説明

スラグ流出検知方法、溶融金属の注入制御方法、スラグ流出検知装置、溶融金属の注入制御装置、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】スラグ流出判定を迅速に且つ正確に行うことができるようにする。
【解決手段】シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する測定工程と、前記測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成工程と、前記作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出工程と、前記活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出工程と、前記算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出工程とを行い、溶鋼の流量変化の影響を受けない適確なスラグ流出の判定を行うことができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラグ流出検知方法、溶融金属の注入制御方法、スラグ流出検知装置、溶融金属の注入制御装置、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関し、特に、溶融金属とスラグが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に溶融金属を注入する際に、前記シールされた流通管を通過して前記スラグが他の容器に流出するのを検知するために用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造においては、転炉で精練された溶鋼は取鍋に移された後、ロングノズルを介してタンディッシュに注湯される。図13は、このような溶鋼がタンディッシュに注湯されている状態を示す図である。図13において、符号81は取鍋、82は取鍋81内のスラグ、83は取鍋81内の溶鋼、84はロングノズル、85はタンディッシュ、86は浸漬ノズル、87は鋳型、SNは取鍋開閉弁である。
【0003】
通常は、前記取鍋81には溶鋼83とともにスラグ82が入っているため、取鍋81からタンディッシュ85に溶鋼83を注入する際に、注湯末期においてスラグ82が大量にタンディッシュ85に流入すると、タンディッシュ85内の溶鋼にスラグが混入し、結果としてスラグが連続鋳造機の鋳型87に巻き込まれ、連続鋳造された鋳片に内部欠陥として残留することになる。
【0004】
したがって、前記タンディッシュ85内にはスラグ82を極力流入させないようにして操業が行われている。一つには、取鍋81からのスラグ82の流出が注湯末期に発生することから、取鍋81の重量を測定してスラグが流出する確率の低い所定の残湯量に達した段階で注湯を停止する方法である。もう一つは、取鍋81からのスラグ流出開始を検知して注湯を停止する方法である。
【0005】
取鍋からのスラグの流出開始を検知するために、従来から種々の方法が試行されているが、これらのうち代表的な2つの方法について説明する。第1の方法は人の感覚による方法、第2の方法は振動計測による方法であり、これらについて以下に説明する。
【0006】
1)人の感覚による方法
感覚による方法は2つあり、その一つは視覚による方法であり、もう一つは触覚による方法である。
(1)視覚による方法
注湯末期にタンディッシュ85内の湯面85aを注意深く観察すると、スラグがタンディッシュ85に流入すると表面にスラグが浮上するので、湯面の輝度や色調の変化によって取鍋からのスラグの流出を判定できる。
(2)触覚による方法
ロングノズル84の支持装置の一部に触手し、その振動の強さが変化することによって、スラグの流出を判定できる。
【0007】
2)振動計測による方法
取鍋81内の溶鋼83は、ロングノズル84を通って、重力により自由落下して、タンディッシュ85内の湯面85aに衝突する。この流体衝突により、ロングノズル84の先端が加振され、ロングノズル84に振動が発生する。
その際に、溶鋼83に代わってスラグ82が流出した場合には、スラグ82の比重は溶鋼83の比重の1/3程度であるので、その比重差により、流体衝突によって発生するロングノズル84への加振力が低下し、ロングノズル84に発生する振動レベルは、溶鋼83の場合よりも減少する。
【0008】
このような原理に基づいてスラグが取鍋81から流出するのを検知する具体的な従来の方法としては、例えば、特許文献1に開示された技術や特許文献2に開示された技術がある。
【0009】
特許文献1の方法によれば、ロングノズル84で発生する振動レベルを経時的に計測し、計測した振動レベルの大きさを平均する時間の長さが異なる2つの時間毎に移動平均処理を行い、前記移動平均処理後の平均する時間の短い方の平均化された振動レベルの大きさを、移動平均処理後の平均する時間の長い方の平均化された振動レベルの大きさで除した値が、所定の値よりも小さくなったときにスラグが流出したと判定するものである。
【0010】
特許文献2の方法によれば、各時刻の振動強度を示す数値指標として"活動度"を定義し、同数値の減衰をもってスラグが流出したと判定するものである。
【0011】
【特許文献1】特開2000−117407号公報
【特許文献2】特開2004−268122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
取鍋の重量でもって注湯の停止を判断する方法では、チャージ間でスラグの流出するタイミングが一定でないことから、スラグの流出を極力防ぐためにはスラグが流出する前の段階で注湯を停止しなければならないので、溶鋼歩留りの低下を招くことになる。また、溶鋼歩留の向上を重視して注入停止タイミングを遅くすると、スラグの流出する確率が高くなり、鋳片品質を低下させる原因となる。
