説明

スラッシュ成形用樹脂粉末組成物及び成形品

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、溶融性および耐加水分解性に優れるスラッシュ成形品を製造することのできるスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を提供することである。
【解決手段】 酸価が0.1以下のポリエステルジオール成分(A)と、カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)を必須成分とするジイソシアネート成分(B)とを反応して得られる熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)を含有してなるスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。ジイソシアネート化合物(B0)は、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソフォロンジイソシアネートを重合して得られる平均重合数が2〜3であるジイソシアネートが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品の成形用素材として適する熱可塑性樹脂粉末を主体とするスラッシュ成形用の樹脂粉末組成物、及び該樹脂粉末組成物を使用した成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系ウレタン樹脂は、長期間の高温、高湿下で樹脂中のエステル結合が加水分解し、樹脂の物性が低下することがあることが知られている。また、スラッシュ成形用の熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂粉末からなる樹脂成形品についても、高温多湿な使用環境等により樹脂中のエステル結合が加水分解する可能性があることがわかっている。
この問題を解決するために、加水分解後の樹脂中のカルボン酸と結合をなし安定させるカルボジイミド化合物が効果を上げている。(例えば特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−255752号公報
【特許文献2】特開平9−272726号公報
【特許文献3】特開平6−287442号公報
【特許文献4】特表平10−510311号公報
【特許文献5】特開2008−156506号公報
【特許文献6】特開2008−156517号公報
【特許文献7】特開2008−214415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、スラッシュ成形用の熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂粉末を成形する時に、カルボジイミド化合物の影響で溶融性に不具合が生じることがあることもわかってきた。
本発明が解決しようとする課題は、溶融性を悪化させずに耐加水分解性により優れるスラッシュ成形品を製造することのできるスラッシュ成形用の熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂粉末組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、酸価が0.1以下のポリエステルジオール(A0)を含有するジオール成分(A)と、カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)を含有するジイソシアネート成分(B)とを必須成分として反応して得られる熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)を含有してなるスラッシュ成形用樹脂粉末組成物;及び該樹脂粉末組成物をスラッシュ成形してなる樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物から成形された樹脂成形品は、溶融性および耐加水分解安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物は、分子内にカルボジイミド結合を有する、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)を含有してなるために耐加水分解安定性に優れる。しかも、従来カルボジイミド結合を有する、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)がスラッシュ成形時に溶融性に不具合が生じることがあったが、この点を改良したものである。
溶融性に不具合が生じる原因を調べた結果、(C)には架橋構造を有する場合があり、その架橋構造は主にカルボジイミド基とカルボキシル基との反応で生成するものと推定された。
したがって、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)を得る際に、ジオール成分として酸価が0.1以下のポリエステルジオール(A0)を使用することにより、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を得ることができた。
【0008】
熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)は、酸価が0.1以下のポリエステルジオール(A0)を含有するジオール成分(A)と、カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)を含有するジイソシアネート成分(B)とを必須成分とし、必要により、低分子ジアミン(D)等を反応して得られる樹脂である。ポリエステルジオール(A0)としては酸価が0.1以下であり、好ましくは酸価が0.01〜0.05であり、より好ましくは酸価が0.01〜0.03である。
酸価が0.1を超えるとカルボキシル基とカルボジイミドの反応で生成した架橋構造が多くなり溶融性に不具合が生じる可能性がある。
酸価の測定方法として、ポリエステルジオールを10g採取し中性メタノール/アセトン(1:1)溶液100mLに溶解させ、0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液で滴定し、以下の計算式から求める。
