説明

スラブの幅圧下方法

【課題】突出部の倒れ込みで生じる疵の発生を抑制でき、良好な品質のスラブを製造可能なスラブの幅圧下方法を提供する。
【解決手段】長手方向の端部を金型によりプレスして、平面視して幅広平行部16から端部側へかけて縮幅する斜辺部17と、斜辺部17の端部側に連接する平行部18を形成したスラブ10を、スラブ10の幅方向両側に対向配置された竪ロール19、20と上下方向両側に対向配置された水平ロール23、24の間を往復動させて、スラブ10の長手方向にわたってスラブ10を幅圧下する方法において、平行部18と、平行部18に連接される幅圧下によって縮幅された幅広平行部16とを、1パスで幅圧下を行うに際し、スラブ10の平行部18の幅圧下量を、平行部18の幅Wの2%以上10%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向端部を予成形したスラブを、竪ロールと水平ロールを備えた圧延機で圧延するスラブの幅圧下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造後のスラブを、目標とする厚み寸法と幅寸法に調整するため、竪ロールと水平ロールを備えた圧延機を使用しているが、連続鋳造後のスラブをそのまま圧延機で圧延した場合、スラブの先後端部にフィッシュテール状又はタング状のクロップ(不整形状部分)が発生していた。そこで、このクロップの成長を抑制するため、スラブの幅方向両側に対向配置され、しかもスラブの両側面と平行な押圧部と、この押圧部に連接して設けられた傾斜部とを有する一対の金型を用いて、図3(A)に示す形状となるように、スラブ80の先端部と後端部それぞれに予成形を行った後、このスラブ80を上記した圧延機により往復動させて圧延していた。具体的には、平面視して幅広平行部81から端部側へかけて縮幅する斜辺部82と、この斜辺部82の端部側に連接する平行部83を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、平行部83と、この平行部83に連接される幅圧下によって縮幅された幅広平行部81とを、圧延機の竪ロールにより、1パスで幅圧下を行う場合、スラブ80の幅方向両端部に、図3(B)に示す急峻な突出部(いわゆるドッグボーン)84が形成される。これは、スラブ80の幅圧下を行うに際し、スラブ80の幅方向中央側に移動する金属量が不十分であることによる。
このため、突出部84が形成されたスラブ80を、圧延機の水平ロールにて水平圧延すると、突出部84の倒れ込みが発生し、圧延後は、スラブ80の表層部に、図3(C)に示すヘゲ状の疵85が残存していた。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、突出部の倒れ込みで生じる疵の発生を抑制でき、良好な品質のスラブを製造可能なスラブの幅圧下方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)長手方向の端部を金型によりプレスして、平面視して幅広平行部から端部側へかけて縮幅する斜辺部と、該斜辺部の端部側に連接する平行部を形成したスラブを、該スラブの幅方向両側に対向配置された竪ロールと上下方向両側に対向配置された水平ロールの間を往復動させて、前記スラブの長手方向にわたって該スラブを幅圧下する方法において、
前記平行部と、該平行部に連接される幅圧下によって縮幅された前記幅広平行部とを、1パスで幅圧下を行うに際し、前記スラブの前記平行部の幅圧下量を、該平行部の幅の2%以上10%以下とすることを特徴とするスラブの幅圧下方法。
【0007】
(2)前記斜辺部とこれに連接する前記平行部は、前記スラブの長手方向両側にあることを特徴とする(1)記載のスラブの幅圧下方法。
(3)前記平行部の幅は500mm以上2000mm以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載のスラブの幅圧下方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るスラブの幅圧下方法は、平行部と、この平行部に連接される幅圧下によって縮幅された幅広平行部とを、1パスで幅圧下を行うに際し、スラブの平行部の幅圧下量を平行部の幅の2%以上10%以下にするので、スラブの幅方向中央側に移動する金属量を十分にでき、スラブの幅方向両側に緩やかな傾斜の突出部を形成できる。これにより、このスラブを水平ロールで厚み圧下しても、突出部のスラブ表面への倒れ込み発生を低減でき、疵の発生を抑制した製品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(A)は本発明の一実施の形態に係るスラブの幅圧下方法を適用する圧延機の側面図、(B)は同圧延機の竪ロールで圧延するスラブの部分平面図、(C)は同竪ロールで圧延した後のスラブの部分拡大正断面図である。
【図2】スラブの平行部の幅圧下量と発生する疵の深さとの関係を示す説明図である。