【0013】
スラグの流出開始を検知しようとした場合、人の感覚による方法では、視覚による方法であれ触覚による方法であれ、オペレータの熟練を必要とする上に、熟練したとしても迅速に判断するのは困難である。
【0014】
また、振動計測による方法として、特許文献1では振動レベルを処理することによりスラグの流出開始を判定する方法が示されてはいるが、使用する振動レベルを指定しておらず、例えば注湯する溶鋼の流量が10トン/分といった非常に高い場合など、条件によってはスラグの流出を検知することができない問題点があった。一方、特許文献2では活動度の減衰を客観的に判定する方法が示されていないため、スラグ流出開始判定の自動化ができない問題点があった。
【0015】
また、操業上の理由でタンディッシュ内の湯面高さを調節するために注湯する溶鋼の流量をチャージの途中で変化させることがあるが、この場合には、特許文献1における振動レベルや、特許文献2で定義されている活動度はスラグの流出だけでなく溶鋼の流量変化の影響も受けるため、スラグ流出の判定を誤らせる可能性があった。
【0016】
さらに、スラグの流出を完全に防止することができないため、高清浄度鋼を製造する際には、鋳片の取鍋交換時の位置から一定長を除いた部位を製品としているが、その品質が合格しているか否かについては圧延後でないと判明しない。そのため、圧延製品の歩留りの低下を招く可能性が常に存在する問題点があった。
【0017】
本発明は前述の問題点にかんがみ、スラグ流出判定を迅速に且つ正確に行うことができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のスラグ流出検知方法は、溶融金属とスラグとが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入する際に、前記スラグが前記シールされた流通管を通して前記他の容器に流出するのを検知するスラグ流出検知方法であって、前記シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する振動レベル測定工程と、前記振動レベル測定工程において測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成工程と、前記遅延ベクトル作成工程において作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出工程と、前記活動度算出工程において求めた活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出工程と、前記補正活動度算出工程において算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出工程とを有することを特徴とする。
また、本発明のスラグ流出検知方法の他の特徴とするところは、前記補正活動度は下記の式、補正活動度=活動度/{基準活動度×(溶融金属流量/基準溶融金属流量)C}より求め、前記式における比例定数Cは下記の関係式、「{log活動度}のチャージ内変動量」=C×「{log溶融金属流量}のチャージ内変動量」における比例定数とすることを特徴とする。
また、本発明のスラグ流出検知方法のその他の特徴とするところは、前記補正活動度算出工程において用いる溶融金属流量変化時の活動度推定式は、同一チャージ内での変化前の活動度、溶融金属流量及び変化後の溶融金属流量から推定することを特徴とする。
また、本発明のスラグ流出検知方法のその他の特徴とするところは、前記スラグ流出検出工程においては、前記補正活動度の平均変化率が予め設定した閾値を下回ったら補正活動度の減衰開始と判定し、さらに補正活動度の減衰開始を以てスラグ流出開始と判定することを特徴とする。
【0019】
本発明の溶融金属の注入制御方法は、前記の何れかに記載のスラグ流出検知方法によって判定したスラグ流出開始時刻から一定時間経過後に、前記溶融金属とスラグが入った容器から、前記シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入するのを停止することを特徴とする。
【0020】
本発明のスラグ流出検知装置は、溶融金属とスラグとが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入する際に、前記スラグが前記シールされた流通管を通して前記他の容器に流出するのを検知するスラグ流出検知装置であって、前記シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する振動レベル測定手段と、前記振動レベル測定手段により測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成手段と、前記遅延ベクトル作成手段により作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出手段と、前記活動度算出手段により求めた活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出手段と、前記補正活動度算出手段により算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出手段とを有することを特徴とする。
また、本発明のスラグ流出検知装置の他の特徴とするところは、前記補正活動度は下記の式、補正活動度=活動度/{基準活動度×(溶融金属流量/基準溶融金属流量)C}より求め、前記式における比例定数Cは下記の関係式、「{log活動度}のチャージ内変動量」=C×「{log溶融金属流量}のチャージ内変動量」における比例定数とすることを特徴とする。
