説明

スルホン化合物の製造方法

【課題】安全な試薬を用いて、簡便かつ高収率、高純度でスルホン化合物を製造する工業的に有利な方法を提供する。
【解決手段】スルフィド化合物を過酸化水素により酸化し、スルホン化合物を製造する方法において、炭化ニオブを反応触媒として用いることを特徴とする下記一般式(2)で示されるスルホン化合物の製造方法であり、反応で使用した炭化タンタルは、反応終了後に回収して繰り返し再利用することができる。


(式中、R1及びR2は、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基を表す。また、R1とR2が結合して環構造の一部を形成していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフィド化合物の酸化反応によりスルホン化合物を得る工業的に有用な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン化合物は、化学的または生物学的に極めて有用な化合物であり、これまでに数多くの合成例が報告されている。その合成法として、スルフィド化合物の酸化による方法が一般的に知られている。酸化反応に用いられる酸化剤としては、過酸化水素、過酢酸、ヒドロペルオキシド、ペルオキソ二硫酸塩、過マンガン酸塩、過ホウ酸ナトリウムなどが挙げられる(非特許文献1〜4)。
【0003】
酸化剤の中で、過酸化水素は安全に貯蔵することができ、しかも安価に入手することが可能であるためスルフィド化合物からの工業的なスルホン化合物合成には有用であるといえる。更に、過酸化水素は水や種々の有機溶媒への溶解性が高いうえ、反応後は水となることから、汎用性が高く環境面からも好適な酸化剤として多用されている(非特許文献5、6)。
【0004】
しかし、過酸化水素は酸化力が弱く、スルフィド化合物によっては効率よく酸化することが困難であるという問題があった。このため、スルフィド化合物を過酸化水素と反応させてスルホン化合物を製造する方法として、金属触媒を用いる方法が知られている。該金属触媒として用いられる金属種としては、バナジウム、チタン、モリブデン、テルル、タングステン、セレン、鉄、タンタル、ニオブなどが挙げられる(非特許文献7〜9、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、これら金属触媒を用いる方法では、金属触媒自体に強い人体毒性が認められるものがあり、実用化の観点からすれば必ずしも満足できるものではなかった。更には、これら金属触媒は、高価であるにも関わらず一般的に均一系での反応であるため、反応後回収して再利用することが極めて困難であった。また、一部の金属触媒は、反応中に分解してしまうということも再利用を困難にする要因であり、改良の余地があった。
【0006】
金属種として毒性の少ないニオブを触媒に用いた例としては、スルフィド化合物を不斉酸化して光学活性なスルホキシド化合物を製造する方法が報告されている(特許文献2)。この方法は、ニオブを中心金属としたサレン系錯体化合物を触媒とし、スルフィド化合物を尿素−過酸化水素付加物で不斉酸化して光学活性なスルホキシド化合物を得るというものである。しかし、この方法は光学活性なスルホキシドを得る目的に開発された技術であり、複雑な構造のキラル錯体を用いているため工業的規模での酸化反応には適さないという問題があった。また、スルフィド化合物からスルホキシド化合物を得るものであり、スルホン化合物を製造するために応用できるものではなかった。
【0007】
近年になって、毒性の少ないタンタル化合物を触媒として用い、過酸化水素酸化によりスルフィド化合物からスルホキシド化合物またはスルホン化合物を得るという報告がなされている。用いるタンタル触媒としては、五塩化タンタル、ペンタエトキシタンタルという5価のタンタル触媒が挙げられている(特許文献3、非特許文献10)。しかし、この方法では、五塩化タンタル、ペンタエトキシタンタルは、反応系中で用いる溶媒に溶解しており均一な状態で反応が進行する。そのため、反応終了後にこれらタンタル触媒を回収して再利用することが出来ないという欠点があった。更には、五塩化タンタルやペンタエトキシタンタルは高価な試薬であるということもあり、工業的規模での利用には不利であるという欠点があった。
【0008】
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,54,793(1981).
【非特許文献2】Tetrahedron Lett,24,1505(1983).
【非特許文献3】J.Org.Chem.,45,3634(1980).
【非特許文献4】Org.Synth.,64,157(1985).
【非特許文献5】J.Chem.Soc.,1961,5339.
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.,71,2248(1949).
【非特許文献7】J.Org.Chem.,28,1140(1963).
【非特許文献8】Synthesis,1978,299.
【非特許文献9】J.Org.Chem.,50,1784(1985).
【非特許文献10】Tetrahedron Lett,50,1180(2009).