【図3】(A)は予成形したスラブの斜視図、(B)は従来例に係るスラブの幅圧下方法で圧延した後のスラブの部分拡大正断面図、(C)は同方法で製造したスラブの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)〜(C)に示すように、本発明の一実施の形態に係るスラブの幅圧下方法は、長手方向(搬送方向)の端部を金型(図示しない)によりプレスした後のスラブ10を、竪型圧延機11、12、及び水平圧延機13を有する圧延機14を通過させながら往復動させることにより、目標とする厚み寸法と幅寸法に圧延するに際し、竪型圧延機11、12によって幅圧下する方法であって、幅圧下により形成される突出部15の倒れ込みに起因する疵の発生を抑制している。以下、詳しく説明する。
【0011】
まず、連続鋳造後のスラブ10を加熱炉で加熱した後、その長手方向端部を、例えば、特開2008−254034号公報に記載のプレス幅圧下装置の金型によりプレスして予成形する。これにより、図1(B)に示すように、平面視して幅広平行部16から端部側へかけて縮幅する斜辺部17と、斜辺部17の端部側に連接する平行部18が形成される。なお、幅広平行部16は、金型によりプレスされない部分(未処理部分)である。
上記した斜辺部17と平行部18は、スラブ10の長手方向の両側端部に形成しているが、一方側端部に形成してもよい。
【0012】
この連続鋳造後(予成形前)のスラブ10は、断面長方形であり、例えば、厚みが150〜350mm程度、幅が1000〜2500mm程度、長さが5〜30m程度、である。また、予成形したスラブ10の幅広平行部16の厚みと幅は、上記したスラブ10の寸法と同一である。そして、平行部18の幅Wは、圧延機14による圧延により、スラブ10の先後端部にクロップが発生しない幅であれば、特に限定されないが、実際には、上記した連続鋳造後のスラブ10の幅より狭く、500mm以上2000mm以下(好ましくは、下限が700mm、上限が1700mm、更には1500mm)である。
【0013】
次に、スラブ10の長手方向にわたって、圧延機14で予成形されたスラブ10の圧下を行う。
圧延機14は、スラブ10を搬送する複数のロール(図示しない)を有し、この搬送ロールの途中位置に、スラブ10の長手方向に間隔を有して配置された2台の竪型圧延機11、12が設けられ、この2台の竪型圧延機11、12の間に、1台の水平圧延機13が設置されている。
なお、圧延機は、上記した構成に限定されるものではなく、例えば、1台又は複数台(例えば、3台以上)の竪型圧延機と、1台又は複数台(2台以上)の水平圧延機とを有する構成にしてもよい。
【0014】
竪型圧延機11(竪型圧延機12も同様)は、幅方向(軸方向)中央部が凹んだカリバー形状を有する左右一対の竪ロール19、20を有している。この各竪ロール19、20は、スラブ10をその幅方向両側から挟み込み、各竪ロール19、20の回転軸21、22が、スラブ10の搬送方向と直交する方向(垂直方向、スラブ10の厚み方向)に、しかも平行となるように配置されている。
また、水平圧延機13は、円柱状となった上下一対の水平ロール23、24を有している。この各水平ロール23、24は、スラブ10をその厚み方向両側から挟み込み、各水平ロール23、24の回転軸(図示しない)が、スラブ10の長手方向(搬送方向)と直交する方向(スラブ10の幅方向)に、しかも水平となるように配置されている。
その幅圧下と厚み圧下を行う。
【0015】
上記した圧延機14により、図1(A)に示すように、予成形を行ったスラブ10を搬送ロール上で往復移動させ、圧延機14の一方側から他方側へ、又は他方側から一方側へ、圧延機14を通過させることで、スラブ10を各竪型圧延機11、12と水平圧延機13の間で往復動させて、スラブ10の幅圧下と厚み圧下を行う。これにより、スラブ10の幅広平行部16を徐々に縮幅していき、斜辺部17、更には平行部18の幅圧下を行う。
従来、スラブの端部の予成形された部位を竪ロールで幅圧下する場合、スラブの幅方向端部に急峻な突出部(いわゆるドッグボーン)が形成されていた(図3(B)参照)。そして、この突出部が形成されたスラブを、圧延機の水平ロールにて水平圧延すると、突出部の倒れ込みが発生し、圧延後は、スラブの表層部にヘゲ状の疵が残存する(図3(C)参照)。
そこで、この疵の発生を抑制するため、以下の方法で、スラブ10の幅圧下を行う。
【0016】
竪型圧延機12(竪型圧延機11でもよい)の竪ロール19、20により、平行部18と、この平行部18に連接される幅圧下によって縮幅された幅広平行部16とを、1パスで幅圧下するに際しては、図1(B)に示すように、スラブ10の平行部18の幅圧下量ΔP(=ΔP/2×2)を、平行部18の幅Wの2%以上10%以下とする。なお、平行部18の幅圧下量ΔPは、1台の竪型圧延機による1回あたりの圧下量である。
この平行部18の幅圧下は、縮幅された幅広平行部16及び斜辺部17を含んで平行部18を幅圧下する場合のみならず、斜辺部17がない縮幅された幅広平行部16及び平行部18を幅圧下する場合でもよい。なお、斜辺部17の一部を含んで平行部18を幅圧下する場合でも、平行部18の幅圧下量は、斜辺部17を除く平行部18のみの圧下幅である。
【0017】
上記した平行部18の幅圧下量ΔPが2%未満の場合、幅圧下量ΔPが小さ過ぎて、急峻な突出部が形成される恐れがある。一方、平行部の幅圧下量ΔPが10%を超える場合、幅圧下量ΔPが大き過ぎて、圧延機の圧下力等を過剰に大きくする必要があり、設備コストがかかる。
なお、幅圧下量ΔPの下限値と上限値は、例えば、製造するスラブの幅や厚み、圧延条件、更には予め設定した製品の品質管理許容疵深さにより、上記した範囲内で変更できる。