また、本発明のスラグ流出検知装置のその他の特徴とするところは、前記補正活動度算出手段により用いる溶融金属流量変化時の活動度推定式は、同一チャージ内での変化前の活動度、溶融金属流量及び変化後の溶融金属流量から推定することを特徴とする。
また、本発明のスラグ流出検知装置のその他の特徴とするところは、前記スラグ流出検出手段は、前記補正活動度の平均変化率が予め設定した閾値を下回ったら補正活動度の減衰開始と判定し、さらに補正活動度の減衰開始を以てスラグ流出開始と判定することを特徴とする。
【0021】
本発明の溶融金属の注入制御装置は、前記の何れかに記載のスラグ流出検知装置によって判定したスラグ流出開始時刻から一定時間経過後に、前記溶融金属とスラグが入った容器から、前記シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入するのを停止することを特徴とする。
【0022】
本発明のプログラムは、溶融金属とスラグとが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入する際に、前記スラグが前記シールされた流通管を通して前記他の容器に流出するのを検知するスラグ流出検知方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する振動レベル測定工程と、前記振動レベル測定工程において測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成工程と、前記遅延ベクトル作成工程において作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出工程と、前記活動度算出工程において求めた活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出工程と、前記補正活動度算出工程において算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出工程とを有するスラグ流出検知方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0023】
本発明の記録媒体は、前記に記載のプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スラグ流出判定を迅速に且つ正確に行うことができる。これにより、連続鋳造工程において、鋳片の鍋交換時に形成される部位の品質を向上することができるとともに、高清浄度鋼を製造する際に取り除く部分の長さを削減することができる。また、取鍋の残湯量を可及的に少なくすることが可能となり、歩留を向上することができる。
また、本発明の他の特徴によれば、スラグ流出判定及びロングノズルの閉鎖を自動的に行うことができ、現場の作業を削減することができるとともに、オペレータの熟練に頼ることなく高清浄度鋼を製造することができる。
また、本発明のその他の特徴によれば、タンディッシュ深さやロングノズルの位置等の操業条件によらず、普遍的に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
本実施形態は主に連続鋳造に適用されるものであるが、アルミニウムのDC鋳造といった非鉄金属の鋳造においてもスラグの流出を極力防ぐ必要性が有る場合に適用可能なものである。
【0026】
図1は、本実施形態に係るスラグ流出検知装置の実施形態を示す機能構成図である。図1に示すように、本実施形態のスラグ流出検知装置は、演算部10及び振動レベル測定部11により構成されている。
【0027】
前記振動レベル測定部11は、振動レベル測定手段として設けられているものであり、前述したシールされた流通管(ロングノズル)20(図2参照)で発生する振動レベルを経時的に測定して振動レベル計測信号を作成する。
【0028】
前記演算部10は、遅延ベクトル作成部10a、スラグ流出判定部10b等によって構成されている。前記遅延ベクトル作成部10aは、遅延ベクトル作成手段として設けられているものであり、前記振動レベル測定部11によって作成した振動レベル計測信号を基に遅延ベクトルを作成する。
【0029】
前記スラグ流出判定部10bは、スラグ流出判定手段として設けられているものであり、前記遅延ベクトル作成部10aで作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタの時間挙動に基づいてスラグ流出を判定する。
【0030】
前記ロングノズル制御装置12は、前記スラグ流出判定部10bの判定結果に基づいてロングノズル13の開閉状態を制御して、前述した取鍋内のスラグがタンディッシュ内に流入するのを防止する。
【0031】
本実施形態において、前記スラグ流出判定部10bは、前記遅延ベクトル作成部10aが描く再構成アトラクタ上の基準時刻における点の周囲に存在する再構成アトラクタ上の近傍点が、位相空間上でどのように空間的な広がりを持っているかを、各時刻の振動強度を主成分分析法によって求めた主成分値を使い、振動状態を数値指標化する手段を有している。そして、前記数値指標が変化することを検出したときにスラグ流出が発生したと判定するようにしている。
【0032】
図2は、ロングノズル20の昇降装置の概略を示す図である。オペレータは前記ロングノズル20の振動変化を、ロングノズル20から約1.5m離れた位置にある昇降装置の操作ハンドル21の振動変化として感知している。
【0033】
そこで、本実施形態においては、前記操作ハンドル21の最右端に加速度センサ22を取り付けて、前記ロングノズル20の振動変化を前記加速度センサ22で計測し、計測結果に基づいてロングノズル20をスライドさせ、ノズル開度を閉にしている。
【0034】
