スラスト軸受
【課題】外輪のツバに係合爪を形成することにより保持器との一体化を図った場合において、製造工程において外輪が相互に絡み合うことがないようにすることである。
【解決手段】外輪11のツバ15に内径側へ張り出した係合爪16が設けられたスラスト軸受において、前記係合爪16の張り出し量h1が、仮想外輪11aのツバ先端縁の高さh2を越えない大きさ(h1≦h2)に設定された構成とすることにより、一つの外輪11の係合爪16に他の外輪のツバが絡むことを防止した。
【解決手段】外輪11のツバ15に内径側へ張り出した係合爪16が設けられたスラスト軸受において、前記係合爪16の張り出し量h1が、仮想外輪11aのツバ先端縁の高さh2を越えない大きさ(h1≦h2)に設定された構成とすることにより、一つの外輪11の係合爪16に他の外輪のツバが絡むことを防止した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト軸受に関し、特に、軌道輪と保持器を非分離状態に一体化したスラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウジングやシャフトへの組み付けを容易にするために、外輪と保持器を非分離状態に一体化したスラスト軸受が従来から知られている。この場合、外輪と保持器の一体化のために、外輪のツバ先端部に突片を設け、これを曲げ加工によって軌道面上へ張り出すように屈曲させることにより係合爪を設けることが行われる(特許文献1)。図29から図32は、このようなスラスト軸受に使用される外輪1の例である。
【0003】
この外輪1においては、外周縁に設けたツバ2の周方向の複数個所において、ツバ2の先端部に設けた矩形の突片を内径側に曲げ加工を施すことにより、転動面3上に張り出した係合爪4を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−83339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記外輪1の大量生産工程において同種の外輪1が多量に集合する部分(例えば搬送工程、組立工程、研磨工程等)において、図31に示したように、一つの外輪1の係合爪4と他の同一構造の外輪1a係合爪4aとが絡まり合うことがある。そのため、作業性が著しく阻害される。
【0006】
また、図32に示したように、係合爪4と他の外輪1aのツバ2aとが絡まる場合もある。
【0007】
そこで、この発明は、同一構造の外輪が多量に集合した場合においても、係合爪相互、係合爪とツバとの絡まりの生じない構造の外輪をもったスラスト軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、外径縁にツバを有する外輪と、所要数のころを保持した保持器との組み合わせ構造を含み、前記ツバの先端縁に内径側へ張り出した係合爪が設けられ、前記係合爪によって外輪と保持器とが非分離状態に一体化されたスラスト軸受において、前記外輪の軸線に対し直交する軸線を持った同一構造の仮想外輪が前記外輪の一定の基準線と平行な姿勢を保ち、当該外輪の前記ツバを設けた面上に前記仮想外輪がそのツバを設けた面を前記基準線側に向けた状態で載り、前記両軌道輪の係合爪とツバ又はツバ相互が2点で係合した限界係合状態における当該外輪の係合爪と前記仮想外輪のツバとの間に、ゼロ以上の径方向スキマδ又は軸方向のスキマφが存在する構成とした。
【0009】
ここで、「限界係合状態」とは、外輪と仮想外輪の係合爪とツバ又はツバ相互が係合した前記の状態のうち、両者が径方向に最も接近した状態をいう。この限界係合状態に達しない場合は外輪の係合爪に対し仮想外輪のツバが係合せず、従って絡まりは発生しない。逆に、限界係合状態を越えると外輪と仮想外輪は分離されるので、この場合も絡まりは発生しない。
【0010】
限界係合状態は外輪の係合爪に対し仮想外輪のツバが最も接近した状態であるから、絡まる可能性が最も高くなるが、その状態において外輪の係合爪と仮想外輪のツバとの間にゼロ以上の径方向スキマδ又は軸方向のスキマφが存在すると、係合爪とツバはスキマδ又はスキマφの部分で分離状態にあるから、係合状態になく絡まりは生じない。
【0011】
なお、前記ツバの軸方向の高さH2が、前記係合爪の軸方向の内部高さH3を越える高さ(H2>H3)に設定された構成をとることができる。この条件を満たす場合は、1つの係合爪に他の外輪の係合爪が絡まること、即ち係合爪同士の絡まりが防止される。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、軌道輪の製造工程において軌道輪相互の絡まりを防止できるので、製品としての軌道輪の運搬・搬送が容易となる。また、その後の研磨等の工程においても作業性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態1のスラスト軸受を示す一部省略平面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図3】図3は、外輪の平面図である。
【図4】図4は、図3のX2−X2線の断面図である。
【図5】図5は、図3のX3−X3線の断面図である。
【図6】図6は、図1の一部拡大平面図である。
【図7】図7は、外輪の絡まり状態を説明する一部横断平面図である。
【図8】図8は、図7のX5−X5線の拡大断面図である。
【図9】図9は、外輪の他の絡まり状態を説明する一部横断平面図である。
【図10】図10は、図9のX6−X6線の一部拡大断面図である。