以上のことから、スラブ10の平行部18の幅圧下量ΔPを、平行部18の幅Wの2%以上10%以下としたが、好ましくは、下限を3%、更には4%、上限を9%、更には8%とする。
【0018】
ここで、スラブの平行部の幅圧下量と発生する疵の深さとの関係を示す一例を、図2を参照しながら説明する。なお、スラブの平行部の圧下前の幅は、1200〜1300mm程度である。また、スラブの表層に形成される疵の深さは、この例においては、1.0mm以下であれば、圧延機の下流側に配置された加熱炉によるスケールオフで除去できるため問題ない(品質管理許容疵深さ)。
図2に示すように、スラブが上記した品質管理許容疵深さを満たすためには、平行部の幅圧下量を60mm(片側の幅圧下量:30mm)以上とする必要があった。なお、この例においては、スラブの平行部の幅圧下量ΔPが、平行部の幅Wの4.6%(片側2.3%)以上であった。
【0019】
以上の方法により、スラブ10の幅方向中央側に移動する金属量を十分にできるため、図1(C)に示すように、スラブ10の幅方向両側に緩やかな傾斜の突出部15を形成できる。これにより、このスラブ10を水平ロール23、24で厚み圧下しても、突出部15のスラブ10表面への倒れ込み発生を低減できるため、疵の発生を抑制した製品を製造できる。
従って、目標とする厚み寸法と幅寸法に調整したスラブ10を製造して、圧延機14による圧延が終了する。
【実施例】
【0020】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、図1(A)に示す圧延機14を使用して複数種類のスラブの圧延を行い、スラブの表面品位(突出部の倒れ込みで生じる表面疵の発生の有無)を評価した。なお、スラブは、斜辺部と平行部が、長手方向の両側に形成されたものである。
圧延機14によるスラブの圧延は、スラブが圧延機14を通過するごとに、2つの竪型圧延機♯1、♯2(竪型圧延機11、12)の竪ロール19、20の開度をそれぞれ調整して行った。なお、スラブが圧延機14を通過するパス(回数)を5パスとし、4パス目の竪型圧延機♯2で、平行部と、これに連接される幅圧下によって縮幅された幅広平行部との幅圧下を行った。また、5パス目において、竪型圧延機♯2での竪ロールの開度が、竪型圧延機♯1での竪ロールの開度よりも広くなっているのは、5パス目の竪型圧延機♯1で、圧延を終了させたためである。
【0021】
この結果を、表1に示す。なお、表面疵の深さは、0.6mm以下の場合を、品質が非常に良好(◎)とし、0.6mmを超え1.0mm以下(品質管理許容疵深さ)の場合を、良好(○)とした。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の実施例1〜5から明らかなように、スラブの平行部の幅圧下量(圧下率)ΔPを、平行部の幅Wの2%以上10%以下(ここでは、2.8〜7.3%)とすることで、表面疵の深さを1mm以下にできた。特に、実施例3〜5に示すように、幅圧下量ΔPを幅Wの4〜8%(ここでは、5.9〜7.3%)とすることで、表面疵の深さを更に浅くできた。
一方、比較例1〜3では、スラブの平行部の幅圧下量ΔPが、平行部の幅Wの2%未満であったため、表面疵の深さが1mmを超え、圧延後のスラブの表層部にヘゲ状の疵が残存していた。
以上のことから、本発明のスラブの幅圧下方法を使用することで、突出部の倒れ込みで生じる疵の発生を抑制でき、良好な品質のスラブを製造できることを確認できた。
【0024】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のスラブの幅圧下方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
10:スラブ、11、12:竪型圧延機、13:水平圧延機、14:圧延機、15:突出部、16:幅広平行部、17:斜辺部、18:平行部、19、20:竪ロール、21、22:回転軸、23、24:水平ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の端部を金型によりプレスして、平面視して幅広平行部から端部側へかけて縮幅する斜辺部と、該斜辺部の端部側に連接する平行部を形成したスラブを、該スラブの幅方向両側に対向配置された竪ロールと上下方向両側に対向配置された水平ロールの間を往復動させて、前記スラブの長手方向にわたって該スラブを幅圧下する方法において、
前記平行部と、該平行部に連接される幅圧下によって縮幅された前記幅広平行部とを、1パスで幅圧下を行うに際し、前記スラブの前記平行部の幅圧下量を、該平行部の幅の2%以上10%以下とすることを特徴とするスラブの幅圧下方法。
【請求項2】
請求項1記載のスラブの幅圧下方法において、前記斜辺部とこれに連接する前記平行部は、前記スラブの両側にあることを特徴とするスラブの幅圧下方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のスラブの幅圧下方法において、前記平行部の幅は500mm以上2000mm以下であることを特徴とするスラブの幅圧下方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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