次に、図3のフローチャートを参照しながら、前述のように構成された本実施形態のスラグ流出検知装置の処理手順を説明する。
処理が開始されると、最初のステップS31において、振動レベル測定部11(図2の加速度センサ22)によりロングノズル20の振動レベルを、1次元、2次元または3次元方向について経時的に測定する。
【0035】
次に、ステップS32に進み、ステップS31において測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する。
次に、ステップS33に進み、前記ステップS32において作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を算出する。
【0036】
次に、ステップS34に進み、ステップS33において求めた活動度を補正する処理を行う。この処理は、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて行う。
【0037】
次に、ステップS35に進み、スラグ流出が始まったか否か判定する。この判定は、ステップS34において算出された補正活動度に基づいて行う。ステップS35の判定の結果、スラグが流出していない場合には前記ステップS31に戻って前述した処理を繰り返し行う。また、ステップS35の判定の結果、スラグが流出した場合にはステップS36に進み、ロングノズル20の開度を閉にする処理を行う。
【0038】
ステップS32及びステップS33における処理では、カオス時系列解析の手法を使って、各軸の振動加速度計測値をもとに再構成した高次元の位相空間上で、ノズル振動変化の特徴をとらえるようにする。
【0039】
そして、再構成アトラクタ上でのノズル振動の大きさを評価するため、再構成アトラクタの各時刻点の近傍点が位相空間上でどのように空間的な広がりを持っているかを主成分分析法により定量化する。すなわち、再構成アトラクタ上の近傍点が、各時刻の振動の性質を代表しており、振動の大きさと近傍点の空間的な広がりの大きさが対応しているとの考え方に基づいている。具体的な解析手順は以下のとおりである。
【0040】
(1)x、y、z各軸のロングノズル振動加速度の次元を計算する。
時系列データからの系の次元は以下に示す相関次元で決定する。すなわち、或る次元数mを仮定し、下記の(1)式に基づいて作成した再構成アトラクタ上の或る点vk(i)を中心に描いた半径εの超球内に含まれる点vk(i)の近傍点数を数える。同様の操作を再構成アトラクタの全体にわたって行い、これら近傍点数の総和N(ε)を下記の(2)式にて求める。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、Skは各時刻における振動加速度の計測値を示し、τはサンプリング周期である。また、I(t)はヘビサイド函数であり、以下の(3)式で定義される。
I(t)=1(t≧0)、0(t<0) ・・・(3)
このとき、系の次元mとN(ε)、εの間には(4)式に示す関係が成立するので、
log(N(ε))∝m・log(ε) ・・・(4)
log(N(ε))とlog(ε)の関係をプロットし、直線の勾配より相関次元mを決定する。
【0043】
図4に、x、y及びz軸、各々のlog(N(ε))とlog(ε)との関係を示す。各々の特性図における直線の勾配より、各軸の振動加速度の相関次元を以下のように決定した。
x軸相関次元mx=7.2 ・・・(5)
y軸相関次元my=6.9 ・・・(6)
z軸相関次元my=8.2 ・・・(7)
これら3軸の相関次元の平均値をとり、ロングノズル振動加速度の代表相関次元mを以下の値に決定した。
代表相関次元 m=7.43 ・・・(8)
【0044】
(2)ロングノズル振動加速度の再構成アトラクタ形成のための遅延ベクトルを作成する。
埋め込み次元は、前記(8)式で決定した振動加速度の代表相関次元7.43の2倍以上の値を採用して、15とした。
そして、x、y及びz軸の振動加速度計測値を使い、15次元の遅延ベクトルを下記(9)式のように構成する。
【0045】
【数2】

【0046】
(3)前記遅延ベクトルv(t)により再構成アトラクタを作成し、活動度を算出する。
v(tn)の最近接ベクトルvkNN(tn)、(1≦k≦N)を使って下記(10)式と(11)式より共分散マトリックスWの構成要素Wijを計算する。前記Nは、最近接ベクトルの数を表し、埋め込み次元+1である16を採用した。
【0047】
【数3】

【0048】
次に、共分散マトリックスWの固有値λiを計算して、定義式(12)より活動度を算出する。
【0049】
【数4】

【0050】
次に、ステップS34における処理について詳細に説明する。
注湯される溶鋼の流量は通常計測されないため、タンディッシュ重量の計測値と鋳片の製造速度から、以下の方法で算出する。まず、タンディッシュ重量の時系列データから一定時間幅のデータを抽出し、線形回帰式の勾配を求め、これをタンディッシュ重量の平均変化率とする。このとき、データの抽出は各時刻の前後10秒程度の範囲とするのが望ましい。次に、(13)式により溶鋼流量を計算する。
【0051】
溶鋼流量=鋼片の製造速度+タンディッシュ重量の平均変化率・・・(13)
1つのチャージで注湯が50%進行した時刻から70%進行した時刻までの間に最低でも1分間以上、好ましくは3分間以上の活動度及び溶鋼流量の平均値を求めて、それぞれ基準活動度、基準溶鋼流量とする。
【0052】
ここで、70%進行するまでに基準活動度と基準溶鋼流量を求めるとしたのはそれ以降にスラグ流出の可能性が出てくるためであり、その前に求めておく必要があるためである。また、50%進行してから求めるのは、鋳造が安定し、スラグ流出以外の条件が極力一定となるのを待つためである。さらに、補正活動度の精度を保障するために平均する時間を「最低でも1分間以上、好ましくは3分間以上」とした。