【図11】図11は、外輪の他の絡まり状態を説明する横断平面図である。
【図12】図12は、図11のX7−X7線の一部拡大断面図である。
【図13】図13は、図11の一部正面図である。
【図14】図14は、外輪の他の絡まり状態を説明する一部正面図である。
【図15】図15は、図14のX8−X8線の一部拡大断面図である。
【図16】図16は、図3のX4−X4線の矢視図である。
【図17】図17は、係合爪相互の非絡まり状態を示す一部拡大断面図である。
【図18】図18は、外輪の他の例の平面図である。
【図19】図19は、図18の一部拡大平面図である。
【図20】図20は、外輪の他の例の平面図である。
【図21】図21は、外輪の他の例の平面図である。
【図22】図22は、外輪の他の例の平面図である。
【図23】図23は、実施形態2に係るスラスト軸受の平面図である。
【図24】図24は、図23のX9−X9線の断面図である。
【図25】図25は、実施形態3のスラスト軸受の断面図である。
【図26】図26は、実施形態3の他のスラスト軸受の断面図である。
【図27】図27は、実施形態4のスラスト軸受の断面図である。
【図28】図28は、実施形態4の他のスラスト軸受の断面図である。
【図29】図29は、従来例の外輪の平面図である。
【図30】図30は、図29のX10−X10線の矢視図である。
【図31】図31は、係合爪の絡まり状態を示す拡大断面図である。
【図32】図32は、係合爪とツバとの絡まり状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0015】
図1及び図2に示したように、実施形態1のスラスト軸受は、外輪11と内輪12、これらの間に介在された所要数のころ13及びこれらのころ13を周方向一定間隔に保持する保持器14によって構成される。外輪11のツバ15及び内輪12の内径ツバ21にそれぞれ設けた係合爪16及び係合爪22を保持器14の外周縁及び内周縁に係合している。これにより、外輪11、内輪12及び保持器14の三部材が非分離状態に一体化された構造となっている。
【0016】
外輪11の係合爪16は、ツバ15の先端縁に内径側へ張り出しており、周方向等配位置の数個所(図示の場合は8個所)に断続状態に設けられる。図3から図5に示したように、ツバ15の先端部内径面に段差18が設けられ、その段差18の分だけ薄くなった先端部19(図4、図5参照)までがツバ15である。その先端部19に周方向断続位置に円弧状の突片を設け、その突片の部分に曲げ加工を施すことにより、前記の係合爪16が形成される。
【0017】
係合爪16の張り出し形状は、図3に示したように、中間部分が最大の張り出し高さとなり、その両側は張り出し高さが漸減し、両端部においてゼロとなる円弧状をなす。係合爪16の全長をW1、隣接する係合爪16相互間の長さをW2とすると、図示の場合はW1>W2であるが、W1<W2の場合や、W2がゼロ又はゼロに近い場合などがある。
【0018】
図6に示したように、前記係合爪16の内径側への張り出し高さh1は次のように定められる。即ち、係合爪16の内側辺の中点M(係合爪16における最大張り出し部)を通る径方向の線Sと、ツバ15の外周円との交点をNとする。交点Nに引いた接線を基準線Tとする。基準線Tからの係合爪16の高さが張り出し高さh1である。この張り出し高さh1は、一定の軸受スキマx及びツバ15の板厚y及び係り代zの和、即ち、h1=x+y+zである。この係り代zによって保持器14の外れが防止される。
【0019】
前記の外輪11については、その製造工程において他の同一の外輪11との絡み合いを防止するために、係合爪16の張り出し高さh1は、図6に示したように、前記基準線Tから高さh2にある後述の仮想外輪11a(図7参照)のツバ15aの先端位置(係合線Lで示す。)を越えない大きさ、即ちh1≦h2の関係(以下、第一の非絡まり条件という。)があるように設定される。
【0020】
以下、係合爪16の長さW1と、隣接する係合爪16相互間の長さW2との関係について、場合分けして前記の第一非絡まり条件を説明する。
【0021】
まず、W1<W2の場合について説明する。図7及び図8に示したように、外輪11と同一構造の他の外輪11a(外輪11と区別するためこれを仮想外輪11aと呼ぶ。仮想外輪11aの各部の符号にもこれに対応した外輪11の各部の符号にaを付して示す。)を用い、外輪11のツバ15を設けた方の面の上に、仮想外輪11aを軸線方向が直交し、かつツバ15aを設けた面を前記の基準線T側に向けた姿勢で載せる。その姿勢を保ったまま仮想外輪11aを基準線T(図6参照)と平行にその方向に平行移動させる(図7、図8の白抜き矢印A参照)。
【0022】
このとき、仮想外輪11aの外周面を外輪11の転動面20に接触させながら径方向に平行移動させると、外輪11のツバ15に対し仮想外輪11aのツバ15aが2点a1、b1で係合する(図7、図8の実線状態)。ここで、仮想外輪11aを転動面20から離れさせると、非係合状態となるので、さらに径方向に平行移動を行うことができる。
【0023】
このようにして、外輪11の係合爪16に対し仮想外輪11aのツバ15aが一層径方向に接近したとき、それ以上接近するとツバ15aが係合爪16の端面に当たるか、その上に乗り上げて非係合状態となってしまう限界点に達する。そのときの仮想外輪11aを図7及び図8の二点鎖線で示し、前記2点の位置をa2、b2で示す。このような限界点に達した係合状態を限界係合状態と称する。限界係合状態においては、外輪11と仮想外輪11aとが最も絡まりやすい状態になっている。
