込み、前記スラグを排出する前に、スラグの量に応じたAlを該スラグに添加してスラグを発熱させる点にある。
【0015】
本発明では、不活性ガスの吹き込みによりスラグ温度が上昇すると共に、Alの添加によりさらにスラグ温度が上昇し、スラグの流動化が促進されてスラグの排滓効率が向上する。
また、溶鋼とスラグとの混ざり合いによる溶鋼の汚染を防止することができると共に、添加したAlが溶鋼中に入ることを少なくして、この点からも溶鋼の汚染を防止することができる。
他の本発明は、鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、前記不活性ガスは、鋳造開始から鋳造終了まで吹き込み、前記スラグを排出する前に、スラグの量に応じたAlを該スラグに添加してスラグを発熱させる点にある。
【0016】
本発明では、流動化したスラグの総量が増えるので、排滓効率を向上させることができると共に、Alの添加によりさらにスラグ温度が上昇し、スラグの流動化が促進されてスラグの排滓効率が向上する。また、添加したAlによる溶鋼の汚染も防止できる。
前記不活性ガスを溶鋼に吹き込む場合は、タンディッシュの底部に不活性ガスを吹き込む吹き込み部を設け、前記タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hは[式1]を満たすことが好ましい。
H×I1/3/(184−44.5I)<1.5 ・・・(1)
ただし、I:ガス吹き込み部からタンディッシュ内の溶鋼の浴面までの深さ(m)
H:タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量(mm)
タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hは、ガス吹き込み部からタンディッシュ内の溶鋼の浴面までの深さIに関係していることから、H,I値を変化させて、溶鋼内の[O]t濃度(言い換えれば、酸化物の量)を測定する実験を行った。前記[式1]を満たせば、溶鋼とスラグとの混ざり合いによる溶鋼内の酸化物の増加を抑えることができ、溶鋼の汚染を防止できることを見いだした。なお、不活性ガスの流量や圧力は、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hを基準として決められる。
【0017】
前記Alをスラグに添加する場合は、Alの添加量Xは、[式2]を満たすことが好ましい。
0.013M<X<0.03M ・・・(2)
M:スラグ重量(kg)
X:添加量(kg)
発明者らは、スラグの量Mに対して添加するAlの添加量Xを変化させて、この時におけるスラグの排滓効率と溶鋼内のAl成分の変動を測定する実験を行った。前記[式2]を満たせば、スラグの排滓効率を向上させることができると共に、溶鋼内のAl成分が規格値よりも外れないようにして溶鋼の汚染が防止できることを見いだした。
【0018】
前記不活性ガスを溶鋼に吹き込む場合は、前記タンディッシュの底部に不活性ガスを吹き込む吹き込み部を設け、前記ガス吹き込み部の最小幅wは、[式3]を満たすことが好ましい。
w≧0.3W−0.22I ・・・(3)
ただし、W:ガス吹き込み部の上方におけるタンディッシュ内の溶鋼の浴面幅(m)
I:ガス吹き込み部からタンディッシュ内の溶鋼の浴面までの深さ(m)
w:ガス吹き込み部の最小幅(m)
本発明では、吹き込み部の最小幅wを、前記浴面幅Wと前記深さIとの関係から設定することで、スラグの排滓効率を向上させている。
【0019】
スラグの排滓効率を向上させるためには、鋳造中においてスラグの温度を下げないようにして時間経過に伴うスラグの固体化を防止すると共に、スラグ全体にわたって出来るだけ満遍なく熱を与えることが必要である。
これから考えると、スラグ全体に熱を与えるためには、出来るだけ溶鋼全体にわたって溶鋼を攪拌することが重要となるので、発明者らは、溶鋼の攪拌に影響を及ぼす要素の一つであるガス吹き込み部の幅,溶鋼の浴面幅,溶鋼の浴面までの深さを考慮し、実験でこれらの要素をそれぞれ変更しながら排滓効率を測定したところ、前記[式3]を満たせば排滓効率を向上させることができることを見いだした。
【0020】
前記Alをスラグに添加する場合や不活性ガスを溶鋼に吹き込む場合のどちらにおいても、スラグを排出する前に、スラグを低融点化且つ低粘性化するフラックスをスラグに添加することが好ましい。
本発明では、スラグを低融点化又は低粘性化するフラックスをスラグに添加しているので、スラグの流動化が促進されてスラグの排出性が向上する。
しかしながら、フラックスを添加すればスラグが低粘性化してスラグが排出し易くなり排滓効率は上昇するが、フラックスをスラグに添加するとタンディッシュの耐火物が溶損する。
【0021】
