説明

スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法

【課題】低温であってもスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解でき、得られる低分子量含フッ素化合物への金属(ただし、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く。)の混入が少ないスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法を提供する。
【解決手段】水中でスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射によるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素有機化合物を分解して、含フッ素有機化合物よりも分子量の低い低分子量含フッ素化合物(フッ化水素、アルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物等)を回収し、低分子量含フッ素化合物を、含フッ素有機化合物の原料等として再利用することが提案されている。
【0003】
含フッ素有機化合物を分解する方法としては、たとえば、下記の方法が開示されている。
(1)スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを、鉄粉の存在下、300〜350℃の亜臨界水で分解する方法(特許文献1)。
【0004】
なお、低分子量含フッ素化合物の回収を目的とする方法ではないが、光の照射によって含フッ素有機化合物を分解する方法としては、たとえば、下記の方法が開示されている。
(2)分子状酸素の存在下、フルオロカルボン酸類を含む水溶液に光を照射して、フルオロカルボン酸類を分解し、無害化する方法(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−059301号公報
【特許文献2】特開2005−154277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の(1)の方法では、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに含まれるフッ素原子のモル数の1倍モル以上の鉄粉が必要であるため、工業的に実施することが難しい。また、得られる低分子量含フッ素化合物に多量の鉄分が混入するため、低分子量含フッ素化合物の精製に手間がかかる。また、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解を高温下に行う必要がある。
(2)の方法は、カルボン酸基を有する低分子量の含フッ素有機化合物の分解に関する技術であり、スルホン酸型官能基を有する高分子量の含フッ素ポリマーに適用できるかどうかは不明である。むしろ、一般的には、低分子量の有機化合物の反応の技術を、高分子量の有機化合物に適用しても、立体障害、分子内・分子間相互作用等の要因によって低分子量の有機化合物と同じような反応が高分子量の有機化合物では起こりにくいということが技術常識とされている。
このように、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを光の照射によって分解する方法は、これまで知られていない。
【0007】
本発明は、低温であってもスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解でき、得られる低分子量含フッ素化合物への金属(ただし、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く。)の混入が少ないスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[7]の構成を有するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法である。
[1]水中でスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解することを特徴とする、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
[2]前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーのTが、100℃以上である、[1]のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【0009】
[3]前記光が、200〜350nmの波長の光を含む、[1]または[2]のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
[4]前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーが水に溶解した状態である、[1]〜[3]のいずれかのスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
[5]さらに分子状酸素の存在下に、前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する、[1]〜[4]のいずれかのスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【0010】
[6]下記の工程(i)〜(ii)を有する、[1]〜[4]のいずれかのスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
(i)反応容器内に水およびスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを入れる工程。
(ii)反応容器内の水中にあるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する工程。
[7]前記工程(i)と前記工程(ii)との間に下記の工程(i−2)を行う、[5]のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
