説明

スリーブ印刷版の製造方法

【課題】効率良く低コストでスリーブ印刷版を製造可能なスリーブ印刷版の製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状をなすスリーブ支持体と、このスリーブ支持体の外周面に配設され、被印刷物に印刷する画像パターンが形成された版本体と、を備え、印刷装置のシリンダに装着されて使用されるスリーブ印刷版の製造方法であって、プラスチックシート材を、円筒面を有する固定台に巻き付ける工程S2と、巻き付けられたプラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを超音波接合又はレーザー溶接によって融着し、前記スリーブ支持体を得る工程S4と、を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状をなすスリーブ支持体の外周面に、被印刷物に印刷する画像パターンを備えた版本体が設けられ、印刷装置のシリンダに装着されて使用されるスリーブ印刷版を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置のシリンダに装着されて使用される印刷版として、板状に形成されたプレート印刷版が広く提供されている。このプレート印刷版においては、シリンダの外周面に貼着させて使用されるので、画像パターンの周方向位置及び軸線方向位置の位置調整を精度良く行う必要があった。特に、一つのシリンダに複数の画像パターンを備えている場合や多色印刷を行う場合には、これらの画像パターンの見当合わせをさらに精度良く行う必要がある。このため、画像パターンの交換作業に非常には多くの時間と労力を要していた。
【0003】
そこで、前述のスリーブ印刷版が、例えば特許文献1に記載されているように、フレキソ印刷、凸版印刷の分野において広く使用されている。また、特許文献2に記載されているように、缶等の円筒物に対するオフセット印刷の分野においても、スリーブ印刷版が適用されている。
このスリーブ印刷版は、通常、繊維強化プラスチック(FRP)製のスリーブ支持体と、このスリーブ支持体の外周面に配設され、レーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり画像パターンが形成された版本体と、で構成されている。ここで、スリーブ支持体の肉厚は約1mm程度とされ、円筒形状を保持する構成とされている。
【0004】
このスリーブ印刷版においては、画像パターンの周方向位置がスリーブ支持体上で予め設定されているので、スリーブ支持体とシリンダとの位置合わせを行うことで画像パターンの見当合わせを行うことができ、画像パターンの交換作業に掛かる時間と労力を大幅に削減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−326938号公報
【特許文献2】特開2006−272682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のスリーブ印刷版の製造方法においては、円筒面を有する固定台に強化繊維を巻き付けて、溶融したプラスチック樹脂を塗布して硬化させることを繰り返し行うことによって、繊維強化プラスチック(FRP)製のスリーブ支持体を製出し、このスリーブ支持体の外周面に版材を配設することによって製造されていた。このため、スリーブ支持体を製出するまでに多くの時間と労力を要し、スリーブ印刷版の生産効率が低く、製造コストが高くなっていた。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、効率良く低コストでスリーブ印刷版を製造可能なスリーブ印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明に係るスリーブ印刷版の製造方法は、円筒状をなすスリーブ支持体と、このスリーブ支持体の外周面に配設され、被印刷物に印刷する画像パターンが形成された版本体と、を備え、印刷装置のシリンダに装着されて使用されるスリーブ印刷版の製造方法であって、プラスチックシート材を、円筒面を有する固定台に巻き付ける工程と、前記固定台に巻き付けられた前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを、超音波接合又はレーザー溶接によって融着し、前記スリーブ支持体を得る工程と、を有していることを特徴としている。
【0009】
この構成のスリーブ印刷版の製造方法によれば、プラスチックシート材を固定台に巻き付けて、このプラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを、超音波接合又はレーザー溶接によって融着し、スリーブ支持体を得る工程を備えているので、従来のように、強化繊維を巻き付けて溶融したプラスチック樹脂を塗布して硬化させることを繰り返し行う必要がなくなり、スリーブ印刷版を低コストで製作することができる。また、プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを超音波接合又はレーザー溶接によって融着しているので、接合部分のみを局所的に加熱して融着させることができ、他の部分への熱影響を抑制することができる。また、超音波接合及びレーザー溶接は、短時間で接合が完了するため、スリーブ支持体を大量生産することが可能となり、さらなる製造コストの削減を図ることができる。
【0010】
なお、レーザー接合を行う場合には、前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部を単に突き合せた状態でレーザー光を照射しても良いが、より効率良く局所的に加熱するために、前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とにレーザー吸収剤を塗布し、これらプラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを突き合わせ、突き合わせ部分にレーザーを照射することが好ましい。