【0009】
【数1】

【0010】
ポリエステルジオール(A0)は、例えば(1)低分子ジオールとジカルボン酸もしくはエステル形成性誘導体[酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、酸ハライド等]との縮合重合によるもの;(2)低分子ジオールを開始剤としてラクトンモノマーを開環重合したもの;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0011】
上記低分子ジオールの具体例としては脂肪族ジオール類[直鎖ジオール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなど)、分岐鎖を有するジオール(プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,2−、1,3−もしくは2,3−ブタンジオールなど)など];環状基を有するジオール類[たとえば特公昭45−1474号公報記載のもの;脂肪族環状基含有ジオール(1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、水添ビスフェノールAなど)、芳香族環状基含有ジオール(m−、およびp−キシリレングリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールFのアルキレンオキシド付加物、ジヒドロキシナフタレンのアルキレンオキシド付加物、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど)]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは脂肪族ジオールおよび環状基を有するジオールである。
【0012】
上記のジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体の具体例としては、炭素数4〜15の脂肪族ジカルボン酸[コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸など]、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸[テレフタル酸、イソフタル酸など]、これらのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級アルキルエステル(ジメチルエステル、ジエチルエステルなど)、酸ハライド(酸クロライド等)など]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0013】
上記のラクトンモノマーとしてはγ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−バレルラクトン及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0014】
上記低分子ジオール及びジカルボン酸もしくはこれらのエステル形成性誘導体からなるポリエステルジオール(A0)の製造方法の一例としては、低分子ジオール/ジカルボン酸もしくはこれらのエステル形成性誘導体のモル比を3/2〜66/65で仕込み、通常のエステル化触媒の存在下、反応温度150〜250℃で減圧し、脱水縮合反応することで得ることができる。
【0015】
また、低分子ジオールを開始剤としてラクトンモノマーを開環重合するポリエステルジオール(A0)の製造方法の一例としては、ジエチレングリコールを出発原料として有機スズ系触媒0.0001〜0.001重量%の存在下で、ε−カプロラクトンを反応温度165〜175℃で開環重合反応することで得ることができる。
【0016】
ポリエステルジオール(A0)の具体例として、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリ3−メチルペンチレンアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0017】
ポリエステルジオール(A0)の数平均分子量は通常500〜10,000、好ましくは800〜5,000、さらに好ましくは1,000〜3,000である。数平均分子量が500未満では十分なソフト感が得られず、10,000を越えると所望の強度が発現しない。なお、ここでいう数平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレンなどの分子量標準サンプルから得た検量線を基に算出できる。
【0018】
上記方法で製造されるポリエステルジオール(A0)の酸価は通常0.1〜3mgKOH/gである。
ポリエステルジオール(A0)の酸価を0.1以下に下げるには、ポリエステルジオール(A0)のカルボキシル基を減少させる必要がある。
カルボキシル基を反応させて、酸価を減少させる方法として、ポリエステルジオール(A0)とモノカルボジイミド、モノイソシアネート、モノエポキシ、エチレンオキサイド等とを反応させる方法が挙げられる。この中で、反応性の観点から、モノカルボジイミドが好ましい。
モノカルボジイミドを使用した例として、反応モル比でモノカルボジイミド/ポリエステルジオール(A0)のカルボキシル基を1.2で仕込み、90℃で2時間撹拌することで酸価を下げることができる。
【0019】
酸価が0.1以下のポリエステルジオール(A0)以外のジオール成分(A)として、必要に応じて低分子ジオールを反応成分として添加できる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−及び1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール、環状基を有するジオール(例えば、特公昭45−1474号公報に記載のもの)等が挙げられる。
【0020】
カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)としては、ジイソシアネート(B1)を好ましくは平均重合数2〜3で重合、又は共重合して得られる両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物である。