【0024】
前記の限界係合状態を越えると、仮想外輪11aは外輪11から分離し、もはや絡まりは生じ得ないので、絡まるか否かの判断は前記の限界係合状態において考える必要がある。
【0025】
前記の限界係合状態において、点a2、b2を結ぶ直線を係合線Lとする(図6、図7参照)。係合線Lはツバ15aの上端縁に一致する線であり、この係合線Lの前記基準線Tからの高さh2を係合線Lの高さとする。
【0026】
図7及び図8に示したように、係合爪16の張り出し高さh1が、係合線Lの高さh2と同じか小さい場合(h1≦h2)は、係合爪16が仮想外輪11a(実際には同一構造の他の外輪11)のツバ15aには届かないので、絡まることはあり得ない。h1≦h2の関係を第一の非絡まり条件と呼ぶ。h1≦h2の関係は、外輪11の係合爪16と仮想外輪11aのツバ15aの上端縁の間に外輪11の径方向スキマδ(図8参照)の大きさがゼロ以上であることを意味する。
【0027】
要するに、径方向に突き合って接触した状態(スキマゼロの状態)、又は径方向に分離された状態(スキマが有限値)においては、係合爪16とツバ15aは係合し得ず、したがって、絡まることもない。
【0028】
h1>h2であると、図9及び図10に示したように、限界係合状態において、係合爪16とツバ15aはオーバーラップし、径方向スキマδがマイナス(−δ)となるから、両者は係合状態にあるので絡まり易い。
【0029】
なお、第一の非絡まり条件は、係合爪16の張り出し高さh1に関わり、張り出し形状には直接関わることがないが、欠けの生じ難さ、万一絡まった場合の外れ易さ等を考慮し、係合爪16の張り出し形状は、図示のような円弧状であることが望ましい。
【0030】
次に、W1>W2の場合について、図11から図14に基づいて説明する。図11及び図12に示したように、前記と同様の態様で外輪11と仮想外輪11aを組み合わせ、仮想外輪11aを基準線Tと平行にその方向に平行移動させる(図11、図12の白抜き矢印A参照)。
【0031】
このとき、仮想外輪11aの外周面を外輪11の転動面20に接触させながら平行移動させると、ある点で外輪11のツバ15に対し仮想外輪11aのツバ15aが2点a1、b1で係合する(図11及び図12の仮想外輪11aの実線状態参照)。さらに、仮想外輪11aを平行移動させ続けるには、仮想外輪11aの外周面を外輪11の転動面20から離す必要がある。
【0032】
仮想外輪11aを外輪11の転動面20から離して平行移動させた場合(図12の二点鎖線、図13参照)、仮想外輪11aの隣接する2つの係合爪16aが点a3、b3において外輪11の係合爪16と係合して限界係合状態になったとする。
【0033】
このとき、h1>h2であっても係合爪16との干渉であり、図12のように、係合爪16の最大張り出し部(係合爪16の中点)においては、係合爪16とツバ15aの間に軸方向スキマφが生じるため、外輪11は仮想外輪11aに係合することがなく、従って絡みも生じ得ない。
【0034】
仮に、前記の限界係合状態から前記のスキマφがゼロになる位置まで平行移動させ、係合爪16上の2点a4、b4において接触させた状態では、ツバ15aが係合爪16の下に深く潜り込むことはできない(図14、図15参照)。
【0035】
従って、h1>h2であっても、前記の限界係合状態において係合爪16とツバ15aとの間に軸方向スキマφが存在するとき(以下第二の非絡まり条件という。)は、絡みを生じない。これらの条件を満たすには、係合爪16を曲率が小さい円弧を用いて滑らかに形成することが望ましい。
【0036】
一方、図16及び図17に示したように、前記の係合爪16の外輪11の底面からの内部高さH3は、ツバ15の外輪11の底面からの高さH2よりも低い。即ち、両者の高さにはH2>H3の関係がある。
【0037】
前記の関係があると、図17に示したように、一方の外輪11の係合爪16に対し、他方の外輪11aの係合爪16aが接近しても、相互にツバ15、15aが当接することにより、係合爪16、16aが相互に内側へ入り込むことができない。このため、係合爪16、16a相互の絡まりが防止される。H2>H3を第三の非絡まり条件と呼ぶ。
【0038】
次に、外輪11のその他の形状、特に、係合爪16の形状の異なる例を以下説明する。図18は、係合爪16の内側辺が直線であり、隣接する他の係合爪16の内側辺と連続しており、全体として八角形をなしている。係合爪16の相互間の前述の距離W2はゼロである。各頂点においても張り出し量が残っており、係合爪16の剛性は比較的高い。図19はその一部を拡大して示している。係合爪16の内側辺と保持器14が係り代zをもって軸方向に係合していることを示している。
【0039】
図20の場合も前記と同様に、係合爪16の内側辺が八角形をなしているが、頂点においては張り出し量がゼロとなっているため、剛性が前記の場合より小さくなっている。頂点においては、わずかであるがツバ15の一部が露出する。
【0040】
図21の場合は、前記の図18の場合において、各係合爪16の内側辺の形状を外周方向に凹んだ凹形円弧線としたものである。この場合の曲率半径Rと、外輪11の半径r及び係合爪16の張り出し量h1の関係は、R>r−h1の関係に設定される。これは、仮に、Rが前記関係式の右辺より小さいとすれば、多角形の頂点付近での張り出し量が大きくなり、保持器14の組み込みが困難となることによる。
【0041】