そこで、本発明では、フラックスを添加する時期は、鋳造最後に使用される取鍋がタンディッシュへの溶鋼注入を完了する15分前〜5分前であることが好ましい。なお、タンディッシュの溶鋼は取鍋から注入される。
即ち、発明者らはフラックスを添加する時期を変化させて、フラックスの添加時期に対するスラグの排滓効率を測定する実験を行った。
実験によれば、鋳造最後に使用される取鍋がタンディッシュへの溶鋼注入を完了する15分前〜5分前であるときにフラックスを添加すれば、耐火物の溶損を出来るだけ防止しつつ、スラグの排滓効率を上げることができることを見いだした。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スラグの排滓効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明のスラグ排出方法が適用されるタンディッシュを有する連続鋳造装置の一例について説明する。ただし、本発明はこの設備を使用するものに限定されるものではない。
図1に示すように、連続鋳造装置1は、転炉(図示省略)で精錬された溶鋼2を収容する取鍋3と、該取鍋3を載置する受台4と、該受台4に載置された取鍋3から注入される溶鋼2を貯留するタンディッシュ5と、該タンディッシュ5から供給される溶鋼2を成型する鋳型6と、該鋳型6により成型された鋳片7を引き抜き且つサポートする複数のサポートロール8とを有している。
【0024】
図2に示すように、前記タンディッシュ5は、全体として有底箱形となっており、その長手方向両端部に浸漬ノズル10が設けられている。浸漬ノズル10は、例えばその上部に付設されたストッパーやバルブ等により開閉可能となっており、ストッパーやバルブの開閉により浸漬ノズル10を介してタンディッシュ5による鋳型6への溶鋼の注入が停止又は再開できるようになっている。
タンディッシュ5の底部5aには、タンディッシュ5内の溶鋼2に不活性ガスを吹き込むための複数の吹き込み部12が設けられている。
【0025】
図3に示すように、各吹き込み部12は、平面視でタンディッシュ5の幅方向中央部に配置されると共に、取鍋3の注入ノズル13と浸漬ノズル10との間に配置されている。なお、取鍋3の注入ノズル13は、タンディッシュ5の長手方向中央部に位置している。
吹き込み部12は、筒状に形成されて不活性ガス吹き込むための口径を変えることができるようになっており、例えば、連続鋳造の開始前に、吹き込み部12の先端に口径の異なる様々な吹き込みノズルを装着することによって吹き込み部12の口径を変更することも可能である。
【0026】
吹き込み部12から吐出する不活性ガスの流量や圧力は、調整自在となっている。また、吹き込み部12の口径、即ち、後述するように、吹き込み部12の最小幅wは、上記で示したように変更することもできる。また、吹き込み部12の高さも、上記のように吹き込み部12の口径を変更する際に変更することもできる。
したがって、取鍋3の注入ノズル13を介して取鍋3の溶鋼2をタンディッシュ5内へ注入し、タンディッシュ5の浸漬ノズル10を介してタンディッシュ5内の溶鋼2を鋳型6に供給して表面が冷却された鋳片7を鋳型から引き抜くことにより連続鋳造が行われるようになっている。
【0027】
取鍋3内の溶鋼2がなくなると、受台4が回転して溶鋼2が貯留された新しい取鍋3がタンディッシュ5の直上に運搬され、タンディッシュ5内に新しい取鍋3から溶鋼2が引き続き注入され、これを繰り返し(数チャージ繰り返す)、チャージ数が所定の回数に達すると連続鋳造を終了する。
鋳造中おいて、時間の経過に伴ってタンディッシュ3内に徐々にスラグが形成されるが、鋳造終了後に、浸漬ノズル10に連なって設けられたバルブ10a(スライディングバルブ)を開にすることにより、浸漬ノズル10から流動化しているスラグを排出することができる。
【0028】
なお、鋳造終了後に、タンディッシュ3を傾けてタンディッシュ3の上部からスラグを外部に排出することもあり、又、タンディッシュ3を鋳造場所から別の場所に移した後に上記の方法等でスラグを外部に排出することもある。
本発明のスラグ排出方法は、鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ5内の溶鋼2に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造末期に、連続鋳造によってタンディッシュ5内に形成されたスラグにAlを添加し、連続鋳造終了後に、スラグを外部へ排出するようにしたもので、不活性ガスを吹き込むときは、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように吹き込み、Alを添加するときは、スラグの量に応じてAlを添加するようにしている。
【0029】