【0053】
前述の方法により求めた活動度の時系列データ、溶鋼流量の時系列データ、基準活動度、基準溶鋼流量及び事前に作成しておいた溶融金属流量変化時の活動度推定式A(A0,Q0,Q)を用いて(14)式により補正活動度を計算する。
補正活動度=F(活動度、A(基準活動度、基準溶鋼流量、溶鋼流量))…(14)
【0054】
ここで、Fは2正値の大小関係を判定可能な函数とする。例えば、
F(a,b)=a/b …(15)
や、
F(a,b)=a−b …(16)
といった函数で、前者の場合はF(a,b)と1との大小関係はaとbとの大小関係と同等で、後者の場合はF(a,b)と0との大小関係はaとbとの大小関係と同等である。
【0055】
また、溶鋼流量変化時の活動度推定式A(A0,Q0,Q)は同一チャージ内でスラグ非流出時に溶鋼流量変化が発生した場合に活動度を推定するものであって、対象設備に関して事前に作成しておく必要がある。式の形として2例を挙げる。
【0056】
【数5】

【0057】
ここで,Q0及びA0はそれぞれ変化前の流量及び活動度、Q及びAはそれぞれ変化後の流量及び活動度、Cは正の定数を示す。ここで重要なのは推定式が以下の性質を持つことである。
(1)Q1がQ0と等しいときにはA1はA0と等しくなり、
(2)Q1がQ0よりも大きいときにはA1はA0よりも大きくなり、
(3)Q1がQ0よりも小さいときにはA1はA0よりも小さくなる。
言い換えれば溶鋼流量が変化しなければ活動度は変化せず、溶鋼流量が増加すれば活動度も増加、溶鋼流量が減少すれば活動度も減少することである。
【0058】
次に、ステップS35における処理について詳細に説明する。
本実施形態では、補正活動度の減衰をもってスラグ流出と判定するが、補正活動度の減衰開始は以下の方法で判定する。補正活動度の好ましくは「40〜80」秒間程度のデータを抽出し、この抽出したデータから線形回帰式の勾配を求め、これを補正活動度の平均変化率とする。ここで、データの抽出は現時刻から過去及び未来の同じ時間幅の範囲で行う。
【0059】
したがって、例えば60秒間のデータから平均変化率を求めるとした場合、現時刻の平均変化率が算出されるのは30秒後の補正活動度が得られた時点である。また、平均変化率を求めるデータ幅の下限を40秒としたのは、これに満たないとスラグ流出開始判定の正確性が失われるからである。また、上限を80秒としたのは、これを超えるとスラグ流出開始判定の迅速性が失われるからである。
【0060】
補正活動度の平均変化率が初めて所定の値よりも小さくなった時刻を減衰開始と判定する。このときの閾値は設備条件の影響を受ける可能性があるため、以下の方法で同一設備にて事前に調査し、設定しておく必要がある。
【0061】
スラグ流出が確認された最低でも5チャージ以上、好ましくは10チャージ以上の鋳造について、最高でも30チャージ以下の鋳造について補正活動度の平均変化率の各チャージにおける最小値を求める。
【0062】
「5チャージ以上、好ましくは10チャージ以上」としたのは閾値の信頼性確保のためであり、「最高でも30チャージ以下」としたのは実操業の中でスラグ流出が確認できるチャージのデータを数多く採取するのは困難であるためである。この最小値の平均M(負値)と標準偏差σ(正値)を求めて、「M+σ」を閾値とする。
【0063】
また、スラグ流出開始判定の正確性を保つために、時系列データのサンプリング周期は好ましくは100m秒以下、さらに好ましくは50m秒以下とする。
補正活動度の減衰開始時刻から注湯を停止するまでの時間を活動度減衰時間とすると、活動度減衰時間が長くなると高清浄度鋼として出荷している製品に不合格品が発生するようになる。不合格品が発生しない時間の上限を求め、スラグ流出開始からこの時間経過後に注湯を停止する。
【0064】
(第2の実施形態)
図12に、溶融金属の注入制御装置を構成可能なコンピュータシステムの一例を示す。
図12において、1200はコンピュータPCである。PC1200は、CPU1201を備え、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、あるいはフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行し、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0065】
前記PC1200のCPU1201,ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、本実施形態の各機能手段が構成される。
【0066】
1203はRAMで、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209から入力される信号をシステム本体内に入力する制御を行う。1206は表示コントローラ(CRTC)であり、表示装置(CRT)1210上の表示制御を行う。1207はディスクコントローラ(DKC)で、ブートプログラム(起動プログラム:パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始するプログラム)、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイルそしてネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211、及びフレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。
【0067】
1208はネットワークインタフェースカード(NIC)で、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、あるいは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