以上のいずれの場合も、前記第一の非絡まり条件(h1≦h2)、第三の非絡まり条件(H2>H3)を満たす限り、同一の外輪11相互が絡み合うことはない。また、これらの係合爪16は、図18と図21の場合はツバ15が露出することがなく、図20の場合は、露出するとしてもわずかであるので、前記の第一の非絡まり条件を適用するまでもなく、同一形状の他の外輪11と絡まり合うことはない。
【0042】
図22の場合は、係合爪16の内側辺の形状が、内径側へ膨らんだ凸形円弧線となっており、係合爪16の相互間にツバ15が比較的長く露出している。即ち、係合爪16が断続状態に形成されているため、絡まりが生じる可能性があるが、前記の第一の非絡まり条件を満たすかぎり、絡まることはない。
なお、図18から図22のいずれの場合も、第三の非絡まり条件を満たすものとする。
【0043】
なお、以上述べたスラスト軸受は、例えば、自動車用オートマチックトランスミッションやコンプレッサー等において用いられる。
[実施形態2]
【0044】
図23及び図24に示した実施形態2のスラスト軸受は、軸の偏心回転があった場合において保持器14が軌道輪に接触することを避けるため、保持器と軌道輪の径方向の軸受内部スキマを偏心量の2倍よりも大きく設定したスラスト軸受に適用できる。
【0045】
偏心量が比較的大きい軸受部に前記のスラスト軸受を使用する場合は、偏心量の2倍よりも大きく張り出す係合爪をステーキングによって形成することが困難であるため、曲げ加工で係合爪を形成する本発明は特に有効である。この場合、本実施形態2のように保持器14と外輪11のツバ15との間に偏心量の2倍より大きい軸受内部スキマxが設けられ、軸の偏心回転によってもツバ15との接触が避けられるようにしている。図面上軸受内部スキマxは径方向の両側へ半分ずつ振り分けた状態で示している。
[実施形態3]
【0046】
図25及び図26に示した実施形態2のスラスト軸受は、前述の実施形態1のスラスト軸受と同様に、外輪11、内輪12及び保持器14の三部材が非分離状態に一体化されている。保持器14の断面形状が実施形態1の場合と異なっている。外輪11の構造は前述のものと同様であり、製造工程において絡まることがない。内輪12は内径ツバ21を有し、その内径ツバ21に設けた係合爪22によって保持器14との一体化を図っている。
[実施形態4]
【0047】
図27及び図28に示した実施形態3のスラスト軸受は、外輪11と、ころ13を保持した保持器14とからなり、外輪11の係合爪16によって保持器14を係合した二部材が非分離状態に一体化されている。この場合の外輪11も、前述のものと同様であり、製造工程において絡まることがない。
【符号の説明】
【0048】
11、11a 外輪
12 内輪
13 ころ
14 保持器
15、15a ツバ
16、16a 係合爪
18 段差
19 先端部
20 転動面
21 内径ツバ
22 係合爪
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト軸受に関し、特に、軌道輪と保持器を非分離状態に一体化したスラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウジングやシャフトへの組み付けを容易にするために、外輪と保持器を非分離状態に一体化したスラスト軸受が従来から知られている。この場合、外輪と保持器の一体化のために、外輪のツバ先端部に突片を設け、これを曲げ加工によって軌道面上へ張り出すように屈曲させることにより係合爪を設けることが行われる(特許文献1)。図29から図32は、このようなスラスト軸受に使用される外輪1の例である。
【0003】
この外輪1においては、外周縁に設けたツバ2の周方向の複数個所において、ツバ2の先端部に設けた矩形の突片を内径側に曲げ加工を施すことにより、転動面3上に張り出した係合爪4を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−83339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記外輪1の大量生産工程において同種の外輪1が多量に集合する部分(例えば搬送工程、組立工程、研磨工程等)において、図31に示したように、一つの外輪1の係合爪4と他の同一構造の外輪1a係合爪4aとが絡まり合うことがある。そのため、作業性が著しく阻害される。
【0006】
また、図32に示したように、係合爪4と他の外輪1aのツバ2aとが絡まる場合もある。
【0007】
そこで、この発明は、同一構造の外輪が多量に集合した場合においても、係合爪相互、係合爪とツバとの絡まりの生じない構造の外輪をもったスラスト軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、外径縁にツバを有する外輪と、所要数のころを保持した保持器との組み合わせ構造を含み、前記ツバの先端縁に内径側へ張り出した係合爪が設けられ、前記係合爪によって外輪と保持器とが非分離状態に一体化されたスラスト軸受において、前記外輪の軸線に対し直交する軸線を持った同一構造の仮想外輪が前記外輪の一定の基準線と平行な姿勢を保ち、当該外輪の前記ツバを設けた面上に前記仮想外輪がそのツバを設けた面を前記基準線側に向けた状態で載り、前記両軌道輪の係合爪とツバ又はツバ相互が2点で係合した限界係合状態における当該外輪の係合爪と前記仮想外輪のツバとの間に、ゼロ以上の径方向スキマδ又は軸方向のスキマφが存在する構成とした。
【0009】
