説明

スルホニウム化合物

【課題】熱硬化組成物の硬化開始剤として有用な新規なスルホニウム化合物の提供。
【解決手段】


(R1は水素,C1〜C4のアルキル基のいずれかを、R2はC1〜C4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基を、R3はC1〜C4のアルキル基を示す。)で表わされる新規スルホニウム化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規なスルホニウム化合物に関する。さらに詳しくは、熱硬化組成物の硬化開始剤として有用であり、特にエポキシ樹脂やスチレンなどのカチオン重合性ビニル化合物の重合硬化開始剤としての効果を有する新規なスルホニウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートやヘキサフルオロアンチモナートといった非求核性のアニオンを有するスルホニウム化合物は、重合硬化開始剤として使用されている。
【0003】
特許文献1によれば、 フェナシルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート類が開示されている。そして、エポキシ樹脂などの硬化性組成物に使用することができる旨の記載がある。同様に特許文献2では、トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートがその請求項3に公知である。そして、カチオン重合開始剤に使用する記載がある。また特許文献3では、カチオン性熱重合開始剤として使用されるヒドロキシフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートがその製造例4に、メトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートがその製造例5に公知である。しかしながら、例えば4−アセトキシフェニルスルホニウムのテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートは公知ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】公開特許公報平成9年第176112号
【特許文献2】公開特許公報平成6年第184170号
【特許文献3】フランス公開特許公報2727416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、提供されているエポキシ樹脂等の重合硬化開始剤のうち、オニウム ヘキサフルオロアンチモナート型の多くは不安定であり、高温または高湿状態に露呈されると重合系内にフッ素イオンが分離し、重合開始剤の純度が低下することが知られている。また、毒性の観点からアンチモン化合物の取扱も問題になっている。従って、熱に対して低温硬化性に優れ、高活性でかつ分解性のない非アンチモン化合物の重合硬化開始剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決すべく検討された、化2で表わされる新規なスルホニウム化合物に関するものである。この化合物は、4−アセトキシフェニルスルホニウムのテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート類を要件としている。
【0007】
【化2】

【0008】
(ここでR1は水素,C1〜C4のアルキル基のいずれかを、R2はC1〜C4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基を、R3はC1〜C4のアルキル基を示す。)
【0009】
本発明のスルホニウム化合物を具体的に例示すれば、4−アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−アセトキシ−3−メチルフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−アセトキシフェニルメチル(2−メチルベンジル)スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−アセトキシフェニルメチル(4−メチルベンジル)スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等である。
【0010】
本化合物は、4−(メチルチオ)フェノールと無水酢酸から合成することのできる、酢酸4−(メチルチオ)フェニルエステルを原料として、これに塩化ベンジル、2−メチルベンジルクロライド等を作用させて、4−アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム クロライドや4−アセトキシフェニルメチル(2−メチルベンジル)スルホニウム クロライドとなし、これを酢酸エチル存在下に、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸のアルカリ金属塩類の水溶液とイオン交換する方法で得られるものである。
【0011】
スルホニウム クロライドとテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸のアルカリ金属塩類水溶液とのイオン交換反応の溶媒は、酢酸エチルとテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸のアルカリ金属塩が溶解している水との2層系であることが好ましい。その他の溶媒では好ましい結果が得られない。この反応条件下では、生成した本発明のスルホニウム化合物を有機層に、無機塩ならびに反応不純物を水層に抽出しながら、反応が進行するものと推定している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の新規スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートは、高純度を必要とする熱硬化組成物の硬化開始剤として有用であり、特にエポキシ樹脂やスチレンなどのカチオン重合性ビニル化合物の重合硬化開始剤として有用である。即ち、本来不安定なスルホニウム化合物のアニオン部をテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸基に置き換えることで、結晶性を上げ、これによって良好な安定性が得られているものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
4−アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートの合成
酢酸4-(メチルチオ)フェニルエステル 9.1g(50ミリモル)、塩化ベンジル 6.65g
(52.5ミリモル)に水 80mlを加え、30℃で16時間反応させて、4−アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム クロライドの水溶液を得た。これを室温まで冷却し、酢酸エチル 50mlを加え、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸ナトリウム塩の10%水溶液350g(50ミリモル)を滴下し、室温で2時間塩交換反応を行った。
【0015】
反応後、有機層を分取し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。得られた有機層から減圧下に溶媒を除き、残渣をn-ヘキサン 100mlで処理すると固化した。これを濾取し、n-ヘキサンで洗浄することで、白色の4−アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート41.0g(収率 86.1%)を得た。
【0016】
分析結果
融点 131〜135.5℃
IR (KBr)cm-1
1759(C=O),1646,1516,1464,1374,1276,1203,1172,1091,980,775
NMR(δ値)
2.22(3H,s,アセチル),3.08(3H,s,CH3S),4.70〜4.90(2H,d,CH2),
7.10〜7.92(9H,m,芳香環)
【実施例2】
【0017】
4−アセトキシフェニルメチル(2−メチルベンジル)スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートの合成
原料の塩化ベンジルを2−メチルベンジルクロライド 7.38gに代えた以外は実施例1に準じて実施し、洗浄、乾燥後、白色の4−アセトキシフェニルメチル(2−メチルベンジル)スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート37.6g(収率 77.8%)を得た。
【0018】
分析結果
融点 137〜140℃
IR (KBr)cm-1
1760(C=O),1646,1517,1465,1374,1276,1202,1174,1092,980,775
NMR(δ値)
2.26(3H,s,アセチル),2.28(3H,s,2-メチルベンジルのCH3),
3.22(3H,s,CH3S),4.73〜4.90(2H,d,CH2),
6.92〜7.86(8H,m,芳香環)
【0019】
参考例
本発明の化合物を重合開始剤として使用した例を記載する。実施例1で得られた化合物0.1gをエピコート828(ジャパンエポキシレジン株式会社製 エポキシ樹脂の商品名)10gを混合してJISK7071(1988)の手法に準じてゲル化時間を測定した。加熱温度90℃でのゲル化時間は、1分25秒であった。
【0020】
同様に、実施例2で製造した化合物でのゲル化時間は、90℃で1分10秒であった。なお、先行文献として記載のフランス公開特許公報2727416号で開示された4−ヒドロキシフェニルベンジルメチルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのゲル化時間は、120℃で、2分43秒であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のスルホニウム化合物は、高純度を必要とするエポキシ樹脂の低温硬化性の重合硬化開始剤として有用に作用する。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表されるスルホニウム化合物。
【化1】


(ここでR1は水素,C1〜C4のアルキル基のいずれかを、R2はC1〜C4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基を、R3はC1〜C4のアルキル基を示す。)



【公開番号】特開2012−153642(P2012−153642A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13909(P2011−13909)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000176268)三新化学工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】