また、プラスチックシート材を構成する材料としては、後述するポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の各種プラスチック材料を適用することができる。
【0011】
ここで、前記固定台のうち少なくとも前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とが配置される部分が、前記超音波に共振する共振材料で構成されており、前記固定台に巻き付けられた前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを、超音波接合によって融着することが好ましい。
この場合、固定台に巻き付けられたプラスチックシート材に対して外側(プラスチックシート材の外周側)から超音波を付与した際に、この超音波が固定台において共振し、固定台側(プラスチックシート材の内周側)からも超音波が付与されることになる。これにより、プラスチックシート材の接合を効率良く行うことが可能となる。また、製出されるスリーブ支持体の内周面側も融着されることから、スリーブ支持体の内周面を固定台の円筒面に沿った滑らかな面に仕上げることができる。
【0012】
ここで、長尺のプラスチックシート素材を裁断して所定長さの前記プラスチックシート材を得る裁断工程を有していることが好ましい。
この場合、裁断工程によって、所定長さのプラスチックシート材を安定して得ることができ、円筒面を有する固定台に巻き付けた際にプラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを精度良く突き合わせることが可能となる。このため、スリーブ印刷版を効率良く、かつ、寸法精度良く製作することができる。
【0013】
また、前記固定台の円筒面の外径が、前記スリーブ印刷版が装着される前記シリンダの外径よりも小さく設定されていることが好ましい。
この場合、製出されたスリーブ支持体(スリーブ印刷版)の内径が、印刷装置のシリンダの外径よりも小さくなるので、シリンダに装着した際に、スリーブ支持体(スリーブ印刷版)がシリンダに強固に固定されることになる。
【0014】
また、前記固定台には、吸着機構が設けられており、前記プラスチックシート材を吸着して固定する構成とすることが好ましい。
この場合、プラスチックシート材が、固定台に設けられた吸着機構に吸着されることによって固定されるので、プラスチックシート材を固定台に確実に密着させた状態で超音波接合又はレーザー溶接することができ、スリーブ支持体(スリーブ印刷版)の内径寸法を精度良く形成することができる。
【0015】
また、前記プラスチックシート材がポリエチレンテレフタレート樹脂で構成されていることが好ましい。
この場合、汎用のポリエチレンテレフタレート樹脂によってスリーブ支持体を構成することにより、安価にスリーブ印刷版を提供することが可能となる。また、スリーブ印刷版を使用後に廃棄しても、ポリエチレンテレフタレート樹脂の原料として使用することができ、スリーブ印刷版の寿命延長を図るために、スリーブ支持体の強度を過度に高くする必要がない。
【0016】
さらに、前記プラスチックシート材の一方の端部には、前記固定台に巻き付けた状態で周方向に凹んだ切欠部が形成され、前記プラスチックシート材の他方の端部には、前記切欠部と相補的形状をなす突出部が形成されており、これら切欠部及び突出部が突き合わされ、この突き合わされた部分を超音波接合又はレーザー溶接によって融着することが好ましい。
この場合、プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部との突合せ部分が長くなり、超音波接合又はレーザー溶接によって融着した部分の接合強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、効率良く低コストでスリーブ印刷版を製造可能なスリーブ印刷版の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によって製造されるスリーブ印刷版の斜視図である。
【図2】図1に示すスリーブ印刷版を軸線方向から見た図である。
【図3】図1のスリーブ印刷版に備えられたスリーブ支持体の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法の裁断工程の説明図である。
【図6】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法に用いられるプラスチックシート材の斜視図である。
【図7】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法に用いられる固定台の説明図である。
【図8】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法の巻き付け工程の説明図である。
【図9】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法の固定工程の説明図である。
【図10】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法の接合工程の説明図である。
【図11】図1に示すスリーブ印刷版が使用されるオフセット印刷装置の概略図である。
【図12】図1に示すスリーブ印刷版が装着される版胴を示す斜視図である。
【図13】本発明の他の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によって製造されるスリーブ印刷版の接合部の説明図である。