ジイソシアネート(B1)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネートが挙げられる。
ジイソシアネート化合物(B0)の平均重合数は2〜3が好ましい。耐加水分解性の観点から平均重合数が2以上が好ましく、結晶性や粘度の観点から平均重合数は3以下が好ましい。
【0021】
ジイソシアネート化合物(B0)は、ジイソシアネート(B1)に、カルボジイミド化触媒を添加し、加熱することにより製造することができる。
反応温度は40〜150℃が好ましく、50〜140℃がより好ましい。反応温度は40℃以上であると反応時間が短時間で済むため実用的である。また、反応温度が150℃以下の場合は、溶媒の選択が容易となる。
【0022】
カルボジイミド化反応は、溶剤中で行うことも可能であり、反応溶液中におけるジイソシアネート(B1)濃度は20〜100重量%(以下、単に%という)が好ましい。ジイソシアネート(B1)濃度が20%以上の場合は、カルボジイミド化反応がより短時間で終了するため、実用的である。
カルボジイミド化反応に用いられる溶媒、およびカルボジイミド溶液に用いられる有機溶媒は、好ましいものとしては、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これら溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
カルボジイミド化触媒としては、公知のリン系触媒が好適に用いられ、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、あるいはこれらの3−ホスホレン異性体などのホスホレンオキシドが挙げられる。
【0024】
カルボジイミド化触媒の添加量は、0.01〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜2重量%である。カルボジイミド化触媒の添加量が0.01重量%未満であると反応が進まず、5重量%より多いと反応が早くなり重合度の制御が困難となる。
【0025】
ジイソシアネート成分(B)としては、カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)だけでもよく、(B0)とジイソシアネート(B1)の混合物であってもよい。ジイソシアネート成分が(B0)と(B1)の混合である場合における(B0)の含有モル%は、好ましくは0.1〜100モル%、より好ましくは1〜50モル%である。
【0026】
カルボジイミド結合(b)の含有量は、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)に対して、耐加水分解性の観点から0.01mmol/g以上含有されることが好ましく、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)の機械的強度の観点から0.5mmol/g以下含有されることが好ましい。より好ましくは0.05〜0.4mmol/g、更に好ましくは0.1〜0.3mmol/gである。
【0027】
熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)には、必要に応じて低分子ジアミン(D)を反応成分として添加できる。具体的には、芳香族ジアミン[ジエチルトルエンジアミン、2,4または2,6−ジメチルチオトルエンジアミン等]、脂環式ジアミン[4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシル、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、等]および脂肪族ジアミン[1,2−エチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン等]が挙げられる。
【0028】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物は、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)からなる粉末を主成分としてなる。熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)粉末としては、例えば以下の方法で製造できる。(1)水および分散安定剤の存在下で、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとブロックされた鎖伸長剤とを反応させる方法。(特開平8−120041号公報参照) イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、酸価が0.1以下のポリエステルジオール(A0)を含有するジオール成分(A)と、カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)を含有するジイソシアネート成分(B)とを反応させて得られる。ジオール成分の水酸基とジイソシアネート成分のイソシアネート基の当量比は1:1.2〜1:3が好ましく、反応温度は60〜120℃で行うのが好ましい。溶媒(例えばケトン系溶媒)で希釈し溶液とすることが好ましい。 ブロックされた鎖伸長剤としてはケチミン化合物(例えば低分子ジアミンのケチミン化物)が挙げられる。鎖伸長反応は60〜120℃、1〜20時間で行うのが好ましく、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネートと、アミンの当量比は1:0.8〜1:1.2が好ましい。分散安定剤としてはアニオン型、ノニオン型、及びカチオン型分散剤が好ましく、アニオン型がさらに好ましい。分散剤の例としては、例えば不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合物の金属塩等が挙げられる。その後、得られた分散液を濾別及び乾燥し、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)を得る。(2)有機溶剤および分散安定剤の存在下で、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとブロックされた鎖伸長剤とを反応させる方法。有機溶剤としてはイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーが溶解しないものであり、脂肪族及び脂環式炭化水素が挙げられ、例えば、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。分散安定剤としては特開平4−202331号公報等に記載されたものを使用することができる。(3)ジイソシアネート成分とジオール成分と必要に応じて鎖伸長剤(低分子ジオール、低分子ジアミン)とを反応させることで熱可塑性ポリウレタン樹脂の塊状物を得、ついで粉末化(例えば冷凍粉砕、溶融状態下に細孔を通し切断する方法)する方法。