【特許文献1】特開2003−300950号公報
【特許文献2】特開2004−323445号公報
【特許文献3】特開2008−239490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、スルフィド化合物を過酸化水素を酸化剤として用いて対応するスルホン化合物を製造する方法において、毒性の少ない安価でしかも再利用可能な酸化反応触媒を用いることにより、安全かつ効率的にスルホン化合物を得る工業的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酸化反応触媒に炭化ニオブを用いることで、スルフィド化合物から効率的にスルホン化合物が得られることを見出した。また、この反応系は完全なる中性条件であり、反応基質の構造中に酸あるいはアルカリに影響を受けやすい官能基が存在していても、本技術を問題なく応用できることを見出した。
【0011】
炭化ニオブは、超硬合金の原料として用いられるのが一般的であり、高温時の硬度低下が少なく、非常に摩耗しにくいことから、主にドリル、エンドミル、ホブ、フライス、旋盤、ピニオンカッターなど金属加工用切削工具の材料として使用されている。それゆえ、過去に有機合成反応における反応触媒として用いられた前例がない。それは、炭化ニオブが水や有機溶媒に不溶であり、しかも酸、アルカリにも安定であることから反応触媒として作用するという着眼がなかったことを意味する。発明者らは、炭化ニオブのスルフィド化合物に対する酸化触媒活性を見出し、更には炭化ニオブが不均一の状態で触媒として作用しており、反応終了後は反応混合物から分離して再び触媒として利用可能である事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は次の方法により達成された。
一般式(1)で表されるスルフィド化合物を過酸化水素により酸化して、下記一般式(2)で表されるスルホン化合物を製造する方法において、炭化ニオブを触媒に用いることを特徴とするスルホン合物の製造方法。
【0013】
【化3】

(一般式(1)において、R1及びRは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基及び置換基を有していてもよいアルケニル基を表す。また、R1とRが結合して環構造の一部を形成していてもよい。)
【0014】
【化4】

(一般式(2)において、R1及びRは、一般式(1)におけるR1及びRと同義である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、過酸化水素によるスルフィド化合物の酸化反応において、毒性ない炭化ニオブを酸化反応の触媒として使用することにより、スルホン化合物を容易に得ることができる。また、所望の反応を終えた後に、使用した炭化ニオブは回収して再利用することが可能で、廃棄物の極めて少ない工業的に有利なスルホン化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0017】
本発明において、用いられるスルフィド化合物は、一般式(1)中のRおよびRが、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基及び置換基を有していてもよいアルケニル基を表す。また、RとRが結合して環構造の一部を形成していてもよい。
【0018】
一般式(1)中のR1およびR2が、置換基を有していてもよいアルキル基の場合、その具体的例としては、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−オクチル、トリデシル等を挙げることができる。それらアルキル基は置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としてはハロゲン原子、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、シクロアルキルオキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルファモイルオキシ基、アルカンスルホニルオキシ基、アレーンスルホニルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、アニリノ基、複素環アミノ基、カルボンアミド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ウレイド基、スルホンアミド基、スルファモイルアミノ基、イミド基等を挙げることができる。
【0019】
一般式(1)中のR1およびR2が、置換基を有していてもよいアリール基の場合、その具体的例としては、炭素数6〜32のアリール基であり、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。それらアリール基は置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としては前記アルキル基の置換基と同様の基を挙げることができる。
【0020】
一般式(1)中のR1およびR2が、置換基を有していてもよい複素環基の場合、その具体例としては炭素数1〜32の、5〜8員環の複素環基で、例えば、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、2−フリル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ピペラジル基、2−ピペリジル基、1−イミダゾリル基、1−ピラゾリル基、モルホリノ基、2−ベンゾイミダゾリル基、ベンゾトリアゾール−2−イル基等が挙げられる。それら複素環基は置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としては前記アルキル基の置換基と同様の基を挙げることができる。
【0021】
一般式(1)中のR1およびR2が、置換基を有していてもよいアラルキル基の場合、前記置換基を有してもよいアルキル基と前記置換基を有してもよいアリール基とから構成されるものが挙げられ、その具体例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルブチル基等が挙げられる。それらアラルキル基は置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としては前記アルキル基の置換基と同様の基を挙げることができる。
【0022】
一般式(1)中のR1およびR2が、置換基を有していてもよいアルケニル基の場合、その具体例としてはエテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−デセニル基、2−シクロペンテニル基、2−シクロヘキセニル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルケニル基が挙げられる。それらアルケニル基は置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としては前記アルキル基の置換基と同様の基を挙げることができる。