以下、具体的な本発明のスラグ排出方法を図2,4〜8を用いて説明する。
図4(a)は、連続鋳造の開始前の状態を示している。即ち、タンディッシュ5内には溶鋼2は貯留されておらず、鋳型6内にはダミーバー14が挿入され、タンディッシュ5における鋳型6への溶鋼2の注入は行われていない。
図4(b)に示すように、まず、取鍋3内の溶鋼2をタンディッシュ5へ注入し初め、
同時に吹き込み部12から不活性ガス(例えば、Arガス)の吹き込みを開始する。
図4(c)に示すように、タンディッシュ5内の溶鋼2の浴面レベルが所定高さになった時点で、タンディッシュ5における鋳型6への溶鋼2の供給を開始し、連続鋳造を開始する。連続鋳造開始後の不活性ガスの吹き込みは、不活性ガスの吹き込みによるタンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように吹き込む。そして、図2に示すように、取鍋3を交換しながら数チャージ連続鋳造を繰り返す。なお、この実施の形態では、鋳造開始から鋳造終了まで連続的に不活性ガスを吹き込んでいる。
【0030】
ここで、前記タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるということは、この上昇量Hが[式1]を満たすことである。
H×I1/3/(184−44.5I)<1.5 ・・・(1)
ただし、I:ガス吹き込み部からタンディッシュ内の溶鋼の浴面までの深さ(m)
H:タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量(mm)
前記[式1]は様々な実験を行って導き出したもので、[式1]を満たせば、溶鋼2とスラグSとの混ざり合いによる溶鋼2の酸化物の増加を抑えて、スラグS混入による溶鋼2の汚染を防止することができる。
【0031】
発明者らは、不活性ガスを吹き込む際において、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量H及びガス吹き込み部12からタンディッシュ5内の溶鋼2の浴面までの深さIをそれぞれ変化させ、このときにおける溶鋼2内の酸化物の量を測定した。
タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hは、不活性ガスを吹き込んだ際における溶鋼2の浴面状態を映像装置(例えばビデオ)で撮影し、この映像から溶鋼2の盛り上がり度合いを調べることで求めた。
なお、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hは、不活性ガスを吹き込んだときにタンディッシュ5内に棒等を挿入してタンディッシュ5の上部5bから浴面までの距離を測定すると共に、不活性ガスが吹き込まれていない部位のタンディッシュ5の上部5bから浴面までの距離を測定して、それぞれの距離の差より算出してもよい。
【0032】
図5は、上記実験の結果をまとめたもので、横軸は式1の値を示したものである。また、縦軸は溶鋼2内の[O]t濃度(言い換えれば、酸化物の量)を示すものである。ここで、縦軸の酸化物の濃度に関して、溶鋼2内の酸化物の濃度が30ppmを超えると、鋳片7を鋳造したときにこの鋳片7に含まれる酸化物の濃度が基準値を超えてしまい、鋼の品質が低下することから、酸化物の濃度は30ppm未満であることが良く、溶鋼2内の酸化物における濃度の上限値は30ppmとした。
図5に示すように、[式1]の値が増加すると酸化物の濃度が増加しており、[式1]の値が1.5を超えると酸化物の濃度が30ppm以上となっていて、溶鋼2が汚染されている。また、[式1]の値が1.5未満であると酸化物の濃度が30ppm以下となっていて、溶鋼2の汚染はなかった。
【0033】
例えば、ガス吹き込み部12からタンディッシュ5内の溶鋼2の浴面までの深さIを、1.0mとし、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hを145mmにしたとき、溶鋼2における酸化物の濃度は18ppmであった。
したがって、連続鋳造中には、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが[式1]を満たすようにArガスの流量及び圧力を調整すれば、Arガスの吹き込みによる溶鋼2の汚染を防止することができる。なお、Arガスを吹き込み中に溶鋼2の量が増減しても浴面までの深さIを監視して、この深さIに応じてタンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値になるように、Arガスの流量及び圧力を調整すれば、攪拌強度を所定の強度に調整可能である。
【0034】