【図14】本発明の他の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によって製造されるスリーブ印刷版の接合部の説明図である。
【図15】本発明の他の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によって製造されるスリーブ印刷版の接合部の説明図である。
【図16】本発明の他の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によって製造されるスリーブ印刷版の接合部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によって製造されるスリーブ印刷版30について説明する。
本実施形態であるスリーブ印刷版30は、図1及び図2に示すように、軸線Oに沿って延びる円筒状をなすスリーブ支持体31と、スリーブ支持体31の外周側に配設された版材32と、を備えている。
【0020】
版材32は、例えばレーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり、肉厚が0.5mm〜1.0mmの円筒状をなしている。この版材32には、エッチングやレーザー加工によって画像パターンを有する凸版33(版本体)が形成される。なお、本実施形態では、2つの凸版33、33が軸線Oを挟んで対向する位置に配設されている。
【0021】
スリーブ支持体31は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されており、その肉厚が0.1mm〜0.5mm、外径が180mm〜300mmとされている。ここで、ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化度は20〜40%とされている。また、結晶の配向方向がスリーブ支持体31の周方向を向くように構成されている。
【0022】
このスリーブ支持体31には、図3に示すように、周方向の一部に接合部35が設けられている。
なお、本実施形態では、接合部35は軸線Oに平行に延びる直線状に形成されている。
この接合部35においては、その内周面側には段差が生じておらず、スリーブ支持体31の内周面は滑らかな円筒面とされている。一方、接合部35の外周面側には、僅かな(例えば0.7μm程度)の凹凸が生じていてもよい。
【0023】
また、スリーブ印刷版30には、図1及び図2に示すように、接合部35とは軸線Oを挟んで対向する位置に、後述するオフセット印刷装置Aのシリンダ61との相対位置を合わせるための位置合わせ用切欠部36が形成されている。前述した凸版33、33は、周方向において接合部35及び位置合わせ用切欠部36との間に配設されており、本実施形態では、図2に示すように、凸版33と接合部35、凸版33と位置合わせ用切欠部36とが90°間隔に、つまり、凸版33、33、接合部35及び位置合わせ用切欠部36が周方向において等間隔に配設されているのである。
【0024】
次に、本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法について図4〜図8を参照して説明する。
本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法は、図4に示すように、長尺のプラスチックシート素材45を裁断して所定長さのプラスチックシート材40を得る裁断工程S1と、所定長さのプラスチックシート材40を、円筒面51を有する固定台50に巻き付ける巻き付け工程S2と、巻き付けたプラスチックシート材40を固定する固定工程S3と、固定されたプラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とを超音波接合する接合工程S4と、成形されたスリーブ支持体31の外周面に版材32となる感光性樹脂を塗布して硬化させる版材形成工程S5と、版材32の表面に、エッチングやレーザー加工によって凸版33(版本体)を形成する凸版形成工程S6と、を有している。
【0025】
裁断工程S1は、図5に示すように、ロール状に巻かれた長尺のプラスチックシート素材45を所定長さだけ繰り出して、超音波カッタ47によって裁断し、図6に示すようなポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からなるプラスチックシート材40を得る。裁断工程S1では、プラスチックシート材40の長さが、成形されるスリーブ支持体31の周方向長さに一致するように、プラスチックシート素材45を精度良く、かつ、安定して裁断することが求められる。
【0026】
裁断されたプラスチックシート材40が巻き付けられる固定台50は、図7に示すように、円筒面51を有しており、この円筒面51に多数のバキューム孔52が穿設されている。このバキューム孔52は排気配管53を有する吸引装置(図示なし)に接続されており、バキューム孔53と吸引装置とが、円筒面51上に配設されたものを吸着して固定する吸着機構を構成している。また、この固定台50の円筒面51の外径は、後述するオフセット印刷装置Aのシリンダ61の外径よりも僅かに小さく設定されている。具体的には、固定台50の円筒面51の外径とシリンダ61の外径との差は、100μm〜800μmの範囲内に設定されている。
【0027】
巻き付け工程S2は、前述の固定台50の円筒面51にプラスチックシート材40を巻き付ける。本実施形態では、図8に示すように、プラスチックシート材40を、固定台50の外周側から押し付けロール55によって円筒面51に押圧させるとともに、円筒面51のバキューム孔52から吸着することでプラスチックシート材40を円筒面51に密着させる。そして、押し付けロール55が固定台50の周囲を一周することでプラスチックシート材40が固定台50に密着した状態で巻き付けられることになる。
【0028】