ここで、「限界係合状態」とは、外輪と仮想外輪の係合爪とツバ又はツバ相互が係合した前記の状態のうち、両者が径方向に最も接近した状態をいう。この限界係合状態に達しない場合は外輪の係合爪に対し仮想外輪のツバが係合せず、従って絡まりは発生しない。逆に、限界係合状態を越えると外輪と仮想外輪は分離されるので、この場合も絡まりは発生しない。
【0010】
限界係合状態は外輪の係合爪に対し仮想外輪のツバが最も接近した状態であるから、絡まる可能性が最も高くなるが、その状態において外輪の係合爪と仮想外輪のツバとの間にゼロ以上の径方向スキマδ又は軸方向のスキマφが存在すると、係合爪とツバはスキマδ又はスキマφの部分で分離状態にあるから、係合状態になく絡まりは生じない。
【0011】
なお、前記ツバの軸方向の高さH2が、前記係合爪の軸方向の内部高さH3を越える高さ(H2>H3)に設定された構成をとることができる。この条件を満たす場合は、1つの係合爪に他の外輪の係合爪が絡まること、即ち係合爪同士の絡まりが防止される。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、軌道輪の製造工程において軌道輪相互の絡まりを防止できるので、製品としての軌道輪の運搬・搬送が容易となる。また、その後の研磨等の工程においても作業性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態1のスラスト軸受を示す一部省略平面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図3】図3は、外輪の平面図である。
【図4】図4は、図3のX2−X2線の断面図である。
【図5】図5は、図3のX3−X3線の断面図である。
【図6】図6は、図1の一部拡大平面図である。
【図7】図7は、外輪の絡まり状態を説明する一部横断平面図である。
【図8】図8は、図7のX5−X5線の拡大断面図である。
【図9】図9は、外輪の他の絡まり状態を説明する一部横断平面図である。
【図10】図10は、図9のX6−X6線の一部拡大断面図である。
【図11】図11は、外輪の他の絡まり状態を説明する横断平面図である。
【図12】図12は、図11のX7−X7線の一部拡大断面図である。
【図13】図13は、図11の一部正面図である。
【図14】図14は、外輪の他の絡まり状態を説明する一部正面図である。
【図15】図15は、図14のX8−X8線の一部拡大断面図である。
【図16】図16は、図3のX4−X4線の矢視図である。
【図17】図17は、係合爪相互の非絡まり状態を示す一部拡大断面図である。
【図18】図18は、外輪の他の例の平面図である。
【図19】図19は、図18の一部拡大平面図である。
【図20】図20は、外輪の他の例の平面図である。
【図21】図21は、外輪の他の例の平面図である。
【図22】図22は、外輪の他の例の平面図である。
【図23】図23は、実施形態2に係るスラスト軸受の平面図である。
【図24】図24は、図23のX9−X9線の断面図である。
【図25】図25は、実施形態3のスラスト軸受の断面図である。
【図26】図26は、実施形態3の他のスラスト軸受の断面図である。
【図27】図27は、実施形態4のスラスト軸受の断面図である。
【図28】図28は、実施形態4の他のスラスト軸受の断面図である。
【図29】図29は、従来例の外輪の平面図である。
【図30】図30は、図29のX10−X10線の矢視図である。
【図31】図31は、係合爪の絡まり状態を示す拡大断面図である。
【図32】図32は、係合爪とツバとの絡まり状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0015】
図1及び図2に示したように、実施形態1のスラスト軸受は、外輪11と内輪12、これらの間に介在された所要数のころ13及びこれらのころ13を周方向一定間隔に保持する保持器14によって構成される。外輪11のツバ15及び内輪12の内径ツバ21にそれぞれ設けた係合爪16及び係合爪22を保持器14の外周縁及び内周縁に係合している。これにより、外輪11、内輪12及び保持器14の三部材が非分離状態に一体化された構造となっている。
【0016】
外輪11の係合爪16は、ツバ15の先端縁に内径側へ張り出しており、周方向等配位置の数個所(図示の場合は8個所)に断続状態に設けられる。図3から図5に示したように、ツバ15の先端部内径面に段差18が設けられ、その段差18の分だけ薄くなった先端部19(図4、図5参照)までがツバ15である。その先端部19に周方向断続位置に円弧状の突片を設け、その突片の部分に曲げ加工を施すことにより、前記の係合爪16が形成される。
【0017】
係合爪16の張り出し形状は、図3に示したように、中間部分が最大の張り出し高さとなり、その両側は張り出し高さが漸減し、両端部においてゼロとなる円弧状をなす。係合爪16の全長をW1、隣接する係合爪16相互間の長さをW2とすると、図示の場合はW1>W2であるが、W1<W2の場合や、W2がゼロ又はゼロに近い場合などがある。
【0018】
図6に示したように、前記係合爪16の内径側への張り出し高さh1は次のように定められる。即ち、係合爪16の内側辺の中点M(係合爪16における最大張り出し部)を通る径方向の線Sと、ツバ15の外周円との交点をNとする。交点Nに引いた接線を基準線Tとする。基準線Tからの係合爪16の高さが張り出し高さh1である。この張り出し高さh1は、一定の軸受スキマx及びツバ15の板厚y及び係り代zの和、即ち、h1=x+y+zである。この係り代zによって保持器14の外れが防止される。
【0019】