【0068】
(本発明に係る他の実施形態)
前述した本発明の実施形態におけるスラグ流出検知装置、溶融金属の注入制御装置を構成する各手段、並びにスラグ流出検知方法、溶融金属の注入制御方法の各ステップは、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は本発明に含まれる。
【0069】
また、本発明は、例えば、システム、装置、方法、プログラムもしくは記憶媒体等としての実施形態も可能であり、具体的には、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよいし、また、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0070】
なお、本発明は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラム(実施形態では図3に示すフローチャートに対応したプログラム)を、システムあるいは装置に直接、あるいは遠隔から供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータが前記供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。
【0071】
したがって、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、前記コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明は、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0072】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等の形態であってもよい。
【0073】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RWなどがある。また、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などもある。
【0074】
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続する。そして、前記ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることによっても供給できる。
【0075】
また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明に含まれるものである。
【0076】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件をクリアしたユーザに対し、インターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせる。そして、ダウンロードした鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
【0077】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される。その他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
【0078】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれる。その後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。
【実施例】
【0079】
本実施例では、同時に2本の鋳片を製造する設備(2ストランド)を使用して鋼の連続鋳造を行った結果を説明する。尚、本実施例で行った鋳造では、全て両ストランドの鋳片サイズを等しくしている。
【0080】
チャージの途中で溶鋼流量が変化した場合に、活動度に及ぼす影響を調べた。表1はそのために実施したチャージの条件である。尚、これらのチャージにおいてはスラグが流出しなかったことが確認されたものである。これは、活動度の変化と溶鋼流量の変化の関係を調べるときに、他の因子の影響が混在するのを避けるためである。
【0081】
【表1】

【0082】
図5(a)は、これらの鋳造から得られた1チャージ内でのlog[活動度]の変動量とlog[溶鋼流量]の変動量との関係を示す特性図である。この関係から、下記の(17)式の形の推定式(17´)
【0083】
【数6】

【0084】
が得られる。一方、図5(b)は活動度の変動率と溶鋼流量の変動率との関係を示す特性図である。この関係から(18)式の形の推定式(18´)
【0085】
【数7】

【0086】
が得られる。
スラグ流出が確認されたチャージについて本発明の方法で流出開始判定を行った。図6は活動度の、図7は溶鋼流量の時系列データの例であり、特性図における時刻0秒がチャージの終了のタイミングである。このチャージの鋳造時間は30分間で、17分/30分進行した時点である−780秒から20分/30分進行した時点である−600秒までの3分間のデータ(これは実施形態で説明した50%から70%までの条件を満たす)を用いて基準活動度及び基準溶鋼流量を求め、先の(17')式及び(15)式を(14)式へ適用した(14')式により補正活動度を算出する。
【0087】
【数8】

【0088】
得られた補正活動度と鋳造時間との関係を示したものが図8の細線である。
【0089】