固定工程S3は、巻き付けられたプラスチックシート材40を固定台50に強固に固定する。プラスチックシート材40は、前述したバキューム孔52からの吸引によって固定台50に固定される。また、図9に示すように、プラスチックシート材40の一方の端部41近傍と他方の端部42近傍は、固定台50の外周側から押圧バー56によって押圧されて固定されている。これにより、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とが突き合わされた状態で固定される。
【0029】
接合工程S4は、固定台50に固定されたプラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42との突き合わせ部分を超音波接合する。図10に示すように、超音波発振器58のプローブ57を、突き合わせ部分に当てて超音波を付与していく。すると、超音波による摩擦熱によってプラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とが局部的に加熱されて溶着される。これにより、接合部35を有するスリーブ支持体31が製出される。なお、付与する超音波の周波数としては、15〜100kHz程度とすることが好ましい。ここで、本実施形態では、固定台50が前記超音波に共振する共振材料で構成されている。
【0030】
版材形成工程S5は、前述のようにして得られたスリーブ支持体31を、円筒面を有する保持部材に装着し、スリーブ支持体31の外周面に版材32となる感光性樹脂を塗布して硬化させる。これにより、スリーブ支持体31の外周面に版材32が一体成形される。また、版材32が配設されたスリーブ支持体31のうち接合部35とは軸線Oを挟んで対向する位置には、端面に開口する位置合わせ用切欠部36が形成される。
【0031】
凸版形成工程S6では、版材32の表面に、エッチングやレーザー加工によって画像パターンを有する凸版33(版本体)を形成する。本実施形態においては、前述のように2つの凸版33、33が軸線Oを挟んで対向する位置に配設されており、これらの凸版33、33が、接合部35及び位置合わせ用切欠部36の間にそれぞれ位置するように調整される。なお、凸版33は、版材32のうち接合部35の上に配設された部分よりも径方向外方に突出するように形成される。
このようにして、本実施形態であるスリーブ印刷版30が製造される。
【0032】
次に、本実施形態であるスリーブ印刷版30の使用例について説明する。本実施形態であるスリーブ印刷版30は、円筒状をなす缶の外周面に印刷を施す缶の印刷装置(オフセット印刷装置A)に使用される。オフセット印刷装置Aの概略を図11に示す。
オフセット印刷装置Aは、複数配置されたインク付着機構Bと、缶移動機構Cとで概略構成されている。
【0033】
インク付着機構Bは、インクを供給するインカーユニット1と、このインカーユニット1に接触してインクを写し取った後、缶胴20の外周面に接触して該インクを印刷する(付着させる)ブランケット9を複数枚備えるブランケットホイール8とから構成される。
インカーユニット1は、インク源2と、インク源2に接触してインクを受けるダクティングロール3と、このダクティングロール3に接続して複数のローラからなる中間ローラ4と、この中間ローラ4に接続するゴムローラ5と、このゴムローラ5に接続する版胴60とからなり、版胴60の外周面には、凸版33を備えたスリーブ印刷版30が配設されている。ブランケットホイール8の外周面には、ブランケット9が複数枚備えられており、このブランケット9は、版胴60の外周面に配設されたスリーブ印刷版30の凸版33に接触するとともに、缶胴20に接触する構成とされている。
【0034】
缶移動機構Cは、缶胴20を取り入れる缶シュータ10と、この缶シュータ10から供給された缶胴20を回転自在に保持するマンドレル11と、このマンドレル11に装着された缶胴20を、順次、インク付着機構B方向に回転移動させるマンドレルターレット12とで構成されている。
【0035】
版胴60は、図12に示すように、円柱状をなし、印刷装置Aのシャフト部70に片持ち状態で回転自在に支持されるシリンダ61を有しており、このシリンダ61の外周側に、本実施形態であるスリーブ印刷版30が嵌着される。ここで、スリーブ印刷版30の内径とシリンダ61の外径とは略同一に設定されている。なお、シリンダ61の外周面にはエア孔62が複数形成されており、シリンダ61の端面に形成された導入孔63からエアを供給してエア孔62から噴出させることにより、スリーブ印刷版30の内径を押し広げてシリンダ61への着脱を行うように構成されている。ここで、シリンダ61には、位置合わせピン64が突設されており、この位置合わせピン64にスリーブ印刷版30の位置合わせ用切欠部36が係合され、スリーブ印刷版30とシリンダ61との周方向位置及び軸線O方向位置が決定される。
【0036】
このようにしてスリーブ印刷版30が配設されたオフセット印刷装置Aにおいては、各々のインカーユニット1のインク源2から各々異なった色のインクが、ダクティングロール3、中間ローラ4、ゴムローラ5を介して、版胴60の外周面に配設された凸版33に付着させられ、これら各色のインクが、回転するブランケットホイール8上のブランケット9にパターンとして乗せられ、このパターンがマンドレル11に保持された缶胴20に接触しながら印刷される。
【0037】
このような構成とされた本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によれば、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とを接合することによって円筒状のスリーブ支持体31を構成しているので、従来のように、強化繊維を固定台に巻き付けて、溶融したプラスチック樹脂を塗布して硬化させることを繰り返し行う必要がなくなり、スリーブ印刷版30を低コストで製作することができる。
【0038】