【0023】
本発明において得られるスルホン化合物は、一般式(2)中のR1およびR2が、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基及び置換基を有していてもよいアルケニル基を表す。また、R1とRが結合して環構造の一部を形成していてもよい。アルキル基、アリール基、複素環基、アラルキル基及びアルケニル基の具体例としては、前記一般式(1)のスルフィド化合物で挙げたものを同様に挙げることができ、またそれらに有していてもよい置換基としても前記一般式(1)のスルフィド化合物で挙げたものと同様の置換基を挙げることができる。
【0024】
本発明において用いられる炭化ニオブは、市販されているものを前処理することなくそのまま用いることができる。炭化ニオブの使用量としては、基質であるスルフィド化合物に対して、0.001〜1.0当量の範囲で用いることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.5当量の範囲である。
【0025】
本発明において反応に用いられた炭化ニオブは、反応混合物からろ過などの操作により分離して回収し、何度でも再利用することが可能である。炭化ニオブは、それ自体反応によって変性や分解が生じず、しかもほとんどの反応溶媒に不溶でありほぼ完全に回収できることが、本発明における極めて有利な点である。
【0026】
本発明において用いられる過酸化水素水の濃度は、3〜50%の濃度が好ましい。ただし、過酸化水素の濃度が高くなるにしたがい爆発の危険性が高まるため、より好ましくは3〜35%の範囲である。また、過酸化水素の使用量は、基質であるスルフィド化合物に対して、0.9〜30.0当量の範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜20.0当量の範囲である。
【0027】
本発明において用いられる反応溶媒は、特に限定されるものではないが、好まし溶媒としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、エーテル類、カルボン酸類、ハロゲン系溶媒、アミド系溶媒及び水を挙げることができる。また、先に例示した反応溶媒は、任意の組み合わせによる混合系でも用いることができる。この中で特に好ましい溶媒としては、アルコール類及びニトリル類である。その具体例として、アルコール類としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ニトリル類ではアセトニトリル、プロピオニトリルを挙げることができ、それら反応溶媒を用いると特に高い反応成績を得ることができる。
【0028】
本発明において、反応温度は特に限定されないが、−50〜120℃の範囲が好ましく、−10〜80℃の範囲が特に好ましい。
【0029】
本発明において、反応時間はスルフィド化合物の構造、炭化ニオブの使用量、過酸化水素の使用量ならびに濃度、反応温度などによって様々であり特に限定されるものではないが、1分間〜60時間の範囲が好ましく、5分間〜48時間の範囲が特に好ましい。
【0030】
前記した反応系によって、単純かつ安全な試薬を用いて、工業的にしかも容易に実施可能な方法で、スルフィド化合物から対応するスルホン化合物を極めて効率的に得ることが出来る。
【0031】
本発明により製造したスルホン化合物は、副生する不純物等が少なく、精製も容易である。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製できることは勿論のこと、反応を終えた反応混合物から、蒸留によってスルホン化合物を取り出すことが可能である。また、反応混合物から炭化ニオブをろ過などの操作で分離して、その後用いた反応溶媒を留去した後、適当な有機溶媒あるいは水に再結晶して取り出すことも可能である。あるいは、反応混合物の状態でスルホン化合物が晶析する場合、固液分離を行い、次いでスルホン化合物を適当な溶媒で溶解させた後、炭化ニオブをろ過などの操作で分離して、その後適当な有機溶媒あるいは水に置き換え再結晶して取り出すこともできる。但し、本発明は前述した蒸留の有無、再結晶の有無、固液分離操作の有無及び用いる装置等に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において用いた炭化ニオブは、株式会社高純度化学研究所製のものである。また、NMRデータは、日本電子株式会社製JNM−EX400(400MHz)を用いて測定した。マススペクトルデータは、株式会社島津製作所製GCMS−QP1100EXを用い、EI法で測定した。
【0033】
(実施例1 メチルフェニルスルホンの合成)
室温下、チオアニソール124.0mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.2mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水518.5mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して2時間45分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物159.7mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、メチルフェニルスルホン154.2mg、収率98.8%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:3.06(3H,s),7.55−7.59(3H,m),7.93−7.95(2H,m).
MS(m/z):156(M).
【0034】
(実施例2 アリルフェニルスルホンの合成)
室温下、アリルフェニルスルフィド151.2mg(1.0mmol)をメタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.2mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水512.4mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して3時間15分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物187.2mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、アリルフェニルスルホン179.2mg、収率97.6%で得た。外観は、無色油状物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:3.80−3.82(2H,d,J=7.3Hz),5.12−5.34(2H,dd,J=17.0,10.2Hz),5.74−5.83(1H,m),7.53−7.57(3H,m),7.86−7.89(2H,m).