なお、図5の実験の際におけるスラグSの排滓効率は75%以上であった。ここで、排滓効率に関して、排滓効率が75%未満である場合、新しい溶鋼2を注入して鋳造をすると、溶鋼2とスラグSとが混ざり合って鋳造した鋳片7に多くのスラグや介在物(例えば、スラグ中のFeO,MnOが溶鋼中のAlと反応してAl23が生成してしまう)が存在し、鋳片7の品質を低下させてしまうことから、排滓効率を75%以上確保することが目標とされている。
図4(d)に示すように、連続鋳造を終了する直前には、スラグSにフラックスFを10kg添加すると共に、Alを添加する。
【0035】
なお、この実施例では、フラックスFの組成が、CaO=60%,MgO=20%,CaF2=20%であるものを、150kg添加した。
鋳造最後に使用した取鍋3内における溶鋼2の注入が完了し、タンディッシュ5内の溶鋼2が少なくなった時点で、タンディッシュ5による鋳型6への溶鋼2の供給を停止して連続鋳造を終了する。その後、タンディッシュ5の底部5aにある浸漬ノズル10より、タンディッシュ5内のスラグSを外部に排出する。
なお、当然の如く、前記Alは、スラグSの流動化を促進するためにスラグSの上に添加するもので、添加によってAlとスラグSとは反応してその反応熱によりスラグSの温度を上昇させるものである。
【0036】
スラグSに添加するAlは、粒状のものや粉末状のもの或いは、塊体であってもよいが、スラグSの浴面全体に亘って添加するのが好ましい。また、添加するAlは、その成分が99%以上の高純度のものとは限らず、Al以外の金属成分等が含まれる合成金属であってもよい。
Alの添加量Xは、添加するときのスラグSの量に応じて定められるのが好ましく。具体的には、Alの添加量Xは[式2]を満たすことが好ましい。
0.013M<X<0.03M ・・・(2)
M:スラグS重量(kg)
X:添加量(kg)
上述したように、スラグSにAlを添加すれば反応熱によってスラグSの温度が上昇し、スラグSの排滓効率が上昇すると考えられるが、AlをスラグSに過大に添加するとスラグSと反応しないAlの量が増加し、その結果、反応しないAlが溶鋼2の中に入っていまい溶鋼2内のAl成分値が規格値よりも外れてしまう恐れがある。
【0037】
そこで、発明者らはスラグSの量に対して添加するAl量を変化させて、Alの添加量に対する溶鋼2のAl成分を測定する実験を行った。前記[式2]を満たせば、溶鋼2内のAl成分が規格値よりも外れず、溶鋼2の汚染が防止できることを見いだした。
図6は実験結果をまとめたもので、横軸は添加したAlの重量VをスラグSの重量Mで割った値であり、スラグS重量Vに対するAl重量Mの割合(以降、Alスラグ重量比)を示している。縦軸は、AlをスラグSに添加しなかった場合に対して、Alを添加した場合のスラグSの排滓効率がどれだけ増加したかを示しており、例えば縦軸の値が0.1であるときはAlを添加しなかった場合と比べて10%の増加があったことを示している。
【0038】
なお、スラグS重量については、タンディッシュ5の溶鋼2内に鉄棒を浸漬することによりスラグSの厚みを測定し、スラグSの厚みと溶鋼2の浴面積とから体積を求め、過去の操業で採取分析したスラグSの組成により予め求めておいたスラグS密度を乗ずることにより算出した。
図6に示すように、Alスラグ重量比が0.013以下であるとスラグSの排滓効率はあまり増加しなかった。Alスラグ重量比が0.013を超えると排滓効率は増加するが、0.03以上になると溶鋼2内のAl成分の変動があった。
【0039】
上述したように、フラックスFをスラグSに添加すれば、スラグSの流動化が促進されてスラグSの排滓効率が向上するが、一方で、フラックスFを添加するとタンディッシュ5の耐火物が溶損するため、フラックスFの添加時期は、スラグSにAlを添加する前に、即ち、鋳造末期に行うのが好ましい。
なお、前記「鋳造末期」とは、連続鋳造の最終チャージの鋳造予定時間の半分が過ぎてからの時期とし、言い換えれば、鋳造最後に使用される取鍋3がタンディッシュ5に溶鋼供給を開始した時点が最終チャージが開始されて時期であり、この最終チャージの鋳造予定時間の半分が過ぎてから操業が終わるまでの時期を意味する。
【0040】
詳しくは、フラックスFを添加は、鋳造最後に使用される取鍋3がタンディッシュ5への溶鋼2注入を完了する15分前〜5分前に行った。
前記フラックスFの添加時期は、様々な実験により導き出したもので、耐火物の溶損を出来るだけ防止しつつ、スラグの排滓効率を上げることができることを見いだした。
即ち、発明者らは、フラックスFを添加する時期を変化させて、フラックスFの添加時期に対するスラグSの排滓効率及び耐火物の溶損量を測定した。
図7は、実験結果をまとめたもので、横軸は鋳造最後に使用した取鍋3が溶鋼注入終了した時間を「0」として、フラックスFの添加時期を示したものである。
【0041】