前記の外輪11については、その製造工程において他の同一の外輪11との絡み合いを防止するために、係合爪16の張り出し高さh1は、図6に示したように、前記基準線Tから高さh2にある後述の仮想外輪11a(図7参照)のツバ15aの先端位置(係合線Lで示す。)を越えない大きさ、即ちh1≦h2の関係(以下、第一の非絡まり条件という。)があるように設定される。
【0020】
以下、係合爪16の長さW1と、隣接する係合爪16相互間の長さW2との関係について、場合分けして前記の第一非絡まり条件を説明する。
【0021】
まず、W1<W2の場合について説明する。図7及び図8に示したように、外輪11と同一構造の他の外輪11a(外輪11と区別するためこれを仮想外輪11aと呼ぶ。仮想外輪11aの各部の符号にもこれに対応した外輪11の各部の符号にaを付して示す。)を用い、外輪11のツバ15を設けた方の面の上に、仮想外輪11aを軸線方向が直交し、かつツバ15aを設けた面を前記の基準線T側に向けた姿勢で載せる。その姿勢を保ったまま仮想外輪11aを基準線T(図6参照)と平行にその方向に平行移動させる(図7、図8の白抜き矢印A参照)。
【0022】
このとき、仮想外輪11aの外周面を外輪11の転動面20に接触させながら径方向に平行移動させると、外輪11のツバ15に対し仮想外輪11aのツバ15aが2点a1、b1で係合する(図7、図8の実線状態)。ここで、仮想外輪11aを転動面20から離れさせると、非係合状態となるので、さらに径方向に平行移動を行うことができる。
【0023】
このようにして、外輪11の係合爪16に対し仮想外輪11aのツバ15aが一層径方向に接近したとき、それ以上接近するとツバ15aが係合爪16の端面に当たるか、その上に乗り上げて非係合状態となってしまう限界点に達する。そのときの仮想外輪11aを図7及び図8の二点鎖線で示し、前記2点の位置をa2、b2で示す。このような限界点に達した係合状態を限界係合状態と称する。限界係合状態においては、外輪11と仮想外輪11aとが最も絡まりやすい状態になっている。
【0024】
前記の限界係合状態を越えると、仮想外輪11aは外輪11から分離し、もはや絡まりは生じ得ないので、絡まるか否かの判断は前記の限界係合状態において考える必要がある。
【0025】
前記の限界係合状態において、点a2、b2を結ぶ直線を係合線Lとする(図6、図7参照)。係合線Lはツバ15aの上端縁に一致する線であり、この係合線Lの前記基準線Tからの高さh2を係合線Lの高さとする。
【0026】
図7及び図8に示したように、係合爪16の張り出し高さh1が、係合線Lの高さh2と同じか小さい場合(h1≦h2)は、係合爪16が仮想外輪11a(実際には同一構造の他の外輪11)のツバ15aには届かないので、絡まることはあり得ない。h1≦h2の関係を第一の非絡まり条件と呼ぶ。h1≦h2の関係は、外輪11の係合爪16と仮想外輪11aのツバ15aの上端縁の間に外輪11の径方向スキマδ(図8参照)の大きさがゼロ以上であることを意味する。
【0027】
要するに、径方向に突き合って接触した状態(スキマゼロの状態)、又は径方向に分離された状態(スキマが有限値)においては、係合爪16とツバ15aは係合し得ず、したがって、絡まることもない。
【0028】
h1>h2であると、図9及び図10に示したように、限界係合状態において、係合爪16とツバ15aはオーバーラップし、径方向スキマδがマイナス(−δ)となるから、両者は係合状態にあるので絡まり易い。
【0029】
なお、第一の非絡まり条件は、係合爪16の張り出し高さh1に関わり、張り出し形状には直接関わることがないが、欠けの生じ難さ、万一絡まった場合の外れ易さ等を考慮し、係合爪16の張り出し形状は、図示のような円弧状であることが望ましい。
【0030】
次に、W1>W2の場合について、図11から図14に基づいて説明する。図11及び図12に示したように、前記と同様の態様で外輪11と仮想外輪11aを組み合わせ、仮想外輪11aを基準線Tと平行にその方向に平行移動させる(図11、図12の白抜き矢印A参照)。
【0031】
このとき、仮想外輪11aの外周面を外輪11の転動面20に接触させながら平行移動させると、ある点で外輪11のツバ15に対し仮想外輪11aのツバ15aが2点a1、b1で係合する(図11及び図12の仮想外輪11aの実線状態参照)。さらに、仮想外輪11aを平行移動させ続けるには、仮想外輪11aの外周面を外輪11の転動面20から離す必要がある。
【0032】
仮想外輪11aを外輪11の転動面20から離して平行移動させた場合(図12の二点鎖線、図13参照)、仮想外輪11aの隣接する2つの係合爪16aが点a3、b3において外輪11の係合爪16と係合して限界係合状態になったとする。
【0033】
このとき、h1>h2であっても係合爪16との干渉であり、図12のように、係合爪16の最大張り出し部(係合爪16の中点)においては、係合爪16とツバ15aの間に軸方向スキマφが生じるため、外輪11は仮想外輪11aに係合することがなく、従って絡みも生じ得ない。
【0034】
仮に、前記の限界係合状態から前記のスキマφがゼロになる位置まで平行移動させ、係合爪16上の2点a4、b4において接触させた状態では、ツバ15aが係合爪16の下に深く潜り込むことはできない(図14、図15参照)。
【0035】
従って、h1>h2であっても、前記の限界係合状態において係合爪16とツバ15aとの間に軸方向スキマφが存在するとき(以下第二の非絡まり条件という。)は、絡みを生じない。これらの条件を満たすには、係合爪16を曲率が小さい円弧を用いて滑らかに形成することが望ましい。