上記(1)〜(3)の方法のうち、好ましくは(1)の方法である。
【0029】
熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量は、好ましくは5万〜20万である。
重量平均分子量が5万以上であると樹脂物性が良好であり、20万以下であると溶融性が良好である。
【0030】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物は、必要に応じて、金型汚れを起こさずブロッキング防止を行える範囲で、その他の添加物を配合することができる。その他の添加物としては、例えば、公知慣用の顔料、無機充填剤、可塑剤、離型剤、有機充填剤、分散剤、紫外線吸収剤(光安定剤)、酸化防止剤、粉体の流動性改質剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物の重量に対して、0〜50重量%含有されることが好ましく、5〜30重量%含有されることがより好ましい。
【0031】
スラッシュ成形用樹脂粉末組成物の体積平均粒径は、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは70〜300μmの範囲にある。
【0032】
スラッシュ成形用樹脂粉末組成物を混合して生産するときに使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサー(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が良く知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、および円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサー(登録商標、以下省略)等)を使用するのが好ましい。
【0033】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物からなる樹脂成形品はスラッシュ成形法で成形することができる。例えば、本発明の粉末組成物が入ったボックスと加熱した金型を共に振動回転させ、パウダーを型内で溶融流動させた後、冷却後、固化させ、表皮を製造する方法で好適に実施することができる。 上記金型温度は好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは210〜280℃である。
【0034】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物で成形された表皮厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。成形表皮は、表面を発泡型に接するようにセットし、ウレタンフォームを流し、裏面に5mm〜15mmの発泡層を形成させて、樹脂成形品とすることができる。
【0035】
本発明の樹脂成形品は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等に好適に使用される。
【実施例】
【0036】
以下、製造例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0037】
製造例1
ジイソシアネート化合物(B0−1)の合成
3リットルのセパラブルフラスコに冷却管、温度計、攪拌装置をセットし、ヘキサメチレンジイソシアネート(B−1)300部、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレンオキシド3部を仕込み、1時間かけて120℃に昇温し、その後温度は変えず、1.5時間反応を行うことで、平均重合数が2であるヘキサメチレンジイソシアネートからなるジイソシアネート化合物(B0−1)を合成した。(B0−1)のイソシアネート基含量は29%であった。
【0038】
製造例2
ジイソシアネート化合物(B0−2)の合成
3リットルのセパラブルフラスコに冷却管、温度計、攪拌装置をセットし、イソフォロンジイソシアネート(B−2)300部、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレンオキシド3部を仕込み、1時間かけて120℃に昇温し、その後温度は変えず、1.5時間反応を行うことで、平均重合数が2であるイソフォロンジイソシアネートからなるジイソシアネート化合物(B0−2)を合成した。(B0−2)のイソシアネート基含量は21%であった。
【0039】
製造例3
酸価が0.1以下のポリエステルジオール成分(A)の製造及びプレポリマー溶液の製造
温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に、数平均分子量(以下Mnと記す。)が1000のポリブチレンアジペートジオール(497.9部、酸価0.3)、Mnが900のポリヘキサメチレンイソフタレートジオール(124.5部、酸価1.5)、ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート][チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製; イルガノックス1010]( 1.12部)、体積平均粒径9.2μmのカオリン(90.7部)、置換ジアリルカルボジイミド[RheinChemie社製; スタバクゾール I LF](E)(1.20部)を仕込み、窒素置換した後、80℃で2時間混合し、ポリエステルジオール成分(A−1)を得た。