(i−2)反応容器内に分子状酸素を含む気体を導入する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーによれば、水中にあるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射しているため、低温であってもスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解できる。
また、金属粉等の触媒金属が存在しなくても、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解できるため、得られる低分子量含フッ素化合物に混入する金属元素(ただし、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素を除く。)が少なくなり、低分子量含フッ素化合物の精製が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における「含フッ素ポリマー」とは、分子内にフッ素原子を1つ以上有するポリマーを意味する。
本明細書における「低分子量含フッ素化合物」とは、含フッ素ポリマーを分解して得られる、含フッ素ポリマーよりも分子量の低い、分子内にフッ素原子を1つ以上有する有機化合物または無機化合物を意味する。
【0013】
本明細書における「スルホン酸型官能基」とは、スルホ基(−SOH)、または加水分解または中和によってスルホ基に変換し得る官能基を意味する。スルホ基に変換し得る官能基としては、−SOM(ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)、−SOF、−SOCl、−SOBr等が挙げられる。
本明細書における「カルボン酸型官能基」とは、カルボキシ基(−COOH)、または加水分解または中和によってカルボキシ基に変換し得る官能基を意味する。カルボキシ基に変換し得る官能基としては、−CN、−COF、−COOR(ただし、Rは炭素数1〜10のアルキル基である。)、−COOM(ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)、−COONR(ただし、RおよびRは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、RおよびRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。)等が挙げられる。
【0014】
本明細書における「繰り返し単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本明細書における「モノマー」とは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
【0015】
本明細書における「水中に金属元素が実質的に存在しない」とは、水中に金属元素(ただし、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素を除く。)を含む化合物を加える等の操作によって水中に積極的に金属元素を含ませないことを意味する。すなわち、水中に金属元素がまったく存在しない、または水中に不可避的不純物としての金属元素(反応容器や処理対象物から溶出した金属元素等)が含まれていてもよいことを意味する。具体的に「亜臨界水中に金属元素が実質的に存在しない」とは、亜臨界水中に金属イオン(ただし、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンを除く。)が10,000ppm以下、金属粉(ただし、アルカリ金属粉およびアルカリ土類金属粉を除く。)が10,000ppm以下、金属酸化物(ただし、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物を除く。)が10,000ppm以下含まれる状態を意味する。
【0016】
〔スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法〕
本発明のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法は、水中にあるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する方法である。
【0017】
具体的には、下記の工程(i)〜(ii)を順に行う方法が挙げられる。
(i)反応容器内に水およびスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを入れる工程。
(ii)反応容器内の水中にあるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する工程。
さらに、工程(i)と工程(ii)との間に下記の工程(i−2)を行ってもよい。
(i−2)反応容器内に分子状酸素を含む気体を導入する工程。
分解生成物の回収が必要な場合には、工程(ii)の後に下記の工程(iii)を行ってもよい。
(iii)反応容器内から分解生成物を回収する工程。
【0018】
(工程(i))
工程(i)は、反応容器内に、水およびスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを入れる工程である。反応容器内には、必要に応じてフッ化水素と反応し得る化合物を入れることも好ましい。撹拌手段によって内容物を接触させることが好ましい。工程(i)においては、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを水に溶解させてもよく、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを水に溶解させなくてもよい。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを効率よく分解する点から、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを水に溶解させることが好ましい。
【0019】
<反応容器>
反応容器は、工程(ii)における圧力および温度条件に耐え得るものであればよい。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解によってフッ化水素が生成する場合には、フッ化水素酸に耐え得るものが好ましい。
反応容器の材質としては、ステンレス鋼、ハステロイ、インコネル等が挙げられる。含フッ素有機化合物の分解によってフッ化水素が生成する場合には、ハステロイまたはインコネルが好ましい。または、めっきまたはコーティング等の方法で、反応容器のフッ化水素酸に接する表面を、フッ化水素酸に耐え得る材質で被覆することが好ましい。フッ化水素酸に耐え得る材質としては、金等が挙げられる。