【0036】
一方、図16及び図17に示したように、前記の係合爪16の外輪11の底面からの内部高さH3は、ツバ15の外輪11の底面からの高さH2よりも低い。即ち、両者の高さにはH2>H3の関係がある。
【0037】
前記の関係があると、図17に示したように、一方の外輪11の係合爪16に対し、他方の外輪11aの係合爪16aが接近しても、相互にツバ15、15aが当接することにより、係合爪16、16aが相互に内側へ入り込むことができない。このため、係合爪16、16a相互の絡まりが防止される。H2>H3を第三の非絡まり条件と呼ぶ。
【0038】
次に、外輪11のその他の形状、特に、係合爪16の形状の異なる例を以下説明する。図18は、係合爪16の内側辺が直線であり、隣接する他の係合爪16の内側辺と連続しており、全体として八角形をなしている。係合爪16の相互間の前述の距離W2はゼロである。各頂点においても張り出し量が残っており、係合爪16の剛性は比較的高い。図19はその一部を拡大して示している。係合爪16の内側辺と保持器14が係り代zをもって軸方向に係合していることを示している。
【0039】
図20の場合も前記と同様に、係合爪16の内側辺が八角形をなしているが、頂点においては張り出し量がゼロとなっているため、剛性が前記の場合より小さくなっている。頂点においては、わずかであるがツバ15の一部が露出する。
【0040】
図21の場合は、前記の図18の場合において、各係合爪16の内側辺の形状を外周方向に凹んだ凹形円弧線としたものである。この場合の曲率半径Rと、外輪11の半径r及び係合爪16の張り出し量h1の関係は、R>r−h1の関係に設定される。これは、仮に、Rが前記関係式の右辺より小さいとすれば、多角形の頂点付近での張り出し量が大きくなり、保持器14の組み込みが困難となることによる。
【0041】
以上のいずれの場合も、前記第一の非絡まり条件(h1≦h2)、第三の非絡まり条件(H2>H3)を満たす限り、同一の外輪11相互が絡み合うことはない。また、これらの係合爪16は、図18と図21の場合はツバ15が露出することがなく、図20の場合は、露出するとしてもわずかであるので、前記の第一の非絡まり条件を適用するまでもなく、同一形状の他の外輪11と絡まり合うことはない。
【0042】
図22の場合は、係合爪16の内側辺の形状が、内径側へ膨らんだ凸形円弧線となっており、係合爪16の相互間にツバ15が比較的長く露出している。即ち、係合爪16が断続状態に形成されているため、絡まりが生じる可能性があるが、前記の第一の非絡まり条件を満たすかぎり、絡まることはない。
なお、図18から図22のいずれの場合も、第三の非絡まり条件を満たすものとする。
【0043】
なお、以上述べたスラスト軸受は、例えば、自動車用オートマチックトランスミッションやコンプレッサー等において用いられる。
[実施形態2]
【0044】
図23及び図24に示した実施形態2のスラスト軸受は、軸の偏心回転があった場合において保持器14が軌道輪に接触することを避けるため、保持器と軌道輪の径方向の軸受内部スキマを偏心量の2倍よりも大きく設定したスラスト軸受に適用できる。
【0045】
偏心量が比較的大きい軸受部に前記のスラスト軸受を使用する場合は、偏心量の2倍よりも大きく張り出す係合爪をステーキングによって形成することが困難であるため、曲げ加工で係合爪を形成する本発明は特に有効である。この場合、本実施形態2のように保持器14と外輪11のツバ15との間に偏心量の2倍より大きい軸受内部スキマxが設けられ、軸の偏心回転によってもツバ15との接触が避けられるようにしている。図面上軸受内部スキマxは径方向の両側へ半分ずつ振り分けた状態で示している。
[実施形態3]
【0046】
図25及び図26に示した実施形態2のスラスト軸受は、前述の実施形態1のスラスト軸受と同様に、外輪11、内輪12及び保持器14の三部材が非分離状態に一体化されている。保持器14の断面形状が実施形態1の場合と異なっている。外輪11の構造は前述のものと同様であり、製造工程において絡まることがない。内輪12は内径ツバ21を有し、その内径ツバ21に設けた係合爪22によって保持器14との一体化を図っている。
[実施形態4]
【0047】
図27及び図28に示した実施形態3のスラスト軸受は、外輪11と、ころ13を保持した保持器14とからなり、外輪11の係合爪16によって保持器14を係合した二部材が非分離状態に一体化されている。この場合の外輪11も、前述のものと同様であり、製造工程において絡まることがない。
【符号の説明】
【0048】
11、11a 外輪
12 内輪
13 ころ
14 保持器
15、15a ツバ
16、16a 係合爪
18 段差
19 先端部
20 転動面
21 内径ツバ
22 係合爪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径縁にツバを有する外輪と、所要数のころを保持した保持器との組み合わせ構造を含み、前記ツバの先端縁に内径側へ張り出した係合爪が設けられ、前記係合爪によって外輪と保持器とが非分離状態に一体化されたスラスト軸受において、前記外輪の軸線に対し直交する軸線を持った同一構造の仮想外輪が前記外輪の一定の基準線と平行な姿勢を保ち、当該外輪の前記ツバを設けた面上に前記仮想外輪がそのツバを設けた面を前記基準線側に向けた状態で載り、前記両軌道輪の係合爪とツバ又はツバ相互が2点で係合した限界係合状態における当該外輪の係合爪と前記仮想外輪のツバとの間に、ゼロ以上の径方向スキマδ又は軸方向のスキマφが存在することを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