即ち、横軸のマイナス側は前記取鍋3が溶鋼2注入を完了する前に、フラックスFを添加したことを示している。縦軸は各フラックスFの添加時間に対するスラグSの排滓効率と、タンディッシュ5の耐火物の溶損量を示している。
図7に示すように、フラックスFの添加時期が60分前〜20分前であるときスラグSの排滓効率は75%以上で良いが、耐火物の溶損量が13mm以上となっている。また、フラックスFの添加時期が5分前よりも早いと耐火物の溶損量が13mm未満となり、スラグSの排滓効率は70%未満と悪い。
【0042】
耐火物の溶損に関して、耐火物の溶損はタンディッシュ5の寿命に影響を与えることからフラックスFの投入において、耐火物の溶損は13mm未満とすることが寿命から考慮して問題ないとされる値である。
したがって、フラックスFの添加時期に関し、耐火物の溶損が13mm未満で且つ排滓効率が75%となる時期、即ち、フラックスFを添加する時期は、鋳造最後に使用される取鍋2がタンディッシュ5への溶鋼注入を完了する15分前〜5分前であるのが良い。
不活性ガスを吹き込む場合には、ガス吹き込み部12の最小幅wは、[式3]を満たすことが好ましい。
【0043】
w≧0.3W−0.22I ・・・(3)
ただし、W:ガス吹き込み部12の上方におけるタンディッシュ5内の溶鋼2の浴面幅
I:ガス吹き込み部12からタンディッシュ5内の溶鋼2の浴面までの深さ
スラグSの排滓効率を向上させるためには、連続鋳造中においてスラグSの温度を下げないようにして時間経過に伴うスラグSの固体化を防止すると共に、スラグS全体にわたって出来るだけ満遍なく熱を与えることが必要である。
これから考えると、スラグS全体に熱を与えるためには、出来るだけ溶鋼2全体にわたって溶鋼2を攪拌することが重要となる。
【0044】
そこで、発明者らは、溶鋼2の攪拌に影響を及ぼす要素の一つであるガス吹き込み部12の幅w,溶鋼2の浴面幅W,溶鋼2の浴面までの深さIを考慮し、これらの要素をそれぞれ変更しながら排滓効率を測定する実験を行った。この実験によれば、[式3]を満たせば排滓効率を向上することを見いだした。
図8は、実験結果をまとめたもので、横軸は前記W,w,Iの値をまとめて[式3]の左辺から右辺を差し引いた値を示したものである。縦軸はスラグSの排滓効率を示したものである。
【0045】
図8に示すように、横軸の値が増加するにつれてスラグSの排滓効率が上昇しており、横軸の値が0を境としてプラス側にあるときはスラグSの排滓効率が75%以上である。
例えば、連続鋳造における浴面幅Wを1.08m,浴面までの深さIを1.0mとし、
ガス吹き込み部12の最小幅wを[式3]を満たすように0.15mとしたとき、スラグSの排滓効率は91%となった。
したがって、吹き込み部12の最小幅wを[式3]により設定して、不活性ガスの吹き込みを行うとよい。
【0046】
本発明は上記の実施の形態に限定されない。
上記ではスラグSを排出する前、即ち、連続鋳造を終了する直前に、スラグSの量に応じたAlを該スラグSに添加しているが、必ずしもAlを添加しなくてもよい。即ち、連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ5内の溶鋼2に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ5内に形成されたスラグSを外部へ排出するようにしてもよい。
また、連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ5内の溶鋼2に吹き込みながら鋳造を行っているが、必ずしも不活性ガスを吹き込む必要はない。即ち、AlとスラグSとが反応する状態、言い換えれば、スラグSが液化状態であってそのスラグSにAlを添加したときにこれらが反応して熱が発生する場合は、スラグSを排出する直前にAlをスラグSに添加してもよい。
【0047】
また、Alを添加する前にフラックスFを添加しているが、必ずしもフラックスFを添加する必要はない。
以上、不活性ガスを吹き込みながら鋳造を行うこと、Alを添加すること、フラックスFを添加すること、これらは連続鋳造中にスラグSが固体化しないようにして連続鋳造終了後にスラグSの排出性(排滓効率)を向上させる手段であることから、前記不活性ガスを吹き込みながら鋳造を行うこと、Alを添加すること、フラックスFを添加すること、は連続鋳造の時間的長さやスラグSの形成具合等を考慮して適宜組み合わせればよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】連続鋳造装置の概略図である。
【図2】タンディッシュの概略断面図である。
【図3】タンディッシュの概略平面図である。
【図4】本発明の異鋼種連々鋳造方法の手順を示す工程図である。
【図5】[式1]の値に対する溶鋼内の酸化物量の変化図である。
【図6】Alスラグ重量比に対する排滓効率の増減図である。
