説明

スラストころ軸受装置

【課題】高速回転時の軸受内部の気圧の低下を抑制することにより、摺動面の摺動抵抗を低減可能なスラストころ軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸16と、ハウジング6と、ともに円環状に形成されたインナレース12およびアウタレース13と、インナレース12とアウタレース13間に配置された複数のころ14と、保持器15とからなる軸受を備え、インナレース12は軸部16aに挿通されて端面部16bに固定され、アウタレース13はハウジング6に固定され、回転軸16は軸受を介して、ハウジング6に回転自在に支持され、軸部16aとアウタレース13の内径部との隙間から、軸受内部を貫通して、アウタレース13の外径部とインナレース12の外径部との隙間に至る潤滑油の流路が形成され、インナレース12の内径部と端面部16bの内径部には、それぞれ通気孔27,16cが形成され、軸受内部は通気孔27,16cを介して外部と連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車のトランスミッション等で使用されるスラストころ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スラストころ軸受装置は、例えば、自動車のトランスミッション等の回転部分に装着され、回転軸に作用するスラスト荷重を支承するものである。回転軸と、回転軸を収容するハウジングと、ともに円環状に形成され、一対となったインナレースおよびアウタレースと、インナレースとアウタレースとの間に配置された複数のころと、複数のころを放射状に配置する保持器とからなるスラストころ軸受とを備えている。スラストころ軸受の潤滑は、通常、回転軸内部を通路として循環する潤滑油によって供給されており、潤滑油は、インナレースとアウタレースの内径部にある隙間から軸受内部に供給され、インナレースとアウタレースの外径部にある隙間から排出される。自動車で使用されるスラストころ軸受装置では、摺動抵抗低減による低燃費化への貢献が課題となっており、例えば、特許文献1では、インナレースの内径部と保持器の内径部との間の摺動抵抗を低減するため、インナレースの折曲げ部に、インナレースの折曲げ部と保持器の内径部との間に潤滑油を供給する貫通孔を形成した発明が開示されている。これにより、摺動抵抗の増加要因となるインナレースの折曲げ部と保持器の内径部との摺動面に潤滑油を十分に供給し、摺動面の油膜を確保することで、摺動抵抗の増大を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、高速な回転状態において、回転軸の軸部において潤滑油の不足が発生し、摺動抵抗が増大する場合があった。回転軸が高速な回転状態にあるとき、軸受内部の潤滑油は、回転による遠心力が外力として大きく作用することにより、通常よりも大きな力で径方向外方へと押し出されて、外部へ排出される。そして、軸受内部において、潤滑油が大きな力で外部へ排出されると、軸受内部の気圧は低下し、軸受内部は軸受内部と連通するインナレースの折曲げ部とアウタレースの内径部との間にある隙間から軸部の潤滑油を吸引する。一方、軸部の潤滑油の供給は定量であるため、軸受内部に潤滑油が吸引されることにより、軸部の潤滑油が不足することとなる。このように、軸部において潤滑油の不足が発生すると、摺動面の油膜が途切れることにより摺動抵抗が増大するという問題があった。さらに、軸受内部が潤滑油を吸引することにより、一時的に軸受内部の潤滑油が滞留して、軸受内部の攪拌抵抗が増大するという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、高速回転時の軸受内部の気圧の低下を抑制することにより、摺動面の摺動抵抗を低減可能なスラストころ軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために提供される請求項1に記載の発明は、自動車のトランスミッション等の回転部分に装着してスラスト荷重を支承するスラストころ軸受装置であって、軸部および端面部を有する回転軸と、前記回転軸を収容するハウジングと、ともに円環状に形成されたインナレースおよびアウタレースと、前記インナレースと前記アウタレースとの間に配置された複数のころと、複数の前記ころを保持する保持器とからなる軸受と、を備え、前記インナレースは前記軸部に挿通されて前記端面部に固定され、前記アウタレースは前記ハウジングに固定され、前記回転軸は前記軸受を介して、前記ハウジングに回転自在に支持され、前記軸部と前記アウタレースの内径部との隙間から、前記軸受内部を貫通して、前記アウタレースの外径部と前記インナレースの外径部との隙間に至る潤滑油の流路が形成され、前記インナレースの内径部と前記端面部の内径部には、それぞれ通気孔が形成され、前記軸受内部は前記通気孔を介して外部と連通していることを特徴とする。
【0007】