前記外輪の係合爪と仮想外輪のツバとの間の径方向スキマδは、前記係合爪の前記基準線からの張り出し量h1が、前記限界係合状態における仮想外輪のツバ先端縁の前記基準線からの高さh2を越えない大きさ(h1≦h2)に設定されることにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記ツバの軸方向の高さH2が、前記係合爪の軸方向の内部高さH3を越える高さ(H2>H3)に設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記係合爪の周方向長さW1と、係合爪相互間の周方向長さW2の関係が、W1>W2であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項5】
前記保持器とツバとの間に径方向の軸受内部スキマが設けられ、前記係合爪が前記軸受内部スキマより大きく内径側へ張り出すように曲げ加工によって形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項6】
前記係合爪が周方向に断続状態に設けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項7】
前記係合爪の内側辺が相互に連続し、その内側辺によって多角形が形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項8】
前記係合爪の内側辺の張り出し形状が凹形円弧状である場合において、当該凹形円弧状の曲率半径Rと、前記軌道輪の半径rと前記張り出し量h1とがR>r−h1の関係に設定されたことを特徴とする請求項6に記載のスラスト軸受。
【請求項9】
前記ころを保持した保持器が前記外輪と内輪の間に介在され、前記内輪の内周縁に設けられたツバに前記保持器に対する係合爪が設けられ、外輪、保持器、内輪の三部材が非分離状態に一体化されたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項1】
外径縁にツバを有する外輪と、所要数のころを保持した保持器との組み合わせ構造を含み、前記ツバの先端縁に内径側へ張り出した係合爪が設けられ、前記係合爪によって外輪と保持器とが非分離状態に一体化されたスラスト軸受において、前記外輪の軸線に対し直交する軸線を持った同一構造の仮想外輪が前記外輪の一定の基準線と平行な姿勢を保ち、当該外輪の前記ツバを設けた面上に前記仮想外輪がそのツバを設けた面を前記基準線側に向けた状態で載り、前記両軌道輪の係合爪とツバ又はツバ相互が2点で係合した限界係合状態における当該外輪の係合爪と前記仮想外輪のツバとの間に、ゼロ以上の径方向スキマδ又は軸方向のスキマφが存在することを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
前記外輪の係合爪と仮想外輪のツバとの間の径方向スキマδは、前記係合爪の前記基準線からの張り出し量h1が、前記限界係合状態における仮想外輪のツバ先端縁の前記基準線からの高さh2を越えない大きさ(h1≦h2)に設定されることにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記ツバの軸方向の高さH2が、前記係合爪の軸方向の内部高さH3を越える高さ(H2>H3)に設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記係合爪の周方向長さW1と、係合爪相互間の周方向長さW2の関係が、W1>W2であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項5】
前記保持器とツバとの間に径方向の軸受内部スキマが設けられ、前記係合爪が前記軸受内部スキマより大きく内径側へ張り出すように曲げ加工によって形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項6】
前記係合爪が周方向に断続状態に設けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項7】
前記係合爪の内側辺が相互に連続し、その内側辺によって多角形が形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のスラスト軸受。
【請求項8】
前記係合爪の内側辺の張り出し形状が凹形円弧状である場合において、当該凹形円弧状の曲率半径Rと、前記軌道輪の半径rと前記張り出し量h1とがR>r−h1の関係に設定されたことを特徴とする請求項6に記載のスラスト軸受。
【請求項9】
前記ころを保持した保持器が前記外輪と内輪の間に介在され、前記内輪の内周縁に設けられたツバに前記保持器に対する係合爪が設けられ、外輪、保持器、内輪の三部材が非分離状態に一体化されたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のスラスト軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2012−229799(P2012−229799A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−59950(P2012−59950)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]