ポリエステルジオール成分(A−1)の酸価は、0.05であった。ここの酸価とは、上記ポリブチレンアジペートジオール、及び上記ポリヘキサメチレンイソフタレートジオールのみからなる混合物についてのものである。以下の製造例、実施例、比較例においても同様である。
続いて、60℃まで冷却し、1−オクタノール(9.7部)、ヘキサメチレンジイソシアネート(153.4部)、ジイソシアネート化合物(B0−1)(4.3部)、テトラヒドロフラン(125部)、2-(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール[チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製; チヌビン571]( 2.22部)を投入し、90℃で6時間反応させプレポリマー溶液(H−1)を得た。(H−1)のNCO含量は、2.05%であった。
【0040】
製造例4
ジアミンのMEKケチミン化物の製造
ヘキサメチレンジアミンと過剰のMEK(ジアミンに対して4倍モル量)を80℃で24時間還流させながら生成水を系外に除去した。その後減圧にて未反応のMEKを除去してMEKケチミン化物を得た。
【0041】
製造例5
熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末の製造
反応容器に、製造例3で得たプレポリマー溶液(H−1)(100部)と製造例4で得たMEKケチミン化合物(5.6部)を投入し、そこにジイソブチレンとマレイン酸との共重合体のNa塩を含む分散剤(三洋化成工業(株)製サンスパールPS−8)(1.3重量部)を溶解した水溶液340重量部を加え、ヤマト科学(株)製ウルトラディスパーサーを用いて9000rpmの回転数で1分間混合した。この混合物を温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に移し、窒素置換した後、撹拌しながら50℃で10時間反応させた。反応終了後、濾別及び乾燥を行い、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−1)を含有するウレタン樹脂粉末(F−1)を製造した。(C−1)のMwは10万であった。また熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−1)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.1mmol/gであった。
【0042】
スラッシュ成形用樹脂粉末組成物の製造
実施例1
100Lのナウタミキサー内に、熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末(F−1)(100部)、芳香族縮合リン酸エステル[大八化学(株)社製;CR−741](13.6部)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート [三洋化成工業(株)社製; DA600](3.9部)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)[商品名:TINUVIN765、チバ社製](0.27部)を投入し80℃で2時間混合した。次いでジメチルポリシロキサン[日本ユニカー(株)製;ケイL45−1000](0.1部)、カルボキシル変性シリコン[信越化学工業(株)製;X−22−3710](0.1部)、を投入し1時間混合した後室温まで冷却した。最後に、架橋ポリメチルメタクリレート[ガンツ化成(株);ガンツパールPM−030S](0.3部)を投入混合することでスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−1)を得た。(G−1)の体積平均粒径は155μmであった。
【0043】
実施例2
製造例3において、置換ジアリルカルボジイミド(E)1.2部の代わりに(E)0.7部を使用する以外は製造例2と同様にして、80℃2時間混合し、酸価が0.1であるポリエステルジオール成分(A−2)を得た。さらに製造例3と同様にして、プレポリマー溶液(H−2)を得た。(H−2)のNCO含量は、2.06%であった。
続いて、製造例5と同様にして(H−2)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−2)を含有するウレタン樹脂粉末(F−2)を作成した。(C−2)のMwは13万であった。また、(C−2)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.1mmol/gであった。更に、実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−2)を得た。(G−2)の体積平均粒径は155μmであった。
【0044】
実施例3
製造例3において、(B0−1)4.3部の代わりに(B0−1)0.86部を使用する以外は製造例3と同様にしてプレポリマー溶液(H−3)を得た。((C−3)のNCO含量は、2.08%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−3)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−3)を含有するウレタン樹脂粉末(F−3)を作成した。(C−3)のMwは10万であった。また、(C−3)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.02mmol/gであった。更に実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−3)を得た。(G−3)の体積平均粒径は158μmであった。
【0045】
実施例4