図8に示したように、−760秒から−600秒にかけてのスラグ流出を起こさなかった時間帯において、溶鋼流量に若干の減少傾向が出ているのに対応して(補正前の)活動度が減少している。これに対して補正活動度は横這い傾向にあり、溶鋼流量の影響が除かれていることが分かる。また、−240秒以降の補正活動度はそれ以前と比べて低いレベルにある。さらに、補正活動度の60秒間平均変化率を求めて鋳造時間との関係を示したものが図8の太線である。−240秒付近に最小値を取る。
【0090】
スラグ流出開始を判定するための活動度平均変化率の閾値を設定するために実施したチャージの条件が表2である。これらの全てのチャージにおいてスラグの流出が確認されており、各チャージの補正活動度平均変化率の最小値を調査した結果を表2に併記する。
【0091】
【表2】

【0092】
このデータから標本を取り、平均変化率の最小値に関する統計量を調べたものが表3である。標本数を増やしていくと標本数5辺りで平均も標準偏差もほぼ一定値に収束しており、「最低でも5チャージ以上、好ましくは10チャージ以上」の鋳造から平均及び標準偏差を求めることの妥当性を示している。平均+標準偏差は−0.01に収束しており、この値を閾値とすると、図8から補正活動度の平均変化率が初めて閾値より小さくなる時刻が補正活動度の減衰開始と対応していることが分かる。
【0093】
【表3】

【0094】
本実施形態の方法でスラグ流出開始判定を行った上記のチャージについて、特許文献1の方法を適用した。この方法では判定に使用する振動レベルを指定していないことから、(19)式で定義する振動加速度Sk(k=x、y、z)の2乗和の平方根を振動レベルとして使用することにする。
【0095】
【数9】

【0096】
図9が振動レベルの時系列データの例を示す特性図である。短時間t1移動平均Aを長時間t2移動平均Bで除した振動レベル比(A/B)を用いてスラグ流出開始判定を試みる。t1及びt2の指定の仕方については特に制限が設けられていないので、t1を1秒、t2を10秒として振動レベル比を求めたものが図10である。この方法だとスラグ流出開始に相当する振動レベル比の低下が見られない。つまり、スラグ流出が発生したにも拘らず、流出開始判定を行うことができない。
【0097】
図11は、高清浄度鋼を製造したチャージの活動度減衰時間のヒストグラムを出荷部位の品質の合否判定で区別して作成したものである。活動度減衰時間が4分以上のチャージに関しては不合格品が発生している。逆に、活動度減衰時間を4分未満に抑えれば、不合格品は発生していない。つまり、鋳造後の段階で高清浄度鋼出荷部の品質合否判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施形態を示し、スラグ流出検知装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】ロングノズルの昇降装置の概略を示す図である。
【図3】スラグ流出検知装置の処理手順の概略を説明するためのフローチャートである。
【図4】ロングノズル振動加速度の相関積分と超球径の関係を説明する図である。
【図5】(a)は1チャージ内でのlog[活動度]の変動量とlog[溶鋼流量]の変動量との関係を示す特性図、(b)は活動度の変動率と溶鋼流量の変動率との関係を示す特性図である。
【図6】活動度の時系列データの例を示す特性図である。
【図7】溶鋼流量の時系列データの例を示す特性図である。
【図8】補正活動度と鋳造時間との関係を示す特性図である。
【図9】振動レベルの時系列データの例を示す特性図である。
【図10】振動レベル比と鋳造時間との関係を示す特性図である。
【図11】高清浄度鋼を製造したチャージの活動度減衰時間の分布を出荷部位の品質の合否判定で区別して説明する図である。
【図12】溶融金属の注入制御装置を構成可能なコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【図13】本発明が適用される状態を説明する図であって、溶鋼がタンディッシュに注湯されている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0099】
10 演算部
10a 遅延ベクトル作成部
10b スラグ流出判定部
11 振動レベル測定部
12 ロングノズル制御装置
13 ロングノズル
20 ロングノズル
21 操作ハンドル
22 加速度センサ
81 取鍋
82 スラグ
83 溶鋼
84 ロングノズル
85 タンディッシュ
85a タンディッシュ内の湯面
86 浸漬ノズル
87 鋳型
SN 取鍋開閉弁
1200 コンピュータPC
1201 CPU
1202 ROM
1203 RAM
1204 システムバス
1205 KBC
1206 CRTC
1207 DKC
1208 NIC
1209 KB
1210 CRT
1211 HD
1212 FD
1220 LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属とスラグとが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入する際に、前記スラグが前記シールされた流通管を通して前記他の容器に流出するのを検知するスラグ流出検知方法であって、
前記シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する振動レベル測定工程と、
前記振動レベル測定工程において測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成工程と、
前記遅延ベクトル作成工程において作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出工程と、
前記活動度算出工程において求めた活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出工程と、