【0020】
反応容器は、工程(ii)において照射される光に対して、反応容器の全体が充分な透過率を有する、または充分な透過率を有する窓が少なくとも1つ設置されている必要がある。光の透過率は、経済性の観点から適宜選択され、照射される光の全エネルギーに対して、1〜100%が好ましく、10〜100%がより好ましく、20〜100%が特に好ましい。光の透過率が該範囲であれば、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解に必要な光量が確保され、エネルギー効率がよくなる。
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解によってフッ化水素が生成する場合には、窓の材質が、フッ化水素酸に耐え得る材質であることが好ましい。フッ化水素酸に耐え得る材質としては、サファイア等が挙げられる。
【0021】
<撹拌手段>
撹拌手段としては、マグネティックスターラ、撹拌翼付き撹拌機等の公知の撹拌手段が挙げられる。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解によってフッ化水素が生成する場合には、フッ化水素酸に接する部分の材質が、フッ化水素酸に耐え得る材質であることが好ましい。
【0022】
<スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー>
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、スルホン酸型官能基を有するペルフルオロビニルエーテル類に由来する繰り返し単位を有する含フッ素ポリマーが挙げられる。本発明のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法は、焼却処分等の従来の処分方法では廃棄処理が困難であったテトラフルオロエチレン(CF=CF)に由来する繰り返し単位とスルホン酸型官能基を有するペルフルオロビニルエーテル類に由来する繰り返し単位とを有する含フッ素ポリマーの分解に特に有用である。
【0023】
スルホン酸型官能基を有するペルフルオロビニルエーテル類としては、ZCFCFOCF(CF)CFOCF=CF(ただし、Zはカルボン酸型官能基である。)等が挙げられる。
【0024】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分子量の指標となるTは、本発明のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法の有用性の点から、100℃以上が好ましく、150〜300℃が特に好ましい。Tは、容量流速100mm/秒を示す温度(℃)である。容量流速は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを2.94MPa加圧下、長さ1mm、内径1mmのノズルから溶融流出させ、流出するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーをmm/秒の単位で示したものである。通常、Tが高いほど分子量は大きい。
【0025】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの形態は、特に限定されない。具体的には、粉末、ペレット、成形体(フィルム等)等が挙げられる。
【0026】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、1種のみからなるものであってもよく、2種以上の混合物であってもよい
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、他材料との組成物であってもよく、他材料へ被覆されたものであってもよい。具体的には、無機材料(カーボン、シリカ等)との組成物、フッ素原子を含まない低分子量および/または高分子量有機化合物との組成物、他材料(紙、繊維、プラスチック等)にコーティングされたもの、水および/または有機溶媒への分散液等が挙げられる。
【0027】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの含有量は、光の透過率および経済性の点から、水の100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの量が上記範囲の下限値以上であれば、低分子量含フッ素化合物を充分に回収できる。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの量が上記範囲の上限値以下であれば、光が充分に当たり、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーをさらに効率よく分解できる。
【0028】
<フッ化水素と反応し得る化合物>
フッ化水素と反応し得る化合物は、工程(iii)で得られる分解生成物からフッ化水素をフッ化物塩として効率よく回収するために使用される。
フッ化水素と反応し得る化合物としては、塩基性化合物(アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア等)、フッ化水素付加物を生成する化合物(フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等)が挙げられる。
フッ化水素と反応し得る化合物の量は、経済性の点から、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの100質量部に対して、0〜1,200質量部が好ましく、0〜600質量部が特に好ましい。
【0029】
(工程(i−2))
工程(i−2)は、必要に応じて反応容器内に分子状酸素を含む気体を導入する工程である。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解は、分子状酸素が存在しなくても進行するが、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーをさらに効率よく分解する点から、分子状酸素を存在させてもよい。
【0030】
反応容器内に導入する分子状酸素は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに含まれる炭素原子のモル数の1倍モル以上が好ましく、1.5倍モル以上がより好ましく、2倍モル以上が特に好ましい。