また、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とを突き合わせた部分を超音波接合によって接合しているので、突き合わせた部分のみを局所的に加熱して融着させることが可能となり、その他の部分への熱影響を抑えることができる。また、超音波接合は、短時間で接合が完了するため、スリーブ支持体31を大量生産することが可能となり、スリーブ印刷版30のさらなる製造コストの削減を図ることができる。
【0039】
さらに、本実施形態では、プラスチックシート材40が、汎用のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で構成されているので、安価にスリーブ印刷版30を製出することが可能となる。また、スリーブ印刷版30を使用後に廃棄しても、ポリエチレンテレフタレート樹脂の原料として使用することができ、スリーブ印刷版30の寿命延長を図るために、スリーブ支持体31の強度を過度に高くする必要がない。特に、本実施形態では、ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化度が20〜40%とされ、結晶の配向方向がスリーブ支持体31の周方向を向くように構成されているので、スリーブ支持体31として十分な強度を有し、かつ、伸びが生じにくい。このためスリーブ印刷版30の凸版に形成された画像パターンが変形するおそれがなく、高品位な印刷を行うことが可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、長尺のプラスチックシート素材45を裁断して所定長さのプラスチックシート材40を得る裁断工程S1を有しているので、プラスチックシート材40を固定台50の円筒面51に巻き付けた際に、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とを精度良く突き合わせることが可能となる。よって、スリーブ支持体31を効率良く、かつ、寸法精度良く製作することができる。
さらに、本実施形態では、超音波カッタ47によってプラスチックシート素材45を裁断しているので、裁断面が滑らかとなり、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とを突き合わせた際の隙間の発生を抑えることができる。
【0041】
また、本実施形態では、固定台50の円筒面51にバキューム孔52が穿設されており、このバキューム孔52が吸引機構(図示なし)に接続され、円筒面51上に配設されたものを吸引して固定する機能を有しているので、巻き付け工程S2において、固定台50の外周側から押し付けロール55によって円筒面51にプラスチックシート材40を押圧することにより、プラスチックシート材40を円筒面51に密着させることができ、シワやヨレのないようにプラスチックシート材40を巻き付けることが可能となる。
【0042】
さらに、固定工程S3においては、プラスチックシート材40を吸着して固定するとともに、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42を、固定台50の外周側から押圧バー56によって押圧して固定しているので、プラスチックシート材40を固定台50に確実に密着させた状態で固定することができる。よって、プラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42とを精度良く突き合わせた状態で超音波接合することができ、スリーブ支持体31の内径寸法を精度良く形成することができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、固定台50が超音波に共振する共振材料で構成されているので、固定台50に巻き付けて固定したプラスチックシート材40に対して外側(プラスチックシート材40の外周側)から超音波を付与した際に、この超音波が固定台50において共振し、固定台50側(プラスチックシート材40の内周側)からも超音波が付与されることになる。これにより、プラスチックシート材40の接合を効率良く行うことが可能となる。また、接合されて製出されるスリーブ支持体31の内周面を滑らかな面に仕上げることができる。
【0044】
また、本実施形態では、固定台50の円筒面51の外径が、スリーブ印刷版30が装着されるオフセット印刷装置Aのシリンダ61の外径よりも僅かに小さく設定されており、具体的には固定台50の円筒面51の外径とシリンダ61の外径との差が100μm〜800μmの範囲内に設定されているので、製出されるスリーブ印刷版30の内径が、オフセット印刷装置Aのシリンダ61の外径よりも小さくなる。よって、このスリーブ印刷版30をシリンダ61に装着した際に、スリーブ印刷版30がシリンダ61に強固に固定されることになり、印刷時にスリーブ印刷版30の位置がずれることなく、高品位の印刷を行うことができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、スリーブ支持体を、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、スリーブ支持体は、塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等を適用してもよい。
【0046】
また、本実施形態では、接合工程S4において、固定台50に固定されたプラスチックシート材40の一方の端部41と他方の端部42との突き合わせ部分を超音波接合するものとして説明したが、接合方法は超音波接合に限定されることはなく、プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを局所的に加熱して融着する構成であればよい。