MS(m/z):183(M).
【0035】
(実施例3 p−メトキシフェニルメチルスルホンの合成)
室温下、p−メトキシチオアニソール153.9mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.0mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水514.8mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して5時間攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物186.0mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、p−メトキシフェニルメチルスルホン182.7mg、収率98.2%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:3.03(3H,s),3.89(3H,s),7.01−7.04(2H,dt,J=8.8Hz),7.86−7.90(2H,dt,J=9.0Hz).
MS(m/z):186(M).
【0036】
(実施例4 p−アセチルフェニルメチルスルホンの合成)
室温下、p−(メチルチオ)アセトフェノン167.1mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.1mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水512.0mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して22時間攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物207.4mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、p−アセチルフェニルメチルスルホン171.3mg、収率90.1%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:2.67(3H,s),3.08(3H,s),8.04−8.06(2H,d,J=8.5Hz),8.12−8.14(2H,d,J=8.5Hz).
MS(m/z):198(M).
【0037】
(実施例5 ベンジルフェニルスルホンの合成)
室温下、ベンジルフェニルスルフィド200.4mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.2mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水512.1mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して4時間攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物230.2mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、ベンジルフェニルスルホン224.0mg、収率96.0%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:4.38(2H,s),7.07−7.08(2H,m),7.23−7.29(3H,m),7.42−7.46(2H,m),7.59−7.64(3H,m).
MS(m/z):232(M).
【0038】
(実施例6 ベンジルメチルスルホンの合成)
室温下、ベンジルメチルスルフィド138.1mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.1mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水520.0mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して1時間45分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物174.0mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、ベンジルメチルスルホン169.2mg、収率99.0%で得た。外観は、無色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:2.74(3H,s),4.24(2H,s),7.41−7.45(5H,m).
MS(m/z):170(M).
【0039】
(実施例7 ジベンジルスルホンの合成)
室温下、ジベンジルスルフィド215.7mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.1mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水521.1mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して1時間45分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物265.2mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、ジベンジルスルホン240.7mg、収率97.6%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:4.19(4H,s),7.37−7.41(10H,m).
MS(m/z):246(M).
【0040】
(実施例8 ジフェニルスルホンの合成)
室温下、ジフェニルスルフィド186.0mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.1mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水511.0mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して6時間30分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル5mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物230.7mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、ジフェニルスルホン205.4mg、収率94.2%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:7.48−7.58(6H,m),7.90−7.94(4H,m).
MS(m/z):218(M).
【0041】
(実施例9 ビス(4−メトキシフェニル)スルホンの合成)
室温下、ビス(4−メトキシフェニル)スルフィド246.7mg(1.0mmol)をエタノール2mlに溶解し、炭化ニオブ4.1mg(0.04mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水510.0mg(4.5mmol)を加え、60℃ に加温して4時間30分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物286.7mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、ビス(4−メトキシフェニル)スルホン266.4mg、収率95.8%で得た。外観は、白色固形物であった。
H−NMR(CDCl3)δ:3.83(6H,s),6.92−6.96(4H,dt,J=8.8Hz),7.82−7.86(4H,dt,J=8.5Hz).
MS(m/z):278(M).