【0031】
反応容器内の分子状酸素を含む気体の圧力は、反応容器の耐圧性能によって左右されるが、ゲージ圧力で0〜10MPaが好ましく、0〜1MPaが特に好ましい。圧力が上記範囲の下限値以上であれば、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解が充分に進行する。圧力が上記範囲の上限値以下であれば、反応容器の耐圧性能を高度に高める必要がなく、多大な設備投資費用が必要にならない。
【0032】
分子状酸素を含む気体は、純酸素ガスであってもよく、空気であってもよく、酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。
【0033】
(工程(ii))
工程(ii)は、水中にあるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する工程である。工程(ii)では、必要に応じて反応容器内に分子状酸素を含む気体、または反応容器内の圧力を所定の圧力に保つための気体を、連続的または断続的に導入してもよい。
【0034】
<光の照射>
光は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーをさらに効率よく分解できる点から、紫外線領域の光を含むことが好ましい。具体的には、100〜760nmの波長の光を含むことが好ましく、200〜350nmの波長の光を含むことが特に好ましい。必要な波長の光が含まれていれば、波長分布によらずスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解は進行するが、エネルギー効率の点から、全光のうち、1〜100%の光が前記波長範囲であることが好ましく、10〜100%の光が前記波長範囲であることがより好ましく、20〜100%の光が前記波長範囲であることが特に好ましい。
【0035】
<反応条件>
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解は、加熱することなく進行するが、必要に応じて加熱してもよい。反応容器内の温度は、反応容器の耐熱性能によって左右されるが、0〜400℃が好ましく、0〜250℃がより好ましく、0〜100℃がさらに好ましく、装置が簡便になることから常温(20〜25℃)が特に好ましい。反応容器内の温度が上記範囲の下限値以上であれば、積極的に温度を下げる必要がなくなり、不要なエネルギーを投入する必要がなくなる。反応容器内の温度が上記範囲の上限値以下であれば、反応容器の耐熱性能を高度に高める必要がなく、多大な設備投資費用が必要にならない。
【0036】
反応容器内の圧力は、反応容器の耐圧性能によって左右されるが、工程(i−2)における前記範囲内が好ましい。
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーと亜臨界水との接触時間は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの量、温度、圧力等に応じて適宜決定すればよい。
【0037】
反応容器内の水は、臨界点(圧力22.12MPa、温度374.15℃)以上の超臨界水、または100℃以上臨界温度未満において液体の状態を保っている亜臨界水であってもよい。光の照射によるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解と、超臨界水または亜臨界水によるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解とを併用することによって、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーをさらに効率よく分解できる。
【0038】
<金属>
水中には、反応容器や処理対象物から溶出した不純物を除き、触媒金属(鉄粉等)等に由来する金属元素(ただし、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素を除く。)を実質的に存在させないことが好ましい。水中に金属元素が実質的に存在しなければ、得られる低分子量含フッ素化合物への金属(ただし、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く。)の混入がさらに少なくなる。
【0039】
(工程(iii))
工程(iii)は、反応容器内から分解生成物を回収する工程である。分解生成物は低分子量含フッ素化合物を含む。また、工程(iii)は、必要に応じて分解生成物からさらに低分子量含フッ素化合物を回収する。
【0040】
<分解生成物>
分解生成物中としては、水、低分子量含フッ素化合物が挙げられる。工程(ii)の反応条件やスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーによっては、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解によって発生する炭化水素類や、光の照射で分解できない材料等が含まれる場合もある。
【0041】
<低分子量含フッ素化合物>
低分子量含フッ素化合物としては、低分子量含フッ素有機化合物、低分子量含フッ素無機化合物が挙げられる。フッ化水素、含フッ素有機化合物の原料等として再利用しやすい点から、低分子量含フッ素無機化合物が特に好ましい。
低分子量有機含フッ素化合物の分子量は、フッ化水素、含フッ素有機化合物の原料等として再利用しやすい点から、1,000未満が好ましく、20〜900がより好ましく、20〜100がさらに好ましく、20〜80が特に好ましい。
【0042】
低分子量含フッ素有機化合物としては、下記の化合物が挙げられる。
フルオロエチレン類:CF=CF、CF=CFCl、CF=CFH、CFH=CH、CF=CH等。
フルオロプロピレン類:CF=CFCF、CF=CHCF等。
炭素数2〜12のフルオロアルキル基を有する(ポリフルオロアルキル)エチレン類:CFCFCH=CH、CFCFCFCFCH=CH、CFCFCFCFCF=CH、CFHCFCFCF=CH等。
ペルフルオロビニルエーテル類:R(OCFXCFOCF=CF(ただし、式中Rは炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であり、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは0〜5の整数である。)、CF=CFCFOCF=CF、CF=CF(CFOCF=CF等。