より具体的には、接合工程S4において、レーザー溶接を用いてもよい。この場合、一方の端部と他方の端部とに、例えばレーザー吸収剤を塗布しておき、これらを突き合せる。そして、一方の端部と他方の端部との突き合わせ部分に、例えばCOレーザーを照射する。すると、シート材の一方の端部と他方の端部とが局部的に加熱されて溶着されることになる。なお、レーザー吸収剤の選択によって、より扱い易い固体レーザーや半導体レーザーを使用することも可能となる。
【0047】
また、スリーブ支持体の外周面に配設される版本体を、円筒状の版材に画像パターンを形成することで設けたものとして説明したが、これに限定されることはなく、板状に版材に画像パターンを形成し、スリーブ支持体の外周面に貼設したものであってもよい。
【0048】
また、接合部を軸線Oに沿って延びるように直線状に形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、図13に示すように、接合部135を軸線Oに対して傾斜するように設けてもよい。また、図14及び図15に示すように、一方の端部241、341に、周方向に凹んだ切欠部243、343を形成するとともに、他方の端部242、342に切欠部243、343と相補的形状をなす突出部244、344を形成して、これら切欠部243、343と突出部244、344とを係合した状態で接合部235、335を形成してもよい。さらに、図16に示すように、スリーブ印刷版の厚さ方向において斜交するように接合部435を形成してもよい。これらの場合、プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部との突合せ部分の長さが多くなり、超音波接合された際の接合強度を確保することができる。
【0049】
また、本実施形態では、固定台全体を、超音波に共振する共振材料で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、固定台のうち、超音波接合する部分(接合部)が位置する箇所のみを共振材料で構成してもよい。
さらに、本実施形態では、裁断工程でロール状に巻かれた長尺のプラスチックシート素材を所定長さ繰り出して裁断するものとして説明したが、これに限定されることはなく、シート状の長尺のプラスチックシート素材を裁断するものであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
30、130、230、330、430 スリーブ印刷版
31、131、231 スリーブ支持体
33、133、233 凸版(版本体)
35、135、235、335、435 接合部
40、140、240 プラスチックシート材
41、141、241、341、441 一方の端部
42、142、242、342、442 他方の端部
45 プラスチックシート素材
50 固定台
51 円筒面
243、343 切欠部
244、344 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状をなすスリーブ支持体と、このスリーブ支持体の外周面に配設され、被印刷物に印刷する画像パターンが形成された版本体と、を備え、印刷装置のシリンダに装着されて使用されるスリーブ印刷版の製造方法であって、
プラスチックシート材を、円筒面を有する固定台に巻き付ける工程と、
前記固定台に巻き付けられた前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを、超音波接合又はレーザー溶接によって融着し、前記スリーブ支持体を得る工程と、を有していることを特徴とするスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記固定台のうち少なくとも前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とが配置される部分が、前記超音波に共振する共振材料で構成されており、
前記固定台に巻き付けられた前記プラスチックシート材の一方の端部と他方の端部とを、超音波接合によって融着することを特徴とする請求項1に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項3】
長尺のプラスチックシート素材を裁断して所定長さの前記プラスチックシート材を得る裁断工程を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項4】
前記固定台の円筒面の外径が、前記スリーブ印刷版が装着される前記シリンダの外径よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項5】
前記固定台には、吸着機構が設けられており、前記プラスチックシート材を吸着して固定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項6】
前記プラスチックシート材がポリエチレンテレフタレート樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項7】
前記プラスチックシート材の一方の端部には、前記固定台に巻き付けた状態で周方向に凹んだ切欠部が形成され、前記プラスチックシート材の他方の端部には、前記切欠部と相補的形状をなす突出部が形成されており、
これら切欠部及び突出部が突き合わされ、この突き合わされた部分を局所的に加熱して融着することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスリーブ印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−162878(P2010−162878A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273623(P2009−273623)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】