【図7】フラックスFを添加する時期に対する排滓効率及び溶損の変化図である。
【図8】[式3]の左辺から右辺を差し引いた値に対する排滓効率の変化図である。
【符号の説明】
【0049】
1 連続鋳造装置
2 溶鋼
3 取鍋
5 タンディッシュ
S スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、
前記不活性ガスを、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように吹き込むことを特徴とするスラグ排出方法。
【請求項2】
鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、
前記不活性ガスを、鋳造開始から鋳造終了まで吹き込むことを特徴とするスラグ排出方法。
【請求項3】
鋼の連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを、連続鋳造終了後に外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、
前記スラグを排出する前に、スラグの量に応じたAlを該スラグに添加してスラグを発熱させることを特徴とするスラグ排出方法。
【請求項4】
鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、
前記不活性ガスを、タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように鋳造開始から鋳造終了まで吹き込むことを特徴とするスラグ排出方法。
【請求項5】
鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、
前記不活性ガスをタンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hが所定値以下になるように吹き込み、前記スラグを排出する前に、スラグの量に応じたAlを該スラグに添加してスラグを発熱させることを特徴とするスラグ排出方法。
【請求項6】
鋼の連続鋳造中に、不活性ガスをタンディッシュ内の溶鋼に吹き込みながら鋳造を行い、連続鋳造終了後に、連続鋳造によってタンディッシュ内に形成されたスラグを外部へ排出するようにしたスラグ排出方法において、
前記不活性ガスを鋳造開始から鋳造終了まで吹き込み、前記スラグを排出する前に、スラグの量に応じたAlを該スラグに添加してスラグを発熱させることを特徴とするスラグ排出方法。
【請求項7】
前記タンディッシュの底部に不活性ガスを吹き込む吹き込み部を設け、前記タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量Hは[式1]を満たすことを特徴とする請求項1,4又は5のいずれかに記載のスラグ排出方法。
H×I1/3/(184−44.5I)<1.5 ・・・(1)
ただし、I:ガス吹き込み部からタンディッシュ内の溶鋼の浴面までの深さ(m)
H:タンディッシュ溶鋼浴面の上昇量(mm)
【請求項8】
前記Alの添加量Xは、[式2]を満たすことを特徴とする請求項3,5又は6のいずれかに記載のスラグ排出方法。
0.013M<X<0.03M ・・・(2)
M:スラグ量(kg)
X:添加量(kg)
【請求項9】
前記タンディッシュの底部に不活性ガスを吹き込む吹き込み部を設け、前記ガス吹き込み部の最小幅wは、[式3]を満たすことを特徴とする請求項1,2,4〜7のいずれかに記載のスラグ排出方法。
w≧0.3W−0.22I ・・・(3)
ただし、W:ガス吹き込み部の上方におけるタンディッシュ内の溶鋼の浴面幅(m)
I:ガス吹き込み部からタンディッシュ内の溶鋼の浴面までの深さ(m)
w:ガス吹き込み部の最小幅(m)
【請求項10】
前記スラグを排出する前に、前記スラグを低融点化且つ低粘性化するフラックスをスラグに添加することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のスラグ排出方法。
【請求項11】
前記タンディッシュの溶鋼は取鍋から注入されており、前記フラックスを添加する時期は、鋳造最後に使用される取鍋がタンディッシュへの溶鋼注入を完了する15分前〜5分前であることを特徴とする請求項10に記載のスラグ排出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−150429(P2006−150429A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347444(P2004−347444)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】