カルボン酸型官能基を有するペルフルオロビニルエーテル類:YCFCFCFOCF=CF(ただし、Yはカルボン酸型官能基である。)等。
スルホン酸型官能基を有するペルフルオロビニルエーテル類:ZCFCFOCF(CF)CFOCF=CF(ただし、Zはカルボン酸型官能基である。)等。
有機フルオロカルボン酸類:CFCOOH、CFHCOOH、CFHCOOH、HOCOCFCOOH等。
有機フルオロスルホン酸類:CFSOH、CFHSOH、CFHSOH、HO(C=O)CFSOH等。
含フッ素脂肪族炭化水素類:炭素数1〜10のペルフルオロカーボン類、炭素数1〜10のハイドロフルオロカーボン類、炭素数1〜10のクロロフルオロカーボン類、炭素数1〜10のハイドロクロロフルオロカーボン類等。
【0043】
低分子量含フッ素無機化合物としては、フッ化水素、元素状フッ素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物、フッ化アンモニウム等が挙げられる。
得られる低分子量含フッ素化合物がフッ化水素である場合、公知の方法(特開2010−194468号公報および該公報に記載の先行技術文献に記載の方法等)によって再利用できる。
工程(ii)において、反応容器内にフッ化水素と反応し得る化合物を存在させた場合、フッ化水素を、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物またはフッ化アンモニウムとして回収できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
例1、2は実施例であり、例3は参考例であり、例4、5は比較例である。
【0045】
実施例で用いた化合物は、以下の通りである。
化合物1(1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(1,2,2−トリフオロビニロキシ)プロポキシ)エタンスルホニルフルオリド):CF=CF−OCFC(CF)F−OCFCFSO
化合物2(2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−4−(1,2,2−トリフルオロビニロキシ)ブタン酸メチル):CF=CF−OCFCFCFCOOCH
化合物3(テトラフルオロエチレン):CF=CF
化合物4(アゾビスイソブチロニトリル):
【0046】
【化1】

【0047】
化合物5(1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン):CClFCFCHClF
化合物6(1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン):CHCCl
化合物7(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン):C13
化合物8(メタノール):CHOH
【0048】
(フッ化物イオンの定量方法)
分解生成物中のフッ化物イオン濃度をイオンクロマトグラフィで測定した。
移動相:Na(6mM)、HBO(15mM)、NaHCO(0.2mM)、
分析カラム:東ソー社製、TSKgel Super IC−Anion、
移動相流速:0.8 mL/分、
カラム温度:40℃
検出器:サプレッサ付き電気伝導度検出器。
【0049】
〔合成例1:スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの合成〕
内容積230mLのステンレス鋼製オートクレーブに、化合物1の123.8g、溶媒として化合物5の35.23g、開始剤として化合物4の63.62mgを仕込み、冷却下、充分脱気した。その後、70℃に昇温して、化合物3を系内に導入し、圧力をゲージ圧で1.14MPaに保持した。圧力がゲージ圧で1.14MPaで一定になるように、化合物3を連続的に添加した。7.9時間経過後に、オートクレーブを冷却して、系内の残存する化合物3をパージして反応を終了させた。得られた−SOF基を有する含フッ素ポリマー(11)の溶液を化合物5で希釈してから、化合物6を添加して、含フッ素ポリマー(11)を凝集させた。化合物5および化合物6を用いて洗浄を行った後、乾燥して、含フッ素ポリマー(11)の25.13gを得た。
【0050】
次に、内容積200mLの反応容器に、該含フッ素ポリマー(11)の10g、メタノールの10g、20質量%KOH水溶液の37.5gを仕込み、80℃で16時間加熱することで加水分解して、含フッ素ポリマー(11)中の−SOF基を−SOK基に変換し、含フッ素ポリマー(12)とした。
下記(α)〜(γ)の操作を7回繰り返して、含フッ素ポリマー(12)中の−SOK基を−SOH基に変換し、−SOH基を有する含フッ素ポリマー(1)とした。
(α)含フッ素ポリマーを水洗した。
(β)含フッ素ポリマーと3規定の硫酸水溶液の30gとを60℃で1時間混合した。
(γ)含フッ素ポリマーを回収した。
含フッ素ポリマー(1)をさらに水洗、乾燥し、含フッ素ポリマー(1)の8gを得た。
【0051】
フローテスターCFT−500D(島津製作所社製)を用いて測定した含フッ素ポリマー(1)のTは、225℃であった。
滴定によって求めた含フッ素ポリマー(1)のイオン交換容量は、1.10meq/gであった。
【0052】
〔合成例2:カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの合成〕
内容積125mLのステンレス鋼製オートクレーブに、化合物2の34.61g、溶媒として化合物7の38.01g、開始剤として化合物4の290.3mgを仕込み、冷却下、充分脱気した。その後、70℃に昇温して、化合物3を系内に導入し圧力をゲージ圧で1.60MPaに保持した。圧力がゲージ圧で1.60MPaで一定になるように、化合物3を連続的に添加した。2.5時間経過後に、オートクレーブを冷却して、系内の残存する化合物3をパージして反応を終了させた。得られた−COOCH基を有する含フッ素ポリマー(21)の溶液を化合物7で希釈してから、化合物8を添加して、含フッ素ポリマー(21)を凝集させた。化合物7および化合物8を用いて洗浄を行った後、乾燥して、含フッ素ポリマー(21)の14.6gを得た。
【0053】
次に、内容積200mLの反応容器に、該含フッ素ポリマー(21)の5g、メタノールの20g、20質量%KOH水溶液の80gを仕込み、80℃で16時間加熱することで加水分解して、含フッ素ポリマー(21)中の−COOCH基を−COOK基に変換し、さらに水洗、乾燥し、−COOK基を有する含フッ素ポリマー(2)の4.1gを得た。