【0042】
(実施例10 メチルフェニルスルホンの合成)
室温下、チオアニソール123.1mg(1.0mmol)をエタノール6mlに溶解し、炭化ニオブ10.5mg(0.1mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水518.0mg(4.5mmol)を加え、室温にて1時間40分攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物160.0mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果、メチルフェニルスルホキシドならびに原料であるチオアニソールは、H−NMR上検出されず、メチルフェニルスルホンの生成率が100%であった。
【0043】
(実施例11 メチルフェニルスルホンの合成)
炭化ニオブを8.4mg(0.08mmol)、攪拌時間を3時間とした以外は、実施例10と同様の操作を行い、粗生成物158.5mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果、メチルフェニルスルホキシドならびに原料であるチオアニソールは、H−NMR上検出されず、メチルフェニルスルホンの生成率が100%であった。
【0044】
(実施例12 メチルフェニルスルホンの合成)
炭化ニオブを8.4mg(0.08mmol)、反応温度を60℃、攪拌時間を2時間とした以外は、実施例10と同様の操作を行い、粗生成物160.1mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果、メチルフェニルスルホキシドならびに原料であるチオアニソールは、H−NMR上検出されず、メチルフェニルスルホンの生成率が100%であった。
【0045】
(実施例13 メチルフェニルスルホンの合成)
炭化ニオブを6.3mg(0.06mmol)、攪拌時間を5時間とした以外は、実施例10と同様の操作を行い、粗生成物158.0mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果、メチルフェニルスルホキシドならびに原料であるチオアニソールは、H−NMR上検出されず、メチルフェニルスルホンの生成率が100%であった。
【0046】
(実施例14 メチルフェニルスルホンの合成)
炭化ニオブを6.3mg(0.06mmol)、反応温度を45℃、攪拌時間を3時間とした以外は、実施例10と同様の操作を行い、粗生成物158.8mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果、メチルフェニルスルホキシド:メチルフェニルスルホン=2:98(モル比基準)であった。なお、原料であるチオアニソールは、H−NMR上検出されなかった。
【0047】
(実施例15 メチルフェニルスルホンの合成)
炭化ニオブを2.1mg(0.02mmol)、反応温度を60℃、攪拌時間を7時間とした以外は、実施例10と同様の操作を行い、粗生成物159.1mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果。メチルフェニルスルホキシドならびに原料であるチオアニソールは、H−NMR上検出されず、メチルフェニルスルホンの生成率が100%であった。
【0048】
(実施例16 メチルフェニルスルホンの合成、炭化ニオブの分離・回収)
室温下、チオアニソール621.0mg(5.0mmol)をエタノール10mlに溶解し、炭化ニオブ21.0mg(0.2mmol)を加えた後に、30%過酸化水素水2580.0mg(22.5mmol)を加え、60℃ に加温して2時間30分間攪拌を行なった。その後、反応混合物をろ紙を付した桐山ロートでろ過し、ろ紙上に炭化ニオブを分離した。分離ろ別した炭化ニオブは、減圧乾燥した後に重量を計測したところ21.0mg(回収率100%)であった。この一連の操作で回収した炭化ニオブは、後記の実施例17で繰り返し反応に使用した。
【0049】
一方、炭化ニオブをろ過した後の反応混合物は室温まで冷却し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液20mlを加えた。その後、酢酸エチル15mlで3回抽出した。有機層をプールし、水10mlで3回、次いで飽和食塩水10mlで3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。その後、酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物731.0mgを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、メチルフェニルスルホン720.1mg、収率92.2%で得た。外観は、白色固形物であった。H−NMRスペクトルならびにMSスペクトルは、実施例1と完全に一致した。
【0050】
(実施例17 炭化ニオブの再利用によるメチルフェニルスルホンの合成)
実施例16で回収した炭化ニオブ21.0mgを用いて、実施例16と同様の操作を繰り返し3回行い、メチルフェニルスルホンを得た。それぞれの取得量と収率は以下の通りであった。
再利用1回目 取得量696.6mg、収率89.2%
再利用2回目 取得量751.4mg、収率96.2%
再利用3回目 取得量759.2mg 収率97.2%
なお、上記いずれもH−NMRスペクトルならびにMSスペクトルは、実施例1のデータと完全に一致した。
【0051】
(参考例1 メチルフェニルスルホンの合成、炭化ニオブ不使用時の反応成績)
室温下、チオアニソール123.1mg(1.0mmol)をエタノール6mlに溶解し、30%過酸化水素水518.0mg(4.5mmol)を加え、60℃にて18時間攪拌を行なった。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液6mlを加え、水層と有機層を分離し、酢酸エチル3mlで3回抽出した。有機層をプールし、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。酢酸エチルをロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物158.3mgを得た。得られた粗生成物のH−NMR(CDCl3)を測定し、メチルフェニルスルホキシドとメチルフェニルスルホンとのプロトン積分強度比から生成比率を算出した。その結果、メチルフェニルスルホキシド:メチルフェニルスルホン=6:94(モル比基準)であり、反応18時間でもスルホン化反応は完結していなかった。なお、原料であるチオアニソールはH−NMR上検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
化学的または生物学的に極めて有用なスルホン化合物の工業的に有利な製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスルフィド化合物を過酸化水素により酸化して、下記一般式(2)で表されるスルホン化合物を製造する方法において、炭化ニオブを触媒に用いることを特徴とするスルホン化合物の製造方法。
【化1】

(一般式(1)において、R1及びRは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基を表す。また、R1とRが結合して環構造の一部を形成していてもよい。)
【化2】

(一般式(2)において、R1及びRは、一般式(1)におけるR1及びRと同義である。)

【公開番号】特開2010−208990(P2010−208990A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56513(P2009−56513)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(307013570)株式会社DNPファインケミカル福島 (11)
【Fターム(参考)】