製造例3において、(B0−1)4.3部の代わりに(B0−1)21.5部を使用する以外は製造例3と同様にしてプレポリマー溶液(H−4)を得た。(H−4)のNCO含量は、1.95%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−4)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−4)を含有するウレタン樹脂粉末(F−4)を作成した。(C−4)のMwは10万であった。また、(C−4)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.5mmol/gであった。更に実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−4)を得た。(G−4)の体積平均粒径は161μmであった。
【0046】
実施例5
製造例1において、ヘキサメチレンジイソシアネート(B−1)で1.5時間反応を行う代わりに、ヘキサメチレンジイソシアネート(B−1)で2.5時間反応を行う以外は製造例1と同様にして平均重合数が3であるヘキサメチレンジイソシアネートからなるジイソシアネート化合物(B0−3)を得た。(B0−3)のイソシアネート基含量は20%であった。続いて、製造例3において、(B0−1)4.3部の代わりに(B0−3)4.3部を使用する以外は製造例3と同様にしてプレポリマー溶液(H−5)を得た。(H−5)のNCO含量は、2.10%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−5)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−5)を含有するウレタン樹脂粉末(F−5)を作成した。(C−5)のMwは10万であった。また、(C−5)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.14mmol/gであった。更に実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−5)を得た。(G−5)の体積平均粒径は160μmであった。
【0047】
実施例6
製造例3において、(B0−1)4.3部の代わりに製造例2で得たイソフォロンジイソシアネートからなるジイソシアネート化合物(B0−2)4.3部を使用する以外は製造例3と同様にしてプレポリマー溶液(H−6)を得た。(H−6)のNCO含量は、2.06%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−6)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−6)を含有するウレタン樹脂粉末(F−6)を作成した。(C−6)のMwは10万であった。また、(C−6)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.08mmol/gであった。更に実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−6)を得た。(G−6)の体積平均粒径は160μmであった。
【0048】
実施例7
製造例3において、(B0−1)4.3部の代わりに(B0−1)と(B0−2)を重量比1:1に混合したジイソシアネート化合物(B0−4)4.3部を使用する以外は製造例3と同様にしてプレポリマー溶液(H−7)を得た。(H−7)のNCO含量は、2.06%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−7)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−7)を含有するウレタン樹脂粉末(F−7)を作成した。(C−7)のMwは10万であった。また、(C−7)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.09mmol/gであった。更に実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−7)を得た。(G−7)の体積平均粒径は159μmであった。
【0049】
比較例1
製造例3において、置換ジアリルカルボジイミド(E)1.2部の代わりに(E)を0.4部使用する以外は製造例3と同様にして、80℃2時間混合し、酸価が0.15であるポリエステルジオール成分(A−3’)を得た。さらに製造例3と同様にして、プレポリマー溶液(H−8’)を得た。(H−8’)のNCO含量は、2.04%であった。
続いて、製造例5と同様にして(H−8’)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−8’)を含有するウレタン樹脂粉末(F−8’)を作成した。(C−8’)のMwは18万であった。また、(C−8’)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0.1mmol/gであった。更に、実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−8’)を得た。(G−8’)の体積平均粒径は155μmであった。
【0050】
比較例2
製造例3において、置換ジアリルカルボジイミド(E)を使用しないで、Mnが1000のポリブチレンアジペートジオール(497.9部、酸価0.3)、Mnが900のポリヘキサメチレンイソフタレートジオール(124.5部、酸価1.5)をそのまま使用する以外は製造例3と同様にして、プレポリマー溶液(H−9’)を得た。混合ポリエステルジオール成分(A−4’)の酸価は0.36であった。(H−9’)のNCO含量は、1.98%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−9’)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−9’)を含有するウレタン樹脂粉末(F−9’)を作成した。(C−9’)のMwは25万であった。更に、実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−9’)を得た。(G−9’)の体積平均粒径は155μmであった。
【0051】
比較例3