【0054】
フローテスターCFT−500D(島津製作所社製)を用いて測定した含フッ素ポリマー(2)のTは、235℃であった。
滴定によって求めた含フッ素ポリマー(2)のイオン交換容量は、1.00meq/gであった。
【0055】
〔例1〕
(工程(i))
紫外線照射用のサファイア製窓付きの全容積176mLのステンレス鋼製オートクレーブに、含フッ素ポリマー(1)の21.4mg、イオン交換水の20mL、撹拌子を入れて密閉し、内容物をマグネティックスターラで撹拌して充分に混合させた。
【0056】
(工程(i−2))
オートクレーブ内に純酸素ガスを、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaになるまで導入した。オートクレーブ内の分子状酸素の量は、含フッ素ポリマー(1)に含まれる炭素原子のモル数の4.8倍モルであった。
【0057】
(工程(ii))
オートクレープ内の温度を室温(20〜25℃)に保ち、内容物をマグネティックスターラで撹拌しながら、三永電機製作所社製の200W水銀・キセノンランプを用い、220〜460nmの波長の光を、サファイア製窓を通して、水中にある含フッ素ポリマー(1)に144時間照射した。
【0058】
(工程(iii))
オートクレーブに存在する水(20mL)中のフッ化物濃度を測定し、オートクレーブに存在する水中に含まれるフッ化物イオン量を算出したところ、0.245ミリモルであった。これは、用いた含フッ素ポリマー(1)に含まれるフッ素原子の37%に相当する。
【0059】
〔例2〕
純酸素ガスの代わりにアルゴンガスを用いた以外は、例1と同様に分解反応を行った。その結果、用いた含フッ素ポリマー(1)に含まれるフッ素原子の28%がフッ化物イオン(フッ化水素)として回収された。
【0060】
〔例3〕
含フッ素ポリマー(1)の代わりに含フッ素ポリマー(2)を用いた以外は、例1と同様に分解反応を行った。その結果、用いた含フッ素ポリマー(2)に含まれるフッ素原子の68.5%がフッ化物イオン(フッ化水素)として回収された。
【0061】
〔例4〕
工程(ii)において紫外線を照射しない以外は、例1と同様に分解反応を試みた。その結果、含フッ素ポリマー(1)が回収され、分解生成物であるフッ化物イオンは検出されなかった。
【0062】
〔例5〕
工程(i)においてオートクレーブにイオン交換水を入れなかった以外は、例1と同様に分解反応を試みた。その結果、用いた含フッ素ポリマー(1)に含まれるフッ素原子の0.8%がフッ化物イオン(フッ化水素)として回収された。
【0063】
例1〜2は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを効率的に分解することができ、分解触媒としての鉄粉を使用しなかったため、得られる低分子量含フッ素化合物への金属の混入は少なく抑えられた。特に、分子状酸素を導入した例1は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを効率的に分解することができた。
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを用いた例3は参考例であり、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー同様、効率的に分解することができ、かつ、得られる低分子量含フッ素化合物への金属の混入は少なく抑えられた。
光を照射しなかった例5および水を用いなかった例6は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを効率的に分解することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法によれば、使用済みのスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーまたはこれを含む材料から低分子量含フッ素化合物としてフッ素を効率よく回収できる。これにより、有限である天然資源(フッ素)を再利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中でスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解することを特徴とする、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【請求項2】
前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーのTが、100℃以上である、請求項1に記載のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【請求項3】
前記光が、200〜350nmの波長の光を含む、請求項1または2に記載のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【請求項4】
前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーが水に溶解した状態である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【請求項5】
さらに分子状酸素の存在下に、前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
【請求項6】
下記の工程(i)〜(ii)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
(i)反応容器内に水およびスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを入れる工程。
(ii)反応容器内の水中にあるスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーに光を照射して、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを分解する工程。
【請求項7】
前記工程(i)と前記工程(ii)との間に下記の工程(i−2)を行う、請求項5に記載のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの分解方法。
(i−2)反応容器内に分子状酸素を含む気体を導入する工程。