前記補正活動度算出工程において算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出工程とを有することを特徴とするスラグ流出検知方法。
【請求項2】
前記補正活動度は下記の式、
補正活動度=活動度/{基準活動度×(溶融金属流量/基準溶融金属流量)C
より求め、前記式における比例定数Cは下記の関係式、
「{log活動度}のチャージ内変動量」=C×「{log溶融金属流量}のチャージ内変動量」
における比例定数とすることを特徴とする請求項1に記載のスラグ流出検知方法。
【請求項3】
前記補正活動度算出工程において用いる溶融金属流量変化時の活動度推定式は、同一チャージ内での変化前の活動度、溶融金属流量及び変化後の溶融金属流量から推定することを特徴とする請求項1に記載のスラグ流出検知方法。
【請求項4】
前記スラグ流出検出工程においては、前記補正活動度の平均変化率が予め設定した閾値を下回ったら補正活動度の減衰開始と判定し、さらに補正活動度の減衰開始を以てスラグ流出開始と判定することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスラグ流出検知方法。
【請求項5】
前記請求項1〜4の何れか1項に記載のスラグ流出検知方法によって判定したスラグ流出開始時刻から一定時間経過後に、前記溶融金属とスラグが入った容器から、前記シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入するのを停止することを特徴とする溶融金属の注入制御方法。
【請求項6】
溶融金属とスラグとが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入する際に、前記スラグが前記シールされた流通管を通して前記他の容器に流出するのを検知するスラグ流出検知装置であって、
前記シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する振動レベル測定手段と、
前記振動レベル測定手段により測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成手段と、
前記遅延ベクトル作成手段により作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出手段と、
前記活動度算出手段により求めた活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出手段と、
前記補正活動度算出手段により算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出手段とを有することを特徴とするスラグ流出検知装置。
【請求項7】
前記補正活動度は下記の式、
補正活動度=活動度/{基準活動度×(溶融金属流量/基準溶融金属流量)C
より求め、前記式における比例定数Cは下記の関係式、
「{log活動度}のチャージ内変動量」=C×「{log溶融金属流量}のチャージ内変動量」
における比例定数とすることを特徴とする請求項6に記載のスラグ流出検知装置。
【請求項8】
前記補正活動度算出手段により用いる溶融金属流量変化時の活動度推定式は、同一チャージ内での変化前の活動度、溶融金属流量及び変化後の溶融金属流量から推定することを特徴とする請求項6に記載のスラグ流出検知装置。
【請求項9】
前記スラグ流出検出手段は、前記補正活動度の平均変化率が予め設定した閾値を下回ったら補正活動度の減衰開始と判定し、さらに補正活動度の減衰開始を以てスラグ流出開始と判定することを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載のスラグ流出検知装置。
【請求項10】
前記請求項6〜9の何れか1項に記載のスラグ流出検知装置によって判定したスラグ流出開始時刻から一定時間経過後に、前記溶融金属とスラグが入った容器から、前記シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入するのを停止することを特徴とする溶融金属の注入制御装置。
【請求項11】
溶融金属とスラグとが入った容器から、シールされた流通管を介して他の容器に前記溶融金属を注入する際に、前記スラグが前記シールされた流通管を通して前記他の容器に流出するのを検知するスラグ流出検知方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記シールされた流通管で発生する1次元、2次元または3次元方向の振動レベルを経時的に測定する振動レベル測定工程と、
前記振動レベル測定工程において測定した振動測定信号を基に遅延ベクトルを作成する遅延ベクトル作成工程と、
前記遅延ベクトル作成工程において作成した遅延ベクトルが描く再構成アトラクタ上で、各時刻の振動状態を数値指標化した活動度を求める活動度算出工程と、
前記活動度算出工程において求めた活動度を、スラグが流出しない時間帯に求めておいた活動度の平均値を示す基準活動度、スラグが流出しない時間帯に求めておいた溶融金属流量の平均値を示す基準溶融金属流量及び溶融金属流量変化時の活動度推定式を用いて補正して補正活動度を算出する補正活動度算出工程と、
前記補正活動度算出工程において算出された補正活動度に基づいてスラグの流出を検出するスラグ流出検出工程とを有するスラグ流出検知方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−275938(P2007−275938A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106336(P2006−106336)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】