本請求項のスラストころ軸受装置の軸受内部は、潤滑油が、軸部とアウタレースの内径部との隙間から、軸受内部を貫通して、アウタレースの外径部とインナレースの外径部との隙間から排出されることにより、潤滑されている。回転軸が高速回転状態にあるとき、軸受内部に供給された潤滑油は、遠心力が大きく外力として作用することにより、通常よりも大きな力で径方向外方へ押し出されて、外部へ排出される。軸受内部から、潤滑油が大きな力で外部へ排出されることにより、軸受内部の気圧は低下するが、軸受内部は、インナレースの内径部と端面部の内径部に形成された通気孔を介して外部と連通しているので、外部との圧力差はなく、気圧の低下を極めて小さく抑制することができる。従って、回転軸が高速回転状態であっても、軸受内部の気圧の低下を抑制できるので、軸受内部が軸部の潤滑油を吸引することを防いで、軸部の潤滑油が不足しないようにできる。また、軸部から吸引された潤滑油により、一時的に軸受内部の潤滑油が滞留して、攪拌抵抗が増大することもない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速回転時の軸受内部の気圧の低下を抑制することにより、摺動面の摺動抵抗を低減可能なスラストころ軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態のスラストころ軸受装置を示す要部側面断面図。
【図2】本発明の実施形態のスラストころ軸受装置を示す軸方向断面図。
【図3】本発明のその他の実施形態のスラストころ軸受装置を示す要部側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は本発明のスラストころ軸受装置の要部側面断面図であり、図2は図1のスラストころ軸受のA−Aの軸方向断面図である。図3は本発明のその他の実施形態のスラストころ軸受装置を示す要部側面断面図である。
【0011】
図1に示すように、スラストころ軸受装置10は、軸部16aと端面部16bを有する回転軸16と、回転軸16を収容するハウジング6と、環状に形成され、回転軸16の端面部16bに当接するインナレース12と、環状に形成されて回転軸16の端面に平行なハウジング6の内面に支持されるアウタレース13と、インナレース12とアウタレース13の間に配置された複数のころ14からなるスラストころ軸受を備えている。
【0012】
回転軸16は、駆動部に接続された軸部16aと、回転軸16の軸線に直交する端面部16bとを有している。軸部16aは、アウタレース13の挿通孔29とインナレース12の内径を挿通して、端面部16bにインナレース12を固定している。端面部16bの内径部には、通気孔16cが形成されている。この通気孔16cは外部と連通している。
【0013】
ハウジング6は、回転軸16を収容し、回転軸16を回転自在に支持するとともに、回転軸16の軸線に直交する端面にアウタレース13を支持して、スラスト荷重を支承している。
【0014】
インナレース12は、断面が略L字形状となっており、回転軸16の軸線に直交するインナレース本体部21と、このインナレース本体部21の内径部からアウタレース13側に延在する短円筒状の折曲げ部22と、折曲げ部22の端部から径方向外方へ延在する保持器抜止め用の環状突起23とからなる。インナレース本体部21の内径部には、通気孔27が形成されている。インナレース本体部21は、回転軸16の端面部16bに当接され、通気孔27は、回転時16の端面部16bの通気孔16cと連通している。軸受内部は、通気孔27と通気孔16cを介して外部と連通している。
【0015】
アウタレース13は、断面が略J字形状となっており、インナレース12に対し、ころ14を挟んで略対称に形成されており、回転軸16の軸線に直交するアウタレース本体部24と、アウタレース本体部24の外径部からインナレース12側に延在する短円筒状の折曲げ部25と、折曲げ部25の端部から径方向内方へ延在する保持器抜止め用の環状突起26とからなる。アウタレース本体部24は、ハウジング6の端面に当接されて固定されている。
【0016】
また、図2に示すように、インナレース12の内径部の通気孔27は、周方向に4箇所形成されている。通気孔27の位置は、端面部16bの通気孔16c(図示せず)の位置と同じ位置となっている。このインナレース12およびアウタレース13は、鋼板をプレス成形することによって一体に形成されている。
【0017】
複数のころ14は、軸受中心を中心として放射状に配置されるとともに、保持器15のポケット34に軸方向の両側へ抜け出さないように保持され、その周面がインナレース12およびアウタレース13の各本体部21,24の内面に当接させられている。
【0018】
保持器15は、薄い鋼板を素材として打ち抜き、プレス成形加工によって一体加工したもので、内径側環状板31と、外径側環状板32と、これら両環状板31,32の周方向に所定の間隔を隔てて掛け渡された複数の柱部33と、これら隣接する柱部33の間に形成された複数のポケット34とを備えている。保持器15は、径方向に複数回屈曲させられており、これにより、各柱部33は、断面略M字状に形成されている。