製造例3において、(B0−1)4.3部の代わりに(B0−1)を使用しない以外は製造例3と同様にしてプレポリマー溶液(H−10’)を得た。(H−10’)のNCO含量は、2.15%であった。続いて、製造例5と同様にして(H−10’)を用いて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(C−10’)を含有するウレタン樹脂粉末(F−10’)を作成した。(C−10’)のMwは9万であった。また、(C−10’)中のカルボジイミド結合(b)の含有量は0mmol/gであった。更に実施例1と同様にしてスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−10’)を得た。(G−10’)の体積平均粒径は160μmであった。
【0052】
実施例1〜7のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−1)〜(G−7)、及び比較例1〜3のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(G−8’)〜(G−10’)を使用して、下記に示す方法で表皮を成形し、裏面溶融性の確認、引裂強度測定および湿熱老化試験を行った。
結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
<表皮の作成>
予め270℃に加熱されたしぼ模様の入ったNi電鋳型にスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を充填し、10秒後余分な粉末樹脂粉末組成物を排出する。230℃で更に90秒加熱後、水冷して表皮(厚さ1mm)を作成した。この成形表皮の裏面溶融性を評価し、表皮を用いて、引裂強度測定および湿熱老化試験を行った。
【0055】
<湿熱老化試験>
成形表皮を、恒温恒湿機中に、温度80℃湿度95%RHで400時間処理した。試験後、表皮の引裂強度を測定して、初期強度と比較した。
湿熱老化試験後の引裂強度保持率を以下の式(2)で算出した。
【0056】
【数2】

【0057】
評価基準
・裏面溶融性
成形品裏面中央部を、以下の判定基準で溶融性を評価する。
5:均一で光沢がある。
4:一部未溶融のパウダーが有るが、光沢がある。
3:裏面全面に凹凸があり、光沢はない。表面に貫通するピンホールはない。
2:裏面全面にパウダーの形状の凹凸があり、かつ表面に貫通するピンホールはない。
1:パウダーが溶融せず、成形品にならない。
【0058】
・引裂強度
表皮サンプルからJIS K 6301(1995年)の引裂試験片ダンベルB号形を3枚打ち抜く。板厚は曲がっている場所の近傍5カ所の最小値をとる。これをオートグラフに取り付け、200mm/minの速さで引っ張り、試験片が破断にいたる最大強度を算出する。
【0059】
表1より、実施例1〜7の表皮は、酸価低減の処理をしないポリエステルジオール成分(A)を使用した比較例2、酸価低減の処理を行ったが酸価が0.15であるポリエステルジオール成分(A)を使用した比較例1と比べて、成形時の溶融性が良好で裏面溶融性が良いことが判った。これは酸価を低くすることにより、ポリエステルジオール成分(A)のカルボキシル基とジイソシアネート化合物(B0)のカルボジイミド基の架橋を抑制することができたためと考えられる。
また、実施例1〜7は、比較例3(カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)が無添加)と比べて、湿熱老化試験後の引裂強度保持率が上がっている。このことから、耐加水分解安定性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物から成形される表皮は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等の表皮として好適に使用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が0.1以下のポリエステルジオール(A0)を含有するジオール成分(A)と、カルボジイミド結合(b)を有するジイソシアネート化合物(B0)を含有するジイソシアネート成分(B)とを必須成分として反応して得られる熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)を含有してなるスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項2】
ジイソシアネート化合物(B0)が、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソフォロンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも1種のジイソシアネートを重合して得られるカルボジイミド結合を有するジイソシアネートである請求項1に記載の樹脂粉末組成物。
【請求項3】
ジイソシアネート化合物(B0)の平均重合数が2〜3である請求項1又は2に記載の樹脂粉末組成物。
【請求項4】
カルボジイミド結合(b)を、熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)に対して0.01〜0.5mmol/g含有してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂粉末組成物。
【請求項5】
熱可塑性ポリエステル系ウレタン樹脂(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量が、5万〜20万である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂粉末組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂粉末組成物をスラッシュ成形してなる樹脂成形品。
【請求項7】
自動車内装材である請求項6に記載の樹脂成形品。


【公開番号】特開2010−201844(P2010−201844A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51693(P2009−51693)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】