【0019】
図1に示すように、インナレース12とアウタレース13とは、インナレース12の突起23がアウタレース本体部24と非接触となるように、また、アウタレース13の突起26がインナレース本体部21と非接触となるように、保持器15を介して組み付けられている。インナレース12の突起23の外径は、保持器15の内径側環状板31の内径よりも大きくなされており、また、アウタレース13の突起26の内径は、保持器15の外径側環状板32の外径よりも小さくなされており、これにより、保持器15と各レース12,13とが軸方向に分離できないようにしている。
【0020】
上記のように構成されるスラストころ軸受装置10の動作を説明する。
このスラストころ軸受装置10によると、ころ14と各レース本体部21,24とによって、回転軸16の軸線方向の荷重を支えることができ、この状態でインナレース12およびアウタレース13が相対回転すると、ころ14が回転し、回転軸16に対する摩擦抵抗が軽減される。
【0021】
スラストころ軸受装置10の潤滑油は、潤滑油供給装置(図示せず)から、軸部16aに供給され、外周面に油膜を形成するとともに、流路40からアウタレース13の挿通孔29を経由し、インナレース12とアウタレース13の内径部の隙間から、軸受内部に供給される。
【0022】
回転軸16が通常の回転状態にあるとき、軸受内部に供給された潤滑油は、インナレース12とアウタレース13の間を放射状に貫通し、ころ14および保持器15の摺動面に潤滑油を供給し、インナレース12の外径部とアウタレース13の折曲げ部25との間の開口部28から外部へ排出される。
【0023】
回転軸16が高速な回転状態にあるとき、軸受内部に供給された潤滑油は、遠心力が大きく外力として作用することにより、通常よりも大きな力で径方向外方へ押し出されて、外部へ排出される。軸受内部から、潤滑油が大きな力で排出されることにより、軸受内部の気圧は低下するが、軸受内部は、インナレース12の内径部と端面部16bの内径部に形成された通気孔27,16cを介して外部と連通しているので、外部との圧力差はなく、気圧の低下を極めて小さく抑制することができる。従って、軸受内部が軸部16aの潤滑油を吸引することを防いで、軸部16aの油膜を確保することができる。また、軸部16aから吸引された潤滑油により、一時的に軸受内部の潤滑油が滞留して、攪拌抵抗が増大することもない。
【0024】
以上、本発明のスラストころ軸受装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0025】
上記実施の形態では、インナレース12の通気孔27と回転軸16の端面部16bの通気孔16cの位置を合わせて連通させているが、図3に示すように、端面部16bの内径部に環状空間17を設け、通気孔27と通気孔16cとを、それぞれ環状空間17を介して連通させてもよい。
【符号の説明】
【0026】
6:ハウジング、
10,110:スラストころ軸受装置
12:インナレース、 13:アウタレース、
14:ころ、 15:保持器、
16:回転軸、 16a:軸部、 16b:端面部、16c:通気孔
17:環状空間、
21:本体部(インナレース)、 22:折曲げ部、 23:環状突起、
24:本体部(アウタレース)、 25:折曲げ部、 26:突起、
27:通気孔、 28:開口部、 29:挿通孔、
31:内径側環状板、 32:外径側環状板、 33:柱部、 34:ポケット、
40:流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のトランスミッション等の回転部分に装着してスラスト荷重を支承するスラストころ軸受装置であって、
軸部および端面部を有する回転軸と、
前記回転軸を収容するハウジングと、
ともに円環状に形成されたインナレースおよびアウタレースと、
前記インナレースと前記アウタレースとの間に配置された複数のころと、
複数の前記ころを保持する保持器とからなる軸受と、
を備え、
前記インナレースは前記軸部に挿通されて前記端面部に固定され、前記アウタレースは前記ハウジングに固定され、前記回転軸は前記軸受を介して、前記ハウジングに回転自在に支持され、前記軸部と前記アウタレースの内径部との隙間から、前記軸受内部を貫通して、前記アウタレースの外径部と前記インナレースの外径部との隙間に至る潤滑油の流路が形成され、前記インナレースの内径部と前記端面部の内径部には、それぞれ通気孔が形成され、前記軸受内部は前記通気孔を介して外部と連通していることを特徴とするスラストころ軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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